SRW-SEED_ビアンSEED氏_第20話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 20:55:28

 第二十話 迷子も二人なら怖くない

 相も変わらずL4コロニー群のメンデルに潜伏するアークエンジェルらオーブ艦隊であったが、アークエンジェル、スサノオ、ローラシア級、ネルソン級、ドレイク級が並ぶ中に旗印であるクサナギの姿が無かった。
 ディバイン・クルセイダーズの台頭によって内部から崩壊したオーブ首長連合国の、正統なる後継者カガリ・ユラ・アスハもまたAAらとは行動を別にしていた。オーブの所有していたコロニーの、とある最高級ホテルの一室にその姿はあった。
 華美な装飾が目立つアンティークや置時計、絵画に囲まれた、一般市民が目玉をひんむく一泊当たりの値段に見合う部屋だった。もちろん、盗聴などに対する対策もサービスに含まれている。
 やはり最高級の黒檀のデスクに座り、傍らにキサカを置いて、カガリは行動を別にしているマリューやムウ、ダイテツといった艦隊首脳部とモニター越しに定時連絡を取り合っていた。一同はAAの艦橋に集まっているようだ。
 オーブの準将の階級章を着けた軍服に身を包み、カガリは開口一番溜息をついた。よほど心労がたまっていると分る溜息だ。

「まったく、私を支持する連中と来たらDCに便乗する事ができずに損した連中や、オーブの財源やアスハ家の資産目当ての碌でもない奴らばかりだ。まともに中立政策を支持する姿勢で私に力を貸してくれるものは少ない」

 憤懣やるかたないカガリに、マリューが宥めすかすように口を開く。カガリは元々気の強さが見ただけで分かる美少女だが、今はそこに疲れの色が濃い。

『それでも、支援してくれる事には変わりないんでしょう? だったら、利用するだけしてみる、それ位の気概があった方がいいんじゃないかしら?』
「ラミアス艦長の言う通りだけどな。それにしても腹立たしい! あいつらの欲の突っ張った顔と来たら! 口々にビアンに対する罵詈雑言を並べて、反対にお父様や私への美辞麗句を喋り続けるあの見え透いた態度も、耳が腐りそうで嫌になる! 
 結局は自分達の利益しか頭にないんだ、あいつらは! 
 おそらく、私を支援する一方でDCとの窓口を探して二枚舌を駆使しているに違いないんだ。おまけにそんなのが最大の支援者というのが情けない」
『仕方あるまい、という言葉では我慢できんかな? カガリ代表』

 火をつけていないパイプを咥えたまま、ダイテツがおもむろに言った。
 オーブへの連合の降下部隊の第一陣、続く第二陣をDC宇宙軍と共に退けた後、カガリが宇宙でのオーブ政府樹立に向けて動き出した時、無言で見送った男だ。

「納得は出来ないが、我慢はするさ。今は資金も人も情報も弾薬も食料も、何もかもが欲しいんだ。笑顔の裏でどんな事を考えていようが、役に立つなら利用する。それ位、私だって覚悟している!」
『なら、よろしい。それで、クサナギと我々についての扱いが決まったかね?』
「それは、その……」

 途端に委縮したカガリに、好もしげな笑みを浮かべてダイテツはカガリが口ごもった内容を代弁する。

『クサナギからカガリ代表は降りて独自にオーブ再建の行動を行い、クサナギやスサノオを始めとするわしらは、DCを良しとせぬアスハ派の軍人の暴走した集団、といった所かな?』

 ダイテツの言葉に、マリューは驚きに目を見張るが、その傍らのムウは予想していたのか小さく肩を竦めるだけだった。

「いや、すまないとは思っている。でも、連合の脱走艦であるアークエンジェルやザフトの核動力MSと行動を共にしている所を見られるとまずいんだ。本当にすまない!」

 既に降下艦隊と何度か交戦しているが、それに対する苦しい言い訳という意味もあるだろう。
 気休め程度の行為に過ぎないと言われればそれまでだが、やらないよりはましという言葉もある。
 モニター越しに頭を下げるカガリに、マリューはそういうことかと納得した様子で穏やかな視線を送っていた。
 初めて会った頃に比べて、随分と変わったものだ。昔の彼女なら、こんなやり方には怒鳴り散らして反対の言葉を並べ立てただろうに。

『気にしないで。そもそも行く場の無かった私達を受け入れてくれたのはウズミ様のオーブだったし、その恩返しも兼ねているのよ?』
『ラミアス艦長の言う通りに受け取っておいてはどうかね、カガリ代表。わしらはわしらで身軽に行動できる。それぞれ政治と軍事でやれることをやればよい』
「ダイテツ艦長、ラミアス艦長、本当にすまない」

 見ているこちらが申し訳なる位に、カガリは何度も頭を下げた。
 一国の代表となる人が、そんなに軽々しく頭を下げるものではないが、それもカガリの良い所だろうと、マリューは優しく見守っていた。

