SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第35話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 01:00:33
 

第35話「決戦!闇騎士 VS 無限正義」

 

 シロガネの後部格納庫の壁をぶち破って飛び出したラミアのアンジュルグ、そしてシンが手に入れた新しい力であるヴァイサーガであったが、そのシロガネはシャドウミラーの先行部隊の制圧した基地へ間もなく到着しようとするところであったため、基地からは緊急発進したエルアインスとゲシュペンストMK-2がシン達の迎撃に向かってこようとしていた。

 

「ラミアさん!」
『バックスは任せてもらおう』
「お願いします!」

 

 そう言ってシンがヴァイサーガの手に握られた剣、五大剣を構えさせると、それに先んじて脇にいたアンジュルグの腕部から4条の光の矢シャドウランサーが放たれる。
 命中させるため、というよりも他の目的――敵の動きを牽制することを目的に放たれた攻撃は、その狙い通り迎撃に向かってきたエルアインスとゲシュペンストを回避のために散開させる。
 そしてヴァイサーガはそのうちの先頭にいた一機、両肩のビームキャノンと背部搭載型テスラ・ドライブを備えたアルブレードの改良進歩機エルアインスに向かって突っ込んでいく。
 シンがこれまで乗っていたデスティニーやビルトビルガーよりも一回りほども大きい機体サイズのヴァイサーガであったが、そのスピードはそれらの機体と同等か又はそれ以上のものであり、搭乗しているシンがその速度に最も驚いていた。
 そしてヴァイサーガは、エルアインスが接近に気付くのとほぼ時を同じくして、一瞬の光とともにその脇を通り過ぎる。
 左上段から右下段にかけて振り下ろされた五大剣の刃は自分の機体がやられたのだということも認識させずにエルアインスを二つに分断し、エルアインスはまもなく大きな爆発となって姿を消した。
 続けてシンが近くの敵機に目をつけると、ヴァイサーガは両腰部に備え付けてある列火刃を左腕が素早く抜き取り、僚機の撃墜に狼狽する2体に向けて投げつける。
 その2機は、あまりにもあっけなくエルアインスが撃墜されたことに狼狽していたため、ヴァイサーガの投げつけたうちの1本は頭部に命中して破壊、もう一本はコックピット直撃こそ免れたものの、下腹部付近に直撃してバランスを失い、海上へと落下していった。
 他方で、離れた距離にいたゲシュペンストがビームライフルの照準をヴァイサーガに合わせてその引鉄をひく。
 だが、ヴァイサーガはそれを回避するそぶりも見せずに、ビームに対して機体をやや横に向けると、放たれたビームは機体に突き刺さる前に、背部で風になびいている真っ赤なマントに軽々と振り払われてしまった。
 ビームコーティングの施されたシールドとしても使える特殊な素材で作られたヴァイサーガのマントは、通常のメガ・ビームライフル程度の威力であれば機体本体にダメージを通すことはない。
 極めて近く、限りなく遠い世界のテスラ・ライヒ研究所でソウルゲインとともに建造された特機であるヴァイサーガは、他の大多数の特機ほどの群を抜いた防御力・耐久力こそ備えないものの、それを補っても余りある機動性と追従性を有している。
 ただ、他の特機と同様に対多数の戦闘を考慮しつつ、高い機動性を両立させるために備えつけられたのが背部のマントなのである。
 しかし、ヴァイサーガは連続して放たれるビームをこれ以上受け止めることはしなかった。
 再び五大剣を両手に構えると、一直線にビームを放ち続けているゲシュペンストへ突撃していく。
 その動きは放たれるビームに対し、機体を上下左右に必要最低限の僅かな動きで回避しながら距離を詰めていくというもので、シンが得意とする接近方法である。
 C.E.世界ではインパルスとデスティニーでデストロイの大火力を掻い潜り、この新西暦の世界ではビルトシュバイン、そしてビルトビルガーという機動性が強みの機体で、凄まじい力をその身に秘めている特機と渡り合ってきたシンが得意とする戦法の1つであるといえよう。

 

「いっけぇぇぇっ!!!」

 

 シンの雄叫びとともにヴァイサーガのツインアイが輝き、さらにヴァイサーガの速度が増す。
 そして、ゲシュペンストがライフルを捨ててプラズマカッターを手に取る前に、前方に突き出された五大剣が敵ゲシュペンストのコックピット部分を貫いて串刺しにした。
 そして、ヴァイサーガがその剣を力強く横に振り抜いてゲシュペンストの脇を切裂くと、力を失ったゲシュペンストは地球の重力に引かれて落下を始め、その途中で爆発して姿を消した。

