Seed-NANOHA_342氏_第05話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:25:36

勢いで、帰ってきてしまったが…部屋の中に入る勇気がなかった。
玄関の前でうろうろしては立ち止まり、手をドアノブにかける。この動作を何度やったことだろう。
唾をゴクリとのみこみ、ドアノブを回して一気に引いた。
ドアは一寸たりとも開かず、ガンッという鈍い音だけが響いた。鍵がかかっていたのだ。
「はい…。」
ドアの向こうから返事が聞こえる。スリッパのパタパタと言う音が近付いてくるのがわかった。
鍵をはずす音がし、ドアが開く。
リンディだった。
「あら、シン君。早かったわね。おかえりなさい。」
「……どうも…。」
リンディは微笑み、居間へと戻る。シンはその後に続いた。
「朝ご飯は、なのはさんのおうちでご馳走になった?食べてないなら、何かつくるわよ?って、あっ!」
「あの…怒らないんですか?」
シンがキッチンでエプロンを今まさに着用しようとしているリンディに聞いてみた。それなりの処分を受ける覚悟もしている。つい、カッとなったとはいえ、管理局の仕事を侮辱したのだ。命令違反もした。それも一度ではない。
「シン君…。」
「……はい。」
真剣な面持ちで近付いてくるリンディ。
(また、叩かれるのかな?)と歯を食いしばり、目を閉じた。
「フェイトさんに、お弁当届けてくれないかしら?」
「……はぁ?」
意外な言葉にぽかんと間抜けた顔をするシンであった。

八神家、居間。
「キラ・ヤマトの件にばかり気をとられていたが…、あの仮面の男…、一体、何者なんだ?」
シグナムが言う。
ちなみにはやてはまだ、起きていない。居間には、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラがいる。
「私たちの敵と言うわけでは無いみたいですね。闇の書の完成を望んでるみたいですし…。」
と、シャマル。
「闇の書が完成するまで待って奪う気なのかもしれんぞ。」
と、ザフィーラ。
「でも、完成され闇の書を奪っても意味ねぇよ。主と認めたもの以外に闇の書は使えないし…。」
「ヴィータのいうことももっともだ。それに、闇の書が完成したと同時に、主は強大な力を手に入れる。」シグナムが言った。
「とにかく、用心するにこしたことはない。シャマル。」
ザフィーラがまとめた。
「はい、家にはセキュリティかけてますし、何者かが侵入すればすぐに分かります。」

「とにかく、シャマルはなるべく主から離れないようにしてくれ。」
「はい。シグナム。」
「闇の書の完成のために、キラを犠牲にしたんだ。絶対に完成させる…。」
ヴィータの言葉に一同は頷いた。
ドタッ!!
二階から音が響く。
それは、何かが倒れたときに生じる鈍い音音。
「はやて?」
ヴィータが一番に二階へとかけ上がった。

アースラ内部、一室。
「そろそろ、話してはくれないか?」
キラとクロノは向かい合う形でテーブルを挟み、椅子に腰かけている。
「…わかりません。…てか、知らないんです。」
眠っていないのだろうか、なんだかキラの目の焦点が定まってない上に、目の下に隈ができている。
「一緒に住んでいたのは間違いないんだな?」
「…はい。」
「それで…、何で異世界の君が彼等と一緒に?」
「……。目が覚めたときには一緒でした。」
「単刀直入に聞くよ?主の名前は?」
「……。」
キラは躊躇った。言っていいものかどうか。
「君は闇の書のことをどれくらい知ってる?」
キラが言いにくそうしているので、クロノは質問を変えた。
「闇の書は第一級捜索指定遺失物、ロストロギア。まぁ、簡単に言うと、それだけ危険なものなんだ。意味はわかるだろ?」
あれ?
クロノの言い方がなんだか引っ掛かった。危険?なぜ?闇の書が完成すればはやての病気が直る。そう聞いていたが…、危険なものとは聞いていない。
「…すみません。お願いできる立場じゃないかもしれないけど、その…闇の書のこと、詳しく教えてください。」
クロノはキラの突然の反応に驚き、口をパクパクさせていたが
「…あ、あぁ。丁度説明しようと思ってたところなんだが…。その変わり、君にも主の名前を教えてもらうからな。」
その要求を飲んでくれたようだ。キラもそれを承諾し、クロノは闇の書について知っている限りで説明しはじめた。

