_LP ◆sgE4vlyyqE氏_「因縁の終わり」04

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:44:17

「あれは一体どういう事だキラ!!」
アスランは目の前にいる親友―――キラ・ヤマトを問い詰めていた。
「あれって……ああ、ガルナハンの事?」
激昂するアスランとは対照的に、キラは落ち着いていた。
まるで食事の話題を振られたかのような態度。
それが更にアスランを苛立たせる。

「それ以外にあるか!!何故何も無いと判っている場所に親衛隊を差し向けた!?
あんな一方的な虐殺が許されると思っているのか!お前は!!」
ガルナハンの虐殺。表向きは連合の残党、ブルーコスモス派の仕業であると
報じられているが、それはザフトとオーブによる情報操作の結果だ。
「仕方ないよ。あそこには僕達にとって一番危ない人物がいたんだから」
それが、シン・アスカである事は言うまでも無かった。

「馬鹿野郎!!」
全く悪びれる様子の無いキラに、アスランの堪忍袋の緒が切れた。
椅子に座っていたキラを容赦無く拳で殴り飛ばす。
たまらず椅子から壁際まで吹き飛ばされたキラだったが、
すぐ立ち上がる。が、そのままアスランに胸倉を掴まれた。
「アイツはお前が危惧するような真似をするような奴じゃない!!
何でそれが判らないんだ!」
「判ってないのは君だよ、アスラン。このご時世に口約束なんて信用できる筈ないじゃない。
それに、もし彼が敵に回ったら今の膠着状態すら危うくなるよ?」
「だったらなおさらアイツを敵に回すような真似をするべきじゃなかっただろう!
シンが生きていて敵になったらどうする気だお前は!」
「敵だった男だよ。別に敵に回さなくても最初から敵じゃないか。
それに、あれだけやられて生きてる訳無いさ」
可能性を摘むというだけの理由であのような所業が許されると、
敵だったから容赦なく撃つと、本気で言っているのか。

「キラ……お前って奴は……」
再び拳に力を込めるアスランの腕をキラは鬱陶しいと言わんばかりに払う。
「離してよアスラン。僕もこう見えて結構忙しいんだ。
それに、ここはザフトの基地だよ?階級はともかく立場は僕の方が圧倒的有利だって事忘れてない?」
「この……大馬鹿野郎……」

怒りを堪えられたが、落胆を隠す事はできない。
それ以上言葉を交わさず、アスランは割り当てられた部屋へ戻った

「クソッ……!」

収まらない怒りそのままに拳を壁に叩き付ける。変わってしまった友が許せない。
変わる事を止められなかった自分はもっと許せない。

そんな中、プライベート通信が入った。

「ラクス……か」
『ええ、お久しぶりですね、アスラン』

相手は、現プラント議長であるラクス・クラインその人だった。
アスラン自身がオーブ軍に所属している事や、現在の状況から私的な所用等で
あまり顔を合わせる事の無かった相手だ。

『キラは……どうでしたか?』
アスランは何も言わず首を横に振った。その反応を見て、ラクスは表情を曇らせる。
「そんな顔をするな、ラクス。もうキラにあんな真似をさせたりはしないさ」
無理矢理だったが、何とか笑う事ができた。
『あまり無理はしないで下さいね、貴方はオーブの要でもあるのですから』

ラクスも、何時もの穏やかな表情を取り戻していた。
積もる話も色々あったが、2人共立場があったため、会話はすぐ終わってしまった。

「キラ……」

変わってしまった愛する人を想うと、心が痛む。
何故なら、彼が変わってしまった原因は他の誰でもない自分なのだから。

初めて会った時、自らの立場も省みず、彼は自分を助けてくれた。
恐らくその時から既に彼の事を好きになっていたのだと思う。

次に会った時、彼は傷付いていた。だから、ゆっくり傷を癒して欲しいと思った。
だが、彼は再び戦場へ戻る事を望んだ。友を、周囲にいた人を守りたいというだけの理由で。

そして、そんな彼の姿をとても眩しいと感じた事が――今にして思えば、全ての過ちの始まりだった。

彼ならどんな強大な力を持っても正しく使ってくれると、
血のバレンタインのような悲劇を生みはしないと、信じた。だからこそ、
フリーダムという剣を託した。いや、正しく言うならば奪って与えた。

そして、彼女は戦いを終わらせたいと願った。
戦いさえ終われば、優しいあの人が大事な誰かの為に、その身を危険に
晒す事は無いと思ったから。

そして、大きな代償を払いながらも戦争は終わり、
自分の待ち望んでいた日々が―――彼と共に生きる平和な日々を手に入れた。
だが、それもまた戦争に飲み込まれ失われた。

