SEED-IF_CROSS POINT_第35話

Last-modified: 2010-11-10 (水) 22:43:24
 

「展望ブリッジに被弾! これより消火作業にかかります!」
「左舷カタパルトに直撃! 使用不能です!!」
「エンジン出力が6割に低下しました、これ以上は……ぐぅっ!?」

 

「どうやら、喧嘩を売ったツケは高く付いたようだね……」

 

シンの復活も束の間。ミネルバは最大のピンチを迎えていた。
守備部隊をミーティアが突破し始めたのだ。
ディアッカの援護を軸に、守備側もよく戦っている。むしろ今まで良く耐えたというべきだろう。
だが、このままでは突破も時間の問題だ。

 

「トリスタンの火力を一点に集中。1番2番! 撃てーーっ!」
「後方より艦隊が接近中。これは―――」
「ミーティアが1機、防衛ラインを突破! こっちに来るぞ!!」

 

メイリンの報告にかぶせるように、コニールの悲鳴がブリッジ内に響く。
ミーティアがザクを切り裂きながらミネルバに向かって近付いてきた。

 

「弾幕を張って時間を稼ぐんだ。それと前線のMS隊を呼び戻して!」
「ダメだ、みんなこっちを守る余裕と時間が無い!!」

 

放たれたミサイルの群れはCIWSで迎撃、全弾破壊した。しかしミーティアの進行を止めるまでは至らない。
そしてついにミーティアの主砲が火を噴いた。
ミネルバに向かって流れていく紅い奔流。それを阻むものは何も無い。ブリッジの中に悲鳴が満ちる。
自分はこんなところで終わるというのか。気まぐれな自由に最後まで翻弄されたまま。
アーサーは己の死を確信しながら、目の前に迫る光を睨みつけた。

 

だが次の瞬間、巨大な影がそれを受け止める。
陽電子リフレクターを展開した緑色のMA、これは

 

「これって、連合のザムザザー……?」
「やっと来てくれたのか、彼らが……」

 

呆然とした声を出すコニールをよそに、アーサーは思わず安堵の溜息を吐いてしまった。
視線の先にはミネルバの前に立ちはだかるザムザザー。ミーティアの射撃などものともしていない。
ならばと接近してくるミーティアに向かって、ザムザザーは反転しながら射撃武装を一斉掃射。
強烈な一撃に、ミーティアはストライクごと爆散する。

 

『こちら地球連合軍ダイダロス基地所属、クリーブランド。ミネルバ応答せよ!!』

 

旗艦らしき船からの通信がブリッジに響く。
気が付けば、連合軍の艦がミネルバの周囲に展開していた。

 
 

「こちらミネルバ。貴官らはこちらの援軍だと認識して間違いないのですね?」
『その通り、無事で何よりだ―――我が軍はこれより貴艦を援護する!!』
「来るのが遅いよ、あんたたち!」
『それはすまなかった。言い訳にもならんが、こちらにもいろいろあったのだ。
 謝罪は行動で取らせて貰おう。―――各艦、攻撃開始!! ザフト軍を死守せよ!!』

 

その号令と共に襲い掛かっていく連合軍。この瞬間、戦いの流れが変わった。
何機かミーティアがミネルバに攻撃を仕掛けるが、今度はゲルズゲーがリフレクターでそれを阻む。
うわー複雑な気分と通信席で呟いたのはコニール。
そういえばガルナハンのローエングリン攻防戦はこの機体がネックだったっけ。
敵に回すと厄介な機体たちだったが、味方になるとこれほど頼りになる機体は無い。

 

距離を詰める連合に対し後退を始めるディーヴァ。しかし右翼と左翼前進を止める事はない。
俗に言う鶴翼の陣形を取り始める反乱軍。連合の攻勢を受け止めて包囲殲滅する策に出たか。
気を抜くのは早い。まだ五分に戻しただけ。
アーサーがそう判断して軍を引き締めようとしたその時、広げた両翼に向かって新たな光の雨が降り注ぐ。
通信画面に映ったのは傷面の男と茶髪の少女。
それを見た2人のオペレーターの顔が喜びに染まる。

 

「3時の方向より艦隊が接近! アークエンジェルと、クサナギにイズモ……オーブ軍です!!」
「8時方向からも艦隊が来てる。旗艦はボルテール!! 援軍だ、ザフトの!!」

