SRW-SEED_ビアンSEED氏_第34話2

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:17:36

 タマハガネやツクヨミ、イズモをはじめペレグリンやマハトが係留されているアメノミハシラに、ザフト籍のナスカ級が入港していた。
 ヴィレッタが率いるWRXチームの母艦“ドルギラン”だ。
 当然というべきか、今回ザフトとの共同作戦に従事するのは例によってタマハガネである。
 入港するザフトの艦にイザーク達が乗っていると聞かされたタマハガネの幼年組代表シンとステラは、意気揚々と彼らに会いに行った。
 今回、ジェニファーとフェイルは同行しない。ジェニファーは戦いの場からは身を引くことを決めていたし、フェイルはメディカルチェックでその身体が酷使されたボロボロの状態である事が分り、アメノミハシラの医療施設で可能な限りの治療を受けている。
 ヴァイクルとデュラクシールも、どうにか今後の使用に耐える様にするにはどうすればよいか、アメノミハシラの優秀な技術陣が知恵と知識とマニア魂を絞り出している所だ。
 機体に使われている素材や動力源など未知の技術が満載で、完全に修復するのはいつの事になるか見当もついていない。
 しかしこの両機は新西暦世界に出言うEOTの塊そのものだ。
 デュラクシールの装甲に使われているオリハルコン、フルカネリ式永久機関、ラングラン王国の錬金術、魔術的加工技術、ヴァイクルはゼ・バルマリィ帝国の量子波動エンジンや未知の装甲材、遠隔操作を可能とするカルケリア・パルス・ティルゲムなどなど。
 ビアン含め、DCの技術陣はさぞや狂喜乱舞している所だろう。まあ、それはパイロット専門であるシン達にはどうしようもない事であった。
 ドルギランの入港した6番ドックに向かい、タマハガネ隊の者である事を告げ、イザークらを探す。
 銀髪のおかっぱ頭という目立つ外見だから、すぐに見つかるだろう。
 はたしてイザークとレイはすぐに見つかった。ただ、今までのザフトレッドの赤服では無く、胸元が大きく開いた制服と膝まで届くブーツを身につけていた。

「イザークさん、レイ!」
「シンか。また会ったな」

 レイと何か話していたイザークは、シンとステラの姿を認めて、いつも眉間に寄せている皺を取り、かすかに頬笑みさえ浮かべていた。 
 無表情しか知らないのでは、と思わされるレイも、心なし口元が綻んでいる。

「久しぶり。……イザーク服変わってる。どうかしたの?」
「貴様は相変わらずだな、ステラ。それと目上の者には『さん』をつけろ。所属が変わってな。おれ達のチームだけこの服を着ている」
「……ルナはどうしたの?」

 キョロキョロとあたりを見回すステラの視線は、ルナマリアを発見する事が出来なかった。
 イザークとレイはなぜか顔を見合せてから、そっと俯いた。なんとも哀れな雰囲気が滲みだしている。ルナマリアに何かあったのかと。シンは焦った。

「え、ルナになにかあったんですか?」
「あったといえばあったか……。なあ、レイ?」
「(このタイミングでおれに振るのか?)ええ、あったと言えばあったと言えるでしょう」
「?」

 何やら口を濁す二人に、シンとステラは分けが分からないという表情を浮かべた。
 とりあえずルナマリアが怪我をしたとかそういった類の話ではないらしいから、余計な心配はしなくて済みそうだが。
 イザークは何とも言い難い微妙な表情をしていた。された方もどう対応していいか分からない反応だったので、シンはすっかり困ってしまった。

「まあ、なんだ。今のルナマリアは人目に晒すのは忍びないのは確かだな。……仕方あるまい。ルナマリアの所へ案内してやる。ちゃんとおれの後に着いて来い」
「はあ」

 イザークに案内されて、見た事の無いMSが並ぶハンガーの一角へ到着した。
 ガンダムタイプに似ているが、微妙に異なるデザインの機体達。R-1、R-2、R-3、R-GUNのRシリーズだ。
 そこにはザフトレッドの服からWRXチームの専用の軍服に着替えたヴィレッタの姿もあった。肩を露出し、太ももなども露出できるデザインのパンツを履いている。
 パンツの下にスパッツでも履いているのか太ももの部分からは黒い生地が見える。

