Seed-NANOHA_まじかるしん_第49話

Last-modified: 2009-04-09 (木) 00:07:41

「いた……」

 

ディードは、自分達に備わっている望遠センサーに映る男を見る。
黒い髪、赤い目。
なにより、オットーがずっとその男をぼぅっと見ているということから、あいつがあの男と見て間違いない。

 

(やっと見つけた……)

 

作戦が開始してから、ディードはこの時をずっと待っていた。
この手で、あの男を叩き潰すするこの瞬間を……
この獲物、ツインブレイスであいつを切り刻む瞬間を。
あの男を倒すことを考えると笑みを隠すことができない。
ああ、早くあいつを倒したい。
自分のもつ力で、眼前の敵を叩きのめしてやりたい。
全ては、隣にいる愛おしい少女、オットーのために。
彼女は自分やドクター、姉妹たちのもの。
他人がやすやすと踏み込んでいいものではない。

 

(なのに、なのにアイツは……)

 

ディードはぎりぎりと歯をきしませ、あの男を睨みつける。
アイツはやすやすとその聖域へと踏み込み、さらにはオットーを誘惑した。
それは許されざる行為だ。
だから、アイツには報いを受けてもらう。
他の誰でもない、双子である自分の手で。

 

「ディード、どうしたの?さっきから様子がおかしいけど?どこか調子悪い?」

 

その横で、オットーは自分を心配してくれた。
それは二人の間では以前までは普通に行われてきたやり取り。
しかし、今のディードにとっては、それが大きな清涼剤となる。

 

「ううん、なんでもない。大丈夫」

 

そう簡単に答えたが、彼女が話しかけてくれただけでも、かなり落ち着いていることが自分でもわかる。
彼女の声が、甘美なる響きになって自分を潤している。
彼女の存在が、自分にとっての全て。
この時間をもっと長く、永遠のものにするために彼女は戦う。

 

『お~~い。二人とも、聞こえてるッスか~~』

 

ひと時の時間を楽しんでいると、ウェンディからの通信が入ってきた。
楽しみをジャマされてむっとするディードだが、この作戦が成功すればこんな時間などすぐに作ることができる。
これからのためにも、今は我慢。

 

「ウェンディ、もう準備はいいんですか?」
『一応できたんッすけど、もうちょっと様子見ってとこッス』
「様子見?」

 

予想外のウェンディの言葉に、ディードは不満な顔をしつつひとつ上の姉を見る。
一体どういうことだ?

 

『どうやら、向こうは別行動を取るようっす』
「別行動?」
「そ。で、いくらがジェットの援護があっても、あいつらの力をなめるわけにもいかねえっす。
だから、戦力を分断した後に襲って、ドクターに言われたものを回収ってことで。
ザフト部隊も予想以上にいるっすから、てきぱきいくっすよ」

 

向こうの人数は5人。
さっきの戦闘も観察していたが、奴らにとってガジェットは、もう恐るべき相手ではなくなっている。
そんな奴らが5人でこちらはガジェットをのけて3人。
確かに、数の上ではこちらが不利だった。

 

「……ウェンディ、いつの間にそんなこと考えるように?変なものでも食べた?」

 

いつもお気楽な妹らしからぬしごく合理的な案に、オットーはきょとんと先に起動した妹を見る。
確かに、この案なら安全に事を運ぶことができる。
なにも自ら危ない橋をわたらなくてもいい。
ただ、そんな作戦をおきらくな彼女が思いつくのは予想外だった。

 

『な!ひどいっすよオットー!!あたしだって考えるときは考えるっす!』

 

なにか悪口を言われているように聞こえたのか、ウェンディはむすっとしてオットーを見る。
自分だって、戦闘に関しては姉からいろいろと聞いている。
メインがどちらかといえば後方からの支援に向いている身としては、周りの状況を把握するという事は大切な仕事。
なんだかんだいいながらも、オットーもこの案には賛成だった。
ただ、賛成できないのが一人いた。

 

(冗談じゃない)

 

ディードは、漫才のようなやり取りをしている二人を無視して、眼下にいる黒毛の男を見る。
もし、あの男と目標が別行動を取れば、奴と戦える機会を失ってしまうことになる。
それだけは我慢ならない。
アイツは、今この場で倒さなければ自分の気がすまなかった。
そう思うと、自然と体が動く。

 

『ディード!何してるっすか!!』

 

ウェンディとオットーが気付いたときには、既にディードは突っ込んでいた。
いつの間に……とぽかんとそのようすを見ていたが、もう迷っている暇がなかった。

 

『とりあえず、こっちはガジェットをだしとくっすから、オットーはディードの援護をよろしく頼むっス!』
「ウェンディは?」
『とりあえずドクターかウー姉あたりに現状を報告したらすぐ向かうッス!』
「……うん、わかった」

 

オットーは通信を切ると、急いでディードのところへと向かう。
その中で、オットーはディードの事を考えていた。
最近、ディードの様子がおかしいことには薄々気付いてはいた。
しかし、その理由が自分には解らないのだ。
一体、なにがディードをそうさせたのか……

 

(ディード……どうしちゃったの?)

