目次
本編
和也の執事日記 後編
―AM3:00
俺は鞄を背負ったまま明かりのある場所まで出てきた。
この辺りはまだコンビニやカラオケなどが存在しているため比較的明るい場所になっている。
「さて、ここまで来たのはいいのですが・・・・どうしましょうかね」
今の持っている所持金は小銭数百円と千円が何枚かあるだけだった。
「これじゃぁ、ビジネスホテルに行くこともできませんね・・・ん?」
少し途方にくれていると少し離れたコンビニがなにやら騒がしかった。
「おやおや。こんな時間に一人で出歩いて危ないよ。お嬢ちゃん。」
「お、お嬢ちゃんじゃないです!いや!離して!」
少し先のところで2人組みの男がなにやらナンパしている風だった。
「こんな、時間にナンパとは・・・・色々大変ですねぇ。」
まぁ、見てしまったものは仕方ないので俺は嫌がっている女性を助けるために割ってはいることにした。
「そこの男の人たち。やめときなさいな。明らかに嫌がってますよ?」
「あぁ?んだ、てめぇ。」
おぉ、なんとも雑魚っぽい台詞ですねぇ。などと心の中で思ったりもしたが口には出さないでおいた。
そして、邪魔されたのが頭にきたのかこちらへと標的を変えたようだ。
「なぁ、にいちゃん。俺たちの邪魔しないでくれるか?」
「そうそう、怪我したくなかったら家に帰って部屋の隅でガタガタ震えてろ。」
なんというかここまで雑魚っぽい台詞を言ってくれると尊敬すら覚えますが今は仕方ないのでスルーです。
などとまた、心の中で思っていたのだがどうやら顔に出てしまったらしく「くす」っと笑ってしまった。
それが火に油を注ぐ形になりさらに激怒する2人組み。
「てめぇ、何がおかしいんだこらぁぁぁ」
などと叫びながら右手を振り上げそのままストレートに俺の顔面へと拳を持ってくる
「でたぜ。けんちゃんの十八番!右ストレート。これを食らって倒れなかったやつはいない!握力×スピード=破壊力だ!」
後ろでただ、呆然と見てるもう一人の男が解説をし始めた。正直うざいです。
「まぁ、いいですけど、ね!」
「ぐぇっ!」
けんちゃんと言われた男の拳が顔に当たるか当たらないかのぎりぎりで俺は男の後ろに回りそのまま足を払いみぞうちに拳を落とす。
なんとも情けない叫び声が聞こえたがまぁ、いいだろう。
「ゲホッ・・ゲホッ・・・て、めぇ・・・・なにしやがった・・・」
何が起こったのかまったく理解できずダメージを受けたところをさすりながらけんちゃんは俺を睨んだ。
「なにって、あなたの攻撃が遅いから俺が動いただけですけど?」
「俺が遅い!?俺がスローリーだと!?」
「えぇ、遅すぎます。」
その言葉にショックを受けたのかけんちゃんはそのままがっくりうな垂れ敗者となってしまった。
それを確認すると俺はもう一人の方へ歩き出した。
「さて、自覚と覚悟はいいかね?」
「ひっ・・・・・」
男は小さく悲鳴を上げて気絶してしまった。
「あらら・・・なんと気の弱い方でしょう。」
まぁ、こんな夜中に騒ぎを起こして屋敷の人間に気づかれたり警察に身分を明かすわけには行かないから丁度良くはありますけど。
土煙を払いのけて俺はポカーンとしてる少女へ向かって
「大丈夫かい?もう、怖い人たちはいないよ」
そういいながら少女へ話しかける。
「あ、ありがとうございます。助かりました。」
暗闇で顔が丁度ブラインドされて見えなくなっているが年は学園のみんなとあまり変わらないくらいだろうか。
そんなことを想っていたが月明かりで顔が見えるようになり少女の顔が映しだされた
「あれ?兄・・・さん?」
「あれ?弟・・・・?」
~刹那サイド~
「お嬢様・・・・お、おはようございます」
いつもと違う声が聞こえる。和也じゃない。
「ん・・・誰だい?」
すこし機嫌が悪くなる。いつもと違うとなんだか調子が出ない。
と考えていると起こしに来たはずのメイドはすっかり怯えている。
「別にとって食うわけじゃないんだから落ち着きなさい。」
あぁ・・・朝からイライラする。すべてあのバカ執事のせいだ!