「あら、その子たちはどうしたのかしら? イザーク」
「はい。以前にお話ししたタマハガネのMSパイロットのシン・アスカとステラ・ルーシェです。ヴィレッタ隊長」
「初めまして、ヴィレッタ・バディムよ」
「あ、はい。初めまして、シン・アスカです」
「ステラ」

 ステラの簡潔極まる自己紹介に、ヴィレッタが怒るかもしれないと少し不安になったシンだが、ヴィレッタはステラの幼さが微笑ましかったのか、小さく笑っていた。
 優しい人なんだな、とシンはぼんやり思った。

「それで、シンとステラは何の用があってきたのかしら? 機体の見学?」
「いえ、ルナマリアはこちらかと思いまして」
「ああ、ルナマリアね。ちょうどシホとアクアと三人で機体の調整を行っているわ」

 とヴィレッタが指さしたのは、R-GUNのさらに奥で立っている機体だ。
 Rシリーズとはまた異なるコンセプトらしく、背に長大な砲身を備えている。砲撃戦用の機体だろうか。
 白をメインに紫を交えたカラーリングで、バイザーの奥にツイン・アイが見えた。
 YTA-01BW。ザフト製TEアブソーバー一号機サーベラスだ。
 R-2とR-GUNもTEエンジン搭載機であるため、TEアブソーバーであり、またRシリーズも兼任しているから、純粋なTEアブソーバーと言えるのはこのサーベラス一機のみとなる。
 サーベラスの足元でヴィレッタが足を止め、開かれたコックピット目掛けて声をかけた。どうやらそこで三人が調整作業を行っているらしい。

「ルナマリア、シホ、アクア、降りてきなさい! お客よ」
「お客って、誰ですか? 隊長」

 姿は見えないが、久しぶりに聞くルナマリアの声に、シンとステラが顔を見合せて微笑んだ。二人にとっては良い友人らしい。

「ルナー、おれだよ。シン、シン・アスカ!」
「ステラもー」
「ええ!? シンとステラ、ちょちょ、ちょっと待って、今二人には見せられない格好だから! シホさんもアクアさんもそう思いますよね!?」
「……確かに」
「諦めると楽ですよ?」
「いいから降りて来なさい。あまり待たせるのは失礼よ」
「ヴィレッタ隊長~、失礼とかそういうんじゃなくて、乙女の恥じらいというか、なんというか」
「ほら、早くなさい」

 急かすヴィレッタの声に、ルナマリアは渋々従う事にしたようで、シホと先程から名前の出ているアクアという女性と三人でサーベラスのコックピットから身を乗り出して飛び降りた。無重力ならではの大胆な行動だ。
 徐々に、ルナマリアとほかの二人の女性の格好に気付いたシンの目がまん丸に見開かれ、首から耳の先、頭のてっぺんまでがあっという間に赤くなる。
 ステラは興味深そうにルナマリア達の格好を見ていた。
 イザークとレイが憐れみの視線でルナマリアを見ていた。

「……じろじろ見ないでよ。は、恥ずかしいんだからね!」

 と恥じらいに頬を赤く染めるルナマリアはいけないまでに魅力的だった。主に性的な意味で。
 DFCスーツ姿のルナマリアはシンにはいささか刺激が強過ぎた。
 年の割にたわわに実った二つの乳肉も、胸元からきわどい所までが覗くお腹も、黒い生地が食い込む肌の艶めかしさは青い果実の様にひどく美味しそうに見える。
 またそれを、恥ずかしがったルナマリアが頬を赤く染めて困った表情を浮かべて両手で隠そうとするもじもじとした仕草が危うい魅力を倍増させていた。
 シンはなんて言えばよいのか分からなかった。ルナマリア一人でもこのダメージなのに、その両脇に負けず劣らずの美少女と美女がいたのだから仕方ない。
 ルナマリアに比べればやや凹凸は控えめだが、スレンダーな体のラインは流麗で美しく、長く伸ばされた髪とDFCスーツの黒が際立たせるきめ細やかな白肌が眩いシホ。
 ウェーブした淡い紫と青が混じった色の髪を、DFCスーツと同じ素材らしい黒いヘアバンドで留め、ルナマリアとシホ同様に露出過剰なDFCスーツに身を包んでいるのがアクアと呼ばれていた女性なのだろう。
 二十代を少しだけ越えた位の女性だろうが、大きめな瞳や育ちの良さが伺える品の良い、小さな造りの顔立ちは、美人と言うよりは可愛いという方が正しいかもしれない。
 ルナマリアと同じかそれ以上の震度で揺れる白い肉の山が胸元に二つ、黒い生地に下半分を隠され、残す上半分を晒している。
 本人が意図したわけではないだろうが、きつく体を締め付けるDFCスーツの生地が露出した肌をその分外へと押し出し、まるで見せつけるかの様に胸とその埋もれる事を男ならば誰もが望むだろう谷間が強調されている。
 胸だけではない。そっと手を回すのにも、折れてしまうのではないかと繊細に扱わなければならない、思い切りよくくびれた蜂腰に、男どもの視線を惹きつけて止まぬ女の脂と肉を乗せた白い脚線美。初心な少年の感性を叩きのめすにはあまりにもな布陣だ。
 動揺するルナマリアに比べれば、諦めが入っている分感覚が麻痺しているシホが真っ先にシン達に声をかけた。