 

「一体何が起きてるんだ!?」
「そ、それが……管制室からは何も応答がないんです」
「くっ……」

 

薄暗い部屋の中、レジアス・ゲイス中将は半分周囲に怒鳴り散らしながら今の状況を確認する。
意見陳列会の最中、突如全てのシステムがダウンし、外の状況を確認することができない。。
そして聞こえる周囲のざわめきや爆発音。
それが、何かの異常が起きたということが確実だった。

 

(とうとう始まってもうた……)

 

その中にあり、機動六課部隊長、八神はやてと聖王教会騎士、カリム・グラシアはこの自体を予測していた。
カリム・グラシアが持つ予言能力によれば、今日この陳列会で、この地上本部が崩壊するという答えが出た。
この予言に備えて、自分達はできる限りのことはしてきた。
あとは、その結果を待つだけ……

 

(頼むよ、みんな……)

 

意見陳列会出席のため、この場から離れることができない二人は、頼れる友人と部下達。
そして賛同してくれた皆の活躍を祈ることしかできなかった。

 

「ここが、陳列会の会場?」
「どうやらそのようだな」

 

そこに、偶然で入り口の近くにいたハヤテは、扉の外からなにやら声が聞こえてきたことに気づいた。
声の主は、二人とも男性のようにも聞こえる。

 

「くっ、やっぱりシステムダウンのせいでドアが開かないか……すみません、ドアから離れてください!」

 

室内から男性の叫び声が聞こえ、何事かと室内の局員達はそのドアの方へと向く。

 

『クシフィアス』

 

その瞬間、独特の機械音声とともに、ロックされているドアは爆発音と共に粉々に砕け散った。
ガラガラと崩れるその向こうには、はやてとほぼ同い年くらいの男が二人。

 

「誰だ、お前たちは?」

 

レジアスは、突如やってきた二人を睨みつける。
それは、明らかな警戒心だった。
それはレジアスだけではなく、はやてを含めた他の局員もその二人を見ていた。
しかし、その警戒や威圧をものともせず、二人のうち、藍色の髪をした男が口を開く。

 

「遅れて申し訳ありません。自分は、ザフトから派遣されたアスラン・ザラです」
「オーブから派遣されたキラ・ヤマトです」

 

「お前は私が討つんだ、今日、ここで!!」
「くっ……」

 

突然の戦闘機人の奇襲に、シンは舌打ちして敵を見る。
これから、分散して行動を開始しようとしたときに、まるで狙ったかのようなタイミングで襲ってきた。
という事は、この少女意外にも敵が潜んでいる確率が高い。
なら、このままでは自分はいい的。

 

「こ、の……なめるな!」

 

一瞬ディードを睨んだ瞬間、シンの周囲が突然と輝きだす。

 

「こ、これは……」

 

その光をみた瞬間、ディードは攻撃をやめてさっとその場からいく。
この白い光。
彼のことは何回か見たことがある。
彼がミッドチルダとは違う、別世界の魔法を使っているということを。

 

「モビルジャケット」

 

ディードがつぶやくと、そこにいたのは人ではなく、人の姿を模した機械。
モビルジャケット、インパルス。
鋼鉄の鎧に変貌したシンは、彼女を睨む。

 

「インパルス、ソードシルエット」

 

シンが自身の相棒に命令すると、先ほどまで青だった胸部と肩が、燃える様な赤へと変わっていく。
いかなる状況でも対応できるように考案された、インパルスのシルエットシステム。
その一つである、近接・防御に特化したインパルスの形態の一つ、ソードシルエット。
そして、そのシルエットを象徴するような二対の大剣、エクスカリバー。
瞬時に、さっきと色や武装が変わっていくのをみたディードは、驚きの表情を隠せなかった。

 

「なにが、お前は私が討つんだ。今日、ここで、だ…」

 

シンは、背中に装着されているエクスカリバーをもつと、ゆっくりと構える。
周囲を見ると、ティアナたちはこいつが連れてきたであろうガジェットと戦闘を繰り広げている。
気付けば、自分も数体のガジェットに囲まれていつかたちだった。
急がなければいけないときに、よくもまあいろいろとよく起こるものだ、
なら……

