ロワローゼン

ユウ「はあ……、今日も仲間が見つからなかっ……、」
ユウ「うわっ!」
ユウ「いったたた……、なんだ、なにかを踏んづけ……、」
ロワローゼン「……。」
ユウ「うわあああっ!ご、ごめん、まさか人が寝転がってるとは思わなくて!大丈夫か!?」
ロワローゼン「……ん?あ、いけない、寝ちゃってた。次、ボクの番～?」
ロワローゼン「って、あれ?ここどこぉ?」
ユウ「紹介所だけど……、もしかして打ち所が悪かったのか……?それか、迷子とか……。」
ロワローゼン「おかしいなあ、次でチェックメイトできるはずだったのに～。はやく、帰らなくちゃ。」
ユウ「迷子の方か……。どこに家があるんだ?おわびに送っていくよ。」
ロワローゼン「わかんない。ボク、あそこからでたことないもん。」
ユウ「ええ?それならなんでこんなところで寝てたんだよ?」
ロワローゼン「わかんない。ボク、寝てたもん。」
ユウ「ま、まさか誘拐……!?とりあえず、住んでたところのことを教えてくれないか?そしたら、場所がわかるかも……。」
ロワローゼン「門の前だよ。そこがボクたちの居場所なんだ。いつだったかは忘れたけど、そう約束したんだ。」
ユウ「約束……?」
ロワローゼン「そうだよ。そこにいて役目さえ果たすなら、ずっとそこでチェスをしていていいって。」
ユウ「役目っていうのは?」
ロワローゼン「なんだっけ……。ああ、そうそう、門番だ。ずっと誰も来ないから、忘れちゃうところだったよ。」
ユウ「君みたいなちっちゃい子が門番?歳はいくつなんだ?」
ロワローゼン「わかんない。覚えてないし、数えてないもん。」
ユウ「そ、そうか……。これは、ただの誘拐じゃないような気がしてきたぞ……。家族とか、誰か君のことを知ってる人は?」
ロワローゼン「ボクの片割れ?」
ユウ「片割れ?」
ロワローゼン「もうひとりのボクだよ。」
ユウ「えーっと……、ふ、双子とかか?」
ロワローゼン「うん、ふたりのボク。」
ロワローゼン「だけど、ボクであってボクじゃないから、どっちがお兄ちゃんで、どっちがお姉ちゃんになるかチェスで決めるんだ。」
ユウ「チェスで!?」
ロワローゼン「そうだよ。だって、ボクたちはチェスが好きなんだもの。勝った方が、どっちになるか決められるんだ。」
ロワローゼン「でもね、全然決まらないんだ。2回勝ったら、勝ちなんだけど1回勝ったら、1回負けるんだ、ずっとね。」
ユウ「そんなにずっとチェスばかりしてたら飽きないのか?」
ロワローゼン「飽きないよ。待ってる間にいろいろなことを考えたり、眠ったりしてるもの。」
ユウ「何を考えるんだ?」
ロワローゼン「ボクがお兄ちゃんになったらどんな世界になるのかとか、ボクが弟になったら、どんな世界になるのかとかだよ。」
ロワローゼン「だって、お兄ちゃんだったら妹の手を引いて守ってあげなくちゃいけないし、弟だったらお姉ちゃんを助けてあげるものだからね。」
ユウ「そうか……。」
ロワローゼン「それでね、兄妹なのか、姉弟なのかが決まった時に、ボクたちはあの場所をでることになってるんだ。」
ロワローゼン「だから……、ほんとうは今、ここにいるはずじゃないのになあ。おかしいや。」
ロワローゼン「ねえ、おにいさん。ボクをあの場所まで連れていってくれないかなあ。ボク、外のことはさっぱりわからないんだ。」
ユウ「まあ、世界をめぐるうちにその場所が見つかるかもしれないし、一緒に旅をするのはいいけど……、」
ロワローゼン「ほんとう?ありがとう、おにいさん。」
ユウ「ああ、そうだ。君の名前は?」
ロワローゼン「名前?あ、そっか。うーん……、ロワローゼン。」
ユウ「そうか、ロワローゼン。これからよろしくな。」
ロワローゼン「……、うん。」
ロワローゼン「あのね、お兄さん。お礼にボクの秘密、教えてあげるね。ここならきっと、秘密を言ったっていいと思うから。」
ユウ「え?」
ロワローゼン「片割れには内緒だよ。実はね、ボク、1回勝った後は手を抜いてるんだ。」