「シホ・ハーネンフースです。イザークさんやレイから貴方達のお話は聞かされています。今度の任務ではお互い協力し合いましょう」
「あ、えっとシン・アスカです」
「ステラ・ルーシェ」

 そっと差し出されたシホの小さくて暖かい手を握るのにもありったけの勇気を総動員しなければならなかった。
 ザフトでは女性は肌を見せなければいけない決まりでもあるのかと、シンは半分本気で思った。
 最後に、アクアがじっとシンとステラを見つめていた。
 ステラはなあに? とばかりに首を捻っているが、シンはシンで、これまた今までいなかったタイプの美女の視線に心臓をドキドキさせている。
 ステラとミナの入浴シーンを覗いた事と言い、ラッキースケベな才能には恵まれているらしい。

「アクア・ケントルムよ。このサーベラスのパイロットをしているの。それにしても……二人とも若いわね。いくつ?」
「おれは今年で14です」
「……シンと同じでいい」

 自分の年齢が正確に分からないステラの言葉に、アクアはどう言う事だろう? と考えたがあまり深く気にするのは止めた。
 結局のところこの二人が若すぎるのは確かなのだから。

「やっぱり、それ位なのね。はあ、また私が平均年齢引き上げるのかしら?」
「……ルナ、アクアさん何言っているんだ?」
「アクアさん、年の事気にしているのよ。私やレイ、イザーク元隊長にシホさんはみんな十代だから、二十代の自分の事が気になるみたい。十分若いと私は思うんだけどね」
「そんなに気になるものかな?」
「さあ?」
「……十代だから言える台詞ね」

 アクアはシンとルナマリアの会話に、切ない溜息を零した。格好と溜息を零した理由を別にすれば、この上なく絵になる美女と仕草だ。
 まあ、クライ・ウルブズには四十代のおじさまがいるから、年齢云々の事はアクアも気にせずに済むだろう。
 これは話を変えた方がいいと何となく察したシンが、サーベラスを見上げた。

「所で、さっきの機体と言い、こいつといいザフトの最新型ですか?」
「ええ。あまり詳しい事は言えないけど、本国でエルデ・ミッテという人が開発した新たな人型機動兵器がこのサーベラスよ。あっちにあるのはヴィレッタ隊長が主導で開発したRシリーズっていうMS」
「なにか特徴でもあるんですか?」
「それはちょっと言えないかな」

 シンの子供らしい駆け引きの無いストレートな言葉に、アクアは苦笑しながら言葉を濁した。ヴィレッタの方は特に言う事はないらしく沈黙している。
 本来アクアはWRXチーム所属ではないが、本格的にTEエンジン搭載機の開発に踏み切ったザフトが、同じくTEエンジン搭載機であるR-2とR-GUNとのデータ採取及び比較の為に同じ部隊に所属させているのだ。

「ねえ、ルナ」
「なあに、ステラ?」
「なんでルナやシホにアクアはそんな恰好しているの?」
「……それを聞くのね? ステラ。できれば聞かないで欲しかったわ。私だって好きで着ているわけじゃないし……」

