Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第14.5話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:52:42

怪我をして、暫く訓練に参加できないキラは、今は先の任務で保護された児童、ヴィヴィオの面倒を見るという仕事を任されていた。
早朝訓練の一時間前に起きたキラは、シンやエリオを起こさないように静かに家をでる。
それから、洗面所で歯を磨き、顔を洗う。
タオルで顔を拭いて、鏡で自分の顔を確認。
「…よし…。」
キラはタオルを洗濯機に投げ入れると、なのはとフェイトの部屋へと向かった。
キラが部屋の前につくと、ヴィヴィオを抱いたなのはと、その様子を微笑ましく見守るフェイトが出てくる。
「丁度よかった、キラ君、ヴィヴィオをお願いね。」
寝惚け眼を擦るヴィヴィオを抱きあげるキラ。
「ん~~…。」
とうなるヴィヴィオを右腕で抱え、左手で、ヴィヴィオの右腕を振りながら
「いってらっしゃ~い…。」
とキラが言う。
なのはは爽やかに、フェイトはクスっと笑うと
「「いってきま~す。」」
手を振りながら早朝訓練へと向かっていった。
「さて。」
キラはヴィヴィオをあやしながら、なのはやフェイトが帰ってくるまでの間の児童施設へと向かった。

AM9:00
「は~い、ヴィヴィオ、起きようか?」
カーテンを開け、部屋に光を入れる。
お昼寝用の布団の上で光を嫌うような潜り込むヴィヴィオ。
まぁ無理もないと思う。昨日はなのはとフェイト、二人のママの帰ってくる時間が随分と遅くなったようで、夜中まで起きていたそうだ。
(仕方ない…と言えば仕方ないんだけど…でも、朝御飯はきちんと食べないとね。)
「ヴィヴィオ~、おはよう。ほら、起きないと…。朝御飯に間に合わないよ?」
ぐずるヴィヴィオ。掛け布団の上から見るに、起きるのを拒否しているようだ。
キラは溜め息をつく。
「どうしても…起きたくない?」
絹ずれする音がする、どうやらうなずいたようだ。
「そっか…なら仕方ないよね。」
布団の上からヴィヴィオの脇腹を擽る。目に涙を浮かべ、笑いながら掛け布団の中から這い出てくるヴィヴィオ。
「おはよう、ヴィヴィオ。」
「おはようございます、…キラ。」
舌ったらずで上擦った声で、ヴィヴィオはキラに挨拶した。

食堂。
キラはトースト、スクランブルエッグ、サラダとミルク。
ヴィヴィオはハニートースト、サラダとオレンジジュース。
トレーに乗せた朝食を運ぶキラとヴィヴィオ。慎重に運ぶヴィヴィオの後ろから、キラはせかさないよう、ヴィヴィオに合わせて歩く。
一歩一歩、バランスをとりながらおぼつかない足取りでゆっくり足を踏み出してゆくヴィヴィオ。
「そうだよ、ゆっくり、一歩一歩ね…。」
「……っと……んしょ…。」
席につくと、ヴィヴィオの持っているトレーをキラが受けとり、机の上にのせてやる。
「良くできました。」
ヴィヴィオを抱き抱え、椅子に座らせる。
「ん~♪」
笑みを浮かべるヴィヴィオ。
「ヴィヴィオ、食べる前に何するんだっけ?」
キラがヴィヴィオに尋ねると、ヴィヴィオは待ってましたと言わんばかりに即答。
「あいさつ…頂きます!」
「頂きます。」
二人がトーストにかじりついた。
「おいしいね、キラ。」
「そうだね。」

