W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第23話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:07:58

 ザフトによるガルナハン攻略が推し進められる中、宇宙ではイザーク・ジュ
ールらアスランの同志たちが、ウルカヌスに集まっていた。
 この時期、宇宙では小競り合いこそ続いているものの、大規模な会戦は行わ
れず、ジュール隊などの部隊には出動命令がなかった。イザークとしては、モ
ビルドールをすぐにでも起動させ、アスランの計画を早々に実行させることを
望んでいたが、起動テストは難航をしている。
「技術者が何人も集まりながら、全く不甲斐ない話だ」
「無理もないさ。調べれば調べるほど、機体の未知数な部分が判ってくる。日
々、発見と驚きの連続ってな」
 当初、一ヵ月を目処に予定されていた起動実験は大きくずれ込み、長期戦の
構えを見せた。優秀なコーディネイターの頭脳を持ってしても、などと皮肉を
漏らすものも出始めた頃、イザークがとある提案を持ちかけた。
「先に有人機の起動テストを行ったらどうだ? そのデータを元に、無人機に
当たってみればいいだろう」
 らちがあかないと感じたのもあったが、機体への興味がこの発言をさせたの
だとディアッカは睨んでいる。
 ウルカヌスにある機動兵器の大半は無人機、モビルドールであったが、有人
機も三機だけ存在する。一機目は、黒い塗装を施されたカスタムリーオーであ
り、テロリストたちのリーダーであるサトーが起動テストを行っており、自由
自在とは行かないまでも、動かすことに成功していた。
 残る二機は、メリクリウス・シュイヴァン、ヴァイエイト・シュイヴァンと
いう機体で、搭乗者はまだ決まっていない。アスランがいれば、どちらか一機
は彼の機体になったかもしれないが、彼がいないこともあってか、その権利は
№2の位置にいるイザークとディアッカへ、優先的に回ってきたのだ。
 それを利用して、というのは聞こえが悪いが、イザークは堂々と未知の機体
への搭乗を希望し、これを了承させてしまった。
「強いパイロットが乗ってこそ、機体を活かせるというものだ」
 イザークは得意気に言ったが、ディアッカは対照的に不安があった。確かに
メリクリウスとヴァイエイトはとてつもない機体だ。現在判明している事実だ
けでも、その性能はザフト軍のあらゆるモビルスーツに抜きんでた力を持って
いるだろう。
(そんな機体を、俺が扱えるのか?)
 ディアッカとて、前大戦を生き抜いたパイロットであり、歴戦の勇士といっ
ても過言ではない。腕にもそれなりの自信を持っていたし、実力はザフト軍で
もトップクラスである。
 だが、そんな彼を持って知っても、臆することがある。彼はイザークほど、
楽観的に物事を考えられなかった。
「まあ、俺は動かすことが出来れば、それで良いよ」
 しかし、ディアッカは後に機体に搭乗したこと自体も後悔することになる。
そして、その瞬間は刻々と迫っていた。

        第23話「ディアッカの見た未来」

 この日、イザーク・ジュールの機嫌が見た目ほどいい物ではないことを悟っ
ていたのは、同僚にして友人のディアッカ・エルスマンと、部下であるシホ・
ハーネンフースだけであった。
 イザークは、ザフト軍でも誉れ高い戦士の一人であり、部隊長としても、艦
隊指揮官としても一級以上の実力を持っている。
「イザークと時間制限付きの模擬戦をやったら、俺なんて始終圧倒されるだろ
うな」
 このように語ったのは、今現在地球にいるアスラン・ザラであるが、この発
言はイザークの特徴を良く捉えているとディアッカが評した。よくよく考えれ
ば判ることが、アスランは一言も「負ける」とは言っておらず、逆に時間制限
などない戦場で戦った場合、勝つのは自分であると言っているのだ。
 これは、イザークの短気で激情家な部分を暗に批判したのだが、生来の性格
なだけ合って、なかなか改善はされなかった。
 だが、そんなイザークの性格を熟知しているからこそ、彼の部下であるシホ
は、今日の彼が「不機嫌と機嫌の良さを併せ持っている状態」であることに疑
問を覚えていた。彼女の隊長は、機嫌の悪いときは、とことん悪いはずなのに
……と。