 

ブリッジ内に響く彼女たちの歓声。
それは最後の舞台に、全ての役者が揃った事を意味していた。

 
 
 
 

第35話 『僕は君にこう言う 「やっと人らしくなれたね」 』

 
 
 
 

オーブ軍の先陣を切る戦闘機。そのパイロットがミネルバに通信をつなぐ。
画面に出たのは彼の知人でもあるメイリン=ザラ。よかった、まだ無事のようだ。

 

「おいミネルバ、生きてるか!? お待ちかねの援軍だ!!」
『フラガ一佐!? 確か入院して絶対安静の筈じゃ……』
「あれで終わりじゃ立つ瀬無いでしょー、オレは!!」

 

戦場に舞い戻った大天使をバックに、紫のエグザスが漆黒の宇宙を舞う。
その背後に黄色いムラサメ、そしてアストレイなどのオーブ軍MSが続いた。

 

「我がオーブ軍は連合の右陣と共に、敵左翼を突く。
 アストレイ隊は艦の護衛、ムラサメ隊は俺とキサカに続け!! マリュー、アマギ、軍の指揮は任せるぞ」
『わかったわ!』
『了解!!』」

 

命令を出しながら最高速で突進するムウ。
白いブレイズザクウォーリアから放たれたファイヤービーを視認するとすぐさま機関砲で打ち落とす。
続けざま空いた空間にガンバレルを射出すると、搭載されていたビームの刃があっさりとザクを貫いた。

 

『理念を捨て強者に媚び、弱者に銃を向けるなどと……このオーブの面汚しどもが!!』

 

ガンバレルを戻すと隣ではキサカが白いアストレイを撃墜したところだった。
流石に敵も全てのパイロットが精鋭というわけではないらしい。
これならこちらは抑えられる―――と考えるのはまだ早いようだ。
ミーティア数機と共に第2波がこちらに向かって来た。
一方オーブ軍にも連合軍のウインダムやユーグリッドが合流する。
連合とオーブはいろいろと因縁はあるが、今は気にしているときではない。
むしろ戦力の増加は喜ばしいことだ。

 

「さて諸君、始めるとしますか」

 

連合も含めた全軍に通信しながら、ムウは不敵に笑う。
シンは生きている。ザフトも健在。キラの戦いもまだ終わっていない。
なんとかパーティーには間に合うことが出来た。だがここからが本番。

 

「慎ましくな」

 

『エンディミオンの鷹』と呼ばれたその力、今こそ発揮する時だ。

 
 
 

『ミネルバ聞こえますか!? こちらはザフト所属、ボルテールです。助けに来ましたよ!』
「ありがとう!!……ん、ちょっと待って。ボルテール…? オペレーター……!?」

 

相手を安心させようとする笑顔と共に、
コニールに対して画面の中の女性オペレーターは救いの主を名乗った。
ボルテールとは元々の討伐軍の旗艦の名。シンがミネルバの前に乗っていた艦でもある。
味方であるのは疑いようがない。地獄に仏とはまさにこのことだ。
茶髪の少女の気遣いに気付いたコニールもまた、笑顔で感謝の言葉を返した。こんなに嬉しいことはない。

 

しかし気のせいだろうか。いくつか気になるフレーズが聞こえたのだが。

 

『本艦はこれよりオーブ軍・連合軍と共に反乱軍に攻撃を仕掛けます。
 敵右翼はこちらにお任せください。
 あとすみません、アスカさん…じゃなかったデスティニーの現在のじょうきょ「ブツッッ」』
「………お前か、この野郎」

 

最後の言葉で確信。即座に通信を切る。
間違いない、あの女がトライン艦長が言ってたオペレーターだ。

 

「え!? あ、あのコニールさん?」
「何ですか艦長」
「いや何ですかってその、ね? ほら、通信切っちゃまずいんじゃ……」
「すいません、ミノフスキー粒子が濃くて通信が途絶えちゃいました」
「いやこの世界には無いからね、それ」

 

驚く艦長の言葉をさらりと流しながら、コニールは視線を戻す。
各艦への連絡はメイリンが行っている最中だ。自分も手伝わなくては。

 

『ちょっと、なんで切るんですか!! せっかく助けに来たのに!!』

 

