W-DESTINY_第22話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:02:25

「まさか、ロドニアを狙うとは! しかもこうも早くに」
ネオは、ザフトのロドニア強襲の知らせに歯噛みしていた。
そして、すぐにスティング、ステラ、マユの3人を率いて中型輸送機でロドニアへ向かったのだが、今やザフトの勢力下となった地中海を迂回しながら進まなければならず、地上も油断できない。
そのため、進軍スピードは芳しくなかった。
「盟主に顔向けが出来んな」
杖にあごを乗せながら呟く。それにしても、何故ザフトがこうも早くロドニアの存在を知ったのか疑問に感じた。
確かに、JPジョーンズが捕獲される可能性は高いとは思っていなかった。少なくとも基地の場合は、敵に落とされたら接収されるが、空母では撃沈される可能性が高い。
だからこそ生還を考えれば事前にエクステンデッドの設備を破壊しなかった。
だが、よりによって空母上でMSの斬り合いが始まり、混乱からデーター消去の手筈が遅れたのだろう。
それでも、ザフトの行動は早すぎる。ネオはJPジョーンズが捕獲された後、ジブリールに知らせたし、ジブリールもロドニアの研究所の移転の指示を出した。
普通なら、それで間に合うはずだった。訳の分からない設備の正体にザフトが気付いた時には、ロドニアの研究所は空っぽになっているはずだったのだ。
「まったく。アスラン・ザラってのは何者だ?」
連合にとって、普通なら後回しにするはずの一番痛い部分を的確に突いて来る。その深慮は神掛かってるとしか言い様が無かった。
実際はアスランが公務を言い訳に私情を優先させた結果なのだが、それこそ神ならぬネオとジブリールには真実など分からなかった。
「そのアスラン・ザラを殺すチャンスなんでしょ?」
ネオがその声に振り向くとマユが不敵な態度で笑っていた。
「確かにそうだ。だからこそ急いでいるのさ」
「だったら愚痴るなよ。ウゼェ」
スティングまで呆れたように毒づく。今回は連合にとって、人体実験という非道を白日の下に晒される脅威でもあるが、アスラン・ザラを仕留めるチャンスでもあった。
「必ず居るとは限らんが」
弱気を込めてネオが呟く。ここの所の失敗続きとアウルを死なせた喪失感がネオから本来の不敵さを奪っていた。
「だったらミネルバを完膚無きまでに破壊する!」
「そうね。それに……」
スティングとマユは互いに目を合わせる。それは無言の会話……どちらが殺るか!
「お前等……そうだな。よし行くか連中にロドニアへ出向いた事を後悔させてやるぞ」

「呆れたものですな」
アーサーが溜息を付きながら愚痴る。占拠したロドニアの施設からは、大量のデーターと研究員だけで無く、大勢の子供が保護の名の下に捕縛されていた。全員がエクステンデッドになるための素体だった。
「中に入らずに済んで助かったわ」
タリアも相槌を打つ。あの子供達が、銃を手に向かってきたと聞いた時は怒りを超えて、アーサー同様に呆れてしまっていた。
「全くです。でも流石は大使が選んだ部隊ですな。全員死亡させずに捕縛とは」
「そうね」
この任務は、ただ戦闘力が高いだけでなく、あらゆる状況を想定して動ける部隊でなくてはならなかった。
指揮官の柔軟な思考と行動。そして、その指揮に対応できる部下。単純な戦闘力ならシンやアスランの方が上だろうが、それだけでは、この任務は後味の悪いものになっていただろうと、胸を撫で下ろす。
「ところで作業は、後どれくらい掛かるのでしょうか?」
「そうね……色々と見つかってる様だし…」
タリアが考えているとアスランがブリッジへ戻ってきて、挨拶もそこそこにシートに座り込む。
「どうしたの?」
タリアは、そのらしくない態度に違和感を感じ、素で問いただす。
「ええ、追い出されまして…」
アスランが説明するには、無理を言って同行したアスランが、中でシリンダーに入った人間の脳を見て、怒りをおぼえ、それに同調したシンが喚き始めたため、歩兵部隊の隊長に邪魔だと追い出されてしまったらしい。
「まったく……それでシンは?」
「MSデッキで待機させてます」
会話に聞き耳を立てていたメイリンが、脳の話に吐き気を感じながらも、こちらに接近してくる輸送機の存在を捕えていた。
「艦長! 4時の方向に輸送機が接近…MSが出ました!」
「何ですって!」
「カ、カオスです!」
ブリッジに緊張が奔る。今や連合最強のMSと認識されているカオスが接近してきてるのだ。
「コンディションレッド発令! 全MS発進! 研究所にいる者を呼び戻して!」
次々と出される指示を受け、ミネルバは戦闘体勢に入る。その間にも接近する輸送機からは2機のMS、ガイアとカラミティが発進していた。

