Seed-NANOHA_547氏_第16話

Last-modified: 2008-10-18 (土) 18:04:01

「ん?……何だ?」
 索敵担当のバートがレーダー上の異変に気づく。
「これは――か、艦長!」
 タリアが驚き、バートの方へ向く。索敵担当の彼が、緊迫した声を上げた事で、ブリッジの空気が一気に張りつめていった。バートの前にある熱源探知モニター上では、ミネルバに接近しつつある光点が、みるみる間に増えていく。
「熱紋照合……ウィンダムです! 数……よ、四十七!」
「なんですって!?」
「うち一機はカオス!」
「――!? あの強奪部隊、やはり地球軍だったのね……付近に母艦は?」
 これだけの数のMSを海上で運用する為には、艦隊もかなり大規模なはずである。
 しかし、バートからの返答は、タリアの予想を裏切っていた。
「確認できません」
「……またミラージュコロイドか?」
 副長であるアーサー・トラインの呟きをタリアは即座に否定する。
「海上で? 有り得ないでしょ?」
 確かに、アーモリーワンを襲撃したボギーワンは、ミラージュコロイドを使用していた。だが、ここは宇宙ではなく、地球上――それも、海の上なのだ。ミラージュコロイドの実用性は大幅に削がれる。それよりは、潜水母艦でも用いる方が余程現実的だろう。
「ブリッジ遮蔽、対MS戦闘用意! ニーラゴンゴとの回線固定、海中の索敵を厳にさせて! おそらく、アビスも出てくるはずよ!」
 相手が例の強奪部隊ならば、陸戦主体のガイアはともかく、水中用MSであるアビスを出してくる可能性は極めて高かった。
 艦内に警報が鳴り響き、ブリッジは戦闘ステータスへと移行する。

 

「グラディス艦長、地球軍ですか?」
 アスランは気づかなかったが、彼からの通信にタリアはわずかに緊張していた。
 アスランもタリアと同格のフェイスであり、彼女には彼に現状を説明した上で、彼の意思を確認する義務がある。同じ艦内に同格の指揮権を持つ者が二人。指揮系統としては――人間関係と各々の立場といった部分においても――複雑であった。
『ええ。どうやら、また待ち伏せされたようだわ。毎度毎度、人気者は辛いわね。既に回避は不可能よ。本艦は戦闘に入ります。貴方は?』
「は?」
 アスランはタリアの真意を掴みかねていた。この状況で、MSパイロットである彼は、当然のように出撃するつもりでいたからだ。
『私には貴方への命令権はないわ』
「――!!」
 ここで、アスランはようやく自身の立場を思い出した。同時に、相手が言わんとしている事も理解する。
「……私も出ます」
『いいの?』
「確かに、指揮下にはないかもしれませんが、今は私もこの艦の搭乗員です。私も残念ながら、この戦闘は不可避と考えます」

 

 タリアは、アスランの言葉に感心していた。権限を与えられた途端に、意地を張るなり怯むなりして的確な判断力を失う人間は意外と多い。だが、アスランはその若さにも関わらず、現状を的確に判断してみせた。
(あの人も伊達や酔狂で、彼をフェイスにしたわけではないという事かしら?)
 タリアは先程までよりは幾らか親しみを込めた口調で尋ねた。
「なら、発進後のMSの指揮をお任せしたいわ。いい?」
 MSの事ならアスランの方が心得ているだろうとの判断だった。
『分かりました』
 彼は頼もしげに頷いた。

 

