Seed-NANOHA_まじかるしん_第47話

Last-modified: 2008-12-11 (木) 18:56:09

「うああ~~~!!」

 

スカリエッティのラボ内。
そこで、烈火の剣精ことアギトは近くにある壁を殴りつける。

 

「くそ、くそ!くそくそ!!」
「アギト、それぐらいにしておけ」

 

このラボに戻ってから、彼女はずっとこうしている。
ずっと殴り続けているため、既にその拳は赤くなり血が滴り落ちている。
それを見かねたゼストは、アギトを覆いかぶさるように彼女を止める。

 

「けどよ旦那!11番のレリックを取られたんだぜ!ルールーの母さんはどうするんだよ!」
「だから、そのことをこれからスカリエッティと話しに行くんだ。今回ばかりはお前も来い」

 

まさか、あのような場所に11番のレリックがあるとは全く思いもしなかった。
しかも、みすみすそれを目の前で管理局に奪われたのだ。
ルーテシアも珍しく、悔しさ、悲しみの表情を浮かべている。

 

「も、申し訳ないッス」

 

その後ろで、目の前にいながらレリックを確保することができなかったウェンディは、申し訳なさそうに謝った。
元はといえば、あの時一番最初にレリック番号が気付いていた自分がどうにかしなければならなかった。

 

「そうだ!もとはといえばお前が!……」
「うぅ……」

 

そのウェンディの言葉に、アギトはウェンディを攻める。
全ての責任を彼女達に押し付けるように。
さらには、ルーテシアまでもがウェンディを見つめる。
その視線に、ウェンディはさらにしょんぼりしてしまう。

 

「でも~~、あなたも結局はレリックを取り返せなかったのよね~~?
それに、地盤がもろそうだったから、派手に暴れちゃうとまた崩れちゃうしねぇ」
「う……」

 

以外にも、クアットロがウェンディの肩を持ち、今度はアギトが黙り込んでしまう。
やはり、話術では彼女に分がある。

 

「そうだな、それに彼女達は捕まっていた上に負傷もしていた。取り返すのは無理というものだ」

 

さらには、ゼストにまで言われる始末。
いくらスカリエッティとナンバーズを信頼していないといっても、全てにいちゃもんをつけるほど、彼は子供ではない。
どちらが正しいかといえば、確かにクアットロが言っていることの方が正しい。
結局は、自分達も逃してしまったのだ。

 

「………」

 

しかし、その中でずっと上の空な人物が一名。

 

「オットー、ぼうっとして、どうかした?」
「……ん……なんでもないよ」

 

いつもとは違う双子の雰囲気に、ディードは心配そう尋ねるが、どうやら自分が呼んだことにも途中まで気付いていないらしい。

 

「だけど……」
「……ごめん、ちょっと部屋に戻ってる」
「あ……」

 

オットーは、ふらふらと自室へと戻っていく。
ディードは、ただそれを見ることしか出来なかった。
なぜか、彼女をおおうこと思えなかった。

 

「オットー……」

 

なにか、自分と彼女の距離が少しずつだが広がっていく。
そんな気持ちがディードを襲い、少し奇妙な気持ちになる。
誰かにオットーを奪われるかもしれないというあせりと、相手に対する妬み。
これが、嫉妬の類である事を知るには、ディードはまだ幼すぎた……

 

「はぁ……」

 

自分の部屋(ディードと同室)で、オットーはため息を入れる。
一体、自分はどうしてしまったのだろうか……
以前の洞窟の一件から、時々上の空になることが自分でも良くわかる。
だが、その理由が全くといってもいいほどわからない。

 

(一回、ドクターに相談したほうがいいのかなあ?)

 

もしかしたら、自分がわからないうちにどこか異常をきたしているのかもしれない。
一度相談しよう……そう思いオットーはもう一度立ち上がる。

 

「オットー、少しいいか?」

 

オットーが立ち上がった直後、ドア前に声が聞こえて、それが見知った人物だと知ると、どうぞ、と部屋へ招く。
そこには、とても小柄な姉、チンクだった。
オットーはチンクを墓へ入れると、部屋にあるクッションを出す。
二人の部屋は、はっきり言ってしまえばほとんど何もなかった。
他の姉妹は、趣味などといろいろなものが部屋にある。
この二人と同じ最後初のセッテですら、部屋には多数の自主トレ用の器具があるのだ(ほとんどトーレからの差し入れ)
しかし、この二人の部屋にはそういったものがない。
机、棚、二人分のベッド。
そして、申し訳程度にテレビが置かれているだけだった。

