Seed-NANOHA魔法少年_第08話

Last-modified: 2008-11-04 (火) 17:33:43

「卒業生諸君、武装隊員としての心構えを、しかともってこれからに励んでほしい」

 

全訓練生の前に、この訓練校の学長の演説。
今日を持って、訓練生としての全過程を終了。
現在、この陸士学校の卒業式の真っ只中である。
こういう場合、校長の話というのは例を挙げなくてもわかるとおり、長い。
このくそながいお話に、いやでも眠たくなる生徒というのは存在する。

 

(ふあぁ~~)

 

その例に溺れず、シン・アスカはもう10分以上は経つであろう校長の話を、うんざりしながら聞いていた。
アカデミーでもそうだが、なぜこう老人の話というのは長いのだろうか……
話すほうも、以前は同じ気持ちになっていたはずである。
だったら、少しは俺達の気持ちを汲んでほしい……

 

「うぅぅ~~~」

 

ただ、それはある意味男だけに限定するのかもしれない。
そう思いながら、シンはよこで大いに涙を流しているスバルを見る。
スバルは、大粒の涙を流しながら校長の話を聞いている。
一見すると、校長の話に感動しているようにも見える。

 

(悲しんでいるだけ、か……)

 

しかし、実態はそうではない。
もうこのメンバー同士で会う事はおそらくないだろう。
そのことで泣いているだけだ。
よく周囲を見れば、そういう女子はたくさんいた。

 

「ひっく、ひっく」
「ほら、泣かない」
「で、でもぉ……」

 

その中、やはりというかティアナは泣く様子を見せず、逆にユマをあやしていた。
おそらく、泣く暇というのもないだろうし、彼女はおそらく自分よりの人間だ。
つまり……そんなに友人がいないのだろうということである。
彼女の場合、常に横にはユマかスバル。
もしくは一人でいることの方が多い。

 

「私は、あなた達が立派な局員になっていることを、心のそこより願います」

 

そんなシン達をほうっておいて、なおも続く校長の話。
しかし、それもどうやら佳境に近づいているらしい。

 

「おい、スバル……」
「ひっく……ん?」

 

俺は、未だに泣いているスバルを見る。
まあ泣くのは結構だが、ずっと泣いているわけにもいかない。

 

「そろそろ出番なんだから、涙くらい拭いとけ」
「うん、ありがと……」

 

まだぐずっ……と半泣き状態だが、俺のハンカチを使って涙を拭う。
そう、俺達二人には、この卒業式で仕事が残っている。
ある意味、一番大事なことかもしれない。

 

「それでは、最後に、32班のシン・アスカ、スバル・ナカジマ。生徒代表の言葉を」
「はい!」「はい」

 

校長に呼ばれて、シンとスバルは教壇の前に立つ。
自分ではなかったが、アカデミーでもこういうのがあったような気がする。
そう思うと、少し緊張してしまう。

 

「我々、卒業生一同は、この学校で得た知識や経験を生かし」
「一管理局員として恥ずかしくないよう、一同努力し、精進します!」

 

二人の言葉とともに、会場からは惜しみない拍手が送られる。
なんか、照れくさい……とシンは頬を少しだけ赤く染めた。
こうして、シンの訓練校生活は終わった。

 

「やっと終わった……」

 

うぅ、と請った肩をほぐすように回すシン。
つい数分前に卒業式が終了したばかりで、その手には卒業証書が握られていた。
その姿は、かったるかった、と一言で片付けられてしまいそうなほどでsル。

 

「そうだね~~」

 

一方、スバルは握っている卒業証書をルンルンと握り締めているスバル。
それは今にも天高く飛び跳ねそうな勢いだった。

 

「まあ、なんというか……」
「あれが総合成績1位とは、ね……スバルはともかく」

 

そんな、同じ班でありながら全く正反対の反応をする二人に、どう答えていいのかわからず、ぽかんとするティアナとユマ。
そんな、卒業式だというのに、あまり変わらないようこのごろ。
そのあと、4人はいつもの如く談笑しながら、学び舎である訓練校の門を出ようとする。

 

「おっ、戻ってきたみてえだな」
「あ、本当だ、スバルーーー!」
「ん?」

 

スバルは自分を呼ぶ声を聞いて、そっちの方を向く。

 

「あ、父さん、ギン姉!」

 

そこにいる家族の姿を見て、スバルは一目散にその方へと走っていく。

 

「卒業おめでとう」
「ありがとうギン姉!」
「しっかし、コンビでとはいえ、お前が成績トップだなんてな」
「えへへ……」

 

などという、家族としては当たり前の光景を、シンは懐かしんで見る。
もう忘れかけていたが、自分にもこういうときは確実にあった。
まだ、自分がオーブに住んでいたとき、ジュニアスクールを卒業したときもこんな感じだったような気がする。