 艦隊から離れたデブリ帯では、フリーダムとジャスティスを相手に一機の機動兵器が模擬戦を行っていた。
 出力を落としたビームライフルでもいいが、その出力を落としたライフルでも焦げ位は出来ることがある。
 その修理でさえ惜しまざるを得ない赤貧の状況なので、レーザー照射で、コンピューターがダメージ判定を行うタイプのものを行っている。
 キラとアスランという現戦役においてトップクラスのエースと最高クラスの機体を相手に互角の戦いを演じるのが、クサナギの脱出に際しDC側が意図して与えたラピエサージュであった。
 キラやムウ、アスラン、ディアッカといったエース達が乗っても完全に性能を引き出す事は出来なかった機体が、今本来の乗り手が搭乗した事で100パーセント以上の性能を発揮していた。
 灰と黒を基調にした装甲に、テスラ・ドライブを搭載したウィング、折りたたみ式の、実弾とエネルギーを打ち分けるオーバー・オクスタン・ランチャー、右手には三枚の刃を装填したマグナム・ピーク、左手には4連装マシンキャノンを主兵装としている。
 これに加えてAAやクサナギに搭載したパーツでの改修が施され、I.W.S.Pストライカーの装備でもある9.1メートル対艦刀二本、115mmレールガン二門が腰部に追加されている。
 G――ガンダムタイプにも似たツインアイの頭部に、不揃いのブレード状のアンテナを備え、肩や人間で言うふくらはぎが膨らんだ四肢をもっている。
 体高は24.5メートルと、ジャスティスやフリーダムよりも6,7メートルほど大きい。
 鈍重そうな外見に反して、フリーダム、ジャスティスと変わらぬ速度でスペース・デブリを搔い潜っている。巨大な刃にも似たウィングを展開し、フリーダムに向けてO.O.ランチャーの実体弾で牽制し、動きの一瞬の停滞が生まれるや、見過ごす事無くエネルギー弾に切り替えて、精密な射撃を加えてくる。
 並のパイロットでは呆気無く撃墜される一撃をかわし、フリーダムのコクピットで、キラは冷や汗をぬぐいたい衝動に襲われた。
 不規則な螺旋の動きでこちらに迫ってくるラピエサージュに向けて、クスフィアスレールガンで狙い撃ち、わずかな時間差でバラエーナとルプスビームライフルの三撃を放った。
 三百六十度同時に把握しているのではないかと思う動きで、ラピエサージュはフリーダムの砲撃の全てをかわし、その隙を狙ったアスランのジャスティスが振り下ろしたビームサーベルを、そのサーベルを掴む腕に左拳をあてて防いだ。

「読まれていたか!」
「アスラン!」

 機体の向きはフリーダムを向いたまま、O.O.ランチャーの砲口をジャスティスに向けるラピエサージュに、アスランのジャスティスには掠りもしない言語に絶する精密さで、キラはフリーダムの火力を撃ち放つ。
 デブリを五つの光が照らしだし、右手を振り上げるモーションに入っていたラピエサージュは、キラに勝るとも劣らぬ反応速度で機体を翻し、砲撃を回避して見せる。

「キラ、フォーメーションを組み直すぞ」
「分かった!」
「その様な暇は与えません」

 フリーダムの元へ動こうとするジャスティスに、ラピエサージュはデブリに紛れて急速に接近し、キラが気付いて援護するよりも早く、接近戦を挑んでいた。ジャスティスの本領が発揮される接近戦だ。
 ジャスティスが抜き放ったバッセル・ビーム・ブーメランをマシンキャノンで撃ち落とし(実際に撃墜したわけではない)、装備された9.1メートル対艦刀を抜き放ち、ジャスティスと切り結ぶ。

「ジャスティスがパワーで負ける!? だったら!」

 シールドで受けた姿勢のまま後方に吹き飛ばされ、アスランは改めてラピエサージュの性能に瞠目する。
 調査段階でアスランも手を触れた機体だし、何度か乗った事もある。その度に動力源を含め機体のスペックに驚かされた。
 MSを開発したザフトにも無い機動兵器のノウハウの数々、搭載されていた謎のマン・マシン・インターフェイスシステム。
 DCが開発した機体だというが、これほどの高性能機を開発するなど実物を見てなお信じ難い。ザフトが開発した最新・最高のMSであるフリーダムとジャスティスに比べても遜色ない、いや、上回る性能を持っている。
 今こうして模擬戦とはいえ銃火を交じえ、その事を改めて痛感していた。文字通り遺伝子レベルで整えられた典雅な鼻梁に皺を刻み、シールドの傾斜を微妙に変えて対艦刀を滑らせてラピエサージュの胴に回し蹴りを叩きこんだ。

 バランスを崩すラピエサージュに、立て直す隙を与えず、背のファトム-00のフォルティスビーム砲を撃ちこんだ。
 二条の光の筋が、寸前にラピエサージュが放り投げたO.O.ランチャーに吸い込まれる。
 コンピューターがO.O.ランチャーの爆発を告げるが、その時にはもう“継ぎ接ぎ”と名付けられた人型の鋼は、引き絞られた弓弦から放たれた矢の如くジャスティスの懐にいた。