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 デュナメイスのブリッジ内は焦燥感に満ちていた。
 ミネルバがカーペンタリアを出立してから約一時間半後、デュナメイスはカーペンタリア海域を通過。
 だが、友軍としてザフト軍カーペンタリア基地と定時連絡を取っていた時に、事態は急変したのだ。そして、デュナメイスは、連合軍の部隊の待ち伏せに遭ったミネルバに対する救援要請を受ける事になる。
 位置的にもデュナメイスの足ならば――ミネルバ隊がそれなりに持ち堪える事ができればではあるが――ぎりぎり間に合う距離だった。
 かくして――現在、デュナメイスは全速力でミネルバのいるポイントへと進んでいた。
「間に合えばいいんだけど……」
「大丈夫さ。ミネルバとてザフトの最新艦なんだ……それに、オーブ沖での海戦の例だってある。案外、彼らの勝ちで終わってしまってるかもしれんぞ」
「……珍しいですわね? バルトフェルド隊長が希望的観測だけで物事を言うなんて」
「ラミアス艦長。今の僕は隊長じゃなくて、副長なんだがな……まあ、何にせよ、今の僕らにできる事は彼らの無事を祈る事ぐらいだ」
「そうね。焦っても仕方ないのは分かっているんですけど……」
 マリューは、やはりじれったさを感じてしまう。
 そんな彼女のはやる気持ちを落ち着かせるように、バルトフェルドはあえて気楽そうな調子の声を上げた。
「なんなら、アンディ特製コーヒーでも飲むかね?」
 マリュ-は一瞬むっとした表情になるが、彼の気遣いを察すると、大きく息をついて肩の力を抜く。
「一杯、頂きますわ」

 

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『インパルス、セイバー、発進願います。ザク二機は発進後、甲板にて待機願います』
 メイリン・ホークのアナウンスが流れる。
 今回の布陣は、海上での戦闘である為、空中戦や水中戦用のウィザードが用意できないザクは参戦し難いからだ。
『シルエットハンガー1号を開放します。フォースシルエットスタンバイ。シルエットフライヤーを中央カタパルトに――』
 発進シークエンスに従って、シンはコアスプレンダーを起動する。
『X23Sセイバー、アスラン機、発進スタンバイ。全システムオンラインを確認――』
 アスランもセイバーを戦闘ステータスで起動する。

 

『シン・アスカ!』
「は、はい」
 コアスプレンダーのコクピットで出撃準備を進めていたシンは、突然入った自分を名指しする通信に反射的に返事をしてしまう。モニターに表示されたのは、パイロットスーツに身を包んだアスランだった。
『発進後の戦闘指揮は俺が執ることになった』
「ええっ!?」
 予想だにしていなかった通達に、シンは思わず声を上げてしまう。そんな彼にアスランは念を押す。
『いいな?』
「……はい」
 フェイスであるアスランの指示を突っぱねるわけにもいかず、シンは渋々了承した。
(この間だって、俺がミネルバを守ったんだ。それを……)
 部外者だった人間がいきなり上官となり、命令してくる――シンにとっては面白いはずがなかった。
「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!」
 シンは、自機に続いて射出されたパーツと合体し、フォースインパルスとなる。アスランの乗るセイバーも右舷ハッチから飛び出してくるのが見えたが、シンはそれを無視するかのように敵部隊へと向かっていった。
 二人に続いて、レイ・ザ・バレルが搭乗するブレイズザクファントムとルナマリア・ホークが搭乗するガナーザクウォーリアーが、ミネルバの左右の甲板へと躍り出た。

 

 今や、すっかり愛機として慣れ親しんだカオスに乗るスティング・オークレーは、眼下に近づきつつある敵艦から、見慣れないMSが出てきた事に気づく。それはザフトの最新鋭機であるカオスのデータベースにも無い不明機(アンノウン)だった。
「あん? なんだあの機体は?」
『また新型か……カーペンタリアで? ザフトは凄いねぇ』
 自分達の指揮官が放った皮肉交じりの賞賛に、スティングはむっとする。
「ふん! あんなもの!」
 スティングはカオスを急加速させ、見慣れたトリコロールカラーの機体をかわして、紅い新型機へと向かっていく。
『おいおい、スティング……ま、いっか。俺は馴染みのあっちをやらせてもらう!』
 彼を止めてもどうせ無駄だと判断したネオは、自分もターゲットを決めた。
「そらぁっ! 見せてみろ、力を! この新顔!」
 スティングが気合を吐く。ビームライフルとシールドに内蔵された七十六ミリ機関砲、機動兵装ポッド のビーム突撃砲を一斉射した。
 だが、敵機はあっさりとそれらの火線を全て回避してみせる。
「――こいつ!」
 スティングは好敵手の出現に精神が高ぶっていった。

