「もう限界だ!!戻れ!!」
シンの悲痛の叫びがコックピットの中に響いた
『まだだ!もっと砕かねば、被害が大きくなってしまう!』
「けど、ジンは大気圏を突入出来ないのを知ってるだろ!?」
『自分で蒔いた種は刈らねばならん!!
お前は沈黙しているあの機体を回収してやれ!!
仲間なんだろう!?』
テロリストが指し示すのは、
鈍い光が失われてから微動だにしていないZガンダムである
『さぁ、行け!』
ガァアァン!
「うわっ!!」
『あのパイロットによろしく言っておいてくれ!』
ジンに蹴り飛ばされるインパルス――流された先にはZガンダム
アスランのザクは既に帰還したようだった
沈黙しているZをミネルバのハッチに移動させながら、
シンは粉々になって行くユニウスセブンを見つめた
――同時に、摩擦熱で爆発して行くジン――
「……格好つけやがって……」
シンは無意識に敬礼のポーズをとっていた
それには怒りも哀しみも乗り越えた戦士たちへの畏敬の念が込められていた
テロリストとでさえ、理解しあうことが出来る
そこにはナチュラルもコーディネイターも関係無い尊さがある
しかし、憎しみ、嫉妬に囚われていてはそれは永遠に訪れない
カミーユはそれを今まで伝えたかったのだとシンは理解する
今までの振る舞いを振り返ると、
自分はなんて愚かだっただろうとシンは反省した
「カミーユ……さんに謝ろう……」
あの光景を創ったカミーユは、きっと人の『調整者(かくしん)』だ
あの人の言うことが理解されれば、きっと争い事は消えるだろうと、シンは感じた
しかし、それは儚い願いであった
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機動戦士ZガンダムDESTINY
第08話『喪失と決意』
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ミネルバは、細かい破片を更に砕きながら大気圏を突入し、
カガリの計らいでオーブに身を寄せていた
ドックにて、これまでの労をねぎらうかのようにミネルバの整備が始まっていた
回収したきり整備をしていなかったアビスも、時間が取れたことから整備が始まっている
平時の時には仕事の無いパイロットたちには休暇が出された
しかし、その休暇も使わない者がいた
「何でこんなことに……」
医務室にてシンが無念そうに拳を握り締めている
その視線の先には無機質な表情
――カミーユがベッドに横たわっている
あの後、Zで気を失っていたカミーユは医務室へと運ばれた
しかし、何時までたっても意識は戻らない
否。意識はあるのだが、空虚を見つめ、視線が虚ろであった
医者の診断だと、極度の統合失調症に似た症状らしい
自分の無力さを嘆き、涙が溢れる
「俺は……見たんだ……
人が……理解しあえる姿をこの目で……
なのに……それを見せてくれたあんたがっ……
何でこんな目に会わなきゃならないんだぁぁぁ!!」
ベッドのシーツにすがって、恥も外聞もなく泣き叫ぶ
人が分かりあえることと比べて、怒り、哀しみ、憎しみがどれだけ下らないことかを身をもって知ったシンだが、
自分を見捨てずにそれを教えてくれた人間はもうここにはいない
こんなことがあってたまるかと、
シンは子供のように泣き続けた
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あまりに疲弊しきったシンを見かねた医者たちは、気分転換に外出を勧められた
気が乗らないシンであったが、艦長命令という手続きを踏んでいたために、
外に出ない訳にはいかなかった
仕方なしに行く気も無かった家族が眠る慰霊碑へと足を運んだ
心地のいいはずの潮風すら、感じることが出来ない
「(マユ……俺は……どうしたらいいんだ……)」
夕日が目に染みる
涙が浮かぶのはそのせいにしておこうとシンは思った
《泣かないで》
「えっ……?」
女の声が聞こえた気がした
ユニウスセブンの時に似た感覚がシンを襲ったが、直ぐにそれは消え失せた
「カミーユ……さんはいないんだ……気のせいか……」
きっと疲れているんだろうと自分にいい聞かせ、シンはその場を後にした
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――その日の晩の出来事である――
《シン》
《……カミーユ…さん!?》
カミーユの思念がシンの夢に訪れたのだ
その表情に無機質さはない
《……》
カミーユは何も語らない。どれほどの時が過ぎただろうか
《……すみませんでした……俺は……俺は……》
シンが己の生の感情を露にし始める
シンは叱責か、罵声を喰らうかと思った
《気にするな》
しかし、カミーユの表情は穏やかのままだ
《……でも……!!》
むしろシンは罵って欲しかった
お前のせいだと言われればどんなに楽かと思えた
《俺は少し疲れた。ミネルバを頼むぞ》
《……俺には……無理です……》
シンから弱気な言葉が漏れた
そんなシンの肩を叩きながら、カミーユは続ける
《大丈夫だ。お前なら出来る。革新を見たお前ならな
……じゃあ、暫くお別れだ》
《待って下さい!!》
そこで夢は醒めた
ベッドから飛び起き、夢を思い返す
「……俺に……出来るのかな……?」
拳を強く握る
使命感が背中を押した
「……いや、出来るか出来ないかじゃなくて……
やるかやらないかだ……!」
シンの心には、新たな決意が芽生えていたのだ