XXXIXスレ513 氏_シン・アスカは歩いて行く_第10話

Last-modified: 2012-05-27 (日) 04:26:23
 

 オーブのキラさん達がマルキオと対峙していた頃、月面を脱出した俺達は
アル・ダ・フラガの手から逃れる為、
デブリの中に紛れながらコアスプレンダーを飛ばしていた。

 

「何とか月面の防空圏を抜けたはいいものの、さて、これからどうします?」
「え?何か考えがあったのではないのですか?シン」
「そんなのあるわけ無いでしょ。
 突然奴らがやって来て、とにかく月面から脱出するって事だけ考えてたんですから。
 ともあれ、あの“レイもどき”の口ぶりからするとプラントに逃げるのは得策じゃないでしょうし、
 どうしたものかな」
「そうですわね。恐らくお父様が生きて居られた頃から居たクライン派の多くは、
 あちら側の息が掛かっているでしょう。
 アスランと共に復興に尽力されているカナーバさん辺りは迎え入れてくれるでしょうが、
 どこから情報が漏れてもおかしくない状況ですし、あまりご迷惑はお掛けできませんわね」
「そうですね、っと、やっぱり居たか・・・」

 

 そんな感じで、デブリの中を移動しながらこれからの行動を話し合ってると、
レーダーが進行方向に居るMS群を発見した。
「ゲイツが5、ザクが2、ダガーも何機か居るな。ラクスさん、一旦隠れますよ」
「お任せしますわ。ですが、ザフトと連合のMSが一緒に居るなんて、何だか不思議な光景ですわね」
「それだけ奴らの仲間はあちこちに潜伏していたって事なんでしょうね。
 敵の敵は味方ってんじゃないですけど、同じ目的を持った物騒な奴らが
 複数の組織に潜り込んで色々暗躍していたなんて、タチが悪いにも程がある」
「まるで過激な宗教団体のようですわね。
 まさに以前の私達と同じ・・・振り返って見ると、本当に過激な事をしていたものですね。
 ですが、今回の一件にあのマルキオ導師が絡んでいるのであれば、あの光景も分かる気がしますわ。
 導師のお話は、素敵な夢物語のようで不思議と引き付けられるものがありましたし、
 何よりとても耳障りが良いものでした。
 あの方でしたら、ナチュラルもコーディネーターも関係なく口車に乗せ、
 裏から操る事など簡単に出来るでしょうね」
「そこまで行くと、今までのザフトと連合の戦いもその男が裏で関わっていそうですね。
 一人の男の手のひらの上で、世界が玩ばれているなんて笑えない話ですけど」

 

「さーて、隠れたはいいものの、後ろからも連中が追い掛けて来ているだろうし、
 あまり長居は出来ないな。かといって、あの数の中を突っ切って無傷で済むとも思えないし」
「何か策はないのですか?」
「月面脱出の時のブースターが使えれば何とか出来たかも知れませんけど、
 使い捨てだったのでもう切り離しちゃいましたからね。
 今ある追加装甲を外せば多少加速度はあがるんでしょうが、
 それでもMSが相手じゃあっさり囲まれて終わりでしょう」
「手詰まり・・・ですか?」
「まさか。前大戦の時だって同じような絶望的な状況は何度もありましたけど、
 何とか突破して生き残ったんです。
 例え何十機のMSに囲まれようと、今回だって全力でぶっちぎって見せますよ」

 

『ほう、中々いい答えだ少年。気に入ったぞ』

 

「え?」

 

 そんな俺の言葉に反応するかのように、突如として聞こえてきた男の声に一瞬身を引き締めたが、
通信モニターに映った姿を見て、後ろに座っていたラクスさんが座席から身を乗り出し声の主に語りかけた。
「バルトフェルドさん?バルトフェルドさんですか!?」
『おお、久し振りだねラクス嬢。元気でやっていたかね?』
「ええ、お陰様で。そちらもお元気そうですわね」
『元気ではいるが、のんびり出来る状態ではないねぇ。
 ま、プラントで発生しているゴタゴタに関しては、カナーバ女史やエザリア議員が
 うまく収めてくれているんで、隙を縫って僕はこっちに来たって訳さ』
「ええっと、ラクスさん。とりあえず、俺にも分かる様に説明してくれませんか?
 この人はどちらさんですか?」