「受けなさい、このマグナム・ピークを!」
「くっ、しまった!!」

 咄嗟にコクピットを庇い、シールドを突き出すが、そのシールドごとラピエサージュが右手に持つマグナム・ピークの三枚の刃にジャスティスの左腕がPS装甲ごと穿たれていた。
 流石にPS装甲そのものは持ったが、内部構造やフレームが多大なダメージを受け、実質左腕を失った状態になる。
 ラピエサージュが左手に握る対艦刀で、コクピットハッチの隙間を貫こうとする一瞬、その一瞬でラピエサージュの背後からバラエーナとクスフィスの砲火が降り注ぎ、ラピエサージュの左ウィングスラスターを吹き飛ばした、と判定される。
 ラピエサージュのコクピットの中で、全天周囲モニターから、フリーダムの位置を確認し、ラピエサージュに斬りかかってくるジャスティスもまた視界に収めながら、マグナム・ピークをジャスティスへ、四連装マシンキャノンをフリーダムへ。
 どちらも一撃ではPS装甲を破壊できないのが欠点か。
 トリガーを引く指に力をこめ――。
 そこで停止信号が三機に通達された。発進したのは模擬戦を監督していたカーウァイの乗るゲシュペンストMk-Ⅱタイプ・Sだ。
 新西暦世界の地球に現れた異星人エアロゲイターの用いる金属で機体の大部分が構成されていた為に、大破した状態からほぼ自力で再生し、性能も新西暦世界においてハガネ・ヒリュウ改隊の前に立ちふさがった時とほぼ同等。
 機体の何割かをCE世界技術で修復したラピエサージュを上回るスペックだ。パイロットと合わせてみれば、AA・オーブ艦隊最強の組み合わせと言える。

「そこ……までだ。三人とも……御苦労……帰還しろ」

 たどたどしい機械の合成音声がほとんどを占めるカーウァイの声だ。
 当初は不気味なものを感じていたキラも、今では信用のおける人だと思い、あまり気にしていない。
 まだ出会ってから日の浅いアスランには、多少付き合い方の難しい相手だった。

「キラ、アスラン、コンビネーションに……問題……は、無いが。キラ、戦いが長引くと……動きが単調に、なる癖は……まだ治っていない……な」
「はい」
「ラピエサー……ジュの、乗り心地は……どうだ? オウカ」
「ええ、問題はありません。カーウァイ大佐」
「そう……か。戻る……ぞ」

 四機は光の尾を引いてデブリ帯を後にした。
 現在AAにはストライク、バスター、フリーダム、ジャスティス、ラピエサージュ。スサノオにはゲシュペンスト、エムリオン。その他の艦にも合流の際に積み込んだジンやシグー、旧M1アストレイの生産ラインから組上げたM1も数機が搭載されている。
 着艦し、ラピエサージュのコクピットの中で借りたオーブ軍のヘルメットを脱いで、オウカは漂う汗の粒をぼんやり見つめた。
 どうして今自分はこんな所で兵器になど乗っているのだろう?
 いや、自分で選んだ事だとは分かる。分ってはいても思わずにいれないだけだ。
 なにより、まるで長い間慣れ親しんでいたように、自分の腕になじむラピエサージュに、戸惑いを覚えていた。
 ラピエサージュの本来の力はこんなものではないと、頭の中でそういう声が聞こえた。それほどにこの機体とは馴染みが深いということなのか。
 失った記憶が、この機体の中にある。そんな気がしていた。過去の自分とはいったい何者なのだろう? こんな機動兵器に乗って戦場に立っていたのだろうか? 何人も葬ったのだろうか? この手でトリガーを引いて顔も名前を知らない人達を?

「何をしていたの、私は?」

 恐怖に震える体を、オウカは我知らず抱きしめていた。

 そうしてどれくらい時間が経ったのか、いつまでもコクピットから出てこないオウカを心配してだろう、キラとアスランが顔をのぞかせた。
 オウカとそう、年は変わらないが、二人とも少し頼りない所があったりするから、どうも弟みたいに扱ってしまう。
 キラやアスランは、オウカにそう扱われるとちょっとくすぐったそうにする。

「大丈夫ですか、オウカさん」
「ええ、大丈夫よ。キラ、アスラン」

 アスランの伸ばした手につかまり、オウカは海の中を泳ぐ様にコクピットから出る。ふわりと舞う濃緑の髪から薫る匂いを、良い匂いだなとアスランは思った。
 そのままハッチを軽く蹴り、三人は着替える為に格納庫を後にした。

「キラは、反応速度には目を見張るものがあるけれど、動きが単調な所があるわね。最初の一撃を凌いで長丁場に持ち込めば、癖を見つけられやすいわ。そういう意味では、アスランの方が手強いかしら?」
「カーウァイ大佐もそう言っていましたが、キラは、正規のMSの操縦訓練を受けていないから、無理もないんです」
「そうだったわね。それであれだけ機体を動かすのだから、驚かされるけれど。でもこれからはそうも言っていられないし、努力なさい」
「はい」

