家族を失った悲しみ。
下らない理想で俺の家族を亡き者にしたアスハに対する怒り。
皆を守れなかった自分に対する憤り。
負の感情が俺を支配している。
俺も一緒に死んでいたら、こんなに苦しまなくてもすんだのかも知れない。多分皆で天国への階段を昇れただろう。
しかし、俺まで死んだら、誰が皆の無念を晴らせるだろうか。……誰も晴らしてくれないだろう。
力が欲しい。仇を討つ力、守りたいものを守れる、そんな力が欲しい。
マユの携帯を握り締める。俺に残された唯一の家族との絆……。
「そこの君、手伝ってくれないかしら?」
誰かの声がする。俺を呼んでいるのかも知れない。
嫌だ。今は何もする気にもなれない。出来ることなら放っておいてくれ。
「ねえ、今は人手が足りないの。手伝ってくれない?」
煩い。嫌だ。俺は何も答えず、ただ蹲っていたいんだ。
「ねえ、ちょっと!」
痛い。いきなり腕を掴まれた。何をするんだ。放っておいてくれ。
「今、負傷者の治療をしているんだけど、人手が足りないの。悪いけど手伝ってくれない?」
一人の女性が語気を荒げながら俺に話しかけてくる。怪我人がいるのだろうか?
「手伝いなんて……出来ません。俺、何をすれば良いのか解らない」
「私が指示を出すから、その通りに動いてくれれば良いわ。出来る?」
動いて入れば、少しも気も紛れるかも知れない。それに、他に人がいるのに俺に助けを求めるなんてあまり良くない状況みたいだ。
「……解りました。やります」
俺はそう答え立ち上がり、彼女の後ろについていく。
患者は、マユよりも幼い女の子だ。怪我は無いみたいだけど、顔が土気色をしている。微かに胸が上下しているのが辛うじて解る。どうやら呼吸はあるみたいだ。
「何をすれば良いんです?」
その後、俺は彼女の指示に従い、助手の真似事をした。彼女は慣れた手捌きで治療して行く。
暫くすると、女の子の顔色が少しずつ良くなって行く。助かったのだろうか?
「ありがとう。助かったわ」
俺は彼女の安堵の声を聞くと、崩れ落ちるようにへたり込んだ。体が言う事を聞かない。瞼が重い……。そんな事を考えつつ意識を手放した。
目が覚めると、彼女は俺の横に座っていた。俺は頭を振りつつ起き上がる。
「良く眠れた?」
「……それなりに」
「君のお陰で助かったわ。ありがとう」
「あの子は?」
「峠は越えたわ。コーヒー飲む?
彼女は缶コーヒーを俺に手渡す。プルタブを引くとコーヒーの香りがする。
「ねえ、ちょっと話をしない?貴方、なんだか思い詰めてるみたいね。話してみれば少しは気も晴れるわよ」
俺はサリィに話し始める。家族を失ったこと。そして、アスハに対する怒り。守る為の力を渇望していることを。
サリィは俺の話を聞くと厳しい表情になる。そして、口を開く。
「貴方、力を持てば守れると思うの?」
「ああ。俺は力があればマユを、家族を守れた」
「その力は貴方みたいな存在を作るかも知れないわよ?力は結局は傷付けるものにしかならないの」
彼女の言葉が俺の心を貫く。俺にだって力を持つ事の意味は解る。だけど……。
「でも!花が吹き飛ばされたらまた植えろっていうのか!アンタは?」
「私なら、花が吹き飛ばされないように、色々と考えるわ。ビニールハウスを作ったりとかね。」
「…………」
俺には返す言葉がなかった。彼女の言葉は恐らく正しいのだろう。しかし、今の俺には受け入れる事ができない。そう、今の俺には……。
「ねえ、まずは助ける力を手に入れたらどう?守る力は直ぐには手に入るものではないけど、助ける力なら、今の貴方でも手に入れることができるわ」
彼女は俺に向かい手を差し出す。
「アンタを手伝えって事か?」
「嫌なら構わないわよ?」
「……望むところだ。俺の力で誰かを助ける事が出来るなら……」
俺は彼女の手を握る。温かく、力強い手だ。
父さん、母さん、マユ……。見ててくれ。俺は、一人でも多くの苦しむ人を助けてみせる……!
――to be continued――