そして、また願いが生まれた。

座しているだけでは平穏な世界が手に入らないのなら、自ら世界を変えたいという願いだ。
その願いも叶った。だが、その所為で本当に願っていた物が失われてしまった。

政治の世界とは、平穏等とは全く程遠い暗い闘争に満ちた世界だったのだ。
望んでいたモノが失われ、世界を変える力など自分には無いと思い知らされた。
だが、それでも逃げる訳には行かなかった。ただ、1人の男との平穏な日々という願いの為に
大勢の人達を騙し、巻き込んでしまったから。

そして、再び戦争が始まり、暗い世界と、終わりの見えない戦いの中で
彼の心は蝕まれ、擦り切れた。彼はあのような世界で生きていける程強くなかったのだ。

それに気付かず、キラ・ヤマトの力に縋り、利用して追い詰めてしまった事こそが、
彼女の最大の罪だった。

だから、再び願う。

この身にならばどのような罰でも受け入れます―――だから―――彼をこれ以上苦しめないで下さい

機体への慣熟訓練を終え、遂にデスティニーセカンドの初陣の日となった。
狙うは、ザフト軍マハムール基地。現在のザフトにおける数少ない安全地帯と
呼ばれている場所である。配備されている機体、人材、全てにおいて
地上におけるザフト・オーブ連合の基地でも最高基準にある場所であり、更に言うと、
ストライクフリーダム、インフィニットジャスティスのようなザフトの切り札は
絶対に近くにはいないという条件の揃った場所でもある。
だが、キラやアスランのような英雄を必要としないという事は、
それだけ難攻不落であるとの信頼を受けているという意味でもある。
フリーダム、ジャスティスの量産機である親衛隊専用機
αフリーダム、Ωジャスティス8機、MAアッザムモーメント4機、これらを中心とし、
量産機であるザクウォーリアⅢも多数配備されており、反抗勢力の全てが
奪還作戦を敢行したが、失敗に終わっている。

『ハウンド1よりレッド1へ。こちらは何時でも始められる』
「レッド1よりハウンド1へ。こちらも準備は完了している。時間通りに始めるぞ」
『ハウンド1了解』

静かに、時間を待つ。5分。あと5分で始まる。

シンにとっての復讐の狼煙、デュランダル派にとっての真の闘いの始まりの狼煙、
研究者にとっての夢の始まりの狼煙。

想いは違えども、目指す物は同じ。故に彼らは力を重ね

「レッド1、突入する。後は予定通りに頼む」
『ハウンド1了解』

敵を喰いちぎる。

マハムール基地は軽い混乱状態に陥っていた。

「マジかよ………確かにデュランダル派の侵攻があるって情報があったから
第2戦闘配備だったけど……1機で攻めて来ただと?」
「あり得ん、何処かに伏兵がいる筈。アレは囮だろう」
「だが……あの機体は俺の記憶が確かなら」
そう、機体が問題だったのだ。デスティニープランの象徴、悪の象徴、運命の悪魔と
呼ばれた機体、その機体が目の前にいる。

エルメスを敵基地突撃へ使用する という戦術自体は
この時代においてそれほど意外な事では無い。

「落ち着け、何故かは判らんが奴は何の動きも見せていない」
その間にマハムール基地の戦闘配備は完了した。

目の前には戦闘準備の完了した基地であり、MSは無数。
攻撃するのはたった1機と3小隊のMS。常識的に考えれば嘲笑物でしか無い戦力差だ。
だが、そんな物はシンには関係無かった。何故なら目の前にいるのは

「まさか……噂は本当だったのか」

「オペレーションバニシングレッドは失敗だった………」

待ち望んでいた敵

「いや、まだだ。ここで奴を落とせばその失態も無かった事に出来る」

許されざる敵

シンの心に呼応するかの如く、デスティニーセカンドが唸りを上げる。
ツインアイが鈍い光を放ち、翼を開き、両手にマスカレイドを構え

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

シンの咆哮と共に牙を剥く

悪魔的な加速度で突撃したデスティニーはザクⅢの合間を駆け抜ける。

1機目はマスカレイドを引っ掛けるように、切り裂いた。
2機目は後ろからビームライフルを撃ち込んだ。
更に、密集陣形を取っていたザク4機の中央に降り立ち、ゴルゴーンを乱射。

