SRW-SEED_ビアンSEED氏_第57話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 22:17:43

ビアンSEED 第五十七話 死交要塞

 
 

「ω(オメガ)特務艦隊、ですか?」

 

 と、何の事だという疑問が隠し切れぬ声を出したのは、地球連合軍所属のカイ・キタムラ少佐だ。
 元は東アジア共和国極東支部伊豆基地所属の人間だったが、地球連合発足後に、ザフトの繰り出してくる新たな兵器――MSに対抗する為の、地球連合製のMSを操るパイロット育成の為の特殊戦技教導団に引き抜かれたエリート中のエリートでもある。
 開戦当初、地球連合はそれまでの主流だった兵器モビルアーマーと物量でもってザフトを圧倒しうると予想していたが、ニュートロン・ジャマーの副産物である電波障害を始めとした無数の弊害によって、誘導兵器の類など一切使用不可能となり、有視界戦闘が主流の時代へと逆行してしまった。
 そして、その過去の戦場でモノを言ったのがモビルスーツだった。メビウス・ゼロと呼ばれる、メビウスの原型機であればモビルスーツ相手でも互角に戦い得たが、これは特殊な素養を持つ者にしか操縦できなかった為、戦場の主力とはなれなかった。
 メビウス・ゼロを元に開発されたメビウスは、MAミストラルよりはよく戦ったが、ナチュラルとコーディネイターの身体能力の差もあり、結局は戦局を打開する事は出来なかった。
 認め難い敗北を幾度も重ねようやく連合軍上層部は、ザフトの持つ剣と同じモノを手にする事に決める。すなわちモビルスーツだ。パナマやジョシュアなど地球上の各重要拠点で開発された量産機とヘリオポリスで製造された、予算度外視のスペシャル機五種。
 このまったく新しい兵器であるMSを即座に運用可能な状態にできるよう、連合軍参加国から選りすぐったのが、『特殊戦技教導団』だ。彼らはナチュラルながらコーディネイターに匹敵ないしは勝る身体能力、あるいは身体能力の不利を補う『何か』を備えた歴戦の戦士達だった。
 ほんの数ヶ月と言う機関にも関わらず、彼らは様々なモーション・パターンやMSの戦術運用に関する基礎データを蓄積し、地球連合に多大な貢献をした。
 カイ・キタムラはその教導団の中でも十指に満たぬ者しか籍を置く事の出来なかった、特殊戦技教導『隊』にも在籍し、MSの操縦技術は歴戦のコーディネイターにも勝ると言われる。実質、地球連合屈指のウルトラエースの一人だ。
 三十代半ばながら、四十代に見られる事が多々ある、威厳と引き換えに老けた印象を与えてしまうカイの前には、その半分程度の時間しか生きていない赤毛の美少女と、紫紺の髪をショートカットにしたやや険のある美女に、長い青髪がわずかに波打つ青年とがいた。
 赤というよりは明るいオレンジ色の巻き毛の美少女は、ユーラシア連邦所属の、同国最年少でナイトメーヘン士官学校を首席で卒業し、最新鋭の戦艦の艦長に就任した才媛レフィーナ・エンフィールド中佐。
 まだあどけなささえ残すレフィーナに比べ、やや固い印象を与える傍らの美女は、ヘリオポリス崩壊に居合わせアラスカまでアークエンジェルの副長兼CIC指揮を務めた、大西洋連邦所属アークエンジェル級二番艦ドミニオン艦長ナタル・バジルール少佐。
 地球連合の士官服では無く、WRXチーム専用の制服を身にまとい、どこか感情の動きと言うものを感じさせない青年は、特殊MS実験運用部隊WRXチーム隊長イングラム・プリスケン少佐。
 その他にもパイロット達や部隊の主要な人物が一堂に介した、月のプトレマイオス・クレーター基地の一室である。
 現在、アークエンジェル級三番艦ゲヴェル、同二番艦ドミニオン、シルバラード級輸送艦一番艦シルバラードで構成される部隊の面々が、レフィーナ名義の指名を受けてブリーフィングルームに顔を揃えていた。
 その場にいたほとんどのメンバーの心の声を代弁したカイに、レフィーナが困ったような微苦笑で答えた。『ほとんど』に含まれないのは、だらしなく椅子に腰かけ興味のないようすのシャニやクロトである。大人しくしているだけでも以前の彼らとはだいぶ違う。

 

「ええ。アズラエル理事が、命名されたとか。特殊な独立部隊として私達を再編成するとの事です。それで私達の部隊名をお考えになったとかで」

 

 まるで自分達がアズラエルの思い通りに動くおもちゃの様で、カイの顔に苦々しさが浮かぶ。レフィーナの隣のナタルも同じらしく、気まじめ過ぎるほどのナタルの性格なら当然と言えようし、また軍の関係者ではあっても実際に所属しているわけではないアズラエルの所業が、許容の範囲を超えている。
 かといってアズラエルの命令となれば逆らえるわけも無く――なにしろ連合軍上層部の主流はいまやブルーコスモスの思想に染まっている――胸中の苦々しさを堪える他ない。
 全く、アズラエルは本当にこれが戦争だと理解しているのか? まるでウォーシュミレーションゲーム感覚ではないか。
 確かに、アズラエルの心情にどこかゲームを楽しむような風情があるのは否定できない。だが、カイの考えは半分正しく半分間違っていた。
 間違っていた半分とは、アズラエルがこの戦争を、コーディネイターの根絶戦争、ナチュラルとコーディネイターという『異なる二種族』の、存亡を賭けた殲滅戦として認識していた事である。
 開戦以前、いや少なくともメンデルでラクス・旧オーブ艦隊およびザフト・DC同盟軍との戦闘までは、アズラエルはプラントとそこに住むコーディネイターを皆殺しにはせず、プラントが生み出す富を独占し、この戦争で被った被害を取り戻す予定だった。
 人口の劇的な衰退。停滞した産業。壊滅した通信網や経済の流通。悪化する一方の治安。それに対処する為に浪費された予算、時間、人材などなど。
 その欠損を埋める為に、プラントのコーディネイター共には戦前が天国だと思えるほどに働いて貰わなければならない。殺すのは、骨と皮だけになるまで飢えた地球の人々や、凍える冬に抱き合ったまま死の眠りに着く人々がいなくなってからだ。
 それまでは、徹底的にプラントの連中から富を貪り尽くし、自分達が行った最悪の行いを理解させてやる。
 天然自然に生まれ落ちた人間よりも優れていると豪語しながら、自分達の怒りが何を齎すか思い至らず、地球に死を蔓延させた愚かなコーディネイター共。後にさらなる地獄を見せる為に、今は殺さない。
 アズラエルは少なくともそう考えていたはずだった。だが、最近はコーディネイターの抹殺のみを考えているとしか思えない。それは、遅ればせながらニュートロンジャマーがもたらした悲劇に心を怒りと憎悪に任せたからだろうか。
 実に十人に一人が死亡し、今もその数字を更新しつつあるNJの齎した災害。人類史上に残る事は間違いない、史上最悪の人災。そう、人のもたらした災厄なのだ。
 この十億という恐るべき死人の数を生み出したのは、多かれ少なかれナチュラルよりも肉体・精神的に優れていると自認しているはずのコーディネイター達。
 NJの投下を認めたのは穏健派として知られるシーゲル・クラインだ。ユニウス・セブンが核攻撃によって破壊され、プラントの総人口の一パーセントもの死者が出た事によってプラント全体が報復に傾いていたのは確かだ。
 だがその報復が生み出したものは核の使用を防ぐためと言う大義をどす黒く汚す、地上に溢れた死の怨嗟であった。コーディネイター達の叡智は自分達の取った道が何を齎すかまでは思い至らず、それが修復不可能な溝を地球と宇宙に住む人々との間に生み出す事に、終に気付く事は無かった。
 シーゲルが民意に抗えずNJの投下に踏み切ったのもある意味では仕方が無かったのかもしれない。コーディネイターと言えども感情に流される人間に過ぎないという証明だろう。
 だが、死んだ人々にそんな言葉が何の慰めになろう。友を、家族を、恋人を奪われた人々に何の気休めになろう。
 ユニウス・セブンの罪なき死者達と遺族達にも同じ事は言える。アレは地球の諸国家の行いでは無く、ブルーコスモスの過激派の極一部が行った事です。恨むならその過激派だけにしてくださいなどと言える者はいまい。
 だから、プラントに住むコーディネイター達は、NJによって被害を被った地球に住む全てのナチュラルと、同胞と認識しているコーディネイター達に憎悪され、また許されぬのだ。
 一見、良識ある軍人として、いや、実際まさしくそうであるからこそアズラエルを嫌うカイもまた、NJによって知人を失い、プラントのコーディネイター達に対しては凄まじい怒りをその心の中に内包しているのは確かなのだから。
 イングラムやギリアムなどはそういった憎悪を感じてはいないのか、アズラエルが一方的に与えてきた部隊名に、呆れ切っているのか諦めているのか、両者ともに口を一文字に引き締めて、映画の中の人物の様にその端正な美貌に沈黙の仮面を被っていた。
 ゲヴェルの副長を務めるテツヤ・オノデラ大尉が、ごほん、とわざとらしい咳をして話の方向を元に戻すべく説明を再開した。

