X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第20話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:07:50

機動新世紀ガンダムXSEED    第二十話「あんたはそれで良いのかよ ? 」

自分達が数少ない人員でアークエンジェルを、そしてブリッジをこれからアラスカまで何とかしなければならない事は分かっていた。
正規クルーの他に先遣隊からの人材が派遣されて来たとはいえ、各所に回す者の数は決まっていたからだ。
とはいえ戦闘が始まってからというもの、非常に苦しい状態が続いていた。
そんな中、ここまでブリッジを支えてくれたヘリオポリスの学生達が戻ってきた事は素直に驚いた。
と、同時に彼らの人生に何か暗い影を落としてしまうのではないかと心配もしてしまう。
彼らなりの判断だったとは思っているのだが。
そしてブリッジは尚も緊迫した状態が続いている。
敵は先の追撃で失った兵が多いのかヘリオポリスの時から度々交戦した高速艦と、ローラシア級戦艦が一隻、ジンが三機にXナンバー三機だ。
だからと言って油断して言い訳ではない。
現に戦力差が大きく開いていたにも拘らず、メビウスは相手に有効な一撃を殆ど与えられないまま撃墜され続けている。
これだけの艦隊に守られているのも関わらず、尽きる事の無い不安感が全員を襲う。
先程メネラオスと通信を繋いで、ハルバートンから艦隊を離脱し、直ちに降下シークエンスを開始する許可を貰う事は出来た。
このまま自分達がここに居続けたら、艦隊は全滅とまでは行かなくともかなりの損失を抱えたまま、月の基地に戻る事になる。
アラスカは無理でも地球軍制空圏内に入ればその時点でこちらの勝ちだ。
ザフト艦の狙いがあくまでもこのアークエンジェルなのだとしたら、それ以上自軍を疲弊させても利とする物は限りなく小さい。
いかにフェイズシフト装甲を持っているXナンバーの三機があると言ってみた所で、実弾兵器の集中砲火を浴びれば、システムが追いつかなくなりやがてダウンしてしまう。
それ以上の無茶は何の役にもたたない。
「―修正軌道、降角六・一、シータプラス三 ! 」
「降下開始 ! 機関四十パーセント、微速前進、四秒後に姿勢制御。」
「降下シークエンス、フェイズワン、大気圏突入限界点まで十分 ! 」
地球降下の準備は着々と進んでいる。
願わくばゼロやストライク等を出さずに上手くいけば良いと思っていた。
しかし、それとはまた別種の問題が格納庫から連絡で入ってきた。

キラはストライクのコクピットで発進許可が下りるのを今か遅しと待っている。
それにしても、と先程の格納庫での一悶着が思い起こされる。

姿を現したフレイは彼女を見つけたガロードとマードックに早速見咎められた。
「あんたよお ! ここには来ないでくれって ! MSの事は何度も話したろ ?! 」
「ガロードの言うとおりさ、嬢ちゃん !! 居住区へ戻ってな !! 今は非常時なんだぞ ! 」
が、そういった言葉を無視して彼女はイージスのあるハンガーまで行き、整備班や作業班を思いっきり押し退けてコクピットに滑り込んだ。
そこまでは良かったが、コクピットに滑り込んでもハッチを閉め、電源を入れる事が出来ないので、あっという間にスタッフによって引き摺り出される。
両四肢を格納庫の床についた彼女は絞り出す様な声で嗚咽を漏らす。
そこへガロードが歩み寄ってきた。
フレイはもう一人の者と一緒に自分に散々意見してきた彼を恨めしそうに見つめる。
次の瞬間、血相を変えたガロードは相手が女という事も忘れて胸と首の間を思いっきり両手で掴んで底冷えする様な声で言う。
「何で分かってくれねえんだよ……死んだら何も出来ねえんだぞ……みんなを護ろうとしてる事も ! 何もかんも ! キラだってあんたを守りたいからストライクに乗ってんじゃねえか !
キラだってそりゃ無理だろって思う事はするけどよ、無茶苦茶な事はやらねえよ !! そんな思いをこうも簡単にチャラにする様な事して……あんたはそれで良いのかよ ?
こんな事してキラが喜ぶとでも思ったのかよ ?! 戦場に一回も出た事のない自分が敵機を一機でも撃ち落せるって……あんたはホントにそう思ってるのかよ ?!! 」
その言葉には半端では無い真剣さが込められている。
ガロード達が生きるあの戦後世界……しかもMSと付き合う人生は、それだけで死と隣り合わせであるという意味合いを持っていた。
加えて、GXに乗りティファを守る事でその考えは一層ガロードの身に染みていく事となった。
「自分ひとりでこの船守ってるつもりでいるんじゃねえぞ !! 」
だからこそ余計に許せない。
無茶をやって我を通せば、なんでもさせてもらえる、なんでも出来るというフレイの考えが。
その言い様に相当ショックを受けた彼女はガロードを無言で突き飛ばし、格納庫から出て行った。