 

 シンはウィンダムの編隊に突っ込みながら、ビームライフルを連射した。編隊の先頭にいた二機が爆散する。
「いくら数が多いからって――」
 ウィンダム隊の反撃の放火を回避しながら、一機、また一機と撃墜していく。
「――こんな奴等にやられるか!」
 シンは前回の戦闘を経て、調子づいていた。
 しかし、そんな彼の増長を嘲笑うように、インパルスをビームが襲う。
「――!?」
 ほとんど反射的にシールドを上げた事で、直撃を免れた。
 お返しとばかりにライフルを放つが、ウィンダムはそれをかわし、インパルスへと容赦ないビームの連射を浴びせる。
「くそっ!……なんだ、こいつ……速い!」
 他とは一線を画した動きをするこのウィンダムは、赤紫にカラーリングされていた。おそらくは隊長機なのだろう。シンの頭に、宇宙で苦渋を飲まされた、同色の赤紫色のMAの事がかすめた。

 

「あんまりいい気になるなよ、ザフトのエース君!」
 ネオはインパルスを追い込みながら、周囲の友軍機に指示を出す。
「ボヤボヤするな! 連携して追い込むんだ!」
 ネオがインパルスと互角以上にやり合う姿と、その彼の指示によって、戦意と統制を取り戻したウィンダム隊は、インパルスをさらに追い込んでいく。

 

『シン、出過ぎだぞ! 何をやってる!?』
 通信機から飛び込んできたアスランからの叱責に、シンは舌打ちする。前に突出し過ぎて、敵の集団に取り囲まれてしまった自身の迂闊さにも苛立っていた。これでは、ミネルバに向かう敵機に対処する余裕がまるで無い。
 だが、アスランのセイバーも、カオスの相手で精一杯のようである。
「へっ! 文句言うだけなら誰だって!」
 シンは毒づきながらも、機体を立て直しながら、牽制のビームを放つ。一時的に乱れた編隊から浮き出たウィンダムを堕とすが、その間に他の敵機は編隊を立て直して反撃してくる。
 数的不利はシンの予想以上に、彼を劣勢へと追いやっていった。

 

 ミネルバに向かって、ウィンダムの群れが襲いかかる。
 ザク二機とミネルバの対空砲火で凌いではいるが、それも何時までも持ちそうにはなかった。
 一時的に、アーサーに指揮を任せたタリアは、ニーラゴンゴの艦長とのやり取りに辟易していた。
『――そんな事は分っている。だが、こちらのセンサーでも潜水艦はおろか、海上艦の一隻すら発見できてはいないのだ』
「では、彼らはどこから来たと言うのです? 付近に基地があるとでも?」
『こんなカーペンタリアの鼻っ先にか? そんな情報はないぞ!』
 タリアは、なんとか苛立ちを抑えようと努力する。
(情報が無いからといって、存在しないなんて事はないでしょうに!)
 むしろ、カーペンタリアの鼻っ先だからこそ、敵が基地を築く理由になるというのに。
 声には出さずに相手を罵倒していた矢先、ニーラゴンゴのブリッジが急に慌しくなった事が、通信回線越しに伝わってくる。
 ミネルバでもバートが海中から迫る脅威に気づいていた。
「艦長! 海中からMS接近! これは……アビスです!」
「やはり、出してきたわね。だけど……!」
 ミネルバには海中のアビスを迎撃できるような攻撃オプションが無かった。かといって、ザクをアビスの迎撃に回すわけにもいかない。今でさえ、レイとルナマリアの踏ん張りもあって、なんとかウィンダム隊を凌いでいる状態なのだ。どちらか一機のザクが欠けただけでも、ミネルバの方が持たない。
 タリアにとって癪な事ではあるが、アビスへの対処はニーラゴンゴに任せる他なかった。

