SRW-SEED_ビアンSEED氏_第35話2

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:21:19

第三十五話 刃折れて 中編2

 一方、タマハガネとドルギランの格納庫でもそれぞれムウ達と感覚を共有する者達がいた。R-2に乗りこんで待機していたレイだ。

「これは、ラウ? それに、ムウ・ラ・フラガか! フラガの家系め。だが、何だ? 他にも……これはシンとステラか? うぅ、他にも誰かいるのかこれは一体?」
「どうしたのレイ? 大丈夫、顔色悪いわよ」
「何でもない。ルナマリアこそ大丈夫か。おれは少し緊張しているようだ」
「へえ、レイでも緊張なんてするのね。私は平気よ。これまでだってやってこれたんですもの。これからも大丈夫、そう思わないとね」
「ルナマリアらしい」
「そう? 自分でもそう思うけどね」

 仲間の気遣いに、レイは小さく微笑した。ルナマリアとて戦場に出て半年も経っていない。戦場が怖くないわけはないだろう。自分だってそうなのだから。それでも気にかけてくれるルナマリアの優しさを、レイは暖かく感じた。

 ストライクを駆るムウも、クルーゼ以外の感覚に戸惑いながらエンディミオン・クレーターの戦い以来の宿敵の存在に居ても立ってもいられずに、メンデルへと機体を向かわせる。
クルーゼの存在はザフトがこの近くに居る事を表す。この状況でザフトまで加わろうものなら戦況がどう転ぶか分かったものではない。肩を並べて闘っていたディアッカが、ムウを咎めた。

「あ? おい、おっさん!」
「おっさんじゃないっ! おれはまだ二十五だ! 近くにザフトがいる」
「え!?」
 
 ムウの思いもかけない言葉にディアッカは反応し、思わずストライクの後を追おうとしたが、そこに連合側のストライクダガーが割り込み、ビームライフルを撃ち込んでくる。
 バスターの傍を過ぎ去ってゆく光に舌打ちを零しながらディアッカは、94mm高エネルギー収束火線ライフルの一撃で撃墜する。
 ムウはそのまま勢いよく港口突っ込み、エターナルのバルトフェルドの問いただす声も無視してメンデルの中へと向かって行く。仕方なくディアッカが代わりに応える事にした。

「なんだか知らないが、あのおっさんがザフトがいるって言うんだ。マジだったらヤバイ! ってええい、くそ、数が多いな!」

 シルバラードが抱えていた多数のストライクダガーとアガメムノン級のストライクダガーは、まだ全滅したわけでは無かった。キラやアスランの様に敵機を次々と落とせるエースなどそうそういるものではないのだから。
 メンデルの港口に続いてシャフトを抜けると、ムウの視界には人工の大地が広がった。すでに住む者がいなくなったコロニーの大地は、徹底的な殺菌の影響で赤茶けた、死んだ大地が広がり、かつて盛んだった遺伝子研究の施設が半ば埋もれている。
 カガリの奔走の成果としてジャンク屋や裏ルートで手に入れた生産施設や居住設備もちらほら見掛けられたが、重要なものは既にノバラノソノへと移してあるから、眼下に見える施設に用はない。
 ムウの求めるものは別にある。ストライクのセンサーよりも先に宿敵の存在を告げる名状しがたい感覚がムウを襲ったのだ。見た事の無い機体が、此方に気付き猛スピードで迫っている。
 ヒルダらが乗っていたゲイツとも異なり、強いて言えばGタイプと見えなくもない白い機体だ。

「貴様か、ラウ・ル・クルーゼ!!」
「ふん、先程の感覚はやはりお前か、ムウ・ラ・フラガ!!」

 ムウの叫びが聞こえたわけでもないだろうに、クルーゼはオープンチャンネルでタイミングを合わせたかのように答えてくる。コロニーの中でアグニを使えば崩壊につながりかねない。
 コロニーの外壁をも貫くアグニの破壊力は、高すぎる。ヘリオポリスの崩壊の様子が、ムウの脳裏にフラッシュバックした。

「ちい、この装備じゃやりづらいか!?」
「ストライクか。お前もMSに乗れるようになったのだな。だが、この私のメディウス・ロクスに敵うかな!?」

 クルーゼの駆る純白に塗られたメディウス・ロクスは、右手に携えたシールド兼推進機関兼射撃兵装であるディバイデッド・ライフルの照準をストライクに向ける。直後射出された光の弾丸を、ストライクは回避し、肩の350mmガンランチャーで反撃する。
 クルーゼはビームサーベルを抜き放ち、ストライクに肉薄する。相手の弱点を責める常套手段だ。ランチャーストライカーには接近戦に対応する装備がない。ストライクを二度三度と動かし、その度に一瞬前までストライクが存在した空間を、メディウス・ロクスのビームサーベルが過ぎ去ってゆく。

