Zion-Seed 第20話 PHASE-02『その名はガンダム』
■ ガンダムが立つまで ■
「シートの後ろに」
マリューの指示に素直に従うキラ。なんといっても相手は銃を持っている、しかもコーディネイター相手に
当ててくる化け物である、逆らいようが無い。
「この機体だけでも、私にだって動かすぐらい……」
残念ながらこの手の台詞が出た以上、本当に動かす事以上のことはできない。
機体が起動をはじめ、次々と電源が入る。
モニター画面にも電源が入り、側面のサブモニターにX-303の姿が映し出される。
キラの脳裏に幼馴染のアスランが浮かぶが、まあ気のせいだろうと前を向く。
丁度、この機体のOSが起動したところであった。
「がん、だむ?」
General Unilateral Neuro-Link Dispersive Autonomic Maneuver、頭文字をとってGUNDAM、ガンダムであった。
キラはボーっとX-105が立ち上がるのをコクピットで眺めていた。
対するマリューは必死である。機体は完成しているものの、OSは最後まで完成していない。
こうなるならジオンのザクのOSでも入れておけばよかったのだ。
すべてを国産にこだわった軍上層部のおかげで、納期が半月以上も伸びた結果がこれである。
状況が状況でなければ、海に向かって叫びたいマリューであった。
とまあ、色々と問題のあるOSではあったが、何とか立ち上がる事には成功したのであった。
■ 金髪さん ■
ザフトのジンがコロニー内で暴れ回る中、サイら4人は逃げ惑う群衆とともに安全な場所を求めて逃げ回っていた。
するとシェルターのある工区が突如爆発、内部より2機のMSが出現する。
「まだいたのか!」
絶望の声を上げる一般人A、逃げ惑う群衆。
「キャッ」
群衆に突き飛ばされ、ミリアリアが転んでしまう。
慌てて助け起こすトールに、その他二名。気がつけば四人以外は文字通り、蜘蛛の子を散らすように消えていた。
「そこの4人、こっちよ。早くなさい!」
ミリアリアが泣きそうな顔であたりを見渡すと、美人の金髪さんが手招きしている。
4人は救われた思いで駆け出すのであった。
■ ずっと俺(西川さん)のターン! ■
アスランよりラスティの死を知らされたにs……いや、ミゲルは怒り心頭でX-105にむかう。
とりあえず様子見っぽく、二連射。だが、たどたどしい足取りでかわされる。
「……(当てろよ!)」
「(やべ、とりあえずごまかす!)ならあの機体は俺が捕獲する。おまえはそれを持って先に離脱しろ」
そう言って突撃銃をしまい、重斬刀を装備するミゲルのジン。
「あっ……」
死んだラスティ、死にゆくミゲルのことより、X-105を見て愛しのキラの事を考えるアスラン。だからホモホモ言われるんだ。
とりあえず気を取り直し、コーディネイターお得意の超高速演算をもってOSを書き換えてゆく。
よたよた歩くX-105に突貫するミゲル。
ぬおー! と気合も新たに切りかかるが、またしてもかわされる。しっかりしろコーディネイター。
「……(また、外した)」
「ちぃ!(いかん、このままでは『黄昏の魔弾』の名が!)」
のろのろと逃げるX-105を再び捉え、とりゃー! と跳躍、袈裟切りで切りかかる。
だが、その瞬間、灰色のボディが鮮やかな白赤青のトリコロールカラーに変化、ジンの重斬刀をその両腕でもって
防いだのである。
「なにぃ!」
驚き距離をとるミゲル。
なんて装甲だ! と驚くミゲルに、これはフェイズシフトの装甲だとしたり顔で答えるアスラン。
そういう事は早く言え。自分だって驚いてたくせに。
「展開されたらジンのサーベルなんて通用しない」
そう言って、自身の奪ったX-303のPS装甲を展開する。
「(早く言え! そういう事は!)お前は早く離脱しろ。いつまでもうろうろするな!」
「……(でも正直、ミゲルだけじゃ不安なんだが)」
アスランはミゲルの声を聞きながらX-105を見る。どうにもキラの顔ばかり浮かぶ。
