Seed-NANOHA_547氏_第31話

Last-modified: 2008-10-18 (土) 22:42:41

「──!? そんな……ッ!」
 キラは、計器がもたらす情報から、ムラサメ隊の一機が落とされた事を知る。その事に動揺した隙を衝くようにして、アビスから放たれたビームが、キラのムラサメを襲った。
「──くっ!!」
 キラはギリギリのタイミングで回避するが、ビームが擦ったムラサメの装甲には焦げ跡が残る。必死に機体を制御して体勢を立て直し、アビスに銃口を向けようとするが、相手は再び海の中に身を隠していた。
「くそッ!! このままじゃ──」
 このまま膠着状態を続けていては、先に母艦の方が落とされてしまう。そうでなくとも、機体のエネルギー残量にあまり余裕がない。
 だが、このじり貧の状況を打破し得る手段がキラにはあった。ガルハナンでの事もあって、自ら禁じていた力──SEEDの発動。いくら能力が上がろうと、いつ気を失うか分からない程消耗するのでは、実戦では使えないからと封じていたその力。
「──やるしかないか……」
 キラはSEEDの発動を決意する。
 ──が、それと同時。戦場に異変が起こった。

 

 戦場にいる誰もが息を飲み、動きを止めてしまう。
 爆散し、海の藻屑と課したはずのザムザザー達が、次々と完全な姿で浮かび上がってくる。
「な……何だよ、これ……?」
 シンは思わず言葉を漏らす。事前にマユから聞いていたとはいえ、自分が目にした光景は余りにありえないものだった。そして、それはアスランも似た様なものだった。
 いや、彼らはまだマシな方で、レイやルナマリアを初めとする殆どの者達が、目の前で起こっている事態に思考が追いつかない。両軍の指揮官に当たるタリアやネオですら、ただ唖然としているだけだ。

 

 戦場で止まった時間が動き始める。ザムザザーらが、ザフト・連合問わずに、無差別射撃を開始したのだ。
 しかし――
「アスランっ! シンっ!」
 それより幾ばくか早く、キラは叫んでいた。

 

 キラの叫び声で我に返ったシンとアスランは、すかさず回避行動を取り、ザムザザーの火砲から逃れる。
「くっ!!」
 シンが辺りを見回すと、ザムザザーの攻撃をかわせなかったダガーやウィンダムが堕とされていた。キラの声が無ければ、自分も堕とされていたかもしれないと思い、シンはゾッとする。だが、同時にそれが癪に障った。
(──くそっ! よりにもよって、アイツに貸しを作っちまうなんて!)
 苛立ったシンはザムザザーに攻撃を仕掛けようとするが、アスランに制される。
『止せ、シン! あれがどういったものなのか、お前も聞いているんだろ!?』
 アスランの言葉にハッとするシン。マユの話を思い出す。あれはMS等で立ち向かえる相手では無い。
(だけど、なんでアスランさんが……)
 一瞬浮かんだ疑問も、すぐに解ける。アスランも事前にキラ辺りから聞いていたのだろう。
「――っと!」
 そう考えている間にも、ザムザザーからの砲撃が間断無く襲ってくる。
 シンはインパルスに大きく回避行動を取らせながら、牽制のライフルを撃った。しかし、本来のザムザザーにとって死角となる下方からのビームも、バリアによって弾かれてしまう。
「くそっ! こんなの、どうしろって言うんだよ!?」
 無駄だとは分かっていても、シンは毒づかずにはいられなかった。

 

 混乱していく一方の戦局に、バルトフェルドは腕を組み、唸り声を上げた。
「むぅ……どうする、ラミアス艦長?」
 彼に問われ、マリューは僅かに思案するが――彼女とて、この事態を全く想定していなかったわけではない――やがて、矢継ぎ早に指示を下していく。
「……後退して様子を見ます。MS隊は、ザムザザーに対して十分に距離を取るように。連合に対しては、こちらに向かって来るもののみ迎撃。ミネルバへの回線を開いて――」
「ま、妥当だろうな」
 バルトフェルドは肩をすくめて言った。
 この場に連合軍がいる以上、あのザムザザーの足止めに専念するわけにもいかない。また、このような状況下で相手にするには、あのザムザザーは危険すぎる。 

 

