目次
注意書き
このSSはネちょwikiでの設定、他の方々のSSの設定、自分独自で考えた設定などが含まれております。
あらかじめご了承ください・・・・・。
もし嫌な表現が気になった方は、こちらにお知らせください。
次から気をつけるか、訂正などさせていただきます。
本編
【3】~病弱なる者~
昼休み。
俺は保健室で、一人ゆったりと窓の外を眺め、煙草を吸っていた。
煙草の煙は宙を漂い、回る換気扇に吸い込まれていく。
はべすたと喘息は、保健教官室でゆったりと休んでいる。
まぁ、保健室の当番は適当に交代であるからいいのだが。
こうやってゆったりするのは、何度目だろう。
何も考えず、窓の外ばかり見ている。
窓から見える景色。
私はいつもここから空を眺めている。
ただただ何も考えず、ぼーっと。
こんな日々が最近はループし続けていた。
あの時のように、日常はループし続けている。
しかし、それは絶対長くは続かないものだと、俺は知っている。
元に、この学園では沢山の出来事が起き続けていた。
ヤマタノオロチ事件。
ネちょ学災害事件。
酒飲みスーさん消失事件。
謎の集団事件。
ネちょ学大戦事件。
エミーさん誘拐事件。
こんな感じで。
まだまだ沢山の事件があった。
ここは非日常の塊だ。
だからこそ、この学園は楽しいのだと学園の生徒や先生方は言っている。
だが……。
俺は、非日常は嫌いだ。
人が死ぬかもしれないのに。
大怪我するのかもしれないのに。
何故、そんなにも非日常を望むのだろうか。
答えは一つ。
暇だからだろう。
刺激のあることがなければ、今の世の中、やっていけない。
それが今の現実。
嫌な現実だ。
刺激を求め、それで人が死ぬかもしれんのにふざけんじゃねぇよ。
それでも女はともかく、男は刺激を求め続ける。
何か事件はないか?
何かワクワクするような事件はないのか?
何故そんなにも求めるのだろう。
死ぬことを恐れてないのだろうか?
答えは簡単。
馬鹿だから。
男は皆馬鹿だ。
特に若い奴は、経験が浅いからすぐに危険に飛び込む。
終わってからでは遅いというのに。
馬鹿野郎共しかいない。
私立学園で大怪我してくる者を、何度も俺は治療したことがある。
私立学園内でだぞ?
ありえねぇわ。
そんなに学園は大怪我するほどのことがあるのか?
馬鹿じゃねえの?
男は馬鹿だ。馬鹿馬鹿。
俺を置いて逝ってしまったあいつも馬鹿だ。
自分のことを考えずに、速度違反してでも俺に患者を届けてきたあいつ。
自分の命はどうでもいいのかよ。
お前が死んで、俺をおいていってもよかったのかよ。
まただ。
またあいつのことを考えている。
もう……迷ってはいないはずだったんだがな……。
俺は煙草を灰皿に磨り潰し、火を消した。
その時だった。
「ズベン先生!!」
「ん?」
いきなり、らいぶらり~の手先……じゃねぇや。
この学園の生徒で、図書委員長をしているリィがやってきた。
誰かを背負っているみたいだが。
見ると、背負われているのは気絶しているオワタであった。
……またか。
「大丈夫かお前。足元震えてるぞ?」
「重い~……」
力のない子だなまったく。
まぁ、その体じゃ仕方ないか。
誰かを背負うにはちっこすぎる。
だが、ここまで背負ってきたことには、褒めてやらんとな。
リィは、オワタを保健室にあるベットに寝かせてやり、ふぅ……っと一息。
「よく運んできてくれた。ありがとな」
「は、はいっ!」
「もう行っていいぞ。後は私が何とかする」
「はい。後は、よろしくお願いしますね……」
そう言うと、リィは私に一礼し、そのまま保健室から出て行った。
実にいい子だ。らいぶらり~とは大違いだな。
あいつに見習わしたいぐらいだ。
まぁ……リィの師匠っぽいのが、らいぶらり~なのだから、もう何とも言えんのだが。
「さて……またお前か」
意識の無いオワタを見て、すぐに検査を始める。
まぁ、おそらく貧血だろう。
こいつはよく貧血になる。
話によると体が弱く、そういう体質なのらしい。
ズベンはよく、オワタの看病をしてあげる事が多かった。
そもそも、この学園にオワタがきた時も、倒れていたところを助けたのが、俺なのだからな。
その時の原因も貧血。
何故こんなにも貧血になりやすいのだろうか……。
とりあえず、今回は酷そうだ。
輸血する必要がありそうだな。
学園で輸血を普通にするってのも、どうかと思うけどな。
感染症とかGVHDが起こらんように、気をつけんと……。
俺は、輸血するための準備をし始めた。
手術室に移動させるのは面倒だ。ここでやる。
まずは保存されてる血を持ってこないとな……。
~@~
「ん……うぅ……」
「気が付いたか?」
輸血が終わり、オワタはようやく目を覚ました。
どうやらうまくいったようだ。
まぁ、この学園に来てから、治療を失敗したことは未だにないんだがな。
前、この学園の最初に来た生徒で、色々あって死んでしまった風香だけは助けられる状況ではなかったが。
ともかく、俺が治療してる中で失敗はここではまだ無い。
「あれ……ここは?」
「保健室だ。いつも通り貧血で倒れたみたいだな」
「……うそっ」
オワタは、ベットからゆっくりと体を起こす。
まだ気分が優れていないんだろう。
くらくらとしていた。
「あんまり、無理すんなよ」
「す、すみません……毎回毎回……」
オワタは、俺に向かって細々とした声で謝ってきた。
病人だから仕方ないだろう。
確かに貧血頻度が高いのが、少し不安だが……。
「いいんだよ。……お前一度病院にいって検査してもらったほうがいいんじゃないか?」
「それが……。病院のほうがお手上げだって……」
お手上げ?
