私立ネちょネちょ学園記 第十話 『お狐さまのカリスマ?』(狐さん、グリーンさん&more...)

Last-modified: 2008-11-09 (日) 07:15:37

目次


注意書き



このSSは私、ばんじろうがネちょ学での詳細を元に書いたSSです。ネちょ学について、ネちょ学の人々を先にご覧頂くとより一層理解度が高まります。そのイメージを頭の中でイメージを膨らませて書いたものなので、現実とかなり違う可能性があります。具体的には性転換させられている方も大勢出てくると思います。
予めご承知下さい。


また、基本的にストーリーは繋がっていませんが、舞台設定や登場人物については前の話を読んでいることを前提に話を進めています。この話を読む前に既に私が投稿したSSをお読みになることをお薦めします。


問題なし!と言う人は本編へお進み下さい
では本編どうぞ。


ひどい扱いを受けている人もいます。その方がドMであることを祈っています。

本編





【プロローグ】


私立ネちょネちょ学園。


・生徒総数不明
・敷地面積不明
・経営体制不明


という謎の教育機関であるが、それは確実にどこかに存在している。
今日もネちょい一日がこの世のどこかで繰り広げられているのだ。






【Ⅰ】


肌寒い日も増えてきたある秋の放課後、職員室から職員玄関までの廊下にペタン、ペタンとスリッパの音が響く。その足音の主は濃紺のスーツに身を包み、手には革の鞄と『デキる女』の格好をしている。
しかし身長は女性としてもかなり低い方でおまけに童顔にレンズの丸いふちなしの眼鏡、スーツも微妙にサイズが大きく袖が余っており『デキる女』なのはその格好だけだ。
そんなアンバランスな格好の中でも何よりも目を引くのが頭の上に二つとお尻の辺りに一つ生えているもふもふとした毛の塊である。頭の上のそれはいわゆるキツネ耳と呼ばれるものでぴーんと立っており、色は彼女の髪の色と同じ少し日に焼けた黄色で先っちょだけに少し白い毛が生えている。お尻の辺りから生えて、今もふるふると左右に揺れているのもまさしくキツネのしっぽである。


「きー、今から帰りか?」
「あ、グリーン先生。はい、今から帰る所です。」


声をかけてきたのは同じ社会の教師であるグリーンである。きー、というのは彼女の名前、狐の頭文字を取ってきー、と呼んでいるのである。


「・・・学校でその名前を呼ぶのは止めて下さい、と申し上げたはずですが?」
「ああ悪い悪い、つい癖でな。」
「その癖のせいで色々広まってしまっているんです!」


グリーンと狐は幼馴染である。家も近くで多少歳は離れているもののまるで兄妹のように過ごしてきた。グリーンは狐のことを「きー」と呼び、狐はグリーンのことを「おにいちゃん」と呼び近所でも評判の仲の良さであった。二人が先生と生徒という関係になってもしばらくは場をわきまえつつも幼馴染として良好な関係が続いていたのだが、ある日突然狐は教師に対する生徒としてグリーンに接し始めた。グリーンは少し戸惑ったが、向こうがそう接するならば敢えて戻す必要はないとだんだんと距離が開いていったのだ。


「教師からも生徒からも『きー先生』だもんなぁ、親しみがあっていいじゃないか。」
「良くありません!教師として立派にやって行くにはこれではダメなんです!」


教師と生徒として過ごすようになってしばらく後、狐を学校で見かけなくなった。
事故にでも遭ったのかと心配になり一度家を訪ねてみようか、と考え始めた折に学期の途中から着任した新任の社会教師の指導教員を任された。面倒臭いと思いながらもその教師の研究室を挨拶に訪ねると、そこに居たのはしばらく見ていなかった狐であった。
『きー!? お前なんでこんなとこに・・・!』
『お久しぶりです、グリーン先生。本日から社会の教師として着任しました。』
狐は飛び級で教員の資格を取得し、母校であるこの学園に教師としてやってきたのである。何も知らなかったグリーンは大変驚くと同時に自分が何も知らなかったことに少しばかりの寂しさを感じていたのが三ヶ月ほど前の話だ。


「とはいっても友達も知り合いも多いんだからそんなに肩肘張らなくてもいいじゃないか。」
「ダメです。教師として未熟なのですからけじめはきちんとつけないといけませんから。」
「さいですか・・・」


指導教員として接していくうちに、狐の知識の多さには驚かされた。この学園で飛び級して教師になるくらいだからかなりのものだとは予想していたがそれを上回るほどの知識量であったのだ。下手をするとジャンルによってはグリーン以上の知識を持っているかもしれない。
だが、その知識を生かす方法についてはあまり上手ではなかった。知識はあってもそれを分かりやすく丁寧に教えることが出来なかったのである。


そこでグリーンは時間が空いたら狐の指導をすることを欠かさなかった。おかげで狐の授業はグリーンの授業並に分かりやすい授業へと進化した。グリーンは指導しているうちに少しは昔のような関係に戻るかと思ったが、二人きりになっても狐の態度は変わらなかった。指導しているときに、昔狐の勉強を見てやった時の事を思い出し、つい『きー』と呼んでしまいその度に狐に注意された。
ここまで頑なに態度を固めるならグリーンも意地になって態度を軟化させてやろうと他に人が居ない時やオフタイムの時は昔のような態度で接することに決めた。こうして二人は前とは違った奇妙な関係を築いていったのである。
二人が職員玄関に到着し、靴を履いているところでグリーンがあることを思い出した。


「あ、そうだ。明日の体育祭よろしくなー。」
「はぁ・・・?グリーン先生は担任お持ちでないから運営補佐じゃ?」
「大江戸先生に急な出張が入ってな、俺が代わりに2年⑨組に入ることになった。鬼殺し先生は運営上外れられなくてな・・・」
「え!? でも大江戸先生の代わりにグリーン先生じゃ運動能力に違いが・・・」
「その辺りは心配要らないぞ、他の先生も了承済みだからな。」


狐は複雑そうな表情をして「むー。」と唸る。2年⑨組の副担任としてフェアに戦いたいのであろう。大江戸ハーマイオニーの代わりにグリーンが2年⑨組に入ることについて了承を取る、などとは言ったものの『その方がいいだろうね・・・』と言う先生が全員であった。
なぜかと言うと、狐はいわゆる『お荷物』に成りうる存在だからである。傍から見てもお世辞にも運動ができるとは言うことが出来ない。今も靴を履くために片足で立っているがふらふらとしていて危なっかしい。