 

「あんたが言うな!それはこっちの台詞だ!今日こそ縄についてもらうぞ、テロリスト!!」

 

なら、前の前の敵を倒し、確保する。
もしくは、さっさと退けて向こうの合流するのが最良だと考えたシンは、大剣を二つ持っているとは思えないほどの身のこなしで、ディードに迫る。

 

「IS,ツインブレイス!」

 

ディードも、両手に獲物を持ち、シンへと突撃する。
ディードは両手のツインブレイスを、シンは片方のエクスカリバーを相手に向かいきりつけようとしたときだった。

 

『マスター、上です』

 

突然のデバイスからの警告に、シンは上空を確認せずにさっと後ろへ下がる。
その瞬間、シンがいた地点に多数の光が降り注ぐ。
敵の増援が来たと判断したシンは、ようやく上を見る。
そこには見覚えのある、少年のようにも見える少女の姿。

 

「あいつは……」

 

その少女は、以前洞窟で出会った少女だった。

 

シンがディードと戦っている頃、ティアナたちも敵に襲われていた。
シンが戦闘機人に襲われたときすかさず彼の援護を行う予定だったが、それを邪魔するかのように突如ガジェットの大群が4人の周囲に出現。
結局、シンの援護を行えずにガジェットたちと戦う羽目になってしまった彼女だったが、異変が起きたのはそのすぐ後。
スバルがガジェットの一つに拳を打ち込んだその直後、彼女の攻撃の隙を狙ッ鷹のように一つの魔力弾がスバルを襲った。
それは、ガジェットが放つレーザー状のものではなく、球体の魔力弾。

 

「スバルさん!」

 

スバルに直撃をうけるはずだったそれは、エリオによって防がれる。
魔力弾とストラーだが激突し、激しく火花が踊り、舞うように激しく散る。
そのまま、エリオはその魔力弾を弾き飛ばした。
弧を描いて飛んでいく魔力弾は、ガジェットを巻き込んで爆発する。

 

「二人とも、こっち!」

 

そのまま、一旦ティアナの指示さがった二人は急遽作戦会議を始める。
まずは、この包囲網を突破して、隊長達と合流しなればいけない。
シンの方も心配だが、今は自分達がそんなことを言っていられる状況ではなくなってきた。
シンは、隊長と合流後に再度合流という形で決まった。
だが、まずは目下の問題から片付けなければならない。
その問題点として、スバルを捉えた先ほどの砲撃。
砲撃のタイミング、威力、精度共に、ガジェットの比ではない。
ということは考えられることは一つ。

 

「戦闘機人……」

 

スバルの言葉に、場の空気が重くなるのを感じた。
自分達の目の前には、最大の敵がいるのだ。
その強敵を退けなければ、この先を取ることなどできない。
ディアナはここを切り抜けるために必要なこととは何かを……
目の前にはガジェットの大群。
その奥に潜んでいる戦闘機人。
この鉄壁の壁を突破するには……

 

(ちょっとまって……)

 

そこで、ティアナは思いついた。
この周囲から抜け出すすべを……
一見、完全に取り囲まれ、万事休すと思われる状態。

 

(いける、いけるわ……)

 

しかし、ティアナが考えた作戦が上手くいけば、見事にここから脱出できる。
だが、その作戦において、タイミングが鍵を握る。
もしそれを逃し失敗すれば自分達は完全に包囲され、白旗をあげることしかできない。
しかし、今は手段を選んでいるときはない。
ティアナは、この同僚達にすべてを委ねる決心をした。
心配ない、このメンバーなら絶対にできる。
いや、このメンバーでなければできない。
そう確信し、自分ができる最善の策を親友であり、戦友達に話す。

 

「みんな、ちょっと聞いて……」

 

(これで、よかったのかな?)

 

8番目の戦闘機人、オットーは呆然と、眼下にいるシンを見る。
先ほどのオットーが放った光、IS「レイストーム」による射撃攻撃は、彼を狙わずに撃った。
撃った後も、何で撃ったのか自分でもよく解っていない。
ただ、二人が戦っているのを見たとき、理由は解らないが「二人には戦ってほしくない」という思いが芽生えたのは覚えている。
オットーは、自分が気付かないうちに「二人の戦いを止めるため」にレイストームを放った。
眼下にいるシンが彼女に気付いたとき、オットーはぴくりを体を震わせる。
そして思い出すのは、作戦前に聞いた姉の言葉。

 

(お前は、あの男と戦えるのか?)

