≪アークエンジェル、降下開始!!≫
ハルバートンの声と同時にアークエンジェルの大気圏突入が始まる。
「降下開始!!機関40%、微速前進4秒後に姿勢制御」
アークエンジェル操舵手、アーノルド・ノイマンは慎重に大気圏降下の手順を踏んでいく。
徐々に降りゆくアークエンジェルを確認するとハルバートンは、
≪メネラオスより各艦コントロール、ハルバートンだ。
本艦隊はこれより大気圏突入限界点までのアークエンジェル援護防衛戦に移行する。
厳しい戦闘ではあるが彼の艦は明日の戦局のため決して失っては――≫
この第8艦隊に所属する全ての艦に対しての通信をアムロ達にも聞こえていた。
「この状況で、援護防衛線だと!?間違いなく全滅するぞ!!」
「アムロ大尉!?どちらへ・・・」
歯噛みしブリッジを出ようとするアムロを『主任』が呼び止める。
「Mk-Ⅱで出る!!あの人はどうやら第8艦隊を贄にしようとしている様だからな!!」
「アムロ大尉、冷静になってください!!こうなっては我々は一刻も早くこの宙域を離脱するべきです!!」
『主任』の言葉は暗に第8艦隊を見捨てる事を指していた。
「弁解の余地の無い失態を彼等は犯しました。全滅は彼等の招く結果に過ぎない事です!!
我々は今回、敵対派閥の失態という"成果"を得られたのです。ここで無用のリスクを冒す必要はありません!!」
彼女の言葉はおそらくは正しい。正しさというモノは得てして冷酷に見えるだろう。
だが、彼女がアムロの身を心から案じている事もアムロは感じ取っていた。
そして、それでも許容できそうに無い自分をアムロは自覚している。
「あそこで、もうハルバートン提督の命令だからじゃない。
ただ、生き抜こうと懸命に抗っている――仲間を・・・見捨てる事は出来ない!!」
その直後、メネラオスより通信が入る。
『主任』はある種の予感を感じつつもその回線を繋げるように指示する。
前面のディスプレイにハルバートンではなく副官のホフマンが映し出された。
≪メネラオス副長、ホフマン大佐だ。諸君等もすでに察している事と思うが
ハルバートン提督は第8艦隊を盾にしてでもアークエンジェルを地球に降ろすつもりだ≫
ここでアークエンジェル降下のために第8艦隊はただでさえ崩されている布陣を更に歪めるのだ。
それが引き起こす結果を鑑みるホフマンの声音は苦渋に満ち満ちていた。
ハルバートンが冷静さを失っていた事に気付けなかった事
そして、このような局面に到るまでアムロ達を有用に使えなかった事に対しても同様である。
≪アークエンジェル降下、そして直ぐに移行するであろう撤退のために貴官等に援護を頼みたい。
出撃の許可は私が出す、責任も私が負おう≫
――今更、勝手なことを!!
