X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第28話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:56:30

第28話「男のケジメだ」

ジブラルタルを出発したミネルバがヘブンズベースに到着したときには、既に戦闘は始まっていた。
ヘブンズベースが徐々にザフト・反ロゴス同盟軍の艦隊に包囲されていく中、ロゴスを裏切り、
ヘブンズベースを脱出しようとした部隊が続出したため、ロゴス派の部隊がそれらに発砲し、
なし崩し的に戦闘が始まったからである。
そのため、ミネルバからもデスティニー、レジェンドそしてGXが急いで出撃していった。

とはいえ、戦闘が始まっても、過激派ブルーコスモスの兵を除いて、ロゴス派の連合兵の士気は低く、
GXのディバイダーの餌食となっていくウィンダムが相次いだ。

「レイ!ここいらの連中は周りにいる奴らに任せて、俺達は一気に中央を落とそう。ここで一気に決着をつければ味方の犠牲も減る」

敵機の脆さをはっきりと認識したガロードが提案をする。
レイとしては、戦力の要である自分達が一気に突っ込むことは、よくないと思える。
しかし、この後に控えているであろうキラ・ヤマト達と戦う戦力を維持するために、1人でも多くの味方を残した方がいいことは確かである。
そしてレイにとってはキラ・ヤマトを倒すことはレイ自身、クルーゼ、そしてデュランダルのために最も重要なことである。

「……わかった。俺達はこれから司令部を落とす。シン、ガロード、頼んだぞ」
「「了解!」」

その頃、出撃の準備をしていたネオの前にはジブリールが訪れていた。
隠し玉のラスヴェートを任せるネオの調子を見ておこうと思ったからである。
さすがに、前回のようにいきなり銃口を向けられては困るので数人の護衛はつけているが。
「調子はどうだい、ネオ」
「絶好調であーる!…であります!」

突然ネオが上げた大声にジブリールはビクリと驚くが、この調子であれば、と安心することもできた。

「ふふふ、驚かさないでくれネオ。今の私には君だけが頼りなんだ、幸い、今回、敵艦隊の旗艦はミネルバだ。大天使の姿はない。
 へんなジンクスのせいで負けるということはない以上、我らにまだ風が吹く可能性は十分ある」
「…アウルやスティング達はどうなったのですか?」
「お前に言われたとおり、軍とは関係ないところで生活できるように措置を取ったよ。
 疑うのなら好きに調べればいい。私が欲しいのは戦力だ。戦力が確保できれば維持に金のかかるエクステンデットに拘る理由はない。
 それよりもお前は我が軍のこれからの切り札だ。シミュレーションでデストロイ5機を1分で落とした力を見せてもらうぞ」
「わかってますよ、俺はあの艦が嫌いでしてね、一泡吹かせてやりたいと思ってたところです」
ネオの言葉を聞いて、ジブリールはご機嫌になって司令室へと戻っていった。
ジブリールの目的はあくまでコーディネーターの殲滅である。その目的が達成できるのならば手段は問わない。
しかし、彼は同時に商人でもあり、いかに自分の損失を少なくするかにも配慮をしている。
その点では、ラスヴェートから発見されたフラッシュシステムは彼にとっては理想的であった。
彼もフラッシュシステムの全てを解明しているわけではないが、既存の空間認識能力を要する兵器に関する技術と組み合わせることで
ネオのようなエースパイロット級の実力を持った機体をドラグーンMSとして使えば、
人的損失が減るばかりでなく、エースパイロット級の力を発揮するMSがドラグーンMSの数だけ増えるのである。
損失は最小限、戦果は最大限に。正に彼のポリシーにぴったりであった。

一方ネオはジブリールが約束を果たしたであろう事を知って安堵していた。
ベルリンなどの都市を壊滅させることはできたが、デストロイとステラを失ってしまったため、
約束がきちんと実現されるのかが不安だったのである。
だが、ジブリールの話を聞く限りでは約束を果たしたようであるし、嘘を言っていたときに
自分がどのような行動に出るのかがわからないほど愚かな人間だとは思えなかった。

そしてステラがフリーダムに殺されたということは彼も様々な媒体を通じて知っていたが、
彼にとって唯一の救いはそのフリーダムを倒したのが、ステラを救おうとしたインパルスのパイロット、シン・アスカであることであった。