 

「司令部のウィリアム・サザーランド大佐の指示でさらにアガメムノン級、ネルソン級、ドレイク級、シルバラード級各艦と人員が到着する予定だ。なお、ω特務艦隊内でもいくつか部隊わけを行い、それぞれ個別にコードネームが付与される。
 エンフィールド中佐のゲヴェルを中核とする部隊は"ダンディライオンズ。"
 バジルール少佐のドミニオンを中心とする部隊は"ωナンバーズ"。
 また、後ほど加わるイアン・リー少佐のエスフェルの部隊は"コンキスタドール"。同じく配属が決まった第十三独立部隊は"ロンド・ベル"だ」

 

「あれ? オノデラ大尉、第十三独立部隊ってパナマで壊滅したんじゃあ?」

 

 クォーターコーディネイターという出自と天賦の才とが相まって、十七歳という幼さながら、既に一線級のパイロットとして認知されているムジカが、それでも小首を傾げ、無意識に年相応の愛らしさを振りまきながら、挙手をして聞いた。
 ザフトがアラスカ攻略に失敗し、投入した戦力の八割を失った後、その失敗を拭う為に行ったパナマ攻略戦。ザフトを待ち構えていた地球連合の大軍というも愚かな多勢と、対ザフトを期して用意されていたストライクダガーの部隊。そのストライクダガーの部隊の一つが第十三独立部隊だ。
 MSでの実戦には不慣れな彼らだったが、数を活かした連係プレーに徹して、スタンドプレーに走りがちなザフトのMSを順調に撃破していた。だが、ザフトがパナマ攻略の為に用意した切り札――対電子機器用特殊兵器『グングニール』が発生させた極めて強力なEMPによって機体の機能が停止し、あえなく壊滅しているはずだ。

 

「部隊の生き残りがいてな。その彼らが再編成された上で我々の部隊に加わる事になった。話を戻すぞ。我々ω特務艦隊は、以後サザーランド大佐の指示のもとある程度の独立行動が認められ、遊撃戦力として任務に着く。
 また特務艦隊の結成に際し、MS隊のコードネームも一部変更となる。変則的ではあるが、ゲヴェルMS部隊は、カイ・キタムラ少佐を小隊長に、オルガ・サブナック少尉、クロト・ブエル少尉、シャニ・アンドラス少尉の五名とし、これをスクイッド小隊とする。それぞれスクイッド1、スクイッド2、スクイッド3、スクイッド4としてコールサインが登録されるので注意を」

 

「スクイッド(烏賊)? なんで?」
「アズラエルのおっさんの趣味だろう」

 

 疑問符を付けてはいるが、どうでもよさそうなシャニの質問に答え、オルガは変な趣味してやがるぜ、とだけ呟いて正面に向き直った。またあのゲンコツと説教を喰らう日々が続くのかと、暗澹たる思いが、手を伸ばしてオルガの心を握りしめていた。
 まあ、怒られるような真似をしなければそもそも気にする必要も無いのだが、自分を含めてシャニとクロトがそんな器用な真似が出来る筈がないと、とっくに悟りきっている。
 ある意味カイの教育も成功していないわけではない。きっぱり成功、と言いきれぬ所に問題が残っているのだが。
 一方のシャニは、頭の中でデフォルメされたイカのイラストが描かれたフォビドゥンをイメージしていた。そして一言

 

「ダセえ」

 

 と呟いてから、隣のクロトと顔を見合わせた。シャニが呟くのを待っていたようにクロトも同じ台詞を言ったからだった。どうやらこの時だけは二人の心がシンクロしていたらしい。イカのイラストはわりと可愛い気はあるかも知れないが。

 

「なんだよ」
「なんでもねえよ」

 

 ぶす、と不機嫌そうに睨みあう強化人間二人の会話に遮られる事無くテツヤの説明は続いた。

 

「続いてドミニオンMS部隊は、スウェン・カル・バヤン中尉、ミューディー・ホルクロフト少尉、シャムス・コーザ少尉、ダナ・スニップ少尉、エミリオ・ブロデリック少尉の五名。クラーケン小隊とし、小隊長はバヤン中尉となる。小隊長任命に合わせて中尉に昇進だ。おめでとう」

 

 事務的な口調であったが、苦楽を共にした仲間の昇進に対する祝いの言葉には心がこもっていた。真摯な姿勢で軍務に取り組む模範的なテツヤだが、お人好しな部分がちょこちょこ顔を出す事がある。それを甘さととらえるのはいささか辛い評価だろう。そのお人好しな部分が人徳に繋がる良い傾向を持っているわけだし。
 一方で指揮を任されたスウェンは、常に無表情な彼には珍しく、端正な顔立ちの眉をわずかに顰めて、疑問の声を上げた。無論反論するつもりはないが、自分が指揮を取るのに適任とは思えなかった。

 

「自分が、ですか?」
「そうだ。お前達五人の中ではお前が一番向いている。お前達は全員が全員スタンドプレー好みだが、お前は全体を見る広い視野を持っているし冷静な判断が出来る。おれのお墨付きだ。胸を張って堂々としろよ」

 