原因不明ってことなんだろうか?
いずれにせよ、今度ちゃんと見たほうがいいかも知れんな。
まったく、適当な判断をする病院だ。
「しばらくはあんまり動かないほうがいいかもな。1週間くらい入院だ」
「は、はい分かりまし……って、えぇぇ!?」
「ん? どうしたんだ?」
驚いている理由には、俺は理解しているが、わざと聞き返した。
そりゃ、学園で入院するっていうのも前代未聞だからな。
だが、この学園だったら許されるだろう。それくらいのこと。
「入院って、ここでですか!?」
「いや、違う空きの個室にベッドを用意するから、そこだな」
「そうじゃなくて、この学園でですか!?」
「そうだ。それくらい許される」
えぇぇ……。
そんな反応をするオワタ。
可愛らしい反応をするやつだ。
不思議と落ち着いてくる。
俺は煙草に火をつけ、保健室にある電話を手に取り、連絡を取った。
連絡をとった人は……喘息である。
「喘息か? 寝台車を一つ持ってきてくれ。脚と車のついたやつ」
通話はそれだけを俺が言うと切れた。
しばらくすると喘息が、寝台車を持って保健室にやってきた。
がらがらと音をたてながら、オワタの横まで寝台車を寄せる。
「よしオワタ。移動するぞ」
「え、ちょ……!?」
無理やりオワタを俺は持ち上げ、寝台車に寝転がした。
オワタは、いきなりの出来事に凄く驚いている。
まぁ、普通そんな反応だろうな。
だが、驚くのは今からだろう。
南無阿弥陀仏。
頑張って来い。
「おっしゃー! レッツゴーなのおおおおおおお!!」
全速力で喘息は走り出し、寝台車を物凄い勢いで走り始めた。
ぎゃああああああああああッと、悲鳴を上げるオワタだがお構いなし。
急いで移動してくれるのはありがたいんだが……。
後でめんどくさいことをするのは、俺なんだからな……。
オワタを個室に移動後。
俺がその個室に行ってみると、ぜーはーぜーはーと喘息状態になっている喘息がいた。
「本当にお前って奴は……」
「死ぬ……たす……け……て……」
「はいはい、助けてやるからおとなしくしとけ」
オワタの方はというと、今の出来事がショックだったのか、くらくらと目を回して気絶していた。
本当にめんどくさいことになってんじゃねーか。こんちくしょう。
~@~
喘息の状態を治し、喘息を保健室まで連れて行く。
そしてすぐに喘息は服を脱いで、ベットで寝た。
だから服を脱ぐな、服を。
教室棟の2階に、使われていない個室があり、そこを使うことにする。
外から見えないようにカーテンをして、鍵はしっかりと閉める。
勝手に入る生徒がいるかもしれないからな。
ちなみにベットは泥酔に運んでもらった。
あいつに頼んだら、片手でベットを持ってやってきやがったな。
褒美として酒を渡すと、めちゃくちゃ喜びながら、窓から飛び降りていってしまった。
入り口から帰れー、入り口からー。
「あの……」
「ん?」
ベットに寝転がっているオワタが、俺に向かって話しかけてきた。
「なんだ?」
「えっと……」
オワタは、俺の方を見ながら……いや。
俺の座っているベットを凝視しながら言う。
「なんで……二つベットを持って来たんですか?」
あぁ。
そういうことか。
泥酔は、片手でベットを持ってきた。
両手に一つずつ持ちながら。
この個室に入れるときに凄く手間取ったが……てか、もう少しであいつ入り口ぶち壊しそうになったな。
というわけで、今この部屋にベットは二つ。
もう一つは誰のかというと……。
「お前を看護する奴がいないと駄目だろ。俺もここで寝泊りだ」
「……えぇぇ!?」
当たり前だ。
患者一人学校に置いて行く馬鹿がどこにいる。
俺もここで寝泊りして、しっかり見張んないとな。
まぁ、食事も持ってこんといかんし。
「体調が良くなったら、俺が検査してやるからな」
「ちょ、ちょっとズベン先生!」
「なんだ?」
「てことは……二人きりでここにいるってことじゃ……」
オワタの顔が真っ赤になっていっている。
……はっはーん。
所謂、シャイボーイってやつか。
「そうだ。嫌か?」
「い、いや……そうじゃなくて……」
「ならいいよな。頑張って治すぞ」
「えぇぇぇ……」
まぁ、その年なら戸惑いもするだろう。
男の生徒と、女の養護教諭が一緒。
しかも夜も隣で寝るとなるとな。
ちと、悪戯でもしようか……フフフッ。
あーぁ。若いっていいな。
俺も若いころに戻って、やり直したいもんだ。
――そしたら、あいつも戻って来るんだろうか?
