XXXⅧスレ268 氏_Future Select

Last-modified: 2011-03-24 (木) 01:11:50
 

C.E74年 メサイア攻防戦
人類を遺伝子によって管理する計画、デスティニープランを世界に提唱したギルバート・デュランダル。
デスティニープランを未来を殺す計画と断定し、デュランダルに刃を向けた
ラクス・クラインとカガリ・ユラ・アスハ。
運命か、自由か、全人類の未来を左右する筈だったこの2つの陣営の戦争は、
唐突に幕を閉じる事となった。

 
 

開戦する直前、C.E史上類を見ない巨大地震が世界各地で同時多発的に発生し、
それに付随する地割れや津波、火山噴火や気象異常が
ユニウスセブン落下による被害の復旧もままならない人々、所謂弱者が暮らす地域を直撃したのである。
被害の少なかった国際主要都市等の地域に住んでいた人々は、
地震による混乱とライフラインが断たれるのでは、という不安から我先にと食料等を求め始め、
その騒ぎは直に暴動へと発展。
ブルーコスモスによる後ろ盾を失い弱体化していた地球連合軍には、
被災地の救出活動どころか暴動を沈静化させる力すらなく、地上は文字通り地獄絵図と化した。
それを好機と見たプラントの上層部は、この騒ぎに乗じ一挙に野蛮なナチュラル共への
粛正と支配をする様デュランダルへと提案する。
ところが、デュランダルの返事は、誰もが予想もしない答えであった。

 

デュランダルはZAFTに対し、必要最低限のプラント護衛部隊を残し、
残りの兵力は全て『武装を完全放棄したMS部隊』 
つまり、人命救助や被災地の復興作業等『MS本来の用途』を行う為の部隊を編成し、
地球に降下するよう命令したのだ。

 

デュランダルから突然言い渡されたとんでもない命令に、当然ながら当初のZAFT軍人は困惑した。
しかし、ZAFTの人材はそのほとんどを10代後半から20代前半、
つまり成人して間もない『青年達』によって構成されている。
若い彼らが、例えナチュラルであろうと『人を殺す』命令と『人を救う』命令……
どちらの命令により積極的に従うかは明白であり、彼らが行動を起こすのにそう時間は掛からなかった。
渋る上層部を無視したフェイス達によって構成された『完全な人命救助作業』の為の地上降下部隊は、
ラクス・クライン達の『真横』を通り過ぎ地球へと降下していく事となった。

 

それに合わせ、ZAFTに完全に無視される形となったラクス達は、
自分達の今後の行動を決めあぐねる事となった。
ZAFTの主力部隊が地上に降下した今、このままプラントに進行すれば
間違いなくデュランダルを討つ事ができる。
しかし今彼が行っている行動は、誰がどう見ても正義の行動である。
真意は兎も角として、民衆が正しい行いだと考える行動をしている人間を討つには、
それ相応の大義が必要になる。
だがデスティニープランの全容も把握せず行動を起こしてしまった彼女達には、
プランの具体的な問題点の指摘も、それに変わる新たなビジョンも持ち合わせていない。
それこそデュランダルがアルザッへルの様な軍事基地ではなく、
オーブを国民ごとレクイエムで焼き払う、といった非人道的な行動を起こそうとでもしない限り、
彼女達に大義名分は訪れないのである。
また、良くも悪くも根からの善人であるラクスやキラ達にとって、今回の災害は見過ごせるものでは無く、
彼女達と共に進行してきたオーブ軍は被害を受けたであろう母国の救援に戻らなければならない。

 

結局、ラクス達もまたZAFT軍同様、被災した人々の救出の為に地上へと引き返し、
メサイア攻防戦は1人の犠牲者も出すことなく、終結する事となった。

 

余談だが、その後プラントとオーブ…言い方を変えればデュランダルとラクス、そしてカガリの3名は、
一時停戦し地震の被害を受けた地域の復興活動を協力して行っていくことを同意。
その活動の過程で歩み寄る事ができた両者は、運命だけでも、自由だけでも人類を救う事は出来ないと
新たなプラン『フューチャーズプラン』を計画。
モデルとしてオーブとアプリリウスコロニーに導入し、人類の新たな未来への第一歩を歩み始める事となる。

 
 

何故デュランダルはあの様な命令をZAFTへと下したのか……その理由は2つある。
1つは今回の事件が『人災』ではなく『天災』だったという事。
人間は本能的に自然災害を恐れる傾向があり、それは宇宙へと進出したC.Eの時代でも変わらない。
その証拠に、今回の地震による被害の規模は、ブレイク・ザ・ワールドによる
ユニウスセブン落下時の被害の方が遥かに大きかったのにも関らず、
人々の混乱はその時を遥かに上回っている。
どれほど技術が発達しようと人類が自然の前ではどれだけ無力な存在なのか、
それを目の当たりにしたデュランダルが、人間同士で争っている場合では無いと考えても不思議ではない。