 今までゲヴェルとドミニオンの問題児達を纏めていたカイが、教え子の成長を喜ぶ教師にも似た口調でスウェンに笑いかけた。実力・人格ともども認めている相手にこうまで言われては、スウェンもそれ以上口を挟む事はしなかった。

 

「いいんじゃない? 私もキタムラ少佐の代わりがスウェンならやりやすいし」

 

「まあ、おれも反論はないな。お前の判断ならそう間違う事も無いだろ」

 

 どことなくスウェンの昇進を喜んでいるようなミューディーと、斜に構えてはいるがスウェンの実力と性格を知っているシャムスだ。これでスウェンの隊長就任は、まず二人は賛成だ。

 

「右に同じ。おれも指揮なんて取るつもりはねえし、向いてねえな」
「別に構わん。やる事は一緒だ」

 

 面倒くさいしな、と後で付けたしたのは相変わらず無精髭を生やしっぱなしのダナと、『やる事』というワードに物騒なニュアンスをたっぷりと込めたエミリオだ。ダナはともかくエミリオは多少手綱をさばくのに苦労しそうな予感を、この時スウェンは覚えた。
 だが、これでスウェンの率いる小隊員全員の承認は得られたわけで、スウェンに選び得る選択肢は、一つしか残されていなかった。

 

「了解しました」

 

 溜息に似た細く小さな息を吐き、首を縦に振る事である。

 

「では、続けるぞ。エリヤ少尉のシルバラードには、イングラム・プリスケン少佐、ムジカ・ファーエデン少尉、ジョージー・ジョージ少尉、グレン・ドーキンス少尉らWRXチームをそのまま配属という形になる。
 なお、ギリアム・イェーガー少佐とアヤ・コバヤシ大尉、リュウセイ・ダテ少尉、ヒューゴ・メディオ少尉もシルバラードに配属となる。詳しくはリー少佐と第十三独立部隊が到着してからもう一度説明するが、各自念頭に入れておくように」

 

 生真面目な学校の委員長めいた口調で、テツヤがそう締め括った。
 改めてω特務艦隊の戦力を整理すると、
 アークエンジェル級三番艦ゲヴェル、同級二番艦ドミニオン。シルバラード級一番艦シルバラード一隻の計三隻。
 MSは、カイのデュエルカスタム、オルガのカラミティ、クロトのレイダー、シャニのフォビドゥンのスクイッド小隊四機。
 スウェンのストライクノワール、ミューディーのブルデュエル、シャムスのヴェルデバスター、ダナのネロブリッツ、エミリオのロッソイージスで構成されるクラーケン小隊五機。
 なお、スウェンらは前回レフィーナ達がヴィレッタ率いるザフトのWRXチームと、アルベロの連れていた一部のクライ・ウルブズ隊との戦闘の際に、月基地でアクタイオン・インダストリーを始めとした複数の軍事企業が合同で開発した新型機の受領に立ち合っていた。
 通称アクタイオン・プロジェクトは、エースパイロット専用機開発計画を指す。これは現行機の改修による高性能機の開発を目的とする。対象には多数の運用データがあり、予算度外視のスペシャル機として、各地でその性能を遺憾無く発揮していた初期GAT-Xシリーズ五機が選ばれた。
 つまり、ストライク、イージス、デュエル、バスター、ブリッツの五機である。本来あるべき史実の世界においては、CE73年の最新鋭機に勝るとも劣らぬ高性能機を生み出したこの計画は、多数の異分子達と史実よりも長期化した戦局がその存在を早め、実を結んでいた。
 なお、各地の戦場で猛威を振るったGAT-X初期ナンバーであるが、今ではより安価で性能面に置いても引けを取らぬダガーシリーズの配備が進み、後方に下げられつつある。
 ブリッツはミラージュコロイド搭載機と言う特殊性が功を奏し少数ながら生産されていたが、イージスなどは複雑奇怪な変形機構が災いとなり整備性劣悪、稼働性不良、大気圏内では変形しても空は飛べないわ、コストは高いわ、と文句が並べられ、指揮官機としての通信機能のデータだけが運用されて、実機はまるっきり使われていない。
 最も生産数の多かったバスター、デュエルもバスターダガーやデュエルダガーの生産によって日影者になっている。デュエルやバスターらGからその座を奪えたのは、PS装甲こそ装備していないダガーシリーズだが、生産生や稼働性ははるかに上だし、機体の基本性能もほぼ互角と言ってよかったからだ。
 機体特性上エース用として少数の生産がおこなわれていたストライクも、そのストライクのデータを参考により洗練された換装システムを備えた後期生産型の105ダガー、ダガーLの登場によって姿を見なくなっていた。
 さて、戦力の整理を続けよう。
 イングラムのR-GUNパワード、ムジカのR-1、ジョージーのR-2パワード、グレンのR-3パワードで構成されるWRXチーム四機。
 それにギリアムとアヤの105ダガー二機、ヒューゴのガルムレイド、リュウセイのヴァイクルが一機ずつとなる。
 後に加わると言うエスフェルや第十三独立部隊を別にしても、MS総数十五機、特機二機を配備した、数こそ少ないがその質に置いて極めて強力な部隊と言える。
 配備された機体の性能、それを使いこなすパイロットの技量、指揮を取る人材の能力と、戦争初期の大敗で高級士官や経験豊富な人材をことごとく失った連合からすれば、目玉が飛び出る様な部隊となっていた。
 それだけの事を、おそらく一存で行ったアズラエルの影響力は凄まじいが、その分求められる結果はとてつもなく大きなものとなるだろう。それになにより、これではアズラエルの私兵も同然であった。

 

「ダンディライオンズに、ω特務艦隊、ωナンバーズ、ロンド・ベルか。どれも悪かねえが、もうちょっとこう燃えるものが欲しい名前だな」

 

 とその場の空気を読まない発言はリュウセイ・ダテであった。またあの子は、と半ば保護者みたいな立場にあるアヤが頭を抱える。
 リュウセイの前に座っていたグレンが、耳聡く聞きつけ後ろを振り返っていった。

 

「お前だったらどんな名前を付けるんだよ?」
「そうだな、おれなら……『天上天下無敵隊』とか『超機大戦隊』とか」
「……お前にネーミングセンスがない事は分った」
「リュウセイくんらしいけどね」
「じゃあ、グレンやムジカだったらどうすんだよ」
「そうだなあ、おれなら『グレン・ドーキンスと愉快な仲間達』とかな」
「ぼくは……う~ん、『リアルロボット戦線隊』とか『逆襲の連合軍』とか?」
「お約束と、どっかのアニメ映画のタイトルみたいなのだな。てか、戦線隊ってなんだ。戦線隊って。お前らだって人の事言えないだろ!」

 

 まるでハイスクールのやり取りだ。ナタルやカイなどはこめかみに青筋を浮かべかけたが、これはもうどうやっても矯正の仕様がないと肩を落とした。
 二人の肩に似たような気苦労が、薄い黒雲のように漂っているように見えて、レフィーナは困った顔でテツヤと顔を見合せる。だがこれは打つ手なし、と首を振るテツヤを見て、自分も諦める事にした。
 実際の戦場では自分の指示に従ってくれるがそれ以外の場所では、彼らを抑えきれない事が、少しレフィーナの自信に爪を立て浅い傷を着けた。