 一気にルナマリアとシホとアクアの全身からに滲みだしたどんよりとした空気に、思わずステラがシンの背中に隠れた。
 自分が触れてはいけないモノに触れてしまったと本能的に理解したのだ。何気に、シホもまだ開き直れてはいない。
 年長という意識が働いたのか、アクアが取り繕うように慌てて説明を始めた。

「こ、これはね。DFCスーツっていって、詳しくは言えないけどとある機体を操縦するパイロットは着ないといけないものなの。水着みたいだけど、立派なパイロットスーツなのよ!」
「……お風呂にそのまま入れそう」
「そうそう、それだけは楽でいいのよね。って違うの! パイロットスーツなのよ!」
「……DFCスーツのお決まりのパターンね」
「そうですね」

 アクアのノリツッコミに、ルナマリアとシホが何度も頷いていた。シンには何の事だかさっぱり分からない。
 取り敢えず、アクアに対する印象は、可愛いお姉さんと感じた。妙に擦れていないというか、いちいち反応が可愛らしいのだ。
 9歳も年下のシンにこう思われている辺りがアクアの個性だろう。ちなみにヴィレッタはかっこいいお姉さんと言った所だろうか。とりあえず仲良くはやっていけそうだ。

 
「シン」
「どうしたの、ステラ?」
「ステラも、でぃーえふしースーツ着た方がいい?」
「……いやすごく個人的には着て欲しいけどスティングとかアウルとかミナさんにおれが簀巻きにされそうだから、いいよ。すごく着て欲しいけど」
「ん~分かった。着ない。……シン、鼻血」
「あ」

 ステラがルナマリア達と同様にDFCスーツの、あの下手な水着よりもよほどエロチックな黒い生地を着ている姿を想像したシンは、鼻の穴から赤い筋を滴らせていた。
 ステラが、こんな事を言い出したのが、シホやアクア、ルナマリアにシンが見惚れているのに気付き、自分もそうすればシンに構ってもらえるだろうかと考えたのだと知ったら、この少年はどんな反応を見せた事やら。
 ちなみに鼻血と性的興奮に関連性はない。スーパー○クターKもそう言っていた。

(そういえば、ビアンおじさんはステラがDFCスーツ着たいって言いだしたらどう反応するんだろう?)

 ふと、そんな事を考えながら、シンは鼻血を拭った。

 メンデルからノバラノソノへと戦力を移していたオーブ艦隊は、残す艦をアークエンジェル、スサノオ、クサナギ、エターナル、シュリュズベリイとした所で接近する艦影に気付いた。だが、それは彼らの予想とは異なる陣営のものであった。
 アークエンジェルで当直についていたサイが、センサーの捉えた熱源に気付き硬い声で報告を挙げる。

「接近する大型の熱量を感知! ――戦艦クラスだと思われます。数は4」
「距離七〇〇、オレンジ一一、マーク一八アルファ、ライブラリ照合、アガメムノン級一、他三隻はありません!」
「連合とザフトの新型艦か、未知のタイプと言う事ね。総員第一種戦闘配置!」

 マリューは即座にバルトフェルド、ダイテツ、キサカに情報を伝える。願わくば通り過ぎて欲しいものだが、そう簡単に行くとは誰も思ってはいなかった。
 それを肯定するかの様に、戦艦の一隻が放った砲撃が港湾施設を直撃し、大きな振動がアークエンジェルを揺らす。

「攻撃衛星を起動させて、機雷群の散布を! アークエンジェル発進、港口で敵艦を迎え撃つ! クサナギとスサノオ、エターナルは?」
『スサノオも前に出る』
『クサナギも何時でも行ける』
『エターナル、右に同じだ』
「分かりました。敵が連合かザフトかが分かれば狙いも分ります。エターナルは港内で待機を」
『まあ、そうするのが妥当だろうね? すまんが、三隻で持ちこたえてくれ』
「イーゲルシュテルン、バリアント起動。艦尾ミサイル発射管、全門装填! デブリに気をつけて、特にデザー用のメタポリマーストリングは危険よ」