 実のところイザークは、今朝までは実に機嫌のいいことこの上ない状態であ
った。というのも、今日は待ちに待ったウルカヌスでの有人機起動実験の日で
あり、彼は機体に胸を膨らませる少年の心境だった。
 彼はそんな気分のいい日の朝食を、小洒落たレストランで取ることにして、
意気揚々と出掛けたのだが……それがある種不幸の現場となってしまった。
「なっ……!」
 店に着き、注文を済ませたイザークは何気なしに店内を見渡した。朝食をレ
ストランで取るような人間はプラントであっても早々いない。店内には疎らに
しか人はいなかったが、窓際の、良く日の当たる席に、イザークは見知った顔
を見つけた。否、見つけてしまった。
「ラクス……クライン」
 そこにいたのは彼の憧れにして、最愛の人、ラクス・クラインだった。
 イザークは、彼女が本物のラクス・クラインでないことを知っているのだが、
それには少々の事情がある。元々、イザーク・ジュールはラクス・クラインの
婚約者候補の一人であり、幼少より多少なりとも付き合いがある。婚約者とし
ての立場は、アスラン・ザラに取られてしまったが、さすがに婚約者候補だっ
た男の目は誤魔化せないだろうと、秘密裏に教えられたのだ。
 話を聞いたイザークは、初めのうちは偽のラクスに対し良い感情を持ってい
なかった。要人の影武者や、替え玉の類はプラントであっても存在する。しか
し、ラクスの件は違う。デュランダル議長をはじめとした、一部政治家たちは
『本物のラクス』を欲し、作ってしまったのだ。
 イザーク自身、本物のラクスが戦争や政争に心を痛ませ(少なくともイザー
クはそう思っている)オーブへ引っ込んでしまった事実を知っているし、そん
なラクスの気持ちを踏みにじり、あまつさえその影響力を政治に利用するとは
何事か。
 だが実際に、偽のラクス、ミーア・キャンベルに出会ったとき、そんなイザ
ークの思いは100光年の彼方に吹き飛んでしまった。

 本物と何ら変わらない顔つきと歌声、人々に向ける美しい笑顔。平和を願い、
語り、歌うその姿は、分別を弁えていたはずのイザークを呆然とさせた。婚約
者候補だった自分が視ても、見まごうほど、ミーアはラクスとなりきっていた。
そしてイザークは、そんなミーアを、ラクスとして受け入れたのである。
 ディアッカに言わせれば片思いの女への未練であり、シホに言わせれば隊長
の唯一の欠点であるそうだが、イザークは気にしなかった。かつては元婚約者
候補として、今は一人のファンとして、彼女を応援してやりたい、そう思って
いた。
 そして、そのラクスが、今近くにいる。
 男と一緒に、朝食を取りながら。

「で、その男ってのは?」
 怒り任せに語るイザークの話を聞きながら、ディアッカは呆れたように聞き
返す。つまり、イザークは折角の気分のいい朝に、見たくもないものを見てし
まったから、機嫌が良いのに悪いのだ。
「いつか、彼女の楽屋に来た奴だ。いただろう、俺とラクスが会話していると
きに、ズカズカと入ってきた赤服の金髪が」
 イザークの言い分は、独自解釈によるものだったが、それを突っ込んでも始
まらないだろう。
「あぁ、確か特務隊の奴だったっけ?」
 ディアッカはいつかみた、金髪美青年のことを思い出す。類い希なる美貌と
はあのような人間のことを言うのだろう。彼も美しさを追求したコーディネイ
ターを幾人か知っていたが、あれほどまで完成された美を知らない。
「そうだ! そいつがラクスといたのだ。しかも、一緒に食事をしていたんだ
ぞ!」
「はぁ……」
「どうしてラクスがあんな奴と一緒に朝食を取っているんだ!」
「友達なんだろ? 会ったときに言ってたじゃん」
 それほど親しいのなら、あの金髪は彼女の事情を知っているのだろう。むし
ろ、彼女がラクスになる前からの友人と言うこともあり得る。
「くそっ! 朝から胸くそ悪い!」
「落ち付けって……」
「これが落ち着いていられるか!」
 まるで夫人の浮気を発見した亭主のような怒りようである。それともアイド
ルファンとはみんなこのようなものなのか。イザークがラクス・クラインに対
し、特別な感情を抱いているというのは、昔から知っていることだが、これは
少し度が過ぎてるというものだ。
「その、なんだ。そろそろ……」
「なに?」
「そろそろ、あそこへ行く時間だぞ」
「え? あ、ああ、もうそんな時間か」
 しかし、度が過ぎていると指摘したところで、彼の怒りは増すばかりだろう。
大体、ラクス・クラインもラクス・クラインだ。偽物とはいえ、プライベート
を男と一緒に過ごすとは、アイドルとしてあるまじき行為ではないか。大体、
彼女はまだ世間的にはアスラン・ザラの婚約者のはずだが……
 まあ、どちらにしろ、イザークが過剰反応している事実に変わりはない。