 

「ああ、ご免なさいシン。久し振りでしたので、ついつい舞い上がってしまいました。
 こちらは、エターナルの艦長を務めて下さっておりますアンドリュー・バルトフェルドさんですわ」
「アンドリュー・バルトフェルドって・・・あの“砂漠の虎”のバルトフェルド!?」
『そのバルトフェルドで相違ないよ。そして、君がシン・アスカ君だね。噂は、キラ君から聞いているよ。
 随分とうちのお姫様がお世話になっているようだね。ありがとう』
「いえ、どうも。で、そんな人がどうしてこんな所に?」
「そうですわね。確かに些かタイミングが良過ぎる感じではありますし・・・
 アンドリュー・バルトフェルド、ラクス・クラインがお尋ねします。
 あなたは私達の味方ですか?それとも敵ですか?」
『ほう。疑われるのは当然だが、逆に嬉しくもあるね。
 以前の君なら、僕の顔を見た瞬間に疑いもせずホイホイ出て来ただろうし』
「そ、そこまで私はお花畑ではありませんでしたわ!その、多分、きっと・・・」
「あ~、とりあえずラクスさんをおちょくるのはその位にして下さい。
 まあ、時間も無いし今はあなたが味方だと信じます。
 それで、こちらの状況は分かっているようですけど、俺達はどうすればいいんですか?」
『そうだね。あまり冗談を言える状況でもないから手短に伝えるけど、
 現在プラントは核攻撃の脅威に晒されているんだ。
 これは、オーブのクーデター首謀者達が自爆した直ぐ後に議会に送られて来た書面に書かれていて、
 君達の身柄の引渡しとプラント政権の無条件降伏を条件に攻撃を取りやめるというものだった。
 それに合わせて、旧クライン派の議員や技術者、MSパイロット達が一斉にプラントを脱出。
 数は多くないけど、グフなどの主要MSが何機か強奪されたし、
 港周辺を一時封鎖されたりでこちらの行動が遅れてしまってね。
 他の船とは別の場所に停泊させていたエターナルは出航させる事が出来たものの、
 他は未だに足止め状態さ』

 

 バルトフェルドさんの説明を聞き、これからの行動をどうするか思案していると、
コアスプレンダー内に警戒警報が鳴り響いた。
慌ててレーダーを確認すると、後方から追いかけてきていたアル・ダ・フラガの船と
前方に留まっていたMS群がデブリの中に潜んでいたこちらへと向かって来ている所だった。

 

「くそ、同じところに長居しすぎたか!
 ラクスさん、一気に突っ切りますから掴まっていてください!!」
『待ちたまえ!こちらも数は少ないがMSパイロットが何名か搭乗している。
 直ぐに彼らを出撃させるから、その隙を見て君達はエターナルへと向かってきてくれ』
「分かりました。でも、キラさん達は地上に降りているのに大丈夫なんですか?
 生半可な腕のパイロットじゃ、あの数は・・・」

 

《ちょっとシン!随分失礼な事言ってくれるじゃない!
 ザフトのエースは、アスランやキラさんだけじゃないのよ?》

 

 そんな心配そうな俺の言葉を遮るように聞こえてきたのは、
あの戦いの中、いつも隣りで俺を励ましてくれた声だった。

 

「ル、ルナ!?何でお前がこんな所に居るんだよ。メイリンと一緒に退役したんじゃなかったのか?」
《ザフトは辞めたけど、プラントの一大事って時に、この私がのんびりなんてしていられる訳ないでしょ。
 それに、アスランからもしもの時はシンを助けてやってくれって言われてたから、
 ちょっとお願いして乗せて貰ったのよ》
『ははは、彼女
  《私をシンのところへ連れて行け!さもなくば、船ごと吹き飛ばすわよ!》
 って乗り込んできてね。
 アスラン君から話は聞いていたし、何より元ザフトレッドのトップガンだって話だから
 乗ってもらったのさ』
「ザフトのトップ・・・ガン?ルナが?」
《何か文句ある?私だって、あの大戦を生き抜いた赤なのよ?
 それに、借りたのも乗り慣れたガナーザクだから問題ないわよ》

 