 

(この二人にも、なにか趣味を見つけてくれればいいのだが……)

 

と、チンクはオットーを見て話を進める。

 

「チンク、どうしたの?」
「いや、ちょっとお前のことが気になってな、一体どうしたんだ?ディードもかなり心配しているぞ」
「そ、それは……」

 

チンクに、今思っていることを聞かれ、珍しく動揺するそぶりを見せる。

 

「それは解ってるけど、全くわからないんだ」
「……姉に言ってみろ。力になれるかもしれん」

 

チンクの笑顔にオットーは静かに頷き、包み隠さず話した。
あの洞窟での出来事から、今時分の調子がおかしいのではないかと思っていることまで。

 

「それで、自分がどうなったんだろう……なにか不具合でもあるんじゃないかって思って……」
「なるほどな」

 

チンクはオットーの話を聞いてふむ、と頷いた。
話を聞く限り、なんとなくだが彼女の症状はわかった。
ただ、にわかには信じられなかった。
クアットロの案によって、感情を限りなく抑制されている彼女がまさか……
試しに、とチンクはオットーにあることを尋ねた。

 

「オットー、お前は洞窟で管理局の人間に助けられた、といったな」
「うん」
「それじゃ、その人の顔を思い浮かべてみるんだ」
「え……」

 

突然のことに、オットーは珍しくあたふたと取り乱してしまう。
その顔も、少々赤く染まっていて、そんなオットーは滅多に見れるものではない。

 

「い、いきなり何を!?」

 

そんな、クアットロに見せればしばらくネタにされること間違いなし、なオットーを見て、なるほど、と頷く。
これで彼女がおかしかった理由が、予想から確信にかわった。
微笑を浮かべながら、チンクは立ち上がる。

 

「いや、すまないな、変なことを聞いて。そろそろ温水洗浄の時間だ。お前もたまにはみんなと入ってみろ」

 

そういい残し、チンクはいまだ少しぼうっとしているオットーの部屋を後にすると、やれやれとため息を着く。

 

(まさか、あのオットーが……)

 

この事を話せば、ドクターはなんと言うだろうか。
オットーに、春が訪れたと知れば……

 

あの事件の翌日。
もう夕暮れに近い時間帯、シン達の今日の訓練は終了した。
いつものようにへとへとになりながら宿舎へと向かう。

 

「今日もきつかったね~~」
「まあね。練習メニューもだんだん厳しくなってるし……」
「そうだね~~」

 

あ~~っと肩をまわして、疲れた表情を見せるティアナに、スバルは苦笑する。
ここ最近、訓練はますます厳しさを増してきている。
最近は、副隊長まで参加するようになりより実践的な訓練になっている。
それに比例していくように、自分達がまた強くなっていっている……のかもしれない。

 

「これだけ鍛えられてるんだ、筋力関連じゃ結構増えてるんじゃないか?」
「ああ、確かにそうですね」
「そのうち、みんなムキムキになったりして」
「む、ムキムキですか……それはちょっと……」

 

冗談なのか定かではないが、笑うスバルにキャロは微妙な苦笑いを浮かべる。
ムキムキな女の子というのは、少し抵抗があるか……

 

「心配ないわよ、筋トレとかならともかく……やせることは合ってムキムキになることなんて無いわよ」
「そ、そうなんですか……」
「あだだだだだだ!」
「……器用な奴だな、お前」

 

シンは、コブラツイストを入れながらも何もないようにフォローを入れるティアナに、ある意味関心する。
いつもながら思うが、本当に器用なやつだと。

 

「てぃ、ティア……痛い~~~」
「変な事いうあんたが悪いのよ、全く……」

 

ティアナはようやくスバルを解放すると、スバルははぁ、はぁ、と涙目でティアナを見る。
すでに、シンはこのようなやり取りを腐るほど見ている。
よくもまあ飽きないな……と思いながらも、シンは前を見る。

 

「あの、アスカさん、ちょっといいですか?」
「ん?」

 

そこに、キャロが何か考えているようにシンを見る。

 

「昨日のことなんですけど」
「昨日って……あの洞窟の時か?」

 

