私立ネちょネちょ学園記 第八話 『ドジっ子図書委員のヒミツ』(ぬーぶら長さん&図書室関係者)

Last-modified: 2008-11-03 (月) 10:29:54

目次


注意書き



このSSは私、ばんじろうがネちょ学での詳細を元に書いたSSです。ネちょ学について、を先にご覧頂くとより一層理解度が高まります。そのイメージを頭の中でイメージを膨らませて書いたものなので、現実とかなり違う可能性があります。具体的には性転換させられている方も大勢出てくると思います。
予めご承知下さい。


また、基本的にストーリーは繋がっていませんが、舞台設定や登場人物については前の話を読んでいることを前提に話を進めています。この話を読む前に既に私が投稿したSSをお読みになることをお薦めします。


問題なし!と言う人は本編へお進み下さい
では本編どうぞ。


ひどい扱いを受けている人もいます。その方がドMであることを祈っています。

本編



【プロローグ】


私立ネちょネちょ学園。


・生徒総数不明
・敷地面積不明
・経営体制不明


という謎の教育機関であるが、それは確実にどこかに存在している。
今日もネちょい一日がこの世のどこかで繰り広げられているのだ。






【Ⅰ】


「ええっと、この本がこっちの棚やから・・・こっちでええかな?」


放課後の図書室に、舌足らずな関西弁で話す女生徒が一人。彼女の名前はぬーぶら長、2年⑨組所属の図書委員である。本日は図書館の当番の日なので、放課後も仕事に勤しんでいるのだ。
お目当ての本棚の前に辿りついて、本を元あった場所へと戻す。


「んんっ・・・!んしょっ・・・!」


つま先で立ち、腕もぴーんと伸ばすが本棚の上のほうには届かない。
それもそのはず。本棚は本格的なもので高さは2m近くあり、ぬーぶら長の身長はお世辞にも高いとは言えないからだ。


「ふわっ・・・!?」


加えて本もハードカバーでそれなりの重さがあるため彼女はバランスを崩して倒れそうになってしまう。
彼女が抱えた本の山もバランスを崩して、彼女が自力で転倒を防ぐのはもう無理だ。


「おっと、お怪我はございませんか?」


そこを颯爽と助けるたくましい腕。
ここからは少女の青春の一ページが刻まれる展開である。


助けた腕が人のものであったのならば、の話ではあるが。


「おおきに、ポカホンタス。」
「礼には及びませぬ、我が主。どれ、私めが戻しましょう。」
「それはあかん。いつ見られるか分かったもんやないし、これはウチの仕事や。」
「なんと・・・!その真摯な姿勢に私めは涙が止まりませぬ・・・!」


ポカホンタスが感極まってドバーっと大量の涙を流す、しかしその涙が床を濡らすことはない。そもそも彼は生物ではない。彼は所謂守護霊のような存在である。物心ついたときからぬーぶら長のそばで彼女を助け、守ってきた歴戦のつわものである。守護霊といっても彼がどういった存在なのかは不明で、全身は鎧に包まれておりいつもぬーぶら長の後ろでふわふわと浮いている。


「大げさやなぁ・・・、まだ仕事はあるんやからさっさと終わらせるでー」
「ううっ、御意に!」


気を取り直して次の本棚へと向かう。
ポカホンタスは物に触れることも出来るが、物に触れられる状態だと他の人間にも見えてしまうのである。一度だけ学校の行事の際に写真を撮られて大騒ぎになったことがあるのだ。その時からポカホンタスは滅多に実体化をしなくなった。ポカホンタスの腕力は人間とは比べ物にならないし、スピードも常人には捉えられないほどの速さだ。
しかし、ぬーぶら長には実体化せずとも触れることが出来るため、いざとなれば彼女を抱き上げて飛ぶことも出来る。まさに万能ではあるが、自分と同じ境遇であった祖母から私欲のためにポカホンタスを使うのを固く禁じられている。そしてポカホンタス自身もそんな命令を聞くことはない。
故に、ポカホンタスはぬーぶら長にとって親のようなものでもあった。


キーンコーンカーンコーン・・・
「うっし!仕事も終わったし、さっさと帰るでー。」
「御意。忘れ物はございませぬかな?」
「だいじょーぶやー。ポカホンタスは心配性やなぁ。」


忘れ物はないはずだ、私物は鞄に入れたし鍵をかけるのも忘れてはいない。
鍵を持って、扉を開けようとノブに手をかける。


「では、あの机の上にある鞄は忘れ物ではないのですな?」
「・・・今から取りに行くところやったんよ。」
「それは大変失礼をいたしました。では参りましょうか。」


二人は家族であると同時にいいパートナーなのだ。






【Ⅱ】


次の日の放課後、金曜の当番は忙しいので図書委員二人で行う。そして今日の当番はぬーぶら長とクラスメイトで図書委員長のリィが当番である。カウンターに返却された図書を元の場所へと戻す作業をリィが何も言わずに引き受けてくれたのでぬーぶら長はカウンターで事務作業をこなしていく。
パソコンで返却期限を過ぎた利用者のリストを作成していると、ポカホンタスがそわそわとしていることに気付いた。


