黄昏のネちょ学Ⅶ 【後章】 ~受け継ぐ生命~ 4

Last-modified: 2011-01-06 (木) 18:31:42

目次

注意書き



 このSSはネちょwikiでの設定、他の方々のSSの設定、自分独自で考えた設定など

が含まれております。
 あらかじめご了承ください。


 もし嫌な表現が気になった方は、こちらにお知らせください。
 次から気をつけるか、訂正などさせていただきます。

本編



 それから私は、フェレンが無事にここへ帰ってくると信じ、彼女との約束をこなした。
 まだ、私の任務は終わっていないんだ――そう言い聞かせながら。
 フェレンはあくまでも、生きて帰ってくると言ったのだから、私はそれを信じる。


 フェレンからのプレゼントは、彼女に良く似た人形。
 その中の1枚のカードには、クリスマスプレゼントと書かれており、少し時期が早いという事を思い知らされた。
 対なる物を持っているという事は、私に似た人形を、フェレンは持っているのだろう。


 全く、いつ旅立つ準備を済ませたのやら……。
 当時の私はため息を大きく1つ吐いてしまった。
 今でもこの人形は、大切に持っている。


 私立ネちょネちょ学園に、『さばカレー』という偽名を使い、入学した。
 元々どんな身分でもいいらしいので、名は何でもいいらしい。
 怪しい所かと思いきや、中々居心地の良い学園。
 色々と不思議な事も多いが、フェレンもきっとこの学園を気に入るだろう。


 結局、時の使者も辞職。
 この学園に入学する前は、それはもう幾人もの者が私を殺しに来たが、全て追い払ってやった。
 入学後は何故か暗殺する者が少なくなったが、この奇怪な学園のせいなのかもしれない。


 彼女との約束、楽しく生きるという事はどんな時でも守り抜いた。
 普段から相手とテンション高く接するように努力し、明るく振舞う。
 たまに暗くなる事もあったけれども、上手く乗り越えて来れた。


 戦闘時も、片手を塞ぐかのようにハンデ(カレー)を持ち。
 片手で、そして奇怪で愉快な動きで戦った。
 キツイ相手にはハンデ無しで戦った事もあったが、フェレンと出会った時以来、私は1人も人を殺していない。




 そして、ここまで私は生き延びてきた。




「私は待っているのさ。彼女をいつまでも……ね。信じているよ、私に沢山の感情をくれたフェレンが帰って来る事を」


 私の話を、世界さんは顔色1つ変えずに聞いていた。
 空は黄昏に染まっており、学園の生徒はほとんど下校している。


「フェレンに渡すはずだったこの生命。それを私が受け継いでしまった。――私は死ぬわけにはいかないんですよね」


 私がそう説明するが、世界さんは石の様に動かず、無表情だ。


 こえぇよ、世界さん。何か反応してよ。
 ……まさか寝てるとかないでしょうね?
 ちょっとそんな、私が折角話してやったのに、真面目な話するの嫌なのに、ああああああああぁぁぁぁ!!


「――あなたも人の優しさに触れて変わってしまった者、ですか」


 突然世界さんが呟き、私は内心ビビってしまった。
 おぉう、ちゃんと起きていましたよ、このイケメンさん。


「皮肉なものですね、私達は元々人を殺していた者なのに、今では人を殺せないなんて」
「あの世があったら多分地獄行きかもしれませんねー。……ぁー、地獄ってカレー食えるかなぁ?」
「絶対無理だと思いますよ」
「死にたくない。私もう2度と死にたくない」


 もちろんフェレンの為にも生き残ってみせるというのもあったが、私お得意のカレーギャグの方を優先した。
 多々ギャグじゃなくて本音な部分もあるけど。
 やっぱりフェレンの言う通り、楽しく生きるのが1番私に合っている。


 そんな風に私が思っていると、世界さんは私に背を向け、屋上の柵に手をかけた。

「話してくれて、ありがとうございます。このお話をして下さったお礼の代金は――あなた達に幸あらんことを」


 世界さんは祈るように瞳を閉じると、屋上から羽を広げるかのように両手を広げ、飛び降りた。
 常人なら死んでいるが、まぁ時の使者である世界さんなら大丈夫だろう。
 と思ったのだが……。


「ちょ、上から何で世界さ……ぎゃああああああああああああああ!!」


 下からこの学園の教頭先生の断末魔が響いてきた。
 ……世界さん、てんこぬ教頭を踏みつけたなこりゃ。


 まぁ、あの人も常人じゃないから、平気だろう。
 てんこぬ教頭の無事を、カレーの神に願って。


 私は空を見上げて、思いふける。
 もうあれから、532日過ぎた。
 あちらへの連絡手段が無い為、生存しているかどうかすらも分からない。
 帰ってくるかどうかも分からない状況なのだ。
 途方に暮れる、運命の人を待ち続けることはね。