 

「そういえばあんたは?」
「へ?」

 

シンと同じように、ティアナもスバルの光景を懐かしむ……
自分の両親は幼いときに亡くなったが、それでも記憶が全くないというわけではない。
おぼろげながらも、家族とのひと時を覚えている。
そこで、ユマのことふと思い至ったことがあった。

 

「あんたも保護者がいるでしょう?」
「ああ、おじさん達ですね」

 

そういえば、とユマはきょろきょろと周囲を見る。
確か、今日は来てくれているはずだが……

 

「今頃、私を探してるかもしれないですね……ここ、意外と広いですし」
「ああ、そういえばそうよね」
「もしかしたら、校舎内を探しているかもしれません……メールで知らせたんですけど、おじさんもおばさんもちょっと方向音痴ですから」

 

あはは、と苦笑するユマに、ティアナはクスっと微笑を浮かべる。
方向音痴の親、か……ちょっと大変かもしれない。
そして、ここにも待ち人が……

 

「よお、迎えに来てやったぜ」

 

スバルが家族の元に言った姓で、少し一人でぽつんと立っていたシン。
そこに、微妙にこの場には不釣合いな3人組がいた。

 

「って……ハイネ、来てたのか?」

 

意外な人物の登場に、シンも少し驚く。
今日、彼が来るという連絡はなかった。
そして、後ろの二人は誰だ……

 

「ああ、ついさっきだけどな。式にはいってねえ。行っても面倒くさいだけだしな」

 

苦笑しつつ、ハイネはかつて……そしてこれから部下になる予定であるシンを見る。

 

「お前がシン・アスカか……赤なんだって?」

 

そこに、彼の後ろにいた、金髪の男が前に出る。
彼は、シンをまじまじとみて、ん?と首をかしげる。

 

(だれだ……こいつ?)

 

いきなり見知らぬ人物が、突然自分を見る。
それに……

 

(赤?)

 

シンは、赤と聞いて連想するもの。
自分の目……そして軍服。
まさか……

 

「ああ、わりぃ。俺はミゲル・アイマン。俺もかつてはザフト所属だ」

 

よろしくな、とそれを指し示すようにザフト式の敬礼をする、ミゲルという男。
彼のまた、ザフトで兵士だった。
ただ……

 

「赤、か……」

 

なぜか、赤ということにこだわる彼。
おそらく彼は……

 

「なんだよ?」
「別に……なんでもありません」

 

これ以上いうと彼がかわいそうなので、俺はもう一人の銀髪の髪をしている男を見る。
こいつもザフトか……?
俺の視線に気付いたのか、男は俺の方を見る。

 

「俺はスウェン・カル・バヤンだ」

 

そういって、スウェンという青年はシンに握手を求めてきた。
俺は、少し呆然としながらもそれに答える。

 

「ようし!そんじゃ、新しい部下を迎える会&卒業記念ということで、今からこの4人で飯食いにいくぞ!」

 

一通りの挨拶を終え、ハイネが仕切りだす。
というか、今から飯ってぜんぜん聞いてないんだが……驚かそうとしたのか……

 

「安心しろ、新入りに金は出させないからさ」

 

そういうハイネはウインクし、はあ……と俺は少しため息交じりに返事をする。
やっぱり、こういうノリといるも付き合っていると少々疲れるかもしれない。
まあ、ここは大人しく従っておこうか。
丁度腹も減ってきたことだし。

 

「あれ、シン。その人たちは?」

 

そこへ、家族をつれているスバルが、シンのところにやってきた。
そこには、なぜかティアナとユマまでもがいた。
何で、この二人まで?

 

「ああ、ハイネじゃねえか。元気そうだな」

 

そこで、スバルの父親らしき中年の男性がハイネを見る。
ハイネも、その男性にはい、と気付いて敬礼する。

 

「お久しぶりです三佐。陸曹もお元気そうで何よりで」

 

どうやら、この二人と彼は知り合いのようだ。
この3人に、どのようなつながりがあるのかは知らないが、なんとなくだが解る気がする。
まあ、かつての上司と部下の関係、といったところか。

 

「ところで、俺になにか用なのか?」

 

シンは、思い出したようにスバルを見る。
自分を呼んだという事は、何かあるのか?
ティアナやユマまでもいる。

 

「これからお昼御飯をみんなで食べに行こうと持ってるんだけど、シンもいこうよ!」

 

ああ……とシンは一緒にいる二人を見る。
そこには、楽しみにしているユマと、申し訳なさそうにしているティアナ。
おそらく、スバルを含めたナカジマ家に言いくるめられたのだろう……

 

「お前らもどうだ?今日は俺のおごりだ」

 