「ポカホンタス?どーしたん?」
「ぬ!いえ、何でもございません!」
「? なら、ええけど・・・」


ぬーぶら長はリストへと目を向けて作業を再開する。
しかしポカホンタスはそわそわとし続けていた。珍しいなあと思いつつも本人が喋りたがらないというなら聞く必要もないだろう。


「終わったよ・・・」
「あ、ありがとうリィくん。」


図書を元の場所へと返してリィが戻ってきた。金曜は本の貸し出しも返却も立て続けに来るので、返しても返してもカウンターに図書は溜まっていく。リィは何も言わずに新たに返却された本を一山抱えると、続けて作業に戻っていった。
これはそこそこの力仕事になるので、ぬーぶら長が一人で作業している時はどうしてもペースが遅くなってしまう。しかしリィも線が細めとはいえ男子であり、剣道部で鍛えているので本を片手で抱えててきぱきと作業する様は頼もしい。


「ぬぅ・・・私ならアレの十倍は一気に作業できるというのに・・・!」
「・・・ポカホンタス?何ゆうてるのん?」
「我が主よ!私めにも作業を手伝わせて下され!あのこわっぱの十倍、いや二十倍は働いてみせましょうぞ!」


鎧の隙間からポカホンタスの目がビカァッと輝く、かなり気合が入っているようでなんとも言いがたいプレッシャーを放っている。しかし実体化すると姿が見えてしまうのに、人の出入りの激しい場所でそんなことをさせるわけにはいかない。ポカホンタスはそんなことぐらい分かっているはずなのになぜこんなことを言い出すのだろうか。


「へ?手伝うゆうても・・・ダメに決まってるやろ?こんなとこで実体化したら姿見られてまうし。」
「確かにその通りですが・・・!」
「分かってるならなんでそんな事言うのん?」
「私のほうがあんな小僧よりもお役に立てるということをご覧に入れてみせます!」


どうやらポカホンタスはリィに対して対抗意識を燃やしているようだ。
ぬーぶら長には全くもってその理由がわからない。まずはポカホンタスを落ち着かせないと話も出来ないと考え、理由を聞き出す。


「そんなことさせられへんよー。それになんでリィくんに対抗意識燃やしてるのん?」
「ぬ!いえ、あのこわっぱ何も言わずに力仕事を引き受けいいところを見せようと画策して、我が主に近付こうとしているに違いありませぬ!しかし安心召されよ我が主!私めの目の黒いうちはあのような者には我が主には指一本触れさせはいたしません!」
「・・・・・・はぁ~。」


ポカホンタスの悪い癖が出てしまったようだ。ポカホンタスは日ごろからとても紳士的であるが、ひとたび勘違いをすると暴走してしまう節がある。特にぬーぶら長の周りに異性が寄ってくると娘を溺愛する父親のように憤慨し、対抗してみせようとしてくるのだ。
別にぬーぶら長には付き合うとかそんなつもりは全くないのだが、ポカホンタスは過敏に反応して、よくぬーぶら長を困らせる。


「またそんなことゆうて・・・ポカホンタスを軽んじてるわけでもないんやからそんな事言わんでもええやん?」
「確かにその通りでございますが・・・男はみなケダモノなのです!」
「意味がわからへんよ・・・」


ポカホンタスがいくら力説しようとも、こんなところで実体化させられるわけがない。会話の声をいぶかしむ者すら居るというのに実体化した日には大騒ぎだ。この学園ならばある程度のことは大丈夫だとは思うが、流石に謎の鎧姿の霊が図書室に現れたとなっては厄介なことになってしまう。
ぬーぶら長の好きなのんびりとした日々を過ごすためには仕方のないことだ。
と、そこへ返却された図書を返し終わったリィがカウンターへと戻ってきた。


「どうかした?」
「ひゃ!? な、なんでもあらへんよ!別に誰とも喋ってへんし!」
「? ・・・そう。」


利用者の波も途絶えたようで、図書室の中に生徒の影はまばらに存在するだけである。カウンターには返却された本も溜まっていないのでリィはカウンターのぬーぶら長の隣の椅子へと腰を下ろした。
それと同時にポカホンタスの背後に炎が揺らめく。