 それぞれ軍服と私服とに着替え、廊下を歩くというよりは跳ぶ調子で進む。宇宙では分かりにくいがそろそろ昼食の時間なので食堂に向かう。
 丁度、ミリアリアやディアッカ、サイといったキラの友人達も居合わせたので同席した。
 色の入ったメガネを掛けた少年がサイ・アーガイルだ。キラの親友だが、AAに登場する事になってから、婚約者のフレイ・アルスターとキラが仮初の恋人関係になった事もあって、一時期は険悪な関係になっていた。
 今は多少なりともふっきれたので、以前ほどではないにしろ、友人としての関係は修復している。十人掛けの席に、サイとミリアリアが並び、ディアッカはミリアリアの前に座っていた。
 カウンターでランチを受け取り、ディアッカの隣にキラ、アスラン、ミリアリアの隣にオウカが座る。
 ミリアリア達も、先行きの見えない現状に不安を覚えているだろうが、今は明るい笑顔を浮かべていた。
 オーブ政権が覆ったとはいえ、故郷が戦火を免れた事で一安心といった所だろう。
 恋人であるトールを殺したアスランを前にしても、狼狽する様子は見せなくなっている。
 フライドポテトをフォークで突いていたディアッカが、おもむろに口を開いた。ややたれ気味だが、時折冷徹な光を浮かべる瞳は、オウカを見ていた。
 オウカはちょうど、ピラフを口に運ぼうとしていた。

「模擬戦見させてもらったけど、とんでもないMS作るよな、DC。バスターとか乗った時もナチュラルもやるもんだとおもったけどさ。あの機体、下手するとフリーダムやジャスティスより、って奴じゃない?」
「量産はされていないみたいだがな。実際、DCが連合の艦隊を打ち破った事で、若干ミリタリーバランスが変わった。地上に残されたザフトと手を組むかも知れないし、そうなれば当然宇宙でも動きがあるだろう」

 片手にフォークを握ったまま、アスランが独り言のようにディアッカに応える。彼らとてプラントやザフトを裏切ったつもりはない。
 ただ、連合とザフト、それ以外の道を見つけただけだ。少なくとも当人達はそう思っている。
 DCの話はオーブ出身のキラ達にとっても関心を否応にも引く話題だった。孤児達の事が気にかかるオウカも手を止めている。
 サイが、最近マルキオを介して合流したオウカに聞いた。

「オウカさんは、何かDCの動きを知らないんですか?」
「いいえ、私は軍の人間ではないから詳しい事は。ただ、国内では大きな混乱などは無かったわ。DCを支持する声もあったしね」

 済まなそうに首を振るオウカに、サイもまた力無く目を伏せた。オーブの掲げる平和を長らく享受していた彼らには受け入れがたい現実なのだろう。
 最後にウズミと交わした言葉を思い出しながら、キラもポツリと呟いた。 

「ウズミ様は拘束されたんでしたよね。でも、中立政策を強く謳っていたオーブに軍事政権が誕生するなんて、なんだか、悪い冗談みたいだ」
「キラの言う事も分るが、現実は認めないとな。どちらにせよ、連合とザフトもそれぞれ戦力の再編成を行っている時期だ。今は静かになるかもしれないが、それが破れた時が」
「決戦、だね」
「ああ、その時まで、おれ達はおれ達にしかできない事を探し、実践するしかない」