蜂蜜で口まわりをベトベトにしているヴィヴィオの顔をハンカチで拭ってやる。
とサラダの皿の中に残されたピーマンにキラは気付いた。
「あれ?ヴィヴィオ」
キラから視線をそらすヴィヴィオ。
「ピーマン…嫌いなんだ?」
「苦いの、やぁ…。」
「どうしても食べたくない?」
「うん…。」
キラの様子を窺うヴィヴィオ。キラは別段怒っている気配もない。
「じゃあ、ごちそうさましようか?無理に食べちゃっても身にならないしね。」
戸惑うヴィヴィオ。そんな様子に気付いたキラが続ける。
「ご飯を食べるときはおいしく楽しく食べなきゃね、それに、ヴィヴィオもそのうち、ピーマンの苦味が気にならなくなってくるよ。
味覚は変わってくからね…。」
「???」
「あはは……。難しかった?じゃあ、ヴィヴィオ、ごちそうさましようか?」
「「ごちそうさま!」」

PM1:32

昼食をとり終えたヴィヴィオとキラ。
「あぁ、よかった、キラ!」
ヴィヴィオと手を繋いで部屋に戻る途中、声をかけられたので振り向くと息をきらしたフェイトの姿だった。
「フェイトママ。」
急用があるにも関わらず、邪険にせず、抱きつくヴィヴィオをだっこするフェイト。
「どうしたんですか?そんなに慌てて……。」
「本当は早朝訓練が終わったら私は今日は非番の予定だったんだけど、本局から呼び出しがかかっちゃって…。これ、鍵…。」
鍵とヴィヴィオをキラに手渡すフェイト。
「はぁ…?それで?」
「雨が降ってきちゃったから、洗濯物を取り入れるのお願い…それじゃ…!!」
シュバッと片手を挙げて、フェイトは駆けてゆく。
そんな彼女の姿を見送ってから顔を見合わせるキラとヴィヴィオだった。

と言うわけでなのはとフェイトの部屋。
一応ノックするキラ。
「ど~ぞ~。」
因みに、今の声はヴィヴィオのもので、なのはのものではない。
ヴィヴィオがキラを見上げてにっこり微笑んだ。キラは微笑み返し、鍵を開けて中へ…。
「失礼しま~す……。」
と中に入れば甘い香りが鼻孔を擽る。それはこの際気にせず、キラはテキパキと部屋の中に洗濯物を取り入れ
「よし、これで」
部屋に干す。
「終わり…。」
途端、ヴィヴィオに袖を引っ張られる。何事かと振り向いてみれば、絵本だった。
「読んでほしいの?」
「お願いします。」
キョロキョロと部屋の中を見回し、座れそうな場所を探す。
ソファを見付け、そこに座ることにした。キラが座ると、ヴィヴィオはその膝の上に座った。
「読むよ?」
「ん~♪」

「昔、あるところに女の子がいました…」
あんまり得意ではないが、感情を込めて読む。
ヴィヴィオは足をパタパタさせながら、絵本の絵を見つめ、本当に理解しているかは謎だが、うんうんと納得したように頷いている。そして
「こうして、女の子はお母さんとお父さん、お兄さん、お姉さんと平和に暮らしました。終わり」
パタンっと絵本を閉じるキラ。
「お母さんはママのことだよね?」
「?そうだね。」
ヴィヴィオが思ったことを口にする。
「お兄さんはお兄さん、お姉さんはお姉さん、じゃあ、お父さんは?」
「お父さんは……。」
考え込んでしまうキラ。
お兄さん、お姉さん、エリオやキャロのことを言っているのだろう。
「例えて言うなら、なのはママやフェイトママが男になった…みたいな感じかな?」
キラがたった今思い付いた答えを言う。
「男?」
「そう、僕と比べると大分見た目が違うでしょ?なのはママや、フェイトママは…。」
言われてみればと言う感じでキラを観察する。
髪は短いし、体型的にも違う。
バフッとキラの胸を叩くヴィヴィオ。
「うっ…。」
「ホントだぁ…。おっぱいがない…。」
「でしょ?まぁその違いかな…。僕、個人のイメージでは、お父さん、ヴィヴィオの言い方だとパパだね。
そのパパは優しくて、ヴィヴィオやなのはママ、フェイトママが危ないときに駆け付けてくれる強い人だよ。」
結婚、なんて言葉を使ってしまうと説明が難しくなってしまうので、キラはあえてその言葉を使わなかった。