「こ、小僧!我が主の隣に許可もなく腰を下ろすとは・・・!今すぐここで断罪してくれる!」


ポカホンタスが腰に挿した剣を抜き、リィへと向ける。
今にも切りかからんとする勢いだ。


「秘剣・・・」
(・・・このバカホンタス!いい加減にし!どっか行ってて!)
「バ、バカホンタスですと!? く、主の命には逆らえませぬ・・・御前失礼いたす・・・」


ポカホンタスは剣を鞘に戻すと肩を落としてトボトボと壁をすり抜けながらどこかへと去っていた。
少し言い過ぎたかとも思ったが、ポカホンタスが暴走する方が悪いので放っておく。たまにこうして口論してはポカホンタスが家出をすることがある。最近はまったりした生活を送っていたのでポカホンタスと喧嘩することはなかったが、居なくなったことは初めてではないので焦ることもない。


「大丈夫・・・?調子が悪いなら先に帰っても・・・」
「へ?いやいやいや!私元気だから!ちょっとボーっとしてただけで!」
「・・・無理は、しないようにね。」
「あ、ありがとう・・・」


優しさが逆に痛い、しかもさり気ない心遣いが余計にチクチクとぬーぶら長を責める。
ちらっと時計を見ると本日の当番はまだ1時間ほど残っている。あと1時間も針のむしろに座らせられるのだからぬーぶら長はいたたまれない。


「・・・・」
「・・・・」


カウンターに座る二人の間を沈黙が支配する。


(一時間!一時間これに耐えるなんて無茶や!うぅ~、ポカホンタスのアホー!)
(・・・大丈夫なのか?)
「はーろーリィくんにぬーちゃん!元気にお勤めしてるかなー?」


重苦しい空気を全く読めずに明るい声をかけたのは図書室司書のらいぶらり~である。レンズの厚い丸眼鏡にローブを羽織ったいかにも本の虫といった格好である。夏でも冬でもこの格好なのだから余程気に入っているかこれしかないかであろう。ローブのせいで顔も良く見えず、体格も155cmくらいと性別も分からない謎の司書だ。
そのくせ正確は陽気で大雑把と来ているものだから、本が好きな以外はてんで司書に向いていない性格なのである。おかげで図書委員が懸命に働く羽目になっているのだが、本の在庫の管理は全てらいぶらり~の頭の中で把握されているので本の整理には欠かせない存在なのである。そして一度読んだ本の内容も忘れないので、文献の検索にも一役買っている司書というよりもアドバイザーといった立ち位置である。


「(た、助かった!)こんにちわ!今日もご機嫌ですね!」
「こんにちわ。ご覧の通り仕事は全うしています。」
「うんうん、イイコトだ!これならボクは安心して本を読めるってもんだね!」


仕事してくださいと言いかける図書委員二人組であったが、図書委員が担っている図書の返却やカウンター業務などを手伝わせると、逆に仕事が増えるので口をつぐむ。この司書は基本的には役立たずなのである。しかしこの時間に図書室に顔を出すのは珍しいことだ。いつもは閉架図書に籠もっているはずなのであるが・・・


「今日はどないしたんですか?まだ下校時刻にもなってへんのに図書室に来るなんて珍しいですよね。」
「いいトコに気が付いたねぬーちゃん!実は頼みたいことがあってだね・・・」


リィが「またか・・・」と小さく呟いた。また、ということは前にもこんなことがあったのだろう。
ぬーぶら長は何かいやな予感がしてきたが、気付くのが一歩遅かった。


「明日の朝から明後日まで泊り込みで作業するから。よろしくね~♪」






【Ⅲ】


図書室で職権濫用された次の日の朝、学園の図書室の閉架図書館のさらに奥、何やら金属で出来た重苦しい扉の前にぬーぶら長、リィ、らいぶらり~の三人は集合していた。
らいぶらり~の服はいつものローブ姿であるが、ぬーぶら長とリィは自前の制服の上にらいぶらり~が用意した色々な装備を着けている。ライト、ロープ、笛、ピッケル・・・まるで今から洞窟を探検しに行くような装備の数々である。


「あの、これから閉架図書に行くんよね・・・?」
「そうですよー?どうかしましたかぬーちゃん?」
「なんでこないな装備が要るんですかー!?」


昨日の図書室で宣告されたのは休日返上での閉架図書に蔵書されている本の探索であった。
正直休日にそんなことをさせられるのは御免被りたいところではある。しかし断ってしまうと、この司書のことだから何をさせられるか分かったものではないのでしぶしぶ承諾したのだ。『探索』という言葉が引っかかっていたが、この装備で行うのは確かに『探索』と呼ぶべきものだ。リィは装備を渡されると迷わず装着していたので何回か連れてこられているのだろう。


「・・・大丈夫。死にはしないよ。」     たぶん
「今小さくたぶんってゆうたよね!? この学園に何があるのんー!!」
「はいはーい、では行きますよー。」


らいぶらり~が言うが早いかスイッチを押すと、扉がギギギゴゴ、と重苦しい音を響かせながら開いた。扉の向こうには地下へと続く階段が続いていた。明かりもなく、先は真っ暗だ。こんな所を進むなら確かにこの装備は必要であろう。