(これはいつものパターンだな・・・)
「ふわわっ!!?」


案の定、狐はバランスを崩して倒れそうになる。
それをグリーンは予想しており、肩を抱いて狐を支える。


「ひっ・・・・・!!?!」
「お前も変わってないな・・・無理せずに座ればいいだろう。・・・・・・ん?どうした硬直して?」


狐の頭の上のキツネ耳としっぽがぴーんと立って首筋から頬までカーッと赤く染まっていく。
肩に回した手から伝わる温度がスーツ越しでも熱くなっていくのが分かる。


「せっ・・・!せっ・・・!」
「せ?」
「セクハラ教師ー!うわああああああああん!」


狐が叫びながら玄関から勢いよく飛び出して行く。グリーンが呆然としていると、視線の先で狐がべしゃっと盛大にコケた。鞄の中身もぶちまけてしまっていて、最近では一番派手に転倒したのではないだろうか。
しかし狐もすぐに立ち上がり慣れた手つきでささっと中身を回収、ぱっぱっと砂を払うと「うわああああああああん!」と叫びながらまた走っていってしまった。この調子ならば家に着くまでにあと2回は転ぶだろう。
玄関に残されたグリーンは肩に回していた手を後頭部に当て、ため息をつく。


「なんなんだアイツは・・・?」
「グリーン先生、よろしいですかな。」


ポン、と肩に手を置かれて振り向くと、そこには校長である後悔はしていないがにっこりと微笑んでいた。
肩に置かれた手にぎゅ、と力が籠もる。


「たった今の事についてご説明いただきたいのですが・・・校長室までご足労願えますかな?」
「へ?い、いや!俺は何もしてないっすよ!!?」
「その辺りも詳しく聞きますからまずこちらにいらしてください、残業代は出ませんが。」
「ええええ!?」


その後、校長室には日付が変わる直前まで明かりが灯っていた。






【Ⅱ】


秋晴れの朝、気温もそう高くなく絶好の体育祭日和である。体育祭は学年ごとで勝敗が争われ、各学年の優勝クラスには例年のごとく豪華景品が用意されている。開会式も終了し、これから本格的に競技が始まろうという時、2年⑨組の集合場所では朝のHRも兼ねて最終的な競技出場者の確認などが行われていた。


「・・・・・・はい。グリーン先生、確認終了しました。」
「はいはい。では本日は俺が大江戸先生の代わりとして競技に出場します。だが俺はあくまでも代理なので副担任の方から激励の言葉をよろしく!」
「ふぇ・・・!? み、みなさん!いいお天気に恵まれました!怪我をしにゃいように優勝めじゃして頑張っていきましょう!」
(噛んだな・・・)
(噛んだわね・・・)


いきなり話を振られた狐はガチガチに緊張してしまっている。それもそのはず、狐が着任してから初めての大きなイベントなのだ。豪華景品の出るこのイベントはクラスの士気も高く、盛大なイベントとなる。それを一生徒としてでなくクラスを預かる身として初参加するのだから緊張してしまうのは無理もない話だ。しかも頼れる大江戸ハーマイオニーはおらず、自分だけでやっていかなくてはならないのだ。その歳相応よりも小さな身体にかかるプレッシャーは相当のものであろう。
だがしかし、元クラスメイト達はガチガチに緊張した狐をリラックスさせるにはどうすればいいかをよく知っていた。


「きーせんせー、そんなんじゃ先生が一番怪我しそうです!」
「き、狐先生と呼びなさいと何回言えば分かるんですか!? ああもう時間が!最初の競技に出る人は早く入場門に行きなさい!残りの人は応援です!」
「コンちゃーん、優勝したら焼肉奢ってよー!」
「そんなお金ないです!商品の食券使って打ち上げくらいが関の山!」
「きたないさすが社会人は金にきたない」
「聞こえてます!こちとら色々困ってるんですよー!」


狐もいつもの調子に戻ったようだ。元クラスメイトたちとも教師としては良くないかもしれないが、良好な関係を築いているようだ。
グリーンは昨日夜遅くまで説教を喰らっていたためにあまり好調とは言えなかった。校長に説教された内容すらもうろ覚えだ。幼馴染だからといってあまり馴れ馴れしくするのはどうか、妹で幼馴染で飛び級天才なんて自分がどれだけ恵まれた環境にいるのか分かっているのか、幼女は財宝、などと説教された気がするが、まさかあの校長が幼女とか言うはずもあるまい。


「まぁいいか、きー・・・じゃなくて狐先生、教員の出る競技は何が?」
「あ、はい。・・・教師が出るのは集団競技だけですからー・・・」
「毎年恒例のリレーと・・・そういえば当日まで未発表の方の今年の集団競技は何に決まったんだ?」


グリーンが狐が持っているプログラムを見ようと狐の後ろから覗き込むように顔を近づける。
狐の頬が少し赤くなったが、グリーンはプログラムしか見ておらずそれに気づかないまま【教員参加】の文字を探す。狐が平静を装いながらプログラムに目を落とすと、その文字はすぐに見つかった。


「あ、これですね。えーと・・・・・・・・・ゆ、雪合戦!?」
「何ぃ!? どうやってやるんだよ!!?」


グリーンと狐がプログラムを読んで頭を悩ませているとそこに美術教師のみっふぃが近くを通りかかった。
プログラムとにらめっこしながら唸っている二人を不思議に思ったが、その視線の先にある文字を見て納得した。


「おはよう!グリーンにきーセンセ。雪合戦が不思議かな?」
「おはようございますみっふぃ先生、きちんと名前で呼んで下さいよ?・・・それで雪合戦について何かご存知なんですか?」
「ああ、科学部に発注して無理矢理作らせた降雪機があるんでね。どうせなら有効活用しようってことさ。」
「なんでそんなもん作らせたんだよ!?」
「雪祭りのリハーサルに使おうかと思ってねー、美術部に遠征費も出たし何作ろうかなー?」
「でも雪なんて降らせたらグラウンドが使えなくなるんじゃないですか?」
「きーセンセ、うちの科学部舐めたらあかんよ。雪は設定した時間が経つと一瞬で水蒸気になるから安心さ!」
「無駄な科学力だなオイ・・・」
「名前・・・」
「じゃっ!オイラは運営手伝いだから行くさー、また後で!」