 

そして2つ目の理由。
それはデュランダルが動くよりも早く、被災地への救出活動へ向かう許可を上申して来た
1人の兵士にあった。
その兵士とは唯の兵士ではない。ZAFT軍トップエースのMSパイロットであり、
デュランダルが対キラ・ヤマト用に準備してきた唯一の切り札である。
申請が通らなければ退役も辞さない、と豪語したその兵士の熱意が、
デュランダルの背中を後押しする形になったのだ。

 

後にデュランダルはこう語っている……
「彼に言われてしまってね。『目の前にいる傷ついた人も救えずに、人類を救う事が出来るのか』と…
 『自分は敵を何百人も殺すスーパーエースではなく、たった一人を救うヒーローごっこを選ぶ』
 …若者にそう啖呵をきられてしまっては、私も負けていられない。そう考えたまでだよ」

 
 
 
 

東アジア共和国の最端……かつて日本という名の島国だったというこの地域は、
今回の地震で最も『津波』による被害が大きかった場所の1つである。
本来は美しい街並みが広がっていたのであろう、まるで沼のような水溜りの所々に
建物の屋根が見え隠れする被災地の上空を、1機のMSが飛行していた。
トリコロールカラーの機体にフェイズシフト装甲採用機特有のV字アンテナを持つ頭部、
背部から見えるまるで翼のように大型のスラスター。
震災が起こる前の地球連合軍が見たら、一目散に逃げ出すであろうZAFT軍最新鋭MS。
ZGMF-X42S デスティニー

 

しかしその姿は、ヘブンズベース攻防戦やダイダロス基地進攻の時のものとは若干異なっていた。
まず背中の対艦刀と長距離ビーム砲がオミットされ、
ビームブーメランとビームライフルも装備されていない。
また突貫で改造でもしたのか、掌部に装備されていたパルマフィオキーナの砲口は
平たい金属板で塞がれており、その部分だけを見ると酷く不恰好になっている。
「…………」
そのデスティニーのパイロット、シン・アスカは、目下に広がる景色をじっと見つめながら
ゆっくりとデスティニーを移動させていた。
レーダーとモニター、その2つを忙しなく見比べるその視線には一点の油断も見当たらない。
「!」
そうして移動すること数分、シンの表情に変化が訪れる。
「見つけた!」
コックピットの中で叫んだシンは、急いで機体を降下させる。
彼の視線の先には、水の中から僅かに飛び出した建物の屋上。その瓦礫交じりの屋上に、
生存者と思わしき人影を発見したのだ。
「救援隊のシン・アスカです!そのまま動かないでください!」
生存者もデスティニーが近づいて来たのに気付いた様で、
瓦礫に捕まりながらこちらに向かって必死に手を振る生存者に外部スピーカーで呼びかけながら近づく。
生存者は女性。
しかもメインモニターに見える姿を見る限りまだ子供だ。
『…………』
女の子はこちらに向かって必死に何かを呼びかけている様だが、
残念ながら何を言っているのかまでは聞こえない。
しかし、何を訴えているのかは直に察しが付いた。
「足を怪我してるのか!!」
立ち上がることが出来ないのであろう、座り込んだままの彼女の様子に、
シンは急いでデスティニーを建物の横へと着水させる。
浸水したとはいえ、MSからすればどうという水深ではない。
丁度コックピット部分が、彼女が居る瓦礫の横に来るようデスティニーを移動させたシンは、
救急箱を引っ張り出しながらコックピットを開く。
「おいっ大丈夫か!?」
コックピットから飛び出すと共に、被災した女の子に向かって叫ぶシン。
「ひっ!?」
しかし先程までデスティニーに向かって手を振っていたはずの女の子は、
シンの姿を見るなり怯えたように身を震わせる。
「あっ……」
その様子にシンは、己の失敗を呪う。

 