ホント、重症だなと内心で呟き、機体を操り戦場を離脱した。
三度突貫するミゲルのジン。
「いくら装甲が硬かろうが、そんな動きでー!!」
雄たけびを上げるミゲル。なぜかアスランがいなくなってからのほうがいい動きのミゲルであった。
■ 超人類(笑)再び ■
ジンの斬撃に揺れるコクピットの中で、キラはこの機体のOSに欠点があることに気付く。
「これって!?」
ふとサブモニターに目をやると爆炎の中、逃げ惑う友人達の姿。
しかも機体が後退した事で、すぐ足元に彼らが位置している。
「っぁ!!」
マリューにおいかぶさるようにキラは機体の操作を行う。
丁度、カウンターのような形でショルダータックルが決まる。
吹っ飛ぶジン。
唖然とキラの行動を傍観するマリュー。キラは下の友人達の為に必死に機体を弄繰り回す。
「無茶苦茶だ! こんなOSでこれだけの機体を動かそうだなんて……」
おもわず、まだ全て終わってないのよ、仕方ないでしょ! と締め切り間際の漫画家のような返答を返すマリュー大尉。
そんなアホなやり取りの間に、吹っ飛んだジンが立ち上がる。
「どいてください! 早く!」
キラの迫力に押され、思わずどいてしまうマリューさん。
キラはキーボードを取り出すと、猛烈な勢いでプログラムを書き換えていく。
その間、実にジンが突っ込んでくるまでという僅かな時間。
バルカンで牽制すると、勢いを落とし切りかかるジンにカウンターでパンチを食らわす。
再び、吹っ飛ぶジン。
更にブツブツ言いながらプログラムを書き換えていくキラ。
動きが良くなったことを警戒し、ジンは再び突撃銃を装備、距離をとっての攻撃に切り替えたのだ。
その銃撃を数発食らうX-105であったが、そのときにはプログラムの書き換えは終了していた。流石である。
「何か武器は?」
検索すると頭部バルカンと腰のアーマーシュナイダーのみである。
銃ぐらい装備しとけー! と逆切れぎみにナイフを両手に装備し、ジンへと突っ込む。
尋常ならざる機動で、ジンの銃撃をかいくぐり、右腕の付け根と首筋にアーマーシュナイダーをぶっ刺すキラ。
この攻撃で、ジンは完全に機能を停止した。
「っ! ジンから離れて! 早く!」
ザフト兵の動きを見て、ジンを自爆させる気だと気付いたマリューはキラに指示を出すが、それに気が付くほど
キラは察しが良くない。
見事、爆発に巻き込まれる事になる。
まあ、PS装甲のおかげで無事ではあったが……バッテリーは切れたけど。
■ ■
コロニーの外では、ついにムウたちの母艦がジンの攻撃により操舵不能となり、コロニー外壁と衝突、爆散してしまう。
ついに、残るは2機のメビウス・ゼロのみとなってしまった。
だが、月からの生き残りの2人は伊達ではない。
見事なコンビネーションでジンを1機、2機と退却に追い込んでいく。
ヴァイサリスではアデスが部下の後退に驚きの声を上げていた。
対するクルーゼは不敵な笑みを浮かべる。
「どうやら、いささか煩い蝿が1、2匹、飛んでいるようだぞ」
「はぁ?」
クルーゼはこういった独特の言い回しを好む。
この場合、『エンディミオンの鷹』と『世界樹の隼』がいると言えば、アデスも即座に理解したであろう。
ジオン・ザフト合わせて二桁を超えるMSを撃墜した連合のトップエース2人である。
軍関係者でこの2人の名を知らぬものなどいなかった。
更に、ミゲルのエマージェンシーを受け、席を立つ。
「最後の1機、そのままにはしておけん」
ラウ・ル・クルーゼ、出撃である。
■ ■
爆風に吹き飛ばされ、気を失っていたナタルであったが、死体やら何やらがクッションになってくれたのか、
幸いにして外傷は無かった。
管制室に戻り、生き残りを探すものの、彼女の声にこたえるものは無かった。
更に声を上げるが、それに答えるものは無く、しかし、歪んだドアを蹴破って士官が1人ライト片手に管制室に
姿を現した。ノイマン曹長である。
「バジルール少尉、ご無事で……」
