Seed-NANOHA_547氏_第17話

Last-modified: 2008-10-18 (土) 18:05:41

 カーペンタリアでミネルバの救援要請を受けて以降、デュナメイスは最高速度のまま疾走していた。そしてようやく、地球軍の待ち伏せにあったミネルバが奮戦しているはずの地点付近に差し掛かる。
「レーダーに感! MS、数……約四十! 戦艦一! 潜水艦一!」
 チャンドラの上げる報告に、他のブリッジクルーは息を飲んだ。かなりの数のMSが残っているにも関わらず、戦闘中域に戦艦の反応が一隻分のみ。ミネルバが既に沈められてた後なのではないか?──と、各々の頭に恐れていた事態が過る。
「熱紋照合──ミネルバ、健在です!」
 僅かな歓喜を含むチャンドラの声に、全員が安堵した。
「なんとか間に合ったのかしら?」
「まだ距離があるから、油断はできんがね。しかし、ミネルバもやるもんだな。アークエンジェルも顔負けじゃないか?」
「ふふっ……そうですわね」
 バルトフェルドの軽い調子に、苦笑混じりに答えたマリューは、顔を引き締め直した。
「MS隊の準備はできてる?」
「パイロット各員、パイロットスーツ着用のまま待機中です」
 CIC担当の兵が彼女に答える。
「パイロット各員に通達──MSに搭乗、戦闘ステータスのまま待機させておいて」
「了解!」
 デュナメイスのブリッジ内が、初陣に向けて緊張感に満たされていった。

 

 マユ・アスカは厨房のメンバーと一緒に食堂にいた。
 もうすぐ戦闘に入る事も聞かされている――その目的が、ザフト艦ミネルバの救援である事も。
(お兄ちゃん……)
 マユは目を閉じ、ひたすら兄の無事を祈っていた。
 そんな彼女を見た周りの大人達は、思い違いをしてしまう。
「嬢ちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だ。この艦は、やられたりなんかせんよ」
「へっ?……あ、そうですね……きっと上手くいきますよね?」
「おう、ともさ」
 周りの気遣いを察したマユは、不安を心の奥に押しやって、笑って見せた。
(うん。きっと上手くいく。お兄ちゃんとも、また会える……)
 そして、新たに祈る。正直なところ、マユ自身も自分の感情が分からなかった。彼に対しての感情は、正負が織り交ざって複雑なものとなっている。だが、そんな中で、はっきりと確信している事があった。
(キラ君も……無事に帰って来て)
 マユは、兄とキラの無事を祈り続けた。

 

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 なのはは、インド洋沖を探索飛行していた。目標が休眠状態である為か、大まかな位置までしか特定できず、なのははもどかしさを感じる。そんな時、探索活動の為に探知感度を広げていたレイジングハートが、離れた場所で行われている戦闘を探知した。
《Master》
「ん? どうしたの、レイジングハート?」
《(南西で戦闘が行われています)》
「戦闘って事は、あのMSってやつでかな?」
《(おそらくは)》
 過去二回、ダーククリスタルが発動したのは、どちらもMS戦の最中だった。
 ダーククリスタルが潜伏しているだろう区域での戦闘行為。ダーククリスタルが発動するとすれば、その場所である可能性は低くないと、なのはは考えた。
「……取り敢えず、近くまで行ってみよっか?」
《ALL right》
 なのはは、レイジングハートが示す場所へと向かい始めた。

 

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「光学映像、出ます!」
 デュナメイスの正面モニターに、前方で行われている戦闘の光景が映し出される。ミネルバは大多数のMSに囲まれながらも、懸命に弾膜を張っていた。
「MS隊、全機発進! バルトフェルド副長、艦砲指揮を頼みます。馬場一尉──」
 マリューは艦内に支持を出し、MS隊の隊長である馬場に通信を繋ぐ。
『何でしょうか? ラミアス艦長』
「敵勢力と思われる部隊ですが、ウィンダムが約三十五にカオスとアビス、母艦等は確認できていません。数の上では劣性ですが、押し返せるかしら?」
『我らとて、オーブ軍の精鋭。その力、とくとお見せしましょう!』
「厳しい戦いになるでしょうけど……こちらからも、できる限りの援護はするわ」
 マリューは、すまなさそうに言った。
 ヤキン戦役でも、彼女は常に劣性な戦況の中にあったと思い返す。自身についてまわる有り難くない決まり事の様なものに、彼女は大きく嘆息する。