聖祥大付属小学校、昼休み「フェイトちゃ~ん、お弁当食べよう!」
「あっ、うん。」
なのはとその友達のすずか、アリサが呼んでいるのでフェイトは鞄の中から弁当を取り出そうとするが、見付からない。
そう言えば弁当を鞄に入れた記憶がなかった。
「どうしたの?フェイトちゃん。」
そんなフェイトの異変に気付いたすずかが聞いた。
「お弁当…忘れてきちゃった…。」
フェイトの顔が真っ赤になった。

『フェイト・テスタロッサさん、お兄さんがおこしになっています。至急、職員室まで来てください。繰り返します。…』

「ありがとう…ございます。」
「いや、俺の方こそ、遅くなって悪い。途中、道に迷ったんだ。」
来客用玄関までシンを送るフェイト。
「シン……。」
「なんだよ?まだ、なんか忘れものでもあんのか?」ふるふると首をふるフェイト。
「リンディさんと仲直り…した?」
「んっ?なんだ…、フェイトも知ってたのか。いや、今から謝ろうと思ってる。帰ってきてすぐ、弁当を届けるように頼まれたから」 そっかとうなずくフェイト。
「リンディさん、悪い人じゃないんだよ?きっとシンのこと…」
「分かってる。」
そう言って、シンは靴を履き、フェイトに見送られながら学校を後にした。

海鳴大学病院
「だいぶ状態も安定しましたね。」
「ありがとうございます。石田先生。
もう、皆して大騒ぎするんやから、ただ胸と首が攣っただけって言うたやん。」
「しかし、頭も打ってましたし…。」
「はやて!」
「なんや、ヴィータ?」
石田は、はやてとヴィータの姿を眺めつつ、
「シグナムさんとシャマルさん、ちょっといいですか?」

「今回の検査では何の異常もみられませんでしたが…、ただ攣っただけ、ということはないと思います。」やはり、とシグナムとシャマル。
「痛がりかたが普通じゃありませんでしたから…。」
「原因はまだわかりませんが、スタッフも全力で戦っています。
それから、はやてちゃんはしばらく入院させて様子をみた方がいいと思うんですが…。どうでしょう?」
シグナムとシャマルは互いの顔を見合わせ。
お願いします。と深く頭を下げた。

「と、まぁ闇の書に関してはこんなところだな。」
キラが聞いた話は、クロノの父親、クライドに関する話である。
キラが抱く闇の書に対する違和感がさらに強くなる。暴走、アルカンシェル、転生、蒸発。何だか、危機感を持たせるような単語ばかりだった。
だが、まだ確信をもてない。
「それで、闇の書に関する情報は全部ですか?」
「…、あぁ。後はまだ調査中だ。さて、約束だ。名前を教えてもらおうか?」
キラは少し迷ったが、やがてその名を口にした。
「八神…、八神はやて。」

「まずいことになったねぇ、アリア。」
猫耳に尻尾を生やした二人の少女がクロノとキラの取り調べをモニターごしにみていた。
「闇の書が完成する前に主をつかまえられちゃったら意味ないじゃん。」
「…そうだね。こんなに早く白状するとは思わなかった。どうするロッテ?」
沈黙のうち、顔を見合わせ、二人は頷き、部屋を後にした。

マンション一室。
「…っと、ただいま…。」
一応、あいさつしてみるシン。
「ご苦労様、シン君。お昼まだでしょう?作っておいたわ。」
リンディはキッチンにあるテーブルの上で書類を広げていた。
「あの!昨日は…」
書類から目を放し、シンへと視線を向けるリンディ。「すいませんでした。」
頭を下げた。
「あの時は…ついカッとなって…あんな…。」
「そうね…。でも、シン君の気持を考えなかった私も悪かったかも知れない。
あなたにあんな過去があったなんて知らなかったし…、…私も一生懸命やってくれているシン君のことを考えてなかったわ…。」
「そんなことは…。」
リンディは立ち上がり、シンの背後に回って、背中を押し、椅子に座らせた。
「えっ、あの…?」
「外は冷えたでしょう?
お味噌汁温めるからまっててね。」
ガスコンロの火がつく音。「本当なら、最初にシン君がキラ君に出会った時に、もうちょっとちゃんと話すべきことだったのよね。」なんだか、すごく懐かしい感じがした。母親といるときのような、そんな感じ。「けど…、管理局の仕事を侮辱するようなことを…俺は…。」
「…そんなに気にすることないわ。おっと…、こんなこと言っちゃ駄目ね。艦長として…、でも、まぁお互い様よ。私も感情的になりすぎたわ。」
鍋の中をかきまぜるリンディ。
「…でも、本当に辛い経験ばかりだったのね…シン君。まだ、辛い?」
「…そうですね。辛いです…。たまに、思い出すんです。妹や、両親のこと…。」
「そう…。」
お椀に味噌汁を注ぎ、シンの座っているテーブルの前に置き、座るリンディ。
「今回の事件…、闇の書のことなんだけど…。」
ズズッとお茶をすする。
「私は、その前の闇の書事件で夫を失ったわ。」
「…っ!?」
「確かに、あなたの言うように、戦争の中では命を奪い、奪われる。失敗は許されないわよね。
けれど、今回の闇の書事件は失敗しても、次があった。なら、それでいいじゃない。命を落とすよりはましだと、あなたもそうは思わない?
内心、私もなのはさんやフェイトさんがやられたときは、肝を冷やしたわ…。命を落とすようなことになるんじゃないかって…。」
リンディは白濁した緑茶をジッと見つめながら、そうシンに言った。

