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Last-modified: 2009-03-05 (木) 21:16:50

日本――
日本政府は、先頃ロシアのプーチン大統領がいきなり発表した宣言により混乱の内にあった。
裏で以前より打診されてはいた。だが、日本政府は今まで断っていたのだ。北方領土四島返還その他、日本がかつて出した条件を全て飲む、と水面下でカードを切ってきたのは、中東の混乱の収束に日本を引きずり込もうとしての事だとわかっていたのだ。もちろんこれには日本国防陸軍の派遣も含む。
――日本国防軍――自衛隊が本格的に法改正され、成立した日本国防軍は、現地とさほど摩擦を起こさずに活動する手腕が認められ、世界中の紛争地で引っ張りだこであった。無論エイプリルフール・クライシス以後は世界中で救援活動に大忙しである。
閑話休題。
日本政府は、ひとまず二島返還、以後交渉続行でお茶を濁しておきたかった。彼らはロシア側が切ってきたカードが、日本国民にとってもあまりに魅力的過ぎて、おおっぴらに出来ない事を理解していたのだ。
しかし、プーチンはとうとうしびれを切らしたのだろう。
――北方領土返還および樺太の有償譲渡――
この宣言がプーチンから発せられた時、日本国中が沸き立った。それは日本政府にとって無視できるものではなかった。
日本政府は、してやられたとの思いを抱きながらも資金の捻出と防衛のための兵力捻出に頭を痛めながらこれをどうにかして国益にプラスにするために動き出した。
日露平和条約と共に日露防衛協定締結――
先の戦役で少なからず関係が悪化した大西洋連合とロシア。両国は、日本を介して関係の修復を図れるだろう。
両国に恩も売れる。
さらに、プーチンは日本企業のロシア国内への大規模な誘致政策も発表している。

 

「IT製品の機密開示せよ」……中国が外国企業に要求。
中国に進出している日本企業が不況を理由に全体の70%をリストラする計画を立てたが、中国当局がこれを却下。その企業は現地に建設した工場をただ同然の値で中国企業に売り渡し、ようやく撤退した。
「金を払うつもりはない」過去中国から流出した美術品ののオークション、支払い拒否の中国人。
エアバス社が中国と結んでいる旅客機納入契約(150機分)が中国側より一方的に破棄。損失額は100億ドル。
等々。
中国に対して日本は、そして世界も。信頼を失いつつあった。
日本企業の進出先として、中国に代りロシアがその位置を占めるなら、それもいいかもしれない。
ロシアにとっては……プーチンは現在ロシアに取り重要度が低下した地域を日本に押しつける事でガタガタになっているロシアの経済の回復を計画しているのだ。
ロシアンマフィアが暴れまくっている樺太と、住人がどんどん逃げ出しつつあって、インフラ維持もままならない四島と引き換えに、日本をシベリアも含む沿海州経済圏にリンクさせてしまえるならば、それは今のロシアにとっては願ってもない事なのだ。
また、今のシベリアにおけるロシア人人口は700万人でしかない。そこに中国人の人口圧力がかかっているわけで、それに対抗するためにもプーチンは日本を巻き込もうとしているのだった。
共同防衛協定により、ちゃっかりオホーツク海への出入り口は確保していたが――

 

まぁ、これでさすがにマスコミが発表する支持率も上がるだろうな。
と麻生総太郎は思った。

 

この時代、マスコミとネットの世論の乖離が明らかになっていた。
大手動画投稿サイト「ニヤニヤ動画」山本一平太議員出演生放送時におけるリアルタイムアンケートの内閣支持率と、その前日に大手新聞社が発表したそれに、3倍以上の開きがあったのは記憶に新しいところである。山本議員が与党――自由民衆党の議員であるにしても……この差はいかがなものか。
なにかマスコミはおかしい。そう、多くの人が思う時代になったのである。
マスコミの恣意的報道、捏造に近い報道がネットの興隆により明らかになり、マスコミはその勢力を減退させながらもなお特定アジアにおもねる姿勢を変えず、国民からの信頼を失い続けていた。

 

もっとも俺は、支持率なんてさほど気にしちゃいないが。日本のために俺に出来る事をやるだけだ……!
麻生は決意を新たにする。

 

部屋のテレビから、緊急ニュースが流れてきた。
野党第一党、民衆党党首の秘書が政治資金規正法違反で逮捕されたのだった。
麻生は歪んだ口元を更に歪め、にやりと笑った。

 

