黄昏のネちょ学Ⅴ ~時の使者~ 2

Last-modified: 2009-11-23 (月) 07:20:57

目次

注意書き



このSSはネちょwikiでの設定、他の方々のSSの設定、自分独自で考えた設定などが含まれております。
あらかじめご了承ください・・・・・。


もし嫌な表現が気になった方は、こちらにお知らせください。
次から気をつけるか、訂正などさせていただきます。

本編



                 【4】~変わる、心~




 あれから、1ヶ月。
 未だに主からの命令は来ず、川の流れのように時は過ぎていった。


 私はどうしてしまったのだろうか。
 ここの所、どうも調子がおかしいみたいだ。
 何か……身体の調子が悪いというのではないのですが……。


 心が、痛い。
 そう。心が痛いのである。
 精神的な問題なのでしょうか……?
 それだけではなく、痛いという感情の他に、もう1つの感情が芽生えていた。


 それは――『楽』の感情。
 楽しいのです。
 そう……私は1度も楽しいなどという感情を味わったことがなかった。
 友人も沢山でき、毎日楽しい日々を過ごしている。
 この学園の人達と関わって、自分の中で世界が違って見え始めてきました。


 朝、学園に行くと、必ずと言っていいほど皆から元気よく挨拶してくれる。
 授業もさほど暇ではない。
 昼休み時には、ほとんど自由行動が可能で、友人達とよく遊んでいる。
 平和な学園……楽しい学園。


 本当にこの学園は、脅威になる存在なのか?
 本当に……消すべき場所なのか?
 こんな良い所が……世界を滅ぼす火種の1つとなる場所なのか?


 ――分からなかった。


 そして、私はここで『自由』を覚えた。
 誰にも縛られることの無い……自由な日々。
 今まで私は、主という名の鎖に縛られていた。
 それが当たり前……それこそが私の使命。
 そう、今まで思い続けてここまで生きてきた。


 それは今でも変わらず思い続けている。
 主の命令は絶対。
 主を裏切るような真似はできない。


 ですが……。
 私の心の片隅に、自由という誘惑が生まれた。
 私はここで……皆と自由に生きたい。


 だからこそ、胸が痛いのでしょう。
 主を簡単に裏切る訳にもいかない……。
 そして、いずれ私の正体もばれてしまうだろう。


 その前に……やはりこの学園から立ち去った方がいいみたいですね。
 ――少し私は、無駄な感情を覚えすぎた。


 主が『ゴミ』と判断している。
 それは即ち、この世に要らぬ者ということだ。
 任務をさっさと済ませ、自分の心を無理やり殺そう。
 感情を殺そう。
 そして、いつも通りの日々が戻るのだ。
 ――平和な世界が、この地球に訪れるのです。


 時の使者は……完全主義。
 私は、これを捻じ曲げる訳にはいきません。
 例え……楽しいという感情に触れたとしても……。


 ――私は、世界の為に人を殺し続けるでしょう。




                      ~@~




「じゃあ最後に、焼き芋でも食べていこう~♪」


 辺りは既に暗闇に包まれていた。
 時刻は午後9時。
 秋が過ぎ去ろうとしているこの季節。
 冷たい空気が肌に触れ、冬の訪れを感じる頃だ。
 悪戯な風が、彼女のスカートを捲れあがり、スカートの中が見えそうになるが、咄嗟に彼女は抑える。
 その仕草が……なんだか可愛らしく思えた。
 いけないと分かっていても、男はそういうものにどうしても視線がいってしまう生き物である。


「あぁ、そうだな。てか、なんでこいつも一緒なんだ?」
「駄目なのお兄ちゃん?」
「い、いや、駄目ではないけれどもなぁ……」


 私は紅茶さんと……その兄、奇跡さんと一緒に、家路についていた。
 そのまま家に帰るのも良かったのですが、紅茶さんに上目遣いでお願いされた為、断ることができなかったのです。
 そして紅茶さんに振り回され続け、こんな時間。
 まったく……可愛いものには困ったものです。


 しかし、兄の方は私をよくは思っていないようだ。
 無理もないですね。
 私のやっていることは、世界の為ですが……ひっくり返せば殺人者。
 だけれどもこの世を守る為、私はそれに罪の意識は無かった。
 そう……犠牲は絶対必要なのです。


「……あんたに忠告がある」


 急に奇跡さんが、私に向かって話しかけてきた。
 それも怒っているような口調で。
 いや、既に怒っているのでしょうか?


