SRW-SEED_ビアンSEED氏_第66話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 22:26:04

ビアンSEED 第六十六話 『ボアズ陥落・静寂の転章』

 
 

 ボアズから送られてくる戦況を聞きながら、ヤキン・ドゥーエへ配属されたイザークらは、他の兵士らと共に苛立ちと不安を押し隠せぬ表情を浮かべていた。 
 プラント本国を守る防衛の要であるボアズが、そう簡単に落ちる筈はないと頭では分かっているが、理性による説得を受けても感情の方は容易には納得しようとしない。
 ザフト最精鋭部隊の誉れも高いWRXチームの自分が、ただこうして見ているだけという現状に甘んじているのは、歯痒さばかりを増すばかりだ。
 他の隊も、ベテランや隊長格、年長者達が不安に踊らされる新兵や同僚たちを励まし、自分に言い聞かせるように、ボアズの防衛部隊とコーディネイターの優越さを語り、地球連合の猛攻を撥ね退けるに違いないと囁いている。
 地球連合がMSの開発に成功して以来、これまでの優勢が嘘のように地上の各戦線で敗退を喫してきたザフトだが、彼らの庭である宇宙でさえも同じ目に逢うつもりなど毛頭なかったし、そうはならぬという矜持もあった。
 だが、現実に地球連合のボアズ侵攻が起きた時、誰もかれもが言い知れぬ不安を胸に抱き、明日を迎える事が出来なくなるという恐怖が、じわじわと染みの様に領土を広げていた。
 ザフトのエリートであることを証明する赤服ではなく、WRXチームの制服に身を包んだイザークは、壁に背を預けながら、苛立ちを押し殺すように腕を組んで険しい表情を浮かべている。
 銀の髪に彩られた顔立ちは、美男美女の多いコーディネイターの中でも目を引く華やかさを持っていたが、当人の烈火の如き気性と、今現在の不機嫌さとが如実に表れていて周りに近づこうとする者はいない。
 チームメイトのルナマリアやシホは、多少の不安が時折顔を覗かせるが、それでもじっと新しく入ってくる戦況に耳を傾けている。
 肩や腰回りを覗けば極めて面積の小さな黒いビキニという他ないDFCスーツの美少女二人の姿は否応にも周囲の人間の目を引いたが、ボアズの戦況が決して好ましいものではないとか分かると、自然と視線は剥がれていった。
 年齢にそぐわぬ肉感的な凹凸の激しい輝かんばかりの肌を黒皮で締め上げ、子供と大人の合間の未成熟な肉が色香を纏うルナマリアも、雪のような肌に長く延ばされた髪の黒が映える清楚な魅力に妖しさの成分を混ぜたシホも、ボアズの戦況に固唾を飲んでいる。
 イザーク同様に壁に背を預けたレイは常と変らぬ氷細工の少年のような無表情だが、流石に今回の連合の大規模な侵攻に緊張を感じているのだろう。熟練の達人の彫りあげた美仮面の如き秀麗な顔の眉間に寄せられた皺の数が、いつもよりわずかではあるが多い。
 唯一、隊長であるヴィレッタ=バディムだけが普段と変わらぬ様子ではある。つい先ほどまで、R-1、R-2、R-3、R-GUN、R-SWORDの詳細な調整作業を一手に引き受けていたのに、疲労の影も無い。
 肩を出した特徴的な制服に身を包み、腕を組んだまま冷たいとも取れる瞳で続々と伝えられるボアズの戦況を静観していた。
 固く結ばれた色素の薄い、形の良い唇も、氷のレンズを嵌めているようにどこか冷たさを帯びる瞳も、動く事はない。
 天井から投影されている立体映像に目をやりながら、ルナマリアが呟いた。ボアズめがけて猛威を振るいながら暴れ狂う地球連合の新型特機アズライガーの存在が確認され、その戦闘能力は話半分にしても凄さまじいの一言に尽きた。

 

「また新しい特機を出してくるなんて、しかもDCのヴァルシオンの同型機もいるんでしょう? 鹵獲機かコピーかは知らないけど連合ってまだそんな余力を残してたの?」
「ザフトも、メディウス・ロクスやRシリーズ、ゲイツに核動力機の配備を進めていたけれど、やっぱり元の国力の差なのかしらね」

 

