物語を書くための小手先のテクニック/時間の速さを文字数で表現する

Last-modified: 2021-04-23 (金) 16:43:19

プレイヤーの読む文章が、どのような映像としてプレイヤーの頭の中に再現されるのかは重要です。

物語のある一文に対して、「その中で経過した時間」と「読むことにかかる時間」の間にどれだけ差があるかによって、物語を映像としてイメージしたときにスローモーション的に感じさせたり、早回しに感じさせたりするテクニックです。

具体例からの解説

文章+画像の組み合わせでは表現できないもののひとつに「時間の流れ」があります。のんびりしたバカンスの気分を、実際に長い時間の映像として想像してもらうにはどうすればいいでしょうか?一瞬のうちのショッキングな出来事を、実際に短い時間の映像として想像してもらうにはどうすればいいでしょうか?

 

拙作「我はセトの生ける似姿」では、厳かな神殿に入り祈りをささげる静かなシーンがあります。説明のために、各行に番号を振っておきます。

a. あなたはツタンクセトとともに、「選ばれた神殿」へ入る。
b. 長い廊下を何も語らず、静かに歩いていく。
c. やがて一行は神殿の最奥、儀式を行うための部屋にたどりつく。
d. ツタンクセトはあなたを見てうなずき、部屋の中央へゆき言葉をささげる。

一方で、「いのちの罪を裁いたならば」では、ともに冒険をした仲間と敵対し、ついに止めを刺すシーンがあります。

e. ハルモニアのひとりの社員がピンクを追い詰めた。
f. 剣の一撃をかわし体勢を崩したピンクに、社員の二撃目が決まる。
g. こちらは額の中央を一瞬のうちに叩き割った。
h. 即死だ。
 

我はセトの生ける似姿の a~dでは、各行がそれなりに長い文章になっています。この4行は、要約すれば「神殿へ入り、儀式の部屋へたどり着いた。そして祈りの言葉を捧げた」ということなのですが、その間に起きたことを可能な限り多く描写することで、静かな時間が長く続いている様子を想像してもらうことを狙っています。

今になって見返してみると、もう少し単語を増やしてこの4行の内容を濃くした方が、時間の長さを感じてもらえるかなと思いますが、クエスト全体として読者が読まなければいけない文字数が減るのはそれはそれで読みやすい物語になるのではとも思います。

 

いのちの罪を裁いたならばの e~hでは、行ごとに文章の長さにばらつきがあります。まず、行fはそれなりに長い文章になっています。この行の中では以下のように、かなり多くのアクションが起きています。

  • ハルモニア社員が剣を振る
  • ピンクが斬撃を避ける
  • ピンクが大勢を崩す
  • ハルモニア社員がもう一度剣を振り、命中する

この部分は、物語中での時間はかなり短い割には読者が文章を読むのに時間をかけさせるようになっています。この時間間隔の差を利用して、映像として思い起こしたときにスローモーションのような見せ方になるのではないかと狙っています。

そして、行g,hではついにピンクが死に至ります。特に行hは「即死だ」という短い一言で表現されています。この部分にはピンクの断末魔のセリフを入れることもできましたが、そうしなかったのは、この出来事が一瞬のうちに起きたのだという感触を読者に与えたいからで、そのために極限まで文字数を削ろうとしたからです。ショッキングな出来事は一瞬のうちに押し寄せてくるほうが驚いてもらえるでしょうからね。

重要なのは本当に文字数?

記事を書いてみて思ったことですが、行fの

f. 剣の一撃をかわし体勢を崩したピンクに、社員の二撃目が決まる。

の部分は、物語中の時間の長さは短いままで、あくまで読者の感じる時間の長さを伸ばすテクニックであって、物語中の時間の長さを長く感じさせる方法ではありませんでした。

また、文章は長ければそれだけで時間の長さを感じてもらえるという説明にも疑問が生じます。実際、この行fが長い時間として感じられる(と思われる)のは、一行の中でたくさんのアクションが起きていたからでした。例えば、以下のような行は、たとえ文字数が多くても長い時間を実感させることは難しいでしょう。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

この一文で何が起きているかは一目瞭然なので、読者はかなり早く次のテキストへ進んでしまうのではないでしょうか。

 

個人的な意見としては、「一文の中で経過した時間」と「読むことにかかる時間」との対比を操ることが、時間の長さを感じてもらうためのテクニックとして有効なのではないかと思いました。

例えば次の文は、長い時間をかけて起きたことが、読者には早回しの映像で伝わるような例といえるでしょう。

s. あたたかな日差しと素朴な草の香りの中で、
t. 寝て、寝て、寝て、そして寝て、夜が来た。

行tに注目してください。「寝て」の退屈な繰り返しばかりなので、文字数の多さに対して読者が早く読み飛ばすことになり、劇中で経過した何時間もの時間間隔が、早回しの映像のようにイメージできるのではないでしょうか。

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