 

「ふっ、こちらでも変わらないらしいな」

 

 三人のやり取りを前に、淡い光に落とされた影の様な微笑を、イングラムは浮かべていた。隣のギリアムが、物珍しそうにイングラムの笑みを見つめていたが、やがて彼自身も同じ笑みを浮かべていた。
 ギリアムが償いきれぬ罪を犯した世界を含め、訪れた三番目の世界で出会ったリュウセイとその仲間達と過ごした時間を思い起こしていたからだ。ふと、神がもよおす気まぐれにも似てイングラムがギリアムに聞いた。

 

「ギリアム少佐ならなんと命名する?」
「そう、だな。『ネオアクシズ』……いや、『ゼウス』だろうな。君は?」
「おれか? おれは……」

 

 イングラムの答えは、ギリアムしか聞いてはいなかった。リュウセイを発端にした部隊命論議が、他所に飛び火したからである。

 

「……『D.N.Angel』?」

 

 流石にこういう場ではヘッドフォンを外しているシャニが、空中のどこかを見つめてからポツリと言った。すかさずリュウセイの突っ込みがコンマ一秒の速さではいる。

 

「DNってなんだよ!」
「もっとよく考え直せよ、シャニ! ぼくなら『アークザラッド』だね。オルガァ、お前はなンかあんのかよ」
「ああ? メンドくせえな、じゃあ『ゾルダ』あたりでどうだ」
「なんか何世紀か前のゲームとか特撮にありそうな名前だね」

 

 シャニを鼻で笑ったクロトとオルガの意見に、今度は聞き覚えがあるようなないような、と言った風に首をかしげるムジカがそう答えた。ムジカもすでに意見を出す気はないらしく、騒ぐ連中を面白そうに眺めている。こういうゴタゴタが好きな性分らしい。

 

「スウェンくんとか、ダナさんは何かないの?」
「……特には」
「あ~、パス。部隊名でなんか変わるってわけでもないだろ? 別にω特務艦隊で構わんぜ」
「そりゃそうだけどさ。エミリオくんは……無いよね?」
「………………マーチウィンド」
「え? 何か言った?」
「いや」

 

 四分の一とはいえコーディネイターの血が混ざるムジカに対し、エミリオの視線は冷ややかであったが、最後の最後でポツリと呟いたのには一応部隊命の命名騒ぎに参加する意識位は働いたからだろう。

 

「じゃあじゃあシャムスさんやミューディーは?」
「あたし? 『アルブレラ』とか――『紅の翼』って意味よ。後はそうねえ、『ムーンエンジェル隊』ってのは? ほら、アークエンジェル級って天使の階級の事でしょ? 結成したのも月だし、悪くないんじゃない」
「はは、おれらが天使ってタマかよ。ミューディーも意外とロマンチストだな。なあ、スウェン」
「そう、だな。悪くはないと思うが」
「でしょ。スウェンもそう思うわよね。でもアズラエル理事直々の御指名じゃあ、何言っても無駄なんじゃないの」
「そう言えばそうだね。ぼくもムーンエンジェルって結構気に入ったんだけど」
「なんとなく一文字違いの後継部隊が結成されそうだな」

 

 あまり関心の無さそうなシャムスが、ムジカがさっきしたみたいに首を捻ってそう言った。それから、こっそりスウェンと顔を見合せ、

 

「スウェン、本当はなにか案があるんじゃないか。言ってみろよ、内緒にしといてやるからよ」

 

 と好きな女の子を告白し合うませた子供みたいに小さな声で言った。スウェンが答えたのは、シャムスからしても驚きだった。年がら年中無関心の仮面を被った同僚の反応は、シャムスの予想を珍しく裏切った。

 

「……………………『SOS団』」

 

 鉛を腹の中に入れているみたいに、やたらと重い口調でスウェンが言った。言った本人も、なぜこんな名前が出てきたのか分からないと首を捻っている。シャムスはもっと分けが分からない。

 

「お前、そりゃないだろ?」
「自分でも良く分からない。シャムスは?」
「一個だけ思いついたのはある。『ソレスタル・ビーイング』」
「『天上人』か。皮肉的だな。宇宙に住んでいるコーディネイターの敵であるおれ達がそれを名乗ったとしたら」
「だろ? ま、そんな柄じゃねえし、所謂汚れ役の方がおれらには似合いだしな」

 

 がやがやと話し続ける面々に、あわあわとレフィーナがしだすが、この様子では到底目の前の事態の収拾は付けられそうに無かった。そして、こう言う時にこそ頼りになる二人が動いた。
 盛り上がるリュウセイ達にカイとナタルの怒りの雷が落ちるのは、それから五分後の事だった。

 
 

 同プトレマイオス・クレーター基地の貴賓室に、アズラエルとアードラー、アギラの『ア』の字で始まる三人が顔を突き合わせていた。
 連合にもっとも強く深く根を張る憎悪の煽り手、ブルーコスモスの盟主は、異界からの死人達の技術と知識によってもたらされた勝利の剣――GFAS-X01「アズライガー」のロールアウト以来ご機嫌な様子であった。
 『GFAS=戦略装脚兵装要塞』は、本来CE73年に完成する、規格外MSデストロイに冠せられる筈の形式番号であった。史実とは違う道を歩んだこの世界で、その形式番号を得た全高百メートル余に及ぶ超弩級の破壊神は、その猛威を振う時の為に、今はまだ月の城の中で眠りについている。

 

「ダンディライオンズのう。いくらなんでもたんぽぽはないのではないか?」

 

 とはアードラーだ。道端にひっそりと咲く可憐な小花や艶やかに咲き誇った大輪の花とは、これっぽっちも縁がなさそうな老人だが、流石にたんぽぽ位は知っていた。
 ブランデーを垂らした紅茶を堪能していたアズラエルは、おや? という顔になりすぐに得心した顔に変わった。

 

「コッホ博士、それは違いますよ。確かにたんぽぽと言われるのも分りますが、ぼくが着けたダンディライオンの意味は、『勇猛なる獅子』という意味です。クライ・ウルブズでしたっけ? DCの特殊任務部隊の名前は。彼らにはその狼達を逆に食らい尽くす様な獅子になってもらいたくてダンディライオンの名前を送ったんですよ」
「そういう意味か。まあ、どうでもよいがな」

 

 三人それぞれが大理石のテーブルを囲み、薫り高い紅茶を味わっていた。自分が手に持っていたマイセンのカップを置いて、妖艶なる美女へと若返り蘇ったアギラは、どこか小馬鹿にした様子で口を開いた。
 血を塗ったかの様に赤い唇は、これまでアギラが研究の命を為に奪ってきた人々の血がそこに凝縮されているのではないかと、アズラエルに思わせた。
 さしずめ、その美貌と知識、そして狂気めいた知的好奇心で人々を誘い込み、骨の髄まで啜り尽くす食人花の精と言った所か。

 

「ではω特務艦隊は、プラントを終わらせるものと言う意味かの? αにしてω、始まりにして終わり、という旧世紀の宗教の文句じゃったか」
「ええ、物事はシンプルに行こうかと思いまして。プラントにとって不本意極まる終わり。コーディネイターを生み出した僕らナチュラルと言う創造主が彼ら被造物たるコーディネイターに下す断罪の尖兵ですよ。
ふふ、ああ、早くプラントをこの目で見たいものです。あの忌々しい砂時計を一つ残らずこの宇宙の塵に変える日を思うと……ふふふ、笑いがね、抑えきれないんですよ。……ふふふ、あははははは」