 

その言葉の問いを、彼女は考えていた。
その結果、出た答えの代わりが今の体を震えだった。
自分は、彼を攻撃できない。
自分達は戦闘機人、戦うための存在。
それなのに、戦うことができなくてどうする。
あいつは敵だ。倒さなければいけない敵。
迷いは捨てるんだ。
なんどもそう思い込んでいた。
なのに、彼を目の前にすると体が動かなくなる。
戦闘機人として、彼と戦わなくてはいけない……
しかし、個人としても自分は、彼とは戦いたくない。
この二つの思いが、オットーの脳内を駆けめぐる。

 

「ち、2対一かよ……」

 

オットーの姿を見たシンは、再度エクスカリバーを握り締める。
しかし、その手には少しだけ迷いが生じている。
洞窟の一件もあり、正直な話あまり彼女とは戦いたくない。
しかし、今彼女達を放っておくとまた被害が、犠牲が出てしまう。
それだけは見過ごすわけにはいかない……

 

(そうだ、今はあいつらを相手するよりも早く……)

 

そう割り切り、シンは深呼吸で息を整え、前方の二人を見る。
今は深く考えている場合ではない。
さっさとあの二人を振り切り、ギンガと合流しなければいけない。
そのなかで、シンは相手の戦力を探るために二人を見る。
もし、先ほどの攻撃が彼女のものなら、髪が長いほうの少女は前衛、短いほうが後裔という形でサポートに入っているという形になる。
あの二人の出鼻をくじくには……

 

「行くぞ」

 

シンは前のめりに構え、まずはディードに向かって突撃する。
それを見た彼女も、呼応するようにツインブレイスを構える

 

「オットー、援護ができるんだったらお願い」
「……わかった」

 

ディードの言葉にオットーが頷くのを見て、ディードも駆け出す。
先ほどオットーは頷いていたが、オットーの援護は余り期待しないでいた。
今のオットーに、援護ができるとは思えていない。
さっきのわかったという返事も、自分を心配させないとしての行為だろう。
だが、それだけで十分だった。
彼女が自分を心配をしてくれている。
それだけでも、今のディードには十分な援護要素だった。
彼女と共にいて、自分の事を思ってくれているだけで自分の力になっている。

 

「お前との因縁も、ここまでだ!!」
「何訳のわかんない事を!」

 

まるで、シンを生涯のライバルといわんばかりの彼女の言葉に、シンは思わず突っ込む。
さっきの自分を睨む目といい、一体なんだというのだ?
一体、自分は彼女になにをした?
全くもって思い出せないし、ほとんど面識もない。
最初は全く理由が解らなかったが、今はそんな事を言う暇はない。
ただ、目の前のテロリストをとっ捕まえる。
それだけだ。
シンはディードを捕らえると、エクスカリバーをおもむろに振り上げる。
二つの大剣を軽々と振り回すその姿は、普通の人なら恐怖となるだろう。
そう、普通の人なら

 

(遅い……)

 

しかし、普通の人ではないディードにとって、とても遅かった。
いくら軽々と振り回すといっても、所詮は大剣。
あの大きな剣を振り回すには、どうしても隙が生まれる。
ディードはその隙をつき、剣は振り下ろされる前より先に、彼の懐に飛び込んだ。
完全に自分の距離。

 

「死ね」

 

小さくつぶやくと、ディードはツインブレイスを横になぎ払う。
それは、まっすぐとシンを狙った一撃。
攻撃態勢に入っているため、避ける事は不可能。
意外とあっけない結果。
しかし、これで終わる。
これで、オットーは元に戻る……

 

「な……に……」

 

はずだった。
むなしくも、彼女の攻撃は空を切るだけだった。
普通なら、確実に彼女の攻撃は当たるはずだった。

 

「インパルスをただのモビルジャケットだと思うな」

 

しかし、ディード達戦闘機人が普通の人ではないのと同じように、シンのインパルスもただのモビルジャケットではない。
ディードが彼を捉える前に、上半身と下半身を分離させて、彼女の攻撃を凌いだ。
そういえば、と思い出す。
以前、彼女自身はこの目で見ていなかったが、彼がこの力を使ってセインからレリックを奪った事を思い出す。
そのことを、頭に血が上っていた彼女はそのjことを完全に失念していた。
完全に決まったと思い込んでいたディードはバランスを完全に崩してしまう。

 

「残念だったな!」

 

完全に無防備になったディードに、インパルスの下半身が、ディードに膝蹴りを見舞った。
ほぼ金属に構成されているモビルジャケットの蹴りは、めりめりと嫌な音を立てて、ディードの腹部へめり込む。

 

「ディード!」
「あ……う……が……」

 

想像を超えた痛みに、ディードは腹部を押さえて蹲る。
アレをもろに受ければ、おそらくしばらくは立てない。

 