みっふぃはスタスタと去っていく。あのサバサバとした態度が生徒からの受けもいいみっふぃが率いる美術部の部費は、文化系の部活では一番多い。美術と称しては様々な活動をしているので問題児集団とみなされることもあるが、のびのびと活動しているので知名度は高い。また、賞を取ったりもしているので実績もあるのだ。
そんな美術部が参加するのだから今年の雪祭りのニュースは荒れることだろう。


「雪合戦か・・・大将は教師がやること、かぁ・・・こりゃまずいな。」
「大将って、その人がやられたら負けって事ですか?ならグリーン先生がやった方がいいですよね?」
「いや・・・俺はあくまでも代理だからな、ここは狐先生でないと駄目だろう。まぁ大将は一番奥に居るものだから構わないか。」
「分かりました、では陣頭指揮はお任せしますね。・・・地形はどうなっているのでしょうか?」
「グラウンド全体に雪を降らせて、盾となる壁と各陣地を囲うような山、玉の元になる山が作られて、あとは運動場の端に高く雪を積むだけみたいだな。」
「学年全体10クラスでバトルロイヤルですか・・・奇襲?いや迂回して・・・?」


狐が何やらブツブツと呟きながら思索モードに入った。こうなると思考に没頭するので話しかけても無駄だ。グリーンにはこの地形では正面突破以外に方法はないように思えるが、狐には何かが見えているのかもしれない。
雪合戦は昼の休憩の後すぐ、午後イチの競技である。各組の点差もあまりないこの状況では雪合戦は重要な位置を占める事になるだろう。


(あまり食べ過ぎないようにしておかないとな・・・)


最初は代理だから、ぐらいにしか思っていなかったグリーンも今ではやる気がみなぎっていた。
思えばこうして狐と一緒に何かイベントに参加するのはずいぶんと久しぶりだ。


午前の最終競技スポーツチャンバラが終了し、決戦の舞台は午後の競技へと移っていく。






【Ⅲ】


「では、ただ今から午後の部第一競技『雪合戦』の説明を始めます!」


壇上で午後の部の開始を宣言したのは生徒会役員のモチ星人である。
なぜか手にきな粉餅を持っているが本人は真面目なようなのでみなスルーしている。


「まずこの雪合戦はリレーと並んで集団競技ゆえに配点も高くなっています。あまり点差がないこの状況ではこの競技の重要さが増し増しですよ!まさに天下分け目の合戦というわけです!(パクッ)もぐもご、へはきょうひせふめいに(ゴクッ)競技説明にぶはっ!?」
「さっさとやれー!寒いんだよー!」
「こっちは雪原の真っ只中なんだぞー!」
「雪玉を!雪玉を投げないで!すぐ終わらせるから!(パクッ)」
「「そっちじゃねぇー!説明を終わらせろー!」」
バスッ! バスッ! ドゴォ!         ピチューン


モチ星人がコインいっこいれる羽目になったところでグリーンは一つため息をつく。
自分は自前の長袖のジャージを着ているが、生徒の中には半袖やブルマの生徒も居るので雪の積もったこの空間はかなりの寒さであろう。教員の服装は自前のものであるはずなのだが・・・狐はなぜか学園指定のブルマに長袖のジャージという学生と同じ格好である。ご丁寧にゼッケン付の体操服も中に着込んでいる。


「お前・・・寒くないの?」
「寒いに決まってるでしょう!」
「じゃあなんでそんな格好で出てるんだよ・・・」
「私なりに気合を入れ、生徒と一丸となって勝利を掴む為に格好をしようと思ったのですが・・・」
「溶け込みすぎて分からんな。」
「・・・半年前までこの格好でしたからね。」


2年⑨組は全く士気の上がらぬまま、競技開始の笛を迎えることとなった。
定石としては大将の護衛を何人か残して陣地を制圧するように広がっていくのがセオリーであるが・・・


「よっしゃああ突撃じゃああああ!」
「「「うおおおおおお!」」」


2年⑨組の面子の一部には常識という概念が欠けているのであった。それ故に陣頭指揮を執るグリーンは最初から制御できるなどとは考えてはいなかった。大将以外がやられても3分後に再参加が可能というルールなので一回玉砕させてしまえば御しやすくなると考えたのである。


「散ってきたぜ・・・」
「俺の指示を聞こうとせんからだ・・・余所に攻め入るのは3分間だけ待ってやる。そこで正座していろ。」
「雪ですよ!? 冷たいじゃないですか!」
「だからこそだろうが。とりあえず攻めて来るということはないだろうから安心しろ。」
「えー!?」
「・・・あの、先生?他が攻めてくるなら今なんじゃ?」


陣地で様子を見るというグリーンの指示を聞き、待機していたぽきが口を開く。今まさに集中砲火を浴びて人手不足になっている⑨組に攻め入るのは確かに有効である。しかしグリーンには違う展開が見えていた。


「集中砲火を浴びるのはウチじゃない。ウチを攻めようと陣地から出たらそれこそハチの巣になるのさ。」
「僕らはエサ、というわけですか・・・」
「そうだ、まだ始まったばかりだから様子を見るつもりだろう。その隙にこっちは立て直させてもらう。」


グリーンの予想は的中し、3分経過しようとも他が攻め入ってくることはなかった。
ここからが本当の戦いである。グリーンが次々と指示を出す。


「まず陣地前の障害物群を制圧する!左右に3人ずつ展開して残りは正面から玉が飛んできた方向に投げろ!当てなくても構わん!」
「陣地には何人残りましょう?」
「狐先生に必要な人数だけ聞いて来い。残りで攻める!」