 険しい表情に決意の色浮かべるアスランの言葉に、その場にいた誰もが頷いた様に見えた。ただ、オウカを除いて。

 キラ達と別れて、私室に戻り、オウカは机の上に飾ってある写真を手に取って見つめた。マルキオを中心に、孤児と自分が映っているものだ。
 みんな元気にしているだろうか?
 マルキオの知己だというDC総帥ビアン・ゾルダークは、色々と気にかけてくれているらしいから、ひもじい思いをする事はないだろう。
 まだ別れてからほんの数日だと言うのに、こんな風にさびしがっていては、まるで自分の方が子供の様だ。
 そういえば、シンやステラ、アウルにスティング、彼等も今どこかの戦場にいるのだろうか。
 ひょっとしたら、敵と味方に分かれて戦う事になってしまう可能性に、今更ながらオウカは恐怖していた。
 あの雨の日、MSに乗ってから、ずっと、オウカの心には拭えぬ恐怖の色がこびり付いていた。
 そうしていると、ドアに入室の許可を求めるコールが鳴った。モニターにはククルの白い美貌が映っている。
 なにくれとなく自分を心配してくれているククルだ。たとえ一人でいたい心境でも無碍にはできない。
 招き入れて、ククルの格好に改めて嘆息した。
 その美しさと神々しさに。孤児院に居た頃は普通の洋服だったのだが、宇宙に上がって、私物らしい妙な機動兵器を持ちこんでからはずっと変わった格好をしている。
 和服、と呼ばれる類の更に細かく分類された衣服の一種なのだろうが、あいにくと旧日本の民俗文化に造詣の深くないオウカにはそれ以上細かい名称は分からない。
 髪と同色の白い生地に絹の光沢が眩く、その上に金細工や磨き抜かれた小さな鏡などを連ねた飾りをつけていた。
 普段は降ろしていた髪も、今はひっつめにして、胸に着けているものと同様の意匠の髪飾りでまとめている。どことなく浮世離れした雰囲気を持つククルだったが、今はことさらその雰囲気が強い。
 ククルいわく、彼女の乗機である女性型機動兵器マガルガに乗る時の礼儀とでも言うべき服装らしい。
 オーブを委任統治領としていた日本から流れた神道関係の宗教的なものだろうと判断されている。
 機体であるマガルガは、フェアリオンとミナシオーネの中間ほどに女性のシルエットを再現した機体で、約40メートル近いサイズを誇っている。
 携帯火器は無く、機体の四肢そのもので戦闘を行う。
 DCで開発されていたモノを、DC内のアスハ派の兵達を通じて持ちこんだものと説明されている。
 新西暦世界において自律・自覚型金属細胞マシン・セルによって自己修復能力を得ているため、整備も必要としていない(むろん、普通に整備すればその分修復は早まる)。
 あまりにこの世界の常識から外れているため、興味を持つ者が後を絶たず、いちいち彼らを追い払っているので、ククルは苛立ちを募らせているようだ。
 その愚痴を言いに来たのだろうか?
 微笑みを浮かべたまま、訝しむオウカの顔をちらっと一瞥して、すすめられた椅子に音も無く優雅に腰掛けた。

「どうかして? ククル」
「どうかしているのはここの連中だ。マガルガに興味を覚えるのは仕方の無い事だと私も理解できるが、ここに集まった連中の考えが私には理解しかねる」
「というと?」
「ここの連中は当初、オーブを追い出される形でこのメンデルに辿り着いたのだと言う。その後は、オーブの再建もあるが、連合のサイクロプスの自爆や、ザフトのパナマ虐殺の様な事が無いよう争いを止めるために力を蓄えているそうだ。
 確かに、あまりに人道を外れた行いが続いている戦だ。そう考える者がいてもおかしくはない事は私も認める。が、その後だ。いや、具体的な行動というべきか。戦いを止めるためにどうすればよいか、どうするつもりなのかと聞いた私に、なんと答えたと思う?」

 うすうすキラ達と行動を共にして感じていた事だが、オウカはあえて答えずにククルの言葉を待った。大仰に溜息をついて、ククルはこう言った。

「“その答えを探している”、だそうだ。目的を叶える為の手段をここまで考えていない連中というのを、私は初めて知ったぞ。
 このままでは時折連合とザフトに、ちょっかいを仕掛ける程度の事しかできん。
 カガリ・ユラ・アスハが仮にオーブの実権を取り戻した所で、たかがオーブ一国で世界の趨勢を変えられるものか。
 なあ、オウカよ。これではこやつらに救われた命よりも、こ奴らの所為で失われる命の方が多いのではないか?」

 ククルの言うとおりだった。今ここに集っている者達は、連合とプラントの争いを止め、平和な世界を求める志を少なからず胸に抱いている。
 それはいい。尊ぶべき精神とも言えるかもしれない。
 だが、それを実現するための方法が暗中模索の状態では、いくら声高々に耳に心地よい理想を述べた所で戯言ではないか。 
 まあ、DCのクーデターに際して追い出された形だし、準備も何もできない状況だったのだから仕方がないと弁護する事もできる。
 それにしてもAAやオーブの戦力だけでは、宇宙海賊としては大した戦力かもしれないが、国家を相手にするには到底無理のある状況だ。
 これで、彼らの掲げるお題目を実現するには漁夫の利を狙うほかあるまい。それも途方も無く大規模に。
 マルキオの言葉がきっかけだったとはいえ、本当にここにきて良かったのか、オウカとククルは本気で悩んでいた。
 正直な話、あのまま孤児院に留まるか、DCに所属した方がまだ良かったような……。
 同じ事を考えていると思い当たり、ククルとオウカはそろって溜息をついた。

 一方、DCの宇宙での唯一といっていい軍事拠点アメノミハシラでもささやかな動きがあった。
 オーブ本国に匹敵するファクトリーを持つアメノミハシラでは今も生産ラインが稼働し、核融合炉を搭載した後期型のエムリオンやバレルの生産が始めている。
 旗艦マハトをはじめDC艦隊が停泊する宇宙港に、今一隻の輸送艦が入港していた。マスドライバー・カグヤで打ち上げられた艦だ。オノゴロ島で完成した新型機を搭載している。
 カグヤを奪えなかったとはいえ、地上各地の小規模なマスドライバーや急ピッチで再建が進められるビクトリアのマスドライバー、新たに建設されるマスドライバーと、宇宙に連合の大戦力が集うのもそう遠い日ではないと、誰もが知っている。現状が今のまま続けば、だが。
 アメノミハシラの責任者であったサハク家の趣味なのか、華やかな装飾の貴族趣味の一室で、DC宇宙軍総司令マイヤー・V・ブランシュタインとDC副総帥ロンド・ギナ・サハクがいた。
 地上戦力の消耗もあったが、MSに搭載可能な核融合炉の開発に成功した事、連合の戦力の撃退もあって、一部戦力を宇宙にも上げていた。
 ギナがいるのも、いずれ戦力を立て直す連合の宇宙での台頭を見越した上でだ。
 ソファにもたれる様に腰掛けたギナと、共に外の宇宙港の様子を見ていたマイヤー。虚空に見る未来の絵は同じものだろうか。