「来た……」
シンはインパルスのコクピットで呟く。カオスが、スティングが真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
その姿が殺気に満ちている様に見えるのは気のせいでは無いだろう。
「シン、スティングは私に任せろ」
ゼクスがそう伝えるが、シンはスティングが自分を見逃すとも思えなかった。
それに、いくらゼクスでもグフでカオスの相手は無理だとも思えた。
「いえ、行きます!」
シンは決意を込め、カオスへと向かった。決して避けては通れない相手だ。
フォースインパルスのブースターを全開にし、カオスと対峙する。
「スティングか!?」
「その様子だと気付いてるみたいだな?」
スティングは答えながらもビームライフルを放つ。シンはそれを回避しながらスティングに伝えた。
「俺……アウルのことを殺した。謝って許されるとは思ってない!」
「だったら死ねよ!」
スティングの猛攻にシンは追い詰められる。だが元より、ゼクスを倒した相手に勝てると思うほど、シンは傲慢では無かった。だから懸命に呼びかける。
「くっ!……でも、このままじゃスティング達だって、戦争の道具としてしか扱われない!
 だから降伏してくれ! アスランさんなら悪いようにはしない! だから…」
その台詞はスティングの感に触った。
「テメエの価値観で俺たちの人生を決めるな!」
怒りを込めてスティングはビームサーベルを振るう。
「憐れなモルモットとでも同情したか!? そういうのが傲慢な態度って言うんだよ!」
「ち、ちがっ!」
間一髪シールドで受け止めたがバランスを崩される。
「アウルに宜しく伝えろ!」
「させんよ!」
その隙を逃さず、一気に斬りかかるが、ゼクスが横合いからスレイヤーウィップでサーベルを弾く。
「シン! ここは譲れ!」
「で、ですが!」
「下を見ろ! 敵はコイツだけでは無いぞ!」
カラミティが、そしてガイアが接近してくる。
「行け!」
「了解です!」
「よし……こっちに来る」
マユはコクピットの中で微笑んだ。スティングに落とされたらどうしようと思っていたが、向うからノコノコとやってきてくれて、天に感謝する。
「さてと……ステラ!?」
だが、マユが攻撃するより早く、ステラがガイアをMA形態にすると、地上戦最強を目指して作られた性能を遺憾なく発揮し、カラミティを置き去りにしてインパルスへと向かった。
「コイツ……キライ!」
ステラは、インパルスの姿を見ると、怒りが込み上げるのを抑え切れなかった。
「絶対にやっつける!」
背部のビーム砲を放ちながら、接近する。しかしインパルスは全てかわしていった。
「ステラ」
シンは完全に自分がガイアを凌駕している事を自覚していた。ステラの実力はアウルより落ちるだろう。
そしてサーベルを構え、ガイアの左のビームブレードを斬り払う。
「くぅっ!」
「ステラ! 止めてくれ!」
ガイアの身体を押さえながらシンは通信を入れる。
「なんで私の名前を?」
「え?……そうか」
シンはエクステンデッドの記憶が操作されていることを思い出す。
「俺だよシンだ!」
「慣れ慣れしい! 消えろ!」
ステラは怒りの声を上げながら、MS形態に戻るとビームライフルを構える。
「ステラ……ゴメン」
そう言いながらガイアのビームライフルを破壊した時、カラミティからの砲撃がきた。
「させるか! アンタは殺す!」
「クソッ! 今は関ってる暇が……」
だが、ガイア以上の強敵であるカラミティを放っては置けない。それに火力が最も強いこの機体こそがミネルバにとっては最大の脅威だった。
「シン、彼女は俺に任せろ」
「レイ?」
「幸い、スレイヤーウィップはPS装甲には効かない」
「そうか……頼む!」
一瞬、ステラの身を案じたが、少なくとも自分が抑えるより安全だと判断し、カラミティに向かう。
「逃がすか!」
インパルスを追うガイアの後ろからレイがスレイヤーウィップを巻き付ける。
「少し苦しいだろうが……我慢しろ」
「くぅぅぅぅぅっ!」
ステラが身体を襲う痺れに悲鳴を上げる。
「ステラ!」
マユが救援に向かおうとしたが、その前にインパルスが立ちはだかった。
「……ステラ、後で行くから我慢してね……今はコイツを殺さなきゃ」
マユは冷たく、そして怒りに震えながら呟く。今眼の前に居る。狂気の炎をぶつける相手が。
「コイツは……クソッ!」
シンは思い悩む。ガルナハンで住民を味方の兵ごと殺害した凶行は許せない。しかし、ステラの仲間だとすれば、先程の子供たちと同様、責める気にはなれない。
「でも……ここで止めないと」
フォースの機動性を発揮して、ビームライフルで射撃するが、カラミティは回避し、森に隠れながらシュラークを放ってくる。
「そんな戦い方で!」
「機動性を潰しに掛かるか……メイリン! ソード…いやブラストシルエット!」
シンは撃ち合いを選んだ。カラミティは接近戦より遠距離戦の方が動きが読みやすい気がした。
それに、何時標的をミネルバに代えるか分からない。何よりも優先するのはミネルバを守る事だった。
そしてシルエットを換装して、撃ち合いを演じる。
「面倒な機体!」
マユは吐き捨てるように叫ぶ。インパルスが何をやっても腹が立つ。
「だったら!」
マユは前にでて接近戦に移行しようと前進を開始した。
「近付く気か?……させるか!」
ミサイルを放って弾幕を形成すると、着弾により上がった煙を盾に距離を取る。
「甘い!」
だが、煙の向うからスキュラを発射した。狙いはインパルスでは無く、レイのグフ。
「レイ!」
「くっ!」
レイは咄嗟に回避したが、ガイアの捕縛が解ける。だがギリギリでステラは気を失っていた。
「よくも!」
「しまった!」
シンは一瞬、レイに気を取られた隙にカラミティの接近を許してしまった。