彼女は先程までは助けを呼ぶことで頭が一杯だったのであろう。
生存本能に基づくその行動に形振りなどなく、相手に対する恐怖心など存在しない。
しかし助けを呼ぶ事ができたという一種の安堵感を覚えた今、
彼女の脳裏には再び被災から来る恐怖心が蘇る。
そこに来て現れたのか、MSから怒鳴りながら飛び出してきた見ず知らずの外国人、
しかもコーディネーターと来れば彼女が怯えるのも無理はない。
「あ、あぅ…」
「ま、待って!」
首を振りながらずりずりと後ずさろうとする女の子に対し、出来るだけ優しい声色で話すシン。
「逃げないで。俺は君を助けに来たんだ」
「……たす、け?」
「そうだよ」
震えながらシンを見つめる女の子に対し、シンは優しく微笑む。
「俺はシン、シン・アスカ…君の名前は?」
「……ホシナ」
「ホシナちゃん…だね?」
「………ん」
「ホシナちゃん、かわいい名前だ」
怖がらせないよう細心の注意を払いながら、シンはゆっくりと彼女に近づく。
「ホシナちゃん、足怪我してるだろう?お兄ちゃんに見せてもらってもいいかい?」
「…………」
「大丈夫。痛くしないから……ねっ?」
「………ん」
「よし。いい子だ」
優しく話しかけるシンに警戒心が薄れたのであろう、ゆっくりと頷いたホシナに対し、
シンは微笑みながら頭を撫でる。
「……ぅ……ぅう……うゎわああああん!!」
そして、シンに撫でられた事で極度の緊張から開放されたのか、
ホシナはシンの胸へと飛び込み大声を上げて泣き始めた。
「こ、こわが…った…こわかったよぉ!!うゎぁあああぁあん……!!」
「うん。こわかったなぁ……1人でよくがんばったなぁ…」
「うぁぁああぁああ…!!」
そのまま泣き叫ぶホシナに優しく囁きながら、シンはホシナが落ち着くまで、
彼女を包み込むように抱きしめ続けた。

 

幸いホシナの体に目立った外傷はなく、足の怪我も軽い打撲の様であった。
応急処置を終えたホシナを自分の膝の上に乗せたシンは、
怪我に響かぬようゆっくりと避難者用テントのある高台へとデスティニーを移動させていた。
「やった!」
その途中、この地域の行方不明者と捜索依頼者用データーベースにアクセスしたシンは、
ある吉報を入手する。
「ホシナちゃんのお母さん、これから行くテントからホシナちゃんの捜索依頼を出してる!
 お母さんは無事だよ!」
「ホント!?」
「ああ。もう直に会えるから、もうちょっと我慢してね」
「うん!」
一度思い切り泣いた事ですっきりしたのか、屋上に居た時より格段に明るくなったホシナは元気良く頷く。
「ねぇシンお兄ちゃん!早く早く!!」
「わ、分かった。分かったから、そんなに暴れないのっ!」
(お兄ちゃん…か)
そして何時の間にかすっかり懐かれてしまったシンは、
困惑しながらも何処か懐かしい感覚に捕らわれていた。

 
 

「ママー!!」
「ホシナ…!」
シンが事前にホシナの救出の件を報告していたからだろう、
避難者用テントへと付いたホシナは直に母を見つける事が出来た。
「この度は、何とお礼を申し上げたらいいか…」
「あ、いや…俺は自分の仕事をしただけですから、頭を上げてください」
ホシナに事情を聞いたのであろう、深々と頭を下げるホシナの母に対し、
その行為がこの地域特有の感謝の表し方だとオーブの暮らしで知っているシンは慌てて首を振る。
尚も頭を下げる母親と、また会いに来ると約束したホシナと分かれたシンは、
食事を摂る為救援隊用のキャンプへと戻る。
本来なら食事など摂らず救助を続けたい処だが、助ける側が体調を崩しては元も子もない。
とりあえず必要最低限の休憩は取り、それ以外の時間は全力で救援作業を行う、
そうシンは心に決めていた。

 

「おっ!」
食堂として準備されたテントで、シン見慣れた姿の先客を見つける。
「ルナ、レイ。お疲れ!」
食堂として準備されたテントには、ルナマリアとレイが先客として訪れていた。
「シン、遅かったな」
シンの労いの言葉に返事をするレイ。
「あら、シ……ぷっ」
それに習おうとしたルナマリアだったが、何故かシンの姿を見るなり行き成り吹き出した。
「な、なんだよルナ!人の顔見るなり」
「あっ、ゴメンゴメン」
当然の抗議をするシンに対し、ルナマリアは笑いながら掌をヒラヒラと振る。
「何か、ZAFTの赤服3人が揃って凄い格好だなぁって」
「格好?」
「確かにな…」
首を傾げるシンに対し、ルナマリアに同意するレイ。
それを見たシンは改めてルナマリアとレイ、そして自身の姿を眺める。
3人が3人、赤服ではなく灰色の作業服に身を包み、足は長靴、頭には作業帽、
顔には作業の途中で掛かったのであろう泥が所々に付着している。
はっきり言って、ZAFTのトップエースである面影は微塵も感じなかった。
「なるほど…」
ルナマリアの言いたい事を察したシンも苦笑する。
「でも、これでよかったのかも知れないわね」
「……良かった?」
「あっ勘違いしないでね」
眉を顰めるレイに対し、再び掌をヒラヒラさせたルナマリアは溜息を付きながら口を開く。
「もちろん、地震が起こって良かったって訳じゃないわよ?
 でも何て言うか、シンもレイも変わったのよね~」
「「……そうか?」」
「「……さぁ?」」
「ぷっ…!」
ルナマリアの言葉にシンとレイはお互いに不思議そうな顔をしながら見つめあい、お互いに首を傾げる。
その様子を見ていたルナマリアが再び吹き出す。
「そういう所が変わったって言ってるの!後、よく笑う様になった」
「「……そうか?」」
「そ・う・よ!」
再び顔を見合わせるシンとレイに対し、ルナマリアはコンッと軽く拳骨を当てると立ち上がる。
「それじゃ、私先に作業に戻るから。ちゃんと休憩してから来なさいよ?」
「ああ」
「ルナもヘマしない様にな」
「うるさいわよ~」
そう言い残してテントを出て行くルナマリア。