 ウルカヌスへと到着したイザークと、ディアッカは、早速二機の有人機を起
動するための準備に取りかかった。サトーがまとめたデータから、コクピット
の聞きに扱い方などは覚えたが、動かすのは今日が初めてである。
「ディアッカ、貴様が黒い機体に乗れ。俺は白に乗る」
 イザークは、自分の搭乗機をメリクリウスとすることを決めていた。これは
機体色である白を好んでのことだったが、砲戦機であるヴァイエイトは、それ
を得意とするディアッカに相応しいと考えたからでもある。
 ディアッカとしても、イザークの計らいは嬉しいものであり、彼も自分はヴ
ァイエイトに乗るべきだと考えていた。
「砲撃のみに特化した機体……武装は二基のビームキャノンのみか」
 シンプルな機体だ。そうディアッカは思った。ザフトにしろファントムペイ
ンにしろ、モビルスーツの強さは、如何に多く強力な武装を備えているかで決
まる。彼が以前乗っていたバスターにしろ、現在乗っているザクにしろ、そこ
かしこに武装があり、それが強さの証となっていた。徹底的に射撃に特化した
フリーダムや、接近戦重視のジャスティスも同じことだ。
 だから、ヴァイエイトのような機体、強力な武装が一つあればそれで良い、
こんな考えはディアッカには思いもよらない物だった。そうか、こういう考え
方もあるのかと感心したものだ。
「これを乗りこなせれば、俺も最強か?」
 そしてアスランの計画を実行に移し、この世から全ての戦いをなくす。いや、
そこまでは行かなくとも、今行われている戦争を止めるぐらいは出来るかもし
れない。
 戦争を止めるために武器を取る武装集団……そう考えると非情に馬鹿馬鹿し
くなるが、ディアッカはそれ以外に自分たちの存在は形容できないと思ってい
た。アスランは戦争を止めるために、武力での屈服を考えているのではないか?
 とても紳士的ではないし、それを正義と呼ぶことは出来ないだろう。
 だが、ディアッカはアスランに賭けてみようと思った。確かに自分たちのや
ろうとしていることは、褒められたものじゃない。しかし、このままナチュラ
ルとコーディネイターが延々と戦争を続け、どちらか一方が滅びるまで戦い続
けるよりはマシではないかと思うのだ。
「言い訳かな。自分の気持ちをごまかすための」
 アイツならきっと、今の俺を否定したことだろう。
 ディアッカの脳裏に、いつか見た少女の顔が過ぎる。元気だろうか? 暫く
会っていないし、連絡を取り合ってすらいない。こんな事態になって、彼女は
戦場にいるのだろうか?
「そうさ、アイツが戦場に行くことなんてない。ないはずなんだ」
 余計なお世話だ、といわれることを承知しながら、ディアッカはそう思った。

