第6話 別離…激闘の果てに
爆音と供に、ストライクノワールが爆発する。インパルスとレジェンドが倒したのである。
それとともに、レーダーで、シンがかなりの打撃をこうむっていることを知る。
「シン!?よくもぉぉぉ!!」
ルナマリアがライフルを撃ちながら、空中に浮かぶスターゲイザーめがけ、突っ込んでいく。
「やめろ!ルナマリア!」
レイはルナマリアを追う。
スターゲイザーはインパルスのライフルを回避しながら、サーベルを振り下ろすルナマリアに対して、
肩の円の形をしたビームサーベルを伸ばし、機体を吹き飛ばす。
「きゃああああ!!」
「ルナマリア!」
レイは、ルナマリアのインパルスを支えながら、
一撃で機体の腕を吹き飛ばした、その攻撃力に驚く。
いや、それだけではないだろう。あれだけの攻撃を加えながらも、なんなく回避していく、その操縦技術も凄まじい。
これが遺伝子の組み合わせにより出来た存在だというのか。
ギルは…議長は、このようなもののために、この技術を用いたわけではないというのに…。
『…敵を無力化する』
スターゲイザーは、その手に何か円形の形をしたものを持っている。
それが何かはすぐにレイにはわかった。
レイの機体の画面に映し出される反応…それは核だ。
「バカな!?地球上において核を使う気か!?」
「核?」
レイとルナマリアを無視し、スターゲイザーは、それをこちらに投げてくる。
レイは瞬時にライフルでそれを撃つ。
核兵器といっても起爆さえしなければ、撃墜することは可能だ。
だが…敵があれを何個も使い出すとすれば厄介だ。
「すぐに決める!」
レイは、ライフルを撃ちこみながら、スターゲイザーに隙を与えないよう攻撃を仕掛けていく。
スターゲイザーは、そのレイの攻撃を軽々と避けていく。
まるで踊っているようだ。
○
研究施設内の上での戦闘の音は、地下深くにあるここには届かない。
拳銃を向けるステラを前にしてマオは、ゆっくりと歩きながら話し出す。
「ステラ・ルーシェ、君はこの施設を見て何も思わないかい?人間は、戦うことをやめられない存在だ。
そして、勝利のためなら人間はなんだってする。複製だって、精神や身体を改造する事だって厭わない」
「…」
「あのラクス・クラインもそうさ。前の前の大戦だったかな。
あれで自分たちの勝利のために力を求めてギアスに手を出した。
結果があのありさまさ。精神が蝕まれ…。
だったらどうすればいいと思う?
争いをやめられない人間は、いっそのこと死滅させて、新しい人類に未来を委ねようとは思わないかい?
それが、君のような強化人間でもいいさ。ボクのギアスユーザーでもいい。
愚かな人間は、僕らのような存在で管理しなくちゃならない」
マオは、ステラを見つめ囁きかけていく。
「なんだったら、君の失ったものをボクがつくりだしてもいいんだよ?君の戦友であった、アウル、スティング……他にも必要かい?」
そのマオの言葉はすべてステラの心を読み取って話をしているのである。
ステラの暗い過去、記憶…それらを次々と盗み見ていく。
「君にはあるはずだ。深い、深い罪悪感…。だからだろう?
君の、君自身の複製を助けようとしたのは。それは結局、彼女を助けたいためじゃない」
「やめろ……」
マオは後ろにいる複製されたステラを見て微笑み、再び前にいるステラを見る。
「君は、彼女を自分と見立てて、自分を救いたいと考えているんだろう?
今まで失ったもの、君が殺してきた人間達に対する贖罪として…」
「やめろぉぉ!!!」
ステラの拳銃を握る腕が震え、銃を撃つ。
だが、それはマオを掠めることなく空を切る。
相手を睨む澄みきった瞳からは、涙が流れる。そんなこと、言って欲しくない。
彼女が見ている中で…自分のことしか考えていないなんてこと、言ってほしくない。
「やめろ!やめろやめろやめろやめろ!!」
大声をあげながら、マオに叫ぶステラ。
そんなステラを見て高らかな笑い声をあげるマオ。
人間、心を隠している。
それを一番知られたくない人の前で…こんな形で。
「所詮、自分のことしか考えていないのは、強化人間だろうと、変わりはしないということだね。なんとも面白い話じゃないか?」
「……」
ステラは銃を下ろして、うつむく。自分の見せたくないものを曝け出された絶望。
「どれだけ強い機体に乗ろうが、身体を強化しようが…人間は均等に心が弱い。
それは誰であれかわりはしない。ボクはそれを攻撃できるのさ?アハハハハハ」
拍手をするマ。
そんなマオに対して、その背後にいる複製されたステラは、そのマオの発した言葉に口元を緩める。
ステラの思い…さすがは、同じ自分だけある。
「…ステラ!」
その大きな声に、ステラは顔をあげる。
始めて名前で呼ばれた。もう1人のステラは、ステラを見つめて。
「私も、あなたと同じ。あなたに優しくされて…あなたに心を触れられて、嬉しかった。
誰かにこんなに優しくされたこと…なかったから。戦うことしか、私は知らなかったから…。
だけど、あなたに対する気持ち…それは感謝だけじゃない!