今まさに攻め込もうとしていたそのとき、隣の陣地からワッと歓声が上がる。
何事かと状況を把握しようと誰かを偵察に出そうかと頭に浮かんだところでアナウンスが流れた。


『2年八組、二年⑨組により大将被弾、失格です。』
「な・・・に・・・? 誰がやった!?」
「分かりません!さっき突撃した連中もここに居ますし・・・」


これを皮切りに次々と各組の大将が討ち取られるアナウンスが流れていく。しかもその首を取ったのは⑨組だというのだから訳が分からない。しかしこれは出鼻をくじかれていた⑨組にはまたとない好機である。グリーンはこの機を逃すまいと指示を出す。


「よし、この状況なら出ても集中砲火はない!各員自由に攻撃しに行け!」
「アイ、サー!」


こうしてグリーンの的確な指示と謎の攻撃もあって、瞬く間に勝負は決した。2年⑨組は一躍学年トップに躍り出たのである。
競技が終了してからもグリーンはあの攻撃がどこからのものだったのかさっぱり分からなかったが、答えは意外なところから現れた。全身雪まみれになった狐とその防衛につかせておいた生徒が拠点に戻ってきたのである。


「その格好・・・仕留めてたのはお前たちか!」
「そうですよ、私が考えた外周の山の外側を回って各組の大将を一球でしとめる作戦です!」
「それは・・・いいのか?」
「ルールでは『雪のあるところ以外への移動は禁止』ですから端に詰まれた雪の外側を匍匐前進で進みました。」
「それでそんなに雪まみれなのか・・・」


グリーンは、そういえばこいつは戦国時代の奇策などの知識が無駄に多かったな、と思い出しつつも狐は狐なりに考えて行動しているのだと改めて痛感した。もう自分の知っている「おにいちゃん」と呼びながら後をついて来ていただけのあの狐ではないのだと。


その後も午後の競技も順調に進み、2年⑨組は他の組との点差をほとんどキープしたまま最終競技を迎えることとなった。しかしここで思わぬハプニングが起きる。


『えー、体育祭運営委員よりお知らせがございます。今年のリレーは“二人三脚障害物リレー”を行います。繰り返します・・・』
「二人三脚で障害物とはこれまた変な競技になったなぁ。」
「そうですね・・・器具が既に用意されていることを見ると前もって決定していたことのようですが。」
『なおこの競技の配点は1位が300点、2位以下は0点でございます。』
「な・・・」
「え・・・」
「「なにぃー!?」」


300点といえば最下位のチームでも余裕でぶっちぎり優勝を飾れるほどの点数である。


「こ、こんなことが許されていいんですか?」
「どうせ校長の思い付きとかだろう・・・言っても無駄さ。」
『では出場選手は入場門に集合してください。なお・・・』


ここまではこの学園では良くあることである。
狐にとってもグリーンにとってもまたか、で済むような事態だったのだが・・・


『アンカーは担任と副担任のペアで行います。』


これを聞いて、先に入場門に向かおうとしていた狐がピタ、と動きを止める。そしてさび付いたロボットのようにギギギ、とグリーンの方を振り返る。その顔は真っ赤に染まっており、口は何か言いたそうにパクパクと動いてはいるが言葉になっていない。


「・・・そんなに嫌か?子供の頃なんてもっとべったりと」
「それは子供の頃の話です!・・・ええ、別に嫌じゃありませんよ。二人三脚、あくまでも二人三脚ですし・・・」


狐は「ニニンサンキャク、コレハニニンサンキャク・・・」と呪文のように唱えながら入場門へと向かう。
グリーンもこんなんで勝てるのだろうかと不安になりながらもその後に続く。


かくして最終競技、二人三脚障害物リレーが始まった。これでトップを取れば優勝というだけあって、どのクラスも応援に熱が入っている。障害物はグラウンド一周の間に3つ、ハードル、ネットくぐり、平均台が設置されている。いたってシンプルな障害物だ。
障害物の設置が終了し、リレーが幕を開ける。


『さぁ最終競技二人三脚障害物リレー!優勝のかかったこの一戦に目が離せません!実況は放送委員長の蘭花が務めさせていただきます。解説は暇そうにしていた熱情先生です。どうぞよろしく!』
『どうも、解説の美しき熱情の衣です。よろしくお願いします。』
『レースは第一走者がハードルを越えたところで横並び一列で進んでいきます!しかし二人三脚10組ではちと狭い!』
『ハプニングもいつ起こるか分からない状況ですね・・・怪我には気をつけていただきたいですね。』


二人三脚とはいえこれまで懸命に戦ってきた仲間達である。5組のペアがそれぞれトラックを1周ずつ走るこのリレーでは各ペアの息もあっておりレベルの高い二人三脚が展開されていた。


『さぁー!第一走者から第二走者へと襷が渡りレースもいよいよ差がつき始めた!先頭からSUN組、八組、⑨組です!』
『平均台を速く抜けられたのが大きかったですね。度胸もあるし作戦勝ちでしょう。ただ二組目からはそれを真似してきますからちょっとのミスが命取りになります。』
『なるほど!的確な解説ありがとうございます・・・でも俺の実況なんて分かりにくくて・・・皆レースしか見てないし・・・どうせ・・・』


ここで蘭花がネガティブモードに入ってしまったので退場。代わりに梨が実況席に着いた。


『は、ハプニングがございましてこれから私、梨が実況を務めさせていただきます。さてレースも半分が過ぎ白熱してまいりました!梨食べます?』
『第三走者にもなると差がつき始めてますね・・・ここから挽回してもらいたいところです。頂きましょう。』


こうして刻一刻と狐とグリーンへと襷が近づいて来る。
狐はガチガチに緊張してしまっている。


「おい、大丈夫か?優勝がかかってるからってそこまで緊張せんでもいいだろう。」
「い、いえ!優勝とかではなくてですね、なんというか・・・その・・・」


そこでうおおっ!と歓声が上がる。
レースに動きがあったのだ。


『(シャクッ)あーっと!ここで2位の八組が転倒!それに巻き込まれる形で4位、5位と転倒していきます!』
『これは痛いですね・・・(シャクッ)勝負はSUN組と⑨組の一騎討ちになってしまいました。』
「こりゃ俺らで勝負が決まりそうだな。気張っていくぞ!」
「は・・・はい!」


第4走者に襷が回り、襷の受け渡し場所へと移動する。グリーンの右足と狐の左足をバンドで留めて、あとは襷が来るのを待つばかりだ。


『さぁここでアンカーに襷が渡ります!1位のSUN組と2位の⑨組の差は2秒ありません!』
『これは目が離せませんね。アンカーは教員ですから、SUN組はB.B.先生とアキナ先生、⑨組は狐先生と大江戸先生の代理のグリーン先生です。』


