SEED-IF_LED GODDES_02

Last-modified: 2009-03-15 (日) 21:27:25

「……ちょっと。ただ歩いてるだけじゃないか。大丈夫なんですか?」
キラが心配そうに言う。
確かにぎこちない。ほんとにぎこちない操縦だ。
「私は戦艦の副長よ! パイロットじゃないの! だから言ったじゃない、動かすぐらいならできるって! 無理に走って一般人巻き込むよりいいでしょう!? 戦うわけじゃない、安全な所にこの子を逃がしたいのよ」
「あ、ちょっと! ふら付いた! 足元に人がいた!」
「ちょっと、黙って!」
私達をコクピットに押し込んだ女性は、コクピットのあちこちをいじっている。
――! あるスクリーンが拡大される!
「サイ! トール! カズィ! まだ避難し終わってなかったんだ!?」

 
 

「アスラン!」
ザフトの緑服、トモアキ・オグラはイージスを強奪したアスランに呼びかけた。
「オグラ、トモコは失敗だ」
「なに!? 『他に面白い事が無いんでしょう』とかえらそーに人の事笑っておきながらそれか! あの***女!」
説明しよう。
戦争が始まってしばらくした時、ザフトのネット世界で、クライン議長を応援する気持ちを表すために彼の著書(『とてつもないザフト』『自由と繁栄のザフト』などである――)を購入しようという動きがわき上がった事があった。それを、トモコ・フジタは『他に面白い事が無いんでしょう』とあざ笑ったのである! それに、一度カツラの事で笑われた事があるのをオグラは忘れた事がなかった――
「 向こうの機体には、地球軍の士官が乗っている」
「ちい!」
オグラは敵機に発砲した!
「ならあの機体俺が捕獲する。お前はそいつを持って、先に離脱しろ!」
「!……」
アスランは頷きながら思った。
キラ……いや、違う。あいつがあんなところにいるはずが……

 
 

――ガーン!
突然、大きな音と共にモビルスーツがふら付き、コクピットを衝撃が襲う!
「きゃー!」
「下がってなさい! 死にたいの!?」
正面のスクリーンにはどうやらザフトの物らしいモビルスーツ――おそらくジンが映っていた。
そいつは重斬刀を抜くと切りつけてくる!
「まだ終わらないわ! ええい、このスイッチよ!」
副長と名乗った女性は、ひとつのスイッチを入れた!

 

――ガシィーン!
スクリーンから見ると、どうやらまともに重斬刀でぶったたかれたらしい。でも、衝撃はあったけど。
このモビルスーツはやられていなかった!
「PS装甲――フェイズシフト装甲よ。実体兵器ならほぼ完全に無力化できるわ!」
作業服の女性が自慢げに言う。
「よかった……!」
キラがほっとした声でため息をつく。
私は……なんとかPS装甲の技術を盗めないかなと頭の中の醒めた部分がつぶやいていた。カトーからの知らせでは、オーブはまたPS装甲の秘密を探り出せていないのだ。

 

――ガシィーン! ガシッ! ガシッ! ガシッ! ガシッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガガガガガ!
……安心したのは早かった。ザフトのモビルスーツは何度も重斬刀を叩きつけて、叩きつけて。
その度に衝撃が襲い、ふらついて。とうとうこのモビルスーツは倒れてしまったのだ!
「う!……ぅ……」
作業服の女性がぐったりとなった!?
あ、額から血が!
こうなったら!
「キラ、悪いけどこの人、どけてくれる?」
「え、どうすんだよ?」
「いいから早く! モーレン、ディー! ディー!」
「ちょ……なに……を」
作業服の女性に構わず、空いたパイロット席の隙間にすばやく私の身体を滑り込ませる。
モニターには重斬刀を構えた敵が迫って来るのが見える!
でも、まだ余裕はあるはず!
振り下ろされる重斬刀!
襲う衝撃!
でも幸いな事に、地面に背中をつけているからか。衝撃はふらついていたさっき程ではない。
「規格は同じはずよね、教授からの情報によると……」
私はメモリースティックを取り出す。
「ほんとはこの子に使うはずじゃなかったんだけど」
コンソールの差込口に挿す!
プログラムが自動的に立ち上がる! OSが見る間に修正されていく!
そして
【完了】の表示。
「よおし! これで! モッ! ハイ! バー!」
わたしは一気にスラスターを吹かす!
モビルスーツはまず上体が起き上がり、重斬刀を振り下ろそうとしていた敵に、カウンター気味に頭突きを食らわす!
そして、このモビルスーツは再び立ち上がる。
「X-105ストライク……か。この状態じゃ、武器は……」
モニターに、立ち上がりかけた敵機が見える。
「させない!」
アーマーシュナイダーを取り出すと、立ち上がったばかりで無防備な敵機の肩関節に突き刺す!
重斬刀を取り落とす敵機。
「やった!」
その時、作業服の女性が叫んだ。
「あぶない! 耐ショック防御!」
え……
モニターに敵機を脱出していく人影が見える。
咄嗟に私はイーゲルシュテルンを放った!
ズタボロになって消し飛ぶ人影!
そしてモニターに、一瞬光が満ち、すぐに遮光モードに入ったのだろう、暗くなる。
そして、衝撃!
「くっ!」

