X-seed_Exceed4000 ◆mGmRyCfjPw氏_第33話

Last-modified: 2008-01-21 (月) 22:01:07

機動新世紀ガンダムXSEED 第三十三話「さあ、戦争しに行くぞ ! 」

 

ハンガーにいたガロードはブリッツの整備をしながら周りの様子を見ていた。
あの苛烈な戦闘に於いてアークエンジェルが負ったダメージの量は生半可な物ではなく、
戦闘から丸一日が経とうとしている今、時間にして早朝と言うにも等しいこの時間にも拘らず、整備班や作業スタッフが忙しそうにあちこちを行き来している様がそれを雄弁に物語っている。
ただ地球降下前に第八艦隊より受けた弾薬や燃料といった物資は、今回受けた損害に比べると圧倒的に足りないので修理できる箇所もその度合いも限られてはいたし、
人員に関しても補充されても大型戦艦という枠で捉えれば少ないクルーなので、全員を交替性の24時間フル稼働にしていなければとても人手不足の面は解消されない。
また船殻の歪みデータはブリッジメンバーの話によると許容範囲であったそうだが、機関部の損傷部はそれなりに酷いらしく、今のところ全速力でも毎時200km~250kmが精一杯だという。
ふと少し離れたベルティゴの方を見るとカリスもコクピットに入り込んでガロードと同じく機体の整備に精を出していた。
今現在、艦の片隅に急ごしらえで作られた倉庫にあるダブルエックス同様、時空間を超えてこの世界にやって来たベルティゴも、この世界のMSとは明らかに様々な面に於いて差異を持っている。
おまけに未だに現役で稼動する事が出来る代物なのだ。
その件についてカリスは、ベルティゴとダブルエックスの存在を艦内における最重要機密事項にする事を進言し、
それと同時に機体の動力源、構成している材質、OS等についてデータを取りたいと言うなら敵に回ってでも死守すると断言した。
ナタルが、ザフト側にほんの少しでも情報を渡したのでは ? と半ば空気が読めていないような鎌をかけた時も、
自分の機体の事を周囲に明かす前にこの世界のMSを独力で研究した結果、オーバーテクノロジーの塊であり、情報が漏れればこの世界を激変させてしまうほどの代物でもあるそれは、
自分自身で守り通さねばならないと決意したので何も渡してはいないと返答した。
カリスらしい思案、そして行動だとガロードはつくづく思う。
すると、下からお馴染みになった声がかかった。
「坊主 !! ちいと降りてきてくれねえか ? 」
この忙しい中に整備のメインを任されている彼がわざわざ自分のところまで出向くという事は何がしか相談したい事でもあるのだろうと思い、早速降りて彼の元へ行く。
「どうしたんだよ、マードックのおっさん ? 」
「おめぇ、この機体の性能とか装備とか……正直どう思う ? 」
「へっ ? 」
ガロードが少しばかり間の抜けた返事をすると、マードックはニヤッと笑って彼の方を向く。
つまり実戦で使ってみてその使い心地はどうだったかと訊いているのだ。
それに気づいたガロードは臆す事無く興味深げに事実を述べる。
マードックが声を張り上げてガロードに呼びかけていた。
「前に使ってたジンよっかは良いんじゃねえかな。接近戦や白兵戦も強そうだし。
あの隠れる機能使ってさ、相手の陣地でいきなり『バァッ !! 』って感じで飛び出して動きを撹乱するのも悪くはないと思うよ。けど、右腕の武装が色々とネックになってるじゃん ? 」
「右腕の武装 ? 」
「そ。この機体右腕に色々集まっちゃってるんだよねぇ。レーザーライフルとか槍とかビームサーベルとかさ、右腕切り落とされたら二度と使えねえぜ ?
おまけにMS自体の大きさと比べて結構でけえから使い回しが悪そうだし。それぞれの武装もまだ考える事はありそうだぜ ?
普通なら槍は三本撃ったらお終い。もう一回使うにしても飛ばされた方向までいちいち拾いに行かなきゃなんねえし。
ビームサーベルは盾と一緒になってるのがなあ……小回りが利き難いし持ち手を替えるって事も出来ねえ。
レーザーライフルは威力がビームライフルよりかちょっと下ってさっきキラに聞いたよ。それにレーザー自体も広がりやすいモンだし、味方に当たったりでもしたらしゃれにならねえしな。
後は左腕のこの鉤爪みたいなヤツだけど、こいつは爪を閉じたまんま相手の装甲をぶち抜いたり、逆に開いて相手に取り付いたりとか出来るからまあ使えるとは思うぜ。