『主任』の怒りは当然のものだった。
今まで、再三の出撃申請を拒み続けておいて、いきなり態度を変え死地に飛び込めというのだ。
通信を今すぐ切断したい衝動を抑えるのに必死だった。
だが、彼女と異なりアムロはホフマンの意を汲んだ。
「了解しました。我々は一人でも多く月に帰すため――出撃します!!」
アムロはすぐさま了解し敬礼する。
ホフマンはアムロに対する認識はやはり誤っていたのだと気付かされる。
派閥だの風聞だのではなく先ず彼自身を見るべきだったのだ。
≪アムロ大尉、ありがとう。・・・すまなかった≫
そのまま回線は切れ、ブラックアウトした。
「そういう訳だ、出撃する。君達はどうする?初陣にはキツイものになってしまったが・・・」
アムロは振り向くとソキウス等に問いかける。
「僕達はこの日のために訓練を重ねてきました。出撃させてください」
「分かった・・・しかし、言っておくが・・・」
アムロは言葉に一拍おくと、
「君達にはまだ教えていない事が沢山残っている。――勝手に死ぬ事は許可しない」
そのアムロの言葉にイレブン達は今度こそ誰が見ても分かる静かな笑みを浮かべる。
ソキウスのナチュラルのために存在するという概念は他者に刷り込まれたものではある。
だが、決して間違ってはいないと確かにそう感じさせるものがあるのだ。
「分かりました。大尉の――大尉の命令に従います」
彼等は敬礼すると自分達の乗機へと流れていく。
「すまないな、勝手なことをしてしまって・・・」
「もう、いいですよ。きっと、貴方のそういう所にあの人も・・・」
『主任』は少し怒っている様な、それでいて喜んでいるような、そんな笑みをアムロに向ける。
「でも、無理はしないでください。我々には・・・ムルタさんには貴方が必要なんですから」
「ああ、分かった」
唐突にドレイク級護衛艦から通信が入る。
≪いけませんなぁアムロ大尉。我々の空戦隊を忘れてもらっては≫
ドレイク級護衛艦の艦長はシニカルな口調でそう口にする。
≪連合最強と名高い『白き流星』と再び同じ宇宙を飛びたがっている連中は大勢いるんだ。
この機会を逃したとあっちゃあ自分は袋叩きに遭いそうなんでね。無理矢理にでも支援させてもらう≫
遠慮してもついていきそうな勢いだ。そして、それはアムロ達の胸を打った。
「ああ、分かった。空戦隊の皆にアムロ・レイが感謝すると伝えてくれ」
互いに敬礼すると通信は切れた。だが、回線が切れてもなお繋がるものは確かに存在する。
「よし、出撃だ。下駄を出しておいてくれ!!」
第8艦隊の戦列を突破したデュエル、バスターがアークエンジェルに接近する。
≪イザーク、前に出すぎた!!俺達の任務はあくまで――≫
「うるさいっ!!」
アスランの声を遮りイザークは言い放つ。
アークエンジェルからは迎撃のためにストライク、メビウス・ゼロが出撃する。
「X-105 ストライク、メビウス・ゼロの発進を確認!!」
「この状況でか!?イザーク、ディアッカに対処させろ。アスランとニコルは戻せ!!」
「隊長、よろしいので?」
他のモビルスーツ部隊が第8艦隊の布陣の外郭を削っているなかアスラン等が突出しすぎているのは事実だ。
さらにデュエル、バスター二機はすでに奥に入り込みすぎており後退は難しい。
しかし、アークエンジェルを墜とす好機である事も確かだった。
「戦いとは敵味方共に誤謬を犯しそれが少ない方に勝利が転がり込むものだよ。
私は自分から結果の見えた間違いを犯す趣味は無い」
イザークはおそらくは止まらない。
今回は好きなようにさせる方がザフトにとってもプラスになる。
だが、大気圏突入という極限状態でストライクの、キラの存在はアスランに対しては最悪の事態を引き起こすだけだとクルーゼは踏んだのだ。
「敵、予備戦力に動き――何かを射出している模様です!!」
先陣の艦から送信されたノイズ交じりの映像からは薄っぺらい板の両側に巨大なブースターを取り付けたものとしか言えない物が二つ見て取れた。
「あ、待ってください・・・コレは!!敵艦からのモビルスーツ四機の発進を確認!!
ジン・タイプと思われるものが三、それに"G"と酷似したモビルスーツ――新型です!!」
「なんだと!!やはり、ヘリオポリス以外でも・・・」
――これは・・・いよいよ来るという事か、プレッシャー!!