これで、与党が防戦に回っていた国会の様子も一変する事だろう。
それに、この時期は、民衆党の立候補予定者が軒並み党首大沢と並んで写った選挙用ポスターが出来あがって配布された頃だ。
この調子で兵糧攻めをしてやる。国民に人気の高い元党首の大泉も黙らせた、民衆党党首大沢の首を取った、反日的なマスコミはこれから放送法違反告発で血祭りに上げてやる。隣国の酋長にも"挨拶"済みだ。
マスコミの支持率など馬鹿どもへのめくらましに過ぎん!
日本の行く末は、誤らせんぞ!
テレビを消すと、日本国総理大臣、麻生総太郎はすっくと立ち上がり、確かなとした足取りで議場へと歩いて行った。

 

福井県――越前和紙、若狭和紙の産地である。
清らかな水の流れる緑あふれる地。
日本中を包む喧噪をよそに、学徒動員された女学生達が和紙を漉いていた。
心を込めて、祖国の勝利を願いながら。
そのような光景は
岩手県 - 東山和紙、成島紙
秋田県 - 十文字和紙
山形県 - 深山紙、高松和紙、長沢和紙、月山和紙
宮城県 - 白石和紙、丸森紙、柳生紙
福島県 - 遠野和紙、上川崎和紙、山舟生和紙、野老沢和紙、郡山紙
新潟県 - 越後和紙、小出紙、大沢紙、伊沢紙
茨城県 - 西ノ内紙
栃木県 - 烏山和紙、程村紙
群馬県 - 桐生和紙
埼玉県 - 小川和紙(細川紙)
東京都 - 軍道紙
山梨県 - 西島和紙、市川紙
長野県 - 内山紙、松崎紙、立岩紙
静岡県 - 横野紙=駿河紙、駿河柚野紙、修善寺紙
富山県 - 越中和紙(八尾和紙)、五箇山紙、蛭谷紙
石川県 - 二俣和紙、加賀雁皮紙(加賀和紙)
岐阜県 - 美濃和紙、山中和紙(飛騨紙)
愛知県 - 小原紙(森下紙)
滋賀県 - 揉唐紙、江州雁皮紙、桐生紙
京都府 - 黒谷和紙、丹後和紙
大阪府 - 和泉紙
三重県 - 伊勢和紙
奈良県 - 国栖紙、吉野紙
和歌山県 - 保田紙、古沢紙、高野紙
兵庫県 - 名塩和紙、杉原紙
鳥取県 - 因州和紙
島根県 - 石州和紙、出雲和紙、勝地和紙
岡山県 - 備中和紙、高尾和紙、津山紙
広島県 - 大竹和紙、木野川紙
山口県 - 徳地和紙
徳島県 - 阿波和紙
愛媛県 - 伊予和紙、大洲和紙、周桑和紙
高知県 - 土佐清帳紙
福岡県 - 八女和紙(筑後和紙)
佐賀県 - 名尾和紙、重橋和紙(唐津和紙)
大分県 - 竹田和紙、弥生和紙(佐伯紙)
熊本県 - 宮地和紙
宮崎県 - 穂北和紙、美々津紙
鹿児島県 - 蒲生和紙
沖縄県 - 琉球紙(芭蕉紙)
と言った地域で見られた。そう、まさに日本全国が一丸となって和紙の増産を図っているのだった。
そして作られた和紙は続々と、登戸研究所へと輸送されて行く――

 
 

「しかし、セビリアからの反撃がありませんな? セビリアはスペイン南部で最も強力な親ザフト軍が集まっている場所です。放ってはおけません。我が軍にもセビリアに進撃するべきと言う意見が……」
地球連合軍大西洋艦隊はウェルバを解放した後、その動きを止めていた。
「ジブラルタルだ! ジブラルタルだよ、君!」
両手を大きく振り回しながら大西洋艦隊司令長官は言った。
「後は、幹から伸びた枝に過ぎんさ。それに……」
司令長官は声をひそめた。
「セビリアの指揮官との間では話がついている」
「と、言いますと?」
「戦後のスペイン軍内での地位の提供。それで、セビリアに閉じこもっていてくれるそうだ。悪い話ではあるまい」

 
 