「チィッ!」
グフの左腕が斬り飛ばされ、ゼクスは苦悶の表情を浮かべる。
「これで分かったろ? そんなMSで俺の相手は無理だって」
スティングが忌々しげに吐き捨てる。
だが、ゼクスは毅然と言い返した。
「戦場に身を置いて、機体の性能が悪いからと言って、引き下がれると思うか?」
「ほう……テメエは逆の立場でも同じ事が言えんのかよ?」
「―っ!」
痛いところを突かれたとゼクスは言葉に詰まる。相手の機体が自分より劣ると分かれば不満を持つ。
それがゼクス・マーキスという男だ。
「散々戦り合ったんだ。分かるだろ俺の事が?……そして俺も分かる。アンタの事が」
「だったら察して貰いたいな。私が引けんことも」
「……だな」
確かに、この状況で逃げる訳には行かないだろう。ならばスティングがやれることは決まった。
「今のテメエは目障りだ。俺の邪魔をする事も、そして弱いこともな!」
「随分な言い草だな!」
「だったら、少しは抵抗してみせろ!」
スティングの猛攻にゼクスは耐えようとするが、すでに機体は限界を超えている。
(……不味いな)
自分が落されてはスティングを倒せる者は居ないだろう。シンでも厳しい上に、彼はカラミティと交戦中だった。
「これで終わり…くっ!?」
「何だ!?」
最期の一撃を振るおうとした時、スティングはネオには劣るが空間認識能力とゼクスとの戦闘で研ぎ澄まされた戦士の感覚から、上空から来る敵意を感じる。
ゼクスも何かが来た事を、積み重ねた戦闘経験が……否、知っている“モノ”が来た事を感じた。

「艦長! こちらに接近する戦艦が……え!?」
メイリンは報告中に言葉に詰まった。
「どうしたの!?」
「す、すでにMSが近くに!……何で? さっきまでは居なかったのに……え? ロスト?」
「落ち着いてメイリン」
「そ、それがレーダーの反応がおかしいんです。なんか反応が鈍いと言うか」
「メイリン、戦艦の識別は!?」
アスランが口を挟む。その表情は焦りが滲んでいた。
「え? はい……え!」
「しっかり答えなさい!」
流石にタリアが一喝する。しかしメイリンのパニックは収まらず叫ぶように答える。
「ア、アークエンジェルです!」
ブリッジが動揺に揺れる。2年前浮沈艦の異名を誇り、このミネルバも設計の際に参考にした戦艦。
そして、それが何故こんな所にと疑問が湧く。
「何故?……何しに来たの?」
呆然と呟くタリアが後方から感じる怒気に振り向くと、アスランが厳しい表情で歯を喰いしばっていた。
「馬鹿が!……メイリン、例のコードを」
「え?……それって」
「出る前に教えたヤツだ。急いでくれ」
「は、はい!」
メイリンがコードを入力して発信したのと同時に、連合、ザフトの双方に対してアークエンジェルから
声が送られてきた。
『戦闘を止めてください。これ以上の戦いはなりません』
「は?」
場違いな演説にアーサーが声を上げる。
「何なんです?」
「知らないわよ!」
タリアは返事を返しながらアスランを睨む。彼が何かを知っているのは間違いなかった。
『わたくしの名はラクス・クライン。これ以上の戦いは無益です』
ブリッジに再び衝撃が奔り、一斉にアスランを見た。
「勘弁してくれ」
アスランは居心地の悪さを感じていた。

「どこからだ?」
ハイネの質問にオペレーターが、ロドニアからだと伝える。
「ロドニア……って事は」
ラクスが現れたという連絡を受け、誰が一番近いかを検討した結果、ハイネは頭を抑えた。
「よりによって……」
「なあ、ラクス・クラインって運が悪い?」
運の無さなら誰にも負けないと言われるデュオにまで同情されていた。
「どっちかて言うと強運の持ち主なんだが」
「って事は、運を使い果たしたか」
「考え方によっては一番の当たりくじだろ?」
「嫌な当たりかただな」

