ブリュッヒャー

ドイツ海軍アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦の二番艦。1937年に進水し、第二次大戦勃発直後の1939年9月に竣工。
公試運転が終了して早々の1940年1月18日、北海の作戦から帰還して間も無い軽巡洋艦ケルンにキールで衝突事故を起こす。この時は幸い損害は無かったものの、その後停泊中に軍港が氷結。ブリュッヒャーは雪解けまで満足な作戦行動が取れなくなり、先行きが不安になる船出となった。
そして1940年4月、ブリュッヒャーはノルウェー侵攻作戦「ヴェーゼル演習作戦」に参加することになる。4月9日、首都オスロ攻略部隊の主力として装甲艦リュッツォウ、軽巡エムデン、水雷艇数隻を率いて深夜オスロフィヨルドに突入。
これが彼女の運命を決めることとなった。
既に空爆などで満足に戦える艦艇は殆ど残っていなかったノルウェー軍だったが、沿岸砲台や陸上設置型の魚雷発射管は未だ健在であり、ドイツ艦隊が逃げ場の無い狭い水道内に入りこんだところでオスカシボルグ要塞の旧式28cmクルップ砲が射撃を開始。午前5時、狙われたのは当然先頭を航行していて一番目立つブリュッヒャーだった。
ノルウェー軍の意地と執念が詰まった砲撃は初弾でブリュッヒャーの前部射撃指揮所を直撃して壊滅させ、さらに1発ないし2発が航空機格納庫に命中、燃料弾薬に引火して艦は炎上を始めた。
燃え上がるブリュッヒャーは格好の的と化し、隠匿されていた他の小口径砲台も次々に照準を定めて射撃を開始。集中砲火され連続する命中弾で艦上は大混乱に陥り、効果的な反撃を行えないままに戦闘能力を奪われていった。命中弾のいずれかは舵機を損傷させ、船のコントロールにも支障を来たした。
ブリュッヒャーはこの状態でも何とか退避を図ったが、そこにノルウェー軍がそれまで存在を隠し通していた陸上魚雷発射管から魚雷2発が投射される。これが直接の沈没原因となった。1発はA砲塔基部、そして2発目が機関室に命中し、ついに浸水から回復することも叶わなくなった新鋭重巡洋艦は最初の被弾から僅か1時間程度で転覆、呆気なくフィヨルドに沈んだ。
ちなみにブリュッヒャーが意図せず被害担当艦となったことで他のドイツ艦艇は辛うじて水道を突破することが出来たものの、後続していたリュッツォウにも要塞からの砲撃は容赦なく襲い掛かっており、ホルテン軍港およびオスカシボルグ要塞が降伏するまでに3発被弾の損害を出し、水雷艇アルバトロスも損傷させられ後に喪失している。
4月10日、多大な犠牲を払って首都まで辿り着いたドイツ艦隊を待っていたのは、既に味方部隊によって占領済みのオスロだった。


映画『ヒトラーに屈しなかった国王』においては、短時間ではあるもののブリュッヒャー沈没シーンが極めて正確に描かれている。


史実における自分の死因に喜々として当たりに行く（味方を庇うためとはいえ）……言葉もない。