これで爪の根元からビームでも出せたら拍手送ってやりてえな。あとは何か持たせても良いと思う。
ほら、朝方の戦いで俺が咄嗟に相手の機銃を奪って撃ったみたいにさ。
ついでに言うと……頭の所にストライクとかに付いてるバルカンが付いてないのが相手を牽制したりするには一寸だけだけど弱い所かな ? 」
すらすらと出てきた意見を聞いていたマードックは目が覚めるような驚きをもってガロードを見つめる。
「お前さん、これで出撃したのたった一回なのによくそこまで見当、というか問題点と改善策が思いつくもんだなあ。まあ、指摘した幾つかの点は俺も少し考えていた事だが。」
するとガロードはまあねといった感じで鼻の下を軽く擦り答える。
「機械弄りの事と武装とかの事はおっさんみたいなメカニックのプロにかなり仕込まれたからね。今みたいな質問にある程度は答えられてなきゃあそいつが泣いちまうよ。」
そう言ったガロードにはある一つの疑問が去来していた。
自分にその機械弄りや武装に関してかなり深い事を教授してくれたそのメカニック、キッド・サルサミルは今どうしているのだろうか、と。
もしこちら側の世界に来ているというのなら草の根分けてでも探さなければならない。
倉庫で放ったらかしを喰らっているダブルエックスを見たら仰天でもするだろうが。
キッドだけではない。
熱血漢で家族思いのウィッツや、女性には弱いが義理堅いロアビィとはMS乗りとしてティファを守る為に何度も共に戦った仲間だ。
また、フリーデンのクルー達、サラやトニヤやシンゴ、そしてジャミルも今こちら側に来ているのだろうか ?
いや、もう来ているか、ではなくて来るのだろうかという予測も立てられる。
全員が一緒にその場にいるという確証もない。
この世界の各地にばらけているというのなら、それはもう砂浜で特定のビーズを捜せと言うのと同じ位な気の遠さだ。
彼等以外にも、最初は敵、後で心強い味方となり宇宙へ行く手助けをしてくれたエニル、初めての宇宙戦で間一髪の所を助けてくれたパーラ、ジャミルにとって過去のライバルでもあるランスロー達がいる。
彼らもやはり同じなのだろうか ?
その時ガロードの頭で嫌な考えが頭をもたげてきた。
来ているのは別に味方だけではないという可能性もある。
テレパシーで意思疎通が出来るもののフラッシュシステムに感応しないが為にニュータイプではないと断じられ、更にカテゴリーFの烙印を押された事を怨み、全世界への復讐を試みたフロスト兄弟……
最終戦ではサテライト兵器での合い撃ちともなったが、自分が来ている以上彼らが来ていないとは言い切る事は出来ない。
来ていたら来ているでこの世界も滅ぼさんと暗躍でも始めているのだろうか。
ニュータイプの存在とは結局何なのかというD.O.M.Eの結論に耳を貸す事も無かった彼らがそれを始めているのなら考えただけで身震いがする。
そこまで考えた時ガロードはマードックに肩をぽんと叩かれる。
「ま、この機体見てそれ位意見言えるんならそいつもお前さんの事を誇りに思うだろうさ。
おっとお ! そろそろ機関部からお呼ばれのする時間だ。この機体に関してお前さんの言った部分で、もしちっとでも修正加えたいって思うんなら何時でも言ってきてくれよ。
一応考えておくからよ。それじゃな。」
マードックはそう言って手を振りながら機関部がある方向へ走り去って行く。
何かそわそわしたような雰囲気だったが一体何だったのだろうか。
と、その時今度は居住区の方から思わぬ来訪者がやって来る。
「ガロード……」
ティファだった。
こんな朝というには少し早い時間に、どうしたのだろうかと思ってガロードが彼女の手元に目をやると、食事の乗ったプレートがあった。
恐らく寝ずの作業に取り組んでいたガロードを気遣ってのものだろう。
「ティファ ! 」
弾かれた様にガロードはティファの元へ走り寄る。
眠気があっても今のガロードには何の効果もあるまい。
彼女はその反応の速さに少々驚きながらも、穏やかな笑みを浮かべてプレートをそっと差し出した。
「お腹が空いているんじゃないかと思って……持って来ました。」
言い終わってティファの顔が真っ赤に染まる。
「ありがと、ティファ。丁度何か喰いたいなあって思ってた所なんだよなあ。」
ガロードは優しく食事を受け取る。
そして作業場に程近い所で、どこか座る所は無いかとガロードはあちこちを見回していたが、直ぐにうってつけの場所が見つかる。