「なんでしょうか?」
「――私の妹……そしてあの学園の皆に手を出したら、タダじゃすまないからな?」


 ――忠告というより、脅迫ですねこれは。
 妹思いのいい兄……って所ですかね。
 まったく。
 私はこのまま承諾する気になれなかった為、少し悪戯発言をする。


「もし断ると言ったらどうしますか?」
「その時は、俺がお前を殺す」
「――あなたが私を殺すことができるのですか?」
「てめぇ!!」


 奇跡さんは、いきなり私の胸倉を掴んできた。
 ジリジリと詰め寄り、首を締め付ける。
 彼の顔は、怒り狂った鬼神の如く、恐ろしい形相をしていた。


「俺の妹は、俺の自慢の妹なんだ。大事な大事な妹なんだ」
「でしょうね。見ているだけでそれは判断できましたよ」
「そして、あの学園をお前が襲うってことは、紅茶が悲しむってことでもあるんだよ」
「……結局は妹の事しか考えてないんですかあなた?」
「そんなわけがあるかぁ!!」


 奇跡さんが吼える。
 それも異常なまでに。
 それ程、私のことが気に入らないのでしょう。
 仕方ない……。
 私は、本当は人に気に入られてはならないのだ。
 人とは違う存在だから。
 悪魔という名の救世主だからです。




 ――だから、こんなお遊びに付き合うのも……。




 その時だった。


 奇跡さんの後ろでオロオロしていた紅茶さんの前を、いくつもの人影が通る。
 そして、その人影が通り過ぎた後は……紅茶さんはいなくなっていた。
 一瞬の出来事。
 まるで蜃気楼にあったかのような。


「奇跡さん。紅茶さんがいません」
「――は?」


 唐突に告げた出来事に、奇跡さんはポカンとした。
 そしてハッとなったのか、素早く背後に振り向く。
 そこには、紅茶さんは……。


 ――いた。
 さっきいなかったように見えた紅茶さんは、確かにそこにいた。


 だが……その周りを取り囲むかのように、黒い服をきた男達。
 黒い影のような集団は、殺気を放ちこちらを睨みつけている。
 ――人数は6人……なんなんでしょう、この人達。


「よぉ。久しぶりだな……XII」


 黒い影の集団から、1つの影がはみ出してきた。
 そして、影は私の名を呼ぶ。
 ――時の使者の名を。


「誰ですか? 貴方達」
「覚えてないのか?」
「残念ながら。すみませんね」
「てめぇ……まぁいい」


 影のような男は、憤りをあらわにしたが、すぐ冷静になる。
 それでも男は、地を足で何度も蹴り付けた。
 憤怒を押さえ込んでいるのでしょうか。
 分かりやすい方だ……。


「お前が1年前。俺の親を殺したことがあるだろ?」
「ん……?」
「国谷豪助(くにたにごうすけ)」
「――あぁ」
「俺はその息子。国谷刃(くにたにやいば)だ」


 なるほどですねぇ。
 その名は、よく知っている。
 1年前……私がこの手で手がけた男。
 殺し屋のボスの名ですねぇ。
 懐かしいものです……。


 あの任務のお陰で、私は紅茶さんと出会えたのですから。
 手傷を負った代償として……。


 ?


 何を言っているのでしょう私は。
 あの子の『お陰』で?


 違う。
 あの子の『せい』で、です。
 あの子のせいで……今回の任務が厄介事になってきていた。
 いつもスムーズにこなせるはずの任務に、支障がでてきている。
 ――あの子は……疫病神だ。


「0時に港で待つ。その時に来なければ……この子を殺す」
「――ひ……っ」


 紅茶さんに向かって、銀色に輝くナイフを突きつける。
 今、あの人達を取り押さえるのもいいですが……。
 いけませんねぇ。これだと時を止めるためのモーションも取れない。
 時を止める前に……紅茶さんか、またはその隙を狙って私を殺しにかかってくるでしょう。
 まぁ、あの子はどうなってもいいのですけれども。
 任務が厄介な事になっては困る為、迂闊に動く事もままならない。


 そして、背後から何やら地面が擦れる音が聞こえてきた。
 車が1台……。


「奇跡さん避けてください!」
「おぉう!?」


 突然、後ろから猛スピードできた車を、私と奇跡さんは左右にステップして避ける。
 ひらりと制服が舞い踊り、鉄の塊が私達の目の前ギリギリを通り過ぎていった。
 暴風が起こり、私の髪を飄々と揺らしていく。


