Seed-Crayon_3-396

Last-modified: 2012-03-20 (火) 12:08:51

シンの幸せ

 

 ある日の夕方…

 

みさえ  「シン君?シンくーん?あれおかしいな…しんのすけ、シン君知らない?」
しんのすけ「お?オラ見かけてないゾ。シン兄ちゃんがどうかしたの~?」
みさえ  「そう…アンタとのシロの散歩のついでにお使い頼もうと思ったんだけど…」
ひろし  「ただいま~って、みさえ、どうかしたのか?」
みさえ  「あなた…シン君が出かけてるらしくて。いつもバイトの日も夕方には帰ってきてたのに…」
ひろし  「なんだそんなことか。シン君だって遊びたい盛りなんだぜ」
みさえ  「それだけならいいんだけど…」
しんのすけ「お?ひま、何持ってんだ?」
ひまわり 「だぁ~」

 

 ころん、とひまわりの手からピンクの携帯電話が転がり落ちる。

 

ひろし、みさえ「「こ、これは…」」
しんのすけ「シン兄ちゃんの妹のケータイだゾ!ひま…なんで持ってんだ?」
ひまわり 「あぅあ~」
みさえ  「…ちよっとあなた、シン君それ大事にしてたわよねぇ、何でも妹さんの形見だとか…」
ひろし  「あぁ、並みのじゃなかったよな…なんでひまが…」
しんのすけ「もーっ、シン兄ちゃんったらこんなところにお忘れ物なんてそそっかしいなァ~。
      これだからいまどきの若いもんは~」
みさえ  「あんただっていまどきの若いもんでしょうが!
      …でもまずいわよ、もしかしてひまったらあの携帯気に入っちゃって離さなかったんじゃないかしら…」
ひろし  「シン君、ひまのこと相当可愛がってくれてたもんなぁ…それで…無理やり取り上げられずに…」
しんのすけ「ねーねー父ちゃん母ちゃん何のお話~?オラも混ぜて混ぜて~」

 

 青くなる二人、脳裏に何故か冬の日本海、断崖絶壁にたたずむシンの姿が…

 

シン『あの携帯が無かったら俺はもう…。ごめんマユ、お前の大事な思い出なのに…』

 

 そのままシン、海に一歩踏み出して回想(?)終了。

 

みさえ  「………」
ひろし  「……………」
しんのすけ「ねーったらねー足臭男~妖怪三段腹~」
みさえ  「まずいわよ!!まさか、まさかそんなこと無いとは思うけど!!」
ひろし  「いや、シン君は繊細なところがあるからな…思いつめちゃったらまずいよなぁ、やっぱり!」

 

 顔を見合わせ、猛然と玄関に向かってダッシュする二人。

 

しんのすけ「何の話かオラ全然わかんないゾー!」
みさえ  「それどころじゃないのよ!!」
ひろし  「シン君が大変なんだ!!」
しんのすけ「シン兄ちゃんが!?うーん、よく分からないけどオラシン兄ちゃんをお助けしなくちゃ!」
ひまわり 「だーっ!!」(みさえの腕の中から手を振り上げる)
ひろし  「よーし行くぞ!野原一家!」
ひろし・みさえ・しんのすけ・ひまわり「ファイヤー!!」

 

 一方そのころ、夕暮れの川原では…

 

シン  「……ハァ」

 

 (なんとなく土手に座り込むシン。膝を抱えている)

 

シン  「何やってんだろ…店サボっちまったし…店長怒ってるだろうな…。
     レイにも皆にも迷惑掛けて…オレ最悪だ…」

 

(遠くから)「オーイ、シン兄ちゃーん!オーイ!」

 

シン  「あの声は…」

 

(振り向くシン。土手の向こうから汗だくで転がってくるしんのすけ)

 

シン   「しんのすけ!?な、何やってるんだよ!大丈夫か!?」
しんのすけ「それはこっちのセリフだぞ!」
シン   「え…っ!?」
みさえ  「あっいた!あなたっシン君いたわよーっ!!」
ひろし  「本当か!?おーいシン君、早まるなーっ」

 

(どたどたと掛けてくる一家に目を丸くして固まるシン)

 

シン   「あの…一体なんですか?何かあったんじゃ…」
しんのすけ「何ですかじゃないゾ!オラたちシン兄ちゃんの一大事だって…」
みさえ  「ごめんなさい、ひまが携帯取っちゃったんでしょ?ほらひま、シン君に携帯返してあげて…」
ひまわり 「たぁ~い」
シン   「あ…」

 

(素直に言うとおりにするひまわり。思いがけず差し出される携帯にシンはくしゃ、と顔を歪ませる。)

 

ひろし  「やっぱりこれのせいだったんだろ?ごめんな、シン君、大事なものなのに…」
シン   「ちが…違うんです…」

 