「・・・・下がりなさい。」
ビクッっと体を震わせながらメイドは言われたとおり部屋から出て行く。
そして気分の悪いまま二度寝はしたくないのでそそくさと着替え和也の部屋に向かう。
(あの、バカ執事が!どうせ寝坊してるんだろう。)
あたいを起こすのはアイツだけだって何度か言ったはずなのにあいつはどうして寝坊するかな。あのねぼすけめ!
どうせ、寝坊とか言ってまぁーた部屋の中にネコを拾ってきてるに違いないのさ。
一時期だが和也はネコを拾ってきて部屋の中で飼ってたことがあった。その時も今回と同じような感じに寝坊とか言ってネコを匿っていたっけねぇ。
「・・・ふふ」
あの時の和也のあわてぶりを思い出して少し笑ってしまった。
だけどなんだろう。さきほどからメイドがちょこちょこ慌てている感じだ。しかも向かう先は刹那と同じ執事の部屋の方だ。
少しだけ、いつもと違う朝に違和感を感じた刹那は和也の部屋へと急いだ。
~和也の部屋前~
数人のメイドが部屋の前で慌てている。
(嫌な予感がする・・・・)
そう思い刹那はメイドの横をすり抜けて和也の部屋に入った。
そこには生活をしているとは思えないほど綺麗に片付けられた「かつて和也の部屋だった」場所がそこにはあった。
「なに・・・これ」
無人となった部屋を見つめ独り言のように辛うじて出た言葉がそれだった。
「お嬢さま・・・・あの、これが机の上に置かれていました・・・和也さんからお嬢様へのお手紙です」
一人のメイドがそう言いながら手紙を渡してくる。
それを刹那は開封し目を通し始める。
- お嬢様へ
- おそらくこの手紙を読んでいるころには私は部屋に居ません。
- 思えば貴女にはずっと迷惑をかけていましたね。
- そして今回の事件で私は決意しました。
- 貴女の傍に居られないのは胸が張り裂けそうです。
- こうやって書いてる間も涙が止まりません。
- ですが私は貴女の元を去ると決めました。
- 願わくば貴女が幸せでありますように
(あの馬鹿が・・・・)
手紙を一通り読み終えた刹那はそんなことを想った。
そしてその手紙をポケットへしまいこむと刹那は和也の部屋を後にし出かける準備をするために部屋へと戻る。
その途中で弟のドックンドールが呼び止める。
「姉さん、少しお話が・・・」
普段なら聞くが今はそれどころではなかった。
「悪いけど、後にしてくれないかい?今からバカを探しに行かなくちゃ行けないんだ。」
そう言ってドックンドールの横を通ろうとした
「その、和也さんについてです。」
そう言われ動きを止めた。
弟は何かを知っているのかもしれない。そんな期待が少しあった。
「残念ながら姉さんの考えてる答えを持っているわけではありません。ですがそれよりも大事なお話です。」
いつにも増して真剣な弟に刹那は黙って傾聴することにした。
「これから姉さんは大切な選択を迫られます。悔いの無い選択をするようにしてください。」
予言めいたその言葉だったが自然と刹那は受け入れた。以前にもドックンドールは今回と同じような予言をしていたからなのかも知れない。
「話はそれだけかい?」
ドックンドールは静かに頷いた。
「わかった。ありがとうね。」
そうお礼を言い刹那は部屋へと消えていった。
~夕方~
それから支度を整え和也の行きそうなところはすべてしらみ潰しに探したが見つからない。
「いったいとどこに行ったんだい。あの阿呆は。」
時間が刻々と過ぎて行くのに少しだけ焦りを感じる。
しかしその日は結局見つけられることもなく屋敷へと帰るのであった。
そしてあれから半月の月日が流れた―――
~和也サイド~
「兄さん?居ますか?」
紅茶は兄の部屋の扉を軽くノックしてから声をかける。
「ん?どうした弟?なにか用事かい?」
そう言いながら俺は扉を開け弟を部屋へと招きいれた。
「うん、ちょっと買い物を頼まれてくれないかな?」
ちょっと今、手が離せないんだと弟は舌をペロっと出しながら頼みごとをしてきた。
「居候の身なんだし。遠慮なく言ってくれ。」
と言うと紅茶は「もう・・・居候じゃないって何度も言ってるじゃないですか。」
と少し頬を膨らませる。
それを俺は謝り弟の機嫌を直してもらった。
~街の繁華街~
「・・・・で、弟はなんのためにこんなに買い込む必要があるんだ・・・」
俺は軽く朝の会話を思い出しながら今の現実と必死に戦っていた。
(これは、ちょっとって量じゃないと思うけどな・・・)
生活に必要なもの、衣類、食料、ほかにもどこかキャンプにでも行くんじゃないかと思えるほどの荷物が目の前に展開されていた。
「ま、そんなこと言っても仕方ないか。さっさと持って帰ろう。」
そう自分に言い聞かせながら再び荷物を持ち直した。
そして前を向いたときにふと見慣れた姿が現れた。
(・・・・!、お嬢さま!)