 相変わらずなルナに一抹の不安を覚えつつ、レーダーに目を移すと
後方から迫ってきている船がかなりの距離まで近付いてきていた。
「時間ないから今は突っ込むの止めておこう・・・バルトフェルドさん、
 ルナ達が前方のMS群と接触したら、デブリから脱出します。
 そのまま、ノンストップでエターナルまで突っ走りますので、確保の方は宜しくお願いします」
『了解した。では、ルナマリア君達には直ぐに出撃して貰う。ラクス嬢、エターナルで待っているよ』
《シン、無茶だけはしないでね。それじゃ》

 

 簡単な打ち合わせから数分後、前方に戦闘の光を確認した俺は、
静かにコアスプレンダーのエンジンを入れた。
「打ち合わせ通りだな。ラクスさん、また全速力で飛ばしますからしっかり掴まってて下さい」
「お願いしますわシン。ですが、今回はずっと逃げてばかりですわね」
「まあ、ラクスさんをエターナルに降ろしたら俺も何かMS借りてルナ達の援護に向かいますよ。
 ルナ達だけに負担は掛けられないし、何しろ俺自身やられっ放してのは性に合いませんからね」
「ですが、今のあなたはMSでの戦闘行為を禁止されています。
 この戦いの後に、もし誰かが議会に報告でもしたら・・・」
「その時はその時ですよ。今は、目の前の脅威を払って、この状況を生き残る事が最優先ですから」
「分かりました。もしそのような事になったら、私も全力で弁護させて頂きますわ」
「そう言って貰えるとありがたいです。それじゃ、発進します」

 

 そして俺達はルナ達が戦っている光を横目に、
エンジンを起動させ先程の通信中に伝えられた座標へと機首を向けた。

 

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「シン達は無事デブリの中から脱出出来たようね。さて、こっちも頑張らないと。
 蟻の子一匹通さないわよ!」
『張り切るのは結構だけど、もうちょっとちゃんと狙って撃っておくれよ。
 さっきからうちのヘルベルトとマーズが、あんたのオルトロスに中りそうで冷や冷やモノだよ』
「ああ、ご免なさい。でも、そっちだって前に出すぎですよ、ヒルダさん。
 もう少し、こっちと連携とってくれてもいいじゃないですか」
『私達はいつも通りなんだけどねぇ。まあ、他の人間と組む事なんて滅多にないからさ。
 出来ればそっちが合わせておくれ』
「もう、勝手なんだから。でも、意外ですね。
 あなた達はてっきり旧クライン派の方に付くと思ってました。
 それともやっぱり、あなた達三連星がラクスさんの熱狂的な信望者だってのは本当だったんですか?」
『半分正解といったところだね。
 確かに私達はラクス様を信望しているけど、他の奴らほど妄信的じゃない。
 それに、御父上のシーゲル・クラインの時代からクライン派に所属してはいるけど、
 正直言って奴らの唱える恒久平和なんか知ったこっちゃないね。
 私としては、そんな夢見がちな馬鹿の言う世迷言なんかに興味はないよ。
 ただ、ラクス様が笑って下されば十分なのさ』

 

 その言葉を聞いてルナマリアは驚いた。
今まで、クライン派といったら全員がラクス・クラインを崇め奉る狂信者で、
ラクスに敵対するものは全て排除するべし!というような考えを持った
迷惑極まりない集団だと思っていたからだ。
「随分とセンチメンタルなんですね。でも、それじゃあ何で今回もラクスさんに味方したんです?」
『そりゃあ、今のラクス様が笑っておられるからさ。
 あの坊やと一緒に居るラクス様は“シーゲル・クラインの娘”ではなく、
 “只の女の子”なラクス・クラインなんだからね。
 どっちのラクス様が幸せかなんて比べるまでもない』
「只の女の子、ですか。確かに、御輿として担がれ続ける人生より
 そっちの方が幸せなのは間違いないですね、女の子なら特に」
『そうだろう?ただまあ、その笑顔の源があの坊やだってのは癪だけどね』
「シンは真っ直ぐですから。言葉も感情も生き方も全部。
 そんなシンと触れ合ったから、ラクスさんも変われたんじゃないですか」
『ほう、随分とアスカの事を高く評価してるんだね。噂によると直情的で向こう見ずってイメージだが』
「ずっと横で見ていましたから・・・
 他人がどんな評価をしようとも、私が知っているのが本当のシンです」
『若いねぇ。ま、お喋りはこの位にしようか。
 そろそろ敵さんの第二陣が来るだろうから気を引き締めるよ』
「了解。目視出来る距離まで近付いて来たら先制のオルトロスを撃ちますので後は宜しくお願いします!」
『あいよ。これが終わったら私行きつけの店にでも連れて行ってやるよ。それじゃあね』