SUN組の担任のB.B.と副担任のアキナがバンドを装着する。
B.B.はいつもの通りクールガイだが、アキナはグリーンに対抗心を燃やしていた。


「グリーン先輩・・・負けませんよ!羨ましくなんてないですええ羨ましくなんてないですとも!」
「アキナ先生、リラックスしていきましょう。そんなだと怪我しますよ?」
「B.B.先生!そんなでは勝てませんよ!もっとぐっと行かないと!」


アキナが気合十分で体育教師らしい燃え方をしているが、狐とグリーンは全く意に介してはいなかった。
というよりも狐が他を気にしていられるどころの話ではなかったのである。


「これは二人三脚、これは二人三脚・・・!」
「・・・きー。」


名前を呼ばれた狐がはっとグリーンに顔を向ける。
きーと呼ばれたことに抗議する余裕もないようで、呼吸も荒い。


「何を思いつめてるんだ?クラスの優勝がかかってるんだぜ?」
「クラス・・・」
「そうだ、先生として全力で挑むのが教師の務めだ。」
「教師として・・・よし!」


何が良かったのかは分からないが、なんとか襷が渡ってくる前に狐がレースに集中し始めることが出来た。後はこうなれば勝ちを掴みにいくだけである。
第4走者のcapricciosoとぽきのペアから襷を受け取り、打ち合わせの通り足を踏み出す。


『さぁここでアンカーに襷が渡ったー!手元の時計では差は1秒ありません!』
『これはわかりませんね。運動能力のSUN組か、同僚以上の絆の二人が勝つのか見ものですよー。』


狐&グリーンペアは流石に直線ではB.B.&アキナペアに追いつくことは出来ない。
そうなると障害物が勝負の分かれ目となる。まずはハードルである。


「B.B.先生!飛びますよ!」
「なにぃ!? ちょ、ちょっとアキナ先生!」


アキナとB.B.がブアッと足を上げ、ハードルを飛び越える。
しかしアキナのもう一方の足がハードルに当たりバランスを崩してしまう。


「うわっ!」
「ハリキリすぎです!落ち着いていけば勝てますよ!」


狐&グリーンペアは確実かつ迅速にハードルを乗り越え、既に次の障害物へと走り出している。B.B.&アキナペアも体勢を立て直し、その後を追う。続く障害物のネットくぐりも双方ともスムーズに通り抜け、残すは平均台だけとなった。


『さぁここでアンカー特別障害物!トラックの曲線に合わせて作られた超ロング平均台の登場です!』
『20mほどありそうですねー、落ちたら平均台の最初からですからあせりは禁物です。』
「また無駄な器具を作って・・・。きー!いけるか!?」
「はあっ・・・!はっはいっ!なんとかっ・・・!」


トラック1周は200mとはいえ障害物もあり、二人三脚という動きづらい走りでは、運動がそう得意ではない狐には長い距離であった。
これ以上走る距離を長くしないためにも、平均台は一回で渡りきらなくては勝利は見えないだろう。


『さぁここで先頭集団が平均台にほぼ同時に到着!平均台の終点はゴールとなっております!どちらが先に渡り終えるのか!』
『・・・うむ、秋梨はうまいね。そういえば二十世紀梨って今もあの名前なんですかね?』


先頭集団が平均台を渡っていく。一人なら普通に駆け抜ける事もできただろうが、二人三脚では横向きになってカニのように進むしかない。こうなると歩幅の分B.B.&アキナペアが有利となり、狐&グリーンペアはジリジリと差を開けられてしまう。
しかも、狐はそろそろ体力の限界を迎えそうであった。


「ぜぇっ!はぁっ!」
「(こりゃまずいな・・・なら一か八か!)きー!俺に掴まれ!」
「ふぇ?ぅうわぁっ!?」


最後のチャンスに賭けたグリーンが狐の腰を抱いてそのまま持ち上げ、平均台の上を走り始めたのである。狐は宙に持ち上げられたまま、足がプラプラと揺れ、さらに激しい縦の震動に目を回している。
歓声がいっそう大きくなり、実況にも熱が入る。


『おおっとー!ここでグリーン先生が大胆な手段に出ました!抱き上げてます!』
『これは大胆な作戦に出ましたねぇ!このまま落ちなければ追い抜けるでしょう!』
「B.B.先生!これは僕らも!」
「バカなことを言わないで下さい!文芸部の餌食になるだけですよ!」


観客席の方を見ると、文芸部の女子が目を輝かせている。
アキナは過去に一度餌食になったことがあるので背筋が凍りつく。


「・・・僕達は確実に行きましょう!うんそれがいい!」
「お分かりいただけたようで何より・・・」


残り5mほどになったところで二組が並ぶ。あとはグリーンが落下しなければ逆転勝利を迎えることとなるだろう。しかしグリーンが残り2mほどになったところでグラリとバランスを崩してしまう。


「ぐっ・・・!まずいか!?」


これ以上は踏ん張れない。そんな体勢にまでなってしまったグリーンに狐がぎゅ、と力強く抱きついた。


グリーンが視線を落とす。狐の瞳はまっすぐにグリーンへと向かっていた。


まるで「飛べ」と言っているように。


「・・・うおぉっ!」


どさっ、という音と同時にパァン、とゴールの合図が鳴らされる。
地面にはグリーンの上に狐が倒れこむように白のゴールテープに絡まりながら倒れこんでいた。


『こ・・・ここで逆転大勝利ー!優勝は2年⑨組だー!!』
『いやはやこれはいいレースでしたねぇ・・・梨もご馳走様です。』


わああぁっ!と観客席も最高の盛り上がりを見せる。SUN組の生徒も負けてしまって悔しそうだが、今は狐とグリーンを称える声援ばかりだ。狐とグリーンはバンドを外しても、その場でぜぇぜぇと肩で息をしていた。
二人が同時に顔を上げる。