結局、ステラを暖かい場所に返してやることはできなかったが、ステラが死亡した場面、
つまり、迫り来るフリーダムからインパルスを守ろうとして死んでいったステラには優しい心が、
人間らしい心がきっと芽生えていたのだろうと考えると、自己満足だろうことはわかっているが、救われる気がしていた。

迎撃に出てくるウィンダムとダガーLを、中央を突破しようとする3機のMSが次々と撃墜して進んでいくと、
前方の隠れ発進口から、黒い巨大な影が姿を現し始めた。しかもその数は5つだった。
ベルリンを焼き払い、いまやロゴスの象徴とも言われる、デストロイガンダムである。
とはいえ、エクステンデットが乗っているわけではない。
ネオに脅かされたジブリールが、ラスヴェートを彼に乗らせるために、
これらのデストロイをザムザ・ザーのように3人乗りの機体に改造させた上で運用されているものであった。

「デストロイじゃねえかよ!しかも5機も!」
「…シン、大丈夫か?」
「ああ、ステラみたいな子を作らないためにも今はロゴスを、ジブリールを倒すしかない。一気に倒して突破しよう」

シンにとってデストロイを見ることはやはり精神的に辛いものがある。
だが、彼はここで足を止めるわけには行かないということをわかっている。
ロゴスを倒して、そしていつか現れるであろうキラ・ヤマトを討つ、
それまでシンは前に進むしかないのだと思うようになっていた。
「シン、俺に考えがある。餌になってくれ」
「はあ?どういうことだよ!」
「なるほどな、奴の弱点はおそらくアレだけの巨体を支える足だ。シン、あれを一気に切り落としてくれ。
 ガロードは俺と一緒に、倒れたデストロイのコックピットを狙うのを手伝ってくれ」
「そういうことだ。シン、しっかりと餌役を務めろよ」
「わかったから餌って言うのはやめてくれ。なんだか無性に腹が立つ」
「気にするな、俺は気にしない。早く行け」
「ちっくしょお!わかったよ、やればいいんだろやれば!うおおお!」

デスティニーがアロンダイトを構えて赤い翼を展開させる。
そして次の瞬間、一気にデストロイの下へと潜り込み、その足を斬り落とした。
大きな地響きを上げてデストロイは倒れ込むが、中のパイロットがこれに対処しようとしたときには、
レジェンドのサーベルがコックピットを貫いていた。
さらに、返す刀で近くにいたデストロイの発射したスーパースキュラを回避して、そのまま勢いに任せて
アロンダイトを突き刺し、上昇しながらコックピットを切裂いた。

「レイ、俺達も負けてらんねえぞ!」
「わかっている!」

ガロードのGXもデスティニーに負けじとディバイダーのビームをデストロイの足元に向けて発射した。
地面にぶつかったビームの爆発はデストロイの足元の土や雪を吹き飛ばし、デストロイはバランスを崩す。
その隙にレジェントがドラグーンのビームを収束させて撃ち出してデストロイの足を撃ち抜いた。
砲撃が止まったデストロイは大きな的に過ぎず、次の瞬間にはコックピットにGXのビームマシンガンが突きつけられていた。

「へっへ~、ホールドアップって奴?」

すると、そのデストロイのコックピットが開き、すごい勢いでパイロットが脱出すると、
ガロードは操者を失ったコックピットにマシンガンを打ち込んだ。

一方のシンは、下から接近すると見せかけて急上昇し、すぐさま急降下してデストロイの頭部から機体を一刀両断して4機目のデストロイを仕留めていた。
あっという間に4機の僚機を失い焦った最後のデストロイのパイロットは、
スーパースキュラを発射してデスティニーに向けて放つが、デスティニーはビームシールドを展開してそれを防ぐ。
さらにそのままにとどまらず、スキュラをシールドで押し返しながらデストロイに向けて突っ込んで行き、