 ルナマリアに答えたシホの言うとおり、ザフトも禁断の核の力を蘇らせるニュートロン・ジャマー・キャンセラーを搭載したフリーダムとジャスティス、専用の特別兵装であるミーティアとその量産型であるヴェルヌを開発し、配備を進めている。
 エース級パイロットが乗らねば真価を発揮出来ぬ癖の強い核動力機だが、地上からの撤収部隊を数多く回収し、本国に残っていた精鋭達の数も十分であったから核動力機が余るような事態にはなっていない。
 実際、核動力機部隊の戦闘能力は、アズライガーが出現するまでのボアズの戦闘をザフト優位に進めていたことが証明している。
 だがアズライガーの投入とそれを守護する二機の機械巨神に加え、彼らとは反対の方角からボアズへ猛攻をかける連合の別動艦隊に押し込まれ、ボアズの防衛網は徐々に押されていた。
 しゅっと小さな音がして、スライドした扉から淡い青色の美女が姿を見せた。歩くたびに揺れる豊満な胸元や、慎ましく窪んだ臍、付け根から大胆に露出し輝かんばかりに剥き出しの太ももを、わずかな黒布が覆うばかりの出で立ちである。
 DFCスーツ着用者の三人目、アクア=ケントルムだ。先のベルゼボ戦にて、TEアブソーバー、サーベラスの調整の為一足早くプラント本国へ戻っていたが、今回再びWRXチームと行動を共にする事になっていた。
 だがメディウス・ロクスとサーベラスの開発者であるエルデ=ミッテの行方が知れず、調整に今の今まで手間取っていたのだ。
 シホ達の顔を見つけたアクアが、焦った表情で近づいてくる。彼女もボアズ侵攻の話を聞いて慌てて真偽のほどを確かめに来たのだろう。ルナマリアに開口一番問いかけた。

 

「ボアズは? 連合が攻めてきたって本当なの!?」
「はい。確認できているだけでもMSが二千、さらに月からの増援も相当数確認されているって」
「ボアズの常駐戦力の五倍近いじゃない!? 普段の倍くらいの数が詰めていたからまだいいけど、それだけの数をもう揃えて来たの」
「今はフリーダムやジャスティスが前面に出てなんとか抑えています。クオルド隊やブランシュタイン隊、ホーキンス隊、サトー隊とエース級が揃っていますし、まだ大丈夫だとは思いますけど」
「DCからの援軍は?」
「ヤキンに駐留しているのとは別の部隊が動いているみたいです。ただ、どれくらいの規模かはわからないですけど」
「……そう、間に合うといいわね」

 
 
 

 宇宙に浮かぶ歪な岩の塊を彩るオレンジの火は、絶える事無く生まれては消えて行き、数千、数万の命が散華し続けている事を告げている。
 大宇宙の片隅で火ぶたを切って落とされた地球連合、プラント、ディバインクルセイダーズの三勢力の命運を分かつ戦いは、地球連合の圧倒的優位へと移りつつあった。
 地球連合艦隊本隊の先頭を突き進む超規格外殲滅兵器アズライガーと、その守護を任された異世界からの異分子であるヴァルシオン改と量産型ベルゲルミルは、阻む術なき暴風となって荒れ狂い、対峙するザフト諸兵を小枝の如く蹴散らし続けている。
 アズライガーの投入によって乱れ切ったザフトの戦線に、圧倒的な数の優位を生かした地球連合艦隊の砲撃が五月雨のように突き刺さり、両者の間を光の糸が幾重にも結んでいる。
 フリーダムとジャスティス、それに専用の装備であるミーティアとその量産型であるヴェルヌを投じる事で確保した序盤の優位は、すでにザフトにはなく、互いのジョーカーをぶつけあう事で戦局の変化を狙おうと部隊を動かし始めていた。
 ザフトにとって不幸なのは、地球連合側にアズライガー・ヴァルシオン改・ベルゲルミルクラスの戦闘能力を有する部隊が、他にも存在したことだろう。
 ωナンバーズ、ロンド・ベル、ダンディライオンで構成されるω特務艦隊だ。
 地球連合製スーパーロボット・ガルムレイドや、WRX、ヴァイクルを筆頭に自覚なきままに異なる世界の技術を手に戦う彼らもまた、恐るべき鋼の旋風となってザフトに暴虐と破壊をもたらしている。

 

「バーニングブレイカァアーー!!」

 

 全身から滾らせたターミナス・エナジーを炎のように揺らめかせ、紅の巨人ガルムレイドの拳が、ローラシア級の船腹にめり込み、莫大な量のTEを船体内部に流し込んで爆砕させた。
 機体の堅牢さと高出力から、部隊の先陣を任されたガルムレイドとそのパイロットであるヒューゴ=メディオだ。黒いラバースーツ風の専用スーツに身を包み、周囲の状況を把握すべくコンソールに目を落とした。
 クライ・ウルブズやWRXチームとの戦闘では今一つ戦果が振るわないガルムレイドであったが、その他の戦闘では特機として恥じぬ戦闘能力を発揮し、開発者のミタール=ザパトの意向もあって少数の量産型が配備されている。
 ヒューゴのオリジナル・ガルムレイドにくらべて装備や機能の簡略化が図られが、TEエンジンも出力の安定したものに変わり、製造コストも比較的抑えられていた。
 視界の片隅で量産型ガルムレイド部隊の活躍を映したヒューゴは、わずかに唇を緩めた。自分が開発当初から関わった機体の兄弟たちの活躍だ。喜びを覚えるのも無理はあるまい。
 オルガのカラミティやジョージーのR-2パワードの激烈な火砲支援のほか、複数のアークエンジェル級の火力は、数で勝るザフトのMSや艦隊と互角以上の戦いを行っていた。
 カイの率いるクラーケン小隊とスウェン、ミューディー、エミリオ、ダナらが、シャムスとオルガの形成するビームの雨の中を駆け抜けて、次々とジンやゲイツを射ち落とし、ω特務艦隊とその後方にいる連合艦隊の血路を開いていた。
 個々の技量の高さに加えて搭乗する機体の頭一つ以上飛び抜けた性能もあって、核動力機を配備していなかったザフトの部隊は、ただ撃墜されるためだけに出撃してきたかのように数を減らしていた。
 アズライガーという途方もない破壊に目を向け、虎の子の核動力機を集中させて対処した事が裏目に出ているのだ。