「じゃあ、俺はちょっと飯持ってくるな。腹減ったし」
「あ、はい……分かりました」
昼飯をまだ食ってなかった俺は、保健室にある弁当を取りに行くことにした。
今日は唐揚げ弁当。購買部から買ってきたものだ。
怪しいものも売っている購買部だが……普通のものもちゃんと売ってある。
教頭のクレスタもあそこで買えるらしい。
何で買えるんだよ。
保健室にある唐揚げ弁当を取り、保健教官室に行った。
健康マッサージ機ではべすたが、
「あぁぁぁぁ……癒されるわぁぁぁぁ」
とかいいながら気持ちよさそうにしていた。
疲れが溜まっていたんだろうな。すっごい顔が幸せそうだ。
でも、なんかだらしないぞ、はべすた。
電子レンジで唐揚げ弁当を温め、再びオワタのいる個室に戻ることにした。
すたすたと歩き、オワタのいる個室の扉を開けようとした時……。
――――~♪
「ん……?」
なんだ?
歌が聞こえる……。
オワタが歌っているのか?
ズベンの耳に流れ込んでくるメロディー。
綺麗な歌声……。
――なんだ。
この気持ちは……。
心に響く、歌声。
まるで……俺に優しくしてくれているような。
そんな気分にさせる歌。
俺はしばらく歌を聴いているうちに、我を忘れてしまっていたようだ。
我に返り、扉を開け、中に入る。
「あ、ズベン先生。おかえりなさい」
オワタは歌うのをすぐ止め、俺に向かってそう言った。
――歌……。
「続けろ」
「ぇ?」
「歌ってくれないか。聞きたいんだよ」
「え……ぁ、はい」
ラララー……ラララーラッラッラッラー……。
響き渡る歌は、ゆっくりと響き渡り。
やがて歌い終わった。
歌は一番みたいだが……。
聴いた事ない歌だった。
それでいて、何か……心が優しくなるような。
そんな歌だった。
「これ何という歌だ?」
「え……えっと」
「知らないのか?」
「……じ、自作です」
恥ずかしそうにそう呟いた。
なるほど。
通りで聴いた事ないわけだ。
不思議な気分。
こんな気分になるのは、久しぶりかもしれない。
歌を聞いて、心に響いてくるのなんて、俺の中では滅多にないからな。
「なんか優しい感じの歌だな」
「え、えぇぇ……?」
「まぁ……いきなり歌わせてすまんかったな。いい歌声だ」
「は、はいっ」
挙動不審に答えるオワタ。
俺が怖いのだろうか……まぁ、怖いのかもしれんが。
こいつの体調を良くしてやらんとな……じゃないと可哀想だ。
まだ若い奴が、体調を悪くするのはいかん。
もっと沢山の経験を積む為にも、元気に過ごしてほしいものだ。
「あ、あの……ズベン先生」
「ん?」
俺が唐揚げ弁当を開け、食べ始めた時に、オワタが話しかけてきた。
「ズベン先生は……どうして養護教諭に? 先生程の腕があるのなら、医者にだってなれた筈なのに……」
…………。
俺が養護教諭になった理由……か。
その質問をされたのは、何回目だろう。
だけど、本当のことを言う訳にもいかない……。
――満足かい? 念願が叶ったんだ、笑えば?
本当のことなんて……。
奴に会って、色々あって最終的にこの学園にやってきた。
だけど。
俺が本当になりたかったものって、一体なんだったんだろうな。
「さぁな、色々あって養護教諭になってしまっていたんだよ。それでも今はこれでいいと思ってるがな」
「そうなんですか……」
オワタには、適当に答えてやった。
昔の話だ。
――そう……昔の話のこと。
~@~
「ねぇ、お母さん?」
「何?」
とある少女。
自分の母に向かって、問う。
無邪気そうな顔をして。
「何で私……こんなに勉強してるの? 遊んじゃ駄目なの?」
母親の顔は一変し、怒りの表情へと変貌した。
「何言ってるの!! お父さんみたいな偉い教授になる為に決まってるでしょ!!」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい……!」
「いいから勉強しないさい! いいわね!」
「は、はい……分かったよお母さん……」
そう、これは俺の……私の昔話。
お父さんとお母さんに育てられてきた私は。
教授になる為に、必死に勉学に励んでいた。
ズベン・L・ゲヌピ。7才。
私がまだ、私であった頃の話。
私がまだ……女として生きていた頃の話。
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