 ――それでも私は信じている。
 フェレンが無事でいる事を。
 あっちでもちゃんとしたSPを雇っているだろうしね。


「さ、私もカーレット家の主の代役として、家に帰りますか」




「大丈夫だサバイヴ。もうその必要は無い」




 私が黄昏の空を見上げていると、どこか懐かしい声が耳に響くように届いてきた。
 自分の視界を落とし、前に合わせ見据えていると、金髪の貫禄のある男が堂々と立っている。


「――ロイドさん!?」
「久しぶりだな。サバイヴ」


 事態は唐突だった。
 運命だろうか、この話をしたその日。フェレン達が旅立ってから532日経った今。
 突然、こうやってロイドさんが帰ってきた。
 勝手に私の前から姿をくらまし、突然姿を現してきたロイドさんを見て、私は言葉を失う。


「すまんかったな。突然いなくなってしまって。だがこの通り、日本に……お前の元に戻ってきたよ」


 はっはっはっと愉快に笑うロイドさんとは対照的に、私は呆気に取られていた。
 おいおい。
 いいのかよ、こんなにすんなり会えて!?
 帰ってくるとは信じていたけど、まさかこんな所でこんなにあっさりと……って、そうだ!


「ロイドさん、フェレンは!?」


 私がフェレンの安否をロイドさんに聞き出そうとする。
 勢い良く放った言葉を受け取ったロイドさんが、笑顔から無表情へとゆるりと変化し、私の手に何かを置いた。


 1枚の写真――フェレンがそこにいる。
 彼女が写真という枠を超えて、私に微笑みかけていた。


「可愛いだろう?」
「――あぁ」
「久しぶりに会った気分はどうだ?」
「――不思議と穏やかだよ。私の心は」
「……お前に、伝えないといけない事がある」


 私はロイドさんに瀬を向け、フェレンの写っている写真から目を離さなかった。


 ――ありがとうな、フェレン。
 私に心をくれて。
 私に感情をくれて。
 お前から譲り受けた生命は、これからも受け継いでいくよ。


 私は瞳を閉じて、ロイドさんの言葉に耳を傾けた。





























「またフェレンの世話を頼みたいんだが、どうだ?」





























 ――は?


 一瞬私は、自分の耳を疑う。
 ロイドさんの方に振り向くと、嫌らしい笑みで私を迎えてくれた。


「今、ロイドさんなんて……?」
「フェレン! もう出て来ていいぞ!」


 ロイドさんそう屋上の扉に向かって声を上げると、扉がゆっくりと動き出した。
 おいおい。私、一体どうしたんだよ。
 もう1人の気配を、完全スルーするなんてよ。


 開いた扉の向こう。
 夕日を浴びて、美しく輝く少女が1人。




 そこに懐かしく、1番再開を果たしたかった者――フェレンの姿があった。




「サバイヴ、ただいま……!」




 ――奇跡が起こったのだ。
 0.01%という、奇跡が。


 フェレンはこっちに駆け寄り、私の胸に飛びついて来た。
 翠色の瞳はあの時のように潤っており、彼女の柔らかな温もりを肌で感じられる。
 ――って事は、だ……。


「ロイド! お前騙したな!?」
「はっはっは! 俺は1度もフェレンが死んだなんて言ってないだろう?」
「おんま、ふざけんじゃねーぞてんめぇ!」
「はっはっは! びびったか? びびっただろう!!」


 私は笑いながらロイドさんに怒りをぶつけていた。
 やって良い冗談と悪い冗談があるだろうが、あぁぁん!!


 ――でも、嬉しかった。
 こうしてまた、フェレンと一緒に笑いあえたのだから。
 信じ続けて、やっとまた巡り合えた。


「サバイヴ。これからまた、よろしく頼むわよ?」
「おぅ! 承知いたしましたお嬢様っと!」


 私は、心の底から歓喜に満ちていた。




                      ~@~




 後日、この学園に転勤してきた者が1人。
 少女の名はエレン。
 銀色のポニーテールで、翠色の瞳を持った大人びた子。
 普段は手厳しい性格をしているが、さばカレーと仲が良く、彼の前だとエレンは少し甘えている。


 2人はお互い、それぞれの本当の名を知っている。
 さばカレーは、サバイヴ・カーレット。
 エレンは、フェレン・カーレット。
 カーレット家の者はそれぞれ名を改め、この学園に所属する。