自分もこんな風にできるのかなって、あなたを私に置き換えていた。
私もこうやって誰かに優しくすることができるって……それを強く考えていた」
「……ステラ」
「あなたと同じなの。だから……落ち込まないで。
私達…ステラ・ルーシェは、こんなことで、止まらないはずだから…」
2人はお互いを見つめ、頷き合う。
心が繋がった感覚。
彼女の気持ちが、自分の気持ちが伝わる。
ステラは改めて、銃をマオに向ける。
「無駄だって言っているだろう?君がボクのどこを狙っているかなんて楽にわかるさ」
マオのギアスが輝き…ステラの心を見る。
先ほどとは違う?さらに冷静になっている…焦りを感じない。
しかし、おかげで…余計に心が見えるさ。
「アハハハ~、やることも変わらないね?強化人間もやはり、僕の理想とする世界には受け入れられ……」
「……(…)」
ステラの、動揺もしない表情。そしてそのステラの視線は自分の背後に向けられている。
マオは、咄嗟に後を振り向く。
そこには、ステラと同じように銃を構えている複製されたステラの姿があった。
心の声…それはまるで一人の声のように聞こえる。
だが、それは2人分のもの。同じ人間同士だからできる、共鳴行為。
マオは良く聞き取ろうとしても少しのズレもない。完全なシンクロ。
驚愕するマオ。
「なんなんだ!!なんなんだよ、これ!!こんなの反則じゃないか!!」
マオの絶叫の中…銃声が響きわたる。
○
『シン!シン、返事をして!シン』
ルナマリアの声…、シンは、なんとか目を開ける。機体には損傷した部分に対する警告音が響きわたっている。
「ルナ…俺は」
シンは額に流れる血を拭う。意識が飛んでいたのか、現状を把握するまでしばらく時間がかかった。
やがて近くで聞こえてくる爆音などで意識が戻ってくる。
「くっ……あ、あいつは!?」
『今、レイが…』
ルナマリアとシンがレジェンドで戦闘を行うレイを見る。円形の形をしたサーベルが、伸びてレジェンドのジャベリンを弾く。
『うわああああ!!』
「レイ!!」
シンは助けようと、機体を動かそうとするが、唯一動くのは手だけである。
シンは、操縦桿を握り動かすがどうしようも出来ない。
『シン!』
「くそぉぉぉ!!!何も、俺たちは何も出来ないのか?」
そんなとき、別の方角からスターゲイザーを攻撃する黒き機体。
それは、ここにきた最初に攻撃を仕掛けてきたストライクノワール。
そう、あのキラ・ヤマトが乗っていると思われる機体である。
ライフルを連射して、敵の動きを封じる。
「あれは…」
シンは、なぜ自分たちを助けるのか分からないその機体に目を見開く。
レイもまた、同じようになぜこちらを助けるようなことをしたのかわからないキラの行動を不自然に感じていた。
『…パイロット、聞こえているか?』
「キラ・ヤマトか!こちらを助けるとは、なにが狙いだ」
『僕は、あれを止めたいだけだ。
ラクスの亡骸を弄び、利用したあれを許すことは出来ない。
そのために…あれを破壊する』
「……俺達と戦う意思はないというのか?」
『…信じられないのはわかるけど、僕は無益な争いは望まない』
レイは、その言葉を信じることはできない。
かつてラクス・クラインの名の下で世界を掌握しようと、混乱に陥れた存在だ。許されるべきものではない。
『僕を撃つというのなら好きにしてくれていい…』
キラはそういうと、スターゲイザーに攻撃を開始する。
レイは、感情を押し殺して冷静に考える。今ここでキラ・ヤマト、そしてスターゲイザーを敵に回すことが得策とは思えない。
ならば…まずは核を持つ、このスターゲイザーを倒すことが先決である。
「シン、ルナマリア…スターゲイザーを第一目標とする」
レイははっきりと告げる。
「そんな!」
「シン、私達の作戦は、この基地施設の制圧よ」