 

「楽しくて仕方がないのは分かるが、実際問題ボアズとヤキン・ドゥーエはどうするんじゃ?」

 

 とアギラ。どこか揶揄するような口調は、それ自体が雄の本能を直撃するような媚を持っていた。今の姿の成れの果てを知るアードラーも、危うく卑猥な妄想に陥りかけてしまった。
 この美女が数十年後にはああなるのか、とアードラーは世の無常を、この老人らしからぬ感傷に浸りながら感じた。

 

「あ? ああ、あの石ころ二つですか。ザフトがNJCを開発したと言う事は当然、向こうの連中も核を利用した兵器の一つ二つは持っているでしょうから、こちらの切り札である核ミサイルは、最後の最後まで取っておくつもりですよ。調子に乗って手痛い反撃は困りますからね」
「では、通常の戦力でボアズを落すのかの? アズライガーだけでも余程のものじゃし、盟主の自信も分るがの。被った被害はヤキン・ドゥーエを核で焼きはらってチャラか」
「ボアズはこちらの数にモノを言わせますよ。加えてダンディライオンズにもたっぷりと働いてもらいます。フルボーグ連中にも、ね」

 

 はたして明確な根拠があるのかないのか、アズラエルは酷薄な造りの唇を、悪魔的に吊り上げて深い笑みを浮かべた。それを見てアードラーとアギラの両者は視線を交わす。

 

――いささか精神操作をし過ぎたか? と。

 

 ああ、誰が知ろうか。ブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルが、異世界からの死せる異邦人によって、そのエゴを強化され精神の情緒を不安定なものにしていたと。
 増幅されたコーディネイターへの憎悪が、原理主義者とはまた違った面を持っていた彼の精神のベクトルの全てを、コーディネイター殲滅に向ける事になろうとは。

 
 

 月の宮での命名式と殲滅戦の始まりを告げる告白を他所に、アメノミハシラからは数隻の艦艇が、ザフトの艦艇と共に星の海へ向かい風を受ける帆の代わりにレーザー核融合推進とテスラ・ドライブで星の海へと出航していた。
 アメノミハシラをマイヤー・V・ブランシュタインDC宇宙軍総司令とロレンツォ・ディ・モンテニャッコ一佐に任せ、プラント本国へと向けてDC総帥ビアン・ゾルダークを乗せて出航した艦隊であった。
 ザフトからはアメノミハシラに寄港していたWRXチーム母艦ナスカ級ドルギラン、ナスカ級一隻、ローラシア級三隻が随伴している。
 DCからはスペースノア級万能戦闘母艦一番艦タマハガネ、同級二番艦アカハガネ、更にアガメムノン級、ネルソン級、ドレイク級、ローラシア級が出撃している。
 一軍事勢力の総帥の護衛として妥当な数かどうかは微妙だ。なにしろ搭載された装備や機体、パイロットの錬度からランチェスターモデルを無視して、倍の数の艦隊に襲撃されても返り討ちに出来ると太鼓判を押された一行だからだ。
 これまでの人類史における過去の戦争のデータの蓄積とは、また別の法則を持った集団と言えよう。
 実際の所はグランゾンやネオ・ヴァルシオンなどの超規格外の機体が存在しているから、その気になれば地球圏の全戦力を相手に勝利しうるかもしれない。その事実を知った時、今、世界の各地で戦っている人々は途方も無く無駄な戦いをしているのだと悟るだろう。
 気分一つで、自分達が命を賭ける戦いの勝敗を、まるで道端の小石を蹴り飛ばす様にどうとでも動かせる力。その存在を知らぬ事は果たして幸か不幸か。
 ビアン・ゾルダークは、今地球圏で戦っている全ての人々にとって、途方も無い裏切り者なのかも知れなかった。
 プラント本国を目指す船旅の途中、一行はボアズやヤキン・ドゥーエほどの規模は無いが、ザフトの保有する要塞の一つに寄港した。
 地球連合が宇宙に戦力を集中させてから、地球とプラントを繋ぎ、宇宙の人々の命綱となる食糧その他諸々を輸送していた輸送ラインの破壊にかなりの艦隊を動員していて、思わぬ所でどの程度の規模の艦隊と遭遇するか分かったものではない。
 念には念を入れて、と言う意味で今回のザフトの前線基地に寄港する事となった。基本的に前線基地のタイプは二種に分けられる。ボアズやヤキン・ドゥーエ、アルテミスを代表とする、小惑星などを利用した堅牢な要塞と、アメノミハシラの様な完全な人工物によるステーションなどだ。
 ビアンらが寄港したのは後者のタイプで、小惑星型の要塞とは違い、比較的後方に建設される事が多く、今だ宇宙に戦力を集中したザフトが、地球連合に侵攻を許さぬ防衛圏に位置する。
 国力にモノを言わせた連合の大部隊の侵攻でも受けない限りは、そうやすやすとは落ちない位の戦力は配備されており、戦艦四隻と三十前後のMSが配備されている。
 MSもジン・ハイマニューバや、ゲイツ等その顔ぶれも申し分なく、初戦の頃の能力で圧倒していたザフトの精兵が顔を揃えているときた。
 むしろスペースノア級や数少ない艦艇を動かしたアメノミハシラの方こそ大丈夫か、などと一部のザフト兵は心配した位である。
 DCの戦力は、地道な自国生産とジャンク屋からの購入、サルベージに頼っており、やはり貧弱な国力の影響でMSや艦艇の総数はザフトにも遠く及ばない。

 