 マリューの手早い指示を聞き取り、ノイマンは心得たとばかりに力強く返事をした。

「分かっています」

 勢い込んで港の外に出た所で、砲撃がぴたりと止み接近する艦隊から思いもかけない通信が飛び込んできた。

『こちらは地球連合軍宇宙戦艦ドミニオン。アークエンジェル、聞こえるか!? 本艦は反乱艦である貴艦に即時の無条件降伏を要求する!』

 懐かしい、数カ月ぶりに聞く声だった。ヘリオポリスか幾度となく続けられた死闘を共に乗り越えた仲間の声に、マリュー達が驚きに支配される。
 いや、こうなる事は予測できた。地球連合の元を離れると言う事は、敵とみなされても仕方の無い事だ。そして、地球連合には、彼女がいる。
 愚直なまでに軍人であろうとするナタル・バジルールが。

「艦長、光学映像が出ます」
「黒いアークエンジェルと、アークエンジェル級を二隻も! それに他にも見慣れない艦があるわね」
「同型艦か。アークエンジェル級二隻なんて、どこから引っ張り出して来たんだ!?」

 一方でドミニオンの艦橋では、ナタルの思わぬ発言に呆れていたアズラエルが責める様な視線で、艦長席に座るナタルを見つめていた。
 ナタルは、アズラエルの非難の視線を無視して、マリュー達に軍への復帰を説いている。

「何をするかと思えば。言って分かる相手ならアラスカから脱走なんかしませんよ? それよりほら、ちゃっちゃと沈めてください。言葉だけで分かり合えるほど世界は優しくない。敵は討たないとネ?」
「ですが!」
「はいはい、僕達は何のためにここまで来たんです? まったくエンフィールド中佐も貴方が余計な事を言うものだから、動かずにいるし。優秀な軍人さんてのは、上の命令に忠実なものでしょう?」
「――アズラエル理事!」

 通信越しに交わされるナタルと、ナタルが口にしたアズラエルと言う名に、アークエンジェルの艦橋に緊張が走った。
 ブルーコスモスの盟主! この戦争の元凶の一人が、なぜドミニオンに?

「フォビドゥン、レイダー、カラミティ、WRXチーム発進です。元は取ってくださいネ? さて、不沈艦アークエンジェル、今日こそ沈めて差し上げる」

 アズラエル自ら命令を下し、最後にアークエンジェルに対し獲物を前にした爬虫類の様な、不気味な響きを交えた口調で告げ、通信が切られた。
 軍上層部から最大限意志を尊重するよう通達されていたアズラエルの命令に、不承不承レフィーナとナタルも従わざるを得ない。
 一片の好意を抱く事が出来なくても、逆らう事が出来る相手でもなかった。彼女達は軍人なのだから。

「キタムラ少佐、MS隊発進です! イーゲルシュテルン、バリアント起動、ゴッドフリート一番、二番照準合わせ。艦尾ミサイル発射管全門装填。シルバラードは後方へ!」

 ゲヴェルとドミニオンの特徴的な両舷蹄部のリニアカタパルトからブーステッドマンとブルーコスモスの私兵集団、そして彼らをまっとうな軍人とするべく鉄拳と説教をくらわすカイ・キタムラのMSが出撃する。
 アガメムノン級からもストライクダガーが出撃し、戦闘能力を持たず後方に下がるシルバラードからも、イングラム率いるMSが出撃した。
 両肩から突き出たビームカタールソードや、白い機体にバイザーの下に隠れたツイン・アイ型のメインカメラ。
 Gタイプの、額に設置されたブレード状のアンテナでは無く両側等部の装甲から斜め後方に突き出たアンテナに、バックパックから天を突くように伸びる二門の砲身を持った機体――R-GUNパワードがWRXチームの先陣を切った。

「ムジカ、グレンはおれに続け。ジョージーはゲヴェル・ドミニオンのMS隊への支援に集中しろ。お前達はおれが選び抜いた人材、そして機体もまた現行の連合の兵器の中では最高のものだ。
 落ち着いて訓練通りにやって見せろ。そうすれば何も問題はない。イングラム・プリスケン、R-GUNパワード出撃する」

 続いて、赤く塗られたR-1がカタパルトに着く。ムジカ・ファーエデンの乗機であるR-1だ。ムジカの好みで機体を赤く塗られている。
 全体的に、シルエットはイザークの駆るR-1と同じに見えるが、こちらには精神感応型の特殊システムが搭載されており、機体の追従性や反応速度ではザフト製のR-1の一歩先を行く。
 更に特徴的なのは、機体の背中に負ったウィングの形をしたパーツが、フィンの様な長方形の装甲板で構成されている事だろう。ガンバレルとも、ドラグーン・システムとも異なる脳波コントロールによる遠隔操作兵器だ。
 これはムジカの持つ特殊な素養に着目したイングラムが、自ら開発した特殊兵装だ。
 機体と同じ赤いパイロットスーツを着こんだムジカが、元気よく出撃の声を挙げた。