なんとか生き残りの士官と合流できたナタルであった。
■ 鷹と隼と変態仮面 ■
「引き上げる? だが、まだなにか……」
「大尉! ヤツが来ます!!」
「私がお前達を感じるように、お前達も私を感じるのか? 不幸な宿縁だな、ムウ・ラ・フラガ、そして……」
クルーゼのシグーがコロニーへと加速する。
「ラウ・ル・クルーゼか! 厄介な!」
「大尉、私が囮になります。挟み込んで対処しましょう」
「いや、囮は俺がやる。とどめはお前に任す!」
「大尉!」
2機のメビウス・ゼロが二手に別れ、シグーへと向かっていく。
「ほぅ、1機で来るか。ムウ・ラ・フラガ、だがなぁ!」
「おおぉ!」
巧みに死角から攻撃するガンバレルをかわしながら、シグーがメビウス・ゼロへと銃撃をおこなう。
「貴様とて単機で私と渡り合えるとは思ってはいまい? ならば本命は!」
「ちぃ!」
「かわした!?」
クルーゼを障害物の多い場所へ誘導していたフラガだったが、クルーゼは天頂方向からの逆落としを見事に避ける。
「お前達はいつでも邪魔だな、フラガ家の! もっともお前達にも私がご同様かな」
クルーゼは自機をヘリオポリス内へと向かわせる。
「ヘリオポリスの中に! ちぃ!」
「大尉、罠ですよ!」
コロニー内、特に港湾部の入り組んだ場所はMSの独壇場となる。
ただでさえ不利なメビウス・ゼロが戦場として選ぶ場所ではない。
「んなこたぁ、わかってる!」
それでも行かねばならなかった。彼らはヘリオポリスのG兵器を護る為にいるのだから。
■ ■
X-105から降りたキラは、気絶したマリューをどうやってコクピットから降ろすか途方にくれていた。
正直、このままとんずらしてしまおうかという気持ちも無くは無かった。
が、流石に怪我人1人おいて逃げ出すのも男としてどうかと、キラは思う。
「おーい、キラー!」
そんな事を考えていたら崩壊したビルの陰からサイたち4人と、もう1人見た事のない美人が近づいてくる。
「あ、皆……無事でよかった」
「ああ、この人に助けてもらったよ。えーと」
「セイラ、セイラ・マスよ。良かったわね、お友達が無事で」
サイやトール、ミリアリアにカズイ、友人達の無事な様子にホッと安堵の息をつく。
そうだ。とキラはサイたちに手伝ってもらいマリューを降ろす事にした。
「あら、そちらの女性、怪我をしているのね?」
セイラさんが気絶中のマリューを見てキラに尋ねる。近づかれたキラは、フレイより美人!? とかアホなことを
考えながらも、マリューが銃で撃たれたことを説明する。
どうやら医学生らしいセイラは皆に指示を出すと、テキパキとマリューの治療をはじめる。
道具が無いから簡単な治療しかできないけど。と謙遜していたが、医学生というだけあって手際が良いものであった。
「しっかし、地球連合製のMSねー。ジオンとかザフトのに比べると、ずいぶんカクカクしてるよな~」
セイラの手伝いはミリアリア1人で十分という事で、手持ち無沙汰となったキラたち4人はとりあえずX-105について
調べはじめる。
このあたりは流石オーブ人。この状況下においても全く危機感がない。それとも工学部だけあって、持ち前の研究心に
火がついたのだろうか。
「これ、操縦してたみたいだけどキラ、OSは?」
「初めて見たやつ。バランス制御で手一杯のグダグダなやつだった。とっさに色々弄ったけど」
「ふーん、地球連合が使うんなら基本はナチュラルが動かすんだろ? なんでそんなOSなんだ?」
「あの人は未完成とか言ってたけど……」
そんな会話をしていると、マリューが気がついたようでミリアリアがキラを呼ぶ。
キラがマリューのほうに行った後も、残る3人は、いや特にトールとカズイは物珍しそうにX-105をチェックする。
さすがに最年長のサイはそんな2人をたしなめてはいたが。
■ 魔乳 vs 金髪さん ■
気がついたマリューは傍らのミリアリアから水をいただくと、X-105に取り付いているトールたちにいきなり発砲。
