第10話 ヤキン・ドゥーエ~交錯する想い~
「アハハハハハ!やったぁ、やったぁぞぉぉぉ!!」
アズラエルの目の前、まばゆい光が、前方を照らしている。
ニュートロンジャマーキャンセラを適応した核ミサイル攻撃による、
ザフト軍宇宙要塞ボアズを壊滅させる。
圧倒的なまでのその攻撃力は、ザフトに大打撃を与えた。
ナタルはこの大量破壊兵器が、正義とは到底思えない。
いや、こんなものを使えば本当に世界を壊滅させかねない。
思い出すナタル……。
マリューに対して秘密裏に連絡を取りフレイの安全を約束したナタルに届いた、マリューからの返信。
そこには感謝とともに連合軍の惨状が書かれていた。
アラスカにて、自分たちをザフト共々、破壊兵器で殺そうとしたことなどが書かれていた。
いささか、信じられない話だったが……この様子を見ていると、あながち嘘とも言い切れない。
勝利のためなら同胞さえ捨て駒にし、手段を問わない。
ヤキンドゥーエにも、その核攻撃によるボアズ壊滅の報告はすぐに届いた。
怒りを露にするパトリック・ザラ…。
「おのれ、おのれぇえええ!!ナチュラル共め、もはや許しては置けん。あれの準備を始めろ」
兵士は敬礼をして、司令室から出て行く。
画面に映し出されるその核攻撃を受けるボアズの映像を見ながら、
パトリック・ザラは拳を握り締めている。
続いて部屋にはいってきたのは、ラウ・ル・クルーゼである。
「…クルーゼ、どういうことだ!
新型を与えてやったというのに、連合も、そして反逆者ラクス・クラインさえ仕留めきれないとは!」
「……申し訳ありません閣下。なんせ新型の性能が高いために、慣れるまで時間がかかりました。
もう大丈夫です。命令があれば攻撃に向かいますが?」
その言葉にパトリック・ザラは表情を変えてほほえむ。
「その必要はない。やつらはヤキン・ドゥーエにて迎え撃つ。
奴らが野蛮な核を使うというのなら、私達は…ジェネシスを使うまでだ」
クルーゼには、パトリック・ザラの心が読めていた。
彼にはもっと、怒りを燃料として、頑張ってもらわなくてはいけない。
そう、連合を地球圏を焼き続けてもらうために。
両者共倒れにならなくては意味がないのだから。
拮抗した戦力による永遠ともつかぬ争い。
それこそが、復讐の連鎖を生み、暴力の応酬を生み出す。
世界は、恐怖と破壊により争い続ける。
醜さを現した人間など、そうやって滅びるのが、一番なのだ。
なんとも面白い。
すべてはこのギアスにより、人間の精神構造を読めるようになってからだ。
これのおかげで私の計画はより完全となったのだ。
ギアスという手段を用い、この世界は大きな花火のように散っていく。
私を人体実験道具として生み出した愚かな者達に思い知らしてやるのだ。
私の人生は復讐だった。
造り上げ、欠陥・失敗作というレッテルを貼り、捨てた者達よ。
お前達は、その欠陥品によりその種族の明日を閉ざされる。
フフフ……フハハハハハハハハ。
エターナル、アークエンジェル、クサナギは、
補給作業を並行して行ないながら進路を、ヤキンドゥーエにと向けた。
先の攻撃により、かなりの被害をうけた。
おそらくは、双方の戦闘の直前か直後に到達となるだろう。
「……私達は、戦いの中心にある存在を倒します。
ザフト軍、パトリック・ザラ。
連合軍、ドミニオン…ムルタ・アズラエル、そして戦争を巻き起こす存在、ラウ・ル・クルーゼ」
ラクスの言葉、それは今までのただの平和主義とは異なる。
しかし、彼女の平和に対する考え方は、変わらない。
なるべくなら人を殺さないように……。
倒すべき存在はその3人だけなのだ。
後は……自分がもつギアスに操られているようなもの。
ラクスは、自分の隣にたつ、自分にしか見えない存在…『黒きラクス』の存在を感じながら、
ただ一刻も早くこの戦闘が終わることを望んだ。
『…平和のためにギアスを用いる。あなたをみんなが見れば、あなたに従えば、戦争は終わりますわ。
そうすれば誰も争いの起きない素晴らしい世界が造り上げることができます』
そうでしょうね、それは世界の征服と変わりはない。
なぜなら誰もが私を見るのです。私しか見ないのですから……。
『そうでもしなきゃ、この戦争は終わらないわ。
あなたにしか終わらせることが出来ないんですもの……』
悪を持って巨悪を制す。
それが正しい手段とは到底思えませんわ。
だけど今はそれしかできないのでしょうね。
私は力を欲しました。
そして、それはこのような状況を打破するために……持ったものですから。
スザクは格納庫にいて最終的な装備の点検を行なっていた。
ロイドとセシルもそこにはいる。
ランスロット・トラファルガーには新たな剣が用意された。
それは激戦とかするだろう、戦いを制するためのもの。
「……アーサーの剣」
それが与えられた名前。
細長いその剣が熱を帯び、触れたものを溶かす、と斬るの両方を行なうものである。
「私達にはこういったことしか出来ないから」
「後は君次第だね~、ぜひ勝ってきて欲しいな?騎士団との戦いじゃ負け戦だったからねぇ~」
「……わかりましたロイドさん、セシルさん。必ず特派の名前にかけて」