冷やかす整備スタッフもいなければ、音や視覚で煩わされる事も無い場所。
つまりブリッツのコクピットの中。
あとはティファがその提案に同意してくれるかどうかが問題になるわけだが。
すると彼女は頬をほんの少し赤く染め言う。
「ガロードが考えている所で……良いです。」
瞬間ガロードの思考が一斉に停止する。
という事はつまり……
ティファは自分と二人っきりになれる所で、二人っきりになって良いという訳である !
最早ガロードの内心には‘やった !! ’という言葉しか出て来なかった。
今までにコクピットで二人っきりになれる機会は山ほどあったが、否が応でも戦闘という文字が絡んできた為に仕方なくといった具合だった。
空間の狭さも手伝って、二人の身が割りと近くで触れ合う唯一の場所とも言えるが空気は最悪だった。
今は戦闘状態でも何でもない。
「じゃ、じゃあちょっと狭いけど……あそこのコクピットで良いかな ? 」
良い意味でわくわくする思いを必死で押し殺しガロードがティファに訊ねる。
ティファの返事は勿論、はにかんだ笑顔込みでの「はい。」
それからのガロードの行動は全てが疾風の如く素早かった。
周りのスタッフの目が自分達に向けられていないか、細心の注意を払って見回った後ティファの手を優しく取り、降下用ワイヤーでコクピットへ向かう。
お互い正面を向いて身を寄せ合えば吐息や心拍の速さがはっきり分かる。
それから後はティファを御姫様抱えして会話に興じつつ食事……出来なかった。
というのもティファが時折ガロードが使うスプーン使って彼の口に直接食物を差し出すからである。
その度にガロードの心臓は跳ね上がるほど鼓動を早くさせる。
やがて食事が終わったので持ち込んだ時計に目をやると、とっくり一時間は過ぎようかとしていた。
「なあ、ティファ。この世界に皆は来ていると思う ? 」
唐突に向けられたその質問に彼女は確信を持った目で答える。
「ええ。皆無事よ。でも……早めにその人の下へ向かわないといけない人がいない訳じゃないわ……」
「マジかよ ! 」
仲間の危機が迫っているのならそれはそれで一大事である。
しかし、ティファは急に表情を暗くしてガロードの言葉に答えた。
「はい。でも……御免なさい。今はそれが誰なのかまだはっきり捉える事は出来ないの。」
ガロードの力になれない事を悔やむようにティファは目を伏せてしまう。
そんな彼女をガロードはあまり慣れない手つきで抱き締め、優しく声をかける。
「無理しないでいいよ。大丈夫。きっと皆見つかって一緒に帰れる時が来るよ。
直ぐに戻るのが無理ならこの仕事が終わった時に、一時でも良いからどっか平和な所で一緒に暮らそうぜ。
……ティファが一緒ならこんな世界でも生きていける気がする。いや、生きていける。」
その言葉はしっかりとティファの心に温かい物を灯す。
力が及ばないと分かっても必要以上の物は求めない。
それがティファにとっては嬉しい事限りない。
今までにも同じ様な言葉をかけてくれる者達は多くいたが、ガロードの言葉の力だけは絶大だ。
ふと気がつくと、いつの間にか二人の顔と顔がかなり近くなっている。
ティファは思う。
今この状況でガロードを安心させ、そして二人の思いを確かめる方法はただ一つ。
勇気を振り絞って、彼女は速い息のせいでからからに渇いた口から言葉を紡いだ。
「ガロード……今だけは……私、だけを……見て……お願い……」
えっ ? といった感じでガロードがティファの方を見やると、当の彼女は顔を真っ赤にし、目を瞑って何かを待っている。
何を待っているか ?
それに気付かないほど彼とて野暮ではない。
これはティファが自分の為を思って、少しでもいいから心とか精神に安寧さを持ってほしいからしている事なのだ。
そしてガロードも目を閉じ、ティファの求めに応える様に顔を近づける。
A.W世界でも最終決戦直前に互いのどちらからとも無くやった口づけ。
誰も見ていないのに、誰もこの様子を聞きもしていないのに、一度経験した事なのに、何故にこうも緊張してしまうのだろうか…… ?
その距離が段々と縮まっていく。
あと10センチ……あと5センチ……あと1センチ……
そんな時だった。
コクピット内にも聞こえてくる大きな音が艦内に鳴り響いた。
『第二戦闘配備発令 ! 繰り返す ! 第二戦闘配備発令 ! 』
そのけたたましい音に二人は同時に思う。
警報よ、少しは空気読んでくれ……と。