最初は反対していたのに、娘が優秀な成績を収めたのが嬉しいのか、それとも無事に卒業できたのでほっとしたのか、
現在上機嫌なゲンヤは、ハイネたちにも一緒にどうか?と進めてくる。
うーーん、と少し考えた後……

 

「いや、お気持ちは嬉しいんですが、今日はこいつに用があっただけですので、今日は遠慮しておきます」
「そうか……」

 

と、やんわりと儀礼的な断りを入れたあと、ハイネはシンを見る。

 

「というわけだ、お前はあいつらと飯を食って、思い出のひとつでも作ってこい」
「はあ……」
「あと、それと……」

 

ハイネは、シンにある一枚の手紙を渡す。
それは、何かの待ちあわせの場所を示していた。

 

「今日の昼3時くらいに、ここに集まっておいてくれ」

 

じゃあな、とハイネは後ろのミゲルとスウェンをつれてどこかへと消えていく。
相変わらずのノリだなあ……とシンは呆然と彼を見送る。

 

「シ~ン、早く行こうよ~~」
「うお!」

 

突然、スバルが腕にしがみついてきた。
いきなりのことだったのでバランスを崩しかけるが、なんとか姿勢を元に戻す。
いきなり危ない奴だ。

 

「わかったから、そうひっぱるなって」

 

シンは無理やりスバルに引っ張られる形で、ゲンヤたちと合流する。

 

「ほう、お前さんがシン・アスカか……」

 

つれてこられると同時に、今度はゲンヤがまじまじとシンを見る。
何なんだこの家族は……
まあ、気持ちはわからないこともないが……
この一年、ずっと同室で自分の娘と知らない男が一緒に暮らしていたのだ。
それは気にはなって当然だろう……

 

(問題ねえみてえだな)

 

しばらくシンを観察したあと、ぼそりと何かをつぶやいたが、シンはそれが何なのか聞き取れなかった。
そんなシンを、ゲンヤはもう一度見て、早く乗れ、と自分が乗ってきた車をさした。

 

「はあ、解りました」

 

そして、シン達32班と39班が連れてこられたのは……

 

「さあ、じゃんじゃん食え」

 

あたりを見渡すと、無数の料理が並び、丁度お昼時ということもあり、客の数も多かった。
今、自分達がいるのは、1時間食べ放題のバイキング。
まあ、確かにスバルの食事量を考えると、それが丁度いいのかも、とシンは思った。
スバルの食欲は、自分もよく知っている。

 

「「「…………」」」

 

ただ、予想外だったのは………

 

「で、スバル、個人成績じゃどうだったの?」
「それが……んぐんぐ、あたしは3位だったんだ……もぐもぐ。2がティアで、1がシン」
「へぇ……それとスバル、話すときぐらい食べるのを辞めなさい。はしたないわよ」
「ふぁ~~い」

 

もぐもぐと、会話しながらも、順調に皿を重ねていくナカジマ姉妹。
正直、ギンガまでここまで食うとは予想外だった。
いや、ギンガの方がスバルより食べているのかもしれない……

 

「化け物かこいつら……」
「い、いえてるわね……」

 

まるで、ド○ゴ○ボ○ルばりの食欲を示す姉妹。
ふと隣を見ると、店員がため息をつきながらも慣れたように皿を運んでいる。
常連なのか?……ともあれ、バイキング形式の店としていい迷惑だろう……

 

「あれだけ食べて、よく太りませんね……」

 

ユマのもっともな疑問に、ははは……と苦笑いしか出来ない二人。
いくら、出来る限り太らないように遺伝をいじくったコーディネーターでも、あれだけ食えば絶対に太る。

 

「ま、向こうは向こうで食べてるんだし、こっちはこっちで食べましょう……ここ、バイキングの割にはなかなかいけるわね」

 

ティアナに件に、そうするか、とシンとユマも食事を再開する。
確かに、ティアナのいうとおりバイキング専門店にしては、バリエーションもあり、味もなかなかいける。
そこで、シンはユマを見た。

 

「おい」
「ふぇ?」

 

スパゲッティを口いっぱいに頬張りながら、とぼけた声でユマはシンを見る。

 

「口、汚れてるぞ」

 

そういうと、シンはお絞りの袋をあけ、汚れているユマの口物を拭う。
ユマは、すみません……と少してれるようにシンを見る。
そんなユマに、シンは気にするな、と食事を再開する。

 

「………」

 

そんな光景を、ティアナはまじまじと見る。
ティアナはこのやり取りを、兄弟のやり取りに見えた。
確か、シンは妹がいたといっていた。
その妹にも、このようにしていたのだろうか……
そして思う。
彼は、家族をなくしたときはどうしていたのだろうか……
別に、彼に気があるわけではない。
ティアナは、シンがどのように家族を失ったのかは知らない。
だから、ちょっと興味本位で知りたい、と思ったのだ。
彼はここに来る前、どのような生活を送っていたのか……