「うおおおおおおあああ!!!これで、終わりだああああああ!」

という掛け声とともに、スーパースキュラ近くのコックピットにパルマフィオキーナを打ち込み、最後のデストロイが沈黙した。

ガロード達がデストロイ部隊を壊滅させ、さらに中央奥へと斬り込んで行った頃、
ミネルバにいたティファが手にしていたペンを床に落としてしまった。彼女に未来が見えたのだ。
具体的には、ガロード達のAWの世界で彼ら苦しめてあのMSが、再びガロードを苦しめるヴィジョンが見えたのである。
そして、ティファに未来のヴィジョンが見えた頃、緑色の悪魔の起動が完了していた。
ネオはコックピットの機器のチェックを終えて、呼吸を1つ入れる。
悪魔に魂を売ることで、その悪魔は契約を履行した。残ったのは自分が悪魔となって、約束を果たす義務のみである。

「俺の人生、いつからこんなんになっちまったのかねえ…」

気付くと自嘲的な言葉が自然と口から出ていた。
本来であれば、過激派ブルーコスモスでもないネオは、コーディネーターを絶滅させようなどとは考えていない。
あくまで仕事として、仕事であるから、と割り切って戦場に立ってきた。やりたくてやっている、とは言い難い。
しかし、今はやらなければならない。軍人の仕事としてだけではない、1人の男として、約束を実現しなければならないのである。

「そうだ、これは……男のケジメだ。ネオ・ロアノーク、ラスヴェート出るぞ!」

デストロイの残骸が横たわる区域からやや離れたところにある発進口から全く同じ容姿をした緑色の3機のMSが飛び立っていった。
その機動力はウィンダムなど比較にならないほどのものであり、
機体の反応速度はまるで自らの手足を動かしているかのように速い。
追随してくるビットラスヴェートも思ったように動き、まるで自分がもう2人いるようであった。

「なんだあの機体は!連合の新型か!?」
ラスヴェートを確認した3機のグフの小隊がスレイヤーウィップを放つ。
「遅い!」
しかし、3本の鋼鉄の鞭はラスヴェートがいた所を通過するだけで空を切る。
そして延ばした鞭が戻る前に3機のグフはビームライフルに撃ちぬかれて爆発していた。
さらにグフ撃墜を見たバビやウィンダムもビームやミサイルを放つが、ラスヴェートはビームを回避し、
ミサイルを撃ち落すと、ビットラスヴェートがサーベルを引き抜いて、回避するまでもなく切り裂かれていった。

「…大したものだな、奴が切り札というだけはある。これなら一気に…」

ネオはそう呟いき、ビットラスヴェートを連れて、ザフト・反ロゴス軍の艦隊へと向かっていった。

(ガロード…早くミネルバに…急いでください、このままでは)
ガロードがデスティニー、レジェンドとともに奥へと進んでいたとき、ガロードの頭の中にティファの声が響いた。
突如として聞こえてきた声にGXが動きを止め、それを見たシンが話しかけてくる。
「ガロード、どうしたんだ?」
「いや、今ティファの声が…ミネルバに戻れって」

ティファは未来を知ることができる能力を持っている。
この能力をティファは持ってしまったせいで、ニュータイプの力を手に入れようとする者達に狙われてきた。
そのティファが急いで戻ってくるよう言ったということは何かよからぬことが起ころうとしているのであろう。
そうだとすれば、一刻も早くミネルバに戻るのがガロードには先決であった。
「ティファが?でももう少しで…」
「いや、ここは後続の部隊に任せて俺達はいったん戻ろう」
「レイ!?」

常に冷静で、合理的判断を欠かさないレイの思わぬ発言にシンは驚いた。
もちろん、レイもティファの声が聞こえてきた、という言葉だけを根拠に戻るという判断をしたわけではない。
少し前に突然、覚えのある感覚、誰かがこの戦場に現れたのだという感覚を味わったからである。
そして誰かと言えば、このような感覚を味わったことがあるのは唯1人だけであった。
アーモリーワンでカオス・アビス・ガイアを強奪した部隊を指揮していた隊長機と思しきパイロットである。

レイ自身、何故このような感覚を味わうのかはわからない。
しかし、同じような感覚を味わったことはある。

ラウ・ル・クルーゼ

レイと同じ姿を持つ者であり、彼の兄のような存在であり、もう1人のレイともいうべき存在である。
レイはクルーゼの存在を感じ取ることが僅かながらできた。
そうだとすれば、今、味わっている感覚は、自分と同じか、似たような存在がこの戦場にいることを意味している。
そして、その存在は自分達の味方ではない。自分達を攻撃してくる敵である。
ミネルバにいるデュランダルを討たんとする者をそのままにしておくわけには断じていかない。
レイは自分に残された短い時間をデュランダルが実現しようとする世界を作るために使うことを決めたのだ。
だとすれば、そのデュランダルに刃を向ける存在を討たなければならない、それがレイが認識している自分の役割であり使命であった。

