第4話「神聖十字軍の残身」
出撃してきたDCの迎撃部隊に対峙しているシロガネから、
アルトアイゼン、ヴァイスリッター、アンジュルグ、ヒュッケバインMK-2、ビルトシュバインのATXチームの5機が出撃していく。
他方のDC残党軍もAM隊だけでなく戦闘機や戦車も出撃させてシロガネを迎え撃たんとする。
「あれはガーリオンに…それとバレリオン、リオン、ランドリオン…あの戦車と戦闘機は何だ?」
そんな中でシンはこの世界での初陣とあって敵機の機体を確認していた。
エルザムと行動をともにしていた時にエルザムの黒い機体、ガーリオントロンベやヒュッケバインMK-2トロンベ、
ゼンガーのグルンガスト零式を目にしたことはあったが、それ以外の機体を見るのは初めてであった。
そんなシンには関係なくライノセラスのアーチボルドより出された指示でDCは攻撃態勢に入る。
そのときヒュッケバインMK-2のブリットが突如、DCに対して通常周波数での通信を入れた。
「待て!お前達も東京宣言を聞いただろう!今は地球人同士で戦っている場合じゃないんだぞ!」
「ブ、ブリット君!?」
その突飛な行動にエクセレン、それにラミアも顔色を変える。
「おやおや、若い……それに熱いですねぇ」
他方、DC側のアーチボルドはブリッジの肘掛に肘を乗せ、紅茶をすすりながら鼻で笑う。
「俺達の敵は同じはずだ!こんなところで戦力を消耗するなんて無意味だ!
あんた達も地球圏のことを考えているのならすぐにこの戦いをやめろ!」
かつての戦いを通じ異星人の脅威を、身を以って知っているブリットは、その若さも相まって
いまだに地球人同士で争いを続けている現状を見過ごすことはできなかった。
「フッ……真顔でああいうことを言える人間がまだいるとはね。ですがあの手の類は無視するに…」
「連邦のパイロット、1つ言っておくぞ」
(ユウキ君?やれやれ、君も律儀ですねぇ)
一方、思わぬ部下の行動にアーチボルドは少し噴き出した血の色のような液体をハンカチで拭きながらため息をついている。
「お前達では地球圏を守ることなどできん」
「何!?」
「L5戦役では運で勝利を得たようなものの、お前達連邦軍の対応の遅さゆえに犠牲となった者達の存在を知らぬわけではあるまい?」
ユウキの脳裏にはエアロゲイターの機動兵器により焼き払われていくサンディエゴの街の様が蘇る。
そしてその様は最前線で街の防衛に当たっていた彼に、
地球圏の防衛を連邦軍に委ねることはできない、との決意をさらに強固のものとさせていた。
「だから、あの後、俺達は…」
「手段や方法の問題じゃない。お前達では無理だといってる」
「!」
「次の戦いはもう始まっている。俺達がここで相間見えたようにな」
「だからといってまた新たな犠牲を生み出す気かよ!」
「犠牲は…俺達で充分だ」
「な…に!?」
ブリットは思わぬ反論に絶句するが、そこに今まで口を閉ざしていたシンが通信に乱入した。
「ふざけるな!犠牲があんた達だけで済むはずがないだろ!軍人以外誰も死なないとでも思ってるのか!?」
戦争に巻き込まれるのは軍人だけではない。
それは、オーブでフリーダムの戦闘に巻き込まれて家族を失ったシンの、
戦いを始めた原点にあることである。
「俺達だって民間人を傷つけるつもりなどない!お前達連邦に任せておいたのではそれ以上の犠牲が出るのだと言っている!」
「だからって戦争を起していい訳ないだろ!俺はあんた達のやり方を認めない!」
「お前達に認めてもらおうなどとは考えていない!」
「シン、そこまでだ。少なくとも俺達は戦争をしている。どっちが正しいかは自分で証明してみせろ」
アルトからであった。モニター越しに見えるキョウスケの目は既にDC軍を真っ直ぐに睨みつけている。
そこから伝わってくるキョウスケの意思が伝わらないほどはシンは鈍くない。
「アサルト5、了解…」
「気にするなとはいわんがもっともでもある。それに俺達が戦うことで実際の犠牲を最小限にすればいいだけのことだ。
各機、準備はいいな?俺とエクセレンはフォワード、シンとブリットは俺達のフォロー、ラミアはシロガネを頼む」
「「「「了解!」」」」
キョウスケの合図とともに5機が動き出し、DCも攻撃を開始する。
だがその機先を制するようにリオンやDCの戦闘機ソルプレッサの部隊の前を、ヴァイスリッターの3連ビーム砲が通り過ぎる。
回避行動に移ろうとした部隊であるが、機体のアラートが敵機の接近を知らせたときにはもはや手遅れであった。
並みのパイロットを遥かに越えた踏み込みの速さで敵機郡の目の前にアルトアイゼンが現れる。
それに対してDCの部隊も散開を命ずるが、