昨日の洞窟での一件。
まあ、いろいろあったが無事にレリックを、さらには別のロストロギアまでも回収することに成功した。
別に気になるところないはずである。

 

「はい……あの時、僕ぐらいの子と、リィン曹長くらいの子がいましたよね?」

 

エリオにいわれて、ああ、とシンは思い出す。
敵と洞窟に閉じ込められて、さまよっていたときに敵側にいた二人の少女。

 

「なにか、レリックを狙ってたみたいですけど……何か異常じゃありませんでした?」
「あ、それは私も思ってたんです」

 

キャロもエリオと同じように、少し不思議に思っていたことがあるらしい。
言われてみれば、あの二人のレリックに対する執着は他のものよりも高そうな気がした。
何が何でも手に入れてやる!という気持ちがあったような気もする。

 

「そういえばあのちっこいのが何か言ってたな……ルールーの母さんがなんとかって」

 

あのリィンフォースと同じ大きさの少女が放った言葉。
一体どういうことだ?

 

「誰か……人質に取られてるのか?」

 

このやり取りは、シグナムも聞いているはずだ。
すでに隊長陣にも伝わっているだろう。

 

「それは隊長たちが今後話すだろう。俺達はまず目下のことを考えないといけない」
「陳述会、か……」

 

既に数日後に控えていく意見陳述会。
管理局の重鎮達が集う、重要な会議。
おそらく、スカリエッティもそこを狙ってくるはずだ。

 

「おそらく、俺達も二手に分かれるだろう」
「二手?」

 

レイの言っている意味に、ほかの4人は?マークをつける。
地上本部のほかに、一体どこを守るというのだろうか……
その疑問に最も早く気付いたのがティアナだった。

 

「ヴィヴィオね……」
「ああ。陳述会の日、彼女の奪還も考えられるからな」

 

レリックを持った少女、ヴィヴィオ。
おそらく、スカリエッティと何か関係があるはずだ。
もしそうならば、確実に彼女も狙われる。

 

「だけど、隊舎の方はシャマル先生とザフィーラが留守番するんだし、大丈夫なんじゃないかな?」

 

余り戦闘をしているところを見たこと無いが、魔道師としても優秀な二人だ。
そうそう簡単にやられるとは思えないし、向こうも本部を襲うのだとしたら、そこまで人員を割けない筈……
そう考えるスバルたちに、だといいがな……とレイは考える。
(やはり、隊長達、そして議長にも相談したほうがいいかもしれないな……)

 

レイは、静かに上を見上げる。
そこには、澄み切った夜空と、多数の星が輝いていた。

 

(ジェイル・スカリエッティ……奴はこの手で必ず……)

 

レイは、心中で彼の名前を繰り返し、憎しみにも近い感情をあらわにしていた……

 

「ぶえっくしょい!」

 

時に、場所はスカリエッティのアジト。
その自室で、彼は盛大なクシャミをかます。

 

「ドクター、大丈夫ですか?」
「いや……なんでもないよ。誰かが私の噂でもしているのだろう」
「はぁ……」

 

彼の言っている意味を理解しかね、少し首をかしげるウーノだが、ドクターなら大丈夫とその事を気にせず、目の前の3人を見る。
そこには、ゼスト、ルーテシア、アギトの3人がここに来ている。

 

「クアットロからの報告では、どうやら11番のレリックは管理局に奪われたみたいだね。
それで、今後のことで私のところへ来た、と。珍しくアギト君も一緒に」
「ああ」

 

ゼストは、不満な表情を隠さずに彼を見る。
やはり、彼は信用できないし、はっきりいって嫌いともいえる人物だった。
しかし、彼に世話になっているのもまた事実で、3人と彼はそんな微妙な関係だった。

 

「11番のレリックは奪われた以上、俺達は単独行動をとろうと思っている」
「なんですって?」

 

ゼストの言葉に、ウーノは眉を引きつらせて彼を少し睨むように見る。
しかし、それとは対照的に、スカリエッティは薄い笑みを浮かべて彼を見る。

 

「なるほどね。理由は大体想像がつく……というよりは、それが約束だからね」
「ああ。もう、お前にレリックの情報を聞き出す必要がなくなったからな」

 