 

 MA形態のアビスで海中を高速潜行するアウル・ニーダ。
 彼の行く先にあるボズゴロフ級から五機のMSが射出された。
「グーンが三機に、ゾノが二機……はっ! そんなんで、この僕をやろうって? 舐めんなよ、こらっ!」
 放たれた魚雷群をアビスは水の中とは思えない程の機動力で難なく掻い潜り、さらに加速していく。瞬時に敵機との間合いを無にしたアビスは、MS形態をとると、ビームランスでグーンの胴を両断した。アウルは続けざまに、二機目のグーンを叩き切る。
 残りの三機はアビスから距離を取ろうとするが、アウルは両肩のシールドに内臓された連装砲を放った。
 ゾノの片方がぎりぎりのところで回避するが、他の二機は海の藻屑となる。
「へえ、やるじゃん? だけど……ね!」
 アウルは四発の高速誘導魚雷を打ち出し、最後のゾノを爆散させた。
「あはははっ! ごめんねぇ、強くてさ!」

 

 二十機を超すウィンダム隊からの波状攻撃に、耐えていたミネルバだが、ついにその均衡が崩れようとしていた。
「ぐっ!!」
 レイのザクファントムが被弾し、右腕を吹き飛ばされながら、機体が崩れ落ちる。
『れ、レイ!?』
 自分の安否を気遣うルナマリアの声を耳にしたレイは、彼にしては珍しく声を荒げた。
「俺に構うな! そんな事よりも迎撃を!」
 だが、ミネルバの艦砲とルナマリアのガナーザクウォーリアだけでは、ウィンダム隊を押さえ切る事はできそうにもなかった。

 

 ミネルバが窮地に陥っていることは、カオスと一進一退のドッグファイトを繰り広げていたアスランにも伝わっていた。
「レイが!? くそっ! このままではミネルバが――」
 どうにかして、カオスを振り切って戻らなければ、ミネルバが沈められてしまう。
 そう認識した時、アスランの脳裏で何かが弾けた。それは、先の大戦時以来の不思議な感覚。彼の全てが研ぎ澄まされていく。
 アスランはMA形態で離脱を図ろうとするが、カオスも後を追ってきた。後方からの砲撃をかわしながら、アスランは海面へと急降下していく。

 

 スティングは相手の降下速度に内心焦っていた。しかし、ここで引き下がる気はない。
「海面ぎりぎりまで引きつけておいて急上昇? そんなもんに引っかかるかよ!」
 だが、敵機は彼の想定外のアクションを起こした。
 海面へ激突する瞬間にMS形態に変形する事で、急制動を掛けたのだ。
「なっ!?――がっ!!」
 スティングがその事を理解するよりも早く、カオスは敵機に海面へと蹴り落とされてしまう。
 水柱を上げながらカオスが再び空中へ戻った頃には、真紅の機体はミネルバの方へと戻っていくところだった。

 

 アスラン同様に、ミネルバの窮地を知ったシンは、なんとかウィンダムの包囲網を抜けようとするが、肝心なところで赤紫色のウィンダムに抑えられてしまう。
「くそっ! いつまでもそうやっていられると……思うなよ!!」
 その瞬間、シンの中の何かが弾けた。オーブ沖での戦闘の時と同じ感覚が、彼の集中力を高めていく。興奮状態にあるようで、頭の中はやけに冷めていった。
 シンは包囲網の手薄な一角に突撃すると、襲い掛かるビームの矢をかわしながらビームサーベルを振るい、瞬く間に三機のウィンダムを切り捨てる。その勢いで包囲網を抜け出すと、ミネルバの方へ機体を向けた。

 

