XLスレ66 氏_母のない子と子のない母と(仮)

Last-modified: 2011-12-26 (月) 16:23:07
 

65 :通常の名無しさんの3倍
…思えばシンの傍には、色々な意味で喪失…もっと言えば奪われた、女性(ひと)が
なんとなく映えるという傾向があると言えるか?
TVの時点でそもそも命取られたステラにマユ(生きてた場合も義手とかアチコチ)
顔の傷ついたアルテイシア大公、息子も夫も失ったロミナママンなどなど…
奇跡的な外交的勝利をもぎ取ったのに認められず半ば追放のカナーバ女史のように
有望だったがあまりに情報量が少なすぎて定着しなかったケースもあるが。

 

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んじゃ、そんな女性で一つ小ネタをば。

 
 
 

「………さむ」

 

寒さで身体を震わせて夢うつつから覚める。
さっきまで汗まみれだったのだ、服も着ていないのだから寒くて当然だろう。
唸り声を上げながら首を回すと、隣で自分の顔を見ていた彼女と目が合う。
「どうかしました、カリダさん?」
「んー? なんでもないわよ、ただ見てただけ」
ウェーブのかかった黒髪をかきあげ、柔らかな笑みで返される。
そんな彼女の笑みを見ているうちに、なんとなく悪戯心が湧きあがってきて。
ぷにぷにと二の腕を摘む。くすぐったそうに身をよじるカリダに構わずに続ける。
「ちょっと、もう………やぁだあ」
「んぅ、もうちょっとだけ」
「やめて、止めてよね。おばさんよ、私。色々きついのよ、カガリさんと違って」
「いやあれはただのメスゴリラですよメスゴリラゴリラ………やらかくていい気持ちですよ?」
照れ隠しなのか、頭をぱしぱしと叩かれてしまう。
そうされるとシンも意地になってしまい、さらにぷにぷにと。

 

そんな攻防がしばし続く、だがそれも直に収まって。代わりに聞こえてくるのはカリダの熱っぽい吐息。
「………んっ」
「………こういうのって、あれでしたっけ? なんて言うの、やけぼっくいに火がつく?」
「多分違うわよ、というか失礼、ねっ」
頬を膨らませながらシンの腰にまたがる。
むっちりとした重さは流石にカガリでは味わえないものではある、
それがいいことなのかどうかはともかく。
シンに顔を近づけ、額に頬に鼻に瞼に耳にと、唇を優しくも強く押し付けていく。
されるがままだったシンだが、唇に押し付けられるとそのまま舌を伸ばしてカリダの舌と絡ませ合う。
ぴちゃり、ぴちゃりという音とカリダのどんどんと荒くなっていく吐息が部屋に静かに響き、
やがて名残惜しそうにカリダが唇を離すと吐息だけになって。
もう一度唇を押しつけようと顔を近づけ。

 

「ねえ、カリダさん」

 

ぽつりとシンが呟いた言葉に、なあに? と言いたげに首をかしげる。
カリダの目を焦点の定まらない瞳で見返し。

 
 

「俺のこと、殺したいですか?」

 
 

何も言わず、ただ唇をシンの唇に重ねる。
今度は、舌は伸ばさなかった。

 

「俺のこと殺してやりたいです?」
「………いい、え?」
「そうだって言って下さいよ」

 

乾いた声。感情のほとんどこもっていない冷めた声を上げるシンを
何も言わずに変わらず笑みを浮かべてカリダは見つめていて。

 

「そうだって、言ってくれなけりゃ、そうじゃなけりゃ、あの人が………
 キラさんが、あんまりなんですよ」

 
 

ラクス達への逆襲の中で討った青年、彼女の息子キラ・ヤマト。
どこか壊れてしまいそうな程の繊細さを持っていた彼を思い浮かべる。
彼を討ったことそのものは後悔はしていないしああするほかなかったのだと納得もしている。
もっとも、討ったことへの喜びなどは今に至るまで感じることはできなかったが。
そんな彼の母親が今自分の腰にまたがっている。
その行為が、キラに対して一抹の申し訳なさを煽りたててしまう。
そしてそれ以上に、息子を殺した相手の腰にまたがるカリダの行動も、
恐らくそう言うことなのだろうと思えてきてしまって。

 

「ねえ、カリダさん。本当は、俺のこと殺してやりたいんじゃありません?」
「別に……そんなことはないわよ。というか、そんなこと今さらよ」
胡乱な瞳で彼女を見返す。薄暗い中で微かに見える彼女の表情は、自分以上に冷めきっていて。

 

「なぁんにも、してやれなかったもの。苦しんでるあの子に、なんにも………
 出来たはずなのにね、やろうと思えば抱きしめてやることだってできたのに。やらなかったもの、ね」

 

はすっぱな態度で鼻を鳴らす、その行為は過去の自身に対する侮蔑なのか
それとも現在の自身に対する侮蔑なのか、シンには判断できない。
シンの困惑に気付いているのか相変わらず微笑みながら言葉を続ける、
その姿はどこかキラ・ヤマトを彷彿とさせる危うさが漂っていて。

 

「だから………貴方を恨んだってどうしようもないの。
 そんなことをする資格はね、もうどっかに行っちゃったのよ」
「…………人を憎んだりするのに、資格がいるわけないでしょう」
「でも貴方はキラを憎まなかったでしょう?」
「………………どう、ですかね?」
曖昧に言ってごまかす。だが、彼女の言う通りなのかもしれないと内心ではそう思っている。

 

戦いなんて嫌だった、平和の方が好きだった、
結局力でしか解決できなかった、それ以外の道を選ばなかった。
キラと自分に違いなんて殆どない。
ほんの少し、ボタンをかけ違えていたのなら自分はキラと同じことをしていたのかもしれないのだ。
もし彼を憎むのだとしたら、それは自分自身を憎むのと大差ないこと。
自分は運が悪く、キラは運が良かった。その程度の違いしかないのだから。

 

「だからね、私があなたを殺したいなんて思うわけないわ。
 むしろ…………貴方こそ、私を殺したいんじゃないかしら?」
「……………なんですか、その無茶苦茶な言い草は」
「あら。だってそうじゃないかしら。キラを育てたのは私ですもの、
 回り回って私のせい、って思うのはそんなにおかしいことかしら?」
挑発するような笑みを浮かべるカリダに何も言うことが出来ない。
そんなことはないですよという一言が、どうしても言えない。

 

「ねえ、シン君。本当は、私のこと殺してやりたいんじゃない?」
何か言おうとして、何度も口を開こうとして、結局何も言えなかった。
彼女の息子を殺した奴が、どんな慰めの言葉をかけられるというのだ。

苦しそうな顔を浮かべるシンの唇にカリダは軽く唇を重ねるとふんわりと柔らかく笑った。
「もう寝ましょう? 身体も冷えちゃった」
「ええ………そう、ですね。ええ、そうですね………寝ましょう、ええ」
その笑顔が、壊れたものではないと証明することは出来ないのだけれど。

 
 
 
 
 
 

あとがき
Q.なんでカガリとフラグ立ってんの?
A.キラ「貴様のやった事、どんな理由があろうと犬畜生以下だ!鬼だ!外道の極みだ!」
これを言わせたいがため。それ以外には特に理由はない。シンカガトカスキダケドネー

逆襲後のシンはなんか幸せになる姿が想像できない。
なって欲しいんだけど、しちゃいけないというか何と言うか。