「っ! なんだ、この感覚は。あいつの動きが分かる!?」
「貴様も感じているのか、この感覚! 思考がダイレクトに分かる? いや、より抽象的な感覚か」

 通信を繋げているわけではない。接触回線を開いているわけでもない。だが、いつもよりはるかに鋭敏化した、というよりも何か新たな感覚へと変貌しつつある事を、ムウとクルーゼは理解していた。
 互いの存在をただ感じ取るだけだったのに、今は互いの殺気、悪意、感情さえも理解できるが気がする。言葉を発さずとも相手の思考を読み取れる、聞きとれるのではないかと思うほどに。
 ムウの思考にクルーゼの悪意が閃く。接近してビームサーベルでストライクを両断、ディバイデッド・ライフルで加速し、おれの不意を突く気か!

「させるかよ!」
「ええい、ムウめ」

 機体を回り込ませ、ムウはストライクの両腕でメディウス・ロクスの両腕を抑え込みそのままイーゲシュテルンを、メディウス・ロクスの頭部と胸部へと撃ち込む。75mmAP弾は、たちまちメディウス・ロクスの装甲表面で火花を散らし、穿ってゆく。

「そんなものでこのメディウスの装甲を破れるものか」

 クルーゼは機体を捻り、その勢いを利用してムウのストライクを蹴り飛ばす。ムウは落下する前にスラスターで機体のバランスを立て直し、メディウス・ロクスと対峙する。
 あの機体、ゲイツよりも性能が上だ。ストライクでは厳しい相手と認めるしかない。
 
「クルーゼ!」
「ふっ、貴様に討たれるならそれもまた――とも思ったがな、ここで!」
 
 挑発のつもりなのか、通信回線を開き唐突に語りかけてくるクルーゼに、ムウは反発を覚えながら、その言葉と奥に潜むモノを感じていた。
 先程から研ぎ澄まされ目覚めつつある感覚が、それを可能にしている。
 クルーゼは何を言っている? 奴の言葉、それを吐き出す源は何だ? どこかで聞いた事のある様なこの声は、何を思って言葉を紡いでいるのだ。
 ムウの脳裏に、イメージがわき起こる。周りをすべて見通せない分厚い雲に閉ざされ、明かりもなく闇に放り出されたような、そんなイメージ。
 これはどす黒い、果ての見えない憎悪と怒り? 希望を抱けぬ事への絶望。憤り、嘆き、恨み、嫉妬……。そして、悲しみと……。

「お前は、なんでこんなモノを抱え込んでいる!?」
「! 貴様、私の心に触れたか!? 小生意気な、親にも勝てぬ子の分際でぇ!」

 親、子供? ますます意味の分からないクルーゼの言葉に、ムウは一瞬気を取られる。クルーゼはその隙を見逃さず、ディバイデッド・ライフルの銃口から溢れた火は、アグニを貫き蒸発させる。

「ちい、こなくそぉ!」

 120mm対艦バルカン砲と350mmガンランチャーで弾幕を張るが、クルーゼはそれに当たってくれるほどに優しい相手ではなく、メディウス・ロクスの高い機動性を遺憾なく発揮し、またたくまにストライクの眼前にもぐりこみ、至近距離からディバイデッド・ライフルを発射した。
 咄嗟に機体を捻り、正面からの直撃は避けたが、発射された弾丸はストライクの左脇を抉り、機体の内部構造を露出させる。ムウのいるコックピットにも衝撃は伝わり、内部で小さな爆発が幾度か起き、割れた破片がムウの腹部に突き刺さった。

「くっそ……」

 機体を立て直す暇もなく、ストライクは地表に激突し、クルーゼは余裕からか、ゆっくりとメディウス・ロクスを着陸させる。その口元には嘲笑がはっきりと浮かんでいた。
 ディバイデッド・ライフルの銃口をストライクに向けたまま、クルーゼはストライクを、その中に居るフラガの血族を見下ろしていた。

「運命は私の味方のようだな。ムウ?」
「は、こうなったのも運命とでも言うつもりか? だったら、お前が生まれてきたのも死ぬのも全部運命の所為にするんだな。運命に味方されなきゃ何もできない奴の台詞だぜ。そいつは!」
「ぬっ!?」