 車は黒い影の集団に向かって走り、目の前で止まった。
 私達の態勢が崩れたのを見たのか、すぐに男達は車に乗り込んでいく。
 奇跡さんの視線がそれを捕らえ、車に向かって飛びつきましたが……時既に遅し。
 車は虎のようなスピードで、走り去っていってしまいました。


「…………」


 私達の周りの世界に、しばしの沈黙が訪れた。
 そんな錯覚がしましたが……やがて、時は動き出す。


「追いかけるぞ。世界さんよ」


 奇跡さんが、私にそう一言投げてきた。
 確かに……。
 私達、時の使者を知っている者は、即、抹殺しなければなりません。
 これを易々と見逃す訳にはいきませんね……。


「いいでしょう。いきま……」


 私が行こうと発言しようとしたその時。
 私の右ポケットから、電子音が流れてきた。
 それと同時に、振動も伝わってくる。
 ――電話ですか。


「少々お待ちを」


 奇跡さんにそう告げ、携帯電話を私は取り出す。
 携帯のモニターを見て、電話先を確認。
 相手は――主からだった。
 私は着信を受け取り、携帯を耳に当てる。


「はい。こちら世界です」


 主から貰い受けた名前を使い、正体がばれぬ様に対応した。
 もっとも、周りには奇跡さん以外いないのですが……用心に越した事はないでしょう。
 主の声が、私の耳に入り込んできた。
 失礼の無い様、私は言葉を選び、それに応対していく。
 やがて主は、私に用件を言い終え、電話を切った。
 いつも通り伝えるだけ伝えて、終わったら即座に通話を終了させている。


 主の用件は……暗殺任務開始しろとのこと。
 今夜0時。
 ネちょ学の校長が、事情により1人で出かけるらしい。
 その瞬間を狙い――暗殺実行。
 それで、今回の私の任務は終了する。
 こうしてはいられない。


「すみません奇跡さん。用件が出来たので私は行けません」
「――は?」


 奇跡さんは呆然となっていた。
 その呆然とした顔は、やがて怒りの表情へ変化。


「仕方ありません。こちらに重要な用事が……」


 しかし私の言葉は、永遠に言い終える事が出来ないものとなった。
 奇跡さんがこちらに走ってきて、私の顔面めがけて拳を叩き入れる。
 急の出来事を判断できなかった私は、それを思いっきり顔で受け止めてしまう。
 後ずさりするも、倒れるわけには行かない。
 迂闊だった……この様な攻撃にも対応できないとは……。


「お前は馬鹿か!?」
「何がですか……?」


 奇跡さんは相当ご立腹のようですね。
 しかし、私には私の用事があるというのに。
 ――何故そこまでして怒るのでしょうか?


「いいか!? お前のせいで紅茶が攫われた! 人質になってしまった! なら、お前はその罪を洗うくらいするのが当然だろうがぁ!」
「……何故です? 私にはあの子は人質になっても死んだとしても、メリットは無い筈。ならば助けに行く必要なんてないでしょう?」
「本当にそう思っているのか、お前……?」


 本当にそう思っているのか?


「――えぇ。思っています」


 思っている筈です。
 あの子は私の任務を大きく狂わせてくる障害。
 時の使者を知っている者達を、抹殺できないのは心残りですが。
 しかし、主の命令は絶対。
 例え火の中水の中、地雷原の中空爆の中でも、私達は任務遂行します。


 奇跡さんはそんな私を見て、哀れな目で私を見つめてきた。
 ――何故そんな目をするのでしょうか……?


「紅茶は……お前と楽しく過ごして、それを楽しそうに俺に話してきた。夕暮れにも負けねぇくらいの綺麗な笑顔をして、楽しそうに楽しそうにしていた」
「…………」
「あれは嘘だったっていうのか? 偽りだったというのか? お前に……お前に手の上で弄ばれていたと言うのか……紅茶は?」
「――それは」


 どうなんだろうか?
 ――そう、躊躇ってしまった。
 何故、躊躇(ちゅうちょ)する?
 何故……?
 私は……ワタシはナニを望ンデイル?
 判らない。
 まったく判らない。
 あれは偽りだとは到底思う事はできない。
 そう思うと、急にあの子を助け出したい衝動に襲われてきた。
 ――でも、私は……。


「――もういい。俺は行く。0時に港にだったか……」


 奇跡さんは私にそう吐き捨てると、地を強く蹴り、人間とは思えぬスピードで走り去っていった。
 そこに残ったのは……私1人のみ。
 私は歩き出し、街灯の光を浴びる。
 その場で立ち止まって、どうしても考えんでしまう。


 私は……本当にこれが正しいのだろうか……?


