XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 龍宮の守人編_第0話

Last-modified: 2009-05-30 (土) 01:02:22
 

ひとがいきているかぎり ひとがくらしているかぎり

 

あらそいがたえぬというのなら わたしはわたしがしんじるものたちに…

 
 
 

「プローフに感アリ、座標と画像データ、表示します」
ブリッジクルーのシートに収まっている金髪の女性が抑揚の無い声で伝える。
同時にブリッジ正面にプローフ…遠隔操作可能なセンサーが捉えたデジタル写真が表示される、
漆黒の宇宙に映る、ボロボロの外装を身に纏うそれは、ナスカ級高速戦闘艦の特徴あるシルエットだった。

 

「あーあー見るからに海賊って感じだねえ…あ、プローフはもう戻していいよ、
 壊されると開発局に怒られちゃうからね」
軽薄そうな物言いで指示を出す男は、ザフトの黒い軍服に身を包んでいた。
彼は艦長席には座らず肘掛に手を添えて立っている。
「間に合ったか…運がよかっただけかな?」
独り言のように呟く彼、アーサー・トラインは気合を入れなおすように軍帽を直し、
ニヤケ面を少しでも引き締めたようにする。
「総員第一種戦闘配置、機関は最大、捕捉した船籍不明の艦に接触する。
 パイロットも全員叩き起こしてくれ、シンは起きてるかな?」
『俺がどうしたんだ?艦長』
「わ!急に話しかけないで下さいよ。ビックリするじゃないですか」
『また大仰な』
音声通信がいつの間にか繋がっていたようだ、多分バートあたりの仕業だろう、
クスクス笑っていやがるから多分そうだ。

 

「で、海賊でも見つけたのか?艦長」
シン・アスカは丁度モビルスーツのコクピットの中にいた。
乗りなれない機体を支給されて間もないために、待機中の時間も費やして
自分の身体になるようになじませている最中だったのだ。
『規定航路の外から全速で割り込もうとしている船籍不明の戦艦を発見した。
 多分商船でも襲おうとしてるんじゃないかな、今そっちの方確認をとってるけど
 …あ、今丁度救難信号をキャッチしたよ』
「わかった、いつでも発進できるようにしておく」
『多分戦闘になると思うから、頼むよ』
通信が切られた後、シンは調整は一度中断して、自分の機体を臨戦態勢にした。
同時に装備も次々とモビルスーツに装着されていく。
その作業を開けっ放しにしたハッチから見ているシンは、
赤いパイロットスーツに身を包んだ女性が自分の目の前を横切るのを見た。
「随分早いな、寝てたんじゃないの?ルナ」

 

「寝ようとしたら叩き起こされたのよ!」

 

「み、耳が…」
《ミネルバ》時代からの同僚、ルナマリア・ホークの怒号を受けて、シンは思わず首をすくめてしまう。
「にしても、ハァ…いつまでコレに乗んなきゃいけないの?私達」
「仕方ないだろ、そういう任務なんだから。そんな悪い機体じゃないと思うけどなあ」
「顔が格好悪い!」
「…えー?」

 

ルナマリアの目の前には、二機並ぶ《ダガー》系モビルスーツがあった

 
 

コズミック・イラ75年。地球連合とプラントが最後に戦った戦争からはもう1年も経つ。

 

平和を謳いながら戦い、勝利したラクス・クラインがプラント最高評議会議長、
つまりプラントの指導者に君臨してからの彼女の為政は、評価が二分するものであった。
プラントのみの国力では経済、産業おもに大いに欠陥がある国家を建て直すことは
不可能と判断し、積極的に地球連合との融和策をとったのである。

 

プラントの技術力と人材、そして何より『あるもの』を渇望していた地球連合首脳部もそれを受け入れ、
現在、序々にではあるが商業と技術交換を中心に交流が進められている。
しかし、二度の大戦で穿たれた溝は深く、連合・プラント両方でその流れに逆らおうとするものも多く、
大なり小なり、様々な問題が発生していた。

 

今、シン・アスカが出くわしている問題もその一つ。
クライン議長の方針に反発し、脱走したザフトの部隊が丸ごと海賊になっているのだ。
軍縮が叫ばれる時代であっても、やはり人民を守り、国を守るために力は必要なのだ。
そんな警備隊めいた仕事を、シンはもう1年近くも続けていた。