 

「前方のゲイツを薙ぎ払います。ゴッドフリート一番、二番照準!」
「新たにジン四、シグー二、来ます」
「イーゲルシュテルンで撃ち落とせ! 四番から七番、弾幕を張れ!!」

 

 ゲヴェルの艦橋では間断なくレフィーナ艦長と副長テツヤの指示が飛んでいた。リーやナタルらと息の合った連携戦闘を行うアークエンジェル級三隻の姿はそれだけで勇壮な光景で、背後から続く連合の艦隊も士気を上げて続く。

 

「グレン、イングラム教官、突っ込みます!!」
「おっしゃあ、付き合うぜ、ムジカ! ジョージー援護頼む!」
「お任せを」

 

 ムジカの赤いR-ウィングがミサイルとビームカービンとGリボルバーを乱射し、グレンのR-3パワードも小型艦艇波のサイズと推力に加えてメビウス以上の加速を生かし、マイクロミサイルをばら撒いて弾幕を形成して、三機のゲイツをまとめて吹き飛ばす。
 イングラムが隊長を務める地球連合側のWRXチームだ。連合側のDFCスーツ着用者ジョージー=ジョージのR-2パワードの、TEランチャーの集束モードが先陣を突っ切る仲間へと群がるMSを牽制する。
 収まる事を知らぬTEエンジンの大出力砲撃は、ついでとばかりに一隻のローラシア級の右舷を掠めて爆発を引き起こす。大小の爆発が無数に続き、轟沈こそする様子は見えぬが、ローラシア級の戦闘能力が奪われた事は確かだ。
 鈍重な機体ながら、繊細な操縦技術で敵機の攻撃をかわし、ムジカとグレンに遅れてR-2パワードが続く。
 宇宙に戦場が移ってからの数々の戦闘に加え、度重なるクライ・ウルブズという現地球圏最強戦力の一角との戦いで、今やルーキーであった筈のWRXチームのメンバーの戦闘技能は地球連合のトップレベルにある。
 クォーターコーディネイター、ハーフコーディネイターであるグレン、ムジカ、さらに所謂ナチュラルの天才であるジョージーらの身体能力に、ベテランの領域の経験が加味されているのだ。
 そんな彼らが乗るのは、地球連合の技術と因果の番人イングラム=プリスケンが齎した別世界のRシリーズのノウハウを持って生み出された、地球連合最強MSの一つWRXシリーズ。
 彼らを敵にしなければならぬザフト兵士達からすれば、とことん運につき放された上に鋼の死神に魂狩の鎌を首元に突き付けられたようなものだ。
 そんなこの世界の教え子たちの姿を見守るイングラムは、言葉静かにR-GUNパワードを操り、先行する三機のやや後方で援護に徹しながら追従していた。
 量産型とはいえベルゲルミルにヴァルシオン改が投入され、さらにギリアムが手に入れたアズライガーのスペックが、データ通りに発揮されているのなら、恐るべきことにこのボアズはこの戦いで陥落するだろう。
 かろうじて、WRXはイングラム・ヴィレッタ両方の側で完成するかどうかと言った所で、もう少し時間が欲しいのが本音だ。ギリアムがシュウ=シラカワから知らされたという邪神ヴォルクルスなる存在の事も大きな懸念材料となっている。

 

(絶える事無く招かれる異世界の死人達と機体、異世界の技術……。あまたの異物を受けながらこの世界は、CPSでかつて奴が作り上げたユートピアよりもはるかに安定している。……どうやら今までとは違う事情がありそうだな)

 

 モニターの端で異世界の技術の産物であるガルムレイドや、イングラム自身が持ち込んだRシリーズの機体の戦いを認めて、イングラムはいまだ見つける事の出来ぬ、この世界で乱されている因果の大本に一瞬思いを馳せた。
 ギリアムもイングラムもヴィレッタも見つける事が出来ずにいるこの世界の歪み。それがいかなる形で権限するかはわからぬが、それと対峙する時まで生き抜かねばなるまい。 
 それが、因果の番人の宿業だ。例え無限の世界に散らばったイングラム=プリスケンの欠片にすぎぬこの身であっても。

 
 
 