その指示が発せられたときにはアルトアイゼンの肩部に備え付けられたスクエアクレイモアが放たれようとしている。
「固まっていたのが運の尽きだったな。これだけのベアリング弾、抜けられると思うなよ!」
そして運良くクレイモアの範囲から外れていた機体も遥か遠くから、しなる鞭のような動きで
襲い掛かってくるビームに切り裂かれていった。
「ふふん、油断しちゃだめよん」
実弾とビーム砲の両方を打ち分けられるオクスタンランチャーを振り回して構える
ヴァイスリッターのコックピットでエクセレンが微笑む。
そしてこの攻撃によりできた敵部隊の隙間へとアルトアイゼン、ヴァイスリッターが進んでいく。
「な、なんて突っ込み方だよ!」
前線に取り残されたソルプレッサやフュルギアにメガビームライフルを打ち込むビルトシュバインの中でシンが呟いた。
「シン!続くぞ!」
「わかってる!」
自機の横を駆け抜けていくヒュッケバインMK―Ⅱのブリットに負けじと、
シンもビルトシュバインで切り込んで行く。
他方、ユウはATXチームの動きに歯をくいしばる。
「ちっ!突撃はお手の物ということか!」
そう言うとユウは味方の部隊に次の指示を出す。
「カーラ、お前はソルプレッサを連れてシロガネを潰せ。フュルギア、バレリオンはライノセラスのガード、
リオン、ランドリオン各機は俺に続け!隊長機を落とす!」
「ユウ!」
「来るぞ!行け!」
「うん、わかった!」
既に彼の視線の先には戦場を真っ直ぐに斬り込んで来るアルトアイゼンの姿がある。
そしてユウはガーリオンカスタムにバーストレールガンを構えさせ、アルトアイゼンの前に立ちはだかった。
「ATXチーム…その実力、見せてもらうぞ」
「見たければ好きにしろ。だが逃しはしない」
アルトに向け放たれたレールガンをキョウスケは機体を横に滑らせてかわし、お返しとばかりにマシンキャノンを撃ち込む。
だがそれは読まれていたかのように上空に移動したガーリオンに回避されてしまう。
しかしキョウスケもそれでは終わらない。
機体のバーニアを噴かせて上空のガーリオンへ、頭部の角をさらに赤く染めたアルトアイゼンが向かっていった。
「伊達や酔狂でこんな頭をしてると思うなよ!」
「そうそうお前達の思うとおりにいくと思うな!」
迫り来るアルトのヒートホーンをガーリオンはアサルトブレードで何とか受け止めるが、ATXチームの攻撃はまだ終わらない。
「!?」
何かを感じ取ったユウは咄嗟にガーリオンを後退させると、数瞬前までガーリオンがいたところにビームの雨が降り注いだ。
ビームの先に目をやれば、そこにいるのは当然ヴァイスリッターである。
「さあってと、色男ちゃん?ブリット君だけじゃなくて、私の相手もしてみない?」
(何だ、この女?)
訝しがるユウであったが、さらに別の砲撃が部下のリオン達を飲み込んだ。
「少尉!こっちは俺達が引受けます!キョウスケ中尉の所へ!」
エクセレンの下にブリットからの通信が入り、
それを聞いたエクセレンは即座に、既にライノセラスへと向かっていたキョウスケの後を追う。
ユウはそれを抑えようとするが、その目の前にもう一発、Gインパクトキャノンが撃ち込まれた。
「バニシングトルーパーめ!いや、伊達にDC戦争やL5戦役を生き抜いてきた訳ではないということか」
「犠牲は自分達だけで充分だと言ったな?どういう意味だ!?」
「それを教える必要はない。だが、己の無力さを思い知ってもらおう」
そういうとユウは再びバーストレールガンを構えさせてヒュッケバインMK-Ⅱへと放つ。
対して、Gインパクトキャノンを放り投げたMK-Ⅱも、フォトンライフルに持ち替えてそれに応戦する。
その時、両者の目先に何らかの感覚が生まれ、まとわりつくような不快感がブリット、ユウの両者を襲った。
「そんな間合いで俺に当てられるものかよ!…何だ!?」
「!?この感覚…非常識な」
「聞け!俺達の敵は同じはずだ!それはお前も分かっているだろう!」
「だがそれをお前達がどうにかできるとは思えないと言った!」
「ふざっけるなぁぁ!」
突如として乱入してきた声に2人が、その主へと目を向ける。
そこにいたのは、ミサイル郡を潜り抜け、上空へと蹴り上げと蹴り上げたランドリオンを、
左腕部固定武装サークル・ザンバーで斬り捨てたビルトシュバイン。そのパイロット、シン・アスカ。
「異星人が来るってならそいつらから守らなきゃならない人達がいるだろ!」
「だからお前達ではそれを守りきれないのだと言っている!」
理不尽な暴力から傷つく人達を守りたい、それがシン・アスカの戦いの原点である。
