SRW-SEED_ビアンSEED氏_第08話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 19:44:51

SRW-SEED_ビアンSEED氏_第08話
第八話 MXの遺産

 モルゲンレーテ社内の一室。擬似人格を持たせたコンピューター達と戦闘用人工知能の開発について論議を交わしていたエリカ・シモンズは、ようやく作業の一区切りを迎えて溜息をついた。
 DCの蜂起の準備から、なにかと徹夜が多く、子供と夫の顔もあまり見る事ができずにいる。ゆるくウェーブした茶色の髪を纏めていたゴム紐をほどき、一児の母とは思えぬ美貌に翳る疲労を和らげるために、熱いコーヒーを淹れて飲もうと立ち上がる。
 その鼻先に、湯気を立てるコーヒーが差し出された。武骨な手が握ると、どことなくプラスチックのカップもオモチャじみて見える。
「ありがとう。アルベロ三佐」
「根を詰めるのもほどほどにな。シモンズ主任」
 たたき上げの軍人、そんな評価が似合いの四十代から五十代の間ほどの男がいつの間にか、研究室に入室していた。鋭い針のように生え揃った顎髭に、リラックスしている様に見えても常に警戒を忘れぬ歴戦の経験が培った洞察力と胆力を併せ持った鋭い瞳。
 DCの軍服を押し上げる筋肉の鎧は弛まぬ訓練のたまものだろう。下手な素人が殴りつければ逆にその手足が折れてしまいそうだ。それがDC所属のアルベロ・エスト三佐だ。
 この男の詳しい素姓は不明だが、ビアンと同じ何かを、エリカはこの男に感じていた。言葉にできるほど明確ではないが、なにか、違和感の様なもの。目の前の男は本当はいるべきではないような、いるはずがないような。
 顎鬚を太く節くれだった指でいじりながら、アルベロがエリカの目の前のコンピューターに目を向けた。
「どうだ、人工知能の開発は? あいつは役に立っているのか」
「ええ、とても。彼、彼女かしら? のおかげで随分と楽が出来たわ、それにとても刺激的なデータもたくさんね」
「否定はせんがな。役に立っているならそれでかまわん」
 そう言って、機嫌がいいのか悪いのか分らない顔で自分の分のカップを手に取る。
「あら? ブラックじゃないの?」
「あれは胃を悪くする」
 中身はカフェオレだった。一口すすってから、少し疲れの見えるエリカにまた口を開いた。
「せっかくの人工知能だが、それを積み込む機体があればよいがな。DCにはそれほど余裕がないだろう」
「鹵獲したストライクダガーやジンに積んで試験的に運用してデータを集めるのよ。それから人員の疲労が激しい部隊に配備して、前線の兵士の疲労を和らげるのが主な運用法かしらね」
「あくまで戦争の核は人間ということか。だが。わざわざ戦場に出す必要があるのか? 量子コンピューターのおかげで画面上のデータだけで十分な試験データが得られるのだろう?」
 アルベロの言う通り、CE世界においてMSだけでなく大抵の機械機器の実用データをコンピューターの仮想世界におけるシミュレーションからのデータだけで、実用に匹敵する情報が得られる。
 つまり、仮想から現実と等しい情報が得られ、わざわざ実物で試用する必要がないのだ。アルベロが初めてそれを聞いた時は、鼻で笑い飛ばしたが。実戦のすべてを、いくら高度に発達した量子コンピューターといえども把握しきれるものか、という思い故にだ。
 だから、エリカが実用試験をすると言ったのにはいささか虚を突かれた。アルベロとは違いブラックのコーヒーを口に含んだエリカは、こっちこそ意外という顔で返事をする。
「あら、三佐ならコンピューターの中だけのデータで実用化するなんて言ったら、笑い飛ばすと思っていたんだけど? 技術者として長いことやっているとね、
やっぱり画面の上だけですべてが把握できるわけがないって分るものなのよ。現実に起きる事象の全てを把握するのには、到底人間には無理。なら、人間が作り出したものにだってできやしない。そうでしょう?」