トロワは自分が乗る艦の艦長に進言していた。
「俺たちは現場から2番目に近い。奴等は増援を降下させてくる可能性もある」
「なるほどな。よし艦を移動させる」
「頼む。俺はヘビーアームズで待機する」
「分かった……警戒を厳重にしろ」
艦長はトロワに返事すると、すぐに警戒を呼びかけた。トロワは、その声を聞きながら、自分の読み、いや、期待通りに増援が来てくれる事を願った。
「少しでも多く撃破しておきたい。それが厄介ごとを早く終わらせる最良の手段だ」

カトルは苦笑しながら艦長に話しかけていた。
「申し訳ありません。僕が行ければ良かったのですが」
「君が謝ることでは無いさ。まあ、胃が痛むがね」
カトルは人当たりの良い性格のため、すでに艦の人間とは随分と打ち解けていた。その結果、カトルは彼等が決してラクスを嫌っていない事を知った。
「彼女が必要とされている事、分かってますよね?」
そして、地上に向かった戦友に、そっと呼びかけた。

「何なんだよ? 何故ラクス・クラインが?」
有名人が訳の分からない乱入をしてきた事に、シンは気が削がれる。しかも周りには見た事も無いMSが
飛び回っていた。
だが、彼が戦っている相手は、そんな事お構いなしだった。
「余所見してんじゃ…―なっ!」
しかし攻撃を開始したカラミティの剣が砕ける。
「アイツ等!」
マユが自分の剣を砕いたMSを睨みつける。邪魔をされたお返しはしなくてはならない。
「ノコノコと現れ、訳の分かんない事言って! 鬱陶しい!」
そして謎のMSにシュラークを放つが、あっさりと回避され、反撃の攻撃を撃ち返してきた。
「何なのよ……邪魔!」
『レイ、シン、聞こえるか!?』
「隊長?」
通信機からゼクスの声がした。しかしその声は普段のゼクスらしくない不安や怒りが滲み出ている。
『良いか、あのMSには手を出すな!』
「あのMSって……黒いヤツの事ですか?」
『そうだ』
シンは上空に待機するMSを見る。今までに無いデザイン、ザフトとも連合製とも掛け離れている。
「そ、そんな……」
上空に居る5機の内、1機にカオスが襲い掛かっていた。しかし、ほとんど回避され、時折当たってはいるが、傷1つ付いた様子が無い。
「ウソだろ……何で落ちないんだよ」
さらにカラミティが上空にジャンプし、対艦刀を一閃させるが、それも装甲に弾かれている。
そして落下しながらシュラークとスキュラを同時に放つ。
「今度は何だよ!」
流石に耐えれないだろうと思った一撃は、黒いMSの前方に展開した円盤状の物体が形成する光に弾かれていた。
そして落下するカラミティの手足を砲撃で奪っていく。
「アイツを……あんなに簡単に」
シンにとっては強敵だったカラミティが、あっさりと敗れる。
「おい! 止めろ!」
だが、カラミティのパイロットは何を考えてるのか、手足を失いながらもスキュラを放った。

「舐めるなぁ!」
マユが怒りと共に放ったスキュラは、再びプラネイトディフェンサーで弾かれてしまった。
「何で!?」
そして画面から光が消える。頭部を破壊されたと考えながら、マユは地上へ落下した衝撃を感じた。
「マユ!」
スティングがマユが落されて、声を掛ける。しかし返答が無い。
「ウソだろ?」
あの高さから落下したのだ。マユでも無事が分からない。
「クソッ! テメエら!」
スティングは突然攻撃してきた謎のMSを睨む。ゼクスを落そうとした時、右腕ごとライフルを失い、左手に持ったビームサーベルだけで戦っていたが、こちらの攻撃が一切通じないのだ。
「テメエらなんかに負けてたまるか!」
それでも攻撃の手を休める気は無かった。何時かは傷付くと信じて、サーベルを振るう。
「つぁ!」
だが、その左腕まで奪われた。なおも足を破壊しようと撃ってくるが、それをかわし、ビームクロウでの攻撃を考えているとネオから撤退命令が届いた。
「馬鹿言ってんじゃ無え!」
「馬鹿言ってるのは、どっちだ!」
「ステラとマユがやられたんだぞ!」
「お前まで失う訳にはいかん! それにだ。2人とも戦闘の続行は不可能だ。これ以上はやられる心配は無い! 上手く行けば逃げ出してくれる」
「だけどよ」
カオスの両腕が健在なら2人を抱えて行ける。しかし、今はその両腕が無いのだ。
「アイツ等が戻った時、お前まで居なくなってたら、どれだけ悲しむと思う!」
ネオの言う事は正しかった。スティングは歯を喰いしばって耐えた。
「クソッタレ!」
そして無力さを詰る。ゼクスに敗れた時は、自分の弱さを克服すれば良いと考えたが今回は違う。
向うの攻撃より、自分の方が攻撃を当ててる。だが結果はこれだ。
どうすれば良いか答えも出ないまま、戦友を見捨てて、今は逃げるしかなかった。