 

 ムラサメを起動させて出撃準備を整えるキラに、馬場から通信が入る。
『ヤマト二尉』
「はい?」
『出撃後、君は独自の判断で動いてくれて構わん』
「えっ? ですけど――」
『ブランクがあるとはいっても、君はヤキン戦役を戦い抜いたエース格だろう? 修練中の不慣れな戦い方をするよりも、君は君のやり方で戦った方が良い』
 それが、短時間の訓練の中でではあるが、キラの実力を垣間見た馬場の判断だった。
 一方で、キラとしても、馬場の指示は有り難かった。教えを乞うて間もない連携時の機動を実戦の中で行えるだけの自信が無かったからだ。
「分かりました……その、すみません」
『謝らなくてもいい。実際、君の飲み込みの早さには驚いているくらいなんだからな……流石はコーディネイターといったところか』
「…………」
 馬場が決して悪気があって言っているのではないと分かるだけに、キラは返答に困っていた。
『……すまない。今、私が言った事は忘れてくれ』
「あ……いえ、僕は別に気にしていませんから」
『いや。こういった些細な事の積み重ねが、ナチュラルとコーディネイターの溝となっているのだと、私は思う。間違いは改めねばならん』
 彼は本当に実直な人間だと、キラは改めて感じた。
「馬場一尉のような人達が増えていけば――きっと、みんなが手を取り合っていけますよ」
『ふっ。煽てても何も出はせんぞ』
 馬場との通信を終えて、しばらくすると、オペレーターのアナウンスが流れる。
『進路クリア、ムラサメ各機発進してください』
 順々にムラサメが射出されていき、キラの順番が回ってくる。
「キラ・ヤマト、ムラサメ、行きます!」

 

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 やや離れた海上で行われている戦闘を見下ろす白い服の少女の存在に、気づく者はいなかった。人並みのサイズや体温を見落としたとしても、対機動兵器用のセンサーでは仕方のない事だろう。
 遠目に見える機動兵器の爆発に、少女はやりきれない表情になる。『撃ち合う前に、もっと話し合いを』といった彼女自身の考えが、この世界のような情勢下では、甘い考えなのだという自覚はあった。互いが正義を主張し合った果ての結果である事も理解はできる。
 だが、それでも命が軽く見られがちな『戦争』というものに対して、少女は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
 暗く沈んでいく自分に気づいたなのはは、顔を左右に振った。気を取り直したなのはは、自分の目的──彼女にできる事、彼女にしかできない事を思い出す。
「やっぱり、この辺り……海の中か……」
 目標とする物に近づいた事で、さらに対象の位置を絞り込む事ができた。しかし、このまま進んでは、あの戦闘空域の真っ只中に突っ込む事になる。大多数の人間に、魔導師や魔法の存在を認知される事は避けたかった。
「レイジングハート、お願い」
《ALL right》
 主の意図を汲み取ったレイジングハートの宝玉が輝きを放つ。
《(酸素収集開始。直接供給ライン接続。システム、オールグリーン……準備完了。活動時間の限界、640秒)》
 レイジングハートを介して、酸素をなのはの体内に直接供給する事で、短時間ではあるが、水中での活動時間を増やす。水中の抵抗や耐圧等の問題は、レイジングハートがバリアジャケットの性能を微調整する事で対応する。
 なのはは態勢を整えると、海中へと潜航した。

 