なにか狭いビルから出てきたのは半月前までお世話をさせて頂いていた刹那お嬢様だった。
まだ、探していてくれたんだ。と思ったが次の瞬間にはそれは違うものだと認識された。
ビルの中から出てきたお嬢様は傍に居た男に笑いかけていた。
ドサドサドサ
そんな音が聞こえてきそうなほど俺は手に持っていた荷物を盛大に落とした。
荷物を落とす音に気がついたお嬢様がこちらへと向いた
「え・・・? ・・・・・和也?」
名前を呼ばれた俺はその場から逃げ出した。
(お嬢様が他の男に笑いかけていた・・・・はは・・・お嬢様は俺が居なくても平気だったんだ・・)
その情景が俺の頭から離れない。そして俺はわき目もくれずただひたすら走り続けた。
もしかするとまだ俺を必要としてくれていたんだ。という甘い考えを持っていた自分が情けない。
それからはどうやって帰ってきたのかわからない。
気がつけば部屋に戻って俺は一人泣いていた。目を閉じると先ほどの光景が鮮明に映し出された。
思い出す度に俺は何度も何度も壁に拳を殴りつけた。何度叩きつけたのだろう。もう拳が血で染め上がっている。けれど痛みがない。何度も叩きつけている間に感覚が麻痺してるのかも知れない。
扉をノックする音が聞こえる。
「兄さん?ただいま・・・ってどうしたのその手の傷!」
紅茶は真っ青になりながら俺の手へをそっと触る。
「・・・・っ!」
外から触られるとさすがにまだ痛かった。が、そうしてると紅茶は自分の部屋に戻り救急箱を持ってきた。
そして慣れた手つきで俺の手を消毒し手当てをしてくれた。
「ふぅ・・・・とりあえずこれでいいかな。どう?兄さん?ちゃんと動かせる?」
そう聞かれ俺は自分の右手を動かす。
「ん。ちょっと違和感あるが大丈夫だよ。」
紅茶は俺の答えを聞くとその場に座りじっと俺を見つめてきた。
そんな弟の威圧に押されてなのかそれとも自分の中のを打ち明けたかったのか俺は今日の出来事を語った。
語り終わると同時に俺は涙を流しだした。それを必死に止めようとするが止まらない。そんな泣き崩れてる俺をそっと弟は背中をさすった。
~刹那サイド~
1時間後
先ほどの情報屋の情報を元に刹那は一つの一軒家の前に立っていた。
「やっと・・・やっと見つけた。」
そうこの半月ずっと探してた。でも、どうやっても見つからなかった。この町には居ないと思い手を広げて探していたがまさに灯台下暗しだったわけだ。
だけどそれも今日で終わり。
あの、バカには屋敷に帰った後でじっくりお仕置きしてやる。
一頻り考えたあと刹那はベルを鳴らした。が、出てきたのはここの家主の息子の紅茶だった。
「あの・・・・どちらさまですか?」
紅茶は少し警戒しながら扉に半身隠しながら応対した。
確かにいきなりたずねてきたんだから警戒するか。少しの沈黙が流れたあと
「あたいは刹那という者よ。ここにあたいの執事がお邪魔してないかしら?」
と当たり障りのない言い方をして自己紹介をした。
「刹那さん・・・そう、貴女が刹那さんなんですね・・・」
おそらく和也から聞いたのであろう。どこまで話しているのかはわからないが必要以上の自己紹介をしないで済むのは楽でいい。
しかし紅茶からは友好的な気配がこない。むしろ敵対するような気配がしている。そう思っていると
「帰って・・・・」
「え・・・?」
いきなりのことで理解できず自分でも間抜けな答え方だったがそんな返し方をしてしまった。
だが、それも束の間
「どれだけ兄さんが・・・・貴女のせいで傷ついてると思っているの!貴女のせいで兄さんが! もう帰って!二度と来ないで」
怒声を撒き散らすような感じで刹那にぶつける。そしてそのまま扉を閉める。