「メイリン、アークエンジェルとの通信を開いてくれ」
アスランはメイリンに指示を出す。まずは時間を稼がなくてはならない。
それに、少なくともミネルバのメンバーからラクスへの信奉者を出すわけにはいかない。
だからこそ、ラクスを徹底的に論破して、ラクスより自分の方が正しいと思わせなくてはならなかった。
無論考えを変えさせるには論破するのは愚策だとは知っている。それでも今は仕方がないと腹をくくる。
その結果ラクスの精神を傷付け、そして自分を恨んでも構わない。
「ハ、ハイ!」
メイリンがアークエンジェルとコンタクトを取ると、アークエンジェル側から了承が得られ、ブリッジのモニターにラクスの姿が映し出された。
「お久しぶりですわね。アスラン」
親しみを込めた笑みと声。アスランは彼女が変わってないと内心で苦笑する。
しかし、今のアスランは彼女の知っているアスランでは無かった。
「お久しぶりです。ですが改めて自己紹介をさせて頂きます」
アスランの硬質な声にラクスが眉を顰めた。
「私はプラント最高評議会により、今回の騒動により特別に設置された役職である親善大使に就く、アスラン・ザラと申します」
「アスラン?」
「そして、その権限において通達します。アークエンジェルは直ちに武装解除し、降伏するように。
 そうすれば、これまでの敵対行為、及び利敵行為については寛大な処置が下されるように、最大限の助力を惜しまぬ事、アスラン・ザラの名において約束します」
アスランの発言を聞き、ブリッジに緊張が奔る。ラクスの所持する謎のMSは圧倒的な能力を誇り、現在、ミネルバは不利な状態にあるのだ。
それなのに、こうも強気の発言をするとは信じられなかった。
「アスラン……貴方は変わってしまった」
「貴女は変わらないな」
「貴方だって……本当のアスランは、わたくしの知るアスランなのでしょう?」
「ラクス、君は勘違いをしてないか?」
「……勘違いとは?」
「君は変わらないことを正しいと思い、変わった俺を間違ってると思っているだろ?」
「貴方は権力を持ち、変わってしまった。ですが……」
「それが間違いなんだよ。いいか、人はその立場によって変わらなければならないんだ。力を得て冷たくなったと言われる人間も、それを責める人間も多い。しかし、変わらなければならない部分は確かにあるんだ。何時までも子供の戯言を言っている人間に力を持たせるほうが遥かに危険だ。
 ……今の君のようにね」
「わたくしが危険だと?」
「そうだ。そもそも君は何故そんなものに乗って、何をしたいんだ? 勘違いの復讐で世界を混乱させるな!」
「勘違いの復讐?」
「ああ、君はマリューさんとバルトフェルドさんを殺害したのは議長だと思ってるのだろ?」
キラは2人の会話を聞いていたが、アスランの変化に衝撃を受けていた。
そして、マリューとバルトフェルドの件。犯人がデュランダルでないとすれば誰が?
同じく驚いているだろうとラクスを見ると、彼女はあまり動揺した様子は無く、静かに口を開く。
「アスラン……確かにわたくしは、お2人を殺害したのはデュランダル議長の手の者と思っています。
 ですが、わたくしがここに居る理由は別のものなのです」
「では何故?」
「わたくしは貴方を……ザフトを止めたいだけなのです」
「何故だ? そんな事をしてどうする?」
「アスラン、コーディネーターがナチュラルを支配する世界……正しいと、お思いで?」
「支配?」
「お気付きになっていないのですね。貴方が為さろうとしているのは、それなのですよ」
アスランは意外な顔をして黙り込んだ。そして暫く考え込んだ後、頷いて言葉を返す。
「なるほどな。確かに思惑は兎も角、そういう形になってしまうだろうな。認めよう盲点だったと。
 そして正直以外だったよ。君がそこまで考えているとは」
キラも驚いていた。ラクスの行動は、周りのラクスを守りたい気持に押される形で、この過激な自衛手段に出たのだと思い込んでいた。キラ自身が、ラクスを守るためなら仕方が無いという気持ちが少なからずあるからだ。
だが、ラクスの考えは違った。アスランの提唱する共存の形。実際は開放する側とされる側。武器や技術を与える側と与えられる側。そこには対等とは言えない関係が築かれる可能性が高い。
「アスラン、引いてはもらえませんか? これ以上の戦いは世界を誤った方向へと進めるだけです」
「それで、俺が引いた後はどうする気だ?」
「貴方方が武器を収めてくだされば、わたくしは何もしません」
ラクスは慈愛の笑みを浮かべて優しく告げる。それに対してアスランは、冷酷な眼差しを向ける。
「……ほう、何もしない気か?」
「はい。争いさえ止めれば攻撃しないと約束いたします」
「ふざけるな!」
ミネルバのブリッジがアスランの怒号に震えた気がした。それほどの怒りをアスランが露にしたことは今まで無かった。
