Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第05話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 08:58:26

敵陣の近くで孤軍奮闘を続けるシン。ザムザザーも戦闘に加わり、いよいよ危機的な状況に
陥ってくる。更に、先程のタンホイザーの件もあり、シンの体力も徐々に消耗していく。

 

「くそっ……このままじゃ……!」

 

インパルスのエネルギーも既にあと残り僅かである。その不安感からシンに焦りが生じる。
焦りは集中力を奪い、注意力を低下させて隙を生み出す。

 

「しまった!?」

 

その隙をザムザザーに突かれ、インパルスはクローで片足を引き千切られてしまう。
そしてそのままもう片方のザムザザーのクローに胴体を掴まれてしまう。

 

「あ……!…ぐっ!」
『フン!ザフトのGも大した事は無いな!』

 

接触回線から勝ち誇ったザムザザーのパイロットの声が聞こえてくる。
……その瞬間、シンの脳裏に"死"と言う言葉がよぎる。
両親の事、妹のマユの事、その他諸々……
絶望と言う言葉はこんな事を言うんだな、とシンは思った。

 

《生きるんだ……!》

 

不意に誰かの声がシンの頭に響く。
その声を聞いて、ふと我に返るシン。自分が何故まだこうして生きているのかを思い出す。
まだ死ねない、死にたくないと言う気持ちが頭から溢れた瞬間、シンの精神に変化が起こる。

 

(こんな所でこんな奴らに殺されてたまるか……俺は生きるんだ……)
「生きるんだよぉぉぉ!」

 

叫び声を上げた瞬間シンの頭の中で何かが弾ける。
すると焦りは消え、落ち着きを取り戻し、冷静に状況を判断出来るようになる。
瞬時にモニターを見回すと右のモニターに何かが近づいて来てるのが確認できた。
シンには見覚えがある。それはカミーユのウェイヴライダーであった。

 

(あの人が出たのか……!)

 

シンにとって気持ちは複雑だが、好ましい状況である事は分かっていた。
そんなシンの安心感がカミーユにも伝わる。

 

「落ち着いた……?インパルス、聞こえるか!?こちらカミーユ=ビダンだ、援護する!」

 

カミーユはウェイヴライダーをMSに変形させ、ビームライフルをザムザザーのクローに二連射
する。一発が命中するものの、まだクローは破壊できない。
それを確認した瞬間、カミーユはバーニアのペダルを一気に踏み込み、同時にマニピュレーター
の操作を行いサーベルラックよりビームサーベルを左腕で引き抜き、逆袈裟切でクローの間接
を狙う。急加速からのΖガンダムの突進にザムザザーは身動きを取れずにクローの間接を切り
取られる。
そしてΖガンダムは少しザムザザーと距離を取った後、再びウェイヴライダーに変形させて高度
を確保する。

 

『インパルス、一度下がれ!ここは俺が持たせる!』
「了解だ!」

 

何故戦場にカミーユが出ているのかなんてことは今のシンにとってはどうでもよかった。
ただ、今はこの場を何とかしようと言う気持ちで一杯だったからだ。
バランスの悪くなったインパルスに無茶な加速を掛け、ミネルバへ向かうシン。
無規則に掛かる重圧を気にする事も無くただひたすら懸命に急ぐ。

 

『ミネルバ、デュートリオンビームとレッグフライヤーとソードシルエットの準備を!』
「えっ!?」
『早く!』
「やんなさい!」

 

いきなりの要求に一瞬の戸惑いを見せるメイリンであったが、シンとタリアの言葉にすぐに
デュートリオンビームを照射させる。

 

『MSデッキ、レッグフライヤーとソードシルエットを射出して下さい!』
「おい、お前ぇら、仕事だ!もたもたすんなよぉ!」
「はいっ、親方ぁ!」

 

マッドの豪快な声が響き渡り、整備士達が一斉に行動を開始する。

 

「よっしゃ、出すぜ!」

 

準備を終え、ミネルバのカタパルトから予備のレッグフライヤーとインパルスの換装装備の
一つ、ソードシルエットが射出される。

 

「…よしっ!」

 

エネルギーの回復を確認し、ソードシルエットへの換装を終えたインパルスは再び前線へと
向かって行く。その体に紅い色を纏って……

 
 

「ぬうっ……!何だあのMSは!?」
「過去のデータベースからも該当機種ありません!」
「ザフトの新型とでも言うのか!?」

 