「ふぅ・・・やったな、きー。」
「だから名前を・・・やっぱり、どうでもいいかな・・・」


お互いからふふっと笑顔がこぼれる。
興奮冷めやらぬ実況席の二人が続いてゴールするペアの報告とレースの感想を語る。


『いやー熱情先生!学園史に残る名勝負となりましたね!実況が出来て幸せであります!』
『そうですね。グリーン先生の咄嗟の判断とそれを信頼する狐先生の絆の深さを見せ付けられた気がします。』
『あれはかっこよかったですねー!今もバンドを外したのに密着したまま座ってますし!』
『昨日グリーン先生がセクハラと言われていたのはこれの練習だったんでしょうねぇ。』


狐がはっと我に帰り、グリーンの上に座り込んでいる自分を見て、疲れとは別に顔を赤くして俯いてしまう。すぐにどけばいいものを、プルプルと震えたまま固まってしまう。


「せ・・・セクハラ教師ー!うわああああああああん!」
「またそれかー!」


グラウンド全体が笑いに包まれる。
こうして狐の初めての大きなイベントは最高の結果を残して幕を閉じたのである。






【Ⅳ】


片付けも終わり、クラスでの祝勝会はまた日を改めて行う事が決定した狐とグリーンは、教師の打ち上げで居酒屋にやってきていた。宴会の始まりから2時間が経過し、皆酒が回り始めている。


「だからっすよ先輩、ヒック。ぼかぁー羨ましくなんかないんですからね!」
「アキナ、飲みすぎだよ。それに羨ましいって意味が分からんぞ。」
「まぁ負けて悔しかったんだと思います。グリーン先生、最後のダイブは見事でしたよ。」


グリーンはアキナとB.B.に挟まれる形で席についていた。狐は女性教師たちのテーブルに座っている。アキナは最初からクライマックスな勢いで酒をあおり、既にべろんべろんに酔っ払ってしまっていた。B.B.とグリーンは顔が赤くなっているが、ほろ酔い程度だ。


「ありがとうございます。怪我もなく、うまく行ってよかったです。」
「まぁ平均台の上で抱えるなんて思いもしませんでしたから・・・狐先生もびっくりしていたでしょう。」
「いえ・・・あそこで飛べ、と言ったのはあいつのほうですよ。俺は落ちるしかないって思いました。」


グリーンが狐の方を見る。男性陣のテーブルの倍近くの酒が出されている女性陣のテーブルの中で、くぴくぴと何かを飲んでいる狐は楽しそうだ。
B.B.もそちらを見て苦笑する。


「ハハハ、ウチの女性陣はどうしてこうも酒に強いんでしょうかねぇ?」
「ふふ、ほんとにその通りですね。」


その様子に気づいた狐が席を立ち、グリーンへと近づいてきた。
首だけをそちらに向けて、グリーンが話しかける。


「お?どうした?なんか食いたいものでもあったか?」
「・・・」
「ん?グリーン先生、これは・・・」


B.B.が何か言いかけると同時に、狐が何のためらいもなくグリーンの背中に抱きついた。
騒がしかったテーブルの周りがさらに騒がしくなる。


「おお!見せ付けるねぇお二人さん!」
「大胆なことするねぇ!あー、若いっていいわー・・・。」
「羨ましくなんか・・・羨ましくなんかないっすよ!僕は!僕はねぇ!」


まわりの教員達がやいのやいのと囃し立てる。そんな中、グリーンはある可能性を見出していた。


「これは・・・誰かこいつに酒飲ませましたか!?」
「あぁ、ゴメン私のと間違えて飲んじゃったみたいだけど。・・・未成年なのは当然だけどなんかまずった?」
「こいつ酒に弱い上に酒癖悪いんですよ!」
「こら、お兄ちゃん。」


狐が少し体を離してグリーンに説教を始める。その目は完全に据わっており、呂律も曖昧だ。


「大体れすね!私がこんらけがんばったっていうろになんでほめてもくんないんれすか!?」
「おま、落ち着け!誰か水を、水を下さい!」
「ほめる時はいつもやったくれていたれしょう!さぁ!」


そう言うと、狐は少し頭を下げる。
いつも、と言っても昔やっていたこと・・・と少し考え込んだところでグリーンが正解を見出す。


グリーンが狐の頭にぽふ、と手を置いて、撫で回す。
狐のしっぽがぱたり、ぱたり、と揺れる。


「よく、頑張ったな。」
「・・・えへへぇ」


グリーンに体重をかけていた狐がグリーンの方へと倒れこむ。
咄嗟にグリーンが受け止めると、狐はすーすーと寝息を立てていた。


「寝やがった・・・すみません、お先に失礼しますね。こいつ送ってやってきます。」
「それがいいだろうな。どれ、外の空気を吸うついでだ、入り口まで見送るよ。」


グリーンが狐を背負うと、B.B.が狐の荷物を持って入り口の扉を開けてくれた。3人は他の教師達に挨拶をして外に出る。冷たい風が火照った体に心地いい。しかしあまり長く当たっていると風邪を引いてしまうかもしれない。


「B.B.先生、ありがとうございました。風邪引くといかんので失礼します。」
「ああ、気をつけてな。それと、グリーン先生。」
「はい?」


グリーンが立ち止まって振り返るとB.B.が一つ深呼吸してから口を開いた。


「狐先生がなぜ教師としての立場に拘るのか知っているかい?」
「いえ・・・」
「そうか・・・これは言っていいかわからんのだがね。」


それからB.B.は狐の担任を持っていたときに受けた相談などから話し始めた。
狐はある人に認められるにはどうしたらいいか、とB.B.に相談した。B.B.はその人に自分を対等な立場に立っている人間だとわからせてやれば良いと答えた。ならばその為にはどうしたら良いか。結果、狐は元々得意だった社会の勉強をはじめた。そもそも社会が得意なのもその人に教えてもらったからだと言う。
そしてその才能を開花させるに至り、飛び級、教師として赴任がトントン拍子に決まり、少しはその人に近づいたと思っていた。しかし、その人の自分に対する態度は変わらず、更なる精進を心がけた。知識だけでなく、その人に認められるために教師として成長しようと決心した。