だからこそ、シンはデスティニープランに問題があることをわかりつつも、ギルバート・デュランダルについた。
新西暦の世界でも、DCの起こす戦争により結果として関係のない人々まで傷ついてしまう、それを彼は見過ごせなかった。
シンは再びメガビームライフルを構えさせてガーリオンへと向かっていく。
「連邦に与していても本懐は遂げられんぞ!」
「遂げてみせる!今度こそ!!」
「今度こそだと!?ならば連邦にいて何になる!」
ライフルのビームをかわしながらも体勢を整えたガーリオンのレールガンが、ビルトシュイバンのライフルを撃ち抜く。
なおも向かってくるガーリオンに応戦すべくシンはサークル・ザンバーを構えるが、それをブリットが遮った。
「突っ込みすぎだぞシン!相手はエースだ!」
「邪魔するな!奴が早いことくらいわかってる!」
「戦場で仲間割れとは余裕だな!」
ブリット、シンの隙を逃すユウではなく、ガーリオンのテスラドライブの出力を上昇させ、ターゲットを定める。
そして機体の前部にブレイクフィールドを発生させると、Mk-Ⅱ、ビルトシュバイン目掛けて突っ込んでいった。
とっさに機体を下げることで2人とも直撃は避けたものの、ソニックブレイカーの一撃で
Mk-Ⅱのフォトンライフルは吹き飛ばされてしまった。
「くそ!だがこのままでは…」
「でもどうするんだよ!あんなスピードで動かれたんじゃザンバーでも捉えきれないぞ!」
「動きなら俺がなんとしてでも止める。そのあとはお前に任せるぞ」
「止めるって…おい!くそ!」
シンの突っ込みを無視して今度はMk-Ⅱがガーリオンへと突っ込んでいき、ビルトシュバインもそれに続く。
MK-Ⅱはそのまま腕に備えつけられたチャクラム・シューターを放つが、それはあっさりとガーリオンに回避されてしまう。
他方のガーリオンはそのまま再びブレイクフィールドを展開し、今度は狙いをMk-Ⅱに絞り襲い掛かった。
しかし、Mk-Ⅱはそのまま回避行動を取らずガーリオンの前に立ち塞がり続ける。
「これで終わりだ!」
「俺がこれで終わると思うなよ!グラヴィティウォール、展開!!」
ソニックブレイカーの直撃の寸前、Mk-Ⅱは機体の前に重力障壁を発生させてガーリオンを受け止める。
「うおおおおおぉぉぉ!!!」
「何!?」
付けた勢いでMk-Ⅱを押し続けるガーリオンだったが、予想だにしない行動にユウにも戸惑いが生まれる。
ガーリオンも止まりはしないが、そのスピードは大きく落ちてしまっている。
そしてそれをシンも逃しはしない。
Mk-Ⅱの影から現れたビルトシュバインはサークルザンバーを既に展開し、ガーリオン・カスタムへと斬りかかる。
「はあああぁぁぁ!!」
気合一閃。振り下ろされたザンバーの刃がガーリオンの左肘・膝から先を斬り裂いた。
「チィッ!噂に違わぬ実力だな、ATXチーム…!」
「まだだぞ!肉を切らせて…骨を絶つ!」
ガーリオンはなんとか空中へと逃れるが、Mk-Ⅱの右手に握られたビームソードがガーリオンへと迫っていく。
だが、Mk-Ⅱのすぐ目の前を、後方から新たに現れた、
正確に言えばシロガネの方向から戻ってきたガーリオンが放ったレールガンが通り過ぎ、その足を止めた。
「新手か!」
「ユウ!今のうちに下がって!」
「カーラか!?シロガネはどうした?」
「他の機体はやられちゃったよ!あの特機、半端じゃないんだもん!」
カーラの視線の先に映るのはイスルギ重工の試作機だというSMSCアンジュルグ。
その手先から放たれる光の矢は正確無比な射撃でソルプレッサの機体を打ち抜いていた。
「…撤退するぞ。また会おう、連邦のパイロット」
ユウはそう言い捨てるとカーラのガーリオンとともに後退していく。
そのスピードはMK-Ⅱやビルトシュバインでは追いつけないものであるため追撃はできなかった。
「ふふふ、やっぱりあなた達とは長い付き合いになりそうですね、ナンブ君」
その頃、アルトとヴァイスの集中攻撃にさらされたライノセラスから脱出したアーチボルトは、
再戦を匂わせる台詞を言い放ち、ブーストドライブであっという間に戦場を後にした。
自動操縦でシロガネに突っ込んでいったライノセラスはさらなるアルト・ヴァイスの集中攻撃と、
シロガネの艦砲射撃により撃沈され、メキシコ高原での戦闘はシロガネの勝利に終わっていた。
「ブリット、だったっけ。…助かったよ」
「いや、お前のフォローがなかったらどうなっていたかわからないさ。
今、俺達が地球圏の内部どうしで争ってるわけにはいかないしな」
「はは、そうだな…」
ソニックブレイカーのダメージで仰向けに倒れているMK-Ⅱに手を差し伸べながらシンは少し微笑んでいた。