「敵の主力であろうデストロイはもう我々が倒した。ミネルバに戻るぞ、いいな?」
「あ、ああわかったよ」
「よし急ごうぜ」

こうしてガロード達がミネルバに戻ろうと引き返し始めたとき、
ヘブンズベース近辺の海上に集結した艦隊は大混乱の真っ只中にあった。

出撃したラスヴェートは、手始めに周囲にいた部隊を壊滅させると、一直線にザフト・反ロゴス艦隊へと向かっていった。
そして艦隊の護衛部隊が、当初たかが3機と侮って周囲に展開していた部隊を呼び戻さなかったことが災いの元であったといえよう。
向かってくるネオのラスヴェートの迎撃に当たった護衛部隊の攻撃は悉く回避され、
ある機体はライフルで撃ちぬかれ、また別の機体はサーベルで切り裂かれ、海の藻屑となっていく。
その圧倒的な力は残った部隊を恐怖に陥れ、動きを鈍くする。そうなった機体はネオの餌食以外の何物でもない。
デストロイ全機撃墜の報告を受けて既に半分以上は勝利に浮かれていた艦隊が、目の前の事態を正確に認識したのは、
護衛部隊の壊滅の報告を受けてからであった。ほとんどの者が、起こっている事実を信じることができなかったのである。

周囲のMSをあらかた排除したことを確認したネオは、今まで互いにフォローするように動いていたビット2機を
それぞれ別の艦に向かわせ、自らも同じようにブリッジを破壊していった。
同じ頃、ミネルバには続々と味方艦の撃沈の報告が入ってきていた。
「ニーラゴンゴ他、元連合艦8隻が撃沈!残存の元連合艦隊の一部は既に戦闘不能、
 ヘブンズベースへ攻め込んだ部隊も、消耗激しく戻ってきても敵新型機の餌食になってます!」
「落ち着いて情報を、正確な情報を集めて!戦える艦は陣形の建て直しを急いで!」
「敵MS、なおも本艦に接近してきます!」
「ナイトハルトとCIWSで叩き落せ!」

アビーの声に動揺が、タリアの声に苛立ちが混ざり始める。
しかし、対照的に、デュランダルは椅子に深く腰掛け、足を組んで戦場を真っ直ぐに見つめていた。

(まだだ、まだ終わらんよ!)

彼は自分がこの場で討たれることはないと確信していた。
自分にはまだなすべきことがある、ここで死ぬわけにはいかない。
そして、自分の下に集った力は彼をきっと守るであろうと信じていたのである。

「久しぶりの再会だな、でも悪いが俺は再会を楽しむつもりはないんでここで決めさせてもらうぜ」

ミネルバの艦影を見つけたネオはビット2機を自機の下に戻す。
そして2機を連れて、引導を渡すべくブリッジを撃ち抜いた艦から飛び立ち、
ミネルバを射程圏内に入れたとき、収束されたビームが目の前に着弾した。

「何!?」

ラスヴェートはそれを回避すると3機のMSがその前に立ち塞がる。

「これ以上は好きにさせんぞ!ギルは俺が守る」
「もうすぐこの基地も落ちる!あんたを倒して、それでロゴスとの戦いは終わりだ!」
シンとレイには闘気がみなぎっていた。
現在、この先にある平和まであと一歩というところにまで辿り着いたのだ、
目の前の敵を討ち、ジブリールを討てばこの戦争は終わったも同然であり、2人が息巻くのも当然といえよう。
だが、2人とは対照的にガロードは目の前のMSの姿に緊張を隠しえなかった。
「2人とも…こいつはやべえぜ…」

ガロードの言葉にシンとレイは凍りついた。
今まで、ガロードは、最強と言われるキラ・ヤマトを前にしてもこのような弱気とも言える台詞を口にしたことはない。
2人はいつの間にか意識はせずとも、ガロードが最強のパイロットの1人であり、
このような言葉を口にするとは夢にも思っていなかったのである。
「ガロード、一体どういうことだよ?」
「こいつは俺やウィッツ、ジャミルが束になっても苦戦した機体だ、パイロット次第だが、
 俺達の世界で戦ったこいつは間違いなく、俺達を圧倒してやがった」
「『俺達の世界』?・・・ということはまさか…」
「ああ、理屈はわかんねえが俺達と同じで、あの機体もこの世界に来ちまったらしいな」
「パイロットはインド洋沖で戦った時の指揮官だろう…理屈はわからんが、俺にはあの機体のパイロットがわかる」