その勢いに押されたのと自分でも和也を傷つけたというのが思い当たるので何も言い返せなかった。
ただただ、閉ざされた扉の先を呆然と立ち尽くしていた。
しばらく見つめて居たがこのままじゃ何も進展しないと判断すると刹那は屋敷へと帰って行った。
―屋敷内刹那の部屋―
和也を連れて帰って来れなかった。
正直、予想外だった。だが、そんな予感が無かったわけではなかった。
ただ、迎えに行けば和也は戻ってくると思っていた思いが強すぎたのかも知れない。
「和也・・・」
この声は和也には届かない。アイツが居なくなったのだと改めて実感した。
そう実感したと同時に刹那の中で喪失感生まれポッカリと穴が開いた感じになった。
それから1週間が過ぎた。相変わらずアイツは戻ってこない。
そして刹那も学園を休みがちになっていた。この1週間まともに食事も喉を通らず血でさえ飲んでいなかった。
(和也・・・・)
失ってから気づいた。いつまでも和也が傍に居てくれると思っていた。だが、和也は居なくなってしまった。その現実は変わらない。
それが余計に刹那の心へ重くのしかかる。そしてまた、その日の夜がやってくる。
夜になり刹那は屋敷のテラスへと移動した。月を見ていれば少しは落ち着く。
月には魔力がありそれを浴びて居れば多少は楽になれるのだった。
「あたいは何をしているんだろう・・・」
テラスへ移動し自分で入れた紅茶を一口飲む。
「うぇ・・・不味い・・・」
カチャ という音を立てながらカップを置いた。和也の淹れてくれていた紅茶が懐かしくなる。
(アイツの淹れた紅茶とあたいの淹れた紅茶は同じはずなのにどうしてこんなに不味いのだろう・・・)
月明かりの下で考える。だが、やはり答えは出てこないままだった。
「・・・・しかし、月が今日は綺麗だねぇ・・・」
月は満月で少し蒼く輝いている。
―ドクン
「え?」
月を眺めて居ると突然体中の血液がものすごい勢いで駆け巡り始めた。
「くっ!・・・が・・・・はぁ、はぁ」
(そうか・・・今日は、あの日だった・・・)
気づくのが少し遅かった。蒼く輝く月が刹那の中に流れる吸血姫としての血を増大させていった。
目の前は赤く反転し
血を体中が欲しがり
破壊したいという衝動に駆られる。
(和・・・也・・・助け、て・・・)
~和也サイド~
あれから1週間が過ぎた。
その1週間俺は外には出れず部屋にただただ引きこもるだけだった。
「なに・・・・やってるんだろうな・・・俺は」
誰も答えない質問を一人で呟く。
あれからというもの目を閉じると1週間前のあの出来事が脳裏に焼きついて離れない。
(くそ・・・)
俺はぶつけようのない怒りを内に忍ばせてじっとしていた。
―コンコン
控えめに扉をノックする音が聞こえる。
「兄さん、ちょっといい?」
弟は扉越しに聞いてくる。俺は「いいよ。」と言い招き入れるためにドアノブに手をかける
「あ、待って。えとね、少し外に出てみない?今は夜だから人は少ないし・・・ね?」
弟なりの気遣いなのだろう。そんな気遣いを無下にすることは出来ず
「わかったよ。ちょっと待っててくれ。」
そう扉越しに告げると俺は着替えを済ませジャケットを羽織って弟と夜の公園へ出かけた。
~夜の公園~
「んー・・・やっぱり夜の公園って気持ちいいね。」
そういいながら弟は楽しんでいた。
「あぁ・・・たまには悪くないかな。」
と無愛想に俺は返した。だが、俺も1週間ぶりに外へ出たのもあって少し高揚していた。
そんな俺を弟は「正直じゃないなぁ。兄さんは♪」などと言ってきた。
俺はバツが悪そうに自分の頭に手を当てながら目を別の方向へ向けた。
「うわぁ・・・・ね、ね。兄さん見て見て。月がすごく綺麗だよ」
しばらく夜の公園を楽しんだのか次は月に目を移した。