 メリクリウスと、ヴァイエイトのコクピットは、予想通り見たこともないも
のであり、計器から操縦桿まで、あらゆるものが違う。
 しかし、そこはコーディネイター。持ち前の「要領の良さ」を遺憾なく発揮
し、驚くべき速さでコクピットの仕組みを理解していった。
「まるで違うとは言いつつも、所詮モビルスーツを動かすコクピットだ。仕組
みさえ判れば動かせないはずがない」
 これで操縦桿すらないような機体ならともかく、この機体にはそれがある。
あるということは、人が動かせるように作られているのだ。
「システム起動……メインモニター……よし、表示された」
 イザークはさすがに少し緊張しながら、マニュアル通り機体を起動させてい
く。彼は自信家であり、高いプライドを常に持っている。だからこそ、失敗す
るなどと思ってはいないが、ザフトの新型機を動かすのとはわけが違う気持ち
の高ぶりに、彼は内心で歓喜していた。
 対するディアッカも、やはりモビルスーツパイロットとしての期待を隠しき
れず、遂に機体を動かすことが出来るという喜びに、自分でも信じられないぐ
らい驚いていた。
「よし、これで……」
 まずは一歩、機体を前進させる。離れた距離から、サトーら戦闘員たちと、
技術者たちが見守っている。彼らにしても、この実験が成功すればどれだけ目
標に近づけるのかと、期待が高まる一方だった。
 一歩、また一歩、メリクリウスとヴァイエイトが前進していく。
「動く、動くじゃないか」
 イザークは、身体に伝わる振動、そして感触に驚喜した。前進、また前進、
そして後退。
 試しにカメラを操作し、ディアッカの様子を映す。ディアッカも同じように、
少しずつではあるが機体を動かしている。
 何のことはない。未知の機体だろうと何だろうと、自分に動かせないものな
ど、乗れないものなどありはしない。
「これなら、この機体なら奴に――」
 言いかけて、イザークは黙った。奴、奴とは誰だ? 俺は今、誰のことを考
えていた……
 言い様のない不快感が沸き上がってくる。その理由を、イザークは判らない。
いや、判ろうとしていないだけなのかもしれないが。
 それから、イザークとディアッカは機体を動かすことに専念していた。前後
左右に機体を歩かせ、時に走らせ、腕を動かし、足を動かし、そうした細かい
動作を中心に行ってしばらくたった時、イザークが外にいる連中にこう言い出
した。
『ハッチを開けろ。宇宙に出てみる』
 いくら何でも早すぎる。技術者は口々に辞めろといい、実はディアッカも内
心賛成だったが、イザークは聞かず、
『武装のテストもする。この中でビームガンを使ってもいいというのなら、そ
うするが?』
 こう言われては了解するしかなかった。

 宇宙に出たときの感覚がまるで違った。
 今までとは何かが違う。そう、機体が軽いのだ。重力などない宇宙に出ても
感じることの出来る、明らかなる違い。
「凄い……凄すぎる!」
 イザークは機体を加速させる。勢いよく飛び出すメリクリウスは、ぐんぐん
ウルカヌスから離れていく。
「おい、イザーク!」
 慌ててディアッカもその後を追う。興奮で我を忘れているに違いない。
 機体を急加速させると、思いのほか早く追いつくことが出来た。というより、
イザークは縦横無尽に機体を飛ばし、動かし、その反応と感触を確かめている
ようだった。