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 デュナメイスから発進したムラサメ隊は、ミネルバの下へ向かう。
 ウィンダムが数機、ミネルバが張る弾幕を抜けたのが、キラ達からも見えた。
『ヤマト二尉。ミネルバに取りついたウィンダムを狙えるか?』
「はい、やれます!」
 キラの技量に信頼を寄せる馬場と、それに応えようとするキラ。
 並みのパイロットでは、戦艦を避けて取りついている敵機だけを撃ち落とす等といった芸当が可能な距離ではないのだが──
「当たれぇぇっ!!」
 キラは機体をMS形態にすると、ミネルバの甲板にいるザクが撃ち漏らしたウィンダムの頭部を狙い撃った。

 

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「に……ニーラゴンゴ、轟沈!」
「くっ! だけど──」
 メイリンの悲鳴に近い報告に、タリアは苦い表情になる。ニーラゴンゴを沈めたアビスの次の獲物はミネルバだろう。だが、水中のアビスを相手にする余力など、ウィンダムへの対空砲火で手一杯のミネルバには残されていなかった。
 そして、ついにミネルバの弾幕をウィンダムに潜り抜けられてしまう。
「ウィンダム三機に取りつかれました! あっ……うち二機をルナマリア機が撃墜!――えっ!?」
「いったい、どうしたの!?」
 バートは、驚きの余りに、オペレーターとしての報告を途切れさせてしまう。
 そんな彼に苛立ちを隠せずに、タリアは怒鳴ってしまった。
「す、すみません! 取りつかれていたウィンダムの残り一機、撃墜を確認! 四時の方向から戦艦一、MS十!」
「ええっ!?」
「どこの部隊なの!?」
 新たな戦力の出現に驚くばかりのアーサーは無視して、タリアはバートに確認を促す。
「熱紋照合――戦艦はアークエンジェル級、MSは不明機(アンノウン)! ……友軍の識別コードを確認! オーブ軍です!」
「――!!」
 タリアは、絶望的だったこの戦闘の望みが繋がった事に、歓喜の声を上げそうになってしまったが、なんとかそれを押さえ込む事に成功した。
 もっとも、彼女の側にいる副長は、遠慮する事なくはしゃぎ声を上げているが。

 

「アークエンジェル級より通信です」
「回線をこっちに回して頂戴」
「了解」
 メイリンが端末を操作すると、ブリッジの正面モニターに、オーブ軍の女性士官の姿が映し出された。
『オーブ軍所属、アークエンジェル級三番艦デュナメイス艦長、マリュー・ラミアス二佐です。本艦は、プラント本国の要請により、貴艦の救援に参りました』
 艦長と名乗った女性の姿に、タリアは目をみはった。モルゲンレーテで会話し、共感を覚えた技師――マリア・ベルネスと名乗った女性だったからである。だが、タリアは驚きと同時に、彼女が艦長である事に納得してしまっていた。
 通話機を手に取り、タリアは返答する。
「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。救援、感謝します」
『お互い、色々とお話したい事があるんでしょうけど……まずは、この場を切り抜けない事には……』
「そうですわね。海中にはアビス――水中戦に特化したMSがいますから、注意してください」
『了解しました』
 通信を終えると、タリアはブリッジ全体に檄を飛ばした。
「みんな、聞いてたわね? ここが正念場よ!」
 そんな彼女に、他のクルーも応えてみせる。
 ミネルバのブリッジは、消え入りそうになっていた戦意を再び取り戻していた。

 

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 海中を進むなのはに気づいたらしい緑色の機体――ゾノが、右腕を彼女へと向けた。その右腕にチャージされているのは、魔力を込めた砲撃。
 しかし、なのはの方も既に戦闘態勢に入っていた。レイジングハートにも予めカートリッジを一発使わせてある。
《Accel Shooter》
 なのはの周囲に桜色の光球が五つ現れる。
「シュート!!」
 なのはは、レイジングハートを前方に掲げて、形成したシューターを放った。
 凄まじい弾速の桜色の光弾が、不規則な孤を描きながら、次々とゾノに襲いかかっていく。

 