しつこいな。こっちは仕事中なんだから空気読めよこいつは。
そんな事を思いながら画面の少女に冷たい視線を向けるコニール。
言っていることは向こうの方が正論の筈なのだが、今の彼女にとってはそんなもん知ったことではない。
一目見てそれだけで、そいつが自分にとって不倶戴天の敵だとわかることもある。今がその時なだけだ。
主な理由はアスカさんという呼び方に込められた近しい者特有の馴れ馴れしさと、
画面下部に映っている同じ服着てるはずなのにぶかぶかの自分と違って
ぱっつんぱっつんになっている一部分であるが。

 

「五月蠅い黙れこの泥棒猫。な~にがアスカさんだ。
 人が大事に取っておいたチャーシューを横から掻っ攫う様なマネしやがってからに……」
『な、何よそれ!! 別に彼が貴方のものだってわけじゃないんでしょ!? だったら!!』
「“彼”!? 彼女気取りかこの野郎!! ガキは部屋に閉じこもって少女漫画でも読んでろ!!」
『貴方だって私と年齢大して変わらないじゃない! なにがガキよ!!
 そんなに見下すんならせめて年齢相応に育てるもん育ててからにすればいいでしょ!!』
「言ったな……この女、言ってはならないことを言った!!」

 

周囲を気にすることもなく、ここどこの女子高ですかと言わんばかりに言い争いを始める2人。
それを見たアーサーは別の回線を使って直接ボルテールの艦長と通信を取る。
人間、時には現実を直視しない方が良いこともあるのだ。

 

「えっと、敵の右翼はそちらにお任せしても良いんですよね?」
『はい……申し訳ない、クルーの教育は後ほどしっかりやっておきますので……』
「いえ、こっちも似たようなもんですから」

 

画面に映ったサングラスの男性も随分疲れた表情をしていた。
画面越しに視線を交錯させてわかりあう艦長2人。お互い苦労しますね。まったくです。

 

「わかっているとは思いますが。連合軍、撃たないでくださいね?」
『承知しています』
「ミネルバもですよ?」
『……承知、しています』

 

連合が此方に手を貸しているのは理解しているらしい。
だから次の言葉は冗談交じりで言ってみたのだが……
なんだ、今の間は。

 

「デ、デスティニーも撃たれたりしたら困るんですけど」
『…………流れ弾が行かないよう注意しておきます』
「いや、約束してくださいよ………」

 

苦虫を噛み潰した表情で未だに言い争っているオペレーターを見ている艦長。
その気持ちはまあ、わからないではないのだけれど。

 

そこはちゃんとしとこうよ。いや、ホント。

 
 
 
 

「ったくシンのやつめ……意識が戻ったんなら礼の一つぐらいあってもいいだろうに」
『今までの行いが悪かったんじゃない?』
「ぐっ……」
『それよりもお客さんが来てるわよ。もう待ちきれないみたいだけどね』

 

余裕のある表情で軽口を叩きあった後、周囲を囲むMSたちを睨みつけるザクとセイバー。
お互いに片腕を失っており、傍目からはとても戦える状況ではない。
しかしそのパイロットたちの目は光を失っていなかった。
当たり前だ、自分たちは絶望を既に乗り越えた。
シンが復活した以上自分たちの心配だけしてれば良いのだから。

 

『アスラン、セイバーにサーベルかライフルの予備ある? 私もうハイドラしか武器が無いの』
「だったら道は俺が切り開くから、そのまま帰艦しろ。
 戦場での命ほど安いものはないんだ、無茶すると死ぬぞ」

 

ルナマリアを気遣うアスランの言葉。しかし返ってきたのは彼女の不敵な笑顔だった。
それを見たアスランは思わず笑いを零してしまう。
彼女は腹を括っている。もうこれは何を言っても無駄だろう。
それにしても、最近は妻に続いて彼女にも逆らう気が起きなくなってきた。
ホークの血にはザラを抑える効果でもあるのだろうか。

 

『冗談、もう終幕までそんなに時間が無いわよ。
 それとも何? MSデッキでドリンクでも飲みながら、あの2人の最後の戦いを見ろっての?
 死んでもゴメンよ、そんなの。アスランだってそうでしょうが』
「わかったよ。君の言う通りだな……ルナマリア、左だ!!」

 