スザクはロイドとセシルに敬礼をする。
「頑張ってねぇ~~、応援しているよ~」
「スザク君、ラクスさんのことは私達がフォローするから」
スザクは頭を下げて、2人にラクスのことを任せることとなった。
ラクスの歌がこの世界を、変える。
争いを終わらせるために。
スザクはそう信じていた。
ロイドとセシルは接近しているであろう、
最後の戦いを思いながらも、やはりラクス・クラインに対する不信感は消えないでいた。
だが、今それをスザクにいったところでプラスには働かない。
ならば、彼を励ますために嘘をつくことも必要である。
ヤキンドゥーエでは、既に連合軍の核攻撃部隊、ピースメーカー隊が攻撃を開始していた。
護衛するためのMS部隊も発進し、連合軍の総攻撃が始まっている。
ピースメーカー隊を防ぐためにザフトMSも出撃を始めている。
だが、それらを待っているのはブーステッドマンたちである。
「ダメだよ、アレの邪魔をしちゃ……とっても綺麗なんだから」
「させるかぁあああああ!!」
イザークが奮闘するものの、敵の物量の前には、彼1人戦ったところで、その数を抑えることは難しい。
その戦闘の様子を眺めるナタルは唇をかみながら、様子を見つめる。
心配そうに、前を見ているフレイ・アルスター…
彼女もまた、己の決断にて、この戦艦のオペレーターを選んだ1人である。
ナタルとしても月においていけば、再び戦火に巻き込まれる可能性があったため、
傍においておくのが安全とも思えた。
どちらにしろ、危険の可能性は残されてはいるが…。
「愚かなコーディネイターに、裁きの鉄槌をくだしてやりましょう」
ピースメーカー隊の前進はもはや食い止められるものではなくなりつつあった。
だが、そこに、現れた影が、ピースメーカー隊を次々と撃破していく。
イザークは、驚きの表情で、それを見た。
『私は、ラクス・クラインです。
連合軍の皆様にお伝えします。
私達は、貴方方の、戦争をしない方々に対する核攻撃を許しません。
戦争を繰り返し、憎しみだけを生み出す行動は、
ザフトであれ連合であれ…行なってはいけないことなのです。
私達は、戦争を終わらせにきました。
そのために、平和を訴えるために……今は武器を取りましょう。
貴方達に家族があるのなら、大切な方がいるのなら、考えてください。
戦争を、人が哀しむ行為を繰り返すことになんの意味があるのかということを……』
ラクス・クライン率いるエターナル、アークエンジェル、クサナギの部隊が姿を現す。
ピースメーカーを落としているのはキラ、アスランたちである。
彼らには強力なミーティアという換装パーツを渡しており、
これで高出力の攻撃が可能であり機動性も格段に上がる。
対の敵もこれでなら、かなり有利に戦闘を行なえるだろう。
ラクスの言葉が戦場に響きわたる。
それが通じることを信じるラクスだが、
現実はそう甘いものではないということも知っている。
だからこそ、自分たちは戦う。
「ランスロット・トラファルガー、発進します」
格納庫にて発進の号令をかけるスザク…。
そのタイミングで、声が聞こえた。
『…スザク、私の騎士。あなたとともに、私もここで戦います。
この世界に未来を齎すために、手をとり……ともに行きましょう』
「イエス・ユア・マジェスティ」
スザクのランスロットは、エナジーウィングを広げ宇宙にと飛び立つ。
最初の目標は、ピースメーカー隊、核攻撃部隊を倒すことである。
連合軍との戦闘に突入する。
マリューもまた、最後の戦いを行なうために、宿敵である、ドミニオンの元に向かう。
ディアッカもまた、親友であるイザークの援護と回る。
誰もが思い思いを胸にして戦場を駆ける。
そこにあるには絶望なのか?
希望なのかはわからない。
だが、今動かなければ、後悔をしてしまう。
それだけは避けなくてはいけない。自分の今できるべきことをしなくてはいけないのだ。
ランスロット・トラファルガーは、
戦場で核攻撃を行なうそのピースメーカー隊のミサイル迎撃から始める。
一発でもプラントにあたれば、それだけで致命傷になりかねない。
そう、それはあの自分達の世界で行なわれたフレイヤに相当する。
『枢木スザク!!ここで終わりにしてやる!!』
それはルキアーノ・ブラッドリーである。
エターナルを人質として投降を迫った彼は、再び彼を背後から強襲しようとしたのである。
勝てば、例え卑怯な手段であれ正当化される。
そうやって彼はラウンズにまで上り詰め、ブリタニアの吸血鬼という異名まで轟かせたのだ。
「ルキアーノ!!」
スザクはその強力な回転するランサーをルキアーノの頭上を飛び越えるように、
回避し、ルキアーノの背後にと回る。
すぐに振り向くルキアーノ。
『お前は前から気に入らなかったんだ。澄ました顔をしやがって!イレブンの癖に』
「……僕はイレブンじゃない。日本人だ!」
スザクは、アーサーの剣を握り、ルキアーノ目掛け、突っ込む。
『アハハ、返り討ちにしてやる!』
ルキアーノはランサーをかまえ串刺しにしようとした。
だが、ランスロットは、まるで光のように自分を通り過ぎる。
『!?』
なぜ、なぜあいつが後に?