そんな俺もつられるように月を見た。
そこには蒼く照らされ幻想的な月が出ていた
―ドクン
「え?」
今、自分の鼓動とは別に誰かの鼓動が聞こえた気がした。
そして俺は何かを忘れているような気がする。
そんな俺をお構いなしに弟は月に夢中になっている。
「まるで、吸血鬼でも出そうな夜だね。」
弟はポツリとそんなことを洩らした。
「・・・!蒼い月、吸血鬼・・・あ!」
今日はお嬢様の真祖としての力が暴走する日というのを思い出した。
なぜ弟が今日のしかも夜に外に行こうと言い出したのか理解した。
「ねぇ、兄さん?そろそろ自分の気持ちに素直になったらどうかな?」
弟は月を背に俺の方へ向きながら語りかけた。
「兄さんと過ごせてすごく嬉しかったよ。でも、兄さんの居場所はここじゃないでしょ。もう、自分に嘘をつかなくていいんだよ。」
そういった弟の紅茶の顔は笑顔だった。
俺はそんな弟に「ありがとう」と短く答え夜の公園を抜け主の待つ屋敷へと駆け出していた。
~屋敷前~
「はぁ・・・はぁ・・・」
息が上がりながら俺は屋敷の前まで戻ってきた。
実に久しぶりな気がする。あの時俺はもうここには戻ってこないと思っていたのに再びこの屋敷の前に居る。
(やけに静かだな・・・)
夜だから静かなのは当然なのだがそれとは別の嫌な静寂が広がっていた。
(それにさっきの鼓動・・・あれは・・・・お嬢様の鼓動な気がする。)
どうしてそう思ったのか自分でも分からないがなんとなくそう感じた。
そしてその予感は次の瞬間に正解だったと思い知らされた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
突然の悲鳴にも似た咆哮が前方から聞こえた。
(和・・・也・・・・助け、て・・・)
そんな声が聞こえてきた気がする。いや、間違いなく今のはお嬢様の声だった。
俺はその声に応えるかのようにお嬢様の元へ走った。
―ラストストーリー~和也サイド~
俺は1階の窓から屋敷の中に入り刹那が居る2階のテラスへ走った。
そして行き着いたそこにはお嬢様が一人苦しそうにだがそれを楽しむかのような姿で立っていた。
「あはは♪和也いらっしゃい♪ねぇ、見て?月がこんなに綺麗なのよ♪」
そう言いながら刹那は俺を自分の傍まで来るように言う。
「お嬢様・・・・」
俺は何も言わず暴走している主の元へ歩み寄った。
「良い子ね。和也。・・・・でも、どうしてアナタはあたいの前から消えたのかし、らっ!」
そういい切ると刹那は俺の首を思いっきり締め付けだした。
その手がどんどんと強くなる。おそらく暴走してるから力の制御が出来ないのであろう。
「お嬢様・・・い、息が・・・できな・・・」
だが、俺の声は今のお嬢様には届いていないようだった。し切りに「どうしてなの?」と繰り返しうわ言のように呟いている。
(やばい・・・このままだと・・)
頭がボーっとしてきた。このままではまずいと思い必死に刹那の手を引き離そうとする。だが、さすがに吸血姫だ。全然びくともしない。
(って、関心してる場合じゃない。何か方法は・・・)
色々考えてみるがどんどん息が出来なくなり意識が遠のいてくる。
そして落ちるかと思った瞬間に急に刹那の手から力が弱くなった。
「ッゲホゲホ・・・お、お嬢様・・・?」
なんとか脳に酸素を入れ少し落ち着いたところで主人の方へ顔を向ける。そこに居たのはお嬢様の吸血姫としての姿がそこにはあった。月明かりで照らされその月をボーっと見上げる艶しくも美しい姿だった。
「ねぇ?和也?」
ゆっくりとこちらへ向き直ると俺に向かってと歩き出した。
「なんでしょう。お嬢様」
少しずつ近づいてくるお嬢様。俺とお嬢様しか居ないこの空間でそのゆっくりと流れる時間は永遠にも感じられる。