カミーユのΖガンダムと交戦するザムザザーのパイロット達は焦っていた。
Ζガンダムは変形を繰り返しながら攻撃してくる。MS形態の時は明らかに空中戦が出来そうも
無い様子なのだが、ある程度攻撃をするとすぐさまウェイブライダーに変形して高度を確保する
戦法で空中戦を戦っていた。
しかし、どう考えても空中で自在に動き回れるザムザザーの方がサイズを無視しても有利の筈
なのに、どういうわけかザムザザーの攻撃はことごとく回避され、Ζガンダムから放たれる正確
な射撃はザムザザーのリフレクターの隙間を撃ち貫く。

 

「隊長!敵MSが捕捉出来ません!」
「くぅっ、ロックオンに拘るな!目で捉えるんだ!」
「駄目です!死角に入られました!」
「なんだと!?」

 

ザムザザーは小回りが効かない。カミーユは後ろに回りこみ、ザムザザーの真ん中に向けて
ビームライフルを放つ。

 

「落ちろぉ!」

 

後ろからの射撃をザムザザーは回避できずにまともに直撃を受ける。

 

「何だとぉ!?」
「隊長、機関が不安定になっています!このままでは……!」
「海に落ちます!」
「ぬうぅぅ!」

 

コントロールを失ったザムザザーでは既にどうしようも出来なくなっていた。
コックピットの真ん中で隊長が呻き、歯を食いしばるが何も出来なかった。
そしてそのままザムザザーは海に沈み、爆散した。

 

「後は船をやれば……」

 

残った敵MSをビームガンで落としながら艦隊の方向へ向かうカミーユ。

 

「……!?あれは……!」

 

艦隊の近くまで接近すると、カミーユの目に煙があちらこちらから昇っているのが見えた。
その様子に何事かと目を凝らす。
すると、そこには大きな剣を振り回す一匹の修羅がいた。
片っ端から文字通り艦もMSも叩き落している赤の映えるMS。ソードシルエットに換装した
インパルスであった。
インパルスは次々と艦やMSを落としていく。

 

「何て動きだ……まるで鬼みたいじゃないか……」

 

そのインパルスの姿にカミーユは戦慄を覚える。

 

「シン……」
「……」

 

ミネルバの上からその様子を見ていたルナマリアとレイも、もちろんミネルバクルーも呆然と
していた。

 

こうして全てを破壊しつくしたシンの活躍によって連合の戦力は無効化した。
後方のオーブ軍は仕掛けて来る気配はない。
各MS収容後、ミネルバはその場を離れていった。

 
 

最後に帰還したシンはMSを降りるや否や、クルー達に取り囲まれた。

 

「どうしたんだよシン!急に強くなっちゃってさぁ!」
「いきなり換装パーツ出せって言われて焦っちゃったぜ!」
「何にしてもお前の活躍で命拾いしたぜ!」

 

賞賛を浴びるシンの脇でカミーユもまたMSから降りてくる。

 

「お前さんもよくやってくれたな」

 

話し掛けて来たのはマッドであった。

 

「僕もまだ死にたく無いですからね。出来る事はしますよ」
「それにしてもあんな戦い方でよく出て行ったな?」
「被弾はしてないはずですよ」
「そうじゃない、お前さんの腕を褒めてやってんだよ」
「お世辞、いらないですよ」
「そうじゃないさ、照れてんのか?」
「見返りは無いって言ってんです」
「ふん、そういうことか捻くれ者め!」

 

そう言ってマッドは歯を見せて笑い、カミーユも少し微笑んでデッキを後にした。

 
 

その日の夜、カミーユは夕食を終えた後呼び出しを受けていた艦長室へと向かっていた。
その艦長室へ向かう通路の途中で一人の人物がカミーユを待ち伏せしていた。シンだった。
怪訝に思いながらもカミーユがその脇を通り過ぎようとすると、すれ違いざまにシンが話しかけ
てきた。

 

「あの時の声、あんたか?」
「…何の事だ?」
「しらばっくれるな、俺がMAに捕まったとき"生きろ"って言ったろ?」
「……」
「あの声は確かにあんたの声だった」

 

カミーユは疑惑に満ちた視線で語りかけてくるシンを少し鬱陶しく感じた。
それに付け加え、自分を"あんた"と呼ぶシンにいくらか不満の感情も沸いてくる。

 

「いい加減、名前を覚えてくれないか?俺はカミーユ=ビダンで"あんた"じゃない」
「誤魔化すか!?それで引き下がらないぜ!」

 

不満を口にしたつもりだったが、話を噛み合わせようとしないシンに呆れたのか、カミーユは
大きな溜息をついて応える。

 

「シン……お前にはまだ分からないことだ」
「認めたな……!あの声を聞いたときと同じ感覚を二回体験している。
…一体あんたは何者なんだ?」
「違う世界から来たって言ったろ?艦長に呼ばれてるんだ、又にしてくれ」
「お、おいっ!」