来るべき時が来た事にクルーゼは己の戦慄と高揚を同時に認識した。
「よし――行くぞ!!」
Mk-Ⅱとソキウスの搭乗する改修型ジン三機は前方に浮遊するベース・ジャバーに接触すると空戦隊のメビウスと共に一気にザフト艦隊を突かんと飛び立つ。
ベース・ジャバーは、モビルスーツの長距離侵攻の脚となるプラットフォームだ。
むろん、これもアムロの知識を元に造られたものだが何故アムロがこれを"下駄"と呼ぶのかは彼以外には解からない事だった。
≪アムロ大尉、アークエンジェルの方は?≫
「俺達の機体に大気圏突入の機能は無い。あの高度では、もう彼等に任せるしかないだろう。
俺達は第8艦隊撤退のために可能な限り敵を崩す!!」
≪了解です≫
ソキウス等と入れ替わりにMk-Ⅱにメビウス隊からの通信が入る。
≪アムロ大尉、ヒヨコへの指導も結構サマになっているじゃあありませんか≫
≪それが例の新型ですか。ついに『白き流星』までモビルスーツかぁ≫
その言葉はモビルアーマー乗りとして時代が変革する寂しさを滲ませていた。
アムロは元々モビルスーツのパイロットだが彼等の気持ちは解からなくもなかった。
≪ところで、アムロ大尉も一口どうです?≫
「また、やっているのか?」
≪ええ、一番撃墜数の少ない奴が一杯ずつ奢りで≫
生命を掛け金とする不穏当な会話に聞こえるかもしれない。
だが、彼等には生命を弄んでいるつもりは無い。
いつの日か戦闘の中で愛機もろとも火球となるその時まで
せめて陽気さを失わない生き方をしたいと思っているのだ。
「それに参加する気はないよ。趣味じゃないしな。だが、生き残った全員に俺のとっておきを開ける」
≪を、それって例の人からの?≫
「ああ、木箱入りの極上品だ」
通信が歓声で埋め尽くされる。
そうしている内にいよいよ戦闘空域まで僅かとなった。
空気が変わる。全員がスイッチを切り替えたのだ。
「あれが、戦場の光か・・・」
≪ルーキーども、背中はしっかり守ってやる。生き残れよ!!≫
「はいっ!!」
ソキウス達は迫り来る光に意識を集中させた。
アムロ達の動きは当然の事ながらメネラオスにもキャッチされる。
「んッ、ブリギッドが出撃だと!?どういう事だ・・・まさか、ホフマン大佐っ!?」
「はい、私が許可を与えました」
ホフマンの静かだが確かな声にハルバートンは眼を剥く。
「貴様・・・いったい、どういうつもりだ!!」
「敗退するだけならまだしも壊滅というのは軍人として最も恥ずべき事ですからな。
手を尽くしてなお、渋々受け入れねばならんのならばともかく決して甘んじて受容するものではないという事ですよ、提督」
「なっ・・・」
ホフマンの言葉にハルバートンは絶句する。
「このまま最強のカードを切らぬままで――終わるつもりはありません!!」
「最強の・・・カード!?」
ハルバートンはホフマンの言葉の意味が解からなかった。
もはや、表面上は取り繕っていた己の表層も剥げ落ち澱みが溢れかえっている彼には。
――アークエンジェルは、ストライクは連合の未来にとって必要なものだ。
軍人として・・・そのための礎となる事に何の不満があるというのだ・・・
それをブルーコスモスのムルタ・アズラエルの手下になど、あの男の、あの――
G強奪の失態から擦り切れ、磨耗したハルバートンの認識は最期まで気付く事はなかった。
"G"を強奪された自分と月でのモビルスーツ開発に成功させたアズラエル。
兵を想う気持ちがアズラエルへの妬心と敵意に飲み込まれ
いつしか、目的と手段までもがすり替わっていた事に。