「あなたたちの戦争と違って、命を落とすものは少ないわ。
だけど、命を落とすこともある。その数だけを見れば…シン君からしてみれば少ないのだろうけど、命っていうのは数で計るものではないでしょう?」
「…はい。」
返事をして、シンは自分の前に差し出された味噌汁を見つめる。
流れる沈黙。
室内には、リンディの書類を捲る音と、風が窓を揺らす音だけが響く。
次第に、まんべんなく混ざりあっていた味噌が沈殿し、味噌汁が半透明な部分と不透明な部分とに分離し始めた。どうやら、味噌は白味噌を使っているらしい。「シン・アスカさん!」
突然、名前を呼ばれたので驚き、椅子が跳ね、姿勢をただしてしまう。
「もう二度と、命令違反をしないと誓いますか?」
いつのまにか厳しい眼差しでリンディがシンを見つめていた。
一瞬、はいっ!と即答してしまいそうになったが、ちょっと待てよと考え込む。アースラにはフリーダムのパイロットがいる。自分を押さえる自信がない
「……。」
リンディはずっとこちらを見ている。
「……はい。」
一応、はいと返事をしておいた。その方が何かと都合がいいと思ったのだ。
「では、今回までの命令違反は不問とします。
でも次回からは……わかってますね?」
「…はい。」
「それから提案があります」リンディはそう言った。

学校、屋上にて。
「よかったね…、シン君がお弁当持ってきてくれて」となのは。
「うん、ホント…助かった」「へぇ~、フェイトのお兄さんてあんななんだ?
似てないね。」
アリサが言う。
「あ、シンはその…親戚で兄弟って意味のお兄さんじゃないんだ。」
「なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん、あの…はやてちゃんのことなんだけど…。」
アリサとフェイトの会話が終わるのを見計らって口を開くすずか。
八神はやてのことはなのはもフェイトもアリサも前々からすずかに出来た新しい友達と言うことを聞いていた。
すずかは、はやてが入院したことを話した。
「そっか…、はやてちゃん大丈夫なのかな?」
さも自分の友達のように心配するなのは。
「それで、提案なんだけど…はやてちゃんの紹介も兼ねて一緒にお見舞いにいかない?」
そう、すずかは提案した。