「つまりだ。彼女は認められたかったんだよ。その誰かさんにね。」
「・・・・」
「B.B.先生。喋りすぎです。」


いつのまにか目覚めていた狐が口を開く。
グリーンの背中から降りるが、その足つきは少しふらふらとしていた。


「おい!危ないって!」
「大丈夫です。一人で帰れます。」
「悪いね狐先生。酒でつい口が滑ってしまったよ。」


悪びれる様子もなくB.B.が答える。
グリーンからは狐の表情は窺うことが出来ない。


「・・・もういいです。ご迷惑おかけしました、失礼します。」
「お、おい!」


狐はB.B.から荷物を奪い取るように掴むと走って行ってしまった。
グリーンは追いかけることが出来ず、その行く先を見つめることしかできない。
B.B.が煙草に火をつける。


「追わなくていいのかい?」
「追って・・・いいんでしょうか・・・」
「君以外に誰が追うというのかね?」
「・・・・・」


グリーンが一歩を踏み出す。二歩、三歩とペースが上がっていき、狐の後を追い始めた。
B.B.は紫煙を吐き出しながら二人が消えていった先を眺めていた。


「フゥー・・・すっかり酔いも冷めてしまったな。」


B.B.が店に戻ると、そこにはテーブルに突っ伏した男性陣の姿が目に入った。
何事かと近づくと、左右からガシッと両腕を掴まれた。


「B.B.せんせー・・・素面ですね?ここに素面がいるぞー!」
「酒だ!酒を持てーい!」


こりゃ自分も帰るべきだったかと、B.B.は己の選択を後悔した。




                    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「ま、待てって!」
「離して!」


飲み屋街を抜け、住宅街に入ったところでグリーンは狐の腕を掴むことに成功した。ハァハァと、互いに肩で息をしている。少し落ち着いたところでグリーンが口を開く。


「ふぅ・・・あの話は本当なのか?」
「・・・本当だとしてもグリーン先生には関係のない話です。離してください。」
「関係なくないだろ!? いくら俺だってそれが誰かぐらい分からないわけないだろ!」
「じゃあ・・・」


狐がバッと顔を上げ、その涙に濡れた顔をグリーンに向ける。


「じゃあなんで!なんで認めてくれないんですか!? ずっと頑張ってきて、勉強も頑張って、教師になってからもずっとずっと努力してきて、努力するたびにお兄ちゃんが私以上に頑張ってるって分かって、追いつこうとしてそれ以上に頑張っても認められない!ならどうすればいいのか教えてよ・・・・!」


グリーンは何も言わない。
狐は解き放たれた感情を抑えることが出来ず、涙がどんどん溢れる。


「認めてないなんて誰が言ったんだ?」
「え・・・・・・・・・・わっ!?」


グリーンが狐を抱きしめる。
狐が暴れそうになったが、グリーンはさらに力強く抱きしめることでそれを制した。


「あー・・・なんていったら良いかわかんねーからさ。これが答えだ。」
「・・・同情なんかで抱きしめられても嬉しくない。」
「同情じゃねーよ。こっちだって恥ずかしいんだぜ?」
「そんな酒に酔った顔の赤さなんか信用できないよ・・・。」


グリーンはこの先も行動で示すことも出来たが、迷ってしまう。
だが、このまま曖昧にすることだけはしたくなかった。
ならば、取るべき行動は一つだけ。


「・・・後悔するなよ。」
「・・・・・・・ッ!」


月明かりに照らされた二人の影は、ただ、一つだけ。






【Ⅴ】


翌日、2年⑨組の教室では祝勝会が開かれていた。机と椅子を端に寄せて、至る所で床に座り込んでお菓子やらジュースやらを飲み食いしている。出張に出ていた大江戸ハーマイオニーと運営に追われれていた鬼殺しも参加している。


「では優勝を祝して!カンパーイ!」
「「「 カンパーイ!!! 」」」


流石に酒はないが、購買部で買い占めてきたお菓子とジュースが盛大に振舞われている。優勝商品の食券全部を消費しての大盤振舞だ。
狐、グリーン、大江戸ハーマイオニー、鬼殺しの教員4人は集まって談笑している。


「いやーお疲れ様でした!運営で忙しくて応援も出来なかったけど優勝できて嬉しいですよ!」
「そうね・・・ありがとうグリーン先生。あなたが頑張ってくれたから優勝できたようなものよ。」
「いやぁ狐先生も頑張ってましたよ。雪合戦の時はほぼ全てのクラスを討ち取った作戦が大当たりでしたし。」
「いえ・・・そんなことないですよ。最後のリレーで優勝は決まっていたわけですし。」


お互いの健闘を称えあう教員達の輪に、テンションの上がった酒飲みスーさんと@狛犬が押しかける。


「大江戸センセー!鬼殺しセンセー!優勝おめでとー!ところでこれ見てよこれ!」
「おめでとう、あなた達もよく頑張ったわね。これは・・・写真?」


大江戸と鬼殺しがその写真を見て、「あら・・・」「おう・・・」と言う反応を見せた。
グリーンがいやな予感がして鬼殺しの手からその写真を奪い去ると、それは案の定二人がゴールした時の写真であった。


「この二人怪しいんですよ!ゴールしてからもずっとくっついてたしさ!」
「いやー・・・運営で倉庫に行ってる時だったからこれを見逃してたのか・・・生で見たかったなぁ。」
「グリーン先生も手が早いわねぇ。これは狐先生に先を越されちゃうかしら・・・。」


@狛犬の懐からどんどんと写真が出てくる。
様々な角度から撮られており、その中には狐とグリーンが顔を見合わせて笑っている写真も含まれていた。


「おいおい!それ全部回収だ回収!」
「は、恥ずかしい・・・!」
「回収してもいいっすけど・・・既に学園中に配られてますよ?」
「「 何ぃーッ!!? 」」


周りを見ると、どの生徒もその写真を持っていることを示すように、全員が写真を手に持ってこちらを見ていた。


「夫婦漫才おもしろいっすよ!」
「コンちゃんおめでとー!」
「休み明けの学園新聞楽しみにしててくださいねー!」


そんな生徒の野次に二人共が顔を真っ赤に染めてしまう。


「夫婦じゃねー!」
「そ、そんな新聞は発行停止です!」


こうなってしまってはこの学園の生徒達を抑えるのは不可能である。写真の回収も不可能で、新聞にも載ってしまうのならば噂の沈静化を待つしかないのだ。写真を持っていた生徒達を追っていたが、囃し立てる生徒達に付き合ってはいては身が持たない、とグリーンと狐は元の場所に腰を下ろした。