「敵、ナスカ級接近!!これは・・・特攻です!!」
「!?、いかん!!すぐに避難民のシャトルを脱出させろ!!」
猛進するローラシア級戦闘艦ガモフに気付きこれを阻止せんと攻撃を加えていたムウだったが高度が突入限界点に達し後退を余儀無くされる。
「メネラオス?まだ避難民を・・・くそ、限界か!!」
アークエンジェルへ向けメビウス・ゼロにアンカーを射出させ着艦に成功する。
「坊主はっ!?第8艦隊も――」
ふと、モニターの端に幾条の光の尾が敵に接近するのが見て取れた。
「アンタなのか、アムロ大尉!?・・・頼むぜ」
『ああ、なんとかやってみる!!』
何故かそう返事が聞こえたようにムウには感じられた。
「ガモフ出過ぎだぞ!?何をしている・・・ゼルマン!!」
無謀な突進を仕掛けるガモフ艦長ゼルマンに対しアデスは語気を荒げる。
クルーゼ、アデス共に特攻などを命令した覚えは無い。
≪ここまで追い詰め――退く事は――我等――足付きを!!≫
ノイズ交じりの通信ではあったが意図する事がクルーゼには読めた。
ゼルマンはアークエンジェルを墜とせず第8艦隊との合流を許した事を恥じその身命を投げ打たんとしているのだ。
「もはや、彼を止める事は出来んよ。行かせてやれ」
クルーゼは感情の無い声を発した。
軍事的ロマンチシズムに溺れた輩になど関わる時間すら勿体無いと言わんばかりに。
特攻を仕掛けるガモフは目の前の駆逐艦を撃沈し、ついにメネラオスをも照準に捉えビームを存分に見舞う。
メネラオスも応戦するが機関部にビームを被弾させその高度を落としていく。
「我等が・・・ザフトの意地を――!!」
「クッ・・・刺し違えるつもりか!!うわっ!!」
直後、ガモフはアークエンジェルとの接敵も叶わぬまま爆散する。
しかし、ガモフが断末魔の間際に放ったビームによってメネラオスのブリッジに火の手が上がる。
機材は拉げ、クルーの生命も灼熱の炎に飲み込まれる。
「グッ・・・ウッ!!」
ホフマンが霞む眼で横を見るとハルバートンは機材に胸を貫かれすでに絶命していた。
ホフマン自身も両足を完全に潰されている。
意識が朦朧し痛みを感じないのがせめてもの救いだった。
――この人も・・・間が悪かったのだろうな・・・まったく、戦争というのは・・・
ハルバートンを責める気にはなれなかった。
志の高い男だった。宇宙に散って逝く兵達の事を誰よりも考えていた。
状況が彼から彼自身を奪っていったのだとホフマンはそう納得した。
――私も無責任に死んでいくのだ、責める事など出来ぬ。
視界は暗くもう何も映さない。自分が流した血が沸騰している音だけが聞こえる。
この無能な自分達につきあわせてしまった兵達には申し訳のしようが無いとそれだけが悔やまれた。
最期にアムロ達が飛び立った時の光の尾がホフマンの脳裏を過ぎった。
――フッ、『白き流星』とはよく言ったものだな。
そのまま、メネラオスは大気の摩擦熱に焼かれ――消失した。
摩擦熱に機体を紅く染めながらストライクとデュエルは死闘を繰り広げていた。
双方のビーム・サーベルの激突による干渉波が飛び散っていく。
「コイツーッ!!」
「お前なんかにー!!」
いったん距離をとったデュエルのシヴァの火線を全て避けキラはシールドを前面に出したままスラスターを全開にしデュエルに体当たりする。
「グッ・・・!!」
「これで――!!」
続けざまに蹴りを見舞いデュエルを突き放す。
「クソッ!!このままで・・・!!」
再び、ストライクにビーム・ライフルを向けようとしたがメネラオスから脱出したシャトルに間に割り込まれる。
――ッ!!