 性質の悪い冗談のように次々と戦線が突破されて行く現実を前にして、ボアズの管制ルームに絶望が足音も高らかに迫る頃、地球連合側に傾いていた戦況がわずかに止まった。
 構成されるMSがすべて核動力機で揃えられた精鋭クオルド隊が、アズライガーと接敵したのだ。隊長ラルフ・クオルドの駆るプロヴィデンスを筆頭にフリーダムとジャスティスを保有する破格の精鋭部隊である。
 司令を筆頭に誰もが彼らに期待を寄せたのも無理はなかっただろう。管制ルームのオペレーターや司令官達が固唾を呑みこんで見守る中、ザフトの誇る核動力機が破壊の王へと戦いを挑んだ。

 

 二機ずつフリーダムとジャスティスを従えたプロヴィデンスが、先程から暴虐の限りを尽くす盟主王に向かって背中のバックパックとスカートからドラグーンの子機を飛翔させる。
 クオルド隊は、ザフトのトリプルエースの異名を誇るウルトラエース、ラルフ=クオルドを隊長とし、その下に四人のメンバーが在籍している。
 戦前はただの塗装屋だったが、血のバレンタインを契機にザフトに入隊し、今では四十機のMAと十七機のMS、ドレイク級駆逐艦三隻撃沈のスコアを持つリオルデ=ジャイルズ。
 すでに四十歳を超えるものの裕福だった両親によって最高級のコーディネイトを施され、人三倍負けず嫌いな性格もあいまってザフトでも上位十名に入る身体能力とMS操縦技術を維持し続けているジェット=ハンス。
 貧困な宇宙港労働者の両親の間に生まれ、最低限のコーディネイトのみが施されただけにも関わらず、開戦初期から常に最前線で戦い続け、その戦果と頭から灰を被ったような髪の色から“灰被り姫”の二つ名で知られる女性エース、アリッサ=ウェンドラ。
 動体視力や反応速度ではラルフと同等以上の数値を叩きだし、加速しているメビウスの機体に“着地”して、無反動砲や重機関銃を叩き込む戦法を得意とする若干十七歳の少年エース、ヴェルテス=ヴィーパー。
 以上の四人にラルフを含めた五名で構成される。それぞれが専用の整備チームを持ち、核動力の配備前もシグーやジン・ハイマニューバなどの、一部エースや指揮官用の高級機に乗って地球連合宇宙軍を嘲笑い続けた猛者たちだ。
 クルーゼ隊が低軌道会戦で智将ハルバートンの第八艦隊を壊滅させるまでは、もっとも多く戦果をあげていた隊としてザフトと地球連合の双方に勇名を轟かせた超精鋭たちである。

 

「ジャイルズ、ハンス、あの特機の周りの機体を抑えろ! ヴィーパー、ウェンドラ、私達であのデカブツを叩く」
「了解!!」

 

 ラルフの指示に従い、ジャイルズのフリーダムがベルゲルミルに、ハンスのジャスティスがヴァルシオン改へ、友軍の援護を受けながら向う。ラルフはウェンドラのフリーダムのハイマット・フルバーストに合わせてドラグーンに一斉射撃を命じた。

 

「行け、我が下僕達!」

 

 両機合わせて四十を超すビームとレールガンの集中砲火の大半をかわし、残りも展開したEフィールドと両腕内部に仕込んだゲシュマイディッヒパンツァーで弾くアズライガー。
 火力のみならず装甲及び防御機能までも、現在実現しうるあらゆる装備を搭載したその巨躯にダメージはない。
 元々ドラグーンは個々の砲撃の威力が低い。二撃、三撃と複数回撃ち込まねばMSを撃破するのは難しい兵装だ。
 アズライガーはもとからドラグーンの単発程度など通じぬ分厚い装甲を持ち、加えてEフィールドとゲシュマイディッヒパンツァーが、堅固な要塞に鉄壁の城壁を幾重にも築いている。
 ドラグーンのみならずクスフィアスやバラエーナ、ルプス・ビームライフルも結果は同じで、Eフィールドとゲシュマイディッヒパンツァーの複合防御兵装の前になんの効果も見せていない。

 

「ちい、なんという防御だ。だが、攻撃に移る瞬間は解除する筈。その時を狙うぞ!」
「はっ!」
「おれが落としてやりますよ、ラルフ隊長!」

 

 アズライガーが反撃に撃ったスプリットビームガンの雨をかわし、ラルフのプロヴィデンスをはじめとした三機の核動力機が散らばる。
 確かにラルフの言うとおり、両手の指に仕込んだスプリットビームガンを放つ際にEフィールドなどは解除され、アズライガーの防御は装甲のみになる。そこを見逃さずビームライフルのトリガーを引いたのは、流石にザフトのエース達といえた。
 三機のMSの放ったビームが全高百メートルを超すアズライガーへ熱烈に殺到した。脳髄となったソキウス達とゲーザが、ビームが放たれるよりも速く反応し、数千トンに及ぶ超重量の機体が、軽々と虚空を飛んだ後の空間をビームが薙いだ。

 

「なんてスピードッ」

 