ガルナハンでの後始末のおりも、嫌悪は滲ませてもこれほどの怒りは無かった。
「ラクス……君は今、自分で何を言ったか自覚があるのか?」
「それではアスラン、貴方はわたくしにザフトを攻撃し続けろとでも?」
「やはり、そういう事か……自覚が無いようなので教えて差し上げますよ。ラクス・クライン殿」
「アスラン?」
「貴女は、2年前のことを再びやると言ったんだよ。戦いを止めた後は何も考えていない。
 ただ、気に入らないから攻撃する。さっき言っただろ。子供に力を与えるのは危険だと。現に今の君は力を持つ者の責任と自覚も無く、強者の余裕を見せ付けてるだけだ」
ラクスの表情に陰りが見えた。アスランは内心で安堵する。彼女は前回の行為を心の何処かで反省しているのだと。
だが、今はラクスを改心させるよりも、ラクスを貶めてでも自分を正しく見せねばならない。
「君はこう思ってるのだろ? ああ、わたくしはザフトを叩く力があり、マリューさんとバルトフェルドさんの仇であるデュランダルを倒す力を持っていながら、それをしない。何て心の優しい人間だろうと。
 本当に傲慢な女だよ……それで事が済んだら、またオーブに戻ってキラと肉欲の日々か」
「違います!……アスラン、貴方は!」
アスランは、言い過ぎたと心の中で悔いる。特に最後の一言は余計だった。
最終的にはラクスの考えを改めさせなくては、アスランの目的、ナチュラルとコーディネーターの共存は難しいと考えていた。
だが自然と出てしまっていた。これまでの経験でアスランでは平和の象徴は無理だと。アスラン・ザラの限界を思い知らされた八つ当たりをしているのだと自覚があった。
(これでは、俺も無責任の誹りを免れないよな)
ラクスのことはデュランダルに任せたといっても、自分の言ってる事はデュランダルの足は引っ張っても助けにはならない。
ラクスは悲痛な表情をしている。これでは考えを改めるどころか、頑なになるだけだった。
そこでアスランは、少しフォローしようと口調を改める。
「君はさっき言っただろ。俺のやり方では世界を間違った方向に進めるだけだと」
「アスラン?」
「だったら、その考えを訴え、俺のやり方を修正させてみろ。そんな暴力に頼った方法ではなくな。
 プラントに戻って来い」
だが、ラクスは頭をふる。その目は決意に満ちていた。アスランに言わせれば間違った方向へと。
「あなた方の過ちを止めたいのです。だから、こうして力を使わねばならない。悲しい事だとは思います。
 ですが…」
「君は力と言えば暴力しか思いつかないのか?」
「アスラン……貴方は過ちだと気付いていながら……何故?」
「だからこそ、君には戻ってもらいたい」
アスランは優しく訴える。キラにはアスランが自分たちを置いて遠くへ行ってしまった様な気がしてきた。
そのアスランと自分とを比べて何とも言えない敗北感に包まれる。
だが、ラクスはそれでも引き下がろうとはしない。頑なな態度で語りかける。
「出来ません……わたくしは世界を間違った方向に行かせたくは無いのです」
『では、貴様は正しいと言うのだな?』
アスランが言い過ぎたと考え始めた時、会話に入り込む第3者の声が入ってきた。
そしてアスランは、その声の主を知っている。
「五飛」
「え?……あれは?」
ラクスは、パラシュートを広げゆっくりと降下してくるMSを見た。
「迎撃準備! ビルゴをまわせ!」
ダゴスタが指示を出し、ビルゴがアークエンジェルを庇う位置に移動した。
それを見ながらも、五飛はなおも問いただす。
「貴様は正しいのかと聞いている!」
そして同時にパラシュートを外し、急降下を始めると一番近くにいるビルゴをビームトライデントで切り裂き、次いで左右のドラゴンハングを伸ばし2機のビルゴを一瞬で破壊してしまう。
「答えろ!」
その光景にラクス、否、ここに居るものはゼクスを除いて、全員が衝撃を受けた。
無敵と思われたビルゴが、玩具のように砕かれていったのだ。
「貴方は……いったい何者なのです? 何故、このような…」
ラクスは問わずにはいられなかった。規格外の強さと思っていたビルゴが、まるで通じない。
何故、そんなものが自分に敵対してくるのか……
「質問しているのは俺の方だ!」
だが、五飛は一喝すると、さらに次のビルゴに襲い掛かる。
「回避だ! それと残りのビルゴを出せ!」
ダコスタは突進してくるアルトロンを迎撃すべく、2機のビルゴを盾にし、回避しながらカタパルト
から、さらに5機のビルゴを発進させる。
そして最初の2機のビルゴがプラネイトディフェンサーを展開しながらビームキャノンを放ち、弾幕を形成した。
「チッ!」
五飛は当初の目的、アークエンジェルの船体の上に降り立つ事が出来なくなると悟ると舌打を打つ。
そして、ビルゴが放ったビームキャノンを避けながらドラゴンハングを伸ばし、一機のビルゴを挟むと自らの元に引き寄せる。

