X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第30話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:56:58

第30話「みんなの見る夢が一緒ならいいのにね」

デュランダルのデスティニープラン発表を聞いたラクス・クラインは、すぐさま信奉者達で結成された艦隊に出撃の指示を出した。
現在、プラントだけでなく地球上においても大きな支持を得ているデュランダルが発表した計画であれば、世界はデスティニープランの危険性を知ることなくデュランダルの言うことを鵜呑みにして提案されたデスティニープランを導入するか、デュランダルがネオ・ジェネシスの存在を背景に、プラン導入に反対する国家に対して導入を強制すると考えたからである。

彼女にとってデスティニープランは、なりたいものになるという人が当然持つ夢を奪い去り、人は人でなくなる結果、デュランダルに世界を我が物とさせ、世界を滅ぼしていくもの以外の何物でもない。そしてデュランダルはネオ・ジェネシスの力をもって人々に家畜になることを強いることを企んでおり、今、それを止めなければ世界を滅ぼすことになってしまうのだとラクス・クラインは考えている。

その考えに迷いはなく、世界のものである自分がそれをやらなければならないのだと確信していた。
既にかつての大戦のときのように世界が滅びようとする段階に至っており、そのためならば力を使わなければならない。
自分が世界を滅ぼさぬよう守らなければならない、そのために用意を欠かさなかったのである。

そして自分が求めれば金、物、人、様々なものが集ってくる。平和を求めて戦争を止めた自分を人々は崇め、敬ってくれる。
そのような力を持ち、平和を想う自分こそが世界を守るのに相応しく、その結果として平和を作るためには武力を行使することになっても、それにより犠牲者が出ても仕方ないのである。
なぜなら自分が願うものは平和であり、平和とは自分が願うものであり、自分は世界を守るために平和を望んでいるのであるから。

「キラ、どうか無事に戻ってきてください。そして平和な世界を作りましょう」
「ありがとう、ラクス。ストライクフリーダムがあれば、僕はまた戦える。
 議長を倒せば、平和はすぐ近くにあるよ。あとはオーブをカガリの手に返してあげるだけだよ」
「ええ…でもどうしたら世界から争いがなくなるのでしょう」
「それを考えるためにまずはデュランダル議長を倒さなきゃ。そうすればきっとみんな目を覚ましてくれるよ」
「はい」

エターナルの格納庫では、出撃する前のキラをラクスが見送りに来ていた。

キラは新たな剣、ストライクフリーダムを手にして、今度こそ世界を平和にするべく、決意を新たにしている。
彼にとってはラクスそのものが全てであり、彼女のために再びMSに乗ることを決意したのである。
今、デュランダルが世界を滅ぼそうとしていて、それをラクスが止めようとしている、簡単な構図であった。
そして、戦っている中で見つけた自分達が本当に戦わなければならないものは、世界の平和を脅かす者であり、キラにとってはラクスこそが平和の象徴である。とすればラクスを脅かすものこそが自分が戦うべき敵なのである。
一方で、アスランはルナマリアを連れて格納庫に現れていた。

今、カガリは悪い魔法使い達に惑わされている、デュランダルとユウナ・ロマを討てばその魔法が解けてカガリは正気に戻る、そのためにアスランは、インフィニットジャスティス、尽きることのない無限の正義の名の下にデュランダル達を倒さなければならないと思っていたのである。
彼が造った構図は悪い魔法使いであるデュランダル、ユウナ、ガロードにカガリは惑わされ、シンは操られているというものである。
そしてアスランがカガリを正気に戻すために力を貸してくれるのが、親友のキラなのである。
つまり、求めるものはカガリであり、信ずべきはキラ・ヤマトなのである。