ここまでに3度立ち止まったデスティニーだが、それも一瞬であり、
他の者がデスティニーの位置を認識して照準を向けようとする頃には既にその場から消えている。

たった3度の加速で6機のMSが潰された。
その事実にマハムール守備隊の面々は戦慄した。

そして、そんな度し難い隙を見逃す程、シンは甘くない。
混乱して動きを悪くした者は容赦無く切り裂かれ、撃ち貫かれた。

「照準を付けず撃ちまくれ!!味方だけには当てるな!!」

我に返った隊長が命令を下すが、そんな命令でどうにかなるシン・アスカでは無い。
恐慌した兵士の適当な乱射となんら変わり無い攻撃程度では、シンとデスティニーには
掠らせる事すらできない。だが、その火線の集中具合も馬鹿にはできない物があった。
結局、数と言う力は馬鹿に出来はしないのだ。
回避に徹するなら対処は難しくは無い。しかし、避けているだけでは勝てる筈も無い。
だが、敵は重要な事を忘れていた。

空中で背中合わせにフルバースト射撃を続けていたαフリーダム2機が
超遠距離からの十字砲火で貫かれた。そして、この唐突な射撃の餌食になったのは
彼らだけでなかった。

『こちらハウンド1。パーティーを開始する』
「レッド1了解」

デュランダル派のやり方は、単純な囮戦法だった。
シンのデスティニーを敵に認識させ、注意を向けさせた所で攻撃を開始。
敵がシンの戦力を把握する前に削れるだけ数を減らし、シンに敵の攻撃が全て集中した所でザク・スナイパーによる
遠距離からの砲火。シンを撃ち落す事に集中し、固まって近寄らせない事ばかり
考えていた彼らは、面白いようにザク部隊の初撃の餌食となった。

「何処からの射撃だ!?」
『駄目です!射撃地点は割り出しましたが付近に敵影がありません!』
「まさか……ミラージュコロイドか!?」

正解だった。大型狙撃砲ヘルハウンドを装備させたザク・スナイパーに
ミラージュコロイドを装備させたザク・スナイパーゴースト。
エネルギー消費が早すぎるため、予備バッテリーパックを大量に用意しなければ
運用できない大飯食らいの財布泣かせなMSである。

「クソッ、舐めた真似を……!!」

狙撃地点付近に掃射をかけようと突出したアッザムモーメント1機が、
投擲されたマスカレイドにより、操縦席を貫かれた。

「まさか……これは」
ようやく敵は自分達が嵌められた事に気付いた。
固まっての掃射を続けなければデスティニーに落とされる。
かと言って掃射だけを続ければ遠距離からの狙撃の餌食になる。

グループを分けて同時に狙撃部隊の制圧に向かっても、
デスティニーの速さから逃れる事は叶わない。

故に、彼らは固まっての掃射をせず、敵の狙撃を避けながら、
デスティニーを落とさなければならないのだ。

そこからは完全にデュランダル派のペースとなった。
狙撃に脅かされ、目の前にはデスティニー。焦れてザクスナイパーの潜伏地点付近に
向かって突出しようと試みた者もいたが、それもデスティニーに落とされるか、
逆に狙撃を受けて落とされるだけという結果に陥った。

エルメスを吹かす度に凶悪なGがシンを襲う。
常人なら何も捉えられない視界の中、身体を押し潰されるような感覚の中で、ただひたすらにシンは吼える

「死ね」

最後に残ったザクⅢが蜂の巣にされ

「死んで償え」

αフリーダムが撃ち抜かれ

「自由、正義の為と嘯いてお前らが俺から奪った物に!!!」

アッザムモーメントは操縦席を串刺しにされ

「ガルナハンの皆にい!!ルナにいいいいい!!!!!!」

Ωジャスティス最後の1機は操縦席をこじ開けられ

「地獄の底で詫び続けろオオオオオオオ!!!」

操縦席に拳を叩き込まれた

そんな、一方的な虐殺を見ても、マハムール基地のMS部隊を率いる男は
何とか理性を保っていた。残るはαフリーダム4機にアッザム2機。

「フォーメーションを組むぞ」

できれば使いたくないやり方であったが、最初からこうするべきだったと彼は後悔していた。

アッザムにMSを乗せ、光波防壁を展開。内部からの射撃で敵を掃討する。
ユーラシアが開発したというアルテミスの盾を応用した機体を参考にして
考案された拠点制圧用の戦術……それを20機にも満たない敵に対して使うのは屈辱以外の何物でもなかった。