「ムジカ・ファーエデン! R-1、行っきまーす」
「ジョージー・ジョージ、R-2、発進いたします」
「グレン・ドーキンス、R-3、出る」

 ムジカの赤いR-1に続き、ジョージーのR-2とグレンのR-3も光の軌跡を描いて暗黒の宇宙に飛び出した。
 ジョージーのR-2は機体の兵装やコンセプトなども、ザフト製R-2とほぼ同じで、砲撃支援・制圧射撃に特化している。
 グレンのR-3は、レイのR-3の様に索敵・指揮などではなく、高機動性を活かした白兵戦闘を得意とする機体だ。
 レイのR-3と違い、紫に塗られた機体の両肩と背部にはエールストライカーを改良した巨大なブースターや、スラスターが装備され、Rシリーズ随一の機動性と運動性、加速を誇る。いわばR-1とR-3が逆転しているようなものだ。
 イングラムのR-GUNパワードを筆頭に、連合側のMS達はアークエンジェルへと襲い掛かった。
 アークエンジェルのリニアカタパルトからも、ムウのランチャーストライク、ディアッカのバスター、ニコルのゲイツ火器運用試験型が出撃し、ヒルダ達の乗るゲイツやアサギらのエムリオンが迎撃に出る。
 港湾部分で待機するエターナルからも、キラとアスランのフリーダムとジャスティスが飛び立ち、アークエンジェルの両舷の守りを固めるストライクとバスターを追い越して行く。

 エターナルの艦橋に、シュリュズベリイの格納庫で戦いの時を待つスレードゲルミルに乗ったウォーダンから通信が入った。

「スレードゲルミルは何時でも出せるが?」
「気になるのはオウカ君が接触したというザフトの部隊だな。折悪しく今の状況で彼等も来て三つ巴となると、状況が混乱の極みだ。その時に切れる札は残しておきたいのだよ。特に君らはとびきりリターンの大きなジョーカーだ」

 艦長席のバルトフェルドの意見に、オブザーバー席に移ったラクスが追従した。堰を移動したのは、軍事に関しては素人である事を自覚してだろう。

「バルトフェルド艦長の言うとおりです。ウォーダン、貴方には最後の詰めをお願いしたいのです。貴方とスレードゲルミルを頼らせていただけますか?」
「承知」
「ククルさんも、それで構いませんか?」
「私に断る理由はないな、歌姫。それに、MSが相手ならば私達が出る必要はないだろう」
「そうかもしれません。ですが、なにか嫌な予感がするものですから」
「お前の勘はなにやら当たりそうだな。まあいい。私とウォーダンは後詰として待つとしよう」
「その時はお願いしますね」

 アークエンジェルの左舷にクサナギが、右舷にスサノオが着き、ゲヴェル、ドミニオンとゴッドフリートやミサイルの砲火を交わし合い始めた。
 この五隻は元をただせば全てオーブの技術を下地にしているから、自然と武装や性能は互いに理解している分、艦長としての技量が要求される戦いになっていた。
 磨き抜いた鋼の色の船体が特徴のスサノオは、ダイテツの指揮の下群がるストライクダガーを対空砲火の雨で追い払いながら、巧みな動きで火線を集中しゲヴェルと対峙していた。
 ダイテツの傍らで、白髪を後ろに流してまとめた整った白鬚の初老の男性が、しみじみとゲヴェルの動きを評価していた。

「ふむ。クルーとの連携がうまく取れた艦長が乗っているようですな。MS隊はいささか自己主張が激しいようですが、それでも良くまとまっている」
「うむ、敵ながら大したものだ。一度顔を見たいものだな」
「とりあえずは落とされないようにしませんとな。ダイテツ艦長」
「そうでなくては、お前を呼んだ意味がないからな。ショーン」

 ダイテツの旧オーブ軍時代からの右腕、ショーン・ウェブリー二佐だ。カガリが補給物資と一緒に連れて来た兵士達の一人で、ダイテツが前から打診していた人物でもある。
 歴戦の艦長然としたダイテツと、ユーモアとセクハラと能力が奇妙にバランスの取れたショーンのコンビは、オーブ軍艦長の中でも最高の組み合わせの一つであった。それに対するゲヴェルは