夜。
「ただいま~。」
なのはが帰ってきた。因みに、フェイトはまだ帰ってきていない。
「ママぁ~。」
キラの膝から飛び下りてパタパタとなのはの元へかけていき、胸の中に飛込むヴィヴィオ。

「あれ?キラ君、何でここに?」
「フェイトさんに頼まれて洗濯物を取り入れてすぐに出る予定だったんですが、ヴィヴィオと遊んでるうちに……。
すいません。」
「あぁ…、いいよ。気にしなくて…。」
ヴィヴィオを降ろすなのは。
「なのはママ、キラって優しいの?」
「うん、優しいよ…。」
急なヴィヴィオの質問に驚きつつも答えるなのは。
「キラは強いの?」
「強いよ、とっても…。」
「なのはママとフェイトママのこと、助けてくれる?」
うん、と頷くなのは。ヴィヴィオの顔が輝いた。
「あ、まずい…。」
自分の発言を思いだし、
「じゃあ、僕はこれで…」
「パパぁ~。」
部屋から出ようとするキラに抱きついてくるヴィヴィオ。
「パ、パパ~!?」
なのはが目を丸くした。

「何だ、そういうことね?」
あっけらかんとなのはが笑う。なのはは紅茶を入れたカップをキラに渡した。
因みに、ヴィヴィオは今、スバルたちとお風呂に行っている。
そんなわけで、なのはとキラは二人きりで部屋に
「言われる方はちょっと複雑なんだけどね。」
キラが苦笑しながらなのはに言う。
「それは私もだよ。でも、初めてヴィヴィオにあった時のあの表情をみちゃったら…ね。」
「そうだね…。」
部屋の中に漂う紅茶の薫り、窓を打つ雨音が室内に響く。
暫しの沈黙。
「なのはママ、キラパパ~!」
沈黙を破ったのは風呂から帰ってきたヴィヴィオだった。

「キスするんだよね?」
ブホッと紅茶を吐き出すキラとなのは。
「何でキス?」
「……しないの?」
なのはよりも早く咳がとまったキラが目に涙を浮かべながらヴィヴィオに理由を聞く。
「パパとママなら当たり前だって聞いたよ?しないのは変だって…。」
「あ、あのねヴィヴィオ、なのはママとキラパパはね…」
「……しないの?」
瞳をうるませるヴィヴィオ。正直、これは卑怯だと思う。
「(キラ君…。)」
「(うまく誤魔化そう…、大きめの白紙ない?)」
今にも泣き出しそうなヴィヴィオの前に大きな紙の両端を持って顔を隠したキラとなのはの姿。
表情は見えないが、影が見える。
「ヴィヴィオ~、見てる?今からキスするからね?」
そう言うとキラとなのはの顔の影が近づき、そして…
チュッ
と音がした。白紙をしまい、ヴィヴィオの様子を窺う。緊張の一瞬。
「(ごまかせたかな?)」
なのはの念話に苦笑いのキラ。だが、ヴィヴィオは納得したようで、しかもなぜか部屋を出ていく。
「ひょっとして…失敗?」
キラが呟きながらなのはと顔を見合わせた。

一方、ヴィヴィオは部屋の近くにあるリフレッシュルームにいた。
そこには、はやて、ヴィータ、シグナム、シャマル、シン、スバル、ティアナ、エリオ、キャロの姿。
「さぁ、次は何をしてもらおか?」
ダークな笑みを浮かべはやてが言う。
「そうだな…、やっぱキスの次はぺッ…ゴスッ」
ティアナの持つクロスミラージュで殴られ昏倒するシン。
「やっぱり、ここは乳揉みや…私は最近忙しいからセクハラする暇がない。
かわりにキラ君に…。」
「はやてちゃん…そんなことしたらキラさん殺されますよ?」
シャマルに言われ、それもそうやな、と思いとどまるはやて。
「服を脱がせるとか?」
「ヴィータ…それは犯罪だ。服をフリーダムのサーベルで切るとか?」
「私と言ってることかわんねぇじゃねぇか?ばっかじゃねぇーの?」
「何だと!私はお前の将だぞ、馬鹿とは何だ、馬鹿とは!」
「押し倒すとか…どうでしょう?」
顔を真っ赤にしてエリオが言った。何故かとなりのキャロも顔を赤らめる。
静まりかえる部屋。
「よし、それでいこか?ヴィヴィオ、頼むで」
「うん!」