「宇宙も騒がしかったようだが、ご苦労であったなマイヤー」
「そちらも、な。まずは連合を相手にするという予定は変わらんか。ザフトと手を結び連合を打倒、後にザフトと事を構える。……ふっ、余人が聞けば世迷言以外の何物でもないな」
「世迷言を現実へと変える為に我らがいる。理想という名の毒に溺れるほど弱き者は我らにはいない。今頃はカーペンタリアのザフトと連携を取るために顔を突き合わせている頃だろう。
連合は南太平洋の勢力が塗り替えられてラバウルとエリス諸島、マーケサズ諸島、引いてはマーシャル諸島、パラオ諸島、トラック諸島。さらにその奥、フィジーやニューギアも気にせねばならん」

 DCの次の狙いはインドのマドラス基地か、それともハワイか、南アフリカ統一機構の連合軍か。もっともそれ以前に戦力の立て直しが急務だ。
 大洋州連合やアフリカ共同体から物資が流入するようになったとはいえ、DCの資源・資金の不足は否めないのだから。
 今は不必要なまでに大型化した核融合炉を輸出し、NJの影響で停滞している世界各国のライフラインを復活させるための交渉材料としている。
 大西洋連邦は論外だが、ユーラシア連邦内の民族独立運動や旧世紀の軋轢が残り、内紛が絶えない地域やアフリカ共同体、大洋州連合、スカンジナビア王国、赤道連合、極東連合の一部地域が主な輸出先であり、親プラント国家だけでなく地球連合内の反大西洋連邦勢力も含む。
 地球連合を内部から瓦解させる――までは行かなくとも、足の引っ張りあいを誘引する位は出来るだろう。
ただでさえ、アラスカで戦力の大半を犠牲にされたユーラシア連邦や、アフリカ大陸の統一の為に連合を利用しているに過ぎない南アフリカ統一機構など、つけ込む隙は多い。
 アメノミハシラの外壁を挟み、無限大に広がる死の満ちた空間――宇宙から目を離して、ギナはマイヤーへ向き直った。
 人が広げた自分達の世界の最先端である宇宙。空気も水も重力もなにもかもを自分達で造り出さねばならぬ世界で生きて、それでも人間は歴史を繰り返す。飽きると言う事を知らぬ戦争の歴史を。

「マイヤー、宇宙の状況はどうだ」
「プトレマイオス基地をはじめ、連合側の諸勢力の各拠点でMSの生産と運用実験が積極的に行われている。折角のMSも、使い方を過てば動く砲台に過ぎぬ事を連合も学んだようだ。
 そうだな、一ヶ月か二ヶ月で、現状のザフトと同数のMSをそろえるのも不可能ではない、というよりは確実と見てとるべきだろう」
「流石というべきか。だからこそ、弱い者同士手を取り合わねばならんという事か」
「皮肉と自嘲。共に美徳ではあるまい、ロンド・ギナ・サハク」
「であろうな。だが、ザフトも地上でまだ戦えると錯覚を起こせば、我々にとっては都合の良い駒になる。カーペンタリア攻略に対しての橋頭保としてDCを利用するつもりであろうが、それはこちらも同じ事。
 しばし地上が主戦場になるだろうが、決戦は宇宙で行って貰わねば困る。……我らの出番がなくなるからな」

 最後の冗談はともかく、連合のMSの実戦投入で新たな局面を迎えた本戦役も、終わりへ向かい進んでいるのは確かだった。
 その先にあるものが戦争によって齎された災禍に見合うものであるかどうかは、誰にも分らぬままに、戦いは終局へ向け加速する。