敵の存在を知らせながらライフルをザクに放るアスラン。
ザクがそれを受け取った瞬間、セイバーに向かって銃口を向ける。
セイバーはシールドで白いウインダムのビームを受け止めたあと、ザクに向かってアムフォルタスを構えた。
同時に放たれるビームの光。
お互いの脇を通り過ぎ、後ろから仕掛けようとしていた敵MSを貫いた。

 

『……フ、そうか。そう言えばそうだよな』
「そうよ。貴方の左手と私の右手」

 

『「―――――合わせりゃ2本だ!!!」』

 

咆哮をハモらせながら2機は周囲の敵に襲い掛かる。
実は双子なんじゃないかと言わんばかりの高度なコンビネーションに、
包囲網は見る間にズタズタにされていった。

 

「いくぞ義姉さん!!」
『ついてきなさい、義弟よ! 私のザクは凶暴です!!』

 
 
 
 
 

両手に銃を手にしたまま、フリーダムは月面から宇宙を見上げる。
視線の先には2方向からぶつかりあう光の奔流。その儚い美しさに思わず目を細めた。

 

「勝負、あったな。これは」

 

丁度数十秒前。エターナルの船橋が破壊され、その艦長であるダコスタの死亡が確認された。
戦闘続行は不可能であるため今は宙域より離脱している最中ではあるが、
艦自体が撃沈されたわけではない。
しかし歌姫の奇跡の体現であった艦の脱落。それは反乱軍の大幅な士気の低下を意味していた。
キラの言葉は戦場の全ての人間の代弁でもある。

 

援軍が混ざったとはいえ、数はまだ互角の筈だった。しかし自軍の勢いは完全に止まっている。
開戦当初の余裕をかなぐり捨て今もなお猛攻を懸けてはいるものの、
月を背にした混成軍はその攻勢を容易く押し返していた。
なぜそんな結果になっているのか。それは最前線の様子を見ればわかる。

 

『狙いは完璧よ!!!』
『ちょ、ルナマリア! 今掠ったぞオイ!! セイバーの左足が更に悲惨なことに……』
『アスカ先輩は何処だ、俺にはあの人に返す借りがあるんだ! ってコラおっさん、ちゃんと援護しろよ』
『グゥレィ…おっさんじゃない!!』
『ウヒョー!! ディアッカ、俺の気持ちがわかったかぁ!?』
『この腰抜けどもが、一歩前だ! 貴様らに軍人としての覚悟を教えてやる!!』

 

満身創痍のセイバーと真紅のスラッシュザクファントム。
共に片腕を失っているのに、連携を取ることによって死角を失くし、敵軍相手に大暴れしている。
紫のエグザスは黄色いムラサメと共にミーティアに踊りかかり、
漆黒のガナーザクファントムとグフイグナイテッドは背中を合わせながら戦っていた。

 

『チンタラやってんじゃねーぞナチュラル! 背中ががらすきじゃねーか素人が!
 そのライフルは股間のブツ同様縮み上がってんのか!?』
『うっせーコーディネーターが。どーせ助けてくれるんなら女パイロットが良かったんだよ俺ぁ!
 お礼に俺が種付けてやるからよ、種の無いお前らの変わりに!!』
『おーいお前ら、同レベルなのに気付け。そんなに言うんなら目の前の白いバカどもに突っ込んでやれや』
『ハハハ、ナニじゃなくてビームサーベルだけどな。ブチ込むのは、なぁっ!!』

 

彼らだけではない。
ザクが、グフが、ムラサメが、アストレイが、ダガーが、ウインダムが、
ユーグリッドにゲルズゲーやザムザザーが。
時に背を預け、時に助け合いながら白いMSの群れの前に立ちはだかっている。

 

そして、自分の前にも化け物が1人。

 

英雄の暴挙を止めようと月へと終結した世界の総戦力。一夜限りのドリームチームと言ったところか。
目の前に立ち塞がる者達は皆、ただのMSである。
広大な宇宙を覆いきれるわけも無く、それこそ隙間なんていくらでもあった。
なのに天まで届く壁を目の前にしたかのようなこの重圧。
そしてキラの耳に確かに聞こえてくる、終局へのカウントダウン。

 

「まいったな」

 

苦笑と共に、キラは呟く。

 