 

くそう、モビルスーツを後に倒してしまった!
「なんたる阿呆だ、この私は!」
「いてっ」
「あ、キラ。大丈夫か? その人も」
「……僕ならなんとか。この人気絶しちゃってるみたいだ。……まぁ頭は僕の腹の上だったから大丈夫だと思うけど」
「ふん、役得だな」
「え、ええ?」
「ちょっと見せろ」
私モビルスーツを待機状態にすると、その女性を軽く診察する。
「……ん。大丈夫そうだ」
ドッグタグに目をやる。
「ふん、名前はマリュー・ラミアス。地球軍の大尉さんか」
「経験あるんだ? 手つきが慣れてる」
「ん。戦場でな。戦場では誰が医療専門だとか言っていられんから」
「戦場……」
驚いたようにキラはつぶやいた。
「教官だったんだ、特殊部隊の――」
そう言うとキラは納得して何度も頷いたのだった。
「ふ……む。デザートイーグルかか。なかなかじゃないか」
私は拳銃を見つけると、身に着ける。
「ハッチを開けるぞ」
「あ、うん」

 

ハッチを開け、周りを見渡す。
モビルスーツの周囲に、サイ達の姿が見えた。
「ルナ!?」
「なにやってんだ!?」
「……お前らここから離れろ! 今からこいつを動かす!」

 

私はコクピット内に戻る。
「キラ、このラミアス大尉を頼む。私は今から行くところがある」
「え、どこへ行くのさ!」
「いいから早くしろ! ここはザフトの攻撃を受けた。また奴らが戻って来たら知らんぞ!」
「でも……」
「また戻ってくるから!」
私はキラを追い出すと、再びこのモビルスーツ――ストライクを起動させた。

 

「……着いた。コクピットだけでいいんだ。そうすれば……」
私は、先ほどキラと訪れた場所にとって返す。
慎重に、瓦礫を取り除いていく。と、赤い装甲板が見える。
「レッドフレーム!」
私の顔に笑みが浮かんだ。
「戻るだけのエネルギーは残しておかないとね」
私はストライクから降り、赤い装甲版のある箇所のスイッチを入れる。
パフン!
軽い音と共にコクピットのハッチが開く。
そこのパイロット席には人が座っていた!
「――カトー!」
私は慌てて近づくと、様子を見る。
「ぁ……」
「大丈夫ですか!?」
「ぁ……ぁ……」
だんだんカトーは正気付いてきたようだった。
「あ、あなたは! ルナマリア様!」
「……よかった!」
「よくぞご無事で! ザフトの攻撃が……」
「わかっています。地球軍のモブルスーツで無事なのは、X-105ストライクだけかもしれません。残りは破壊されたか、強奪されたか」
「なんと!」
「ちょうど、強奪された場面に居合わせました。それより、これを。託された物を。ネットの巨大掲示板、オーブチャンネルUNIX版に助けを求めて改良されたモビルスーツ用OSです」
私はカトーにメモリースティックを渡した。
「おお、ありがたい!」
カトーはこのモビルスーツ――レッドフレームを起動させると、メモリースティックを差し込む。
先ほどと同じ光景が繰り返され、【完了】の文字が浮かぶ。
「ブルーフレームもやってしまいましょう。ザフトがまた来るかも知れない。戦力はあった方がいいです」
「そうですな。では……」
カトーはレッドフレームを立ち上がらせると、ブルーフレームのコクピットの上にある瓦礫をそっと除ける。
私はブルーフレームに入り込み、OSを更新する。
っと……
私は思い出して手近な所にある通信機を見つける。
「ヘリオポリス防衛本部!」
『……こちら、防衛本部!』
「状況は!?」
『あなたは誰です!?』
「国民番号を述べる! OBAAA1133546」
『……ちょっと待って……え、ええー! ふ、符丁を確認する!』
「了解した」
『K―113203』
「Y-432210」
『ルナマリア・ホーク・アスハ准将殿! 確認しました! 現在の状況、ザフト軍の奇襲により混乱中、港外にて防衛隊メビウス20機喪失!』
「了解した。私はこれより地球軍の新造戦艦を接収し、行動を共にする。ザフトをコロニー内に入れるなよ!」
『了解しました!』
私は通話機を置いた。
「あ、カトー。あの瓦礫で塞がってる扉の向こうは? まだ見ていませんが」
「あー。モルゲンレーテじゃなくてどっかがなんかやってたようだけど。よくわからんし時間がない」
「わかりました。さて、と。カトー、とりあえず、戻らなければなりません。気絶したラミアス大尉……ご存じですか?」
「ああ、もちろん!」
「彼女と、あなたのラボの子達を待たせているんです」
「わかった。では行こうか!」