 

 通信が終わり、ルナマリアがレーダーを確認するとシン達を追って来ていた船とMS群が確認出来た。
数としてはそれ程多くはないが、強奪されたと思われるグフが見えるあたり
それ相応のパイロットも居るのだろう。
大戦中は最前線で戦っていたとはいえ、今のルナマリアにとっては久し振りの実戦である。
自然と、レバーを握る手にも力が入る。
しかし、今度こそシンを守るという決意を胸に、敵艦へ向けてしっかりとオルトロスを構え直した。

 

「シンがエターナルに着くまでは、誰もここを通さないわ。今度こそ、私がシンを守るんだから!」

 

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 一方、月面でシンとラクスを取り逃したアル・ダ・フラガは苛立っていた。
あと少しで手に入る筈だった“SEED”を持つ番いは、
こちらの動きを先回りしてローレンツ・クレーターから脱出し、
別働隊がデブリ地帯に潜んでいるコアスプレンダーを発見したと思ったら、
そこにもまた邪魔が入り、取り逃がすという失態。

 

「全く、どいつもこいつも役立たずめ。たかが小娘一人と小僧一人、何故さっさと捕獲出来ん」
「お言葉ではありますが、どうやらこちらの動きを読んでいた輩が居たようです。
 恐らくキラ・ヤマトや身辺の者達でしょうが・・・」
「ふん、言い訳は聞き飽きた。とはいえ、奴らがどこに向かって逃げているのかはっきりした以上、
 もう貴様らには任せておけん」

 

 そういうと、失態を如何に挽回しようかと考えている側近を横目に艦首後方のハッチへと流れていった。
「閣下、どちらに?」
「決まっているだろう。アレのテストも兼ねて私自らが奴らをエターナルから引きずり出してくる」
「アレ、ですか。しかし、あの機体はまだ調整中ですし、
 何より先日取り付けた例のシステムとの同調もまだ」
「だからそれを今からやると言っているのだ。ちょうど良さそうな獲物もいる事だしな。
 最終調整にはもってこいだろう?」
「確かにあのシステムが起動すれば、戦闘面では十分な火力を発揮出来る筈ではありますが、
 大丈夫でしょうか?」
「要らぬ心配だ。それに、あのシステムが私に逆らえるはずがないだろう?
 出来損ないとはいえ、一応あれも《  》なのだからな」
「閣下が問題ないと仰るのでしたら、私はもう何も言いませんが・・・
 ですが、くれぐれもご無理はなさらない様に」
「当然だ。これが終わった後に全てを掌握するのは私なのだからな。では、艦の事は任せた」

 

 そう言い残し、MS格納庫へとやって来たアル・ダ・フラガは自らの乗る機体の前へと降り立った。
「ふん、あの失敗作の乗っていたものの改修型と言う割には中々悪くない。
 まずは手始めに煩いカトンボ共を血祭りに上げた後、奴らの目の前でエターナルも落とし、
 私をコケにしたラクス・クラインとシン・アスカに相応の罰を与えてやろう」

 

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ルナ達が囮となり敵MS群を引き付けてくれたお陰で、
俺達は無事バルトフェルドさんの待つエターナルの前までやって来た。
初めて目の前にしたエターナルは、その鮮やかなローズレッドの色合いも相まって
戦艦という体を感じさせなかった。
この船を旗頭にした集団に自分は負けたのかと思うと、少し複雑な思いもあったが
今は考えても仕方がないので、先程教えて貰った艦橋との通信回線を開いた。

 

「こちらコアスプレンダー。着艦許可を願います」
《はい、こちらエターナル。お疲れ様シン。何だか大変な事になってるけど大丈夫?》
「メイリンか?まあ、ルナが居たんだからある程度は予想してたけど、
 何でお前がオペレーターやってるんだよ」
《半分お姉ちゃんに引っ張られてきたような感じだけどね。
 後、オペレーター席に座っているのは経験者って理由で。
 まだ余り事態を飲み込めてないけど、乗せて貰って正解だったかな》
「どういう意味かはよく分からないけど、とりあえずラクスさんを降ろしたいから着艦許可を頼む」
『それなんだが少年、のんびり着艦している暇は無さそうなんだ』