 戦局と同様に、タリアは混乱していた。
 敵MAであるザムザザーが敵味方を無視した無差別攻撃は、今もなお続いてる。
「――! 艦長、デュナメイスから通信です!」
 メイリンの言葉に反応して、タリアは混乱した思考をいったん頭の隅に押しやる。
「こちらに回して頂戴」
「了解」
 その間に、タリアは表面上だけでも平静を取り繕う。同じ艦長職であるマリューに、うろたえる自分の姿を見せたくないという彼女の意地のようなものだった。
 しばらくして、正面のモニターにマリューの顔が映し出される。
『タリア艦長。連合のMAによって、戦況は激しく混乱しています。一度後退して様子を見るべきかと』
 尋常ならざる戦況下において、毅然とした様子で提案するマリューに、タリアは内心で驚嘆する。
(不沈艦アークエンジェルの艦長として前大戦を生き延びたのは、伊達では無いという事ね)
 マリューの判断には、タリアも同意見だった。ここは態勢を立て直しつつ、情報を集めるべきである。見れば、デュナメイスのムラサメ隊は、既に艦の防衛に専念しつつあった。デュナメイス自体も後退を開始している。
「分かりました。こちらも下がります――」
 タリアはミネルバのブリッジクルーに指示を出していく。
「連合を牽制しつつ後退する。敵MAの動きには特に注意。メイリン、アスラン達にも伝えて」

 

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 フェイトはただ前だけを見つめていた。そこに在るのは外界からの進入者を拒む壁。およそ自然には発生するはずのないフィールド。だが、この先になのは達が閉じ込められている第一〇七管理外世界が在るのだ。自分達は、これからこのフィールドを突破しなければならない。
『みんな、アースラから離れ過ぎないように注意してね』
「了解」
 彼女は、アースラの管制――エイミィからの通信に応える。近くにいるはやてやヴォルケンリッター達もだ。次元世界では特殊な装備や技能無しでは、たとえ魔導師といえども活動できない。故に、アースラの保護フィールドの範囲から外れるわけにはいかなかった。

 

「――はやてちゃん、準備完了しました」
「うん。クロノ君、こっちはいつでもいけるよ」
 リインフォースⅡとのユニゾン状態に入った八神はやては、右手に騎士杖シュベルトクロイツを掲げ、左手に開かれた夜天の書を携えて言った。そして、彼女の前に浮かぶのは直径十センチ程の黄金色の宝玉――〝アカツキ〟のレプリカである。
〝アカツキ〟を使って第一〇七管理外世界への道を切り開く役目は、はやてに託されていた。〝アーリィー〟や〝アカツキ〟に使われている魔法形式を極めて解り易く説明するならば、ミッドの術式を古代ベルカ言語で展開した様なものだというのが本質に近い。本来ならば、ミッド式とベルカ式双方の術者に加え、専門的な互換システムを用いて、初めて起動・制御が可能な代物だ。
 だが、古代ベルカ式をベースにミッド式をも同時に扱えるはやてならば、アースラからのサポートを受ける事で、〝アカツキ〟のレプリカを扱える。
『はやてちゃんとのリンク、シンクロ良好。システム、オールグリーン。こっちも準備オーケー!』
『よし。はやて、始めてくれ』
 エイミィから報告を受けたクロノが、艦長席から作戦の開始を告げた。
「おしっ! リイン、やるよ!」
「はいです!」
 はやての足元には正三角形のベルカ式魔法陣、前方には円形のミッド式魔法陣が展開される。それに併せて、黄金色の宝玉が光を放ち始めた。

 

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「……あれだ!」
 なのはは目標がギリギリ視認できる距離まで来たところで停止する。この距離ならMSや戦艦の巨体は視認できても、人間サイズはそうはいかないはずだ。
 今まで見てきたMSよりも大きく人型ではない機動兵器から、魔力反応が感じ取れる。が――。
「――って、三機も!?」
 これまで単機でしか出現していなかった為、そういったものなのだと先入観が出来上がってしまっていたなのはは、目標が複数出現していて驚く。 集中してみても、三機から感じる魔力反応に差異は無かった。つまりは、どの機体にダーククリスタルが宿っているのか、判断ができないのである。
「……悩んでてもしょうがないよね」
 無駄な犠牲が出る前に、目標を打ち落としてしまおうと、なのはは決断する。よく見ると、この世界の軍は対応しかねているのか、その機動兵器から距離を取って様子を伺っているようだった。
「……これなら!」
 これまでと違って他者が積極的に交戦していない為、目標となる機動兵器までの間に障害となる物は無く、現地点からの長距離狙撃も可能だと、なのはは判断する。
「やるよ、レイジングハート! バスターモード、セット!!」
《All right.Buster mode》
 レイジングハートの先端部が変形する。
 なのはが砲撃の構えをとると、レイジングハートの先端部付け根から、桜色の翼が三枚展開した。狙いを澄ますなのは。精密照準を行うレイジングハート。
《Load Cartridge》
 レイジングハートが二発の薬莢を排出する。なのはの足元に魔法陣が展開し、レイジングハートにも四つの環状魔法陣が取り巻く。その最先端部で桜色の魔力が光球としてチャージされていく。
《Divine Buster……Extension》
「ディバイィィィン――」
 光球が大きく膨れ上がると同時、その三方に光点が生まれ、魔力が臨界点に達する。
「――バスタァァァッ!!」
 撃ち出された砲撃は、目標までの距離をほぼ一瞬で踏破し、圧倒的な威力を維持したまま、対象へと突き刺さり撃ち砕いた。
《(目標への直撃を確認)》
「うん。続けていくよ!」

