SEED-IF_4-5氏_55

Last-modified: 2009-03-30 (月) 17:55:58

「ん……」
ルナマリアはため息をついた。
シャワーの水滴がルナマリアの瑞々しい肌をこぼれ落ちていく。
ひとしきりシャボンで身体を洗った後、冷水と温水を交互に浴びて肌を引き締める。
バスタオルにくるまって、水気を取る。
仕上げに、さりげなくお気に入りのコロンを一吹き。
「ふん……♪ ふん……♪」
ルナマリアは鼻歌を歌いながら冷蔵庫を開けた。注文しておいたレアチーズケーキがちょうどよく解凍されていた。

 

「アスラーン、一緒にケーキ食べない?」
ルナマリアは書類仕事をしているアスランの元へケーキを持って行く。
「ああ、頂くよ」
ケーキをぱくつくアスランを見つめながら、ルナマリアはニコニコと微笑んでいた。

 
 

アルザッヘル基地では警備が厳しくなっていた。
なにしろ最新鋭の戦艦を強奪されたのだ。
「誰何!」
「ネオ・ロアノーク准将だ」
ネオの顔を見ても、警備兵は警戒した態度を崩さなかった。
「IDカードを拝見できますか?」
「ああ」
警備兵は機械にカードを通した。
「確認できました。ご容赦ください。これも任務ですので」
「わかっているよ。じゃ、緑森中尉、行こうか」
「はい」

 
 

服部正吾は夜になってからビクトリア基地へ侵入した。
暗闇に溶け込む濃紺の服装である。
マスドライバーを警備する警備兵を倒すのは、もちろん棒手裏剣である。
気づかれないように、マスドライバーの鉄骨に寄りかからせる。
結局、爆薬を仕掛ける位置に付くまでに、出会った11人の警備兵は全員死亡。
また服部は手を血で汚してしまった。
爆薬を仕掛けると、服部は急いでマスドライバーから遠ざかる。
「そろそろだな……」
充分マスドライバーから離れた場所で、服部はビクトリアのマスドライバーの方を観察する。
――と、轟音と、きのこ雲が現れる。
服部が仕掛けた物は――服部の言う最後の武器……核爆弾であった。

 
 

「ようこそ!」
「こちらこそ!」
ジェスとミリアリアは村人と挨拶を交わす。
赤道連合は、カオシュン――カーペンタリアの通り道として一方的に侵略された前戦役時と違い、今戦役では直接的にはザフトと交戦状態になかった。だが、ザフトの襲撃に遭ったと言う。その基地に勤めていた人物が見つかったのだ。
その人物は足に怪我をしていた。
「……そんでな、いきなりザフトのモビルスーツが降りてきてな、あたりかまわず攻撃したんだ。俺らの事なんかお構いなしさ。せめてってんで、隣のジェクロの女房と息子が銃で立ち向かったらしいが、ザフトのモビルスーツの銃にやられてかけらも残ってないだとさ」
「……」
「貴重な情報、ありがとうございました」
「いやなに、前みたいには動けなくなりそうだが、見舞金が予想以上に入ったでな、店でもやるわ」

 

「これで、基地司令の証言の裏が取れたわね」
ミリアリア達は、事前に基地指令に取材をしていたのだ。
「ああ、やっぱり、どうにも、ザフトが良い者って訳じゃねえようだな」
「次は、どこに行く?」
「ああ、なんとかオーブに潜入したいが。部外者は入りにくいそうだ」
「じゃ、こう言うのはどう?」
「ん?」
「あなたは私の婚約者。親に紹介をしに私はオーブに帰ってきたの!」
「ぶ!」
ジェスは吹き出した。

 
 

「ロアノーク准将!」
ネオは声をかけられた。
「おお、リー少佐じゃないか!」
「この度、私も中佐に昇進してネルソン級の艦長になりましてな。また、一緒に戦えますな」
敬礼しながらリー中佐の顔がほころんだ。
「ああ、よろしく頼むよ!」

 

地球軍提督達の会議は少々暗い雰囲気で始まった。
「ビクトリアのマスドライバーが破壊されたそうだ。核だそうだ。当分復興は見込めんな」
「カオシュンも、東アジアが不安定で当てになりません」
「そして、オーブのクーデターか……」
「パナマの防備は強化されています」
「もっともだ」
「ともあれ、新編なった第3艦隊、期待しているぞ、ロアノーク准将」
一人が雰囲気を変えるように言った。
「は、微力を尽くします!」
「とりあえず、月基地の物資の備蓄状態はどうなのだ?」
「1年、飢えさせず」
「となると、一年のうちにプラントを叩き潰さねばならんか……」