そしてこれから起こることを俺は少し予兆しては居た。
(だけど俺は、今度こそ逃げずに彼女を守ってみせると心に誓った。だから逃げるわけにはいかない。)
「血がね・・・足りないの。貴方の血を分けてもらえるかしら。」
「はい・・・・俺の血なんかでよければ」
おそらく今の状態。吸血姫としてのお嬢様に血を吸われると死ぬだろう。
だけど俺はそれでも良いと思った。俺一人の犠牲でお嬢様の暴走が止まる。そう考えるとお嬢様のために死ぬのも悪くはないと思えたんだった。
(まぁ・・・元からこの命は刹那お嬢様のためにあるものだけらな。)
「ふふ♪良い子ね和也。」
お嬢様は次第に近づいて来て俺の首へと白い牙にも似た歯を俺の首筋に立てて押し込む。
・・・・・ドクン、ドクン
「じゅる、ん・・・ん”・・・」
首筋が熱い。そして血がものすごい勢いでなくなって行くのが分かる。それほどまでに吸う量がとてつもないのだ。
「お嬢、様・・」
すでに右腕の感覚が無く頭もボーっとしている。だけど意識だけは失えないでいた。
(もう、長くは・・・持たないか・・・最後に・・・伝えなくちゃ・・・)
そう思い俺は「失礼します」と侘びを入れつつお嬢様を自分の首筋から最後の力を振り絞ってどける。
血を吸っているところを邪魔されたお嬢様は少しだけ頬を膨らませるような感じで怒っていた。
その姿は俺のいつも見ていたお嬢様みたいだった。
(あはは・・・まだ、完全には吸血姫化してなかったんだ・・・良かった。)
そんな可愛らしい仕草のお嬢様を最後に見れたんだ。あとは、あれを伝えるだけだ・・・
「お嬢様、こちらへ・・・来て頂けませんか・・・」
そうやってお嬢様へ伝えるとまた、血を吸って良いのだと思ったのだろう。ゆっくりとまた近づいてきて首筋に顔を近づける。
「失礼します・・・お嬢様。・・・ん、ちゅ」
そういい終わる前に俺は左手でお嬢様をこちらへ向かせ少し強引に唇を重ねた。
それは数秒の出来事かも知れないが俺にとっては時が止まっているかのように長い時間キスをしてたように感じる。
「・・・ん。あ、あれ?かず・・・や?」
少しずつお互いの顔が離れお互いの唇を離した頃にはお嬢様は正気に戻っていた。
「・・・あはは、どこの眠れる森の美女でしょうね。キスで目が覚めるなんて。・・・でも、これで貴女に・・・伝えることが出来ます。愛してます刹那。・・・最後にこの気持ちに気づくなんてバカですね。」
間近で見るお嬢様の顔はとても綺麗だった。
そして俺はもう一度だけ愛しい刹那の唇を重ねる。
「・・・・ん。さようなら刹那」
「か、和也!?」
(最後の最後まで・・・・俺は、刹那に迷惑かけてるな・・・)
そうして俺は静かに愛する人に看取られ目覚めぬ夢に落ちた。。。。
―ラストストーリー~刹那サイド~
(あれ・・・?あたいは・・・一体)
そう思ったのもつかの間刹那は今起きてる現実に目を向けることとなった。
「・・・ん。あ、あれ?かず・・・や?」
気が付くと和也とキスをしていた。しかも和也の顔が近い。
恥ずかしさと甘い感覚に捕らわれ少しだけボーっとしていたがすぐにどういう状況なのか確認した。
和也はぐったりと壁に持たれ掛け顔は青く言うならば死期の近い人間の顔をしていた。
今までの記憶が抜け落ちている刹那は必死に今の状況を飲み込もうとした。
(和也の首筋に吸血の後・・・そして力が戻っている感覚・・・あたいが、和也の血を)
「・・・あはは、どこの眠れる森の美女でしょうね。キスで目が覚めるなんて。・・・でも、これで貴女に・・・伝えることが出来ます。愛してます刹那。・・・最後にこの気持ちに気づくなんてバカですね。」
(!!!)