 

「この機体…ビルガーより速いのにパワーが全然違う…!」

 

 感想・実際に初めて乗る特機のパワーに驚きつつ、ラミアの方へと目を向けると、そちらもアンジュルグのミラージュソードがゲシュペンストを突き刺しているところであった。
 少し息をつくシンであったが、すぐに続けてコックピットに鳴り響く警報が新たな敵機の接近を教える。
 彼の視線の先にあるモニターにはもはや見飽きるほどに何度も見かけた鶏冠と背部の大型ユニットが特徴的な機体、インフィニットジャスティスの姿が映っている。
 その一方で、迎撃部隊の発進が急がれている基地の方でも見覚えのある機体、ソウルゲインが動き出そうとしていた。

 

「ラミアさん、マスタッシュマンをお願いできますか」
『……構わんが、慣れない機体で大丈夫なのか?』
「あの凸っ禿には返しておきたい借りが山ほどあるんですよ。それにアンジュルグだとあの再生能力付きの相手はしづらいでしょ?」
『……そうだな、それにソウルゲインが相手なら手の内はある程度わかる。こっちはまかせてもらおう』
「よろしくお願いします……じゃあラミアさんも気を付けてくださいね」
『了解した』

 

 そう言ってソウルゲインの方へとアンジュルグが向かっていくのを一瞬だけ見て、改めてシンは前を見る。
 インフィニットジャスティスは既にビームサーベルを抜いて戦闘準備をほぼ終えており、対するシンのヴァイサーガも剣を構えており、両者・両機ともに戦いの始まりを告げるゴングが鳴るのを待っている、とでも言うべき状態になっていた。
 しかし、戦いを前にしてシンは妙な心境に至っていた。
 これまで幾度となく行われてきたアスラン・ザラとの戦いの記憶が走馬灯のようにシンの頭の中を駆け抜け、これから始まるであろう戦いで何かの区切りのようなものがつくのではないかという予感がするのであった。
 それが乙女座のセンチメンタリズムか、ただの拘りかはわからないが、これから始まる戦いが特別なものだという根拠なき確信だけは否定できない。

 

『シン!馬鹿な真似はやめろ!』
「アンタ達だけにはそんな台詞を言われる筋合はない!」

 

 自覚の有無は別として覇王の唱える自由と正義につき従う者、覇王に刃を向けて幾度もの生き恥を晒し心折れそうになりながらも戦い続けることを選んだ者、決定的に相容れぬ者同士による戦いがまた始まった。
 サーベルを振り下ろすインフィニットジャスティスに対して、ヴァイサーガも斬撃を放つ。それぞれの剣が纏うエネルギーがぶつかり合って、干渉し合う。意地とエネルギーが火花を散らしながら互いを拒絶し合う。
 だが、数少ない特機のうちの1つであるヴァイサーガの方が地力では勝っていたようで、交わされた刃はパワーで勝るヴァイサーガによって徐々に押しこまれていく。
 それを嫌ったアスランは押し出そうとするヴァイサーガの力を利用して後方へと逃れて斬撃が届かないように距離を置く。
 そこへヴァイサーガが五大剣を振り上げて追撃をしかけようとするのだが、その前にはインフィニットジャスティスの背部から飛び出したファトゥムが立ちはだかり、マシンセルの力で巨大化してヴァイサーガの行く手を阻んだ。

 

「邪魔をするなあっ!」

 

 五大剣が振り下ろされて一筋の傷がファトゥムに生まれる。
 さらに振り上げられた刃が新たな、より深い傷をつける。
 闇騎士を阻む正義の壁に対して高速で繰り出される斬撃がダメージを積み重ねていき、マシンセルによる再生速度を斬撃によるダメージが上回り、やがて穴が開く。
 そして、その先にいるインフィニットジャスティスの姿が見えて、斬りかかっていこうとしたシンであったが、直後、その開いた穴の中、穴の先にいたジャスティスのビームライフルから放たれた数条のビームがヴァイサーガへと襲いかかった。

 

「!?」

 

 とっさに機体を下げながらランダムに機体を動かして回避行動を取ると同時に、背部の対ビームコーティング措置が施されたマントで機体を覆う。
 かすったビームが散り散りとなってコックピットの中のシンの目をチカチカとさせたが、なんとかビームから逃れるのに十分な距離を確保してヴァイサーガは態勢を整え直した。
 しかし、態勢を整えなおしたのは対峙するインフィニットジャスティスも同じである。
 さらにそのジャスティスを乗せているファトゥムはマシンセルの自己修復能力によって損傷の回復を完了して傷一つない状態を取り戻していた。