 
 

「戦艦やモビルスーツを集めているようだけど」
マリューがラクスに聞いた。
「なぜ、武力に頼るの?」
「え?」
不意の問いにラクスは不思議そうな顔をした。
「あなたの力なら、プラント市民に対して働きかければ政権など奪えるでしょうに」
「なぜですって!?」
きっとなった表情でラクスは言った。
「私の父、シーゲル・クラインは民の手で評議会議長の座を追われたのです。そして評議会議長に付いたのはパトリック・ザラ。流されやすい民衆のの支持による権力など、頼りになるもんですか」
ラクスはぎりっと歯を噛み締めた。
オーブのクーデターも実質失敗した事にもラクスにとっては癪が触る。本来なら前戦役の英雄カガリがラクス達をバックアップし、オーブ全軍一体となってラクスを支援するはずだったのに。肝心の宇宙軍が、サハク家にしっかり握られていた。
「あきらめるもんですか。私は世界の物、世界は私の物」

 
 

「ここがアメノミハシラか」
オーブが所有する宇宙ステーション『アメノミハシラ』に上がったカガリは、はしゃいであちこち見回っていた。
「先の戦役で連合の支配下に入る事を良しとしない者達が逃げてきたとも言うね」
ユウナが答える。
「ふん。いずれ、ここも元の計画通り軌道エレベーターも作りたいよな。オーブが進出するなら宇宙しかないから」
「ああ、情勢が落ち着けばね」」
カガリとユウナは工廠に入った。
「ん? あれは……」
作られているモビルスーツがカガリの目を引いた。
「M1アストレイではないじゃないか」
それはM1アストレイとはまったく違う、別の思想で作られているモビルスーツのようだった。M1アストレイと比べると異形。どちらかと言えば、ザフトの初期のモビルスーツに近い。
「ああ、あれは父ウナトの依頼で作られはじめたんだよ。いずれオーブ本国を取り戻す時のためにね」
ユウナが答える。
「あれはパイマラソ、隣がギャブラソ、メダズ、ハソプラピ、ガブスレイ、ムッドゥー、シャペリン。どれも大気圏内飛行可能モビルスーツだ。そして、サハク家専用の高速高機動モビルスーツ――『ゾッグ』」
「シャペリンだけはアストレイに似ているな。に、しても、種類が多いな」
「今は試作段階なんだよ。実際に使ってみて、これからの主力を考える。その内教えるが、訳有りだ。この一戦だけで、後の使用は控えたいと思う」
「実際に使ってみてか……」
カガリはうつむいた。オーブ奪回作戦の事を考えたようだった。
「そう言えば、私の専用機とか、ないのか?」
「あるよ」
ユウナは工廠の一角を示した。
「三(さん)ガンダムだ」
「……ふーん」
妙な名前にカガリは首をひねった。
「ところで、あのぼんやりと立っている三人はなんなんだ?」
「ああ、彼らはここの監督だよ。あれでも腕がいいんだ。三(さん)ガンダムを作るために渡戸村から引き抜いてきたんだ。皆名前を『じゅわん(ヨハネ)』と言ってね、3人いるから工員達はさんじゅわんさまと……」
「まったく……」
その時、後ろから声がした。
その声に振り返ると、ロンド・ミナ・サハクがいた。
「さんじゅわんとは聖ヨハネの事だ。三の意味では無いと言うのに。馬鹿な事を……。それに……三(さん)ガンダムなんて名前はどう考えてもおかしいだろう。三(さん)じゃなくてΞ(クスィー)ガンダムじゃないかと思うんだが……灰田さんからもらった設計図の読み間違えなんじゃないかなぁと……」
眉をひそめてぶつぶつ言うミナ。
だが、聖書には3人の【ヨハネ】が登場する。洗礼者ヨハネ、使徒ヨハネ、そして福音記者ヨハネである。
そして……灰田さんからの仕様書には墨痕あざやかに漢字の草書体で三(さん)と言う文字が書かれていたのである――!
「さんじゅわんさま!」
「さんじゅわんさま!」
「おたすけくだせ!」
「おすくいくだせ!」
「な、なんなんだ?」
いきなりわき上がった、工員達が上げた声にカガリは驚いた。
「総監督が来るのさ。ほら、善次が来た」
歩いてきた男は叫んだ。
「みんなぱらいそさいくだ!」
「ぐろうりやのぜずさま!」
工員達に歓声が上がる。
「おらといっしょに、ぱらいそさいくだ!」
「ぐろうりやのぜずさま!」
「ぐろうりやのぜずさま!」
カガリにはまるで訳がわからなかったが、ふと光に包まれて彼らと一緒に天上に昇るような心持ちがした。
SEEDとか言って訳のわからない事を言っていたマルキオよりも、この善次の方がよっぽど自分を救ってくれるような気がしたのである。特に理由はないが。