「ってなんやねんこのダンジョンわー!? 図書室にダンジョンってネ(スキマ)かー!」
「時間もないのでさっさといきますよー。リィくんは一番後ろでフォローしてね?」
「分かりました。」


ぬーぶら長が文句を垂らしながらも、3人は一列に並んで階段を下りて行く。先頭にらいぶらり~続いてぬーぶら長、リィといった順だ。灯りを点けて、階段を降りるとそこは石で囲まれた通路が左右と正面に伸びている。奥にはさらに分岐があり、地図がないと簡単に迷子になってしまいそうだ。
しかし目的の本の場所はらいぶらり~が把握しているので、なんとか道に迷うことはない。


「場所が分かっとるなら一人でも取りに行けるんちゃいますか・・・?わざわざこんな重装備せんでも・・・」
「おっとそこ危ないよー?」
「へ?」


ぬーぶら長が足を下ろすと、床が少しへこんで壁からシュッと何かが飛び出してきて彼女の目の前を通過した。
リィが咄嗟に後ろから彼女の体を引かなければ直撃していただろう。


「な・・・!」
「だから危ないって言ったのに~、リィくんぐっじょぶ!」
「あ、ありがとうリィくん・・・ってなんやねんホンマにー!? 下手したら死にますよー!?」
「飛んできたのは毒矢だったね。」
「下手せんでも死ぬわー!」


迷宮に入って休憩を挟みつつ歩いて5時間が過ぎたであろうか。歩いた距離は大したことないが、罠を探しながらの慎重な前進のため、時間がかかってしまったのだ。全くどこかのインディな考古学者もびっくりの迷宮である。幸い地図を把握し罠発見能力もあるらいぶらり~が居るから救いがあるものの、一人では絶対に入りたくない場所である。
そしてこういう時に一番頼りになる相棒は昨日から戻ってきていない。


(全く肝心なときにおらへんのやから・・・そりゃ言いすぎたかもしれへんけど・・・)
「さて、ここからは未到達域になります。どこにどのような罠があるかも分かりませんので慎重に行動してくださいね~。」
「はい。道標は一応置いていきますね。」


地図は頭に入っているが、踏み込んだことのない階層へ入る。奥へ行けば行くほどトラップの数も増え、凶悪な仕掛けが多くなる。少しのミスが死につながる危険な場所である。
途中にある本棚には見たこともない文字で書かれた蔵書がたくさん置いてあり、ひと目で希少な本であることがわかるような装丁で鍵がついているものも多い。ぬーぶら長が手にとって本をめくろうとするとらいぶらり~がそれを制止する。


「うかつに本を開かないほうがいいですよ、下手すると戻ってこれなくなるかもしれません。」
「戻ってこれへんって、何の本なんですかこれ!?」
「世の中うかつに知らないほうがいい事もあるんですよー」


ぬーぶら長は絶対にここにある本は読まないようにしようと心に決めた。自分にポカホンタスが憑いているように、世の中には不思議なことが沢山あるのだろう。そう思わないとやっていられない。


しばらく進むと、ひと際大きな扉の前にたどり着いた。少し錆びた金属で出来た扉には、ヤギの頭の模様が描かれている。ぬーぶら長もリィも悪い予感しかしなかったが、一縷の望みをかけてらいぶらり~に尋ねる。


「あの・・・この扉・・・」
「ついに着きましたね~目的の本はこの奥ですー。」


やはり悪い予感は当たるもので、おどろおどろしい扉の向こうへと行かなくてはならないようだ。今までも底の見えない落とし穴やら吊り天井やら所謂ブービートラップを潜り抜けてきた三人だが、この先にはさらに凶悪な罠がある予感がしていた。物理的な罠はらいぶらり~が細心の注意を持って解除するが、一体どのような罠が待ち受けているのか。
ギギギ、と鳴るさび付いた扉を開くと、教室ぐらいの大きさの部屋の真ん中にあるヤギの模様が描かれた台座の上に一冊の本が置かれていた。


「あった!ありましたよ目的の本が!」
「本一冊に大げさな部屋やなぁ・・・」
「らいぶらり~さん、こんなときこそ慎重に進まないと。」
「わかってますよーリィくん!そんなヘマをやるほどドジじゃありませんよ。ぬーちゃんと違って。」
「ウチはドジっ子やあらへんわー!」


一歩一歩罠がないかを確認しながら進んでいく。しかし拍子抜けなことについには罠も何もなく本を手にすることに成功してしまった。本は厚さ5センチくらいのハードカバーで、拍子にはヤギの頭蓋骨が描かれている。