インド洋沖の時の指揮官、という言葉に今度はシンが反応した。
「ってことは…ネオ・ロアノークか…」
そう言うと、シンは機体のスピーカーを使ってラスヴェートに言葉を掛けた。
「あんた、ネオ・ロアノークか!?覚えているか、シンだ、シン・アスカだ!」

(やっぱりか…)
ネオはデスティニーを見て思った。そして2機のビットラスヴェートを呼び寄せて、
どれに自分が乗っているかを判明しづらくしてからシンに返答をする。

「ああ、そうだ、お前がステラを預けたネオ・ロアノークだ」
「…もう降伏してくれ、直にこの基地は落ちる。今、ここで死ぬよりも、ロゴスの連中がやってきたことを
 正式な場で発表してくれないか?少なくともステラを助けようとしてくれたあんたと戦わなくて済むなら戦いたくない」

その時、ヘブンズベースの方向で爆発が起きて、白旗が上がる。それはロゴス最後の砦が落ちたことを意味している。
そしてシン達の下にも、敵が降伏したとの知らせが入った。

「今、白旗が上がった!ネオ、降伏してくれ!」

シンの叫びを聞き、ネオは一呼吸置き、胸の内を明かした。

「…悪いな、ベルリンで言ったろ、約束しちまったんだよ、エクステンデット連中をシャバに帰す代わりにお前ら全滅させる、ってな。
 うちのボスがその約束守っちまったもんだから、俺も約束は守らなきゃなんねーんだ。
 これは他でもない、男のケジメなんだ」
「…戦うしかないのかよ…」
「ああ、そうだ。お前らが俺を倒せば、お前らとロゴスとの戦いは終わる。
 さっさとかかって来い、言っておくが俺はそう簡単にやられはしないぞ」

話し合いは決裂した。
シンは肩を落としたが、それでもエクステンデットを戦いから解放することを実現した目の前の男の決意もわからなくもなかった。
そして、感じたのである、この男はケリを着けたがっている、死に場所を探しているのだと。

「……あんたって人はぁぁぁ!」

デスティニーはライフルを手にしてラスヴェートに向かっていく。しかし、ラスヴェート3機は散開してそれを回避する。
ガロードはそのうちに1機目掛けてビームマシンガンを撃つが、
それも易々とかわされ、反撃とばかりにライフルが撃ち込まれてきた。
GXはそれをディバイダーで防ぐが、そこに横から別のラスヴェートがサーベルを引き抜いて迫ってきている。
ガロードをフォローすべくレジェンドもライフルを撃つが、それもあっさりとかわされる。

「こいつは一体何なんだ!?こっちの攻撃が当たりもしないぞ!」
「今までの相手と一緒にしねえ方がいい、奴はフリーダムなんかよりよっぽど厄介だ!」

GXはディバイダーを展開してビームを放つが、ラスヴェートにはやはり命中しない。
だが、狙いは別にある。回避行動を取ったラスヴェートを狙い打つべく、
死角からデスティニーがフラッシュエッジを投げつけ、別のラスヴェートにはレジェンドがライフルを放つ。
それらは必殺の角度とタイミング…のはずであった。
しかし、デスティニーとレジェンドの攻撃は他の攻撃と何ら変わらずに回避されてしまう。

「何だと!?」

シンが驚きの声を上げ、レイの顔にも緊張が走る。
これまでフリーダムを始めとする強敵達と戦ってきた彼らであったが、
ここまで自分たちの攻撃を読まれていたことは初めてである。
しかも読まれているどころか、当たりすらしないのでは対策すら立てられない。