和也からの告白を聞いた刹那は真っ赤になりながら何も応えられずに居た。
そうして和也は「・・・・ん。さようなら刹那」とまた唇を重ねてきた。
(あ、・・・・ん。)
またキスをされたが目を開けた時に和也は目を閉じていた。
「か、和也!?」
「やだ・・・・どうして!どうして和也!」
和也の胸に耳を当てる。だが、その心臓は微かに動いてるだけだった。
「う、そ・・・・いや、どうしてなのよ和也!愛してるって言ったじゃないのさ!どうしてあたいを・・・どうして・・・せっかく、せっかく戻って来てくれたのに。なんとか言いなさいよ!このバカ和也ぁ!」
刹那は和也の胸でひたすら泣いていた。
「姉さん・・・」
そんな姉を見てはいられなかったのかドックンドールが近づいてきた。
「姉さん、僕が前に言ったことを覚えていますか?・・・・今がその決断の時です。」
ドックンドールは静かに刹那へ質問を投げかけた。
(大事な選択・・・・)
「和也さんを失いたくないのでしょう?」
「・・・そう、だね。うん・・・これしか、ない・・・か」
そう決心すると刹那は近くにあったお気に入りのティーカップを割った。
(このティーカップ・・・和也と買いに行ったものだったね。和也・・・)
和也ともっと一緒に居たい。あたいの我侭で生き返らせることを恨まれるかも知れない。だけど、あたいは和也と一緒に・・・
刹那は少しだけ指を切り自分の血を流しだした。その血を口に含み
(和也・・・もう一度貴方に会いたい。)
そして刹那は和也へとキスをし血を流し込む。
―ラストストーリー~永久に~
意識がはっきりとしてくる。
心臓が動く鼓動が聞こえる。だけどどうして・・・
その答えは意識が戻ってから気づいた。
「・・・ん。せつ・・・な」
やわらかい唇が離れると俺は主のお嬢様へ顔を向ける。
「どうして・・・俺、死んだはずでは・・・」
「あたいが生き返らせた。」
そう言ったお嬢様は少し涙ぐんでいた。そして俺は察した。
「ありがとうございます。お嬢様」
簡単にお礼を言い俺は立ち上がろうとお嬢様から離れようとするが
「和也~?なぁに、他人行儀にお嬢様って言ってるのさ」
「え?ですが・・・」
距離をとろうとしても上を取られているため俺は起き上がれない。
「あたいがどうして生き返らせたかわかったなら次にすることはちゃーんと分かってるよね?」
「愛してるよ和也。もう二度とあたいから離れないで。・・・ん」
「俺も愛しています刹那。もう二度と離しません。ずっとこれからずっと傍で居ます。・・・ん」
俺は刹那を片手で引き寄せ月に見守られながらやさしくキスを交わす。
―END
あとがき
はい。ようやく終了しましたーヽ(´ー`)ノ
一体いつまでかかってるんでしょうねw
しかしようやく書き終えましたー☆
登場人物が極端に少ないのは気にしないでくださいw
というか3人+オリジナルキャラですけどねーw少なっ!
で、後日談はアナザーストーリーって感じで今度書きます。。。。たぶんw
24日にでも公開できればなぁっとw(無謀w
でわ!さいならー
感想スペース
コメント欄:
- 完結、おめでとうございます。そして、お疲れ様でしたー。主に血を奉げて、主の血で蘇る……。ヴァニラ・アイスだ。ヴァニラ・アイスがおる。もう、ヴァニラ・アイスとしか思えない。しかし、ラストの展開が甘い、ぜ……。そして、僕が預言者的なポジションだw 中々、美味しいポジションですなw ありがとうございます。後日談に期待してますよー。 -- ドックンドール? 2008-12-20 (土) 21:04:10
- *和也は校舎裏送りされました* このどアホは…w
とりあえず完結おめでとう、でも、あー!このどアホがー!w -- 刹那@怒りが有頂天? 2008-12-21 (日) 11:38:54 - 完結おめでとうございますーw まぁ、完成するまでいろいろあったけど、無事終わって良かった良かったw あぁ、いいねぇ・・・二人ともいいねぇw あははははーw 後日談楽しみにまってますねぇーw -- 酒飲みスーさん? 2008-12-21 (日) 13:59:33
- 完結おめでとうございや~すw感想は甘ぁあああああああい!!!!!!VerySweat!!!!! -- ヘタレ? 2008-12-22 (月) 19:15:01
- 主従を越えた愛!良いですねbデレた刹那さんが見られて満足しましたw作品完結おめでとうございます! -- B.B.? 2008-12-23 (火) 11:52:49