「フォースシルエット」

 

シンはそう命令すると、インパルスの色が先ほどの青へと戻っていく。
あの時と違う点は、その背中に大型のブースタが取り付けられたところだ。
フォースシルエット。
高機動戦に長けたそれを身につけたシンは、おもむろに大地を蹴り、飛立つ。
シンの見立てでは、あのオットーという少女は後衛が主な役割。
となれば、このフォースシルエットには追いつけないだろうという算段。
そのシンの予想通り、彼女がシンを追うことはなかった。
それと同時に、ティアナたちがいた地点からまばゆいばかりの光が発せられ、オットーはそのほうに目が行ってしまった。

 

「い、一体なんなんッスか!?」

 

戦闘機人11番、ウェンディはただ目の前の光景を唖然と見ている。
ドクターに言われ手いた目標物の一人を確保するべく、大多数のガジェットと共にそのターゲット「タイプゼロ」とその一行を追い詰め、捕獲まであと一歩。
そのとき、丁度彼女達がいたと思われるところから、突如光が漏れた。

 

「目くらましのつもりっすか?……でも、残念無念また来週ッス」

 

閃光弾で目をくらまし、その鋤に逃走。
よくありがちな逃走パターンだ。
そもそも、そんな光など戦闘機人である自分には通用しない。
ウェンディは微笑を浮かべながら、そこから出てくるであろう人物達を、今か今かと見る。
その目は、獲物を追い詰めた狩人の如く獲物を狙い済ましている。
光から、4人と一匹の影が映ったのは、それからすぐのことだった。
その影を確認した瞬間、ウェンディは迷わずに引き金を4回引いた。
確認してから初弾の引き金を引くまで、およそ0、3秒。
某ガンマンには劣るが、それでもかなりの早業であることには変わりない。
ウェンディが放った魔力弾は、まっすぐとその4人を貫く。

 

「え?」

 

そこで、ウェンディは違和感に気付いた。
弾が影に直撃した瞬間、その影は「破裂」したのだ。
ふつうならあの弾が直撃した瞬間相手が吹き飛ぶあたりはするだろうが、破裂する事はまずない。
アレはおそらく……

 

「幻術」

 

ウェンディがつぶやいたとき、ようやく閃光弾の光が消えていく。

 

「うっそお!」

 

しかし、次の光景に、ウェンディは唖然とする。
彼女の目の前に移る光景は、同じ人間が何人もいるのだった。
おそらく幻術の仕業だろうが、これではどれが本物かを見分けるのにも時間がかかってしまう。

 

「と、とりあえず、片っ端から撃つっす!」

 

なら、考えるよりも先に行動に移す。
残ったガジェット共に、あの幻術もろともべて叩き潰す強攻策に出た。
にげられるまえに、命令どおりタイプゼロを捕らえなければいけない。
自分と、現存しているがジェットによる総攻撃。
次々と直撃しては消えてゆく幻。

 

(本物は……)

 

目に映る幻を狙いながら、ウェンディは必死で本物の4人を探す。
今、彼女はあせっている。
あの有名な隊長達と別行動を取っている今が狙うチャンスなのだ。
ここで取り逃がすと任務の達成が困難となる。
何がなんでも今アレを捕獲しなければならない。
念のため、ガジェットの一部は周囲の散策に回している。
もし逃げれたのなら、ガジェットが知らせてくるはず。
それからの連絡がないという事は、まだここから逃げ出していないということだ。

 

「スバル!今よ!!」

 

もう、幻の半分があとわずかとなったとき、突如として地表から生えるように、青い道が出来上がった。
現在治療中の9番目のナンバーズ、ノーヴェが使う力の元となった魔法、「ウイングロード」
スバルとその姉が持つ、空を走るための先天技能。

 

(来た……)

 

ウェンディは、ひそかにこのときを待っていた。
周囲がガジェットで包囲されているこの現状で、逃げるにはこの手段しかない。
このときを待っていたから、ガジェットにはAMFを展開させていなかったのだ。
あえてこの魔法を使わせるために。
そして、この予測どおり、先頭とした4人がその道を走っていく。
念のためにガジェットに攻撃をタイプゼロに加えさせてみる。
彼女は、それを防御魔法で防ぐ。
という事は、アレは本物ということである。

 

(あたしの勝利ッス)

 