そして、デスティニーが戻ってきたフラッシュエッジをキャッチした隙にラスヴェートの1機がサーベルを構えて向かってくる。

「接近戦ならあああ!」

フラッシュエッジの出力を上げてデスティニーはラスヴェートの攻撃を受け止める。
だが、上空からはもう一機のラスヴェートが襲いかかって来ていた。

「シン、上だ!」

ガロードの声に咄嗟に反応してビームシールドを展開してデスティニーは攻撃を受け止めるが、
2機のパワーを受け止めきることはできずに海へ叩き落されてしまった。

「シン!」

ガロードとしてもこれ以上好きにやらせておくわけにはいかない。
GXがビームマシンガンをラスヴェートに向けて撃つが、やはり攻撃は当たらない。
それどころか、最少限度の動きで回避され、カウンターとばかりに撃たれるビームを受け止めるのに必死であった。
3機の内の2機は無人のビットMSであることはわかっているが、
その判断が外見からでは全く出来ないのがラスヴェートの強みである。
さらに、カリスのベルティゴのビット攻撃と異なり、ビットMSは、MSであるがゆえに
ビット自体よりはるかに運動性に優れ、MSが可能な動きを取ることができるため、
動いているのが物体と言っても、ビットを撃ち落すように上手く撃ち落すことはできないのである。

他方でレイはシンがなかなか海中から上がってこないことの意味を読取っていた。
おそらく、海中からもう一度、死角からの攻撃を仕掛けるつもりなのであろう。だとすれば一機を海面近くに誘い込まなければならない。
そこでレイは、レジェンドにサーベルを持たせて、上から降り下ろす。
ラスヴェートは案の定それを後退して回避するが、それは予定通りである。
次の瞬間、ラスヴェートの背後から翼を展開したデスティニーがアロンダイトを構えて海面から飛び出して来る。
アロンダイトの刃は真っ直ぐにラスヴェートへと向かっていくが、再び仕掛けた死角からの攻撃はまたもや回避されてしまう。
しかもそれだけではなく、アロンダイトを空振りした隙に、サーベルを構えた別のラスヴェートがデスティニーにその刃を振り下ろす。
シンは咄嗟にデスティニーの上半身を横にそらして回避行動を取るが、サーベルはデスティニーの肩にあるフラッシュエッジを斬り落とした。

「シン!?」
レイの注意が斬撃を受けたデスティニーの方向へ向いてしまう。
だが、その隙をラスヴェートは見逃さず、レジェンドは右腕をビームライフルで撃ち抜かれてしまった。

「くそっ!あいつは一体何なんだよ!?」
「へっ!だから言ったじゃねえかよ、フリーダムなんかよりよっぽどやべえって」
「だが、このままではいずれこちらがやられてしまう。なんとかする手はないのか?」
「あるにはある。3機の中でパイロットが乗ってるのは1機だけだ。そのパイロットを倒せばいい。
 そいつがフラッシュシステムっていう装置で他の2機も操ってるからな、
 んで思った通りにビット2機は回避するみたいだな、死角からの攻撃がカスリもしねーのはパイロットが指示を出してるからだ」
「それで、対策はあるのか?」
「奴の動きがわかれば…」
(私が導きます)

ティファの声がガロードの頭に響いてきた。
「ティファ?大丈夫なのか?」
(はい)
「…ありがとな」
ティファが力を貸してくれると知り、ガロードはテンションが上がってきた。
かつてアベル・バウアーが搭乗するラスヴェートを撃退したときも彼女のおかげでそれがなしえたのである。
彼の中には勝利への希望が生まれていた。

そしてティファの声はレイにも聞こえてきていた。
(あなたなら、感じることができるはずです…)
「それは敵のパイロットのことか?」
(そうです)
「…やってみよう」

レイにとってもティファは不思議な少女であった。
最初は単にガロードが連れてきたガールフレンドかとも思っていたが、それだけではないことが段々とわかってきていた。
自分が持っている力とは似て非なる力、それをティファは持っているのだ、と。

「ガロード、シンのフォローは俺がやる。お前はティファの指示通りに動け」
「フォローって…お前、まさかニュータイプ?」
「さあな。だがティファに俺ならできると言われたからやるだけだ。奴の存在なら感じられる」

この言葉にガロードが反応した。敵の存在を感じ取れる、ということはレイがニュータイプである可能性がある。
まさか自分でもティファ以外で身近にそのような人間がいるとは思っていなかった。
ただ、レイが感じ取ることができるのはネオやクルーゼ、そしてキラ・ヤマトだけであったことからすると、
実際にはおそらく、彼らの世界でカテゴリーFと呼ばれたフロスト兄弟のようでもあり、
ニュータイプと言われる人間のようでもあると言えよう。

「じゃあ任せたぜ」

そう言うとガロードはビームソードを引き抜いてラスヴェートに斬りかかる。
ラスヴェートはそれを自らのサーベルで受け止め、GXの背後から別のラスヴェートが迫ってきている。
(後ろから来ます。次に上から!)