 アズライガーの見た目からは到底信じられない機動性に、普段は無駄口をたたかず淡々と戦闘をこなすウェンドラの唇から、驚きの声が零れた。
 アズライガー中枢の戦闘ユニット・ゲーザ=ハガナーは、ドラグーンによってビームガンバレルが破壊される可能性が高いと判断して使用を中断し、十門のスプリットビームガンの弾幕を張る。指先とは言ってもMSの使うビームライフルが針の先に見える大口径だ。
 核動力機に採用されているアンチ・ビーム・コーティングを施したシールドは、カラミティの持つ最大火力スキュラの直撃を数秒間受けても、表面が若干融解する程度のすぐれた耐久性を持つ。
 だが、核動力に加えてTEエンジンから供給される莫大という言葉でも足りぬ出力を誇るアズライガーの武装が相手では、シールドごと機体を撃ち抜かれるのがオチだろう。一発の被弾も許されぬ過酷な戦いであった。
 アズライガーは頭部にある計四門の短射程のビーム砲ツォーンと、全身に内蔵されたレーザー砲塔で三百六十度あらゆる方向から迫る敵機を迎撃する事が出き、胸部にあるスーパースキュラ三門によって正面からの接近も不可。
 左右上方から迫る敵には、両腕に装備されたスプリットビームガンが、下方から迫る的には腰に装備された470mmターミナスキャノンが、戦艦の主砲も子供だましに思える火力で迎え撃つ。
 ヴィーパーのジャスティスも特化した接近戦闘が挑めず、ファトゥムのフォルティスビームキャノンとビームライフルで何とかアズライガーの鉄壁の防御を崩そうと奔走していた。
 絶え間なくドラグーンを操作して無数の光の雨を降らし、ウェンドラもかすかな隙を見つけてはバラエーナやクスフィアスを撃ち込んでいる。流石にハイマット・フルバーストを撃てるほどの余裕はなかった。

 

「あははは、なんだソレ? そんなのでぼくを倒せるわけがないじゃないか!!」

 

 唇の端からよだれを垂らしながら、狂人そのものの顔つきで笑い続けていたアズラエルが、纏わりつく羽虫たちの苦労に甲高い笑い声を零して嘲蔑する。
 濁りきった瞳の中に高速で飛びまわるクオルド隊各機を認め、アズラエルは両手の人差し指を添えたトリガーを引いた。

 

「来るぞ、各機回避しろ!」

 

 眉間に走るかすかな雷が、眼前の魔神の殺意を意味するものと悟ったラルフがウェンドラとヴィーパーに警告を発した。
 とある世界において、ムジカ=ファーエデン同様にニュータイプの素養を持ち、オーラバトラーからヘビーメタル、ウォーカーマシン、モビルスーツへの搭乗適性を持ち合わせ、天才と称されたエースの実力は、この世界においても同等のレベルを誇っていた。
 自分達よりも常に一歩も二歩も先に危機を察知し、確実に回避するラルフの能力に絶大な信を置くヴィーパーとウェンドラは、即座にこの警告に反応して機体の機動をランダムな回避運動へと変える。

 

「消ぃいいええええぇぇろぉおおおおおおぉーーーー!!!」

 

 アズライガーの体内で破裂するアズラエルの咆哮。死告天使の名を持つ狂人と破壊巨人はその名に相応しく、数千数万の死を一瞬で作り出す破壊を実行に移した。
 強烈な光をともす胸部。左右前方に扇状に開かれる十の指。背から飛び立ち四方八方へ砲口を向ける十二基のビームガンバレル。
 折りたたまれていた砲身を展開し、あらゆる場所に満ちるエネルギーを集束するターミナスキャノン。フライトユニットから延び、前方に角度が調整された陽電子破城槌ローエングリン。
 218基に及ぶ小型ミサイルを満載したマイクロミサイルを収めたランチャーが、周囲の蹂躙すべき哀れなゴミ屑へと向けられる。
 すでに百機を超すMSを物言わぬ残骸へと変えた悪夢の全力全壊の攻撃、アズライガー・フル・バーストだ。

 

 ラルフが眩い光を視認した時、コックピットのモニターの中から、世界を滅ぼすかのごとく苛烈な光があふれだした。
 脊髄を通って脳を埋め尽くす“死”の一文字。指先に至るまで満ちた死への確信を、かろうじて生存への欲求が振り払い、ラルフのプロヴィデンスは迫りくる閃光とミサイルの暴風雨の中を片時も止まる事無く動き続けた。
 さながら台風の只中で舞い踊る枯葉の様に翻弄されるプロヴィデンス。ほんのわずかな、瞬きをする一瞬でさえ、鋼の愛機の操縦を過てばそれが生死を分かち、肉片の一つも残さずこの世から消滅するであろう。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 自分でもわけのわからぬ獣の咆哮の様な叫びをあげながら、ラルフはついに破滅の光の嵐を乗り切った。わずか数秒の間の出来事が、数時間にも数十時間にも感じられる。
 アズライガーの放ったフル・バーストがもたらした疲労は、肉体的にも精神的にもかなりものだ。
 ヴィーパーとウェンドラの安全を確かめるべく周囲に目をやれば、ウェンドラの乗っていたフリーダムは、左手と左足を吹き飛ばされ、断面から白いスパークを発しつつも、かろうじて機体の制御を維持している。