「んーこれこれ!読みたかったんだけど機会がなくて後回しにしてたんですよねー!」
「なんかまともな本には見えへんのやけど・・・」
「詮索はしない方がいいよ。一晩中理解できない話を語るから。」
「前は一晩中語られてもうたんか・・・」


本を手に入れたのならばこのようなところには用はないので、さっさと脱出する。
部屋から出ようとしたときに、台座のヤギの目が妖しく輝いた。するとどこからともなく低い声が響く。


“その本はヒトの手には余る。何故それを手に入れんと欲す?”
「なんやこの声!?」
「また奇怪な事態が・・・」
「愚問ですね。」


らいぶらり~が眼鏡を人差し指でくぃっと上げながら問い掛けに答える。


「ボクはただ識りたいだけです、全てをね。」
“それはヒトの身にあまる願い。ヒトはヒトでありそれ以上でも以下でもない。”
「それでもボクは識りたい。これだけは譲らない。」
“・・・ならば進むが良い。イカロスのようにならぬようにな。”
「肝に銘じておきます。では失礼させていただきます。」
“ここから出られればな。”


三人が扉を開けたところで、床を破って大きな石で出来た人形が飛び出してきた。大きさは3メートルほどだろうか。目が怪しく光り、その眼光は三人を捉えている。


「あちゃー、ゴ-レムとは予想以上ですねー。」
「何やねんなあれ!? ファンタジーすぎやー!」
「さっさと逃げますよ。さぁ走って。」


三人は今度はリィを先頭とした行きとは逆の順番で着た道を走って戻り始めた。ゴーレムと呼ばれた石人形は、まっすぐに三人を追う。ズシン、ズシンという重い足音が迫る。


「何やねんなあの人形!? 足も速いやん!」
「振り向くと転びますよ。それにしてもあの重さで潰されたら一撃ですね。」
「うーんあれの構造も知りたいですね・・・ゴーレムの本はどこに置いてあったかな?」


パニック真っ只中のぬーぶら長とは対照的にいたってマイペースな二人は、このような事態にも慣れているのだろうか。こんなときでもマイペースなのは羨むべきことなのだろうか。
5分ほどゴーレムから逃げると、急にリィが立ち止まった。


「リィくんどうしたのん!? はよ逃げな!」
「道標がなくなってる。ずっと辿ってきたはずなんだけど・・・」
「あちゃー、どうやら内部構造が変わるエリアなようですねー。現在地が分かれば道も分かるんですが。」
「それってまずいんやないの!?」
「とりあえず適当に逃げます。」


三人は先の分からない道を走る。罠は幸いなかったが、たどり着いた先は行き止まりであった。
道を戻ろうにも後ろにはゴーレムが迫っている。


「ぎゃー!死んだー!」
「あらあら、どうしましょうねー」
「・・・らいぶらり~さん、この人形は生きているのですか?」
「・・・ははぁ、やりますか?この人形は岩石を動かしてるだけなので生物ではありません。なので存分にどうぞ~」
「では、失礼して。」


すでに間近へと迫ったゴーレムが腕を振り上げ、何百キロはありそうな岩の塊が三人の頭上へと振り下ろされる―――はず、だった。
ズズン、という音が三人の横から響く。そちらを見ると振り下ろされるはずの腕が床へと転がっていたのである。人形の横には日本刀を抜いたリィが佇んでいた。リィが壁際の二人の元へと戻り、ゴーレムのほうへと構え直す。


「なんやのこのトンデモ展開ー!?」
「あれはただの日本刀じゃありませんよ。前潜ったときに見つけたお宝です。」
「ここ図書館やなかったんですか!? そもそも岩を真っ二つにできる日本刀て!」
「説明書の銘がかすれていて読めなかったんですが、説明には『すっごく切れるよ!』と書いてありましたから。」
「まず説明書があることが驚きや!」


腕を切られたゴーレムが一瞬たじろいだようにも見えた。
しかしギシギシ、という音がゴーレムから響いたかと思うと、ゴーレムの色が今までの灰色から黒曜石のような艶のある黒に変わっていく。ついでに切られた腕も生えるというおまけつきである。
ゴーレムが再度腕を振り上げ、リィに向かって振り下ろす。それを華麗にサイドステップでかわして腕を再度切り落とさんと上段から振り下ろす。しかし、今度は腕が切れることはなく、ゴーレムの攻撃はさらに続けてリィを襲う。


「まずいですね・・・あの刀で切れないとなると動力部を壊すしかありません。」
「動力部ってどこにあるんですか!はよせんとリィくん潰されてまうよ!」
「大体は頭ですね。ただリィ君の持ってる刀以外に武器がありません。」
「じゃあどないするんですか!?」
「うーん、どないしましょうねぇ。」