 徐々に追い詰めていたはずの相手の動きが、いきなり変わった事に、ネオは驚愕していた。
「な……何なんだよ、あいつは!?」
 見れば、スティングの方も紅い新型に振り切られたようだった。
「今まで手を抜いていたのか?」
 だが、先程までの相手の必死な戦いぶりは、とても演技とは思えなかった。
「ちぃ! 全機、何をやっている!? みすみす奴らを行かせる気か!?」
 ネオは周りで動揺しているウィンダムのパイロット達を叱咤すると、ミネルバに向かう敵機の後を追いかけた。

 

 ミネルバは必死に弾幕を張り続けるが、ついに三機のウィンダムに潜り抜けられてしまう。
「くっ……こんのぉーっ!!」
 艦体の後部に位置しているメインスラスターに向かって、ミサイルを撃ち出そうとしていたウィンダム達に対して、ルナマリアはオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を放った。その火線は、二機のウィンダムを飲み込むが、一機にはかわされてしまう。
 ルナマリアはオルトロスの照準を懸命に合わせようとするが――
(駄目っ……間に合わな――)
 迎撃が間に合わないとルナマリアが思ったとほぼ同時ぐらいに、ウィンダムの頭部が撃ち抜かれた。
「――えっ!?」
 アスランかシンの仕業かと思い、飛来したビームの射線を辿る。
 その先には、彼女が見た事の無い、青と白のカラーリングのMSが滞空していた。

 

 その光景はアスランやシンからも確認できていた。
 ミネルバまでの距離は遠く、高機動力の機体を全速で向かわせても足りなかった。奇しくも二人が揃ってミネルバの被弾を覚悟した時――突如として現れた新手のMSが、ミネルバに取りついていたウィンダムを打ち落としてくれたのだ。
「何だ――!?」
 ルナマリアと同様、シンにも見覚えが無いMS。
「あれは――」
 しかし、アスランにだけは、その機体に見覚えがあった。
 カラーリングこそ違うが、ミネルバを救ったMSは、オーブの次世代MSであるムラサメだった。

 

 迎撃に出てきた水中MS小隊を殲滅したアウルが、ボズゴロフ級へと襲い掛かろうとした時である。
 アビスのコクピット内に警告音が鳴り響く。
「――!?」
 慌てて機体を急旋回させると、先程までアビスがとっていた進路上を砲撃が奔っていった。当然ながら、その砲撃はボズゴロフ級に突き刺さる。運悪く、動力部に直撃したのだろう──数瞬の間を置いて、ボズゴロフ級は爆散した。
 アウルは、仕留めたはずのゾノが一機健在だった事に驚くが、敵機の間抜けさを目の当たりにして、幾分かは落ち着きを取り戻す。
「お……おいおい……自分達の母艦を沈めちゃうなんて、馬っ鹿じゃないの?」
 アビスはビームランスを振りかぶらせながら、ゾノに向かって急加速した。振り下ろしたランスのビーム刃がゾノを捉えたと思った瞬間、ゾノは恐ろしいまでの速度で、アビスの後方へと回り込んだ。
 アウルは完全に相手を見失っている状態である。
 後ろから頭部を捕まれたアビスは、そのまま頭部を破壊されてしまう。
「ぐうぅ……くそっ! 何なんだよ、いったい!?」
 たった今、ゾノが見せた動きは、アビスすら軽く上回る機動力だった。
 メインモニターが破壊された事により、視覚情報が遮断されたコクピット内で、アウルはゾノとの距離をとろうと必死にアビスを制御する。 ほとんど感だけを頼りに、ゾノとの距離を離した頃には、サブモニターからの映像がコクピット内の正面モニターに映し出される。ゾノがこちらに右腕を向けて、砲撃を撃とうとしているところだった。
(――やべっ!)
 その能力の高さゆえに、アウルは回避が間に合うタイミングで無い事を悟るが、彼の身体は反射的に回避行動の操作を行っていた。
 だが、ゾノは突然、アウルにとって見当違いの方向を向く。
 敵機の奇妙な行動をアウルが訝るよりも早く、桜色の光弾がゾノに突き刺さった。