 

「クソっ!相変わらず…!」

 

 始末が悪い、厄介だという言葉を、歯を喰い縛って封じたシンは再びヴァイサーガを駆ってインフィニットジャスティスに向かって斬り込んでいく。
 機体を激しく動かしてビームを回避しながらジャスティスとの距離を詰めていくヴァイサーガに対し、C.E.世界においてはMS戦・肉弾戦を総合した戦闘能力では間違いなく最強クラスの実力を持つアスランは、現状の機体の性能差を踏まえて接近戦を嫌ったのであろう、片方の腕でサーベルを構えつつも、もう片方の腕で握ったライフルからビームを放ち、ビームが命中しないと認識するとすぐに足元のファトゥムをヴァイサーガに向かわせた。
 再び大きく展開したファトゥムがシンの視界を奪うのと同時に行く手を阻み、ヴァイサーガは斬撃を繰り出すのだが、今度は風穴が開く前にアスランが攻撃を仕掛けた。
 ファトゥムの影から突如として姿を現したインフィニットジャスティスはビームブーメランを投げつけ、さらにサーベルを構えてヴァイサーガへと向かっていく。
 ビームブーメランを五大剣で振り払うシンであったが、さらにそこへインフィニットジャスティスが迫る。 
 ビームサーベルを機体正面から振り下ろすと、それは五大剣で受け止められてしまう。
 この単調に見える攻撃に一瞬だけシンは油断した。
 油断を誘うべく繰り出された攻撃に続けて、ビームブレードを搭載した右脚がヴァイサーガへと襲いかかったのである。

 

「しまった!?」

 

 とっさにヴァイサーガの左腕でビームブレードの根元付近を掴ませ、力任せにジャスティスを投げつけようとするシンであったが、投げつけられながらもジャスティスの左脚を繰り出すと、その先端のブレードはヴァイサーガの装甲表面付近スレスレを通り過ぎていった。
 いま少し反応が遅かったならばやられていてもまったく不思議ではない攻撃に、特機を得てわずかながらはしゃいでいたシンは今の攻撃によって我に帰らざるを得なかった。
 改めてアスラン・ザラの勝負強さ・粘り強さと、機体各所に武器を持つインフィニットジャスティスのトリッキーな動きは、この世界においても文句のつけようがないほどに強敵であることをシンに再認識させる。

 

『もうわかっただろ、シン!今からでも遅くはない、投降して俺達と来い!』
「俺はアンタ…いや、お前達のやり方を認めない!そう言ったはずだ!」
『お前が欲しかった未来は俺達と同じはずだ、どうして俺達が戦わなくちゃならないんだ!?』
「『戦ってはいけない、憎しみあってはいけない』それを言いながら平然と戦ってる奴の言葉が信じられるか!」

 

 五大剣を振り下ろしたヴァイサーガの中でシンが叫ぶ。
 対するアスランもそれをビームサーベルで受け止めつつ、再び脚部のビームブレードで斬りかかる。

 

『やっぱりお前はまだ議長に騙されてるんだ!議長をあのままにしていては世界を…自由を殺す!』
「だから戦ってもいいかよ!結局、終わった戦いを最後に蒸し返したのはお前とフリーダム、それにラクス・クラインだ!」
『キラは戦いたくて戦ってるんじゃない!俺だって、ラクスだって同じだ!もう憎しみで戦うのはよせ、シン!』
「憎しみを振り撒く連中が言うな!それに…もし俺が憎しみを持つんだとしたら…それはお前達がいるからだ!」
『この大馬鹿野郎!』
「だったらお前はもっと馬鹿野郎だ!」

 

