断符「恋の迷路」

Last-modified: 2008-11-03 (月) 20:03:21

目次

注意書き



当SSはアリス、フランドールのカップリング的SSです。
そういうのが嫌いな方は本編を読まれる前に回避した方がいいと思われます。
後、カップリングSSなのにあんまり、イチャイチャしていません。
イチャイチャなんて書けない作者ですので悪しからず。


更なる注意点として、これは繋符「トリップワイヤー」の続編です。
呼んでいない方はまず、そちらからお読み下さい。


以上の点を踏まえてお読みください。

本編その1



 もう、紅魔館に行かなくなって、1月経った。
 アリスとフランドールは友達となり、2人で人形遊びをしたり、本を読んだりとあのフランドールと過ごすにしては、大人しい時間を送っていた。
 だが、もう1月もフランドールに会っていない。
 既にフラン、アリスと呼び合う仲となったのにだ。
 原因は明らかだ。
 そう、明かなのだ。
 だが、それを認めてしまえば戻れないところにいってしまうのではないか、という懸念がアリスの恐怖心を煽った。
 いや、それはむしろ開き直ってしまえば喜ばしい事かもしれない。
 それでも、アリスはその懸念を振り払えないでいた。
 彼女は弾幕はブレインと主張するほど、思考を大事とし、それゆえにこの袋小路に迷い込んでしまったのだ。
 同じ魔法の森に住む恋の魔法使い、霧雨魔理沙ならば、悩みもせずに開き直り、それを奪っていくのだろう。
 少女の恋の激しさで。


 そう、恋だ。
 これは恋だ。
 事故とはいえ交わされた唇を思うたびに、アリスの胸が高鳴り、頬が紅潮する。
 ただ一つ違うとすれば、これは少女の恋ではないという事だ。


 少女の恋は激しいのだ。
 悩む時は鬱となるまで落ちこみ、弾ける時は躁となるまで弾ける。
 一挙手一投足までもが本気の恋なのだ。そこに恥らいという言葉を挟むほうが愚かしい。
 つまりは、その激しさが少女の恋なのだ。
 激情こそが少女の恋の正体だ。
 だからこそ、霧雨魔理沙の恋の名を冠するスペルカードは激しく眩い。
 それは彼女が少女だからに他ならない。


 だが、今のアリスには恥らいがある。怯えがある。
 恋を楽しむという事に非常にネガティブだ。
 それは、少女の恋と言うには程遠かった。
 何故なら、アリスの恋は乙女の恋に他ならないからだ。
 愛される事を喜び、激しい恋の激情に恥らいながらも応える。それこそが乙女の恋だ。
 しかし、それは愛してくれるものがいないと成り立たない恋だ。
 それゆえ、アリスは怯え、悩むのだ。


 問題はそれだけではない。
 それだけではないのだ。
 アリスが思う、戻れないところにいってしまうのではないか、という懸念がそれだ。
 そう、アリスはフランドールに恋をしてる。
 それを認める事をアリスは怖れているのだ。
 魔法使いとなったその日から、凡その正常さは捨ててしまった。
 だが、その凡そに含まれなかった正常さがそれを拒否するのだ。
 つまりは、女同士の恋を、だ。
 元より、アリスにはその気があったわけではないので、より強く否定してしまう。


 だが、どれだけ否定してもそれ以上の強さでアリスはフランドールに恋をしている。
 愛しているのだ。
 だから、逃れられない。
 だから、事故とはいえ、交わされた唇を思い出しては胸を高鳴らせるのだ。
 それを理解しつつも、アリスは逃れようと足掻き、フランドールと1月も会わなかったのだ。


 しかし、何れは決着をつけなければならない事だ。
 それを理解しているからこそ、アリスは彼女を呼んだのだった。


「おーい、アリス。いるかー?」


 無遠慮な声が表から聞こえてくる。
 同じ魔法の森に住む少女、霧雨魔理沙だ。
 アリスはすぐにドアを開けると、何時も通り小憎たらしい笑みの魔理沙が立っていた。
 横には魔理沙を呼びつけるのに使った人形が浮いている。
 魔力を充電する事により、組み立てたロジックを元に動く自立人形の試作だ。その無事な姿を見て、アリスは安心する。