ウェンディはニヤリと微笑を浮かべると、指を鳴らしてガジェットに合図を送った。
その瞬間、ガジェットのカメラアイの部分が怪しく光る。
それは、魔力を遮断するAMFの発動の合図。
そうすると、アレを発動することができない。
見る見るうちに、ウイングロードが消えていく。
そして、落ちてゆく4人を一斉攻撃で沈める。
その流れだ。
だが、油断はできない。
チンク姉も言っていた。「自身の油断がとんでもない結果を招く」と。
そして、今にも最後尾にいるオレンジ髪の少女、ディアナの足場が消えようとしたときだった。

 

「行くわよ!」

 

ティアナとともに、4人は動き出した。
そう、彼女の考えは読まれていた。
最前列にいるスバルが後ろに振り向くと、その後ろにいるフリードを抱いているキャロを、魔力強化を使った身体能力で思いっきり上空に放り投げた。
キャロだけではない。
残っている二人も、スバルは懇親の力で投げ飛ばした。
最初はその行為がウェンディにはわからなかったが、それを理解した瞬間キャロに狙いをつける。
キャロを投げた理由。
それは、彼女をAMFの範囲から出すため。
彼女は竜召還師。
手元に持つ竜を本来の姿にし、それに乗って逃げる。
ウェンディは、相手の策略をそう判断する。

 

「無茶苦茶するっすね!」

 

なら、その前にあの少女を落とさなければいけない。
いや……

 

「これはチャンスっす」

 

AMFで魔法が使えない今、奴はがら空き。
いくらあのガンナーが援護攻撃しようが、周囲を囲んでいるガジェットの一斉砲撃は避けられない。
そう考えたとき、彼女はそれを見たとき、冷や汗をかいた。
今重力に惹かれて落ちている少女の瞳が金色に光る

 

「ま、まさか……」

 

このとき、ウェンディは勘違いをしていた。
あの竜召還師が竜を出した理由。
それは、確かに逃げるためでもある。
しかしその最大の理由は、これから起こる事に巻き込まれないためである。

 

「IS……振動破砕」

 

スバルは眼下にあるガジェットの大群をみる。
ティアナが考えた作戦。
その鍵を握るのは、スバルの力。

 

「一撃……必倒!」

 

これから出すのは、魔力ではなく、スバルが「作られたとき」から備え付けられている力、IS。
タイプゼロセカンドといわれている彼女が持つその力は「振動破砕」
接触させた物質をその名のとおり振動を加えて「破壊」する力。
これは、その力を彼女なりに応用したものである。

 

「必殺、振動破動拳!!」(キャラ右向き時に↓→↓→+P)

 

これは、振動破砕によって起こる振動を衝撃波として放出するもの。
隊長達に相談の元、ここ数日の猛訓練で編み出し、何とか形にした必殺技の一つ。
最初はこの力を使うのは嫌だった。
この力を使って、人を気づけるのが嫌だったから。
しかし、シンの「守るための力」という言葉が、スバルの考えを改めさせた。
今まで壊すことしかできないと思っていたこの力が、人を守るために役立てる。
これはそのための力だ。
スバルが放った振動破動拳は、ガジェットを大半を巻き込み、その大地ごとめり込ませ、潰す。
その威力を見たとき、ウェンディはぞっとした。
もし、アレを自分は受けてしまった場合、いくら頑丈なこと体でも決して無事ではないだろう。
しかし、この力は何もいいとこずくめではない。
振動破砕は、すさまじい威力を誇るが、その際にかかる自身への衝撃や負担もかなり激しい。
その衝撃により、スバル自身も空高く吹き飛ばされる。

 

『マスター、ガジェットの喪失により、現在AMFの効果はありません』
「よし、ウイングロード!!」

 

しかし、今回はその力を利用させてもらった。
吹き飛ばされたスバルは、姿勢を整えると、ウイングロードを使いティアナたちと合流、その場を後にする。
追跡するにも、そのほとんどの戦力を失ったウェンディにはもはや彼女達を追う事はできない。

 

「ウェンディ、そっちも失敗したの?」

 

丁度声が聞こえて、後ろを振り向くと、そこにはディードに肩を貸しているオットーの姿があった。
その姿を見ると、その結果もなんとなくわかる。

 

「そっちも取り逃がしたっすか」
「うん……ディード、大丈夫」
「なんとか……もう立てるよ」

 

もう先ほどの痛みも落ち着き、ディードはオットーの肩から手を離し自分の足で地面に立つ。
その表情には、悔しさがにじみ出ていた。
自分はあいつに一瞬で負けてしまった。
相手が予想外の攻撃をしてきた、なんていうのは理由にならない。
完全な自身の油断からの敗北だ。

 

(だが、次は必ず倒す……)

 