 バン・バ・チュンが掌握した北アフリカ共同体からの資源の輸出でDC発足時よりはマシだが、やはりどうしても国家規模の組織としては連合やザフトに見劣りするのは否めなかった。
 母体となったのが狭隘な領土しか持たぬオーブ首長国連邦だからそれも仕方の無い事ではあった。
 ザフト兵達の優越感半分の心配も、そんなDCが虎の子のスペースノア級二隻や特機を、あまりにももったいない使い方をしているように見えたからだろう。実際DCの保有する特機のほとんどがこの一行に揃っているのだから。
 残りは本土を守るテンペスト・ホーカーのヴァルシオン改に、アメノミハシラを任されたモンテニャッコのヴァルシオン改タイプCFとトロイエ隊の量産型ヴァルシオーネ。それにアルテミスを落としたロンド・ギナ・サハク副総帥のギナシオンとなる。
 この内、量産型ヴァルシオーネやギナシオンなどはほとんど存在が外部に流出されていない。
 タマハガネを座乗艦にし、ザフトの人工ステーション基地『ベルゼボ』へとシンとマサキ達、そしてビアンは足を降ろして二日ほど滞在する予定にある。
 超戦力の塊である二隻のスペースノア級――その存在が最近まで秘匿されていたアカハガネはもちろん、華々しい戦果で知られるクライ・ウルブズには自然と注目が集まっていた。流石に搭載している機体を見せるような真似はしないが。
 クライ・ウルブズの戦力は
 スペースノア級万能戦闘母艦一番艦タマハガネ。アルベロ・エスト及びAI1かジャン・キャリーが搭乗予定のヒュッケバイン、ヒュッケバインMk-Ⅱ。スティング・オークレーのアカツキ。アウル・ニーダのナイトガーリオン。ステラ・ルーシェのビルトシュバイン。
 ユウキ・ジェグナンのラーズアングリフ・レイブン。リルカーラ・ボーグナインのランドグリーズ・レイブン。レオナ・ガーシュタインのガームリオン・トライブースターとゼオルート=ザン=ゼノサキスのM1カスタムで、MSは総数九機。
 これに予備機としてアルベロやスティングが使っていたガームリオン・カスタム二機とバレルエムリオン、エムリオンなどが搭載されている。
 更にタスク・シングウジのジガンスクード、テンザン・ナカジマのヴァイクル、シン・アスカのグルンガスト飛鳥の特機――スーパーロボット三機を搭載している。
 サイレント・ウルブズも同じ特殊任務部隊としてクライ・ウルブズと同等以上の戦力を備える。スペースノア級万能戦闘母艦二番艦アカハガネを母艦に、フェイルロード=グラン=ビルセイアのデュラクシール・レイ。テューディ=ラスム=イクナートのイスマイル。ケビン・オールトのブローウェルカスタム。
 マサキ・アンドーのサイバスター。リカルド・シルベイラのザムジード。ヴィガジのスワゥグ。アギーハのジャメイム。シカログのプラウニー。超魔装機二機に、魔装機神二機、魔装機四機の計八機の機動兵器を持つ。数こそ違いないが、いずれも粒ぞろいの超高性能機である事は言うまでも無い。
 今回はこれら二つのウルブズに加えてビアン・ゾルダークが世界に向けて行った演説の際に、圧倒的な戦闘能力を知らしめたヴァルシオンを大改修したネオ・ヴァルシオンに、シュウ・シラカワ自らが手がけたグランゾン。
 ロンド・ミナ・サハク専用のヴァルシオンシリーズ三号機ヴァルシーネ・ミナとソキウスらが操る鋼の妖精フェアリオン三機も一緒だ。
 現行の地球圏の水準の技術を超えたオーバーテクノロジーの結晶に、コーディネイター達の知的好奇心が刺激されても仕方あるまい。せめてその機影だけでも見れないものかと、遠目にスペースノア級の船体を眺める取り巻きの姿は、長い事減る事は無かった。

 
 

 ただ、機体は常識はずれでもそれを操るパイロットは、平時は普通の少年少女――のようなもの。特に元が民間人のシンやマサキは機体の整備など以外には特にする事も無いのでほとんど艦から降りず、自然とスティングやステラにアウル、それにテューディも艦に残った。
 下船したのはビアンと同行したミナ、ワン、ファイブ、トゥエルブら三人のソキウス達等だ。基地司令直々の出迎えを受けたビアンは、厳めしい顔つきのままベルゼボ内部に案内されたが、シンはタマハガネに残り日課となっているゼオルートとの訓練に明け暮れていた。
 いよいよザフトと連合との決戦が間近という噂を聞き、おそらくその場に姿を見せるであろう、ザフトのラクス派・旧オーブ艦隊連合軍の中に居る巨人を脳裏に思い描き、一心不乱に強さを求めたからだ。

 

 打ち合う木剣の音が、鋼のソレに等しく澄んでいたのはひとえにゼオルートの技量の桁はずれな凄まじさによる。シン自身驚異的な速度で成長していたが、天稟に恵まれた天才がたゆまぬ努力を怠らなかった果ての、極稀な存在であるゼオルートには遠く及ばない。
 ステラ・アウル・スティングのいつものギャラリーに、今回はテューディが加わっていた。理由は、テューディの膝の上でうんうん唸っているマサキだ。ゼオルートに誘われ、渡された木剣片手に打ちかかり、ものの見事に頭にタンコブを作っている。
 ゼオルートが養子にしたマサキにも剣の手ほどきを行い、空手やボクシングでそれなりの実績を残したのに見合う身体能力と、思い切りの良さに才覚を見出したのを思い出し、ではこちら側のマサキはどんなものかと試してみたのだ。
 細かく突きつめれば、人生はもちろん性格に至るまで多少の違いはあるものの、根本的な所は全く同一で、それは剣の腕も同じだった。つまり、磨けば光る。惜しむらくは強大な敵との戦いまで、光るほど磨く時間が残されていない事だろうか。
 軽い気持ちでゼオルートに斬りかかった代償を、タンコブで支払ったマサキに膝枕をしているテューディはどことなく嬉しそうだった。
 マサキの為に何かしてやれるのが、嬉しくて仕方ないのだろう。慎ましく咲いたラベンダーの花びらに似た色の口紅を引いた唇は、終始穏やかな笑みを浮かべている。
 近づけばほのかな香りにも気付いただろう。前には出ず、そっとその存在を匂わせる程度の、上品な香水の香りだった。生前は世界の破滅と言う行動目的故に、あまり気にしていなかった身だしなみと言う概念を今更ながらに覚えたテューディであった。
 意味する所は一つ。好きな人に自分を好きになってもらいたい。これだ。人類共通にして思いを叶えるのが最難関の願いの一つだろう。
 これがかつて世界の全てを呪い、破滅させんと暗躍した女の、今の姿だった。かくも偉大なものなのだろうか、恋とは。
 愛しい男を膝の上に乗せた女という、日常の中の幸福を描いたような一場面を、特徴的な裂帛の気合が切り裂いた。

 

「きえええいい!!」

 

 虫のざわめきか、あるいは鳥の羽ばたきにも似た寄声はシンの喉から迸っていた。薩摩示現流独特の気合いだ。構えは右八双、気合いは示現流のそれだが、放つ刃は違った。シンの手に握られた木刀『阿修羅』が描いた、茶色い軌跡の太刀筋から流派を特定するのは難しい。
 シンに最初に剣術を教えたイザヨイも、父から大雪山で野の獣などを相手に剣を学んだ為、実の所自分の流派を知らない。師匠からして剣術の流派を知らないのだから、無論その弟子たるシンも自分の剣術の基礎となっている流派を知らなかった。
 ゼオルートは閃光の速さで迫る阿修羅の側面に、優しく、あるいは柔らかく自分が手にした木剣の切っ先をあてがい、手首の動きだけでその軌道をずらしてみせた。赤子の手を捻るよりも容易いと見える呆気無さだった。
 だがそれがクセものだと言う事は随分と前にシンは悟り、今だにそれを攻略できずにいた。阿修羅の切っ先にまで充溢していた気合いと力が虚しく虚空を穿つ感触。幾百回となくゼオルートによって与えられてきた、敗北の階段へ足をかけた事を意味する虚しさ。
 実用ではなくアクセサリーの類と思われる、小さな眼鏡の奥の瞳は柔和な光を変えてはいなかったが、そこをよぎった戦意をシンは感じ取った。うなじの辺りが針で刺されているみたいに痛みを感じたのだ。
 そこに来る。シンの直感はこの上なく冴え渡り働いたと言える。虚しい突きを放った姿勢のままに思い切りよく前方に頭からダイブする。踏み込んだ右足が、後方に残されていたシンの左半身を引き寄せた時、シュッというかすか音が、残る左足の踵を掠めた。
 何の力も込めていないようで、その実厚さ三センチくらいの鉄板なら木剣でも切り裂いてみせるゼオルートの振り下ろしだ。
 特訓用の手加減はシンの体に直撃するコンマ・一ミリ辺りからで、そのわずか一ミリでゼオルートは真剣と変わらぬ斬撃を殴打に変える。それまでは真剣勝負と同じ凄まじさで刃が振われる。この絶妙な加減もまた、ゼオルートの技量を表していた。
 シンは、振りかえる動作をせずに阿修羅を振り抜いた勢いをそのままに左手を離し、阿修羅の切っ先を自分の左脇を通過させて、背後のゼオルートに勘頼りの突きを放った。びょう、と空気を切り裂く感触は、ゼオルートの体にコンマ・一ミリも触れなかった事を意味する。
 動きを止める愚を、シンは骨の髄まで知っていた。右手に握った阿修羅を左脇から突きだした姿勢から流れる動作で、左足を軸に半身を回転させて左裏拳を再び非視認状態で繰り出す。
 標準的なサイズのシンの拳は、コーディネイターという出自と猛烈苛烈な訓練の成果で、頑丈な杉板も粉砕する。並の人間なら顎や鼻の骨が砕けるだろう。