なのはとフェイトの部屋
「押し倒すの?」
鼻から紅茶を吹き出すキラとなのは。
「それはない…いくら何でもそれは間違った知識だよ…ヴィヴィオ。」

「でもみんながいって…あっ…。」
ガシッと、ヴィヴィオの肩を掴むなのはとキラ。二人とも笑顔なのだが、怖い。
いつものママとパパでないことに気付いたヴィヴィオは正直に話した。

リフレッシュルーム。
「おぉ、ヴィヴィオ、遅かったなぁ、で、キラ君、なのはちゃんを押し倒した?…って…。」
ヴィヴィオの後ろにいる二人を見てはやては固まった。否、はやてだけではない、気絶しているシン以外が全員固まった。
なのははレイジングハートのエクシードを手に持ち、さらに、
「ブラスター…3!!!」
はやて、シグナム、ヴィータが驚愕した。
「ハッキングして解除してもらっちゃった!」
なのはが笑った。
「ヴィヴィオ、ちょ~っと向こうに行っててくれる?綺麗な花火が見れるからね。」
首をコクコクと縦に振り、ヴィヴィオはリフレッシュルームを後にする。
「キャロ、シャマル!転送!!」
『レストリクトロック』
シン以外にかかる桜色のバインド。
バインドで固定される面々。
「準備できたよ、なのはママ。フリーダムミーティアとレイジングハートのシステム共有完了。」
「しっかり私に合わせてね?キラパパ…。行くよ…。」
「「N&K砲撃爆殺コンビネーション、メテオブラスター!!!」」
視界一面に広がる蒼と桜の光が、はやてたちを包み込んだ。

「ヴィヴィオ、ただいま~。」
「フェイトママ。」
「もう夜も遅いから早くねなきゃ…。」
フェイトがヴィヴィオを部屋へつれていこうとするが、動かなかった。
「ヴィヴィオ?」
「もうすぐね、花火が見えるの。」
「そっか、じゃあ、それみてから寝ようか…。」
ズドォンッ!!!!!!!
建物の壁面をぶち抜いて地と平行に進むいくつもの桜と蒼の光。その光景はフェイトに流星を彷彿とさせる。
何が起きたかフェイトには分からなかった。けれども、普段温厚な二人がここまでするのだから、何かあったのだろう。
取り合えず、
「…た~まや~……。…ほら、ヴィヴィオも一緒に…」
「「た~まや~…。」」

~完~

第14.5話 ED PLUSヴィヴィオのママとパパと必殺技とはやての悩みと…

「なのはママ、フェイトママ、キラパパ、シンお兄ちゃん、エリオお兄ちゃん、ザフィーラ、スバルお姉ちゃん、ティアナお姉ちゃん、キャロお姉ちゃん…か…。」
はやては地に大の字になったままメテオブラスター輝く夜空を見上げ呟いた。
「主?」
「何でやろうか…、うちは母親らしいよなぁ?シグナム…。」
「はい、きっと、主は良い母親に成れます。」
溜め息をつくはやて。
「でもな、ヴィヴィオ、うちに初対面の時にいうたんや…。
はやて…おばちゃんて…ひぐ…うち、そんなに老けとる?」
「主はまだいいじゃありませんか…私は、シグナムおいたん、でしたよ。」
「二つもっとるメロンが台無しやな…。」
はやてとシグナムは目を閉じた。眼尻から涙が一粒こぼれ落ち、頬を伝って地面を濡らした。
~完~