 

「はぁ、食べた食べた」

 

店を出ると、スバルはお腹をさすって満足そうな笑みを浮かべる
結局、スバルたちは1時間、ほぼノンストップで食べ続けた……
店を出たときの、店員の青ざめた顔がとても印象的だった。
おそらく、あの二人で俺達の分も元をとっていう気がする……

 

「あ、そうだ、忘れてた!」

 

食後の余韻に浸っていると、ギンガが何かを思い出したように大声を出す。
何か忘れ物でもしてきたか?

 

「記念写真撮るの忘れてた……」
「……は?」

 

シンは、少し呆然とする。
思いっきり叫んでたから、どのような用件かと思えば……
ただの写真撮影……

 

「あ、そういえば……」
「すっかり忘れてましたねえ」

 

あちゃ~~、と残念そうにするスバルとユマ。
やはり、こういうところは女の子だからだろうか……
アカデミーでも、シンは記念写真を撮ったが、それは同期のレイとともに、
これまた同期のヨウラン、ヴィーノ、そしてルナマリアに無理やり連れてこられて取らされた。
……女性というより、ノリがいい奴といったところか。

 

「ああ、すっかり忘れてたな……」
「どうする?もう一回学校まで戻る?」
「いや、それもどうかと思うんだけど……」

 

う~~む、と悩む中、あ!とスバルは何かを思い出したようにひらめいた。

 

「あ、そうだ!あたしの家の前でっていうのはどう?」

 

スバルの提案に、一応はああ、と相槌を打った。

 

「なるほど、その手があったか」

 

うっし、とゲンヤはすぐさま車に乗り込む。

 

「そんじゃ、さっさといくか、帰りは俺が送ってやる」

 

それにしてもこのゲンヤ、ノリノリである。
よほど娘が卒業できたのかが嬉しいようだ。
そしてやってきたスバルの家。
シンは、最初部隊長の家、ということで、なかなか豪華な家なのかと思っていた。
しかし、実際は確かに少々大きいかも知れないが、それで、意外と普通の家だった。
まあ、そんなことはどうでもいいのだが。

 

「ほら、早く取ろうよ!」
「あーもう、解ったから引っ張るな」

 

シンは、スバルに引っ張られながら、家の門の前に集まる。
こいつ……この1年でかなり力をつけた気がする。
とても13歳、それも女の子の力とは思えない。

 

「もう、みんな準備いいわね?」

 

ギンガは手にカメラを持ち、今すぐにでもとる準備が出来ている。
そんなギンガにOK!と元気良く返事をするスバル。
その中、シンは、これまでのことを振り返る。
まず最初に思い浮かんだのは、まずはこの世界へ来た直後だろう……
まさか、異世界にくるなんて、思いもよらなかった。
強いて言えば、魔道師になるなんて微塵も……
そして、次に訓練校の生活。
まあ、初日からこのトラブルメーカーもとい、スバルに良く振り回された1年だとは思う。
ただ、それが意外と楽しかったのも事実。
しかし、これで1年の訓練校生活の最後だ。
最後くらい、笑顔で締めようじゃないか、とシンはギンガが持つカメラを見て、笑みを浮かべる。

 

「それじゃ取るわよ、3……2……1」

 

そして、もうすぐ写真が撮られる、と思ったそのとき。

 

「おりゃあ!」
「うお!」

 

突如、スバルがシンに飛びついてきた。
い、いきなり何をするんだ……
しかし、その瞬間、なにかやわらかいものがシンの頬に触れた。

 

「なッ!?」
「はい、ポーズ」

 

その光景をみて、全く気にしないギンガはそのままシャッターを押す。。
そして出来上がった写真は。あきれるティアナと、少し頬を染めるユマ。
そして、驚きつつも頬を染めているシン。
最後に、シンに飛びつき、さらに笑顔で彼の頬に唇をつける……俗に言う口づけをしているスバル。
最後までほほえましくあり、彼等らしいと燃える光景だった。

 

「シン、回り込め!」
「ああ、わかってる!!」

 

それから、シンは局員として、さまざまな世界、もしくはミッドチルダ内を飛び回ている。
未だ、コズミック・イラは特定できていない。
シンは、その報告をも待ちながら、シンは空を飛び回っている。
それが、今時分に出来ること。
その心は、今も昔も変わっていない。
ただ、守りたい……
これ以上、自分のような人たちを増やさないためにも……
その一身でシンは今、大空を飛び続けている。

 

魔法少年シン・アスカ  完