 
 

 再び虚無を打つ虚しい感触。
 ゼオルートは? 
 居た。
 シンの左拳が静止した、そのほんの数センチ先に。丸眼鏡の奥の瞳が、シンの成長を如実に感じ取り、わずかに綻んでいた。それをシンが認めるのと、右足の爪先がゼオルートのこめかみに襲いかかるのはゼロ・コンマ・ゼロ一秒ほどズレがあった。
 手加減など欠片も無い、常人なら重傷間違いなしの一撃は、やはりゼオルートを捉えられない。紙一重、という言葉があるがこの場合は髪一重と称すべきだろう。わずかにゼオルートの髪を揺らし、シンの右足はその頭上を通過していった。
 髪を千切って行きそうなほどの風を生んだシンの蹴りを、内心でゼオルートは褒めたが、

 

――少し大振りだ。

 

 と評価してもいた。ゼオルートの手の中の木剣がぴくりと動く。だが、獲物に飛び掛かる蛇の様に唸ったシンの右足が、その瞬間ゼオルートの肩に降って来ようとは。
 筋肉の挙げる悲鳴を体の中で木霊させながら、無理やり軌道を曲げたシンの根性と技量を褒めるべきだろう。右上段回し蹴りは、右踵落としへと変わり固い軍靴の底がゼオルートの左肩を目指して落ちる。

 

――もらった!

 

 胸の中で喝采を上げるシンの顎を、下方から伸びてきた茶色い何かが強かに打ったのは、同時だった。
 間一髪で半身をずらし、シンの変形踵落としを右にかわしたゼオルートは、目の前で吹っ飛んだシンを見下ろし、小さな息を吐いた。わずかに自分を緊張させたシンの連続攻撃を褒めてやりたい気持ちになっていた。

 

「剣術だけじゃなく、確かショウリンジ拳法も習ったと言っていましたが、その技かシンのオリジナルですかね? いずれにしろ子供の成長とは早いものです」

 

 いつもの光景に、即座にシン・アスカ専用看護士になっているステラが飛び出し、テキパキとシンの介抱を始めた。ゼオルートとシンが特訓の締めくくりに始めた模擬戦は、一分ジャストで幕を閉じた。
 一週間前は五十秒でシンがノックアウトされていたが、今回は十秒も長く保った。
 壁際に背を預けて座っていたアウルがとなりのスティングに話しかけた。

 

「なんかさあ、ゼオルートのおっさんとか見ていると、おれらみたいに強化された連中て必要かなって思うよな」
「言うなよ。おれだってあの人本当にナチュラルなのか、てアルベロ隊長やテンザン一尉に聞いたんだぞ。まあいいじゃないか、味方なんだし」
「そりゃま、そうだけどさ。なんていうかナチュラルの底力みたいなもん? も馬鹿にできないって思えば悪い気はしないけどさあ……」

 

 治療によって強化された能力が多少低下してはいるが、それでもまだ鍛えたハーフコーディネイタークラスの能力はあるアウルからすれば、まったく人体に手を入れずにコーディネイターを圧倒して見せるゼオルートの存在はやや複雑だ。
 スティングもアウルの気持ちは分かるが、弟分よりも分別のある性格だから露骨に口にしたりはしない。第一クライ・ウルブズやDCにはナチュラル離れした能力の持ち主が多い。

 

「そう不貞腐れんなよ。あの人より強くなりゃいい話だろ」
「……生身じゃ無理だな」

 

 アウルの台詞をスティングは否定しなかった。ぶっちゃけ自分とアウルとステラが、最盛期の身体能力で挑んでも、勝てる気がしなかったからだ。
 息一つ乱さず口元に微笑さえ湛えて、阿修羅だけは離さずに気絶したシンを見るゼオルートを見て、

 

「本当にナチュラルだよな? あの人」

 

 と何度目かの疑問を口にした。スティングの言葉に答える者は無く、テューディとステラにそれぞれ膝枕をされたマサキとシンの、うんうん、と唸る声だけがしばらく続いた。

 
 

 ベルゼボの滞在一日目は平穏のままで過ぎた。すぐにもプラント本国へ向かい出立するはずだったが。付近を哨戒していた別の部隊が、連合の艦隊を複数捉え、もうしばらくビアンらはベルゼボへの滞在を延期する事になった。
 にわかに緊張感がベルゼボの中に漂い始めていた。地球連合のボアズへの侵攻の前触れだという意見がほとんどで、おそらくベルゼボを始めとした小惑星基地や中継ステーションのいくつかを攻略し、ボアズ侵攻への橋頭保にするのでは? という意見が大多数を占めていた。
 実際、時期を前後してザフトの各前線基地が連合の艦隊の攻撃を受けていると言う情報が錯綜していた。今はまだ地上戦力の引き上げの成果もあり、ザフトの宇宙戦力は多少の余裕がある。
 だが、前線基地が対峙した連合軍の圧倒的な物量は尾鰭を付けて兵達に伝わっており、開戦当初の連合しか知らぬ者や、訓練をようやく終えた新兵達に不安の種を蒔いていた。

 

 アメノミハシラも散発的な攻撃を受けてはいたが、マイヤーとモンテニャッコ、更に虎の子として残しておいた、トロイエ隊が駆る量産型ヴァルシオーネと量産型アーマリオンの前に敗北を喫しているという。
 アメノミハシラの位置が、プラント攻略を考えればさして重要ではない事も大きな理由ではあるだろう。
 ギナが攻略したアルテミスへ向かい、アカハガネが数隻の艦艇を随伴して出向して二日目に、ソレは起きた。
 グルンガスト飛鳥のコックピットの中で、色々といじりまわしていたシンや、今だ調整が完了せず、正パイロットが決まらずにいるヒュッケバインを前に、アルベロやジャン・キャリーが整備主任と顔を突きつけ合っていた時の事だった。
 突然、そうまるで何の予兆も無く、ベルゼボに小さな揺れが走ったのだ。それも、内側から発生した何かの揺れが。