 ゾノは左手をかざし、シールドを張った。
 一、二発目のシューターが、そのシールドに亀裂を入れる。三発目が当たるとその亀裂が全体に広がり、四発目がシールドを打ち砕く。無防備になったゾノの左手に、五発目が直撃して破壊した。
 しかし、砲撃のチャージを完了していた右腕は無事である。ゾノは反撃の砲を撃とうと右手の銃口を突き出すが、その先に目標の姿は無かった。

 

 ゾノがシールドを張った事を確認したなのはは、シューターに相手の注意が向いている間に、相手の頭上へと回り込んでいた。
《Flash move》
 彼女の姿を見失っているゾノに対して、死角からの一打を仕掛ける。
「はあっ!!」
《Impact》
 高速機動から繰り出す魔力を込めた打撃をゾノに叩き込み、体勢を崩させた。なのははクロスレンジから離脱しながらレイジングハートをバスターモードに切り替えると、さらなる追撃の一発を撃つ。
「ディバイィィィン、バスタァァッ!!」
 桜色の奔流がゾノを撃ち抜き、大きな爆発が起こった。

 

 アビスの中でアウルは、モニターに映し出されている戦闘を呆然と眺めていた。
 規格外の動きをするゾノ。それと戦う、白い服の女の子。
「な、何なんだよ……これ?」
 そんな非現実的な光景を目の当たりにした彼は──
「か……かっこいい……」
 彼は我知らず、そんな事を呟いていた。

 

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「アークエンジェルだと!? よりにもよって、あの艦が相手とはね……」
 ネオは僅かに動揺していた。彼にとって、いわくつきの艦が、敵の増援として現れたのだから無理もない。もっとも、その事情を知っているのは、ネオ本人を除けば、彼の主を含むごく少数の人間だけだが。
「それに、こいつらも……まさか、『あいつ』と同類ってわけか!?」
 ミネルバから出てきた二機を包囲させていたウィンダムが、次々と撃ち落されていってしまっている。インパルスと紅い新型の二機は、先程までと明らかに動きが変わっていた。
 ネオは、彼が知っているコーディネイターの少年も、この二人に似た力を持っていた事を思い出す。
「くそっ! 無理もないか。おまけに、スティングの奴、完全に頭に血が昇ってやがるし……」
 さらに、ミネルバに向かわせていた方の部隊も、形勢を逆転され、押し返されている。特に、新手のMS隊の中で一機だけ違う色の奴が、周りと比べて頭一つ飛び抜けた動きの良さを見せつけていた。
「たくっ! あの量産型も新型なのか? しかし、あれは――」
 敵の増援部隊が使っている新型らしき機体は、ザフト製MSとは異なる印象がある。
「――そうか! あいつら、オーブ軍だ!」
 プラントとオーブが同盟を結んだという話は、彼も聞かされていた。だとすれば、あの新型量産機の性能の高さにも頷ける。
「――と」
 そんな推測をしている間に、ウィンダム隊は全滅させられてしまった。
「ちいっ! 不味いな、こりゃ……」
 残るは、彼のウィンダムとスティングのカオス、海中にいるはずのアウルのアビスだけだった。

 

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 なのはは、砲撃の着弾時に起きた爆発の所為で、視界がはっきりしない中、相手の様子を注意深く窺っていた。次弾の砲撃発射準備も、すでに終えている。煙の中から姿を――もしくは、なんらかの動きを見せた時に、迎撃できるように。
 だからこそ、煙の中から放たれた、彼女以外の者を狙った魔力弾にも反応する事ができたといってもいい。
「くっ!」
 魔力弾は、近くにいた青色の機体を狙って放たれていたが、位置的に間に割り込んで防御する事ができた。
 しかし、なのはがその行為に時間を割いている間に、相手は逃走準備を整えてしまっていた。
《Master!》
「――しまった!? 転移魔法!?」
 なのはは、陽動に引っ掛けられてしまったのだ。ダーククリスタルに転移魔法を使われてしまい、砲撃を撃つ間もなく離脱されてしまう。
「レイジングハート、後を追える!?」
《(最善を尽くします)》
 レイジングハートは、ダーククリスタルが転移した際の余波を辿り、その転移先を可能な限り絞り込んだ。そして、レイジングハートが推測した場所の中心点へと、なのはも転移していった。