「アフリカは、またイタリアとは違いますわねぇ」
車中でセトナはぼやいた。ハンカチで汗を吹く。バッグの中からタオルを出したほうがいいかもしれない。
「すみません。冷房は最大まで上げているのですが」
「いえ、文句を言った訳ではないのよ。気にしないでくださいな」
「はい」
「……ああ!」
セトナは叫んだ。窓の外に『水をくれ』と書かれたプラカードを持った老婆が座り込んでいたのだ。
「車を、止めてください、水筒の水を、少しでも……」
だが、どうやら東洋系らしい、カミソリの刃のような鋭い目つきをし、猛禽類の翼のような眉毛が印象的な運転手はセトナの言葉を無視して無表情に、車を止めようともせず、逆に加速させた。
老婆は立ち上がると必死な様子で追いすがってくるが、取り残される。
「ああ……なんで?」
「限りが、ありません。運転手を責めないでやってください。それに、この気温で外気に当たると白人のあなたは火傷を負ってしまうでしょう。呼吸器にも炎症を起こすかもしれません。ホテル、テントなどの日陰以外は決して直射日光に当たらないように」
ガイドの言葉に、セトナは今までとはまったく違う地へ来た事を実感せずにはいられなかった。
「なにか、方法は無いのですか?」
「無い事も無いです。資金さえあればね」
ガイドは言った。
「世界的な砂漠化の進行を食い止め、緑地面積を増やすのに一番手っ取り早い方法は、 海水の淡水化装置を利用して砂漠の周辺に大量の淡水を流し込み、その土地を緑化した上で農業をおこなうことです」
「じゃあ……」
「少量の水を導入する程度では塩害が起こりやすくなりますが、淡水化装置によって大量の 水を流し込めば、地表に吹き出る塩分も淡水で洗い流すことができるので、塩害は発生しません。そうして大量の水を利用して土地を緑化し、農業をおこなう。そして収穫した農産物を原料にバイオ燃料を製造する。このバイオ燃料をエネルギー源にして海水の淡水化装置を利用すれば、低コストで淡水化装置を運用することができる。もちろん余った農産品やバイオ燃料を外部に販売すれば、利益が出るようになる。近年の食糧価格や燃料価格が高騰している状態であれば、海水の淡水化装置を運用するコストを割り引いたとしても十分に利益を見込めるのは確実です。そして今後も中国やインドの経済成長によって食糧や燃料の需要は増加していくから、需要の減少による採算割れのリスクも無い」
「希望はあるのね?」
「はい。海水の淡水化装置を利用しても砂漠を緑化できる面積など微々たる物であると思うかもしれないですが、しかしこれにはからくりがあるのです。一度海水を淡水化して緑地化してしまえば、その緑化した土地から水分が蒸発するようになり、その土地に雨が降るようになるのです。年間の降水量が増加すれば、農業を継続する上で海水の淡水化装置に依存しなければならない割合が減少する。そうすれば、淡水化装置の余った能力で、さらに農地を拡大していくことができるわけです」
「まぁ、それじゃあ早速お兄様にお知らせしなければ!」
「問題が、あるのですよ」
お菓子を貰った少女のように喜ぶセトナを見てガイドは苦笑した。
「このような海水の淡水化装置を利用した砂漠の緑化事業の有望最適地はオーストラリアだと思われます。オーストラリアは砂漠の面積が広く、しかも大洋に面しているので海水の淡水化装置によって海水の塩分濃度が上昇することはなく、英語圏の国なので意思疎通をおこなう通訳の確保も容易で、治安も良い国なのでアフリカや中国に比べて設備の盗難に遭うリスクがきわめて低く、砂漠も海洋に近い地域まで広がっているので内地まで水を引き込む手間が少ない。それに比べてアフリカはまだまだ……」
「では、教育関係者とも話をしなくてはなりませんね、息の長い話です。チュニスのホテルに着いたら早速教育担当者と環境担当者にアポイントメントを取ってくださいな」
「はい!
この決してあきらめない少女に、ガイドは尊敬を感じ始めていた。

 

「……そう、失敗しましたか」
『はい。使った道具の処理はどういたしましょうか』
「いつものように。処分……いえ、せっかくですからもう一度試みてくださいな」
表情も変えず、ラクスはターミナルの者に命令した。

 
 

「やぁ、君がルナマリア君か」
「あ、クルーゼさん!」
慌てて敬礼するルナマリア、それをクルーゼは押し留める。
「気楽に行こう、気楽に」
「あ、はい」
「君の、レジェンドを譲ってくれるそうだね」
「あ、はい」
「君には本当に感謝しているのだよ」
「え?」
「サイタマなどと言うモビルスーツに乗らずに済んでね」
クルーゼはルナマリアにウィンクした。