ディードは復習を心に誓い、ところどころ煙が発生している管理局地上本部を見上げる。
一応、管理局にドクターの力を見せ付けるという作戦自体は既に成功している。
あとは、できればの任務をできうる限り遂行する。
あいつと戦って、ディードは先ほどよりも幾分か落ち着いていた。
少しでも、その怒りを晴らせたのがその原因の一つかもしれない。
それでもアイツを許せないことには変わらない。
次に会うときは、確実に倒す。
その時、オットーは見た。
彼女の目は輝きを失い、どす黒くなってた事を。
本当に殺人機械になったかのような、冷たい目に。
丁度、その時だった。
この地上本部とは遠く離れた場所から、地上から天を突き刺すような一つの光が発せられた。

 

「あれは、確か……地上本部からっすよね?」
「はい、あそこはアズラエルが担当していた聖王の器の回収していたはずですが……」
「まさか、殺しちゃった?」

 

一体、向こうは向こうで何をしているのか、彼女達には理解ができなかった。
もともと、彼には友好的ではなかった3人。
彼に行動に関しては、全く知らないし知りたくもない。
しかし、いらないおせっかいをこちらに残すのだけは勘弁してほしかった。

 

『3人とも、無事か?』

 

そこに、別行動中のチンクから通信が入ってきたのはある意味偶然なのだおるか。

 

「チンク姉、どうしたっすか?」
『うむ、少しこちらに合流してほしくてな』
「合流ですか?」
『ああ、それも早くだ。もう一つのタイプゼロを回収するために、な』

 

内容を簡潔に言うと、チンクは通信をすぐに切った。
もう一つのタイプゼロ……
それも、ドクターに言われた回収物の一つ。

 

「これは、早く行かないとヤバイッスね」
「その通りだと思います」

 

いつにもまして真剣な表情のチンクの表情が、いかにも緊急事態ということを物語っている。
というわけで、3人はさっさと合流するために小さな姉の元へと向かっていった。
そのときには、ディードの目にはいつの間にか輝きが戻っていた。
そんなディードを見て、オットーは心配する。
彼女に、何も異変がなければいいと願いながら。

 

(さて、一人でどこまでやれるか。それとも、私一人で十分か)

 

妹達との通信を追え、5番目のナンバーズであるチンクは目の前に一女性を見る。
青い髪を長く伸ばしているその女性は、左手にリボルバーナックルを構えている。
この女性こそ、ターゲットの一つであるタイプゼロの一人。

 

「もうお話は済んだのかしら?」

 

タイプゼロファースト、ギンガ・ナカジマはチンクを睨みつけながら尋ねる。
彼女も、戦闘機人との戦いを望んでいた。
彼女達には聴きたいことが山ほどある。
以前との戦いで、戦闘機人との戦いで感じた違和感を含めて、いろいろと聞かなければいけないことがたくさんある。

 

「わざわざ待つとは、たいした自信だな」
「あなたには聴きたいことがたくさんあるのよ」
「そうか……」

 

それに対して、チンクもスティンガーナイフを構え、いつでも戦帰るように準備はできている。
二人は構え、微動だにせず、音も立てないままおよそ1分の時が過ぎた。
先に動いた……いや、動かされたのは、チンクだった。

 

「!?」

 

チンクは、右側からの突然の砲撃を察知すると、スティンガーナイフをギンガに投げて足止めさせると、必要最低限の動きで体をひねり、紙一重でその砲撃をかわした。
その砲撃は、本局の壁を、いともたやすく打ち貫いた。

 

「くそ、避けられたか……」

 

そこには、ディード達を追い払った後、すぐさまギンガの元へ駆けつけ、砲撃専用の携帯であるブラストシルエット。
その主要武装であるケルベロスを構えるシンの姿だった。
そのケルベロスからはななたれた砲身からは、湯気が立っている。
これで2対1。
確実に追い込まれている形となってしまった。

 

「う~~ん、今のところは順調かしらぁ?タイプゼロの捕獲は遅れてるようだけど、チンクちゃんなら何とかなるでしょう」

 

現在、紅く燃えている軌道六課を見下ろすように、クアットロはコンソールを動かす。
完全なる奇襲による地上本部襲撃、それはほぼ順調にことが運んでいた。
後は、ドクターに言われていた例の人物たちをちょろまかすだけ。
そんな彼女は、ある異変を察知したのはそんなときだった。

 

「ん……ハッキング」

 

彼女は、何者かが自分にハッキングをかけていることに気付く。
管理局の力をそぐために、いとしの姉から送られてきた管理局の極秘情報を元に、彼女は様々なシステムをダウンさせている。
しかし、それを知ったとき、彼女は微笑を浮かべた。

 

「誰から知らないけどぉ~、この私にハッキングで戦いを挑むなんて、100年は早いわよぉ」

 