「ふぃ~っ !! やっと出てってくれたかぁ ! それにしてもすげぇ啖呵の切りようだったなあ、坊主 !! 聞いてるこっちがスカッとしたぜ。」
ガロードは背中をコンッと小突かれる。
それにガロードは小さな笑みで「なんて事はねえよ」とばかりに返したが、ティファの所に戻る頃には表情は結構暗くなっていた。
「俺の言い方……良かったのかな ? 」
自信の無さそうなその言葉に、ティファは笑顔で答える。
「これで良いと思います……ジャミルも恐らく同じ事を言っていたと思います。それにあの人があの機体で出ていたら未来は……きっと変わっていたでしょう。」
「悪い方にか ? 」
その質問に彼女は悲しげな顔でこっくりと頷く。
だが、ガロードは直ぐにそんな事はティファが力を使わずとも明らかだったと考える。
やはりあそこで止めておいて良かったと改めて思えてきた。
それにしてもと、ガロードはティファが発したある言葉に気を取られた。
ジャミル……それはかつて元の世界でガロード達と共に旅した仲間であり頼れるリーダーでもあった男の名。
そしてとてつもなく重い過去を背負った為に、ティファの様な存在の庇護に心を砕いた存在。
彼もこの世界に来ているのだろうか。
居るのだとしたら一体何処に…… ?
そうぼんやりと思っていると、突然チャンドラの声が艦内に響き渡る。
「デュエル、バスター先陣隊列を突破 ! 」
「メネラオスが交戦中 ! 」
被さる様にトノムラの声も聞こえて来た。
降下シークエンスの真最中とはいえ、ここで取り付かれて攻撃を受けるわけには行かない。
「おいキラ、兄ちゃん !! 何処までやれるか分からねえけど、連中を追っ払おうぜ !! 」
『うん !! 』
『俺もそう思ってたよ、坊主 !! 』
その声が聞こえたのを確認したガロードはブリッジに通信を入れる。
「艦長さん ! 聞こえてるか ?! ヤバくなるまで俺達を出させてくれよ !! どれ位ある ? 」
『何を馬鹿な…… !! 』
その時、通信にキラが割って入る。
『カタログ・スペックではストライクは単体でも降下可能です。』