 

「ちい、ウェンドラ、後方に下がれ! その状態ではアレの相手をすることなど到底できん!」
「了解、です。隊長……ヴィーパーが……」
「っ、分かっている!」

 

 ウェンドラが言わんとした事を、ラルフは苛立ちで満たした声で遮った。低く抑えた声ではあったが、その中に後悔と怒りの感情を聞きとる事はあまりにも容易い。ラルフの瞳は確かに映していたのだ。
 アズライガーの放ったターミナスキャノンの光の奔流の中に飲み込まれ、跡形もなく消し飛ぶヴィーパーのジャスティスの姿を。クオルド隊結成以降、初のMSパイロットの戦死者であった。
 失われた部下の命と、ヴィーパーが手にする筈だった未来の可能性を想い、ラルフは静かに怒りを燃やした。氷の彫像のように冷たさを帯びた顔に、確かな怒りの炎を揺らめかせ、ラルフはアズライガーと真正面から対峙する。

 

「ここで退く事はできん。一矢報わせてもらうぞ、怪物め!」

 

 機体の周囲に無数の下僕を従えて、ラルフのプロヴィデンスがアズライガーめがけて突進する。アズライガーが備えた防御兵装によってこちらの攻撃が通じぬ事は理解している。
 だが、先程ラルフの感じ取った殺意は、まるで子供の癇癪の様にでたらめな感情に満ちたものだった。理由は知らぬがあの機体のパイロットは、決してまともなパイロットではない。
 こうしてラルフが引きつけている間は、こちらにだけ注目し、ボアズへの侵攻を止めるだろう。
 鬱陶しい小蠅を追い払うかのように続けて連射される十条のスプリットビームガンの中を、散漫しそうになる集中力を束ねて回避し続け、ラルフはアズライガーのEフィールドが解除される一瞬を狙って反撃のビームを放つ。
 なにも馬鹿正直に分厚い装甲を撃つ必要はない。いかにこの化け物といえども狙い所はある。そう、例えば、高出力のビームを放つ直前の砲口。

 

「狙いは外さん」

 

 プロヴィデンスに向けられたアズライガーの右腕の先にある五つの指先に、光がともり始めるその一瞬、神経を研ぎ澄ましたラルフの瞳が射抜く。引かれるトリガー。
 放たれたビームは確実にアズライガーの五指を撃ち抜き、たちまち右手首から先を爆発の中に飲み込んだ。
 明確に与えられた初めてのダメージは、アズライガーのパイロットであるアズラエルだけでない、散散に痛めつけられたザフトの諸兵にとっても大きな衝撃をもたらした。
 報いた一矢に油断する事無く、ラルフは凍てついた湖を通しているように冷徹な瞳で、動きを止めたアズライガーへ、ドラグーンで囲った光の檻を形成する。

 

「百を超す光の矢に撃ち抜かれるがいい!!」

 

 ラルフの叫びと共にアズライガーへ次々と着弾するドラグーンのビーム。瞬く間にアズライガーの巨躯を埋め尽くし、破壊王の姿を光の牢獄へと閉じ込める。ドラグーンの充電が切れるまではいくらでも撃ちこんでくれる。
 ラルフはドラグーンとプロヴィデンス両方の操縦の負担を堪えながら、いかなる脱出の前兆も見逃すまいと、光の中に捉えたアズライガーの姿を注視していた。

 

「何という装甲だ。連合の特機は化け物かっ」

 

 無数のビームの直撃を受けるアズライガーに目立った損傷がない事が、ラルフの背筋に氷のように冷たい冷や汗を流させた。
 PS装甲、TP装甲、ゲシュマイディッヒパンツァーと連合が開発した、防御系統の技術はザフトの先を行く先進的なものだったが、このアズライガーは既存のそれらを上回る技術が使われているのだろう。
 それでも同箇所に無数に突き刺さるビームは、確かにアズライガーの装甲にダメージを蓄積させ、蟻の群れが山を削るような徒労感をラルフに与えながらも、徐々に効果を表そうとしていた。
 そして、そのアズライガーに明確なダメージが表出する、数瞬前、アズライガーの操者ムルタ・アズラエルの精神もまた数度目の決壊を迎えていた。

 

 絶対無敵の完全勝利の存在であるはずの、このぼくのおもちゃが。アズライガーが損傷を負った?
 あんな、遺伝子操作のバケモノ共の作ったMSなんかの攻撃で? 
 このぼくがアズライガーがムルタ=アズラエルがアズライガーがアズラエルがアズライガーがガガGaGAAgaが…………。

 

「お、おまえええええーーーーー!!!」

 

 血走り赤く染まったかのようなアズラエルの濁った瞳を、さらに濁す憎悪憎悪憎悪憎悪! 嫉妬し憎悪し軽蔑し侮蔑し羨望したコーディネイターへ向けられるアズラエルの、積年の怨念。

 

「倍、返し、だあーーーーーーー!!!」

 

 暴風の真っただ中の様に降り注ぐドラグーンのビームを、アズライガーの中心に球形に展開されたEフィールドがすべて弾いて見せた。同時に両腕部のゲシュマイディッヒパンツァーも最大出力で展開する。

 

「馬鹿な!?」

 

 驚愕するラルフの叫びを切り裂き、その血肉を抉る為にアズラエルは猛烈な反撃をアズライガーに命じる。ぐっと突き出されたアズライガーの右膝で、唸りを上げて回転する超巨大なドリル!