「ふん、その通りだがな」
 そういってカップを煽って残りを一気に飲み干し、コンピューターの画面になぜか話しかけた。
「AI1、お前がこんな風に役に立つとはな。結局兵器である事は変わらぬが」
 擬似人格コンピューター達とは違う、最初からアルベロが持っていた人工知能が、今この研究室で擬似人格コンピューター達と共同で戦闘用の人工知能をエリカや他のスタッフらとともに開発を行っている。
「AI1に対する貴方の態度って、なんだか『お父さん』みたいね?」
「つまらん冗談だ。こいつの学習に一役買ったのは否定せんがな」
 からかうエリカに、表情を変える事無く言い返して、アルベロは少し苦々しそうな顔をした。コンピューターを子供のように扱っていると言われてもどう反応してよいやら、と言った所だろう。
「それで、ここに来た用件はなに? まさか、本当にAI1の様子を見に来ただけ?」
「外れだ。ビアンに少し頼まれごとをされてな。ついでにAI1も連れて行け、だそうだ」
「総帥が? あの人の事だからなにか考えがあるんでしょうね。分ったわ、アイちゃんを直ぐ携帯端末に移すから、少しだけ待っていて」
「……待て」
「何?」
「アイちゃんとは何だ? AI1の事か?」
「そうよ。AI1だから、アイちゃん。可愛いでしょ?」
「……」
 絶句するアルベロを、楽しげに見つめながらAI1をアタッシュケースほどの端末に移して、アルベロに手渡す。AI1が必要という事はかなり厳しい戦いに赴くと言う事だろう。
だが、MSが出現してから一年と経っていないというのに、機動兵器の扱いに長年関ったかのごとく熟練した技量を持つアルベロとAI1のコンビはDCでも上位五人に入るMSパイロットだ。よほどの事がない限りは無事に戻ってくるだろう。 
残り四人は、評価する側の人によりけりだ。
「しばらくAI1を持って行くぞ」
「パパの所に戻るんですもの。止められないわよ」
 これ以上言っても無駄だな、と判断したアルベロは厳めしい顔を拵えたままエリカの研究室を後にした。右手に提げたAI1に視線を向け、それまでとは別の意味で鋭い光を宿す。
「ヒューゴ達とけじめをつけ、お前も兵器としての敗北を学び、これで終わりかと思えばまた戦乱の終わらぬこの世界に来ていたが。運命とやらか、それともラ・ムーの星の力か。……あるいはお前の意思か、AI1? 生きたいというお前の」
 AI1は答えない。アルベロも答えを求めての問いでは無い。自分自身で確認するかの様な口調だった。どのような理由にせよ、生きて今この場に立っているのは事実であり、ビアン・ゾルダークの意思に共鳴してDCに籍を置いているのは紛れもなくアルベロの意志なのだから。
 廊下を進む中、こちらに来てからの懸案事項を思い出し、アルベロは苦虫を纏めて百匹も噛み潰したような表情を浮かべた。
「おれとお前はこうしてここにいる。では、メディウス・ロクスとエルデ・ミッテはどうなったのだ?」