「まあ良い、俺から答えてやろう。俺が何者かと聞いたな?」
そのビルゴをビームキャノンの盾にしながら、ラクスの質問に答える。
「俺は貴様の敵だ」
「何故、わたくしを?」
「それは貴様が悪だからだ」
「わたくしが……悪?」
ラクスは意外な言葉に動揺を見せる。ラクス・クラインは常に正義であったはずだ。醜い争いを止め、人々に希望を与える存在だと言われてきた。
だが、アスランの言葉はラクスの自負心の鎧を砕いていた。自分に何が出来るのだろう?
「俺はモビルドールを認めない。血の通わぬ兵器に正義は無い!」
その通りだと、心の何処かで叫ぶ。わたくしだって認めていないと……だが、
「人が……死ぬのですよ?」
モビルドールなら死なないのだ。それを否定する事はラクスには出来なかった。
「人の生き死には、その者が決める事だ!」
「ですが望まぬ者を巻き込む。それが戦争なのです。貴方にはそれがお分かりにならないのですか?」
「貴様は分かると言うのか! 誰が戦いを望み、誰が望まぬかを!」
それはラクスの方こそ知りたい事だ。それさえ分かれば戦いを止められると信じている。
「貴方には分かると言うのですか?」
心の何処かで、この恐ろしい敵に縋っていた。その答えを教えてくれと。
「少なくともモビルドールよりはな」
答えになっていないとラクスは心の中で叫んだ。どうすれば良いか教えて欲しい。
しかし聞けない。周りの期待の目がラクスを押し包んでいた。
ラクスは元々どうすれば良いのかなんて分からなかった。2年前もこのままでは人類は間違った方向に進んでしまう。自分の様に戦争を続けるのはダメだと言う人間は大勢いるのに、憎しみに凝り固まった者は、決まって「殺された者の気持を考えろ」と言う。恨むのは当然だ。恨まない人間は薄情だ。
そんな聞こえもしない死者の言葉を盾に、望まない者にまで戦争を強いていたでは無いか。
それを訴えたいから2年前は皆に問いただしたのだ。解らないからこそ問うたのだ。
それなのに周りは自分に期待する。アスランだって、そうだったでは無いか。自分では考えず、ラクスに聞いてくる。期待を込めて。誰もが! 誰もが! 誰もが! 誰もが!
だから逃げ出した。キラが心配だったのは嘘では無いが、プラントに残っても何が出来ると言うのか。
だが、逃げ出した後でも、ラクスの名声だけが高まり、自分の知らない所で、アークエンジェルやエターナルを隠蔽していた。
それを責めようにも、期待の目がラクスを押し潰し、何も言えなくなる。だから礼を言う。その繰り返し。
今回の戦争も、このままザフトが勝てば、コーディネーターを受け入れたナチュラルを、仇に媚を売る裏切り者と思うナチュラルが現れるのは明らかではないか。
深窓の令嬢として、歌姫として生きてきたラクスはコミュニケーションの取り方が不得手な部分が多い。
その不自然さを回りは曲解する。都合の良い様に分かったフリをする。
そうやって、何時の間にかラクスは、悩みを誰にも打ち明けられなくなっていた。その身は神格化されて、何をやっても正しいと言われる。周りが、そう追い詰めた。その中にはアスランも居る。
唯一キラだけが、ラクスを普通の女として扱い、抱いてくれた。
「たしかに……そうだね」
しかし、ラクスが思い悩んでいる間に、唯一の味方のはずのキラが呆然と呟く。
「たしかにモビルドールには分からない。誰を討てばいいのか、どうすれば争いが終わるかなんて」
「キラ?」
ラクスが慌ててキラを見る。
「でも……僕にも分からない」
それは同じでは無いのか? キラの心に自分への不信が広がる。
誰を討つかも考えずに敵を討つ。ただ、人を殺していない事を免罪に幾多のMSを落してきた。
あれほどの嫌悪感を持つビルゴと何も変わらないのではないかと自問する。
そして、キラが葛藤している間も、五飛はビルゴを破壊し続ける。
「上昇だ! 奴に飛行能力は無い!」
ダゴスタの指揮でアークエンジェルは上昇した。そしてアルトロンの射程外へと上昇すると撤退を進言する。
「ラクス様、当面の目的は達成しました。下がりましょう」
「は、はい……お願いします」
すでにザフトと連合軍の交戦は止まっていた。だったら下がっても問題ないと引き上げを開始する。
「キラ、聞こえるか!」
その時、沈黙を保っていたアスランがラクスでは無く、キラに話しかけてくる。
「アスラン?」
「もう止めろ。これ以上は余計に世界を混乱させるだけだ。お前が…」
「通信を切ってください!」
ラクスの叫びが、会話を遮り、次いでオペレーターが通信を切ったためアスランの言葉は続かなかった。
「ラクス?」
キラが呆然とラクスを見るとラクスは怯えたようにキラを見詰めていた。
その目は、大切なものが遠くへ行くと怯える子供の目だった。
今回、ラクスはアスランによって、徹底的に傷付けられた。
「大丈夫……僕はラクスの側にいるよ」
その目を見ると、キラにはそれ以外の言葉は出なかった。