 
 

「ミリィ! よく無事でオーブに入れたな!」
サイ・アーガイルはミリアリアに声をかけた。久しぶりの再会だった。
「まぁ、オーブ人だし、ジェスは名が売れてるからね。そう追い返すって訳にも行かなかったんでしょう。相変わらずIT企業の社長やってる?」
「ああ」
前戦役後、サイはIT関連会社を興していた。
「君は前の戦役に従軍したって? 君の話も聞きたいが、問題は今のオーブだ」
ジェスは言った。
「どうなんだ?」
「ひどいものさ。アスハ家の独裁を叫んでおきながら、自分達はそれ以上に締め付ける。物資の流通にも支障が出始めている。統制すればいいと考える軍人の馬鹿さ」
「抵抗する人は、いないの?」
「片っ端から拘禁されているよ。だが、国会議員がデモをすると言う噂もある。それに……」
サイは声を潜めた。
「アメノミハシラにいるカガリが、本土奪回作戦を立てているという噂だ」

 
 

「服部! よく帰ってきました!」
ラクスは帰ってきた服部に駆け寄った。
「本当に、本当に心配していたのですよ」
「ははは、伊賀忍術の賜物です」
「とりあえず、ゆっくり休んでくださいな」
「はい。そうさせてもらいます」
服部は退出して行った。
そこにキラが現れた。
ラクスはキラの瞳に不満の色を見て取った。
「キラ? 私が一番好きなのは、一番頼りにしているのはキラなのですよ?」
ラクスはキラにキスをした。
「そ、そんな事……」
キラの頬は赤くなった。
「キラ! そう言えばプレゼントがありますの! ストライクフリーダムと言う新型機ですわ。あなたの命を守ってくれた二機のモビルスーツの名前から私が名前をつけましたのよ」
「新型機!? ラクス、嬉しいよ! 僕がガンダムだ!」
「その他にも驚かせたい事があるのですわ」
「なんだろう?」
「わたくしの、親衛隊を作ろうと思いまして!」
「ああ! 遅すぎるくらいだよ!」
「親衛隊隊長、やってくださいますわね?」
「もちろんだよ!」
キラはラクスにキスをする。
ふいに、ラクスの目が翳った。
「……本当はあの孤児院で二人で子供の面倒を見ながら平和に暮らすという道もあったのですわ。そうしていつかキラも治って……」
「? なにを言い出すんだ? ラクス。僕はどこも悪くないよ?」
「キラ。わたくしはあなたに取り返しのつかない事をしてしまったかもしれません。今更ですが、ごめんなさいね」
「ごめんなんて! 訳がわからないよ!?」
「いいのです。キラにはわからなくて」
そう言ってラクスは澄んだ笑顔をキラに向けた。

 
 

「私がミネルバの艦長に!?」
いきなりの人事通達にアスランは驚きの声を上げた。
「そうだ」
「各方面からも1パイロットとして使うには惜しいと言う意見が出てね」
人事課長はにこやかに告げた。
「それはもう、大勢の人達が、君を買っているのだよ」
「し、しかし……」
「大丈夫だ。副官はそのままだ。君を補佐してくれるだろう」
アスランは逆に心配になった。が、どうやら断る訳には行かないようだった。
「了解しました。微力を尽くします!」

 

「じゃあ、アスラン。頑張ってね。あなたなら立派な艦長になれると思うわ」
「はい。グラディス艦長も、いえ、隊長ですね。お気をつけて」
引継ぎは終わった。
タリアはナスカ級1隻、ローラシア級2隻からなるグラディス隊の隊長に転出する。

 

「タリア艦長に敬礼!」
アーサーの号令でランチに乗り込むタリアに皆が敬礼する。
そしてランチは発進していった。
「さぁ!」
ミネルバの皆に振り向いてアスランは言った。
「新米艦長で頼りない所もあるだろうが、よろしく頼むよ」
歓声が――沸き上がった!

 
 
 

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