 そんな彼らの家には、2つの人形が寄り添って置かれていた。
 1つはサバイヴ、もう1つはフェレンに似せて作られた人形。
 彼ら2人はこの人形のように、仲良く生きていくだろう。
 辛い事があっても、楽しく生きていくだろう。
 人形に夕日が差し、ほのかに光を浴びた。


 彼らの家から、大好物のカレーの匂いが漂っている。
 532日ぶりに、カーレット家全員が揃った夕食。
 青年は、誰にも聞こえないような優しく小さな声で、フェレンに言葉を送った。




「お帰り、信じていたよ――フェレン」




 空は、黄昏に染まっていた――。
 光は、優しくネちょ学を包み込んでいた――。








                   ~黄昏のネちょ学~



後書き



 どうも皆さんこんぱろは。
 ようやく完成です。自分の中では予定よりも多少遅れてしまいました。
 といっても、3週間以内ではあるから予定通りではあるのだろうかw


 前編で仰った時は、これ以下(前編の事)の長さになると思われるとか言っていましたが……。


 ――御免なさい。前編より長いです。


 だから何でさばさんの話長いねんww
 っと自分に突っ込みを入れながらの執筆でした。
 ちなみに当初の予定だと、これ以上の長さになる予定でしたが、思い切りカットしました。多分それまで書いてたら、後半だけで100kbいっていたかもしれない。


 ちなみに前編が63kb、後編が77kbです。(後書き合わせて)
 二つあわせると、140kb。既に100kbは余裕で超えました。
 ……マジっすか。てか、150kb近いよ先生。
 炎の騎士の半分程度の長さだよこれ。




 ここからはネタバレが出てると思うので、続きを見たい方は下のほうをクリックして下さい。



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 今回は黄昏のネちょ学Ⅶです。
 多分、前編後編見た方もいれば、片方だけとか、後書きだけ見てる人もいるかもしれません。
 参考SSは、今回は全部自分の作品からですね。
 前々作の黄昏のネちょ学Ⅴから、持ち出されています。


 後、賢者の石は鋼の錬金術師が混ざっていますが、地味にオリジナルです。
 ちゃんと調べてますよ、えぇ。あの作品も色々とイメージには入れていますけれども。


 蒼涙石は、幽々白書が元ネタですね。
 分かる人は分かるんじゃないでしょうか。
 ただこれも設定を色々弄くっていますがw
 後他にも色々と適当に調べた。分かる人だけ分かって頂戴!w


 今回は各キャラの設定がちゃんと作ってあるんですよね。
 何でこうなった。何で凝った。凝ってる割にはそこまでだった気がするけど、どうだろうかorz


 なお、毎回の如くそうなのですが。
 私のSSのキャラは、私が設定を加えて作られたような人達ですので、本人とは似ていない事が多々あります。
 まぁ、黄昏シリーズはほとんど皆かっこいいからなぁw 後可愛いとかw
 さばさんかっこいいよ、さばさん。きゃー>< グアアアア!!


 たまに作品の合間合間に詩的事書きますが、あそこ書くときは楽しいですね。
 あそこらへんは下書き無しに、適当に書き綴っているのですが、結構満足できる文章が出来たりします。個人的だけどorz
 あの詩の部分だけ読めば、私の心がどんな事思っているのか丸分かりになってそうですね。






 そして今回のテーマソング。


 http://nicosound.anyap.info/sound/nm3729433


 『あにー』の【ナイフ投げの少女】という曲。
 岸田にしようかどうか迷いましたが、テーマ的にこっちが似合っていたのでこっちですね。
 最初のイントロが少しだけ切ない感じが素敵。
 歌詞は、詩の部分でも多少使われていたりします。切なさとか儚さとか。
 あにーさんの曲は私は好きなの色々とあったり、結構好みに分かれそうですがw






独り言





 あれは私がまだ【私】じゃなくて、【僕】だった頃のお話。
 酒飲みの学園生活Ⅳの母さんとの会話シーンを見れば、微妙に分かるかもしれませんが、昔は私ではなく、僕でした。
 その時にはもう心に【俺】という感情もいた気がします。
 つまり僕と俺の感情が混ざり合っていた頃。


 まだ弱虫で、無邪気だった僕の頃の話。
 あの時の僕は父さんと母さんと妹と自分4人で寝ていました。
 ベッドを2つ繋げた寝室だった気がします。
 保育園児の頃か、小学生の頃かは覚えていませんが、寝る前にこんな質問をした事を今でも覚えています。