 本当にもう何回も繰り返されてきた同じようなやり取りをまたも繰り返しながらの攻防であった。
 次に来るであろう攻撃がシンの予想通り、脚部ビームブレードであったことから、片腕で剣を握りながら、もう片方の腕で腰部から列火刃を抜き取ってビームブレードを受け止める。
 そしてそれを力任せに弾き飛ばしたヴァイサーガは、ファトゥムに攻撃を阻まれる前に一気に攻撃を仕掛けようとするのだが、対するインフィニットジャスティスはビームブレードが弾かれるとすぐにヴァイサーガと距離を取り、ビームライフルでの牽制を行う。
 このアスランの徹底した一撃離脱戦法にシンはあることを理解した。
 ファトゥムは、再生する防御壁であるというだけでなく、その内側にいるアスランにどの方向から攻撃が繰り出されているのかを教える攻撃通知機能を果たしているため、普通に五大剣で斬撃を仕掛けたのではアスランに迎撃及び対処の時間を与えてしまうのである。
 純粋に機体が持っているパワーではヴァイサーガの方が勝っているが、マシンセルの自己修復能力があることからすれば持久力ではインフィニットジャスティスに軍配が上がる。
 中のパイロットの腕は互角…とシンとしては言いたいところであるが、「わずかながらに」相手のほうが上手であることは否定しがたい。
 まったくもって厄介で、なんといやらしい戦いをする、強敵であると感じられた。
 パワーで上回る機体に対し、機体の性能をフルに活かした戦いをしてきたのは、デスティニーでデストロイの大軍に立ち向かい、ビルトビルガーでソウルゲインやスレードゲルミルと接近戦を行ってきたシンに他ならない。
 だが、そうだとしたら相手の弱点を突くしかないとすぐに思考を転換できたのも、同じような戦い方をシンが幾度も繰り返してきたからであった。
 距離を置いたインフィニットジャスティスが放つビームを避けながらシンは必死に思考し、相手の弱点が何であるかを思考した。
 戦いが始まってから、インフィニットジャスティスは徹底して一撃離脱の戦法を繰り返し、攻撃を繰り出すとき以外には意地でも距離を取りたがろうとしていた。
 だが距離を詰めての戦いでファトゥムの防御機能が作用したことはほとんどない。ファトゥムに攻撃を阻まれたのは中~遠距離からの攻撃を仕掛けたときだけである。
 それを思い出したとき、一つの確信が生まれた。
 ファトゥムの防御壁は高い耐久力を持つものの、近距離戦での攻撃の応酬に対処できるほどの速度はない。
 そうならば、ファトゥムが発動する前に、一気にインフィニットジャスティスに直接攻撃を仕掛けるしかな い。
 そして、そこに思考が至ったとき、先ほど読んだ簡易マニュアルにあったヴァイサーガの能力を思い出した。

 

「アスラン!キラ・ヤマトの前にお前は潰す!今日、ここで!!」
『憎しみで戦うお前に俺は負けない!またお前を倒して無理矢理にでもキラ達の所へ連れて行く!!』
「ほざいてろ!ヴァイサーガ、フルドライヴ!!!」

 

 コックピットの中に響いたシンの声が機体に認識されると、機体及びパイロットの安全性のために設けられているリミッターが一時的に解除され、ヴァイサーガの出力が次第に上昇していく。
 機体の加熱を押さえるために気化した冷却剤は機体外に放出されて、背部のマントを激しくなびかせる。その様は抑え込んでいた闘気を解放し、纏う戦士を思わせて歴戦の戦士であるアスランにも圧迫感を与える。
 そして操者であるシンの瞳と同じ赤色をしたヴァイサーガのツインアイが一際眩く輝くと、両腕で剣を携えたヴァイサーガは先ほどまでとは比較にならない速度でインフィニットジャスティスへと斬り込んでいった。
 当然その行く手には覇王の正義の壁、マシンセルの力による自己再生能力と自動防御能力を備えたファトゥム01が立ちはだかる。
 しかし、ヴァイサーガとファトゥムが接触する直前、ファトゥムの前からヴァイサーガは忽然と姿を消し、インフィニットジャスティスの右脇に現れた。
 それに驚いたアスランはインフィニットジャスティスを後退させると同時にファトゥムがヴァイサーガとインフィニットジャスティスの間に立ちはだかるべくジャスティスの下へと戻っていく。
 しかし、ファトゥムが主の下へと帰還するより先に再びヴァイサーガは姿を消して今度はインフィニットジャスティスの直下に現れた。

 

「何だこのスピードは!?」

 

 当然のことながらヴァイサーガは転移の類を行っているわけではない。
 リミッターを外したことによる機動性の向上とパイロットの思考を機体動作へ反映させるダイレクト・フィードバック・システムが合わさることにより、ソウルゲインをも上回る最大戦速が生み出され、ファトゥムはおろか、アスランでさえ機体の姿を追うので手一杯になっていたのである。
 そして直下から五大剣を携えて向かってくるヴァイサーガが、インフィニットジャスティスをその斬撃の間合いの内に捉えた。
 それになんとか反応したアスランはとっさに機体を上昇させるが、振り上げられた刃は先端が辛うじて主の下へと到達したファトゥムの一部とインフィニットジャスティスの右足をビームブレードごと斬り裂いた。
 切断面から火花を散らすインフィニットジャスティスをアスランは上昇させながら、さらに速度を上げて周囲を激しく動き回るヴァイサーガの軌道を追うが、高級という形容では足りぬほどの質の高いコーディネイトを受けたアスランの動体視力ですら、徐々にヴァイサーガの姿を捉え損ね始めていた。
 再びインフィニットジャスティスの脇から斬りかかって来た闇騎士の刃に対してアスランは辛うじてビームサーベルを向けるが、繰り出された斬撃は機体の速度が乗っている分だけ相当の重さを持っており、マシンセルによって飛躍的な性能向上を遂げたインフィニットジャスティスのパワーでも対抗できない。
 結果として機体は後方へ弾き飛ばされるが、さらに追撃の斬撃が闇騎士から振り下ろされる。
 そこにはファトゥムが割って入ってきたことで追撃は免れることができたが、もう既にファトゥムの速度ではフルドライヴ状態ヴァイサーガの速度に対処できていないことはアスランの目にも明らかであった。