 
 

「どうすんのさ」
「どうすんのって言っても、カズィ、このまま待つしかないだろ」
「あ、起きた」
「大丈夫ですか」
キラはマリューの顔をのぞき込んだ。
「あ、ああ……ありがとう……」
「よかった! お水、飲みます?」
ミリアリアがペットボトルを差し出す。
「ありがとう……ん? んー? そう言えば、私、ストライクに!」
周りを見渡す。……無い!
マリューは慌てた。
キラの顔を見つけ出すと、くっつかんばかりに言った。
「君! 一緒にストライク乗ってたわよね!? あれ、あれどこ行ったの!?」
「は、はぁ……。ルナが、行くところがあるって、乗って行っちゃいました!」
「な、なんですってぇ!?」
マリューは卒倒しそうになった。
「どこに! 私も行くわ! あれは人に見られていい物じゃないのよ!」
「いや、そう言われても、どこへ行ったか定かでは……」
「ええー!?」
再び卒倒しそうになったマリューの耳に天使の声が聞こえた。
「あ、戻って来た」
「でも、増えてるぜ」
その通り。マリューの目に見えたのは、ストライクと、見知らぬ赤いモビルスーツであった――

 
 

「これは……」
息を飲むマリューの前で、二体のモビルスーツのハッチが開く。
ルナマリアとカトーが降りてくる。
「あ、あなたは、カトー教授!」
マリューはカトーの姿を見ると叫ぶ。
カトーは軽く頷くと、マリューの腕をつかみ、物陰に連れて行く。
「ともかく無事でよかったラミアス大尉」
「ええ、あなたも。それにしてもあの赤いモビルスーツは……」
「ふ……オーブで開発していたのですよ」
「え、それって技術盗用!」
「ふ、ここで開発する以上、暗黙の了解だと思いましたが。それに、ストライク以外のモビルスーツを失ったそうですな」
「ええ……」
「結果オーライです。戦力は多い方がいい。とりあえずあなたが黙っていればよい。あとは上層部同士の交渉で決まるでしょう」
「ええ……。あ、あのルナマリアとか言う少女は! 機密が!」
「そう騒ぐな。後にいる」
後から、少女の声が聞こえた。
マリューが振り向くと、あの印象的な赤い髪の少女が強い意志を秘めたまなざしでこちらを見つめていた。
「ラミアス大尉」
カトーが言う。
「はい?」
「くれぐれも、ルナマリア様にご無礼のないように」
「ルナマリア、様?」
「私はルナマリア・ホーク・アスハ。オーブの現代表首長、ウズミ・ナラ・アスハの娘だ」
「ええ!?」
「この事は他言無用」
驚くマリューにルナマリアは言葉を繋いだ。
「ラミアス大尉。貴様の経歴はカトーから聞いた。憎いか、婚約者を殺したザフトが」
一瞬、マリューの瞳に憎悪の光が灯った。
「ええ、憎いわ」
「ならば」
ルナマリアは笑みを浮かべた。
「我らは同志だ」
「え」
「ザフトによるニュートロン・ジャマー無差別投下。オーブも小なりといえど被害も出た。……妹のメイリンは、キャンプに出かけていた時に、ニュートロン・ジャマーの直撃を受けた。妹の身体は跡形も残らなかった。私はザフトを許さない」
淡々とした口調でルナマリアは語った。
「誓約を立てよう」
ルナマリアはマリューの手を握る。それにカトーが手を重ね合わせる。
「我ら、必ず」
その言葉をカトーが引き継ぐ。
「ザフトを滅ぼす」
「蒼天我らが上に落ち来らぬ限り」
「緑なす大地引き裂けて我らを飲み込まぬ限り」
「泡だつ海押し寄せて我らを溺らしめぬ限り」
「この誓い破らるることなし」
ルナマリアとカトー、二人の口が紡ぎ出す誓約の言葉を聞きながら、マリューは自分が何か大きな運命の渦に捕らえられたのを感じていた。

 
 
 

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