 

「へぇ、かっこいいなぁ」
マユが言った。
「レイを大人っぽくしたみたい」
「お姉ちゃん、気が多いよ」
シンが突っ込む。
「マユ、その瞳の中に俺はいないのかい?」
「あ、ハイネさん。まーた冗談を」
マユは笑いながらハイネを軽く叩いた。

 
 

ネオ率いる大西洋連合地中海艦隊は、アルジェリアのオランを経て、ジブラルタルと対峙する位置にある、親地球連合軍が支配するセウタに入港した。同時に、ウェルバの大西洋連邦陸軍はイベリア半島南端タリファに進出する。

 

「さあ、はやく。今の内だ。僕らの代わりに本国を守ってくれ」
ケビンはタリアに言った。
「……わかりました。あなた方も無理はしないようにね」
ハッチの扉は閉められた。
今、ミネルバは宇宙へと旅立っていく――!

 

「……」
「どうしたんだ? 黙って? 何か言いたい事があるからこの部屋に誘ったのではなかったか?」
クルーゼはアスランに尋ねた。
「……」
アスランは、迷ったように頭を左右に振った。
「人類絶滅を図っていたと言うのは本当ですか? そのために父を志操していたと」
「事実だ」
きっぱりクルーゼは言った。
「……!」
「もし君がザラ議長の仇を討ちたいというなら討たせてやっても良いが、残念ながら死ねない身体になってしまってね」
「……まさか奥さんが!? お子さんでもできたのですか?」
「ぷっ……ははは」
クルーゼは笑い出した。
「そう言う意味ではないよ。残念ながら。いや、君らしいな」
「なぜ、今は人類絶滅を図らないのです?」
「そうさなぁ」
クルーゼは考え込んだ。
「地球に住んで、地元の人達に溶け込んで、憎しみから解き放たれて……初めて色々な事を経験したよ。畑を耕したり、料理を作ったりする人々に、本当の生活を見た、気がする。プラントでの生活など砂上の楼閣さ。彼らの続いていく生活を守らなくてはと思った。……そんな所だな」
「では、なぜまたザフトに?」
「友を援けるために。一言で言えばこれだな。それではだめかね?」
「……あなたを信用します。クルーゼ隊長」
アスランは以前と同じようにクルーゼに敬礼をした。
「部屋は、レイと使ってください。積もる話もあるでしょうから」
爽やかな笑顔を見せて、アスランは部屋を出て行った。

 

「やあ、シン」
「あ、アスランさん♪」
アスランは廊下でシンにばったりと出会った。
ふと、シンの首筋にきらめく物を見つける。
「ん? ネックレス?」
「ああ、これ……」
シンはいたずらっぽく笑った。
「デューサーさんがプレゼントしてくれたんですよ♪」
「あいつが? シンに? 変な奴だなぁ」
「初心ですよね、お話しするだけでプレゼントしてくれるなんて」
くっくっくとシンは笑った。
「もっともっとお話しすれば、もっといろんな物もらえそう♪」
「おいおい、シン」
「でも、アスランさんからもらった方が嬉しいなぁ、僕……」
シンは上目遣いにアスランを見上げた。
「ぅ……」
「いけね、アスランさんはお姉ちゃんのだっけ! じゃぁまたね、アスランさん♪」
シンは廊下を走り去っていった。
「おい……ふぅ……」
アスランはその場に立ちこめていた妙な空気を振り払うように首を左右に振った。

 
 

「これからどうする?」
アグニスが尋ねた。
「そうですねぇ。廻れる国は全部回ってしまいましたしねぇ?」
「この戦争、どう終わると思う?」
「地球連合が勝つでしょうねぇ?」
「うん、その後だ。もし地球連合が火星にとって都合の悪い存在となった場合、火星に報告せねばならん」
「そうでしょうねぇ?」
「待つしかないか」
アグニスはどっしり椅子に腰を下ろす。
「ええ、落ち着きましょう。待つのも、大事な指導者としての資質ですよ?」
「ああ、わかちゃいるが……」
「そう言えば、ガルトさんとサ-スさんは艦を降りましたが、まほさんは?」
まほりんは自分宛に届いた箱を開けようと苦労していた。
「はい、カッター」
「あ、ありがと」
箱から出てきたのは、お茶と和菓子の詰め合わせだった。
「あ、食べてください。実家から送られてきた物です。今、お茶入れますね?」
「あ、はぁ。まほりん、ご両親お亡くなりになっていたのでは?」
「それは本当。荷物を送ってくれたのはおじいちゃん。和菓子屋なんだ」
「へぇ!」
「でね、私は、前にも言ったけど私が軍にいるのってあくまで医大に行くお金がたまればおーけーなのよ。今更ここ出て危ない目に遭いたくないわけ。ゆーしー?」
「あいしー!」
「ほら、アイザック! あんたの分も入れたから! お茶飲みなさいよ」
「はぁ」
「ザフトの戦況が悪くて心配なのもわかるけど! お茶の時は忘れなさい!」
「はぁ」
アイザックはまほの入れたお茶をずずっとすすった。
少なくとも、この瞬間だけは、和みを感じた。