彼にとって幸いであったのが、リハビリとインフィニットジャスティスの慣らし、
クライン派がどこからか調達してきたガイアのパイロット、その他諸々のために、連れて来たルナマリアが思いのほか役に立ったことである。
アスランは、ルナマリアについてアークエンジェルにいた時には戦力にほとんどならないと感じていたが、MA形態となることで接近戦にも使えるガイアには適性があったことは意外だった。

他方のルナマリアは状況に流されていた、といえば間違いではないが、
アスランの役に立てていることだけで彼女には十分、というよりはむしろやる気に溢れていた。
カガリから、アスランを頼むと言われたことは、ことが落ち着けばカガリがアスランの下に戻ることはないし、ラクス・クラインがプラントを手にすれば家族と再び顔をあわせることが出来る上に、アスランの役にも立てる、今ある状況が、彼女には物事が何もかも上手く行っていると思えてならなかったのである。

そしてカガリはオノゴロ島で結ばれた停戦条約に喜んだものの、突然聞かされたデスティニープラン、そしてそれを打ち倒すべくプラントに牙を剥いたかつての仲間達を見て、今、自分は完全に世界から取り残された人間なのだと肩を落としていた。

ストライクフリーダム、インフィニットジャスティスが出撃し、ガイア、ドム3機が続く。
そしてエターナルからフリーダム、ジャスティスがミーテリアとドッキング作業を完了した。

「アスラン、みんなの見る夢が一緒ならいいのにね」
「ああ、でもきっとみんな一緒なんだ、だが、それを妨げる者がいるのも確かだ」
「そうだね…あと少しなんだ、平和な世界まで…」

そう2人はそう言って、意思を確認しあう。
だが、2人の想いには微妙なズレがある。
キラが求めるものはラクスが望む平和な世界であり、アスランが求めるのはカガリとの未来なのだ。
もっとも、アスランは無意識に、正しいか否か、惑わされているか否かの基準をキラ達を中心にして考えているため、この点では2人の想いには大きく重なり合うところがあるといえよう。

そしてストライクフリーダム、インフィニットジャスティスが多数のMSを連れて、
デュランダルがいるメサイアを防衛するザフトの部隊と交戦を開始した。
プラント本国にある部隊や地上軍の数を合わせればデュランダルが持つ戦力の方が遥かに上である。
しかし、本国付近でもクライン派が同様の行動に移っており、
本国付近の部隊がメサイアまで増援としてやってくるまでには、相当の時間を要する状態になっていた。
そしてデュランダルにとって不幸であったのが、自分が比較的自由に動かせる部隊をヘブンズベース攻略戦に回し、その多くが決死のネオが命をかけて駆ったラスヴェートにより極めて大きな損害を被ったということである。
結果として、デュランダルは使える駒の多くを失い、メサイア防衛に回せる戦力の量は、
ラクス軍の率いている部隊とさほど変わらないものになってしまっていた。

その頃、デュランダルのもっとも当てにしているミネルバは、
ちょうどザフトとラクス軍との戦いの中心宙域の横っ腹を衝く形で戦場に突入しようとしていた。
そして、ミネルバから3機のMSが出撃していく。

「シン、戦場にはフリーダムとジャスティスの新型の存在が確認されている。決着をつけるぞ、全てに」
「ああ、わかってる、奴らを、キラ・ヤマトを倒さないといつまでも自分の都合を押し付けられて傷付く人達はいなくならない…」
「お前ら死ぬんじゃねーぞ、勝って祝勝会やるんだからな」
「そうだな。それにまだミネルバの食堂の新メニューを制覇していない」
「俺はおごらないぞ、レイ」
「老い先短い人間に冷たいぞシン、老人は大切にしろ」