 

 一方、相手の速度を遥かに凌駕するヴァイサーガを駆っているシンであったが、決して彼にも余裕があるわけではなかった。
 リミッターを外し、さらにソウルゲインほどでないにしても高い追従性が実現するヴァイサーガのスピードはそれが最大戦速に近付いていくにつれてシンの体に小さからぬGを与えているのである。
 機動性がウリの機体を乗りこなしてきて、相応に体が適応できているはずのシンであっても、このまま最大戦速になったとして、長時間戦闘を継続するのは難しいと彼の直感が告げていた。
 だがここで、もうこれ以上、目の前にいる正義を振りかざした宿敵に負けるわけにはいかない、理由はどうあれ戦いを撒き散らし続ける者と戦うのだ、それらの決意が操縦桿を握るシンの拳に力を与えていた。
 そして機体が最大戦速に到達したことを告げると、正面から見舞った斬撃がジャスティスのサーベルにより防がれたヴァイサーガは再びインフィニットジャスティスの前から姿を消し、即座にその背後へと回り込んだ。
 しかし、慣れない、というよりも初めての機体での、最大戦速による体への負担がここで一瞬だけシンの闘志を上回った。
 ほんの一瞬だけ、瞬間的に機体制御が遅れたことで、ジャスティスの背後のヴァイサーガが剣を構えるタイミングがほんの僅かだけ遅れてしまったのである。
 だがシンは折れぬ心と気迫で再び闘志を取り戻し、機体を忌まわしき宿敵へと向けた。

 

「光刃閃!!!」

 

 腹の更に奥、心臓よりも更に奥にある、まさに魂ともいうべき場所からの叫びとともに、ヴァイサーガが構えた五大剣が光を反射して輝く。
 そしてファトゥムの自動防御も、サーベルによる防御も、脚部ビームブレードの迎撃も間に合わぬ速度でインフィニットジャスティスの懐へとヴァイサーガが飛び込む。
 この瞬間になってようやくヴァイサーガの接近に気付き、本能で自機を動かすが、直後に光となって機体と操者の全ての力を乗せた闇騎士の刃が振り抜かれた。
 最大戦速とともに光となった機体から繰り出される斬撃である、ダークナイトこと闇騎士ヴァイサーガの奥義
・光刃閃。
 機体が光となるのと同時に振り抜かれた、機体とともに輝く刃は無限正義の両腕ごと、腹部を基点に無限正義の胴体を上下に分断していた。だが、シンが一瞬だけ機体制御を失ったことがここで最悪の結果を招く。

 

「しまった!?」

 

 光となったヴァイサーガの繰り出した斬撃が通過したのは、インフィニットジャスティスのコックピットのわずか下であり、アスラン・ザラの本能による、機体を僅かに上昇させるという操縦を許してしまったのである。
 そして上半身の一部だけとなったインフィニットジャスティスは、光刃閃の勢いで弾き飛ばされながら、残された上腕部で辛うじてファトゥムにしがみつく。

 

『くっ…!シン、よくもジャスティスを…!』

 

 機体ごと両断されなかったのが奇跡に近いことをアスランは知る由もなく、敗れたことによる悔しさと無念さ、自分よりも格が下だと思っていたシンに敗れた怒りをにじませながら、機体を操作してファトゥムに離脱したシロガネへの帰還を指示すると、早々に戦場を後にした。
 一方のシンも、予想以上だった体への負荷からすぐにファトゥムを追跡することはできなかった。しかし、宿敵の撃破にわずかに心を躍らせながらもこれ以上、追跡をしようとはしなかった。
 まだ、戦闘は終わっていないからである。
 レーダーをチェックしてラミアのアンジュルグの位置を確認すると、シンはそこへとヴァイサーガを向かわせるべく、再び力強く操縦桿を握り締めた。

 
 

 (つづく)