「全く、なんだよ? 今日は永遠亭に考古学者として忍びこむつもりだったんだぜ?」


 永遠亭とは月の隠者達が住む屋敷だ。
 今では隠れる必要がないとわかったのか、派手に催し物や薬の処方などを行っているらしい。
 そこの主、蓬莱山輝夜が行った月都万象展では月の道具が展示されていたが、何れも珍しいものばかりで、幾つかアリスも奪ってしまおうかと思うほどのものがあった。
 無論、思うだけに留めたが。
 その後、月の兎と薬師に捕まる魔理沙を見かけたのは別の話だ。
 大方、その展示物を諦め切れず、借りる名目で奪ってくるのだろう。
 相変わらず、こそ泥家業に精を出す魔理沙を前に、アリスは溜息を吐かざるを得なかった。


「お、なんだ? せっかく来てやったのに」


 如何にも帰りそうな台詞を吐きながらも、魔理沙は図々しくアリスの家に足を踏み入れ、幾つかの自立人形の試作品に茶菓子とアプリコット・ティーを求めていた。
 自立人形もそれに従って、魔理沙の座る席に茶菓子と紅茶をいそいそと用意している。
 もう一度だけ、溜息を吐くと、アリスも自立人形達にダージリン・ティーを頼むと席についた。


「それで、話ってなんだ?」





本編その2



 アリスが紅魔館を訪れなくなって、もう1月経つ。
 今日もアリスは来ないのかと尋ね、アリスの不在に泣き喚き、癇癪を起こすフランドールにパチュリーは手を焼いていた。
 如何に弱点が多い吸血鬼だろうと、喘息が持病であるパチュリーには1月も制するのには多大な労力を要した。
 尤も、1月も癇癪を起こしつづけているわけではないが、多大な労力を要するのは変わりない。
 ここに訪れないアリスを恨みながらも、良くもここまで懐かれたものだともパチュリーは感心していた。


 ついさっきも、アリスに会いに行くのだと外に出ようとしたところを制したばかりだ。
 パチュリーの体を気遣ってか、十六夜咲夜も紅美鈴も援護をしてくれた。
 だが、何故かレミリアだけは何も手を下さなかった。
 幾ら、フランドールが暴れても大丈夫なようにと屋敷のもの全てにコーティングを施してあるとはいえ、限界がある。
 所詮、コーティングは弾幕ごっこの弾から護る程度の力しかない。
 能力を駆使し、本気で暴れるフランドールから家具を護る術など無いのだ。
 だが、自らのの弱点は無意識の内に警戒しているのだろう。壁や扉、窓、カーテン、天上を破壊する事だけは無いのが唯一の救いだ。
 被害は増える一方にも関わらず、レミリアは地下室に閉じ込めるどころか、紅魔館内を好きに移動させている。
 それを疑問に思いパチュリーはレミリアを訪れたのだった。


「ねぇ、レミィ。何故、妹様を止めないの?」


 パチュリーの第一声はそれだった。
 互いに友人と認め合う二人に遠慮など無かった。
 それを聞き、レミリアは既に用意されていた血液入りの紅茶を一口飲む。
 やはり、パチュリーの前にも紅茶が用意されていて、パチュリーもレミリアに倣い紅茶を啜る。


「止める必要がないからだよ」


 レミリアの答えは端的だったが、全てを語っていた。
 確かにパチュリー、咲夜、美鈴の3人でなら確実に止められる。
 パチュリーはそういう意味だと取ろうとしたが、何か違和感を感じた。
 いや、勿論、その3人で止められるだろうという意味も含んでいるのだろう。
 だが、それだけではないようにパチュリーは思えた。


「そうだね。次の満月の夜、紅い満月の夜に全ては終わる」


 それだけ言うと、レミリアは紅茶を飲み干し、部屋から去っていった。
 運命を操る程度の能力を持つ彼女の言う事だ。その信憑性は高い。
 だが、パチュリーは別の可能性を怖れていた。
 予感だ。いや、予測と言った方がいいだろう。
 そして、その予測は恐らく正しい。
 パチュリーには確信があった。
 だからこそ、怖れるのだ。
 次の満月の夜、紅い満月の夜にフランドールが狂気に落ちる事を。





本編その3



「なんだよ。答えが出てるんじゃないか」


 話を聞いた魔理沙はわからないといった表情を浮かべながら、アリスの話を聞き終えた。
 そう、既に答えは出ている。
 だが、踏み出せない1歩を如何に踏み出すかを目の前の恋の魔法使いにアリスは聞きたかったのだ。
 だから、わざわざ、家に招き、アプリコット・ティーと茶菓子までご馳走しているのだ。