「世界さん。困っているみたいだねぇー」


 唐突に、暗闇が私の名を呼んだ。
 私は力無く振り向くと……。


「さばさんじゃないですか」
「よ! 世界さん!」


 元気良く、手を挙げて挨拶をしてくるさばさん。
 この人は、さばカレー。
 学園で友となった人の1人である。
 ぼさぼさの茶色髪をした、なかなかイケてる顔立ちをしている男。
 普通の人なのだが……どうもカレー萌えというものを持ち合わせている奇人でもあります。


「どうしたんですか。そんな暗い顔しちゃって?」
「――いや、なんでも……」


 私がそう答えようとした瞬間。


「――まぁ、一部始終見ていたんですけどね。XIIさん」


 不気味な声で、さばさんから返答が返ってきた。
 背筋が凍ったような感覚……。
 今までのを見られてたって事ですか……さばさんに。
 友といえど、抹殺対象に値しますね。


 後ろに大きく私は飛ぶと、両手をクロスさせ、気を集中させる。
 しばし時間がかかりますが……間に合う筈です。
 案の定、さばさんはこっちをニコニコしながら見るだけで、何もしてこなかった。
 好機……!


 ――時よ……止まれ。


 両手を広げると共に、この世の時が止まった。
 ここから先は……私だけの世界。
 私以外の者は、誰1人として動く事はできない。


 ――その筈だった。


「世界さん。凄いねぇ……いきなり私を殺しにかかろうとするなんて」


 え……?


 時が止まっているにも関わらず。
 時間の干渉を行っているにも関わらず。


 さばさんは、『何事も無いように喋った』。


「何故……!?」
「ねぇ。XIIさんに問題です。――唯一、時が止まった中で動ける人物達が存在します。それはどのような存在でしょう?」
「――まさか」


 そう。
 それ以外有り得ない。
 時を操ろうが、唯一その干渉を受けない者達がいる。
 それは……。


「時の使者……!?」
「――その通り」


 さばさんは華麗にウインクして、そう答えた。
 時を止めた効果時間が過ぎ、時は動き出す。
 だが、不可解な事がある。
 私の知っている中では、時の使者の中には、さばさんは実在していなかった筈。
 そうでなければ、すぐに相手の存在に気付くはず。
 ならば何故……。


「初めましてXIIさん。『元Ⅸです』。あなたと会うのは今までありませんでしたね?」
「元……Ⅸ」


 ――なるほど。
 思い出しました。
 確かにⅨは、過去に1度抜けてしまい、新しい別の人物であるⅨが入ってきたという事がありましたね。
 それがさばさん……元Ⅸだというのですか。
 ――あの時は、あまり元Ⅸとの関わりがなかったので、覚えてませんでしたが。


「えぇ。昔は所属していたんだけど、抜けてしまってね」
「というより、逃げ出したが正しいのではないのですか?」
「――まぁ、逃げたのは事実だけど……私はあの学園が気に入ってしまってね」
「使命を捨てて……恥を知らないのですかあなたは?」


 元Ⅸは溜息をつくと、懐から何かを取り出した。
 ――スプーンだ。


 そして元Ⅸはそれを振り上げ、私に向かって投げつけてきた。
 そのスプーンは私に当たる事はなく、顔の横すれすれを通り過ぎていく。
 だが……その後、おぞましい光景を目にする。


 ドゴォ!!


 背後から何か崩れる音がした。
 私は驚き、背後を振り向く。
 そこには……更に驚愕する自体が起こっていた。


 ――スプーンが……電柱にめり込んでいたのだ。


「――なっ!?」


 そしてまた。
 私の顔の横すれすれを何か紙のような物体が飛びかっていき……それもまた電柱に見事突き刺さる。
 その物体は……トランプだった。
 私は電柱に近寄り、トランプを手にとる。
 ――何の仕掛けも無い……ただのトランプ。
 別段固いわけでもなく、試しに千切ろうとすると、あっさりと千切れた。


 何故?
 何故、こんな紙でできたものが壁に突き刺さる?
 鋭利な物体では無いスプーンが……それ以前に電柱なのに何故刺さるのでしょうか?