手をわきわきと動かし、眼鏡を光らせながらそのハッカーを迎撃するため、クアットロは行動を開始する。
どうせ、向こうは送り込んだウイルスを駆除することしかできない。
なら、自分はそれをジャマするだけ。
相手がかわいそうだが、情報処理能力に特化した自分に、そんな事をするのは無意味というものだ。
まあ、向こうはそんな事を知るはずもないのだが。
そんな、自信満々にコンソールを動かしていたのだが……

 

「う、嘘……なによこれ……」

 

「ここのルートは……だめか。じゃあこのルートから逆アクセスしてハッキング……よし。
そこにアンチウイルスを流して、次は敵地への所在地の割り出ししてください」
「りょ、了解しました」

 

オーブ軍准将、キラ・ヤマトという少年は多数のギャラリーが見守る中、人外的スピードでコンソールを動かす。
この管理局地上本部の突然の原因。
それは、高度にシステム化された地上本部を隙を突いた、強力なウイルスプログラムの混入だった。
それだけではない。
地上本部に保管されている、重要なデータをも吸収した後破壊するというとてつもなくたちの悪いものだった。
この地上本部をシステムダウンさせるほどの強力なウイルス。
それを、まだ少年といえる年幅の男は、たった一人で駆除しようとしているのだ。
最初は、そういう少年をレジアスは突っぱねた。
陸の事は陸で何とかする、と。
第一、突然現れた誰ともわからない男を信用することなんてできるはずがない。

 

「議長からあなたに」

 

と、いまどき珍しい紙媒体の書類をレジアスに差し出す青い髪の男。
彼が言う議長とは、コズミック・イラにあるプラントの最高評議会議長、ギルバート・デュランダルその人である。
ザフト、議長という言葉に仕方なくその書類を受け取ったレジアスは、簡単にその資料を見る。
いったい、他世界のトップ二人が自分にどの用事があるというのだ……
中立を貫いていたオーブが、最近になっていろいろと動いているのは耳には入っている。
ここは地上本部だ。ここではなく本局にでもいけばいいものを……
レジアスは不満の表情を隠さないまま、

 

「!?」

 

しかし、その内容を確認すると、その目は見開いていて、明らかに動揺している顔だった。
わなわなと手を震わせながら、その紙を封筒に入れると、二人を見据えて「好きにしろ」とひところだけ言い放った。
それから、茶髪の少年がこのウイルスに対抗するための策を講じているのだ。
彼の腕はまさにすさまじいという言葉しか出ない。

 

「し、システム完全に復元しました。現在の状況をモニターに出します」

 

わずか15分ほどで全てのウイルスを駆除。
さらにシステムは完全に復元させてしまう。
保存されたデータがないのは痛いが、失ってしまったものは仕方がない。
その中、レジアスの心中では穏やかではなかった。
先ほど見せられた書物もそうだが、さらには現在のこと。
ガジェットやウイルスの進入を許し、機密保持のデータを分実相手に奪われ、さらにはこの問題をよそ者が解決。
これは、確実に現在の任を降ろされる事は間違いない。
……いや、もしそれだけですんでもまだいいほうだろう。
下手をすれば、この首が飛んでもおかしくはないのだ。

 

(いや、これも報いか……)

 

自身はこの地位に上り詰めるためにいろんな事をしてきた。
自分の政策で、ただでさえ仲の悪かった本局との関係の更なる悪化。
どうやら、自分は汚い部類の人間なのかもしれない。
だからこそ、あのような書類まで渡された。
しかし、そこまでしてでも、自分には願いがある。
この地上本部大きくし、ミッドを守りたいという願い。
現在、優秀な人材のそのほとんどは本局がほぼ独占しているというのが管理局の現状。
それが、レジアスには我慢ならなかった。

 

(事件の規模の大きさを考えると、仕方ないのかもしれん)

 

思い出されるのは、かつての友人の言葉だった。
解っている。解っているのだ。そんな事は。
この世界で起こる事件と、他の世界で起こる事件。
そのどちらが規模が大きいのかぐらいは。
それでも、自分は我慢ならなかった。
そんなときだった。

 

「ようやく見つけたぞ、レジアス」

 

そこに、突如謎の声が響き渡った。
声だけで行くと、中年ほどの男性だろうか。
その男が声を発したとき、レジアスは心臓が飛び出そうになった。

 

「お、お前は……」
「久しぶりだな……最後にあったのはいつだったか」

 

目の前にいる人物は、自分も無二の親友。
だが、自分の記憶が正しければ、その友は……

 

「ゼスト……」

 

すでに死んでいたはずだった。