「つまりはあれだな。後1歩が踏み出せないと。そういうことだな?」


 魔理沙の問いにアリスは無言で頷く。
 その様子を見て魔理沙は頭を掻いた。
 魔理沙自身は恋をしたら、一直線に相手を奪う。それは間違いでは無いと信じている。
 だから、アリスの所謂、乙女の恋というものを理解できなかったのだ。
 しかし、1歩踏み出させるアイディアなら思いついた。


「それなら、私のところに嫁がないか? アリスなら家の掃除に魔法の研究と色々と手伝える事が多くて大歓迎だぜ?」
「いやよ」


 間髪いれずに拒否の言葉がアリスの口から紡がれた。
 だが、それを無視して魔理沙は続ける。


「というのは冗談でだ。私はアリスの事が好きだったんだぜ? ここで1歩踏み出させるなんて事はするわけ無いだろ? 相談する相手を間違えたな。でも、アリスには感謝してるんだぜ? ここでアリスを止めて、私のものにしちまえば、いいんだ。それで私の恋心は満たされる」
「何……いってるのよ……」


 怯えた顔がアリスに張りつく。
 それを見た魔理沙は嫌らしい笑みを浮かべ、アリスに迫る。


「なぁ、アリス。フランのどこがいいんだ? あんな子供なんかより、私の方がいいんじゃないのか? 一緒に戦ったりもしたじゃないか。あれからずっと惹かれてたんだぜ? それを裏切るなんて薄情も程々にしてほしいんだ。何度でも言う。私はアリスが好きだ。何なら、ここで全てをアリスにささげてもいいんだぜ?」


 そう言うと魔理沙は服に手をかけ始めた。
 それを見たアリスは予想していなかった光景に怯え、思わず心の底を叫んだ。


「いや! やめて! 私はフランが好きなの! フランを愛しているの!」


 その一言を聞いた魔理沙は満足したかのような笑みを浮かべて服を直し始めた。
 アリスがその様子を呆気に取られてみていると、魔理沙はより満面の笑みでアリスを見返す。


「それだけ大声で叫べるんだったら、もう認めたって事だよな?」


 アリスの顔が赤面する。
 だが、不思議と心地いい気分がアリスを満たしていった。
 それはアリスがフランドールを愛している事を認めた証だった。


「やれやれ、手間のかかる奴だぜ。それにな、アリス。フランもお前の事が好きだよ。この間、会ったときに直接、聞いたんだから間違い無い」


 それだけ言うと、玄関先にかけてあった箒を手に魔理沙は玄関のドアを開けた。


「さーて、今日も元気に色々と頂戴していくかー!」


 気合を入れたのか、大声で言葉を発し、魔理沙は永遠亭の方向へ飛んでいってしまった。
 そして、残されたアリスはありがとうの一言を呟き、フランドールに告白する決意を固めたのだった。





後書き



アリスとフランドールの恋はまだ始まったばかり!
ドックンドール先生の次回作にご期待下さい。


はい、アリフラSSの続編です。
実は最初から三部編成だったこの話。
ぶっちゃけ、前回のだけでまとまったから、いいよね?
と、ネタ神様という名の厄神様にお伺いをたてたところ、見事に却下されました。
それどころか、後書きで打ち切り的一文を入れた僕の頭の中をユンユン廻り始めたのです。
とても電波という名の厄が僕の頭の中を駆け巡ったのでした。


仕方がないから書きました。第二部。
ネタ神様に向けて、ふぁっきん、ふぁっきん、言いながら頑張りました。
題名は思いつかなかったので、この状況って恋の迷路じゃね?
という、安易な発想でつきました。


それでは最後に、東方シリーズ原作者であるZUN氏に多大な感謝を!
読んでくれた読者様にありがとうを送ります。


以上。




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コメント欄:

  • 魔理沙の漢らしさにほれそうだぜ・・・ (// -- 愛符「諏訪子の夫」? 2008-08-27 (水) 06:54:56
  • うおぉう・・・魔理沙の意味深な言葉がかっけえ。でも本当の気持ちだったら切ないですよね・・・。とりあえずマリ→アリは好物です。もっとやれ!w -- もふもふ会長? 2008-08-28 (木) 00:27:47
  • 帰り際、魔理沙の頬には光るものが・・・なーーんて勝手に脳内補完させていただきました ^p^ いや、魔理沙は本当にいい仕事をしたと思います、GJです。 激情こそが少女の恋‥か。 なんだか眩しさを感じつつも恐ろしくもありますね~。 -- オワタ☆残骸? 2008-11-03 (月) 20:03:21