「全く・・・困ったものです。(ゴクッゴクッ)」
「いつの間に写真なんか撮ってやがったんだ・・・」
「あはは、災難ですねー。グリーン先生、狐先生?」
「狐先生に先を越されるとなると・・・焦るわねぇ・・・」


そういった【結婚】などの発言に敏感なのがグリーンという男である。
条件反射とでもいうべき速度でその言葉に反応する。


「なら俺が立候補します!」
「願い下げね。・・・それに狐先生の目の前でそんな発言はどうかと思うけど?」


しまったと思ったときにはもう遅い。
狐が下を向いてグリーンに無言のプレッシャーを掛ける。いつの間にか教室中を静寂が支配していた。
そのプレッシャーの中、狐が静かに口を開く。


「大江戸先生にはあげません。これは私のです。」
「私のって・・・もっと他に言いようが」
「黙りなさい。」
「はい。」


狐が立ち上がり、グリーンの前に立つとそのまま腰を下ろした。
グリーンが胡坐をかいたところに狐が座り、狐がグリーンの体にすっぽりと収まる感じになる。


「お、おい・・・!?」
「お兄ちゃんは私ろものなのれす!いろんはみとめないのれす!」
「おいおいまたか!酒を持ち込んだのは誰だー!」
「ごめん、私だわ・・・」
「大江戸せんせぇー!?」


教室が一気に騒がしくなる。うおおっという声と共にグリーンに様々な質問がぶつけられる。
それと共にフラッシュがたかれ、次々と新たな記録が残されていく。


「これは、大変ですねぇ。見守ることしか出来ませんが応援してますよ!」
「私も刺激が欲しいわ・・・。ズベン先生あたりに相談してみようかしら。」
「助けてくださいよ!?」
「にゅふふ・・・心地いいのです・・・」


その週明けに発行された学園新聞は単なる学校の新聞としては異例の2万部以上が発行され、また一つ新たな伝説が生まれたのである。



あとがき



なげぇ!ばんじろうです。
いやぁなんて長いSS・・・過去最長だと思います。
一話完結にしないとうまく書けないのでこんな長さになってしまいました。


さて今回は【狐さんをSSで書こうプロジェクト】に勝手に参加しておりますw
ドックンさんがこのような事を言っていた様な気がする、うん!言ってた!
今回はラブコメです。ちょっと直接的に書きすぎるとどうかなーとは思ったのですが気がついてたらこんなになってました。


登場キャラもチョイ役含めて過去最多です。
色々と初登場の方もいるので最近ネちょ民になられた方もちょこっとずつ出していきたいです。
なにか不愉快なことがありましたらすぐに消しますのでコメント欄でもスレで直接自分にでも良いのでおっしゃってください。


あんまり叩かれるとへこみますが、感想などあれば頂けると嬉しいです。
俺のキャラでも一つ話を作ってくれよ!という方もお待ちしています。
作る順番は先着順とはいかないですがそれでよければ頑張りますので~





コメント欄

  • 糖度の高さにうちが真っ赤になった(実話) うーわー、はずいー・・・・はずかしいのは描写がやけにうまいせいかなぁ・・・・。まぁ、というわけで学園記十話おめでとうございますです。そして甘い・・・あまあまですね、糖尿病になるです。話のオチのつけかたがうまいです、さっすがー、です。そして雪合戦に笑いましたw 楽しく読ませていただきました、おつかれさまでしたー。 さ、読み返しますかー♪ -- ? 2008-10-27 (月) 01:24:56
  • おぉう、甘いお話ですなw 自分さえ関わらなければ、楽しく読めるから不思議! しかし、狐さん、優秀なんだなぁ。そして、グリーンさん、実りましたね。今回はB.B.さんが格好よかったですね。僕的に。取り敢えず、モチさんも梨さんも、物を食べながら喋らないw 何やってんですかw -- ドックンドール? 2008-10-27 (月) 01:34:50
  • あまーーーーーい!w 楽しく読ませて頂きました~。梨さんと衣さん物食べながら実況しないで下さいww -- ルアン? 2008-10-27 (月) 01:40:54
  • キャーーーwwwwwキャーーーwwww読んでてうらy・・・いえはずかしいいいいいいいwwwwwwwwwwww -- 泥酔? 2008-10-27 (月) 16:22:49
  • あまあまw グリーン先生男すぎ、狐さん可愛すぎ(非ちんちくりんな意味で)そしてB.Bさん紳士すぎ!でも悪いところはありません、いいぞもっとやれ!次回も楽しみにお待ちしております! -- てんこぬ? 2008-10-27 (月) 17:03:28
  • お~甘さあり、笑いあり、何とも笑いの含ませ方がいいですね!通勤電車の中携帯で読んでいたらニヨニヨしてしまいましたよw楽しく読ませて頂きました。それと作品に登場させていただいて感謝です!主人公達の引き立て役ってところがお気に入りでした。これからもがんばって下さい! -- B.B.? 2008-10-27 (月) 20:20:59
  • うわぁいまた出て・・・る・・・これは・・・え・・・すげぇラブコメしてるんですけど・・・w ・・・イメージとかで書いてあるのだとわかっていてもやはり自分の名前でこういうのだとやたら恥ずかしいぞ!誰かギップル呼んで来い!w あと実況と解説組みなんか食いすぎwww -- グリーン 2008-10-29 (水) 17:49:29
  • 楽しく、甘い話ですね~。リレー最後はなんてニヤニヤものです。・・・やったー私が出たーわーい。 -- ? 2008-10-29 (水) 18:40:24
  • ここまでスムーズに読ませるとはさすが・・・wこっちまで恥ずかしくなる内容でしたよww -- ろりこn? 2008-10-29 (水) 20:51:31
  • いやぁもう眩しすぎて目も当てられないですね。 グリーン先生もなかなかやりおる! こんなカップル教師がいれば、生徒達も楽しいだろうなぁ。そして狐さんよ、もっと素直になるんだ‥! 甘い展開に若干ダメージを受けつつも、楽しく読ませていただきました~。 -- オワタ☆残骸? 2008-11-03 (月) 10:33:14