 

その様子を見届けたシンとレイは、お互いに顔を見合わせる。
「……わざとらしかったかな?」
「どうだろうな。ルナマリアはああ見えて、鋭いところもあるからな」
「だな」
2人きりとなったテントの中に、2人の笑い声が木霊する。
彼らも気付いているのだ。自分達が変わったということに。
愛する人を奪った者を恨み、憎しみで戦う事しか出来なかった自分と……
生まれ持った宿命に抗えず、自由に生きることを放棄した自分と……
「体は大丈夫なのか?」
「ああ、暫くは問題ない。だがテロメア問題の根本的な解決策は無いから、常人より早く死ぬだろうがな」
「そう…か」
「だが、俺はシンに感謝している」
「えっ?」
思いがけないレイの言葉に、顔を上げるシン。
すると目の前には、真面目な表情をしたレイの顔があった。
「この任務を通じて、例え作られた命でも、誰かの命を助ける手助けができると判ったんだ。
 ルナマリアじゃないが、俺はこれで良かったと感じている」
「レイ…」
「もしあのまま戦い続けていたら、きっと俺は死ぬまで自分の命に価値など見出せなかったろう。
 ありがとう、シン」
「……俺は、何もしてないだろ?」
「お前なんだろう?ギルにこの任務を上申した張本人は」
「!?な、なんでそれを…!」
「昨日ギルから聞いたんだ」
してやったり、と言った顔でニヤリと笑いながら立ち上がるレイを見て、
何か性格悪くなってるんじゃないか?と内心で溜息を付くシン。
「じゃあ俺も先に行く。お前はもう少し休んでから来い」
「あっレイ!」
そのままテントを出て行こうとするレイを慌ててシンは呼び止める。
「何だ?」
「その…俺、クローンとか難しいことはよくわかんないけど、これだけは言えるんだ」
「…………」
「生きろよ、レイ。お前は他の誰でもない、俺の親友レイ・デュランダルなんだから……」
「……わかっている。…だが、ありがとう」
そう応えたレイの表情は、確かに微笑んでいた。

 
 
 

昼食を5分で平らげたシンであったが、ルナマリアとレイの言葉に甘え少々休憩する事にした。
訪れたのは、避難者用テントからは大分離れた浜辺。
場所が良かったのだろうか?津波が来た後だというのに、
その浜辺の海は綺麗に澄み渡り、瓦礫も落ちていない。
デスティニーのコックピットから降り立ったシンは、ゆっくりとその浜辺に腰を下ろし、そのまま横になる。
サラサラした砂浜の感覚が心地いい。
軽い睡魔に襲われたシンは、そのままゆっくりと瞼を閉じていく。

 

デュランダルに被災地の救援する許可を申請した理由、そんな物はない。
ただ何となく、本当に何となく、行かなければならない……そんな気がしただけだ。
だが今思い返すと、これは『彼女』の意思なんじゃないか、と思えてくる。
『彼女』を守れなかった事を悔やみ、憎しみに捕らわれる俺に対して、
他にやれることがある、守れるものがある、と教えてくれたのではないか、と。
そう、忘れたくても忘れられない『彼女』の……

 
 
 

『ン……シン……』

 

――ら?

 

『シンには、あしたがあるの』

 

あした…?

 

『うん。だから、シンとはまたあした』

 

どうして…?

 

『まえをみて…あしたをみて、シン!』

 

……うん

 

『またあしたね、あした!』

 

そうだね…また、あした…

 
 

どんな目に遭おうと、どんなに絶望に立たされようと
生きている限り、希望はある
生きている限り、明日はやって来るさ
だから、

 

「また明日……ステラ」