『キラ君…… ?!! 』
予想していなかった声にマリューが息を飲む。
CICのミリアリアも『キラ ?!! 』と叫んで彼が映っているモニターを食い入る様に見つめる。
まるで自分は質の悪い夢でも見たかのように。
『キラ君……どうしてあなた……そこにっ ?! 』
マリューの声は心配しているのに叱っている様な調子になってしまう。
そんな声に構わない様にキラは大きな声を出す。
『このままじゃメネラオスも危ないですよ !! 出させてください !! 』
マリューは苦い顔をしていたが、ナタルがそれを打ち消すように冷徹な口調で答える。
『わかった。但し、フェイズスリーまでに戻れ ! スペック上は可能でもやった人間はいない。中がどうなるかはこちらでもわからん !! 高度とタイムは常に注意しろ !! 』
『はいっ ! 』
キラが通信を切るのと、ガロードが再びブリッジに通信を入れるのは殆ど同時だった。
「あー、それとよ、艦長さん。イージスの盾を貸してくれねえか ? 」
『何ですって !? 』
「何ですって、じゃねえよ。相手は実弾の効かねえXナンバーだぜ !
アンチビームシールドはフェイズシフトが働いてねえと効かねえとまともに動かねえけど、あれがねえとこっちは丸腰だし、上手くかわしてねえと下手したら喰らいっ放しになっちまうんだよ !!
それに、もしこのまま大気圏に落っこちる事になったらどうも出来ねえぜ !! 」
ガロードのその示唆は間違っているとは言えない。
ストライクにはシールドもあるし、大気圏突入はスペック上可能だが、ジンに関してはビーム砲が一発でも来たら耐久力は格段に下がるし、大気圏突入に関しては未知数だ。
『……分かった。但し詳細はもう一人の彼に言ったのが聞こえていたのなら、ほぼ同じだと思ってくれて良い。』
「オッケー ! それじゃあ、有り難く借りてくぜ ! 」
それきり通信は切られ、スタッフ達はジン改の手にシールドを大急ぎで取り付ける。
それからほぼ二分。カタパルトハッチが開くと、視界に青い地球が広がった。
通信機からいつもより険しいムウの声が聞こえてくる。
『こんな状況で出るなんて俺だって初めてだぜ。』
キラがレバーをきつく握り締め、全員に先駆けて発進した。
『キラ・ヤマト、行きます !! 』

外ではXナンバーの三機は新たな獲物を求めて艦隊の方に突っ込んでいた。
自分達より明らかに数が多かったメビウスは、ジンに悉く撃墜されていった。
それでも数の差による影響は大きかったようで、そのジンも三機全てを撃破されている。
撃破し切れなかったメビウスに関しては、デュエルが艦の護衛につく事になって処理する事となった。
ブリッツは近距離から、バスターは中・遠距離からブリッツの支援につくポジションを取り攻撃を開始する。
『ジンの奴らが開いた活路を無駄にするな !! 足つきを墜とすぞォ ! 』
ディアッカには通信を入れてきたイザークが殊更張り切っている様に見える。
彼曰く、アスランを殺され、後の追撃で自分がデュエルに乗っていたにも拘らず、あそこまでの損傷を負わされたのが気に喰わないらしい。
また艦隊を討ちに行くにしては異様に少ない人員しか当局から回されなかったと言っても、それだけXナンバーに乗っている自分達に目をかけられている証拠だと言って譲らなかった。
恐らく彼自身精一杯の意地を張ったつもりなのだろう。
見限られたと言う感情は出て来なかったが、それだけ回す人員がいないというのは事実だったからだ。
それにアスランの生死はまだ確認し切れていない。
確かにイージスは敵に鹵獲されたが、その時点で彼が死んでいたかどうかは分からない。
希望はディアッカにしたって少しは持っていたい方だった。
そんな時、アークエンジェルからストライク、ゼロ、そしてジン改が出て来る。
『来たぞ ! 作戦通りあの改造ジンに攻撃を集中する !! 』
「りょーかいっ !! 」
デュエルはビームサーベルを出し、改造ジンの方に向かう。
打ち込まれた一閃をジンはシールドで受けた後、思いっきり押し返した。
後ろに退きながらデュエルはビームライフルを連射するが、それはすんでの所で最小限の動きで回避される。
逆に距離を一気に詰め寄られ、ライフルを払いのける。
その様子を見ていたディアッカはジンがデュエルと間を空けるかのように移動した時にバスターの高エネルギー収束火線ライフルを使ってジンを狙い撃った。
その時、ジンは驚異的な行動を取る。
バーニアが一気に吹かされたと思いきや、ジンはデュエルの後方に急速に回り込み、デュエルを蹴り飛ばす。
その蹴り飛ばされた先には……バスターの放ったライフルの火線があった。
いかにアサルトシュラウドを装着していたとはいえ、デュエルはその苛烈な光に機体を焼かれる。
この時ディアッカはデュエルの損傷に気をつけながら、何故隊長やニコルがあそこまで改造ジンを目の敵にしているのか分かった気がした。
何故このライフルをこのタイミングで撃つと分かったのか。そして放った射線軸が分かったのか。
ニコルは言っていた。
―あの改造ジンには人の力を超えた何かを持ったパイロットが乗ってるかもしれないんですよ。
「本当に乗っているって言うのかよ…… ? 」