「撃て!!敵の動きが止まるまで撃ち尽くせ!!!」

αフリーダム4機、アッザム2機による掃射は容赦の無い物だった。
しかし、温い。この数倍の数の掃射を軽く捌いたシンとデスティニーは、
6機程度の弾幕では制圧できるようなモノでは無い。
シンは既に彼らの集中砲火の範囲から逃れ、残る敵全てを上空から見下ろしていた。

「レッド1よりハウンド1へ。これより仕上げに入る」
『ハウンド1了解。基地にて朗報を待つ』

役目を終えたザク隊は撤退。後は、残る敵を潰すのみ。
だが、相手は隙間無く光波防壁を展開し、容赦無い射撃を続けている。
生半可な威力の武装では突破は不可能。ただ弾かれ、撃ち抜かれ、押し潰されるだけだ。

そんな状況で、シンは、研究者との会話を思い出していた。

「そうそう、一番大事な事です。陽電子リフレクターや光波防壁を
突破できる装備についてですが」
「そんな物本当に用意したのか、アンタ……」
もう何を聞いても驚かないつもりだったが、まだ隠し玉があったとは。
「全ての鍵はマスカレイドにあります。2つを連結し、
リミッターを解除する事により、デスティニーセカンドは現時点で存在する
全ての防御壁を突破する最強の矛、グラムを得ます」
「で、欠点は?」
「欠点があると最初から決め付ける態度に少々腹が立ちますが、事実なので
文句は言いません。大した事はないですよ?それ以外の装備が使用不可能になる。それだけです」
「何だ……その程度か。俺はてっきり、使うと3分間で動けなくなるとか、
使い続けると機体がバラバラになるとか、もっと致命的な何かだと思った」
「貴方は私を何だと思ってるんですか……」
危険人物 という喉から出掛かった言葉をシンは何とか飲み込んだ。

再びエルメスに火が灯り、シンは残る敵へ向かって突撃する。

連結したマスカレイドを右手に握り、敵の砲火を掻い潜りひたすら前へ。

「コードWU起動」

音声認識で起動させるのは言うまでも無く研究者の趣味だった。

右手に握られたグラムから顕現した刃は、その聞かされた性能から
考えると非常に地味な物だった。通常のビームサーベルより、多少長く、
多少太い。外見だけ見るとただそれだけ。

だが、激突寸前に振り抜かれたその刃は光波防壁をいとも容易く切り裂いた。

理解できない。理解できない。
光波防壁は無敵の筈。MSが携行できるような装備で
貫ける物ではない。なのにアレは何だ?何故こうも容易く最強の盾を
蹂躙する。何故何故何故何故何故えええええええええええ!?

「う、うわああああああああああ!来るな!!来るなあああああああああ!」

限界だった。見えない敵に切り裂かれ、撃ち抜かれる友軍。
無敵だと思っていた盾をまるでパンをスライスするかの如く切り裂くバケモノ。
それは、1人の兵士の心をもバラバラに砕いてしまった。

「ば、馬鹿野郎!!辞め……」

もはや敵も味方も無かった。目に見える全てが彼にはデスティニーにしか見えない。
目に見える全てをただひたすらに撃って撃って撃ちまくる。
デスティニーが視界に捉えきれる物ではないという事すらもはや判らなくなっていた。

皮肉にも、彼以外の生き残りは彼自身によって撃ち落された。

更に、彼は余りにも重要な事を忘れていた。
フルバーストモードは確かに強力な攻撃形態だが、後ろを取られると脆い。
それを補うための味方も理性も、全て消えていた。

だから、至極あっさりと後ろを取られ、両手両足と全ての武装を切り落とされた。
デスティニーは無力化したαフリーダムを掴み、急上昇する。
そして反転。ブースト全開で真下へと突っ込む。そして、そのままシンは死刑宣告を突きつけた。

「返してやるよ」

速度はそのまま、投げ捨てられたαフリーダムはそのまま基地司令部に叩き付けられ、派手な爆発を起こした。

かくして、地獄は終わり、再び始まる。
あらゆる場所で火が上がり、人は逃げ惑い、呪詛と嘆きの言葉を吐き続ける。

そんな場所に、何もせず佇んでいるデスティニーセカンドは、正に悪魔としか形容できないモノだった。

「ふふふ……はははははは……あはははははははははは!!」
目の前の地獄を見ながら、ただひたすらにシンは笑い続ける。

だけど、思う。勝利とはこんなに味気ない物だっただろうか?
昔、ミネルバで戦っていた頃は一回勝つだけで、戦闘の規模を問わず、
心が沸き立っていた。なのに、何故これだけの大勝利を収めても、一切の高揚感が生まれないのだろうか?

ただ、それだけが判らなかった。

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