 

「あ……行っちっまった……」
 アウルは少女が消えてしまうまでの一部始終に見入っていた。
 流石に、アビスに向かって何かが放たれた時は、咄嗟に回避しようとしたのだが――その前に、あの少女が庇ってくれたらしい。
「あれって、もしかして、魔法ってやつなのかな?」
 そんな突拍子もない事を考えているアウルのもとに、彼の上官から通信が入る。
『アウル! 気づいていると思うが、敵の増援が出て来た。借りてきた連中も全滅だ。そっちは?』
「えっ? あ……俺も頭をやられちゃった」
 普段と違う様子のアウルにネオは訝った。
『おい、頭って……どこかに打ちつけたのか!?』
「へっ? 何、言ってんだよ?」
『お前が、そう言ったんだろうが?』
 そう言われて、少し考え込んだアウルは、相手の勘違いに気づく。
「いや。俺じゃなくて、アビスの事なんだけど……」

 

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 おかしい。明らかに、おかしかった。今のアウルの様子は、これまでネオが見た事のないものだった。「頭をやられた」と聞いて、アビスではなくアウル本人の事かと勘違いしてしまう程である。
「くっ! ジョーンズ、撤退するぞ! 合流準備!」
 付近の島影に隠れさせておいたジョーンズから、すぐに返答が返ってきた。
「スティング、アウル! 撤退するぞ!」

 

 紅い新型との戦いに押され気味だったスティングは、ネオからの撤退命令に納得できなかった。
「なんでだよ!? 俺は、まだやれる!!」
『冷静になって状況を見ろ! 俺達だけで勝てる数じゃないだろうが! それに――』
 ネオが通信を守秘回線に切り替えた事で、スティングの苛立っていた表情に不可解さが混じる。
『――どうも、アウルの様子がおかしい』
「あん? 何が?」
『俺にも、さっぱりだ……とにかく! 俺達は撤退する。これは上官命令だ!』
「……ちっ! 分かったよ! アウルの奴、世話かけやがって。ステラじゃあるまいし」
 スティングは愚痴をこぼしながらも、アウルの事が心配だった。だからこそ、彼も撤退命令に、しぶしぶながらも応じたのだ。

 

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「撤退する? 艦長――」
 ウィンダムの隊長機やカオス等が撤退していく。アスランは追撃すべきか、どうかを迷っていた。
 そして、それはタリアも同様だった。
『近くの島に母艦を伏せてあったようね』
「追いますか?」
『貴方は、どう判断する?』
 アスランは少し考える間を置いてから、進言した。
「……こちらも被害が出ています。現状では、マハムール基地に入る事を優先するべきかと」
『同感よ。レイも命に別状はないとはいえ、負傷してしまっているし……あちらの艦の方々とも、一度ゆっくり話してみたいしね』
「分かりました。では、帰艦します」
『ええ。そうして頂戴』
 通信回線が閉じた後、アスランは大きく息をついた。タリアには、ああ言ったものの、彼には確かめたい事があったのだ。
(あのムラサメの戦い方……あれは――)
 遠めにだが、アスランは見ていた。青と白にカラーリングを変更されていたムラサメの動きを。敵機のコクピットをさけてメインカメラや武装を狙う戦い方は、アスランが良く知る友人のそれだった。
(――やはり、キラなのか?)
 この二年間、キラが思い悩む姿を見てきたアスランには、信じ難かった。そのキラが再びMSに乗って戦っている事が。あのムラサメのパイロットがキラ本人なのかどうかを早く確認したいのが、アスランの本音だった。

 

 アスランと同じように――いや。それ以上に、専用カラーのムラサメに乗っているパイロットの正体を知りたがっている者がいた。
(あいつの戦い方……フリーダムと同じだった!)
 という事は、パイロットも同じ可能性は十分にある。何せ、あのような戦い方をする者など、そうそういないはずなのだから。家族の仇であるフリーダムのパイロットだったかもしれない者の出現――シンの心の中は、大きく揺れ動いていた。