 残りの二機を撃墜する為に、なのはは再び砲撃のチャージを行う。

 

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 彼方より飛来した桜色の閃光に、ザムザザーの一機が穿たれて爆散した。
「――なッ!?」
 その光景を目の当たりにしたシンは、驚きのあまり目を大きく見開く。
「いったい、どこから!?」
 射線の源へとインパルスのメインカメラを向けると、その方向から先程と同等の砲撃が再び放たれてきた。それは、またもや正確に、残る二機のザムザザーの片割れを捉えている。
 しかし、今度はザムザザーもリフレクターを展開して防御行動をとっていた。桜色の閃光がザムザザーのリフレクターに着弾する。せめぎあう桜色の砲撃とリフレクター。やがて砲撃は止み、ザムザザーが凌ぎきったかに見えたのだが──数秒の間を置いてザムザザーは爆散してしまった。
(負荷に耐えきれなかった……のか?)
 ──等と推察するシンは、ある違和感に気づく。
「もう一機がいない!?」
 インパルスのモニター越しに周囲を見回すが、残り一機いるはずのザムザザーの姿をシンは完全に見失ってしまっていた。

 

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「──!? ……落とせた?」
 二射目の砲撃は防御されたはずだった。
 しかし、奇妙なタイムラグを経て、目標は爆散してしまったようだ。訝るなのはだったが――やがて、とある答えへと思い当たる。
(……! もしかして――)
《Master!!》
 思考はレイジングハートの警告によって中断される。
 なのはのすぐ側に出現する魔法陣。その中から現われたのは、狙撃目標であった最後の一機。
「短距離転移!?──このッ!」
 予期せぬ方法での敵の接近に驚きながらも、なのはは後退しながら数発のアクセルシューターを放つ。
 だが、相手は正面に障壁を展開し、弾幕をものともせず強引に突っ込んできた。
 ハサミ状の右手がなのはに迫る。なのはは右手をかざして障壁を張るが──。
「──!?」
 あっさりと砕け散る桜色の障壁。敵の攻撃はバリアブレイクが目的だったようで、高威力で抜かれた時のような魔力ダメージは無かった。
 問題なのは──。
「──バインド!?」
 ハサミにはバインドの付加効果まで付いているらしい。なのはは鷲掴みにされたまま海中へと連れ込まれる。
(不味い……息が)
 魔力によって身体強化されていようと、種としてのライフラインは必須だ。以前のような下準備無しの状態で、海中というフィールドに長居はできない。
 なのははバインドの解除に意識を集中させる。
《Bind Break》
 バインドの効果を打ち破ったのが原因なのか、ハサミによる物理的な圧迫も緩んだ。すかさず敵の手中から抜け出すと、反転しながらレイジングハートを横薙に払う。敵機に目がけて飛翔する数多のアクセルシューター。相手は正面に障壁を張るが、それを読んでいたなのはの制御を受けて、桜色の光弾は四方八方へと弾道を変えた。障壁を回り込み、次々と目標に着弾する。
 その隙に、海上へと逃れたなのはは、乱れた呼吸を整えながらも海面への警戒を怠らない。
 しばらくして浮上してくる機動兵器。しかし、様子がおかしかった。こちらと同じ高度を取ってから、一向に動こうとしないのだ。
「……こうしててもしょうがない。レイジングハート、仕掛けるよ!」
《All right》
 なのはが砲撃用の魔法陣を展開しようとしたと同時に、敵機が大型の魔法陣を展開する。
「? これって――」
《(目標を中心に魔力濃度が急上昇!……自爆シークエンスを確認!)》
「――!? させない!!」
 相手が自爆する前に撃ち落す。なのははレイジングハートを構えるが――
《(駄目です、間に合いません)》
「!? そ、そんな!?」
 瞬く間に収束していく膨大な魔力量になのはは背筋を凍らせた。これだけの規模で自爆されれば、高レベルの収束砲の直撃に等しいダメージを被ってしまう。
 なのはは、マガジン内に残された二発のカートリッジを使用し、全力で防御魔法を展開する。フルドライブモードを起動する猶予もなければ、マガジンを差し替える間も無い。現状で耐え切るしかないのだ。
 巻き起こる閃光と爆音、そして膨大な熱量と衝撃。なのははほとんど本能的な判断で、右半身を前にして右の手の平を前方に突き出す姿勢になる。左手に持つレイジングハートを自身の身体の陰に隠し守る為に。
《Master!?》
 どこか非難じみたレイジングハートの声。
(ごめんね……後は頼んだよ)
 愛杖へ謝罪と信頼の言葉を念話したところで、なのはの意識は途絶えた。