アースラ一室。
クロノによるキラへの取り調べは続いていた。
「そうか…、それで君は彼等に協力してたのか…。」
「…はい。」
キラからあらかたの事情を聞いたクロノはエイミィに指示し、八神はやてを捜索させていた。
空間にモニターが開く。
「なんだ?ユーノか?」
クロノの対応にムッと顔をしかめるユーノ。
『コホンッ、闇の書についての経過報告だけど…いいの?キラ君?だっけ…、に聞かれても…。』
「あぁ、どうもキラの話を聞いていると、闇の書について勘違いしてるみたいなんだ。
まぁ、ヴォルケンたちが都合のいいように吹き込んだのかもしれないが…。
続けてくれ。」
『わかった。まずは闇の書、これは正式名ではないみたいだね。正式名は夜天の魔導書、主と旅をしながら、各地の魔法を蒐集して書きしるすもの。言わば図鑑って言えばいいのかな?
闇の書と呼ばれるようになったのは、何代目かの主によってプログラムを改変された後からだね。
闇の書と呼ばれるようになってからは酷い。闇の書を完成させると、主に際限なく魔力を使わせようとする。だからいままでの主は完成後すぐに亡くなってるね。
それから、闇の書は一定期間蒐集がないと主から魔力を奪って行く性質があるみたいなんだ。』
「そうか…、闇の書を完成前に封印する方法はないのか?」
『そっちは今調べてるとこ。だけど、完成前に封印するのは難しいと思う…。
今はここまで、また何か分かったら報告する。』
「わかった。頼んだぞ。」
モニターが消え、クロノがキラへと向き直る。
「じゃあ…このままじゃ、は…はやてちゃんは?」
「さっきのユーノからきいたろう?暴走して、魔力を絞りとられ、そして…。
だが、まだユーノが調べてくれているから、手があるかもしれない。」
そして、クロノはモニターを開き、キラに質問した。画面には、突然現れた、あの仮面の男の映像。
「君はこの男のことを知っているか?」
キラは首を左右に振った。「そうか、じゃあ、今日はここまでだ。また闇の書についてわかったら連絡する。」
「すいません…、こんなこと、頼める立場でもないのに…。」
「…いや、気にしないでくれ。どうせついでだ…。あっ、そうそう、技術部の連中が君のデバイスに興味があるみたいなんだ。見せてやってもいいか?
場合によっては手を加えられるかもしれないが…。」
「はい…。もう、僕には必要ないですから…。」
キラは笑ってそう言った。

「(落ち着けシャマル、私たちが鉢合わせなければいいだけの話だ。)」
「(で…でも、もしはやてちゃんが主だってわかったら…・)」
「(幸い、我が主の魔力資質はほとんど闇の書の中だ。詳しく検査されないかぎりばれることはない。)」
「(で…、でもぉ…。
はぁ…顔を見られたのは失敗だったわ。変身魔法でも使っておけばよかった。)」「(今更、過ぎたことをどうこういっても仕方ないだろう?
とにかく、ご友人が来るときは、こちらが外そう。)」「(そんなことして…、はやてちゃん、変に思わないかしら?)」
「(それは仕方ないだろう。何か適当に理由をつくるしかない。)」
そう言って、シグナムは念話を切った。
シャマルは携帯の画面に写っている四人の少女にみいっている。
一人は月村すずか、はやての友人だ。その周りを取り囲むように三人の少女が写っているのだが、一人は管理局民間協力者である高町なのは、残り二人のうち一人は管理局嘱託魔導士フェイト・テスタロッサである。
シャマルが慌てていたのは、この画像のせいではない。多少は驚いたが…、問題はメールの内容だった。
今度四人ではやてを見舞いにいっていいですか?
そんな内容のメール。
駄目とは言えない。
すずかに、はやての病状は重くはない、検査で入院すると伝えている以上、断る理由がない。
また、はやても見舞いを断らないだろう。
そこで、シグナムに念話で連絡し、相談したのだ。シグナムは鉢合わせなければいいとそう言ったが…。
シャマルは不安を拭いきれないまま、携帯の画面を閉じた。

翌日、昼過ぎ。
キラの元に面会者がきた。リンディに連れられ、部屋に入ってきたのは、赤い瞳の少年だった。
「キラ・ヤマトさん、紹介します。こちら、管理局民間協力者のシン・アスカさんです。
シン・アスカさん、ご紹介します。キラ・ヤマトさんです。」
キラは視線を合わせないよう、目だけそらし、軽く頭だけをさげる。対するシンは、鋭い視線でキラを凝視したまま無言でいたが、リンディに後ろ手に背中をつつかれ、どもっと低い声で挨拶した。
キラはシンと対面して座り、間に挟まれる形でリンディは椅子に腰かけた。
「さぁ、始めましょう。」
リンディの提案、それは、キラとシンに一対一で話し合いの場を持たせることだった、