 地上のDC本拠地オーブ連合首長国本島諸地域にて――。
 ザフトのカーペンタリア基地から出航したボズゴロフ級潜水艦が入港していた。
 ザフトとの同盟が水面下でプラント最高評議会との間で進められ、その影響もあって現場での対応を進める意味もあり、カーペンタリアの隊長クラスが足を運んだのだ。
 そう、DCにザフト最高のパイロットの一人に数えられる男が。
 かつてAAが入港したオノゴロ島の隠しドックに誘導され、短い海の旅を終えたボズゴロフ級から、ザフト側の代表がタラップを踏みしめてオノゴロ島の地下ドックに足を踏み入れた。
 階級の無いザフトで手っ取り早く立場を理解する目安になる軍服のカラーは白。隊長クラスを示している。
 一般兵は緑、士官学校の上位十名に与えられるエリートの証の赤、艦長クラスは黒などなど。例に挙げた中では白服がトップに当たる。
 肩に掛かる位に伸ばされた、淡く波打った冷たい印象の金髪。鼻梁と両目を覆う白いマスクが印象的だが、その下の顔はなかなかの美男であろうと、そのラインから見て取れる。体つきも軍人として申し分なく逞しく、180センチはクリアしているだろう。
 ザフトきってのエースにして有能な指揮官としても知られるラウ・ル・クルーゼその人だった。傍らには赤服を着た銀髪の少年が付き添っている。
 赤服を着た10代後半の少年。険の強い瞳に、遺伝子操作で整った容貌を与えられるコーディネイターにも珍しい位の美男だ。
 ただ右頬から鼻筋に掛けて走る傷が、彼の強い印象に一役買っている。
 今の医療技術なら傷を消す事も出来たろうに、あえて残したのは己への戒めか、雪辱への誓いであろうか。
 クルーゼ隊、ザラ隊と所属を変え今またクルーゼの元にいるイザーク・ジュールである。オーブのコロニー・ヘリオポリスで開発されていた“G”を強奪したパイロットの一人だ。その後もアラスカやパナマといった激戦区を戦い抜いた歴戦の猛者となっている。
 かつて潜入した事もあるオーブへの再度の来訪に、なんとも複雑そうな表情を浮かべている。本人としてはこれでも隠しているつもりなのだ。

「どうしたね? 緊張しているのかな、イザーク」
「いえ、そんな事は」
「なに、恥じる事はない。私とて緊張していないわけではない。なにしろ、あんなものを見せられてはね」

 クルーゼの言う、あんなものとは、DCと連合の初戦と過日行われたDC討伐艦隊の壊滅戦の事だ。
 オーブ領海に潜みながら連合とオーブの戦いを見守るはずだった、クルーゼの前で繰り広げられたのは聖十字軍を名乗る軍事結社の、異様なまでに強力な戦力。
 瞬く間に国を焼かれると思われたが、それが今はどうだ。こうして一時的にとはいえ戦火を防ぎ切り、自分達が訪れる結果になっているではないか。
 宇宙でも、あのヴァルシオンという機体と同サイズの特殊な機体が連合の艦隊を蹴散らしたという。
 DCの保有する戦力の数は少なくとも、その中に数の暴力に牙を穿つとてつもない獣が紛れている。
 それを利用すれば、地上戦力の宇宙への引き上げの時間は稼げる、その目論見は一見有用に見える。問題は、DC側がそれで済ますほど柔とは思えない事だった。
 少なくともクルーゼにとっては。

 イザークの他数名のザフトの高級士官を連れて通された貴賓室で、彼らは予想以上に高い立場にある人物と出会う事になる。無論、あの人である。
 待たされる事数分、開かれた貴賓室の扉から現れた姿にクルーゼもこれは、と意外そうな声を挙げていた。
 蒼みを帯びた黒髪に、雄々しく生え揃った顎髭、ゆるぎない意志を湛えた瞳。目の前にたたれば草原に立つ獅子を思わせる男。

「初めまして、ザフトの諸君。私がディバイン・クルセイダーズ総帥ビアン・ゾルダークだ」

 地を這って届くような圧力を自然と備えた声だった。耳にするものの背に鋼の棒でも通されるような感覚を与える。自然とイザークは襟を正したい衝動に駆られた。

「ラウ・ル・クルーゼであります。ビアン閣下」
「うむ、カーペンタリアからよく来てくれた。互いにとって有意義な時間になると期待している」
「はっ」

 ビアンを前にしても普段と変わらぬ調子のクルーゼに、イザークはやや感嘆し自分もまたザフトレッドに相応しいものとして臆する様子など見せられぬと、佇まいを正した。ビアンの傍らのミナが一瞥したきりだが、気にしても仕方ない。
 クルーゼに視線を動かし、ミナが交渉の口火を切った。

「では、本題に移らせていただこう……」

 会議を終え、用意された一室に戻ったクルーゼは常用している薬を飲み、一息ついていた。アラスカで手に入れた『おもちゃ』はカーペンタリアにおいて来た。
 今もびくびくと恐怖に震えながら、クルーゼの私室から出られずにいるだろう。
 食事の世話くらいは命じて置いたから餓死するような事も無いだろう。

「ビアン・ゾルダークにディバイン・クルセイダーズ……。より戦争を長引かせてくれるかと期待したが、あれはまずいな」

 会見終えたばかりで、先程まで相対していた男への評価を下していた。クルーゼの目的の為には戦争が長引き、世界が混乱と憎悪と復讐に満ちる方が都合がいい。
 だが、その時間を待つ猶予が、クルーゼにはあまりなかった。
 オーブが連合に吸収され、地上のミリタリーバランスが変化すれば戦場は宇宙へと移り、プラント存亡の事態へと移れば、それはそれでクルーゼの希望に沿うシナリオであったが、DCの蜂起と連合相手に勝利するという事態はいささか予定にはない事だった。