「時を誤りましたね。XIIさん」


 ――しまった。


 再び、元Ⅸの方に慌てて振り返った。
 そこには、黄色い眼光。
 右目の黄色い眼光の中に……『Ⅸ』の文字が浮かび上がっていた。


 ――時の使者、各それぞれには特殊能力が備わっている。
 そして発動時……左目か右目にナンバーが浮かび上がるのだ。


 まさにこの時。
 元Ⅸは、特殊能力を発動させたということ……!


「私の特殊能力の効果は、『物体自体の時を止める事』」
「物体自体?」
「そう、時を止めた物体は、この世のどんな攻撃だろうが干渉は受けず、更に物体自体を止めているので、物体を動かす事が可能……。つまりさっきのトランプを例えにすると、『トランプという物体自体の時を止めたまま、相手に投げつけた』という事になります」
「――つまり、ただの紙だけでも持っているだけで、絶対的な攻撃と防御を手に入れることができるという事ですか」
「ザッツライトっ! ご理解が早いですねぇ、XIIさんは!」


 なるほど……。
 さすが時の使者の端くれ。
 恐ろしい能力を持っていますねぇ。


 この能力があれば……世界最高の超金属オリハルコンにも、匹敵する事でしょう。
 もっとも、それでもオリハルコンが壊れるかどうかは判りませんが……。


「ねぇ。XIIさん。あなたは何の為に戦っている?」
「――この世の世界の為ですよ。私はそれを誇りに……」
「んー……でも。あなたは本当に世界を守れているのかな?」


 何を言っているのでしょう、この男は?
 私は世界を守る為にここまで頑張ってきた。
 それを否定するつもりなのでしょうか。
 元Ⅸは、目に輝きを宿したまま、真剣な瞳で私を見つめる。


「今、あなたは世界を救うと同時に、他の世界を壊そうとしているんですよ?」
「――どういう意味ですか?」
「紅茶さん……あの子が死ぬ事によって、紅茶さんの世界は崩壊するじゃないですか」
「それは……!」
「世界というものは沢山存在するもの! 小さい大きいあるのかも知れないけれども、確かにその人自身の世界が在る!」


 元Ⅸは口調を強めて、私に伝えてくる。
 神々しいその姿……まるで神のようにも思えた。
 だが、目の前にいるのは1人の人間。
 私と同じ、人間なのです。
 だからこそ……説得力がある。


「私は……」
「確かにあなたが守ろうとしている世界は、大きいものなのかもしれない……けれども」




「自分自身の持っている世界を見分けられないほど、あなたは愚かなのですか?」




「…………」
「紅茶さんがいなくなった世界。ネちょ学がなくなった世界。あなたはそちらの方が自分の世界の為になると?」
「……ワタシ……ハ」
「素直になった方がいいよ? だって、その方が楽しく生きていける世界が訪れるんだからね! 所詮私達はただの人間! 全ての世界なんて守りきれるはずが無いんだから!」
「――元Ⅸ」
「さばさんでいいですよ。だって、私たち友人じゃないですか」


 ――友人。
 そういえば。
 私、ずっと友達なんてものいませんでしたね。
 任務ばっかり、ただ従われてきた人生。
 それこそが全てだと思っていた。


 だけどそれは……唯1つの世界でしかなかったのですね……。


「じゃあ、私はそろそろ嫁が呼んでいるみたいなので行きますね」
「嫁……?」
「カレー、ですよ♪」


 そう言うと、飛び跳ねながら元Ⅸ――さばさんは暗闇に消えていった。
 まったく、何しに来たのでしょうあの人は。
 さてと、私は。


 私の任務を済ませますか。
 災厄はスピード配達。
 返品は一切受け付けない。


 ――今、参ります。
 ――私の世界の為に……。







感想スペース

コメント欄:

  • 妹のためにこんなに真剣になってくれるお兄ちゃんがいる紅茶さん、幸せ者だねぇ。 そしてさばさんのイケメンオーラがすごいww 色々葛藤してる「XII」だけど、最後は答えを出せるのかなぁ…… とか気になりながら次へ。 -- 闇夜? 2009-11-23 (月) 07:05:56