二人が倒す方法を模索していると、リィがゴーレムの腕に吹っ飛ばされて壁に激突した。直撃ではなく刀でガードしたようだが、岩の壁へ叩きつけられた衝撃で動くことができない。
ゴーレムはリィが戦闘不能と判断したのか標的をぬーぶら長とらいぶらり~へと変える。ズン、ズン、という足音が二人へと迫る。その腕を振り上げ、二人の頭上へと振り下ろされる。


「ひっ・・・!」
「まずいですね・・・!」


岩の拳が眼前へと迫り、ぬーぶら長はギュっと目を閉じる。
ぬーぶら長の頭には今までの人生の場面が浮かんできた。これが走馬灯というものであろうか。




幼稚園の頃、隣町で迷子になったときに励まし、導いてくれたのは


川で遊んでいて流されそうになったときに自分を助けてくれたのは


自分だけが出来ずに馬鹿にされた逆上がりの練習に付き合ってくれたのは


一人で留守番をしているときに高熱を出して、それをずっと看病してくれたのは


    いつも頼りになる相棒だった。




「・・・っ!ポカホンタス!」


「呼ぶのが遅いですぞ、我が主よ。」


ぬーぶら長が聞きなれた声に目を開くと、岩の拳は止まっていた。
実体化して片手でゴーレムの一撃を受け止めていたのは、頼れる相棒である。


「ポカホンタス!来てくれたん!?」
「我が主よ、早く私めの名を呼んでいただかなければ馳せ参じることが出来ませぬ。」


そう言うとゴーレムを弾き飛ばし、ポカホンタスはぬーぶら長の方へと向き直る。


「普通に助けてくれればええのに・・・」
「どっか行けとおっしゃったのは我が主の方ですぞ。」
「そんな事言ってる割には心配して後をついて来てたのに素直じゃありませんねー」
「なっ!お主なぜそれを!?」
「ほらほらまだ動いてますよ。」


らいぶらり~が示した方では、弾き飛ばされたゴーレムが立ち上がりまた襲い掛かろうとしていた。
リィも動けるようになったらしく、三人(?)の元へと駆け寄る。


「怪我はありませんでしたか?・・・ところでどちら様ですか?」
「話は後だこわっぱ。今はアレを止めることが優先事項である。」
「・・・分かりました。」


ポカホンタスとリィがゴーレムに対し切りかかる。しかし最初のようにゴーレムの体に刃を入れることは出来ない。リィの刀はおろか、ポカホンタスの剣も通らない。ポカホンタスの力を以てしても弾くのが精一杯である。


「ふむ、硬いですな。」
「ポカホンタス!弱点は動力部!たぶん頭!」
「御意に。」


ポカホンタスがゴーレムの攻撃をかいくぐり、足に剣戟を当てゴーレムの体制を崩す。
地面に手を突いたゴーレムの腕をポカホンタスが固定してからリィに叫ぶ。


「こわっぱ!眼に刀を突き刺せ!」
「っく!」


岩で出来た太い腕を駆け上がり、リィの持つ日本刀がゴーレムの眼につきたてられる。しかしそれだけでは機能停止にまでは至らず、ゴーレムがリィを振り払うがその挙動はゆっくりになった。そこにポカホンタスが追撃を見舞い、ポカホンタスの剣とリィの刀がゴーレムの頭部を貫く。ゴーレムが膝をつき、そのまま地面に崩れ落ちてパーツがバラバラになり完全に機能を停止した。


「ツメが甘いな、こわっぱ。その剣では守れるものも守れぬぞ。」
「未熟は承知です。あなたは守るものが見えているのでしょうが僕は・・・」
「ふん、だがあの岩人形に恐れずに向かっていったことだけは褒めてやろう。未熟に変わりはないがな。」


ポカホンタスは剣を鞘に収め、ぬーぶら長へと向き直る。
そこで跪いて頭を垂れた。


「我が主よ、助けるのが遅くなり申し訳ない。」
「ううん、ウチもごめんなぁ。昨日は言いすぎてもうた・・・」
「我が名を呼んでくれたことだけで十分で御座います。」


改めて仲直りする。なにやら恥ずかしくなってしまい、ぬーぶら長はにへへ、と笑って見せた。ポカホンタスには最大級の褒美である。暖かい空気に満たされていたが、ここでらいぶらり~早速手に入れた本のページを捲りながら口を開いた。


「いい雰囲気のところ申し訳ありませんが、続きは後にしませんか?脱出までどれだけかかるか分からないので早めに行動を起こさないと不眠不休で月曜日、ということもありますので。」


気付けばズシン、ズシンという次のゴーレムの足音が迫っていた。


「まだあんなんが来るんかいな!ほなはよ逃げな!」
「お供しますぞ我が主よ!」
「らいぶらり~さん、本を読むのは後にしましょう。」
「あと5ページ!いや10ページだけ!」