 

 ルナに続き、久し振りに会った旧知との会話に割り込んできたのは
虎柄のパイロットスーツを着たバルトフェルドさんだった。
その表情から感じ取るに、どうやらあまり良くない事態になって来ているようだった。

 

「お疲れ様ですバルトフェルドさん。スーツなんか着て何かあったんですか?」
『ああ、ルナマリア君達が君達を追って来た後続部隊と戦闘状態に入ったようでね。
 ある程度は落とせたようなんだが、どうやら向こうの隠し玉に苦戦しているようなんだ。
 で、急遽僕も出る事にしてね』
「じゃあ、直ぐにでも救援に行かないと!
 急いで着艦してラクスさんを降ろしますから、俺にも何かMSを貸して下さい!」
『残念だが、今エターナルには僕のガイア以外はもうMSは積んでいないんだ。
 それに、今ラクス嬢を船に降ろすのも危険だ。
 確かにエターナルの乗員は信頼できる者達だが、100%信じ切る事も出来ないのが現状でね。
 特に僕が船外に出るとなれば尚更だ』
「くそ!ルナ達が危ないってのに・・・俺にはどうする事も出来ないのか?」

 

 そんな、俺の苦悶の表情を見るのが耐えられなかったのか、
メイリンがおずおずと手をバルトフェルドさんに上げた。
《あのぉ、バルトフェルド艦長。もういいんじゃないでしょうか?》
『あ~、確かにちょっと勿体振り過ぎたかな。御免御免』
「え?話が見えないんですが・・・メイリン一体どういう事だ?」
『確かに、今エターナルには僕のガイア以外のMSは積まれていない。MSはね』
《そして、何で私がオペレーター席に座っているか。後はシンでも分かるわよね?》

 

 そこまで言われて、ようやく色々なピースが頭の中ではまっていった。
今乗っているのはあのコアスプレンダー。そして、オペレーター席には慣れ親しんだメイリン・ホーク。

 

「シルエットシステムが、ある?」
『ご名答。君にとっては慣れ親しんだ機体だ。乗り慣れてないMSよりずっと戦いやすいだろう』
《そして、フライヤーの射出オペレーターは私。
 ちょっとブランクはあるかもしれないけど、問題ないでしょう?》
「ああ、確かにメイリンなら慣れてるから問題はないな。
 じゃあ早速・・・て、やっぱりラクスさんをどこかに降ろさないと」
「シン、そんな荷物を降ろすように言われると私も困るのですが。
 それに、私の生殺与奪の権利はシンにあるのでしょう?
 でしたら、私はシンと共に在ります。キラの用意してくれましたスーツもありますし、
 ここに居させて下さい」
『と、お姫様からのお墨付きも出たところで、
 ダメ押しとして簡易的ではあるが少年には議会からの辞令をあげよう。

 

  “シン・アスカ殿。汝をこの騒乱の間【歌姫の騎士】に任ずる。
   歌姫ラクス・クラインを守護し、その脅威を払うべし”

 

 これで、一時的とはいえ君の戦闘行為禁止制限は解除された。存分に奴らに一泡吹かせてやってくれ』
「知らず知らずの内にどんどん外堀を埋められていっている気分だけど・・・
 今は気にしてはいられないな。
 まあ、懸念事項だった戦闘行為の禁止が解除されたってんなら、
 あのクソったれの顔を思いっきり蹴り飛ばして来てやりますよ。
 それじゃメイリン。配置に着くからフォースシルエットを頼む!」

 

 そう言って、コアスプレンダーをエターナルの前方へと移動させ、
ミネルバ時代と同じように待ち構えていると、再びバルトフェルドさんから爆弾が投下された。

 

『いや、君に使ってもらうのは残念ながらフォースシルエットじゃない。
 “デスティニーシルエット”というやつだ』
「“デスティニーシルエット”ですって?あの幻になった4番目のシルエットが積んであるんですか!?
 確かに火力は申し分ないと思いますけど、聞いた話だとエネルギー効率が凄く悪いらしいとか」
『詳しい事は僕も知らないけど、まあキラ君が君から得たデータやらを元に改良したと言っていたし、
 恐らく問題ないだろう。
 正直、余り時間も無い。とりあえずは、メイリン君の指示に従ってくれ。僕も発進準備に掛かる』