「今までの敵が最後の最後で仲間になって、協力してくれる。そして僕の前に立ちはだかる。
 ……確かに当初の僕の目的は、この光景だったはずなんだけど」

 

まさかこのタイミングで見ることになるとは。

 
 

何故だろう。
あんなに渇望していた、自分を眠らせてくれる存在。自分が望んだ光景。
あの頃どんなに望んでも現れてくれなかったのに。
何故今頃になって現れる。

 

生きたい。

 

彼女を失ってから、初めて抱くことができた想い。
そばにいてやりたいと思った、小さな少女。
それなのに居場所を見つけた途端、この世界は自分を消してしまおうとしている。

 

「これが、僕への罰か」

 

希望を見せておいて、断ち切る。確かに自分の罪に対しての最大の罰だろう。
自業自得。因果応報。そんな言葉が頭に浮かぶ。
そして自分にはそんな言葉を否定することなんてできない。まったくもってその通りだからだ。

 

だが、本当に性質が悪い。
もしこの世界に神という存在がいるのなら、自分は相当に嫌われているんだろう。
もっとも、彼女を失ったあの時からそんなものを信じる事はやめたけれど。

 

「キツい、なぁ………」

 

苦笑はとっくに歪んでいた。なんでだ。
なんでこんなにも、自分は救いに縁が無い。
なんで全て、自分の手からすり抜けていくんだ。

 

折り紙をくれた少女。励ましてくれた友人。心を通わせつつあった恋人。全てを捧げた最愛の妻。
そして、ようやくできた自分の娘。

 

「どうして、僕は。こんな所にまで……」
『泣きそうな声出してんじゃないよ、ばかたれが』

 

隙だらけな今の自分。だがデスティニーは剣を下ろしたまま、その場で自分をみつめている。
その顔が泣いているように見えるのは、そのデザインのせいだけなのだろうか。

 

『悲しみも憎しみも全部抱えて、それでも飛べば良かったんだよ。
 地面に落ちそうになっても手を貸してくれる。アンタの事を大好きな奴が、きっと沢山いたんだ』

 

淡々としたシンの声。その声には実感がこもっている。
自分が悶え苦しんだこの道はかつて、彼も通った道。

 

『俺みたいな奴にだって、いてくれるんだから』

 

ああ。まったくもってその通りだった。

 
 

今頃になって思い出す。自分の傍にあった沢山の光。それは娘のラクスだけじゃない。
バルトフェルド。
ミリアリア。
ドムトルーパーの3人組。
ダコスタ。
そして、自分に付いて来てくれた沢山の部下たち。
彼女の死に怒ってくれた。自分に会うと笑いかけてくれた。ここまで共に戦ってくれた。
そして、そのほとんどがいなくなってしまった。

 

「そう、だね……。今なら分かるよ。光は1つだけじゃなかったんだ」

 

今までそれが分からなかった。皆、自分の背後に彼女を見ているだけだと思っていたから。
けれど、決してそんな事はなかったのだ。
どうしていつも、失くした後でそれが大切だったと気付くんだろう。

 

「………笑えないな」

 

気付けなかった。忘れていた。
たとえどんなに暗い夜だろうと、この世界には必ず光の差す朝が来るという事を。
今時B級の歌の歌詞にもなりはしない陳腐な言葉だ。
けれど。それこそが自分が心に刻むべきものだったのではないだろうか。

 

「本当に、笑えな……」
『キラ』

 

悲しみの言葉を再び打ち切って、シンが自分の名を呼ぶ。

 

「………なんだい?」
『もう、終わらせないか』

 

終わらせる。それが指す意味は一つしかない。
自分か、シンか。そのどちらかが――――

 

「……そうだね」

 

恐怖はある。後悔も未だにある。けれど受け入れる言葉はすんなりと出てきた。
軽く後ろに跳び、デスティニーから距離を取るフリーダム。サーベルの柄を手に取り光を伸ばす。
そして2機のMSは握り締めた己の剣の切っ先を相手に向けた。
指し示す先はお互いのコックピット部分。

 

どんな結末を迎えるかは自分でも分からない。
けれどもう、この三流の喜劇に幕を下ろすべきなのだと理解していた。

 
 

『「――――――決着を、付けよう」』

 
 

全てを終わらせよう。僕と君で。

 
 
 
 

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