ぬーぶら長には行きと同じ5時間がなぜか楽しいものに思えていた。やはり後ろを守ってくれる相棒が居るのはいいものである。走り通しでようやく外に出られたのが真夜中。精根尽き果てた三人はその場で解散し、図書館のダンジョン探索は幕を閉じたのである






【Ⅳ】


図書館探索から日曜を挟んで月曜日の午後、ぬーぶら長とリィは探索の報酬として司書室でのお茶会にお呼ばれしていた。もちろんポカホンタスも一緒である。一度姿を確認して、存在を認識すると実体化せずとも見ることが出来るようになるらしい。
コポコポ、と紅茶がカップに注がれる。あまり紅茶に詳しくないぬーぶら長でも香りからしてかなりいいお茶であることはわかった。目の前には焼きたてのスコーンやその他の茶菓子も置かれている。あの生死をかけた冒険の報酬としては安いものだろうが、一介の学生には豪華すぎるお茶会だ。


「どうぞ食べてくださいね~、あの本には予想以上の収穫があったので遠慮することなんて何もないんですよー」
「ほわぁ・・・なんやこのお茶。ええ紅茶ってこんな風味なんか・・・」
「このスコーンは前回と同じでらいぶらり~さんが焼かれたものですか?」
「そうですよ~、昔から菓子を作るのだけは得意なのです。」
「この香り・・・職人の心意気が伝わってきますな。しかし淹れる技術もお見事、ここまで茶の力をを引き出せるのはなかなか出来ませぬ。」


司書室では誰かに見られることもないので、ポカホンタスは実体化して優雅に紅茶を愉しんでいた。ぬーぶら長もポカホンタスが飲食が出来ることを今日初めて知った。本人の言うところによると、空腹になる事はないが飲食を嗜むことは出来るらしい。食べた物がどうなるのかは怖いので聞かないでおいた。だが今も鎧の下の方から紅茶が垂れてくるのではないかと気が気ではない。


「ところで司書殿は何故私の存在に気付いておられたので?姿を見せてはいなかったと記憶しておりますが。」
「あなたのような存在が居るということを知ったので、ぬーちゃんが独り言を喋っているのを見てもしやと・・・。」
「なるほど、確信があるわけではなかったのですか・・・」
「ダンジョンにぬーちゃん連れて行けば非常事態のときに見せてくれるかナーと思いましてね。」
「そないな曖昧な確信でウチは死にそうな目にあったんですか!?」


リィには放課などに既にポカホンタスについては説明をしたが、特に驚いた様子もなく納得してくれた。もちろん言いふらしたりなどしないと、こちらから言い出す前に言ってくれたのが少し嬉しかったが、ポカホンタスは相変わらず悪態をついたままであった。
そんなリィは、ぬーぶら長がギャーギャーとらいぶらり~に抗議をしている横でただ静かに紅茶をすすっている。


「大体ですね!危険な場所に行くのにリィくんに日本刀持たせて戦わせるなんて危ないやんかー!」
「いやぁ前回付き合ってくれたし今回もと思いましてね。」
「依存しすぎやー!」
「てへ☆」
「てへ☆やないわー!大体今回みたいにヤバイものがまた出てきたらどないするんですか!?」
「大丈夫。」


リィが唐突に口を開いた。何杯目かのお茶のおかわりを飲み干して、言葉を続ける。


「キミは僕が守ります。」
「なぁっ!?」


ぬーぶら長は顔を真っ赤にして何かを言おうとするが言葉にならない。


「えっあっでもそんな!えぇ~!」
「おのれ小僧!本性を現しおったか!剣を抜けぃ!成敗してくれる!」
「くっくっくっ、力の差はあっれも同じ体格なら負けましぇん!受けれ立ちましゅ!」


リィが部活で使うと思われる竹刀袋の中から、先日も使っていた日本刀が姿を現す。
ポカホンタスとリィが同時に得物を鞘から引き抜くと、司書室には甲高い剣戟音が響き渡る。


「あーもう!なんやねんなー!二人とも落ち着けー!」
「・・・香りつけのブランデー入れすぎたかな?」


ポカホンタスも加えた日常が出来たことでぬーぶら長の学園生活は、あまりまったりした生活ではなくなった。またダンジョンに連れて行かれるだろう。危険な目にも遭うだろうが、前よりも少し楽しいのは嘘ではない。
ポカホンタスも心なしか元気なようだ。久々に実体化して動くことが出来たので楽しかったのであろう。少なくともぬーぶら長の記憶の中であんなにも楽しそうな彼を見た事がない。


ちょっとだけまたダンジョンに潜ってもいいかな、という気分になったぬーぶら長であった。





あとがき



第八話、図書委員編です。今回七話から時間が経ってますね。正直ネタなんてもうn(ry
まぁリアルで忙しくてネちょるのが精一杯だったというのもありますがw
楽しんでいただければ幸いです。