 

「超巨大回転衝角カラドボルグ!! PS装甲展開!! 貫いて抉ってぶちまけロォオオ!!」

 

 灰色のカラドボルグのドリル部分が通電によって相転移し、金色に輝く。ドリル内部に小型バッテリーを搭載しフェイズシフトする事によって無類の硬度を得る、コスト度外視の頭のネジの外れた武器だ。
 しかもそれが、膝との接合部から巨大な炎を噴いて射出されるのだ。瞬時にマッハまで加速した巨大なドリルに、ラルフは呆然としていた自意識を引き戻してかろうじて回避に成功する。
 プロヴィデンスを貫けなかったドリルは、そのまま回転数を上昇させながら飛び続け、はるか遠方にあったナスカ級のどてっ腹に直撃し、船体の上げる金切り声の断末魔を道連れに内部で爆発を起こす。
 カラドボルグの直撃からきっかり二秒。ナスカ級の姿は無数に千切れ、捩じくれた残骸へと変わり果てていた。直撃したならば戦艦さえも問答無用で轟沈させる、たった四発の、しかし恐るべきドリル。
 ラルフがコックピットの中に響くアラートに気づけば、すでに目前百メートルの位置にまで迫り、残る左膝の二十メートルはあろうかというドリルを回転させながら突っ込んでくるアズライガーの姿があった。
 今度は射出せずに直接ドリル付きのひざ蹴りをプロヴィデンスに見舞い、スペースデブリに変えるつもりのようだ。
 あんなものの直撃を受けたら、如何に核動力機のPS装甲といえども、供給される電力を上回る消費量でたちまちフェイズダウンして、猛烈な回転の中で万単位の破片に砕かれるだろう。

 

「冗談ではない!!」

 

 機体に回避行動を取らせながら、先程のナスカ級の様子からドリル内部の爆発物を狙えば、と考え付いたラルフがアズライガーの左膝で大回転中のカラドボルグにドラグーンのビームを殺到させた。
 四方八方から放たれたビームは、ラルフの精密な狙いに従ってアズライガーの左膝と両肩にある巨大ドリルへと突き刺さり、それぞれ回転するドリルの前に無数の飛沫に変えられて散った。
 通常の装甲に比べビームに対し耐性を有するPS装甲が、超高速で回転する巨大な質量と化した時、それは生半可なビームなど問題にせぬ破壊の螺旋を描くのだ。

 

《おおあああああーーーー!!》
『ゲームオーバーだってのぉおお!!』

 

 すでに自我の無い筈のゲーザと、凶気に塗れて堕ちて、朽ちたアズラエルの精神がカルケリア・パルス・ティルゲムと、ゲイムシステムによって悪魔の迎合を果たし、ソレは腐臭の如き怨嗟を吐きながら増殖していた。

 
 

 一方、アズライガーとアズラエルの状態をモニタリングしていた、シンマニフェルのアードラーとアギラは、加速度的に上昇してゆくアズラエルの精神状態の壊滅に、しかしなんら焦った様子を見せてはいなかった。
 試験管の中の、予測通りの結果を見つめる科学者の様に冷たい眼差しで、アードラーはアームレストに備え付けられたモニターを見つめている。同じものを見ているはずのアギラも様子は変わらない。

 

「損害を与えられた事を切っ掛けに一気に興奮状態が増したの。さっきまで射精寸前まで性的に昂った欲求を破壊衝動に変えて、今はあのザフトの機体に向けておる」
「ふむ、まあ予見できたことではあるの。鎮静剤でも投与するか?」
「なに、目の前のあれを壊すまでは保つじゃろ。それにアズラエルの頭の中身のバックアップも取ってある。親しいものは違和感を覚えるかもしれんが、それでも十分じゃよ。わしらの人形にはの。ところでヴァルシオン改とベルゲルミルの二人はどうじゃ?」
「こいつらはこいつらで優秀すぎて詰まらんわ。すでに邪魔してきた核動力機を沈黙寸前まで追い詰めておる。じゃが、確かテストで念動力に似た妙な力を持って負った筈じゃ。それの所為か予測値よりも精神と肉体の耐久性が高い。
 今後もゲイムシステムのモルモットには最適じゃろうて。どうじゃ? 折を見てこの二人の精神を多少弄くってみるのも? なにか面白いデータが取れるかもしれん」
「よかろう。考えておくわい。さて、そろそろ決着がついたかの?」

 

 自分達を得体の知れぬ、人の形をした別のナニカの様に見つめているサザーランド大佐の視線には気づかず、二人の悪魔は淡々と自分達の研究成果と今後の展望について語り合っていた。