ティファの声を聞いてとっさにガロードは機体を上昇させそれを回避すると、上方めがけてビームソードを投げ付ける。
投げつけられたビームソードは上方から迫ってきていたラスヴェートの右肩を突き刺し、腕を吹き飛ばした。

他方シンはGXの背後から斬りかかっていたラスヴェート目掛けて残ったもう1つのフラッシュエッジを放つ。
それをラスヴェートは機体を上昇させて回避するが、そこにレジェンドがドラグーンのビームを撃ち込み、レイは全神経を集中させる。
自分へ殺気を向けた存在がそのビームを避けて、さらに別のものが今度は自分の下から近付いてくるのがわかった。
「シン!俺の下だ!」

シンはその言葉に従い、アロンダイトと同じく背部に備わったビーム砲をレジェンドの下に向けて放つ。
放たれたビームはレジェンドのやや下に向けて進んでいくが、レジェンドの真下を通過しようとしたときに
ビームの進む先にラスヴェートが現れ、赤い光にボディを貫かれて爆発した。
そして同時に上方に向けて放ったビームを、片腕を失ったラスヴェートは機体を上昇させて回避するが、
その先に放たれたGXのビームマシンガンの直撃を受けて爆発した。
「何だと!?ドラグーンがやられた!」
突然連携が上手くいきだした、否、自分の行動を読取り始めた3機の行動はネオを大きく脅かした。
ついさっきまでは相手の攻撃を全て回避して圧倒的に自分が押していたはずなのに
いきなりビットMSを落とされたのは完全に想定外であった。

そして、計器が鳴り響きさらなる攻撃を知らせて来た。
まず迫ってきたGXのビームマシンガンを避けるが、その先にはレジェンドのビームライフルが飛来しようとしている。
それは完全に回避不可能なタイミングであったが、自機のビームライフルでそのビームを狙い打つ。
だが、ビームがぶつかり合う衝撃で吹き飛ばされた先には、赤い翼を広げ、残像を残しながら迫り来るデスティニーの姿があった。

「あんたはもう十分戦った!だから…俺が終わりにしてやる!あんたの苦しみを!」

デスティニーが輝く掌でラスヴェートの頭部を掴み、パルマフィオキーナで頭部を吹き飛ばす。

自分に迫り来る必殺の攻撃、ネオはそれをかつて一度体験したことがあった。
その瞬間、彼は思い出した、不沈艦アークエンジェルの仲間達、そして自分が愛した女のことを。
「…マリュー、悪いが先に」
ネオが言い終わる前に、GXとレジェンドが機体の中心にサーベルを突き刺した。
そして最後のラスヴェートは動きを止めて、小さな爆発を起こしながら落下して行き、海面近くで大きく爆発した。

「…戻ろうぜ」
ガロードにとってはこの世界で初めての死闘であった。
この勝利は紛れもなく自分1人の力によるものではなく、ティファを含めて4人の力を合わせたからこそのものである。
そしてあらためて、自分たちが探してきたニュータイプの力を感じざるを得ない戦いでもあった。

「ああ」
一方、レイは、ネオことムゥ・ラ・フラガがクルーゼと持っていた因縁に決着をつけたことなど知るよしもなく
今はただ、敵を撃退できたことに安心し、この先に立ち塞がるであろうキラ・ヤマトとの戦いを考えていた。

「…ネオ・ロアノーク…人のこと言えないけど…あんたは馬鹿な奴だよ…クソっ!」

ベルリン等での大虐殺を指示したネオが最後にしたエクステンデットの戦場から解放。
彼の罪は決して許されることではないが、彼が最後にしたことを決して無駄にしてはならない。
エクステンデットのような存在がもう生み出されることがないためにも、戦いを終わらせる。
シンの頭の中にも、レイと同じく、いずれ立ち塞がるであろうキラ・ヤマト達との戦いがあったのである。