邪魔をされた。その認識は激憤となりイザークを支配する。
その危険な思惟をムウは感じ取った。それが導く結果までもを。
「オイ・・・やめろ・・・、何をやっている!!」
だが、分かるからといってどうなるというのだろう。
今のムウには手の出しようが無いのだ。
「よくも、邪魔を・・・!!」
「!!――やめろーッ!!それには!!」
キラはシャトルへ向けストライクを加速させる。
飛び出してどうするといった考えは無かった。
だた、護りたかったのだ。中にいる人達を。
自分に今まで護ってくれてありがとうと言ってくれた、風車をくれたあの子を。
「逃げだした腰抜け兵がーーーッ!!」
だが、無情にもシャトルはキラの目の前でデュエルの放ったビームに貫かれ炎に消えた。
「敵部隊接近!!射程――入りました!!」
「よし、撃てーっ!!」
アムロ達の警戒にあたっていた部隊は艦砲を一斉に放つ。
直後、乗り捨てられたベース・ジャバーが猛烈なビームの奔流に消失した。
「ナチュラルがモビルスーツなど!!」
「タイミングが早いな、これなら――」
放たれた銃弾を余裕を持って避け、その姿勢のままイレブンは改修型ジンに応射させる。
ローレンツ・クレーター基地で改修されたジンはスラスターを強化し、さらに頭部をモノアイではなくゴーグルにセンサーが覆われているものに取り替えられているため、与える印象もノーマルのジンとはだいぶ異なっていた。
「――そのまま・・・よし、つかまえた!!」
エイトはイレブンに誘導されたジンに向かいミサイル・ランチャーを撃った。
軽装なイレブンのジンに比べエイトは自機にかなりの重装備をさせている。
「やられた!?コイツラ・・・つよ――」
ミサイルの爆風に飲み込まれた僚機に一瞬気をとられた敵の隙を逃さずイレブンは脚のホルダーからアーマーシュナイダーを抜き放ちコクピットを貫く。
と、側面からイレブンに銃を向けていたジンの腕がメビウスのリニアガンに砕かれる。
≪こら、ボサっとしてんなルーキー!!前に出んならとにかく動きまくれ!!≫
メビウスの編隊は見事な連携でジンを翻弄し、撃墜する。幾度も実戦を経験し新星ではアムロと共に戦った彼等だ。 第8艦隊のメビウスとは動きがまるで違う。
――僕が彼等の足を引っ張るようでは話にならない。自分の性能をもっと発揮しなければ!!
イレブンは次のジン目掛け機体を動かした。
「ジン四機やられました・・・!!」
「この短時間で四機だと・・・!?」
オペレーターからの信じがたい報告に部隊指揮官は絶句する。
だが、現実に味方のシグナルはロストしている。
「クッ・・・なんという・・・」
狼狽しながら拡大ディスプレイを睨んでいた彼はMk-Ⅱの姿が無い事に気付く。
「敵、新型がいないだと!?確認いそげ!!」
「待ってくだ・・・高熱源体急速接近!!――真上です!!」
「何!?ぐっ――!?」
直後、MK-Ⅱのバズーカに直掩のジンが貫かれ爆散する。
「時間をかけている余裕は無い!!一気に決めるぞ!!」
「ハイッ!!」
MK-Ⅱとセブンのジン、そして対艦ミサイルを装備したメビウス隊は真下の艦艇に向かい急加速をかけながら各々の火器を撃ち放つ。
ジンも応戦するが直撃され次々と大破する。
「対空、何をやっている!!敵を近づけるな!!」
「直掩部隊、壊滅!!こんな――」
「くそ、何故今頃になって――」
彼が前に目をやった瞬間、艦のすぐ手前にMk-Ⅱが現れる。
Mk-Ⅱはバズーカを手放し右腕をブリッジに向かって突き出す。
「――――!!」
躊躇無く至近から放たれたガトリングガンは嵐のようにブリッジを襲い機械であろうが、人であろうが、そこに存在した全てのモノは粉微塵になった。