 

「なんだ?」

 

 ベルゼボのレーダーや哨戒部隊を突破した超長距離からのミサイルか砲撃、というにはあまりに揺れは小さく、スペースデブリでも衝突したのかと、シンはコックピットから顔を覗かせた。
 揺れが収まり数分が経過してから、慌てた様子で走り寄ってきた兵士に何事かを聞かされたアルベロとジャン・キャリーの顔が強張るのを、シンの目ははっきりと捉えた。
 シンと一緒に、アカツキの調整に立ち合っていたスティグが横に並び、二人は視線をかわし、アルベロの所へ降り立った。
 途方も無く嫌な予感が、シンの胸の中でとぐろを巻いていた。その予感が、極めて身近な所で、死神か地獄の底の悪魔どもと手を組んでいてもおかしくはないほど邪悪なものだと、シンは本能的に感じていた。さっきの揺れ。あれがその理由だろうか。
 シンとスティングに気付いたアルベロが、動揺をかろうじて抑え込んだ険しい顔色を浮かべていた。となりのジャン・キャリーもアルベロと等しい苦渋の色を浮かべている。この二人をこれほど動揺させる事?
 シンはそれを知るのを恐れた。だが、知らなければならない。シンが聞こうとした事は、スティングに先を越された。

 

「アルベロ隊長、今の揺れは何です?」
「ベルゼボの内部で爆発が起きたのだ。……司令室が爆破されたらしい」
「爆破って、そんな馬鹿な。こんなザフトの勢力圏真っ只中で!? 連合の工作員でもいるってのかっ!」
「あるいは手引きした者がいるのかも知れん。ザフトの中かおれ達DCの中にな。爆破それ自体は小規模なもので、続いて爆破された様子も無いらしいが、どこもかしこも混乱している。正確な情報はしばらく期待できまい」

 

 口いっぱいに頬張った苦虫を噛み潰しても、到底こうはなるまいという苦い表情をアルベロが浮かべていた。この男がそれほどの苦悶の表情を浮かべる事態に、シンは全身を緊張させた。
 待て、確か、司令室には。途切れ途切れに言う自分の声を、シンは心の中で聞く。そうだ、確か言っていたではないか。昨日の夕食で席を共にした時に。明日は、基地司令と――。

 

「アルベロ隊長。おじさ……ビアン総帥は? 無事なんですか!?」
「シン? 何言ってん、だ。…………まさか!」
「そのまさかだ。ビアンもその場に居合わせたのだ。おそらく、それを狙っての事だろう」
「それで、総帥は!!」
「分からん。ミナ副総帥やソキウス達も居合わせていた筈だが、さっきも言った通り正確な情報が入ってこないのだ」

 

 シンとスティングの顔色は瞬く間に血の気を失った青白く変わった。まさか、同盟を結んだ相手の基地で、自分達の総帥が暗殺されるとはこれっぽっちも思っていなかった。いや、それ以前にスティングからすればビアンは恩人であると同時に親代わりであり、シンにとっても大きな意味を持つ人物だ。
 そのビアンが、まさか?

 

「総帥や副総帥の生死は不明だが、死んだとは限らない。落ちつけとは言わないが、早合点してはいけない」

 アルベロの隣のジャンも、呆然とする二人を宥めすかすように、努めて優しく言い聞かせた。彼自身、驚きの渦が胸の中に生まれていたが、自分以上に動揺を露にするシンとスティングを前にして落ち着きを取り戻していた。
 人間、自分より慌てている人を前にするとかえって落ち着くと言うアレだ。
 シンとスティングは――前者は地上で鍛え上げられた精神的修行の成果で、後者はいかなる事態にも精神の均衡を保ち効率よく任務を遂行するように受けた暗示や催眠処置のなごりで――で、少しばかり平静を取り戻す。
 ほんのわずか、なにかで突けば盛大に音を立てて弾ける爆弾を抱えた平静ではあったが。
 だから、その後に起きた事は、その平静を破るには十分だった。
 ベルゼボ内に、地球連合艦隊接近を告げる警報が鳴り響いたからだ。

 

「こんな時に――!!」

 

 シンの叫びは、その場にいる全員の心を代弁していた。ビアンとミナ、三人のソキウスとベルゼボの基地司令が暗殺されたかもしれない、こんな時に。

 
 

 ベルゼボの制御室では、司令代行を務めるザフトの隊長格達が、混乱醒めやらぬ兵士達を宥めすかしながら、オペレーター達に指示を出し続けていた。
 彼ら自身内部で引き起こされた爆破という事態に、冷静さなど彼方に分投げてしまいたかったが、かろうじて自分達の職務が背負った責任感が、現実からの逃避を免れさせていた。
 慌ただしく怒号が疑問の声が飛び交う制御室に、白服を纏った仮面の兵士が姿を見せた。ラウ・ル・クルーゼ。ザフトきってのスーパーエースであり、有能な指揮官としても知られている。
 鼻から上を隠す仮面は、人には見せられぬ傷を隠す為だというが、もっぱら感情を読み取らせぬためにつけているのでは? と兵達の噂だった。このような事態にもかかわらず、爪先から冷笑的な口元まで動揺した素振りを匂わせぬクルーゼは、一番近くにいたオペレーターに事態を問うた。

 

「敵艦隊の規模は?」

 

「あっ、はい。アガメムノン級を中心としたおよそ三十隻ほどの艦隊です。距離二三〇」

 

 三十隻ともなれば、搭載されているMSは百を超えるだろう。こちら側の戦力の倍以上となる。ザフトの援軍が先か、連合の援軍が先か。連合側の艦隊の目的が、ベルゼボの占領か破壊か、にもよる所だが、厳しい戦いになるだろう。
 以前にイングラムが目にしたジーベル・ミステルの率いる艦隊である。

 

「ほう。かなりの部隊だな。こうも接近を許すとは……。爆破の事といい、やはり内通者かな?」

 

 とんでもない事を平然と呟くクルーゼにオペレーターや、他の隊長達から疑惑とこの場で言うべきではない、という非難が山ほど込められている。向けられたクルーゼはどこ吹く風とばかりに、一行に気にした様子はない。
 整った造作の顎に白手袋を着けた指を添え、クルーゼはいかにも思案している風を装った。そして、その胸の中で自分以外誰にも聞こえぬ声でクルーゼは呟いた。

 

――何も、戦場でわざわざ戦う必要はあるまい? 例えば、こんな風に殺してしまえば済む話だ。それが例えビアン・ゾルダークであっても。
 さて、アズラエルは上手くやってくれたが、アーチボルドはどうかな?

 

 クルーゼの心の声はまもなく答えを得た。連合の艦隊とは別に、ベルゼボに迫る艦隊の影を捉えたのだ。悲鳴にも似た若い女性オペレーターの声が響いた。クルーゼの笑みがより深くなる。

 

「エ、エターナルと足付きです!」

 

 ラクス様、と誰かが悲壮に呟くのが聞こえた。
 ザフト、地球連合、ノバラノソノ、そしてディバイン・クルセイダーズ。かつてのメンデルと同じく四つ巴の戦いが幕を開けようとしていた。