流石、大西洋連邦クオリティ! 中立国の民間人に発砲するのに何のためらいも無い。
憮然とするトールたちであったが、キラが相手がコーディネイターを簡単に始末する凄腕のヒットマンという事を
耳打ちすると慌てて素直に従う。
唐突に乱入したとはいえ、よもや命の恩人に発砲すまいと思っていたキラは銃を隠しておけばよかったと後悔した。
銃を突きつけられ、キラたちは1列に並ばされる。このまま順に殺されるのか!? とびびるキラたちであったが、
名前を言わされただけであった。
そして、X-105を軍の重要機密と説明したマリューは、
「申し訳ないけど、あなた達をこのまま解散させるわけにはいかなくなりました」
と、キラたちに告げる。
その一方的な物言いに、サイたちも反論しようとするが銃口の前には押し黙るしかなかった。
なにせ相手は凄腕のヒットマン、下手に逆らえば命はない。
「銃を降ろしなさい」
一連の動きを黙ってみていたセイラさんが静かに進み出る。
「それとも、中立国の民間人を銃で脅すのが大西洋連邦軍人のやりかたかしら?」
いえ、それがブルーコスモスのやり口だったわね。そうしめられて二の句の告げなくなったマリューだが、ここで
銃で威嚇すればあのブルコスと同じにされてしまう。
内心の怒りをどうにか押し殺し、銃を降ろす。
「……ですが、しかるべき所と連絡が取れ、処置が決定するまでは私と行動を共にしてもらいます。これだけは私としても
譲るわけにはいきません」
「ええ、それには従いましょう。……なんだか勝手に話を進めてしまったけれど、あなた達も了承してもらえるかしら?」
はらはらと2人のやり取りを見守っていたキラたちは、困ったような顔でこちらを見るセイラさんにこくこくと頷いた。
■ ■
ノイマンらと合流したナタルではあったが、その状況のあまりの悪さに頭を抱える。
しかも士官学校を出たての自分が最上位である。最悪であった。
そんなときである、X-105からの通信が届いたのは。
これを聞いたナタルはなんとしてもX-105と合流せねば、と決意する。
どうにか生き残りの士官、下士官を集めたナタルたちはアークエンジェルを何とか動かそうとする。
幸い、最低ギリギリの人員は確保できた。そして肝心のアークエンジェルも新造艦だけあってか、爆発の被害は
殆どなかった。
とはいえ、ドックは完全に破壊され、入り口もふさがっている。
ナタルは脱出の為、特装砲にて入り口を破壊する。実に地球連合らしい乱暴なやり方であった。
■ ■
クルーゼら2対1の戦いは決着が付こうとしていた。
入り組んだ港湾部の障害物を上手く利用したクルーゼのシグーが、2機のメビウス・ゼロのガンバレル合計8機のうち
7機を破壊していた。
「ここいらで退場してくれると、ありがたいのだがな!」
「ぬおぉ!」
「大尉!!」
乱戦のさなか、ついに3機はヘリオポリス内部へと戦場を移行する。
「ほぅ? あれが」
「最後の一機か!」
「あれが、G!」
クルーゼがX-105を視認したその瞬間、ヘリオポリスの地表が爆発を起こす。
その爆発の中から白を基調とした艦艇、アークエンジェルが姿を現した。
■ レムおじさんと蜉蝣 ■
シャア・アズナブル少佐からの連絡を受けたザンジバル級機動巡洋艦『ポータル』と『リリー・マルレーン』は
L3への進路を急いでいた。
「ふんふーん、よくよくザフトと縁があるねぇボクらは?」
『そうだねぇ、大佐。しかしザフトもまた、なんでまた中立コロニーなんかで戦闘するかね?』
「ヘリオポリスだっけ? たしか、ダグラス准将のとこから聞いた事があったよ。あそこではどーも連合がMSを
造っているらしい」
『へぇ、オーブもたいしたタマだ』
「この場合、どうなんだろうねぇ? オーブは」
『さあね、少なくともあたしらが気にする事ではないけどね』
「確かに。さて、そろそろ少佐がヘリオポリスに着く頃かな?」
『だね、ザフトも気の毒に。アレのところのお嬢ちゃんたちは怖いよ?』