それを感情の読み取れぬ冷たい瞳で確認したアムロは宙を浮くバズーカを掴むと他の艦も無力化された事を確認した。
「よし、すぐにここを離脱。次のポイントに向かうぞ!!」
ちょうど、この時デュエルによって避難民のシャトルが破壊された。
一年戦争当時のアムロならば、おそらくはキラの叫びを感知していただろう。
だが、現在のアムロにそれは届かなかった。戦いにそのような感覚は必要ないのだから。
「エマー隊・・・壊滅!!」
「まさか・・・こんな事が・・・」
「奴等の脚を止める。カール、ロナルド、マクシムの隊に重囲させろ!!」
もたらされた報告にアデスは驚愕し、クルーゼはすぐさま手を打つ。
「戦争だよアデス・・・戦争だ。どんな事でも起こりうる。
我等、知らぬ間に驕り兵士ではなく狩人の気分でいたのではないかな?」
クルーゼも危険を察知し準備はしていたが、それでもこの突破力は予想を上回るものだった。
このまま切り込まれれば被害は黙止できぬものになるだろう。
さらに兵の士気への影響も問題だ。
なまじ勝っていただけに崩れれば収拾がつかなくなる可能性が高い。
「カール隊からの解析画像入ります!!」
ヴェサリウスのディスプレイにMk-Ⅱが表示される。
「どことなくデュエルに似ていますが・・・」
「あの肩のマーク・・・やはりそうか。連合の『白き流星』、アムロ・レイ」
クルーゼはMk-Ⅱのパイロットが新星の時の白いメビウス・ゼロと同一であると確信した。
パーソナル・マークだけが理由ではない。
これ程のプレッシャーを感じさせる者などそうそういるものではないからだ。
「マクシム隊突破されました!!」
味方を示すマーカーが一直線に食い破られていく。
ザフトにとっては正に悪夢のような光景だ。
「アスラン、ニコルをF-12に急行させろ!!
それと私のシグーの準備だ。特火重粒子砲を無理やりでいいから持たせておけ!!」
「隊長自ら出るのですか!?」
「アレの相手は今のアスラン達には荷が重いよ。残念だがな。あと艦隊主砲を――」
それだけではなくクルーゼには私的な理由もあった。
自らのこの感覚は未だ不安定であり不完全である。
これを完成させるにはアムロとの戦いが不可欠だと、そう考えたのだ。
「何だ、何なんだよアレは!!」
白いモビルスーツ――Mk-Ⅱにザフト兵士は戦慄し、恐怖した。
他のメビウス、改修型ジンも高い技量を誇るがMk-Ⅱに関しては完全に彼等の理解を超えていた。
回避の動きすら完全に読まれ吸い込まれるように直撃を受けるしか選択肢が残されていないとそう感じさせるほどの圧倒的な力の顕在がそこには存在した。
「モンスターだ・・・!!」
「怯むな!!あれはモンスターなどではない!!」
「しかしっ・・・!!」
怯える仲間を諌めるがその彼自身の声にも恐怖が混じっていた。
「だが、いっそモンスターであった方がどれだけ救いがあったか・・・あの、肩のマーク。おそらく奴は連合軍最強と謳われる――」
「『白き流星』ですか!?アレは流星とかそんな優しげな代物じゃありませんよ!!」
Mk-Ⅱのデュエル・アイがこちらを向きビーム・ライフルを構える。
叫びを上げ機銃をフルバーストで撃つがまるで当たらない。
すく横で爆光、僚機がやられた。
Mk-Ⅱに対し、再び機銃を向けようとしたが結局はかなわなかった。
気付かぬ間に機銃ごと右腕をやられていたのだ。
すでにビームは放たれている。間違いなく直撃するだろう。
「アレは、アレは!!――くま・・・白い・・・魔・・・だ!!」
恐慌する彼を凶悪な熱量が襲い一瞬で肉体を蒸発させた。
彼だけではない、今後、ザフトに属する者はアムロ・レイを畏怖と憎悪を持ってこう呼ぶだろう。
連合の『白い悪魔』と――