3人は軽口を叩きながら、その心の中では必死に決戦前のプレッシャーに打ち勝とうとしていた。
レイにとっては、デュランダルの夢を叶えるための最後の戦いであり、呪われた生まれを持つ自分と、ラウ・ル・クルーゼ、そしてキラ・ヤマトと決着をつけるための戦いである。
シンにとっては、家族を殺して自分を戦場に引き込み、ステラを殺し、なおも自分の都合を力で押し付けようとするキラ・ヤマトと決着をつけるための戦いであり、ガロードにとってはこの世界で起こる戦いを終わらせ、おそらくエターナルにいるであろうカガリを救出するための絶好の機会であった。
だが、彼らが心の準備を整える時間が経過するより先に、その目の前に、突如として宿敵が現れることになる。

「バレル小隊!フリーダム、ジャスティスが急速接近!急いで迎撃しろ!」

アーサーから突然の宿敵襲撃の知らせが入った。

「キラ!ミネルバは厄介だ!動きを止めるぞ!」
「わかった!」

デスティニー、レジェンドと交戦したことがあるアスラン、GXと戦ったことがあるキラ、
2人の共通認識は、その3機が乗るミネルバを止めて、敵の主力の動きを乱すことが最も重要である、ということであった。

おびただしい数のミサイルがストライクフリーダムのミーティアから放たれて、ミネルバに降り注ぐ。

「撃ち落せ!」
「わかってる!」
「数が多いぞちくしょう!」

レジェンドがドラグーンを展開し、各砲門からビームを、GXがディバイダーのビームを、
デスティニーが高エネルギービーム砲を放ってミサイルを撃ち落すが、それはアスランの思った通りであった。
その隙にインフィニットジャスティスは、3機を抜き去ってミーティアを切り離し、
背部大型飛行ユニット、ファトゥム-01を放って、ミネルバ後部のスラスターを撃ち抜いた。

ミネルバは大きな爆発を起こして動きを止める。だが、船体には未だに小さい爆発が連鎖して起こっていた。
そしてその隙にインフィニットジャスティスはファトゥムを回収して、ストライクフリーダム、自機のミーティアとともに再びメサイアの方へ向けて飛び去っていった。
「ティファあああ!」

ガロードの叫び声が戦場に響く。

(私は大丈夫です…でも…)

「ティファ?無事なのか…よかった」
「…だがミネルバが…あの動き、そしてジャスティス…やはり生きていたかアスラン・ザラ」
「くそ!あいつら…!ゾンビかよ!」

ファトゥムにスラスターを完全に破壊されてミネルバはほとんど動けなくなってしまっていた。
戦場でこの有様では敵のいい的になってしまう。そしてミネルバに搭載されているMSは3機のみであり、艦を守るためには誰かが残らなければならないことは明白であった。
強力なパイロットを瞬時に倒すことは難しいが、動きを止める手段ならいくつもある。
陽電子砲を持つ強力な戦艦であるミネルバを止め、3機のうちの1機をそこに留め置くというアスラン達の作戦は大成功に終わってしまったといえよう。

「アスランの野郎!ふざけたことしやがって!」
「…ガロード、お前はここに残れ」

ティファを傷付けられそうになり頭に血が上りきったガロードにレイが言い放つ。

「今のお前では冷静な判断ができん。それでは敵の思う壺だ。今日の奴等は一味違う」
「うっせえ!このままやられっぱなしで黙っていられるかよ!?」
「いや、お前はここに残って、ミネルバとティファを守ってやれ。失くしちまったら取り返せないものってあるだろ?」
「失くしたらってシン、お前…」

家族だけでなく、ステラを失った、守ると約束した相手を守りきれなかったシンの言葉は
ガロードの怒れる心に冷水を浴びせるものであった。
シンはステラの亡き骸に触れることも、別れの言葉も言うことができなかったのである。
その辛さは、シンが必死にステラを救おうとした姿を見てきたガロードにもよくわかるものであった。

「…頼めるか?」
「ああ、俺達が戻ってくる所を残しておいてくれよ」
「食堂もな」

ガロードにミネルバを託し、デスティニー、レジェンドはストライクフリーダム、インフィニットジャスティスを追ってメサイアへと向かっていった。
各々の決着をつけるために。