 
 

その第二戦闘配備が出た時より少し時間は遡る。
アークエンジェルから少し離れた場所にある砂丘では砂漠の虎ことバルトフェルドとその副官ダコスタが立っていた。
「どうかな ? 噂の大天使の様子は ? 」
バルトフェルドの声にダコスタは赤外線スコープを覗き込みながら答える。
「はっ、現在こちらに向かって来ております。距離は凡そ千です。速度はかなりの低速度かと思われます。」
「例の挟撃で大分損傷が酷いようだな。傷ついた翼を存分に休める場所を求めて『彼女』は流離う……といったところだろうな。」
バルトフェルドはそう言いながら片手に持ったカップを口に運ぶ。
「おおっ ?! これは ! 」
「何でしょうか ?! 」
そう訊いて身構えたダコスタは直ぐに体の力が抜けてしまう。
隊長が、片手にカップを持って、しかもそれを口に運んで、尚且つ驚いているという時はあの時以外他無い。
「カレントクロップで正解だったか。これならローストをもう少し深くして風味を持たせても悪くはないな ! 」
案の定、自己流ブレンドコーヒーの試飲結果である。
分かってはいてもつい頭を抱えてしまいそうな衝動に駆られてしまう。
この前も「悪いブレンドじゃないから」と言われて何杯も薦められた事がある。
はっきり言って、ゼリーにしてミルクと混ぜて食べた方がまだましだというのがその時の正直な感想だった。
だがそれを言おうものなら、コーヒーをホットで飲む事の醍醐味について半時間近く延々と語られそうだったので黙ってはいたが。
そして未だ上機嫌そうな上官に対しダコスタはある質問をする。
「それにしても良かったんですか ? ジブラルタル基地からの援軍も待たずに襲撃を仕掛けて……」
ダコスタはさも、自分達がこれから行う事はちょっとした暴挙にも等しいといった感じで隣にいる自らの司令官に声をかける。
「戦力評価は持てる最小の人員と必要最小限の時間でっていうのが常道だぞ。それに、援軍が受けられるのならそれをフイにする訳にもいかないからな。」
「フイ、ですか ? 」
その疑問にバルトフェルドはおいおいといった感じで話す。
「戦力評価無しに援軍を投入して、結果大敗を喫したんじゃあ本部の連中に申し訳がたたんだろ ? 」
確かにそうだ。折角新戦力が来るというのに無闇に出て行ってそれが全部無くなってしまったら元も子もない。
ただでさえジブラルタルも手一杯だというのに。
話はお終いとばかりにバルトフェルドはコーヒーが無くなり空となったカップを空中に高く放り投げる。
ダコスタがそれを受け取るが、それを待たずしてバルトフェルドは身軽な動きで砂丘をするすると下っていった。
月の光を受け、夜にも拘らず白く輝く砂丘の麓には数機のバクゥと戦闘用ヘリのアジャイル、そしてバギーがあった。
その周りでは機器の調整に当たっている男達が忙しなく動き回っている。
が、直ぐに砂丘の上から降りてきた自分達の長の姿に気付き、素早く整列をした。
それを確認したバルトフェルドは口を開く。
「ではこれより、地球連合軍新造艦アークエンジェルに対する作戦を開始する !! 目的は敵艦及び搭載MSの戦力評価である !! 」
その言葉が聞かれると同時に、バクゥパイロットの一人ハダトがにやけながら質問した。
「倒してはいけないのでありますかぁ ? 」
その言葉の真意をバルトフェルドは少し考えるが、暫くして返答した。
「ま、その時はだがな。だが油断は一切禁物だ。
あれは今こちらに向かっているクルーゼ隊の面々を追い詰め、ハルバートンの第八艦隊を激戦のさなか守りきった上に、
ジブラルタル基地からの迎撃組とその司令官が乗った艦が挟撃しても疲弊させるに止まった艦だ。その事を忘れるな。……一応な。」
何の気無しに最後についた言葉を聞き、兵士達の顔に自信に満ちた笑みが浮かぶ。
「では、諸君の無事と健闘を祈る !! 」
その声が合図となり兵士達がさっと敬礼をする。
バルトフェルドも片手を挙げて返した。
「総員、搭乗 !! 」
そしてシメとばかりにダコスタが号令をかける。
その時全員に景気良く言い放たれる声がある。
ハダトと同じくバクゥパイロットのメイラムのものだ。
「よぉし !! 俺等で息合わせてビシッと決めようぜ ! 」
隊全体ではバルトフェルドに次ぐムードメーカーでもあり、他の隊員からの人望もそれなりに厚い彼はそう叫んで、我一番とばかりに愛機のコクピットに収まる。
それに続かんとばかりに各々の隊員達も愛機のコクピットに収まっていった
バルトフェルドはその姿を見て苦笑する。
少しお調子者の節もあるが開けっ広げでマイペースなメイラムは、彼がここに来たのと殆ど同時期にバルトフェルド隊配属となった。
そして今、他の人間に言わせれば一癖も二癖もある自分と隊員との間を取り持っているのは、ダコスタの次では彼だろうという事を思ったからである。
そのダコスタは既に指揮車に乗り込みエンジンをかけており、バルトフェルドはその横に乗り込んだ。
「うーん、コーヒーが美味いと気分が良い。」
その時、作戦行動中とは思えないほどの悠然さと呑気さを持っていた目に、ちらと物騒な光が光った。
「さあ、戦争しに行くぞ ! 」

 
 
 

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