 
 

「ぐううう!?」

 

 かろうじて回避の間に合ったプロヴィデンスの左腕をかすめた超巨大なドリルに、フェイズシフトしている左腕をシールドごと粉砕され、その破壊の伝導に機体を吹き飛ばされながら、ラルフは奥歯を食い縛って耐えた。
 二発目のカラドボルグが射出された事で、アズライガーの両膝から特徴的であったドリルが消えた。
 コンマ五秒で機体の姿勢制御を取り戻し、常に視界の中に入れておいたアズライガーへ残るドラグーンの一斉砲火を加える。狙いはメインカメラのレンズやスラスター、バーニアなどの噴射口に先ほどと同じ大口径火器の砲門だ。

 

《馬鹿のぉぉおお》
『一つ覚えが通じるかってのおおお!!』

 

 再び重なるゲーザとアズラエルの叫び。限りない憎悪と飽く事の無い侮蔑と共に吐かれた言葉は、信じ難い複雑な高速機動によって表現され、降り注ぐ、という表現を用いるしかないドラグーンのビーム・レインの半ばを無意味なものにする。
 捕らえるにはあまりに容易いと見えるアズライガーの巨躯にかすりもせずに暗黒の宇宙に消えて行くビームの雨。
 事ここに至り、アズラエルの狂気に触発されて覚醒したゲーザの闘争本能が、アズラエルにアドバンスド・チルドレンと称された機動兵器などの操縦に優れた適性を見せる異能の子らに匹敵する反射速度を与える。
 常人の肉体では到底耐えられぬ殺人的なGを、何重にも備えられたGキャンセラーとヴァイクルから得たゼ・バルマリィ系技術における重力操作によって打ち消し、アズライガーは駆け抜ける間に七つのドラグーンを撃ち、握り潰し、蹴り飛ばして破壊する。
 全速力で追いかけてくるアズライガーを引き離そうとプロヴィデンスを操るが、それよりもなお早いアズライガーは徐々にその距離を埋めていった。
 やがて、わざと射程内に捉えながらも、獲物を精神的にいたぶろうと追いかけ回す事に飽きたゲーザ≒アズラエルの意識が、プロヴィデンスの破壊を決定した。
 すでにドラグーンの無い相手、ビームガンバレルが落とされることも無いと判断し、十二基のビームガンバレル全てを起動し、複雑な回避行動を取っていたプロヴィデンスを包囲してみせる。

 

「くっ、私ともあろうものが、ここまでかっ!!」
《終わりだあ!》
『はっはあ、ぶっ壊れナア!?』

 

 その瞬間、放たれた無数のビームが、ビームガンバレルを一機残らず貫き、さらにアズライガーに二十以上のミサイルが殺到した。なすすべなく全弾の直撃を受けながらも、無傷のアズライガーが、わずかに動きを止める。
 九死に一生を得たラルフは、レーダーの反応から救い主が誰であるかを悟った。

 

「漆黒のジャスティス、エルザムか!!」
「遅れた分はこのトロンベと共に取り返すぞ、ラルフ」

 

 配属されたヤキン・ドゥーエから、エターナル級二番艦ウィクトリアと共に全速力でボアズへと到達したブランシュタイン隊隊長エルザム=V=ブランシュタインと、その愛機ジャスティス・トロンベだ。
 追加武装であるミーティアを装備し、マルチ・ロックオンを駆使してアズライガーのビームガンバレルを一度に狙撃し、破壊したのだ。わずかに遅れてエルザムの実弟ライディースの乗る、ミーティア装備のフリーダムの姿も確認できた。

 

「借り一つか」
「駆け付けたのは我々だけではない。DCの部隊もかろうじて間に合った」
「あれは……」

 

 ウィクトリアやナスカ級といった高速艦艇と共に姿を見せているのは赤火の如き船体を持つ地球圏最強の戦艦スペースノア。

 

「噂のクライ・ウルブズか?」
「いや、クライ・ウルブズはヤキンだ。彼らはサイレント・ウルブズ。クライ・ウルブズにも劣らぬ群狼だ」

 

 アズライガーへの警戒を維持しつつ、スペースノア級二番艦アカハガネへ目線を向けるラルフの視界に、いくつもの機影が光の尾を引きながら徐々にその姿を大きく露わにしていった。
 その先頭を行く白銀の巨躯を持った、兵器と言うにはあまりに美麗な風騎士の主が、周囲の地球連合軍を威圧するかのように叫んでいた。

 

「死にたくねえ奴はかかってくるんじゃねえぞ! 今のおれは手加減出来ねえからな!」

 

 ミラージュコロイドとステルスシェードによって隠蔽していた宇宙要塞アルテミスより、急遽出撃したサイレント・ウルブズと、風の魔装機神サイバスター、そしてその操者マサキ=アンドーである。
 静かなる狼達が、ザフトを貪りつくさんとする人造の破壊神アズライガーへと、その顎を開きつつあった。

 
 

――続く。