呆然とする彼の元にイザークから叫ぶような通信が入る。
『ディアッカ、貴様ァッ !!! 目は節穴か ?!! 何処に目をつけて撃っているッ ?!! 』
「俺は……お前の前に居たジンを撃つつもりだったんだよ !! 」
しかし口喧嘩の様な音声は互いに途切れる。
デュエルはまたも急激に近づいたジンに手元を重粒子砲で撃ち抜かれる。
バスターはストライクからビームライフルをまともに背面から受けた。
油断も隙もねえってか ?!!
ディアッカは内心で毒づきながらストライクを撃とうとした。
その時、元々位置としては突出していたガモフが戦列の内側へと入り込んだ。
まさか、と嫌な予感がイザーク、ディアッカ、ニコルの間に走る。
敵の主力艦と刺し違えるつもりなのでは、と。
しかし、ガモフの捨て身の計画は遂行できなかった。
その時残っていた連合軍の戦艦や駆逐艦に集中砲火を浴びせられてしまったのと、そちらに向かっていたゼロがガンバレルを展開して全弾撃ちこんだせいで、あと少しというところで撃破されてしまう。
元々少ない戦力で敵艦隊の討伐に出たので多少の損害はやむを得なかったが、この展開は驚かされるものだった。
「ゼルマン艦長ーッ !! 」
必死に応戦するイザーク達にニコルの悲痛な叫びがスピーカーから聞こえて来る。
だが、悲しんでいる間は無い。今はこいつを討たなければ……
その時ゼロが急に足つきに向けて転進しだした。
その理由がディアッカには目の前のモニターが映し出している物が何なのかで分かった。
彼らは地球に近づきすぎていたのだ……

艦橋にはただ重力に引かれて落ちるストライクとジン改、少し距離が離れた所にデュエルとバスターの姿があった。
数分前、フェイズスリーに移行する前にゼロの回収は終わった。
無事が確認されたメネラオスからも地球への避難シャトルがザフト艦への通達つきで降下された。
だが、ストライクとジン改は予定の時間を過ぎてもいつまでも戻ってこない。
艦橋では彼の友人達が彼の名前を悲鳴に近い声で連呼していた。
「あのまま降りる気か ? 」
ナタルが戸惑いながら言う。二機もこんな時に収容するなぞ不可能だ。
その時、射撃指揮のロメロ・パルが大声を上げる。
「本艦とストライク、並びにジンの突入角に差異 ! このままでは降下地点が大きくずれます ! 」
「キラ ! ガロード ! お願い !! 艦に戻って !! 」
「無理だ。あの二機のどちらの推力でも、もう……」
ナタルはこれ以上何も出来ない事に歯噛みしながらミリアリアに言う。
少し間のあった後、マリューが一つの指示を出した。
「艦を寄せて ! アークエンジェルのスラスターならまだ使える !! 」
「しかし、それでは降下地点が ! 」
「ストライクを見失って、本艦だけアラスカに降りても意味が無い ! 速く !!! 」
操舵をしていたノイマンの意見はぴしゃりと封じられた。
そしてゆっくりとアークエンジェルがスラスターを使ってストライクに近づく。
ジン改の方はイージスのシールドを蓑代わりに、そのまま行くようだが危なっかしいと言えばその通りだ。
ましてフェイズシフトが働いてないシールドが何処までこの突入に耐えられるか……
「降下予定地点を算出して ! 」
「待って下さい ! 今……」
パルが慌てて計算を始める。
「本艦降下地点は……アフリカ北部です !! 北緯35度5分、西経5度5分 !! 」
どこかしら上ずったようなその声の理由は次の瞬間、ブリッジに戦慄を走らせた事ではっきりした。
「ザフト軍、ジブラルタル基地の真正面ですッ !!! 」