 ゆっくりとシンは首を振る。

 

シン   「俺…自分が何やってるのか分かんなくなっちゃって…
      ひまわり、今日昼寝の時にそれ握ったら凄く嬉しそうに笑ったんです。
      そうしたら…俺のいなかったころはもっとそうやって一杯笑ってたのかなって思ったら、
      何か居づらくなっちゃって…」
ひまわり 「うぁあ~?」
シン   「やっぱりいろいろと迷惑掛けてるのかもしれないと思ったら…
      俺ガサツで、そういうの気が付かないし、バイトしだしたけどやっぱり家計に負担とか掛けてますよね。
      それでもやもやして、いつのまにかこんなところまできちまっただけなんです。
      ハハ、なのにバイト休んじゃって…何やってんだろ…」
ひろし  「……」
シン   「俺、野原さんちが大好きなんです。
      やさしくてたのしくて、あったかくて…幸せな気持ちになれるから。
      だから俺がその邪魔になっちゃいけないんだ。
      それに…俺の家族は…父さんも母さんも…マユもあんなに苦しい思いをしたのに。
      …俺だけが幸せになっちゃいけないんです」
みさえ  「シン君…」
しんのすけ「足臭いぞ!シン兄ちゃん!!」
シン   「…っ!!」
みさえ  「それを言うなら『水臭い』でしょ!」
しんのすけ「そうともいう~」
シン   「しんのすけ…」
ひろし  「そうだ!しんのすけの言うとおりだぞ、シン君!足臭…じゃなくて水臭い!」
みさえ  「あなた!」
シン   「ひろし…さん」
ひろし  「ウチはそんなに狭い家じゃねぇ!(いや、面積のことじゃなくて…・小声)
      シン君の一人や二人でガタガタになるような家じゃないさ!!」
みさえ  「言い方が悪いわよ、あなた。でもそうよ、シン君。私たちは全然変わっちゃいないわ。
      あなたが来てからも…ううん、もっと楽しくなったみたいよ。
      それにシン君のご両親も妹さんだって、そんなシン君望んじゃいないわ!」
ひまわり 「たぁ~い!」
しんのすけ「そうだそうだ、母ちゃんの言うとおりだゾ!」
シン   「みさえさん…しんのすけ…ひま…」

 

みさえ  「しんのすけ、ちゃんと話分かってんの?」
しんのすけ「全然わかんないゾ!
ひろし せっかくいいところだったのに…」
しんのすけ「わかんないけど、コレだけは言えるゾ!
      シン兄ちゃんとオラたちはもう家族なんだから、そういうなんかくら~いのは間違ってるゾ!」
シン   「…っ、しんのすけ…!」
みさえ  「そうよ!シン君はもうウチの子じゃないの!野原家の一員なのよ。
      だからシン君、幸せになっていいの…違うわ、幸せにならなくっちゃ!」
ひろし  「そうさ。みさえの言うとおり、シン君の家族だってシン君が不幸でいていいはずがないと思ってるさ。
      子供の…家族の幸せを祈らない親なんていないんだよ。ずっと一緒に生きればいいんだ。
      自分だけじゃ幸せになれないと思ってるなら、俺たちが精一杯応援してやる!家族だからな!」
シン   「みさえさん…ひろしさん…俺、あなたたちと一緒に生きて、いいんですか…?」
みさえ  「違うのよ、シン君」
ひろし  「君がどうしたいかだよ」
しんのすけ「オラはシン兄ちゃんと一緒に居たいゾ!」
ひまわり 「たぁ~い!だぁ~」
シン   「しんのすけんひまわり…俺も皆と一緒に生きたいよ…っ!」

 

(ついにシンの目から涙が零れる。顔を見合わせて笑うひろしとみさえ、シンの背中をなでてやりながら)

 

ひろし  「何とか落ち着いたなぁ…さ、皆で帰ろうか」
みさえ  「今日は奮発するわよ~あ、帰りにスーパー寄りましょ。ふふ、シン君、タリアさんたちに謝らないとね」

 

シン   「(一寸頬赤くしながら)…ハイ…」
ちゃん中々泣き止まないね~。店長さんがきっと怖いんだな」
ひまわり 「たぁ~?」
シン   「違うよ、しんのすけ…嬉しくても涙は出るんだ」

 

 五人で帰る土手、ふとシンは立ち止まり橙に染まった空を見上げる。

 

シン   (父さん、母さん、マユ…俺、しっかり生きて、幸せになるよ…)

 

しんのすけ「シン兄ちゃんおそ~い」
ひまわり  (^^; 「だぁあ~」
シン   「ああ、今行く!」

 

 一家の下へ駆け出すシン。しんのすけと手を繋ぎ、ひろしに髪をかきまぜられてやっと笑う。

 

 《♪ 君の~すがたは~》

 
 

 ―END―

 
 

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