「聖十字軍、か。人類の終焉にどのような役割を果たす?」

 場合によっては、ビアンに退場してもらう事態も想定しておいた方がいいだろう。その方が、クルーゼの取引相手も喜ぶ事だろう。
 その為の準備も、既にクルーゼは進めていた。だが今は、DCの真価がどの程度か、見極めなければなるまい。
 プラントにとってでは無く、クルーゼにとって価値があるかどうかを。

「もっとも、ザラ議長閣下はDCを使い捨てにするつもりらしいが。……あの男がそれで済ますような小物とは思えんな」

 議長閣下という部分に侮蔑の声音を交え、クルーゼは空の彼方で今もコーディネイターの勝利に邁進するパトリック・ザラを嘲笑った。
 妻を殺され、ナチュラル全体への憎しみに凝り固まった彼が、クルーゼの思う通りに動くよう誘導する事は、穏健派のシーゲル・クラインが部隊から退場したことでより容易になった。
 後は、地球連合に『扉』を開く為の鍵をどのように与えるかにかかっているだろう。長年のクルーゼの渇望を満たす為に、失敗は許されない。
 いや、ある意味その失敗もまたクルーゼの望みだ。それが自身の死に繋がっているならば。

「まあいい。シナリオの過程がどうあれ、結末さえ同じならばな」

 そう言って、端正な口元を歪ませたクルーゼは、底知れぬ暗黒が蟠る亀裂の様な笑みを浮かべた。
 自分さえも含んで世界の全てに憎悪と嘲笑を向ける魔物か、哀れな道化の様な姿だった。
 世界の不条理に、心を歪められ曲げられてしまった哀れな道化、その名はラウ・ル・クルーゼ。破滅の劇を踊り描き、泣きながら笑うピエロ。

 艦に戻る気になれなかったイザークはクルーゼに許可をもらい、DCの施設を見て回っていた。セキュリティーカードを渡され、そのカードで通れる範囲なら自由に見ていいと告げられ、監視を兼ねた警護の兵も付いていない。
 それでいいのかと言いたくなるような扱いだが、文句を言える立場でもなければ状況でもないのでイザークは不機嫌そうに歩いていた。
 ひょっとしたら、イザークが気付いていないだけで監視が付けられているのかもしれない事だし。
 実際、セキュリティーカードに極小サイズの発信機と録音機が仕込まれているのでイザークの行動は基本的に筒抜けだ。
 ばれたらそれなりに一悶着があるかもしれないが、ばれなきゃいいのである。
 イザークはかつてオーブだったこの島について、ふとごく最近の過去を思い出していた。
 ラスティやニコル、ディアッカと戦友を失い、アスランと奇跡的に生還していたミゲルもプラントに戻って、クルーゼ隊の頃からの付き合いのある連中も随分と減ってしまったものだ。

「……む」

 ぴたりと足を止めて、イザークは左右を見渡した。眉間に寄せられていた皺が、より一層深くなる。

「迷ったか」

 コーディネイターだって初めて来た所では迷子に位はなるものなのだ。そのままそこで立ちくしていたら、後ろから声を掛けられた。

「知らない人がいる」
「ん? ここの基地の者か。いや、当り前だが」

 振り返ってみると、イザークより2つか3つは年下の女の子がいた。
 DCの一般兵が着るのとは違う、やや装飾の凝った軍服を着ている所からして、それなりの地位か特殊な立場にあるのだろう。ザフトで言う所の赤服に当たる。
 しかしどう対応すればいいのか、イザークは少し困った。軍人として対応するならいいのだが、目の前の少女はちっともそれらしく見えないしどう言う立場の人間なのか判断しかねる。第一、小さな女の子に接する機会とのものがイザークにはあまり無かった。

「ああ、すまないが少し道に迷った。道を教えてくれないか」

 イザークにしては優しい言い方で聞いてみた。比較的彼にしては大人な対応と言えるだろう。
 一般に理性的に調整されるというコーディネイターにしては、欠陥でもあるんじゃないかという位イザークの沸点は低く、堪忍袋の紐は緩い。
 ナチュラル蔑視もそれなりに持っている。少女――ステラ・ルーシェは、きょとんした顔を作ってからこう言った。

「ステラも迷子」
「……」

 あってはならぬ沈黙が降りた。

 オウカ×キラ、オウカ×アスラン、ステラ×イザークフラグがそれぞれ立ちました。
 ラピエサージュがオーブ艦隊に配備されました。
 イザークとステラがそろって迷子になりました。
 大半は冗談です。
 
 う~ん、話が進んでいない。
 そろそろラクスのエターナル強奪をやりたいのですが。しかし、私の手に余るネタになってきているような。
 ではでは、ご助言・指摘もろもろお待ちしております。またいつかお会いしましょう。