「無理か……」
ゼクスは撤退するアークエンジェルを見ながら、アルトロンをグフで抱えて追撃する事を考えたが、
間に合わないと判断する。
(残りの3機も飛行能力は無い……やはり必要か)
ゼクスの脳裏に、今は封印されている愛機の姿が蘇っていた。
「だがエピオンでは……」
心の中で、スティングと戦えなくなると呟いた。
「貴様の言う通りだよスティング。私は互角のMSで貴様と戦いたい……貴様もそうだろ?」

その戦闘を遠くから見ている者がいた。
「盟主殿……藪を突付いたら蛇ではなく龍が出てきましたよ」
ネオは自嘲気味に呟く。かつてクライン派の存在を聞き、ネオは冗談ぎみに言った言葉を思い出す。
「何なんだよ……訳がわからねえ」
スティングも、唖然としていた。チャンスがあればステラとマユを救出しようと隠れていたのだが、自体は予測範囲を遥かに超えている。
「これ以上、ここに居ては危険だ。撤退するぞ」
「待てよ!」
「アレは、どう見てもザフトの味方だろう。危険すぎる」
ネオはアルトロンを指差しながら言った。スティングも反論出来ない。
「まあ、ある意味チャンスかな?」
「は?」
「何でも無いさ……(頼むぜ、マユ)」
ネオは、そう呟くと心の中でマユに願っていた。予測不可能な彼女が、どう動くか分からない。
だが、今は最悪の状態なのだ。それも、これ以上悪くなりようが無いほどに。エクステンデッドの秘密はザフトの手に渡った。混乱を引き起こすはずのクライン派は、連合が手も足も出ない程の謎のMSを所有していた。その上、ザフトはそれ以上のMSを隠していた。もうネオには笑うしかない状況だ。
しかし、その最悪の状況に災厄の化身と言える彼女が混ざればただ事ではすまない。
どう転がるかは分からないが、行き着くところまで行ったのだ。これ以上は悪くなりようが無いと、そう考えていた。

言い過ぎたと後悔がアスランを襲っていた。覚悟はしたつもりだったが、やはり親しいものを傷つけることは辛かった。そして、オーブで最後に会った時のラクスの笑顔が思い出される。
あの時のラクスは本当に幸せだったのだろう。プラントでは婚約者の自分にも見せた事の無い満ち足りた笑顔。そのままにしておきたいと、あの時のアスランは本気で願っていた。
それが、再び彼女を必要としている。それではクライン派と同じでは無いか。否、必要以上に傷付けないだけ彼等のほうがマシと思える。そんな葛藤に苦しむ中、タリアの声が聞こえていた。
「マリク! 追撃は間に合う?」
「無理です! 今からでは……」
タリアはアークエンジェルの追撃を考えたが、間に合わないと分かるとあっさりと諦めた。
そもそも、状況が読めない。それにミネルバだけではビルゴの相手は無理だった。
「ところで、説明していただけますか?」
そう呟くとアスランの方を見る。その目は誤魔化しは許さないという強い気持が込められていた。
「そうだな。この艦の人間には知っておいた方が良いかも知れないな」
「では…」
「だが、今は待ってくれ。話が長くなるからな。その前に……五飛、聞こえるか?」
「ああ聞こえる。すまなかった。奴等を逃してしまった」
「いや、それより良く来てくれた。礼を言うよ」
「任務だ」
「それでもだよ……君はこのままミネルバへ乗艦してくれ。ジブラルタルまで送る」
「分かった。だが、その前にビルゴを回収する。手伝え」
「了解した。ゼクス」
「はい。シン、レイ、モビルドー……モビルスーツの残骸を回収するぞ」
「え?……りょ、了解」
あまりの出来事に呆然としていたシンが、我にかえる。
そしてステラの事を失念していた事に気付き、慌ててガイアに駆け寄る。
「ステラ! 聞こえるか!?」
「今は止めろ!」
だがゼクスが一喝し、言葉に詰まる。
「今、起こしたら、どのような事態になるか、頭を冷やせ!」
「は、はい……」
「どの道、放ってはおけん。敵のMSも回収する。分かったな」
「了解です!」
シンは急いで作業に取り掛かった。早くすればステラの治療が出来ると考え、例え憎まれてもステラの
顔を見たいと思い、その表情には笑みが浮かんでいた。
そうしてシン達は、ビルゴの残骸とガイア、そしてカラミティをミネルバに運び込んだ。