ちょっと前の人類の天敵がどうのでふと思いついたんで投下してみる
「静かなこの夜に貴方を待っているの。 あのとき忘れた、微笑みを取りに来て」
男は歌う。
それは敵対した者へのレクイエムか、或いは単なる皮肉か、
それは歌っている本人にしか理解しえない。
「あれから少しだけ時間が過ぎて、想い出が優しくなったね」
途切れない歌を口ずさむ口元も、血の色或いは炎の色をした目も、遮光バイザーに遮られ、
今はどうなっているのか。
「星の降る場所で、貴方が笑っていることを、いつも願ってた」
今現在、男は人類種の敵とさえ呼ばれている
「今遠くても、また会えるよね」
敵対者をその手で滅ぼし、その賛同者を殺し尽くした。
「いつから微笑みはこんなに儚くて、一つの間違いで壊れてしまうから」
男は知っている。
既に後戻りは出来ない、もはや他の道など存在しないと。
「大切なものだけを光にかえて、遠い空越えて行く強さで」
人との繋がりも生きてきた証も、自分の過去も、全てを捨て、殺す事だけ求めた男は既に人間ではない。
「星の降る場所へ、想いを貴方に届けたい。 いつも側にいる」
己の名前や、戦い始めた理由すら忘れた彼が救われる事など有り得ない。
「その冷たさを、抱きしめるから、今遠くてもきっと会えるね」
屍山の頂上で、血河の水面で、怨嗟の声を、呪詛を背に受け、男は歌い続ける。
「静かな夜に……」
己の命が尽きるまで、己の命が絶たれるまで。