 脇腹に走る痛みをかみ殺し、ムウは一気にバーニアを吹かしてメディウス・ロクスに飛びかかった。

「馬鹿が、それで不意を突いたつもりか!」
「思わないさっ!」

 ストライカーをパージすると同時に、機体のモニターを埋めた白い光に、とっさにクルーゼは目を閉じてストライクの姿を見失ってしまう。

「なんだ、この光は!?」
「連合のフォルテストラと同じ機能だ。おれ達も少しは機体の改良くらいしている!」

 ロングダガーやデュエルダガーに装備されているフォルテストラの機能を、ストライカーパックに応用し、パージする際に任意で発光するように細工しておいたのだ。
 そのままストライクの両腰からアーマーシュナイダーを抜き取り、右手に握ったナイフをメディウス・ロクスの左腕のジョイントへねじこみ、刃を捻って完全に破壊する。

「おのれ、小癪な真似を」
「貴様はここで倒す!」
「本当に出来ると言うのなら、そうしてもらいたい位なのだがな。君には無理だろうさ!」

 残る左のアーマーシュナイダーをメディウスのコックピットへ。その一念でもって突きだしたアーマーシュナイダーを、メディウス・ロクスのディバイデッド・ライフルが弾いた。
 
「親の意に従わず、期待を裏切る子など要らぬ。貴様の父アルダはそう思ったのだろうな、だから私がここに居るのだ!」
「親父!? 貴様、さっきから何を、ぐっ」

 メディウス・ロクスの左膝がストライクを蹴り倒し、コックピットの中で赤い血を零す傷口の痛みに、ムウは苦悶の声を洩らす。

「冗長で愉快だった貴様との戦いもここまでだな。私の言葉の意味が知りたくば、あの世で貴様の父に聞くが良い。そしてこう言え。父さんに殺されましたとな!?」
「なん、だと!?」

 ムウが驚愕の声を挙げた時、クルーゼが何かに気付いたように背後を振り返り、ムウもほぼ同時のそれに気付く。これは、自分の味方だと、先ほどから研ぎ澄まされてゆく感覚が告げる。

「ムウさん!」

 横たわるストライクの姿に、最悪の想像をしたキラの必死な叫びが聞こえた。

「フリーダムか!?」

 クルーゼは咄嗟にディバイデッド・ライフルの照準をキラに向けるが、その時すでにフリーダムが持てる火器の発射態勢にあった。
 すぐ足元で転がるストライクにはダメージを与えぬよう即座に照準に修正を加え、フリーダムから三筋の光の矢が放たれる。
 一筋はディバイデッド・ライフルを貫き、もう一筋はメディウス・ロクスの頭部を、最後の一筋はその右足を貫いた。
 ムウから見てもうすら寒くなるほどの精密射撃だ。一瞬で大破したメディウス・ロクスを見ると、コックピットハッチが開き、白い軍服を着た金髪の男の姿が見えた。
 ラウ・ル・クルーゼ! しぶとい奴だ。
 ムウもまた拳銃を手にとり、コックピットハッチを開く。赤茶けた大地をないで行く冷たい風はすっかり乾ききっていた。脇腹の痛みは今も絶えずにムウに危険の信号を訴えかけてくるが、そうも言っていられない。
 あの男は危険だ。ここで、決着をつけなければという思いが強い。だが、コックピットハッチに火花が起き、ムウはすぐさま身を隠した。クルーゼの撃った弾丸だろう。半身を出して様子を伺うと、彼方の施設に向かい走り去るクルーゼの背中が見えた。

「今日こそつけるかね、決着を!?」
「くっ、……あの野郎、何を……」

 クルーゼの挑発に対して銃弾で返礼するが、クルーゼも同じく銃弾で返礼してきた。

「――ならば来たまえ! 引導を渡してやるよ、この私が!!」

 クルーゼの向かう先には巨大な円筒形の建物があった。あそこに何があるのか奴は知っているのだろうか? 
 ムウは止血シートをパイロットスーツ越しに貼り付けて、後を追った。
 一片20センチほどで、ジェル状の部分に止血・痛み止め・解熱・麻酔などの効果があり、とりあえず痛みを誤魔化してくれる。

 ムウと見慣れぬ機体のパイロットが走ってゆく姿を確認して、キラもフリーダムを着地させて後を追うべく機体を降りる。ムウの走り方がぎこちない。どこかに傷を負っているのだとしたら、放っておけない。
 キラは、カーウァイとウォーダンとの訓練以外では撃った事の無い拳銃を握りしめ、走り出した。かつての銃王国チェコの生み出した名銃Cz75をリファインしたもので、デザインなどはそのままだが、使用している各種のパーツは現行の仕様に合わせてある。
 もっとも、キラには銃の名前など分からない。オートマチックである事は知っている位だ。それとセーフティを外す事と、チェンバーを引き、一発送り込んでから改めてマガジンを抜き取り、一発弾丸を込める。これで装弾数プラス一発撃てる。
 撃つような事にならないといいけど、矛盾した思いを抱き、キラは赤茶けた大地を奔った。