「ゴッドフリート、てぇーー!!」
「敵イズモ級より熱源多数、ミサイルです。数は12」
「イーゲルシュテルン目標捕捉、全弾撃墜!」
「くっ、デブリが多いな。敵艦を見失うな。NJ影響下では厄介な戦場だが、訓練通りにやれば問題はない!」

 レフィーナとテツヤの指示が矢継ぎ早に飛び、オペレーター達からの報告がひっきりなしに挙がってくる。
 アークエンジェルとクサナギはドミニオンとアガメムノン級が抑えている内に、一隻でも多く敵艦の戦力を殺がねばなるまい。
 艦長席で休むことなく指示を飛ばしていたレフィーナは、敵イズモ級のクルーの能力に敬意を覚えていた、以前交戦したタマハガネに戦闘能力では劣るだろうが、クルーの質は決して劣るとも勝らない。
 新西暦世界においては教え子と導く者だった四人は、この世界では互いを斃すべき敵として立場を違えて砲火を交えあう。

 飛び交うビームとミサイルとが、盛んにオレンジの火球や爆発を生む光景が広がるドミニオンの艦橋に、エレベーターのドアを開けて一人の女性が入室してきた。
 ナタルは戦闘中だと追い出そうと思ったが、ドミニオンを掠めたアークエンジェルのゴッドフリートの輝きにそれ所ではないかと歯を軋らせる。
 女性はオブザーバー席に座るアズラエルの傍らで足を止めた。白衣を着た二十代中頃の女性だ。
 これからますます女として妖艶さを増す事が見て取れる、色香の薫るような美女だ。そしてその瞳には知識への探究心が絶えぬ炎の様に輝いている。
 求める者の為なら人の心を捨てて、鬼畜の所業を行うのを躊躇わぬ人種だとその瞳の輝きが告げている。

「どうかえ? 連中の様子は」
「まだまだこれからお手並み拝見ですよ」

 美女の口から出たのは、若々しい外見にはそぐわぬ老婆の言葉遣いであった。
 アズラエルの視線の向く方に切れ長の瞳を向けて、血でも塗りたくった様に赤い唇を笑みの形に吊り上げる。
 ぞくりと背筋に妖しい感覚を覚えそうなほどに美しいが、それ以上に冷たい悪寒に襲われるような笑みであった。
 美女の視線の先には、虚空を駆けるラピエサージュの雄姿があった。だが、美女の視線が真に見据えているのは、ラピエサージュを駆るオウカ・ナギサであった。

――ふぇふぇふぇ、どうやら性能は落ちていないようじゃな。アウルム1?

「なにか気になるものでも? セトメ博士」
「なに、単なる好奇心じゃよ。アズラエル理事」

 アギラ・セトメ。それがこの美女の名であった。
 かつて、そう新西暦の世界においてオウカを始めとした少年少女を機動兵器のパイロットとして育て上げる為に外道鬼畜の所業を行っていたパイロット養成機関スクールの主要人物だった女怪だ。
 スクールの創設者であったアードラー・コッホとは途中で道を違えたが、自身の研究に邁進し、地球圏の騒乱そのものには露ほどにも興味を持たなかったこの女は、最終的にはアースクレイドルと呼ばれる人工冬眠施設での戦いにおいて死亡している。
 マシンセルという自律金属細胞に取り込まれ、半ば不死の状態になったこの女を、オウカがラピエサージュに搭載されていた自爆システムによって跡形もなく消し飛ばしたのだ。
 だが、オウカがこのCE世界に来たように、この科学の魔女もこの世界に来ていたようだ。
 だが、今のアギラを目にすれば、かつての彼女を知る者は目を見張るだろう。
 太く長い皺に覆われていた肌は張りのある艶やかさに輝き、しなびた根菜のようだった鼻は天に通んと伸びた造りの良いモノに変わり、皺に半ば埋もれていた瞳は英知の輝きを宿す切れ長の形に変わっている。
 なんの因果か、マシンセルに取り込まれた影響か、七十代の老婆から二十代の妖艶な美女へと変わったアギラ・セトメであった。