 
 
 

ヒラメのような船体を持った輸送船《ベイバロン》のブリッジの中に、一人の少女の怒声が響いていた。

 

「だから!黙って殺されるよりはマシだろ!
 あいつ等につかまる前に、こっちからもモビルスーツを出して…」
「モビルスーツたって、作業用だろありゃ。装備も無いのにどうやって喧嘩するつもりだ?」

 

真っ赤な短髪が印象的な少女と、艦長席に座る無精ひげが目立つ青年が言い争いをしていた。
先程から航路外から全速でこちらに突っ込んでくる戦艦…恐らく海賊をめぐって意見を違わせていた。
「装備ならある!今運んでるのはモビルスーツの武器だろう!」
「勝手に荷を開けたりなんてしたら信用がた落ち、俺達職ナシだぜ?
 ま、お前さんが再就職先を保障してくれるならいいけど?」
「き、緊急避難だ!仕方ないだろ」
「まあそう慌てんな。おい、エンジンは温めておけよ」
操舵手に指示を与えつつ、無精ひげの男は少女の怒声を聞き流しつついかに生き残るかを思案していた。
しかし、次に受けた報告は男にとって意外であり、福音だった。
「キャプテン、ザフトのコードを発信してる船が、回線を開いて欲しいと要求していますが」
「ん。早速開いてくれ」

 

『こちらザフト所属パトロール艦《パトクロス》。そちらの船籍と航海目的を問う』
ザフトの女性クルーのものと思われる声がスピーカーから響く。
それにはキャプテン…無精ひげの男が対応した。
「当方はしがない輸送業の船《ベイバロン》でございます。
 プラント宛の貨物を多数積載しておりますが、現在海賊に襲われかけております」
『接触予定宙粋はC34です。すみやかに避難を』
「了解了解、ところで、あとでお茶でも」
通信は一方的に切られてしまった。

 

「…キャプテン?何ナンパしようとしやがってますか?」
「おいおい、美人を放っておくほど間抜けになった覚えはないぜ?俺は」
「サウンドオンリーだったろ、さっきの」
「いや、あの声は美人の声だそうに決まっている。一見冷たそうに見える人の、こう、笑顔というか」
「格納庫にいってくる」無精ひげの男の馬鹿をさえぎるように、赤毛の少女はブリッジから出て行った。
「いいんですか?キャプテン。カノンをあのままにしておいて」
「放っておけ。針路変更推力最大。規定航路から離れていい、出来るだけ遠くに逃げるぞ」

 
 

『船籍不明艦との接触まであと125秒、モビルスーツ隊発進用意』
金髪のアビー・ウィンザーの声がパイロット達の耳に伝わる。
《ミネルバ》時代は新兵だった彼女も、今ではベテランの落ち着きを見せ始めている。
クールな印象のある声はパイロットにはウケがいい、らしい。
「各機、いつも通りだ。俺の《ダガーⅡ》で強襲して足止め。
 ルナ、支援砲撃と新兵の面倒は任せるぞ」
『はいはい。とりあえずシンの背中は撃たせないようには、するわ』
そして、シン・アスカもいまではモビルスーツ隊を一つ任せられる立場になっていた。
単純に、上が居なくなれば自分にその順番が回ってきた、ということなのだろうが。
「新兵。ルナの指示に従って、俺達の教えたことの半分も出来れば生き残れる。
 下手に緊張するなよ」
『了解!』
『は、はい!』
1ヶ月前に《パトクロス》に配属された新兵二人は《ゲイツR》のコクピットの中から返事をかえす。
すでに旧式になった感のある機体だが、レールガンで砲撃させておけばそれなりに役にはたつ。
それに、戦果を稼いでもらうよりは生き残って経験値を稼いでもらいたいのがシンの心情だった。
『モビルスーツ隊発進。アスカさん、発進どうぞ!』
アビーからの指示をうけ、シンは機体をカタパルトに接続させる。間もなく正面ハッチが開いて…

 

「シン・アスカ、《ダガーⅡ》いきます!」

 

シンが乗るモビルスーツ…腰の両サイドに斬艦刀を装備し、背中に推力強化パックを装備した
《ダガーⅡ》が、ナスカ級《パトクロス》のリニアカタパルトによって打ち出され、
暗黒を切り裂く光芒となった。

 
 

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