 

カミーユはシンを横目で見るとその場を去っていった。
シンは初めてカミーユと出会った時から不安を抱いていた。それはカミーユを畏れるという事に
他ならない事で、シンはそれを認めたくなかったのだ。
加えて戦場でのカミーユの動き、不利な機体での戦いはシンの赤服としてのプライドに障った
のだ。
シンはまだカミーユを認めたくなかった。

 
 

「失礼します」

 

艦長室へと入室するカミーユを待っていたのはタリアとアーサーだった。

 

「カミーユ、今日の戦いはご苦労でした」
「はい、有難うございます」
「それで、今度からのあなたの待遇だけど、本国のデュランダル議長との話し合いの結果、
あなたにこの艦のパイロットになってもらう事にしたわ」
「…いいんですか?」

 

急な決定にカミーユは怪訝に思い、思わず問い返してしまった。
そんなカミーユの態度を煩わしく思ったのか、タリアの眉間に若干の皺が寄る。

 

「上からの命令よ。軍で働いていたあなたならその意味が分かるでしょ?」
「はい…でも僕は艦長に意見して出て行ったんですよ?それについて…」
「つべこべ言うのはお止しなさい。男の子ならもっとハキハキと!」
「は、はい。すみません……」

 

他人なのに母親のように睨みつけるタリアの迫力に押されたのか、カミーユは気合を削がれて
しまう。他人に何故このような事を言われなければならないのかという不満はあったが、
ウォン=リーのようにいきなり殴られないだけマシかと思った。

 

「…で、その決定を受けてあなたを赤服とします。後で正式に制服を渡しますので、以後あなた
は赤服として行動して下さい」
「その赤服というのは何です?」

 

カミーユの質問を受けてアーサーが答える。

 

「赤服と言うのはザフトのエリートが着る赤い制服の事である。
ザフトには階級が存在しないので服の色でその代わりをしていると言う事だ」
「僕がエリートですか」
「君が過去、違う世界でどのような経験をしてきたかは知らないが、ザフトではまだ新兵だ。
加えて今日の戦果を吟味した上での決定だ。デュランダル議長は君の事を高く評価して
おいでである」
「本音を言うと、私はあなたの事を完全に信用しきれていない所があるわ。けど、実際にこの艦
の戦力も足りていないのも事実なの。
……正直に言えば今日の戦闘でもあなたの言った通りずっとマークさせてもらいました」
「えぃっ!?そ、そんなこと言っちゃていいんですか、艦長!?」

 

アーサーはそんな事を言う必要は無かったのではないかと思う。いくら出撃を許可した時に
そんなやり取りがあったとしても、カミーユの側にしてみれば覚悟の上での言葉の"アヤ"で
あったのかもしれないのだ。
もし、この事がきっかけでカミーユが造反などすれば、Ζガンダムの働きを考えると相当な
被害を被る事になるのではないかと心配する。
しかし、アーサーの懸念に対してカミーユは冷静な顔つきをしていた。

 

「……正しい判断だと思います」
「物分りが良くて助かったわ、期待させてもらいます」
「はい、失礼します」

 

会話を終え、カミーユが艦長室を退出していく。
ドアが閉まり、艦長室にはタリアとアーサーだけが残された。

 

「艦長…あんなこと言って彼が何か仕出かしたらどうするつもりなんですか!?」
「あの子は賢い子よ。自分と周りの状況は十分に理解しているわ」
「本当ですかぁ……?私にはただの神経質そうな少年にしか見えないんですが……」
「見る目が無いのよ、アーサーは」
「そうですかねぇ……」

 

アーサーの言葉が頓珍漢な発言にしか聞こえないタリアは、そんな彼をなじって笑った。

 

その夜はミネルバのクルーは今日を無事に乗り切った安堵感に包まれ、次なる戦いに備えて
束の間の休息をとった。
しかし、そんな彼らをよそに世界は大きく動き始める。

 

プラントにて調査を続ける前大戦の英雄の一人は謎の新たな歌姫と出会い、旧友に誘われて
ザフトに復隊する。
そして、デュランダルより新型のMSを授かり、それを駆ってミネルバへと向かう。
同じ頃、もう一人の英雄は襲撃された歌姫を仲間と共に守り、象徴の人形になりかけたオーブ
の姫君を連れ出した。
彼もまた再び自由の翼を広げ、大天使と共に戦場へと舞い戻ろうとしていた。
様々な思いが交錯する中、戦場は冷たい現実のみを人に突きつける事になる……