ゼスト達がスカリエッティに協力する理由。
それは、11番のレリックを探す手伝いをしてもらうことだった。
その代わりに、レリックの件に関しては自分達もその力を貸す、という約束をしているのだ。
しかし、自分達の目的であったレリックは管理局に奪われているものの、一応は発見することが出来た。
これ以上、彼とつるむ必要も道理も無い。
そう感じたゼストは、金輪際、彼とは縁を切る事を決めた。
それにはアギトも全面的に同意して、強く頷いた。
もう、こんな奴と関わるの一切ごめんだ、という顔をしている。

 

「じゃあ、ルーテシアはどうするのだね?」

 

しかし、スカリエッティは二人の意見を半ば無視するように、ルーテシアに意見を求めた。
ルーテシアは少し考えるそぶりを見せるが……

 

「私は、ドクターに協力してもいいと思う」
「な!?……ルールー!正気か!?」

 

まさかのルーテシアの発言に、アギトが驚いて彼女を見る。
確かに、彼女は彼を嫌っている様子は無い。
しかし、それだけで自分達と全く逆の意見を言うとは思わなかったのだ。

 

「だって……そうしたら、もうお母さんにあえなくなるから……」
「あ……」

 

ルーテシアが、寂しげな表情を見せながらつぶやく言葉に、アギトははっとする。
今、自分達が彼等と袂を違えば、今は彼のラボにいる彼女の母、メガーヌと会えなくなってしまう。
彼女を助けるためには、スカリエッティの協力がどうしても必要だった。
たとえ目を覚ましていなくても、母と一緒二いることが、ルーテシアにとっての至福の時間といってもいい。
それなのに、自分はただあいつらと一緒にいるのがいやだ、という個人的な理由のみを追及し、すっかり彼女の事を忘れてしまっていたのだ。

 

「ということだが、君はどうする?」
「貴様……その事を知っていて……」

 

ルーテシアは、自分達がメガーヌを持っている限り協力するだろう。
今はゼストと共にいるが、既にスカリエッティはルーテシアという戦力を手に入れているのだ。

 

「それはそうだが……まさか、君までも気付いていないとは驚いたよ……焦っているのかな?」

 

スカリエッティは、静かに心臓がある、彼の左胸を見る。
彼の体の事は、スカリエティもそうだが、自分自身が一番よく知っている。

 

「結局、お前に協力するしか答えはない、か……」
「どうとってもらってもかまわんよ」

 

ゼストは小さく頷きいたあと、行くぞ、と小さくつぶやき、彼の部屋を後にする。
不満ながらもそれに付き従うアギトと、黙ってついていくルーテシア。
スカリエッティは、それを静かに笑いながら、3人を見送っていた。

 

(もう、いつまで持つかわからんな)

 

一旦ラボから離れるために通路を歩いている中、ゼストは静かに自分の手を見る。
もう、いつ壊れてもおかしくない自分の体。
それを治療し、延命を処理するのは、彼にしか頼めない。
結局、このままこの奇妙な関係は続いてしまうのだった。
いや、違う。
自分は、既に彼の手の上で踊らされている。
それを改めて思い知らされた。

 

(だが、例えそうだとしても……)

 

ゼストは、静かに自分の手を強く握る。
自分は、やらなければいけないことがある。
守ならければいけない人がある。

 

(でなければ……いずれ目を覚ますメガーヌに顔向けできん……それまでこの体がもてばいいのだが)

 

ゼストは、静かにルーテシアを見る。
自分の元部下であり、彼女の母であるメガーヌが目を覚ます。その時までは彼女のそばにいて、守ってやりたい。

 

「ゼスト、どうしたの?」

 

ルーテシアは、自分を見て不思議に思ったのか、自分に尋ねたが、なんでもない、と前を見る。
そして、次に思い浮かぶのは、今はもういない、もう一人の部下の女性の姿。

 

(クイント……私のやっている事は間違っているのやもしれん。それに、君にも家族を見守るという責務もある……
しかし……そう遠くないはずだ。全ての決着がつくまででいい、この娘を見守っていてほしい……
もうすぐ、私もそっちへ逝く……真実という土産をもってな)

 

ゼストは、一つの誓いを立て、静かに通路を歩いていく。
それが、今の彼の目には死へと近づく黄泉路への道にも見えた……

 

オ「とうとう始まった地上本部での意見陳列会」
ディ「作戦結構の日になっても、以前あいまいな表情ばかりのオットーに、私が下した決断は……」
チ「次回、魔法戦士まじかるしん、「その日、機動六課(前編)」
ウェ「あ、今回はまともなサブタイっすね」