「だけど……」
シンは悔しそうに声をだしながらも、身動きの取れないこの機体では何も出来ない。だが、このまま見ているわけにも行かない。
「ルナ、手をかしてくれ」
「どうするつもり?」
ルナマリアの問いかけに、シンは唯一動かすことができる腕を動かす。
「かけてみる……この残った腕で」
その腕……それは、かつて改造されたコードギアス・ディスティニーの所以である『輻射波動』である。
ルナマリアは、その動く腕を見てシンのやろうとしていることがわかった。
○
倒れるマオ…、サングラスが落ち、耳のイアホンもズレ落ちる。
そこから漏れるのはC.C.の自分に対する声…。
床に倒れたマオは、口から血を流しながら倒れている。
ステラはそのまま、施設のブレーカーを落す。
建物全体が一瞬、暗くなるが、すぐに非常用に切り替えられる。
だが、非常用は建物全体の電力をまかなえない。
研究の要であり莫大な電力を消費する、この複製を製造するための装置は、
結果的にエネルギー供給を断たれたことになる。
「…これでいい?」
ステラは、もう1人の自分に駆け寄り問いかける。複製されたステラは笑顔で頷く。
「始めて…笑った」
そういわれて始めて自分が笑っていることに気がつくもう1人のステラ…。
「さぁ、行こう?シンたちも待っているから……」
「私が仲間に…迎えられる?」
「大丈夫…。ステラに任せて」
2人は双子の姉妹のように微笑みながら、足元がふらつく、もう1人の自分自身の身体を支え歩き出す。
これから、自分が見せてあげる。
この大きな広い世界のことを…戦争だけが全てじゃないって。
ここには優しい人も『敵』じゃない人だっていっぱいいるんだってこと。
「!」
もう1人のステラが、咄嗟にステラを突き飛ばす。
ステラは、そのまま床に転がる。短い銃声の先には、撃たれた腹部を押さえながら立つマオがいる。
「アハ、アハハハ…ぼ、ボクはね?こんなところじゃ死ねないんだよ。C.C.が待っているんだ。
僕の愛するC.C.が待っているのさ…だ、だから…こんなところで死ねないんだよ」
マオに撃たれた複製されたステラはその場で崩れ落ちる。駆け寄るステラ。
「あ…あぁ、いや…いやいや……」
抱きかかえ、声にならない声で、呼び続ける。
そんなステラに対してもマオは容赦なく拳銃を向けた。
「安心して…君もすぐ、彼女と同じところに……」
『マオ』
「し、C.C.~~~!!」
ふと顔をあげるマオ、そこにたつのはC.C.の姿。
マオはその久しぶりに見る素顔に、歓喜の声をあげて、C.C.の元に近づいていく。
だが、抱きしめようとした瞬間、C.C.の姿は目の前で消える。
空を切る腕。マオは何がなんだかわからずに、あたりを見回す。
「C.C.!!どこだい!?C.C.どこに、どこにいたんだい!?ボクの…」
そんなマオの背後で涙を流しながら、ステラはもう1人のステラを抱きしめながら、銃を握り、撃つ。
それは、マオの身体を貫通する。飛び散る血。
それと同時に振り返るマオ。まるで銃など効いていないとう感じだ。
マオはあたりを見回しながら…。
「そ、そんな…君も、君も見ただろう?C.C.が、そう、すぐそこにC.C.がいたんだよ!嘘じゃない!!嘘なんかじゃ!!」
「うわああああああああああ!!!」
ステラは大声を上げて銃を連射する。
マオの身体に、銃弾が次々と貫いていく。
そして最後の一発、崩れかかるマオの額にめがけ撃ちこむ。
あたりを血の海に帰るステラ。
戦いが終わって、静まり返る研究所……。
溢れてくる血、ステラはもう1人の自分自身をしっかりと抱きしめていた。
「……」
「……」
お互いに向けて、会話を少しだけして…もう1人のステラは、微笑みながらステラを最後の瞬間まで見つめて目を閉じる。
ステラの重い絶叫が研究所内に響きわたった。