三人の間に沈黙が続く。当たり前だ。
互いに殺し合いをした相手、大切な人を奪った相手、そして事情はそこそこかじってはいるが無関係な相手が仲裁役。
いきなり話せと言われても、言葉が見つからないし、余計なお節介だとリンディにいいたくなる。
「あぁ…、忘れてたわね。」リンディは席を立つと、部屋から出ていく。
その前に、一旦振り返り、シンに一言。
「…わかってるわね?」
と告げ、シンとキラの二人を放置したまま部屋を後にした。
暫くの間沈黙が続き、キラはシンと視線が合う度にそらし、シンは足を何度も組み直していた。
「あの…、この前は…ごめん。あんなこと言っておいて、謝るべきじゃなかったね…。」
フンっと鼻を鳴らすシン。「別に、気にしちゃいませんけどね…。ていうか、あんた、やってることが目茶苦茶だ。
何がしたいのか、さっぱりだね。」
ははは…、と自嘲気味に笑うキラ。
「元の世界にいたときは…ただ、戦争をなくしたくて…、この世界に来てからは一人の女の子の運命を変えてあげたくて戦ってたんだ。」
シンの拳に力が入る。
「でも、あんたは悪戯に戦闘を拡大させただけだ。
こっちの世界に来てまた、俺の…大切な仲間をまた…オノゴロ島で俺の家族を殺し、仲間のハイネ、…ステラ…。あんたは一体なんなんだよ!」
「………僕には…謝ることしか出来ない。
だけど、じゃあ、君はなんで戦ってるの?」
何、分かりきったこと聞いてんだこいつ?
「戦争をなくす為に、守りたい人を守るために戦ってる。あんたと同じで…。」
「守りたかった…。分かるよ。その気持は僕にだって分かる。
僕も…前大戦の時はフレイを仲間を守るために戦った。」
「あんた強いもんな。
あんな機体に乗って、今もその仲間達とアークエンジェルで…」
「死んだよ…。フレイも…。トールも…トールは僕の親友に殺された…。」
シンの心が揺らぐ。
「ベルリンでの巨大モビルスーツ…、あれにステラって子が乗ってたの?」
キラはシンにきいた。
確信があったわけではないが、ただ、そんな感じがした。
デストロイを攻撃しようとしたとき、シンがこちらを攻撃してきたのを思い出したのだ。

「だから…なんだよ?」
「彼女は沢山の人を殺した…。」
「ステラのこと、なんにも知らない癖に!」
「君も沢山、人を殺した。もちろん、僕も…。」
「殺したから、殺されて、殺されたから、殺して、そんなんで戦争は…!」
「…だよね。でもステラって子があのまま最後に砲撃していたら…君は死んでいたし、それによって、君のような子が増えてしまったかもしれない。」
シンの脳が思考する。
自分は被害者だったはずだ。だから、それを経験したから、戦争を終らせようと自分も立ち上がった。
けど、自分は…連合のパイロットを数えきれないほど討ってきた。
あれ?
シンの頬を涙が伝った。
自分は、一体なんだったのだろう?
被害者のはずだった。けれど、自分が連合軍の誰かを打つ度に、その家族が、仲間が、友達が自分を恨み、憎む。悪循環が続く。
自分が不幸の連鎖に荷担しているのだと気付く。
「俺は…なんの為に…。」
シンはキラを見た。
前大戦を生き残った、言わば先輩。こいつなら、なんの為に戦えばいいのか知ってる気がした。
キラはうつむき、頭を振る。
「…僕も…探してはいるんだけどね…。分からないんだ…。まだ…。」
「…あんたも…分かんないのかよ…。」
シンは流れた涙を拭き、キラを見据える。
「謝って済むことじゃないけど…。…ごめん。」
謝るキラ。
シンは首を振った。
「あんたがやったことを、俺は許さない。だけど…、あんたを射てばまた、誰かが悲しんだり、恨んだり、憎んだりで、悪循環が続くだけだし…。」
キラは初めてシンと目を合わせた。
「俺も、人のこと言えないから…。」
家族を奪った、仲間を奪った、大切な人を奪った。
それは許せない…。
「キラ・ヤマトさん。俺は、あんたを許せないけど…あんたを殺さない。
俺があんたを殺せば、また……」
プシューッ
とドアが開き、お茶とお菓子を持ってきたリンディが戻ってきた。
「話をするときはこれがないといけませんわ。」
固まるシンとキラ。
お茶がそれぞれの前に置かれ、テーブルの中心にお菓子を配置した。
真剣な話をしてるのに…この人は…!!
シンもキラも妙なところで空気をよまないリンディに呆れながらも、互いに喋ったので喉を潤すため湯飲みを手にしてお茶を飲んだ。「どうかしら?私のおすすめブレンドは?」
二人の口の中を緑茶の風味と心地好い苦味…それに多すぎる甘味、そして濃厚なクリーミーな味わいが襲った。
『ブハッ!!!!』