 

《それじゃ、お姉ちゃんも心配だしちゃっちゃとしちゃおうか。シン、いつも通りにね》
「いつも通りか・・・そうだな、いつも通り、よろしくなメイリン」
《了解。コアスプレンダーは既に発進していますので、
 ハッチ解放後デスティニーシルエットの射出を行います。
 その後、続けてチェスト、レッグの順に射出します。
 発進のタイミングはコアスプレンダーパイロットにお任せします》
「コアスプレンダー了解。こちらの準備は完了。いつでもどうぞ」
《了解しました。インパルス、発進スタンバイ。モジュールはデスティニーを選択。
 シルエットハンガー04号を解放します。
 シルエットフライヤー射出スタンバイ。プラットホームのセットを完了。射出用カタパルトオンライン。
 射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。ハッチ開放、発進スタンバイ。
 全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。
 射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。
 デスティニーシルエットフライヤー、射出、どうぞ!
 続いてチェストフライヤー射出、どうぞ!レッグフライヤー射出、どうぞ!》

 

 エターナルの格納庫に急造された射出カタパルトから射出されてくるフライヤーを見ながら、
俺は冷静にドッキングのタイミングを計った。
デスティニーに移ってからはルナが乗っていたインパルスだが、
どんだけ離れていようとも体はその感覚を覚えている。
シミュレーションで、練習で、実戦で何百回とやってきた事だ。
失敗するなんて考えは微塵も浮かばなかった。
いつも通りに、チェストとレッグとドッキングをし、シルエットとドッキングする。
それだけの事だ。後ろに座っているラクスさんが緊張しているのを感じたが、
俺にとっては眼を瞑ってても出来る簡単な作業だ。
そんな事を考えているうちに、チェストとレッグとのドッキングは流れるように完了し、
シルエットとのドッキングに合わせた。
「デスティニーシルエット。
 以前データを見た時は何て燃費の悪い奴だと思ったけど、使いこなしてみせるさ!」

 

 そして、フライヤーから分離したデスティニーシルエットが静かに背部へと接続され、
それに合わせて今まで灰色だった装甲に色が浮かび上がってきた。
色はフォースに近い青と赤を基調としたトリコロールカラー。
初めて扱う事になるシルエットの筈なのに、不思議な程に違和感は感じなかった。
何より、機体全体から伝わってくる感覚が、この機体が自分の機体なのだと認識させてくれた。
間違いない。こいつは俺のインパルスだ。そして、あのデスティニーだ。
こいつとなら、どんな敵とだって戦える。もう、負けやしない!

 

「インパルス、ドッキング完了。ラクスさん、直ちにルナ達の救援へ向かいます。命令を」
「分かりましたわ。ラクス・クラインが【歌姫の騎士】シン・アスカに命じます。
 この戦いを私達の最後の戦いとし、真の平和への第一歩とする為、
 目前へと迫った脅威をその力でもって撃ち払いなさい」

 

「了解。シン・アスカ、デスティニーインパルス行きます!」

 
 

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◎ZGMF-X56S/θ デスティニーインパルス04R
試作機として4機建造されたデスティニーインパルスの最後の1機を改修、改良したシン・アスカ専用機。
デスティニー開発の要因ともなった機体エネルギーの運用効率を改善する為、
主だったビーム兵器群の大多数が取り除かれ、それによって低下した火力は、
完全に独立したマガジン形式の武装を持たせる事によって補う事になった。
さらに、デュートリオンビームでのエネルギー補給が出来ない点を、
複数のプロペラントタンクを取り付ける事によって大幅に改善。
その結果、機動力においてはデスティニー以上の俊敏性を発揮し、
一撃離脱の戦法が可能な機体になっている。

また、キラ・ヤマトによって収集されたシン・アスカのMS操縦技術のデータと、
月面から回収されたデスティニーのブラックボックスから獲られた戦闘データを元に
チューンナップされており、いつ何時シン・アスカが搭乗しても問題の無いような
セッティングが施されている。

 
 

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