 アルベロ・エストが愛娘(?)AI1を引き取っていた頃、オーブ本島にある司令室では、ビアンがモニター越しに宇宙のアメノミハシラに駐留するDC宇宙軍総司令と余人を挟まぬ会話をしていた。
 ビアンよりもいくらか年を取った、それでも精強な印象の金髪の男性だ。
 DC宇宙軍の紫を主とした軍服に身を包み、丁寧に整えられたあごひげを蓄えている。威厳と気品と知性を兼ね備えた稀有な人物だと、見るだけで分る。
『アメノミハシラの周囲は流石に慌ただしくなったが、今の所問題はない。ビクトリアのマスドライバーが戦闘で損傷し、再建に一月はかかると言うからな。
宇宙に戦力を打ち上げるのもそう容易くはないという事だろう』
「だが、その分カグヤの価値が高まるという事だ。もっとも連合も新たにマスドライバーを建造しているという情報が入っている。宇宙への侵攻がわずかに遅れたと言うだけだろう」
 DC総帥のビアンと対等の関係なのか、歯に衣を着せず、言うべき事を互いに言い合っている。
『イズモ級とネルソン級、ローラシア級、それにアガメムノン級、サルベージした艦やジャンク屋を通じて手に入れた艦が多いが、コスモエムリオンの配備で戦力は整っている。連合とザフト、どちらが来てもやすやすとこのアメノミハシラを明け渡すような真似はせぬ。お前は安心して地上に専念しろ。ビアン』
「ふふ、あいも変わらず頼もしい男だ。しかし、私だけでなくお前までこの世界に来ているとは、な。これも宿縁か。マイヤーよ」
『それはこちらも同じだ、我が友よ。だがこの世界には宇宙からの脅威こそないが母星である地球とそこからわずかにはなれた人々との間であまりのも悲しくあまりに愚かな戦いが繰り広げられている』
「そうだな。故に我らはまた同じ道を選んだ。“選んでしまった”のかもしれんがな」
 わずかに自嘲を含めるビアンに、マイヤーはあえて声をかけなかった。人類を鍛えるための悪。それが結果として人類の為になろうとも、その過程で流される血と命と果たして釣り合うものかどうか。
 いかに超人的な精神力を持つビアンとマイヤーといえど罪の意識は拭えない。己の行為を罪、悪と認識できるが故に、彼らの元に人が集まるのかも知れぬが。
『……宇宙ではいまだザフトが優勢だ。地上ではアラスカとパナマ、ビクトリアが連合のものになり、ザフトの地上兵力は疲弊している。このタイミングでDCがザフトの側につけば、大洋州連合とジブラルタル基地の前線基地の役割を持たされるだろうな』
「見返りは地上戦力の援護と、アメノミハシラへの援軍、と言ったところか」
 自分達の感情を押し殺し、二人は立場に伴う責任、義務を果たす為の会話を交わす。彼らの肩に負ったものは、常人ではとても背負いきれぬ重さと意味を持っている。自分達個人の感情は時に殺さねばならない。
『だが、お互いに食料供給や資源が不足している者同士。通商破壊や海上封鎖をされれば干上がるのは目に見えている。大洋州連合やアフリカ共同体以外にも味方が欲しいな』
「うむ。ザフトのパトリック・ザラ、連合の背後に控えるブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエル。そろいもそろって過激派同士が組織の頂点に立ったものだ。まだ火ぶたは切って落とされてはいないが、場合によっては種のレベルで殲滅戦を行いかねぬ」
『極端すぎるが、それが現実か。しかも決して実現する可能性が低くはない』

そこで、ビアンがそれまでとやや違うニュアンスを含んでマイヤーに一つの質問を投げかけた。
「時にマイヤー。宇宙に蒔かれた種はどうなった?」
『アークエンジェルか。今はコロニー・メンデルで息を潜ませておるようだ。近く、ザフトの例の、新型が所在を求めて宇宙をうろついているのが目撃された』
「そうか。ではそやつにアークエンジェルの居場所を伝えておいてくれ」
『ほう。この世界においてのヒリュウ、ハガネか?』
「候補ではある。その意思も持ち合わせてはいるとは思う。あくまでもこれから次第だな」
『未来次第か。そればかりは神成らぬ身には分からぬ』
「だが、未来を築くのは何時でも人だ」
『時代を造るのもな。では、ビアン、次の定時連絡まで互いの無事を祈るぞ』
「お前こそな」
 通信を終え、暗黒をはめ込んだモニターから目を離し、ビアンは椅子から立ち上がって各部署・部隊からひっきりなしに連絡が入る司令室を見渡した。かつての新西暦でもこれに近いものを見た。
 自分達こそが世界を守ると意気込む若者たち。連邦に対する反旗を翻す手段としてDCを選んだ者たち。戦いの利権を望みDCに与した者達。そのすべてはビアンがDCを結成したが故に集った者たちだった。 
 今、ビアンの目の前にいる者達もまた、このCE世界におけるDCの蜂起に集った者たちだ。彼らを巻き込み、自らの運命がどう流転するか考え、すぐさま首を横に振り否定した。
「運命を決めるのも、その道を歩むのもすべては人であり、その意志だ。どのような結末であろうとも、それは私の選んだ道。ならば臆する事など無い、か」
 ふっと一つ笑った後のビアンには、いつもと同じ力強く、厳かな雰囲気が戻っていた。まだ、戦いは始まったばかりであった。

アルベロ・エストが仲間になりました。
AI1が仲間になりました。
マイヤー・V・ブランシュタインが仲間になりました。

ガームリオン・カスタムを入手しました。
マハトを入手しました・

ゲッタードラゴンのデータを入手しました。
マジンガーZのデータを入手しました。
グレートマジンガーのデータを入手しました。
グレンダイザーのデータを入手しました。
ライディーンのデータを入手しました。
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エヴァンゲリオンのデータを入手しました。
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ダイモスのデータを入手しました。
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バイカンフーのデータを入手しました。
ツェントル・プロジェクトのデータを入手しました。

ビアン・ゾルダークのロボットヲタ魂に火が点き、炎へと燃えあがりました。