あいつは…自分に串刺しにされて死ぬんだ、そ、そうだ…
このラウンズである俺が二度も負けるはずがない。
負けるはずが……。
ルキアーノの操るパーシヴァルの機体が上下真っ二つに割れるとともに爆発を起こす。
スザクは、彼に言葉をかけることもなく、ピースメーカー部隊にと向かう。
「不沈艦、アークエンジェル……今日こそ仕留めて差し上げましょう!」
ドミニオン…ナタルとアズラエルの前にと姿を現すアークエンジェル。
マリューは、そこにいるであろう友人を思う。
ラクスが語ったこと……立場を違えてもなお友人という関係は変わらないはず……。
マリューは、受話器をとった。
ドミニオンに直接通信を開く。
その行動にミリアリアやサイ、ナタルを知る者たちは、黙って彼女の行動を見届ける。
『……この期におよび、何か御用ですか?ラミアス艦長』
ナタルは、素っ気無く告げる。
だが、それでもなお、回線を開くというのは彼女もまたこちらと話がしたかったためであろう。
マリューは、ナタルを見つめ、ただ微笑む。
ナタルは、マリューの行動の意図が分からない。
『なにをしているんだ!?艦長!敵と連絡している場合ではないはずだ!』
ナタルの隣、画面に映りこむスーツの男、アズラエル……。
それこそが、この戦争を拡大化させる存在。
ナタルは、何も言わず、視線でそれをマリューにと告げる。
「……核攻撃を、やめてください」
マリューは、アズラエルに向けて声を出す。
アズラエルは、
そのマリューの言葉に取り乱した表情から冷静な表情にと戻ると同時に高らかに笑い声を上げる。
『今更、なにをいっているんだい?
状況はどう考えてもこちらのほうが勝っている。
だいたい、コーディネイター側から仕掛けた戦争だ。
僕たちがやめる理由なんかないんだよ。
あいつらを討たなければこちらが討たれるんだ!
自己を防衛する必要があるんだよ。
あなたみたいな、国家を裏切った人間にはわからないだろうけどね~』
「……私は、戦いを見てきました。
あなたのように書類と一部の映像ではなく、現実に触れてきました。
そこでは、戦争に苦しむ人間…そこにはナチュラルもコーディネイターもありません。
戦いは、悲劇しか生み出さない。
そして、今私達はナチュラルもコーディネイターも一緒にいます。
争いなど起こさずにともに手を取り合っています。
私達ができて、他の人が出来ないはずがないんです」
マリューは力強くアズラエルに告げる。
アズラエルは鼻で笑いながら、回線を切ろうとした。
これ以上、話が通じない人間と話をしても無駄だと判断したからである。
「ナタル…、あなたとの約束は守るわ。絶対に」
『……』
回線が閉じる。
約束…今度は、戦場のない場所で会おうという約束。
ナタルは、目を閉じ、そのアラスカでの言葉を思い出す。
軍規には従わなくてはいけない。
そうでなければ組織は成り立つことはないからである。
だが、ラクスの言葉がどうにも引っ掛かる。
そしてラミアス艦長の優しさが…。
「くっ、ピースメーカー隊がほぼ壊滅とは、あの3人はなにをしているんですかね。
こうなったら月のプトレマイオスから増援を呼び寄せて攻撃を…」
アズラエルはだんだんと苛立ちを見せてきた。
受話器を握り回線を開く。
『既に艦隊は出撃しています。すぐにそちらに到達するでしょう』
「頼んだよ、新たなピースメーカー隊も配備させるんだ」
アズラエルは、とっとと勝負を決したかった。
なんせ、ナタルが言うことを聞かないからである。
不審な動きを見せるようなことがあれば、とっとと始末をつけてしまおうと考えていた。
「敵の増援を確認しました!」
ヤキン・ドゥーエにて、パトリック・ザラはそのタイミングを見計らっていた。
そして、そのときはようやく訪れた。
敵が物量で来るのは分かっている。
「目標プトレマイオスクレーター!」
「了解、ジェネシス攻撃態勢に移行、ミラージュコロイド開放、PS装甲展開」
「目標誤差修正…」
姿を現すその巨大なレーザー砲……そこから光が収束されていく。
「ジェネシス発射!」
その掛け声とともに、強力な光が宇宙を走る。