 
 

ミューディーは焦っていた。実力では勝っていると思っていたナイトハルト・ミラーに言い様にやられている。
ミラーは対戦開始後全力を持ってミューディーのスローターダガーに打撃を与え、後は防御一辺倒である。
ミューディーは状況を打開しようと色々試みるが、すべてミラーに防がれてしまう。
そして時間切れが来た。
「ふぅ」
ヘルメットから頭を抜き出すと、ミューディーはため息をついた。
コンピューターの採点役3人全員がミラーの勝利と判定していた。
「ずるいよ、ミラー。防御専念なんて」
「あれこれしようとすると姐さんに付けこまれますからね。亀にならせて貰いました」
「さすがは『鉄壁ミラー』だな」
スウェンが顔を出した。
「もし、ミラーがいなかったら、ユニウス7落下の時の戦闘で俺達はやられていたかも知れんぞ」
「ま、そりゃそうだけど」
「しかし、意外といいコンビになるかもしれんな」
「なんの話よ?」
「フォーメーションの話でな。こういうのはどうだ?」
スウェンが示したのは次のようなものだった。

 

前衛
ミューディー・ホルクロフト
ナイトハルト・ミラー

中衛
ジョン・デイカー
原田左之助

後衛
スウェン・カル・バヤン
シャムス・コーザ

 

「ふーん。ミラーの防御能力で敵前衛の一人は無力化できるわけね? いいんじゃない?」
「一人とも限らんぞ。もっと出来るかも」
「いいかげんな所で勘弁してください。ユニウスの時は相手2機相手が精一杯で、3機目が来た時思わず救援呼んじゃったんですから」
「ま、頼りにしてるわよ!」
「しかし、ワシが中衛と言うのも気に入らんのう」
原田はぼやいた
「ばっさばっさと敵を斬りたいものだが」
「いや、原田さんは、前衛か中衛まで幅広く見てもらうと言う事でお願いします」
「ふーん。なら、まぁいいかのう」
「ところで私だが」
「ジョンさん。何か?」
額に汗を浮かべながらスウェンは言った。
「いや、最近疲れ気味なんだ。無性にダガーの黒く塗ってある実体剣で敵を切りまくりたくなってね。なぜだかそうすれば疲れが取れるような気がするんだ。それだけだ。いや、中衛でかまわない。」
「はぁ」
スウェンはため息をついた。
「中間管理職はつらい……」

 
 

「だから、オーブは中立を守るべきなんだ!」
タキト・ハヤ・オシダリ三佐は同僚に向かって怒鳴った。
「だってよぉ」
「だいたいエーゲ海での損害はなんだ! そもそも地球軍のいいなりになってこんな所にまで来なければ!」
「仕方ないじゃないかぁ」
同僚の口調がタキトの正義感に火を付けた。
「オーブの理念を平然と破る無能な指導者であるユウナ・ロマ・セイランの横暴をこれ以上許すのか! 立ち上がるべきだろう!? 俺達が立ち上がればきっと!!」
「――おい!」
その時、声がかかった。
「あ……はぁ! トダカ一佐!?」
「何を物騒な事を言っている。聞き捨てならんな」
「い、いや、自分はそんな!」
「タキト・ハヤ・オシダリ三佐。上官侮辱罪により二尉に降格とする! 以後気をつけるように!」
そう告げるとトダカは立ち去った。
決戦を前にしてのタキトの言動は反乱煽動罪、あるいは利敵罪に問われる物だったかも知れない。場合によっては銃殺刑になるほどの重い罪である。上官侮辱罪とし降格で収めたのは、エースパイロットであるタキトへのトダカなりの温情だった。
だが、タキトはただ屈辱に震え悔しそうに歯を食いしばっていた。

 
 
 

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