「何で僕は僕として生きているんだろう。他の人の事も分からない、何で自分の事しか分からないんだろう」


 これは今でも不思議に思います。
 何故、僕は僕としてしか、意識が分からないのだろうと。


 僕にとっては、僕の意識自体が世界の全てです。
 僕の意識が所謂神みたいなもの。
 他人の世界観など、分かりません。
 意識って、自分でしか感じ取れないのですよね。


 何故他人を自分と同じような感覚でいる事が出来ないのだろうかと。
 何故私は今、ここにこうして意識があるのだろうと。
 他の人の意識を、何故共有してみる事が出来ないのだろうと。


 僕はこうやって意識がある、他の人にもちゃんとそれぞれ意識を持っている。
 けど、その自分の意識以外は感じる事が出来ない。
 何でだろうと。


 昔からよくこう感じた時は、何となく上をみてぼーっとしてから考え込みます。
 するとやがて意識がぐわんぐわんと不思議な感覚に毎回陥るのですが、これは何なのでしょうね。ちょっと危ないことかもしれないけど。


 結局、父さんと母さんはそれに答えられなかった気がします。
 分からないんです、そんな事誰にも。


 だから生きるのかも知れません。
 だから誰かの為に生き延びるのかも知れません。
 人は他人にはなり得ないから、他人は自分になり得ないから、生きていくのだと思います。
 死んでしまったら、もう自分だけの意識が無くなるのですから。




 あなたはどんな生きる意味を見出すのでしょう?
 あなたはどんな生きる道を見つけ出すのでしょう?




 自分自身の生き方を考える。
 それがこの黄昏のネちょ学なのかもしれません。








 僕の頃の話はまたいつかするかもね。
 分かりにくかったら、てか意味が分からなかったら御免ねorz


 最近書いてて思ったんですが、前作で使っていたいい描写が、次では忘れているという事がありそうなのです。
 後、ストーリー的にも劣化してないかなぁとか、妙に心配したり。
 その為に頑張るのですけどね。
 よくもまぁ、こんなに王道的な作品を書くなぁこいつはとか自分でたまに思ったりします。
 王道大好きですから私w


 相変わらず簡素な文章が多い気がしますが、逆にそれが味あって良いんじゃないかなぁと思いつつも、やっぱり同じような言い回しは避けたいよなぁとか思ったり、そして変な文章が完成したりorz
 そして誤字もアババババ。
 まぁ、こっそり後から修正しているので、たまにまた読み返したいって時は、是非どうぞ。多少は誤字少なくなっているとは思うのでw
 そこら辺は精進ですね、とにかく沢山読んで読め、書いて書け、だっ。


 さて次回も頑張って執筆して行きたいと思いますよ。
 次まではまだ執筆は早いんじゃないかな。
 仕上がっているような話は次回までですかね。酒飲みの話も書きたいけど、現在まとめ中だから進まないよorz




 それでは皆さん。
 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
 読んでくださった皆様に……。




 最大級の感謝をこめて。








 萃まる楽しき炎:酒飲みスーさん



囁く声







          ――私と君が出会えたのは、生きているからなんだよ。





感想スペース

コメント欄:

  • ひ、引き込まれた・・・ッ!時間が過ぎ去ってしまったなぁ。俺も知らずのうちに時間を(ry 生きる意味、それを考えた時期が俺にもありました。昔は一人がいいやーとか馬鹿いってましたが、今は人の為に生きれたらいいなぁなんて思ってます。まずバイト探さないと! また次の作品、楽しみにまってますぜーw -- x朧月x? 2010-05-17 (月) 23:29:42
  • 読ませてもらったッ! とりあえず一言、フェレンかわいいよフェレン。 ラストはてっきり悲しい結末かと思ったらハッピーエンドだった。流石すーさん! ハヤシライス党の反乱があったようだが何、気にすることはない。 それはともかく乙カレー様!あと私かっけぇ! -- さばカレー? 2010-05-18 (火) 16:47:04
  • サバさんは甘口カレーは好きなのだろうか。最近会えない人達でも、ネちょwikiを通じてその息災を知れるのは嬉しいなーと上のコメを読んで思った。さておき、今回もまた充実した内容で相変わらずスーさんのSSは素晴らしいなと感じました。言いたいことは沢山あるけど長くなるので省略。意味を失っていたものが、他者から価値を与えられ、自身の幸を手に入れる。だから生きて頑張らないといけないよね。 -- 携帯マナ識? 2010-05-19 (水) 13:16:27
  • ロイドさんと再会したときの台詞&余白辺りに完全に騙された。 あーうー…… でも無事で本当になにより。 名前の由来とか、学園入学までの流れで、なるほどそう繋がるのかー!って色々納得。 長編執筆、お疲れ様でございー。 -- 闇夜? 2011-01-06 (木) 18:31:41