まず一番のツッコミどころであるポカホンタスについてですが、前に『ぬーぶらさんはスタンド使い』というネタを仕入れていたんですよね。ソースは不明です。雑談の中にこそネタを見つけないとはっちゃけられないですからw
外観的なイメージとしては西洋の鎧っぽい感じです。フルフェイスなんですけどカパッと開きます。顔はありませんけどね。


今回一番辛かったのが関西弁!聞く分には関西弁って分かるけど文字で把握させるのが予想以上に大変でした。ところどころセリフが入っても誰よこれ・・・って後から自分が見直して思ったりして何度も何度も書き直して・・・どうすればいいのかよく分からなくなってしまったりということが多々ありました。
参考に他のSS最近読んでないし読んで回ろうかな・・・
ただ感想を残すのが超苦手な俺はROMかもしれなくて申し訳ないんだけどね。


あんまり叩かれるとへこみますが、感想などあれば頂けると嬉しいです。
俺のキャラでも一つ話を作ってくれよ!という方もお待ちしています。
作る順番は先着順とはいかないですがそれでよければ頑張りますので~





コメント欄

  • おぉぉ~・・・ちーさんだちーさんだ!すごいですよ関西弁復元! これで図書館組が出ましたね・・・次は誰だろう?楽しみに待ってますー!w -- ? 2008-10-07 (火) 02:42:10
  • おー、ちーちゃんだー。スタンド使いだったのかw 次回作も期待してますがご無理はなさらぬように~ヾ(゚ω゚)ノ゛ -- 和也? 2008-10-07 (火) 02:55:58
  • らいぶらりーさんが良いキャラしてるなぁ。そして、リィさんが格好良い! 何より、守護霊憑きという設定は素直に驚きました。ソースが気になりすぎる。うん、相変わらず、磐石の面白さだ。僕はこういうのは書けないから、素直に尊敬してしまうなぁ。次回作を期待してますー。 -- ドックンドール? 2008-10-07 (火) 12:07:52
  • しるば~ちゃりおっつですね、わかります。それよりレナも探検した~い♪ -- ゆか眠? 2008-10-07 (火) 16:15:08
  • 嵯峨童子という単語が浮かんだのはボクだけでいい・・・・wいいなあなんかいいなあw -- 因幡 月(るな)? 2008-10-07 (火) 18:11:28
  • ぬーぶら長には萌えざるをえないわけだが俺はらいぶらりーさん一筋である、そして今回も楽しく読ませ頂きました!どうもです! -- てんこぬ? 2008-10-07 (火) 20:07:17
  • ポカホンタスって言いやすい名前がすごいです!!wぬーぶら長さんのキャラも個性があっていいですねb -- ろりこn? 2008-10-07 (火) 20:40:51
  • 貴方楽しみまくりながら書いたでしょ!wキャラクターが凄く生き生きしまくってるじゃないですかー! -- つるぺたかぷりぃ? 2008-10-07 (火) 22:21:48
  • ふぇ・・・?最後のウチのセリフが・・・・wと、(スキマ)ww楽しく読ませてもらいました~w -- リィ? 2008-10-07 (火) 22:31:33
  • 本当にスタンド使いになっとるーーー!(汗)ポカホンタスが普通に格好ええなぁw そして男前リィちゃんにドギマギ…ww 書いてくれてありがとうございました!今回もめっさ楽しかったで~w -- ぱっつんぬーぶら長? 2008-10-08 (水) 02:25:29
  • うっしゃーーーwセーフ今回もセーフw相変わらずのナイス設定・・・流石ネちょssの第一人者w -- 洩矢諏訪子の夫? 2008-10-08 (水) 03:49:28
  • ぬーぶらさんのスタンドかっけぇwwリィさんが色々な所で男前なのは仕様なのか!w -- さば? 2008-10-08 (水) 18:15:01
  • おぉ図書館編~。そして閉架書庫がダンジョンにw私のキャラもいい感じですよ~。たのしかったです~。 -- らいぶらり~? 2008-10-08 (水) 20:12:56
  • ぬーぶら長さんがスタンド使いになってて吃驚w皆良いキャラで面白かったですw -- リプトン『ルアンの紅茶花伝』@レミリ味? 2008-10-09 (木) 06:21:19
  • トラップいっぱいの図書館ダンジョンにゴーレム・・・これは確かにネ(スキマ)www -- グリーン 2008-10-28 (火) 23:32:27
  • ほのぼの展開~と思ってたら、いつの間にか命懸けの戦いになっているぅ。 ポカホンタスの嫉妬(?)にニヤニヤでした。 それにしてもいい設定ですね~。 リィさんの最後のセリフがなにやらおかしな気がw (゚д゚;) -- オワタ☆残骸? 2008-11-03 (月) 10:29:54