「アイツ……もうあんなに」
 ディアッカは、久しぶりにイザークに対して尊敬の念を感じていた。未知の
機体に対しての恐怖など微塵も感じさせず、あのように動き回っているイザー
ク。やはり彼も、アスランと同じく優れたコーディネイターなのだ。自分など
とは違い、才能に恵まれているのだろう。
「俺も、イザークぐらいに能力が高かったらな」
 高かったら、なんなのであろうか。彼の元を去った少女が、また振り向いて
くれるとでも言うのだろうか? 馬鹿な、彼女がそんなものを望んでいないこ
とぐらい、自分が一番良く分かっていたはずだ。
「なら、何を望んでいる?」
 俺は、何を与えてやればいい。
 平和か? 自由か? この機体なら、それが出来るのか。
 本当に争いのない世界を作ることが……
『ディアッカ、おい、ディアッカ』
「ん、通信? っと、これか」
 突然、流れ込んできたイザークの声に戸惑いながらも、ディアッカは通信機
器の操作をする。イザークは、それすらも既に覚えてしまったらしい。
『ウルカヌスからある程度の距離を取った。武装のテストと行くぞ』
「あ、ああ……そうだな」
『俺が先にやる。お前のは強力だからな』
 イザークはそういうと、メリクリウスの武装をチェックする。この機体の武
装は、ビームサーベールとビームガン。ただそれだけである。
 ミサイルランチャーがあるわけでも、ビームライフル・ビームキャノンの類
があるわけでもない。武装としては少し心許ないと思うこともあるだろう。
「だが、それ以上のものをこの機体は感じさせてくれる」
 しかし、武装の数が機体の強さではない。少なくとも、メリクリウスはそう
思えるだけのものがある。
 イザークは一呼吸して気持ちの高ぶりを抑えると、メリクリウス・シュイヴ
ァンに装備された計12基のプラネイト・ディフェンサーを起動させた。
「これがメリクリウス・シュイヴァンの防御システム。プラネイト・ディフェ
ンサーか」
 マニュアルによれば、この防御システムはあらゆるビーム兵器・物理兵器を
防ぎ、機体を完全防御するという。これが本当ならば、この機体の武装数の少
なさも納得がいく。全ての攻撃を弾き飛ばし、相手粉砕して進むことの出来る
機体。それがメリクリウスなのだ。
「フフ、フ、ハハ、ハハハ」
 イザークは笑いを堪えきれなかった。ビームガンを取り出し、何もない空間
に向けて撃ってみせる。威力も色も違うビームが飛び出し、何もない闇へと消
えていく。ビームサーベルを抜き放つ。その力強さは、彼がかつて愛機とした
デュエルのサーベルなどとは、比べるまでもなかった。
「これだ、俺はこれを知りたかった。この強さ、この力、これさえあれば」
 イザークは狂喜乱舞する勢いで、機体をディアッカのヴァイエイトほうに向
けた。次はヴァイエイトの番だと思い、早く彼の機体の力をも見てみたい、そ
う思ったからであるが……
「なっ――!?」
 瞬間、イザークの脳裏にあり得ないものが映る。いきなり自分が、ディアッ
カの乗るヴァイエイトに攻撃を仕掛けたのだ。突然の攻撃に動揺するヴァイエ
イトを、これでもかと言うぐらい的確に攻めたてるメリクリウス。
 気がついたときには、イザークはヴァイエイトを完全に破壊していた。
「なぁっ! なんだ、これは……」
 意識が覚醒した、とでも言うべきか。イザークは自分の意識が、『遥未来』
に飛ばされていたような感覚を覚えた。息が荒く、汗をぐっしょりと掻いてい
る。脂汗に違いない。
『おい、どうしたイザーク』
 急に動かなくなったメリクリウスを心配して、ディアッカが通信を入れてく
る。ゆっくりと機体を近づかせようとするが、
「んっ――!?」
 ディアッカは目を疑った。ヴァイエイトの、まだ撃ったことすらないビーム
キャノンが炸裂し、イザークの乗るメリクリウスを襲った。
「そんな、俺は一体何を……」
 イザークは敵じゃない。大切な仲間だ。そう頭で思うも、すぐにかき消され
る。如何にして公立良く敵を倒すべきか、それだけが情報として刻まれていく。
「ぐっ……なんだよ、これ」
 次々に流れ込む情報。定まった正確な未来図。狂いのない計算と、確立され
た結果のみが、映像となって映し出される悪夢。
「なんだ、モニターに何か……」
 混乱する頭を振りながら、ディアッカはモニターを確認する。そこには、文
字が表示されていた。
「ZERO……ゼロシステム?」
 それは、禁断のシステム。幾人もの人間を狂わせ、破滅させ、死に追いやっ
た悪魔のシステム。
「俺は、何を、何を見せられているんだ!?」
 ディアッカは、未来を見ていた。

 二機は、しばらくピクリともせず宇宙を漂っていた。
 放心状態にある、というべきだろうか。二機に搭載されていたゼロシステム
は、二人の気力を奪い取るには十分すぎる働きをした。
 ディアッカは、自分の身体が震えていることに気付いた。ガタガタ、ガタガ
タと、身体の震えが止まらない。見た、自分は見てしまった、この機体に、見
せられてしまった。この先に起こること、自分の、自分の……
『ディアッカ……お前見たか?』
 憔悴しきったような、イザークの通信が流れ込んできた。
「見たって、何をだ……」
 そう尋ねたのは、自分が見たものが幻覚の類であって欲しいと願ったからか
もしれない。
『それは、俺の、いや、俺達の……』
 やはりイザークも見たのか。ディアッカは大きく溜息を付いた。見たという
のならごまかしてもいられない、しかしこれは――
『俺達の、勝つ未来を!』
 瞬間的に、イザークの声に気力と熱さがこもった。
「な、に?」
『俺達は勝つ! この機体が俺に見せてくれた。俺は俺達の勝つ未来だ。俺は、
自分の勝利する瞬間を見た!』
 なにを、言っている?
 ディアッカは困惑を隠せなかった。イザークは尚も、熱狂的に叫び続ける。
「俺達が、勝つ?」
 システムは、イザークに勝利の瞬間を見せたとでもいうのか。そんな馬鹿な。
そんなことがあって良いはずがない。
 何故なら、それは……
「俺は、違う」
 ディアッカの呟きを、イザークは聴いていなかった。
「俺の見た未来は、違う。そんなんじゃない」
 そんな未来を見たのなら、こうも身体が震えているわけがない。震えていた
としても、それは歓喜のふるえのはずだ。
 しかし、今、ディアッカは恐怖している。言い様のない恐怖に震えている。
「俺の見た未来は――!」
 ディアッカがゼロシステムによってみた未来。それはなにもない、先のない
未来。
 自分が死ぬ未来だった。